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就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設について
(中間まとめ)

中央教育審議会幼児教育部会と社会保障審議会児童部会の合同の検討会議
平成16年8月25日


 この合同の検討会議においては、「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設(以下「総合施設」という。)」について検討を進めてきたが、本年5月以来の3回にわたる議論を踏まえ、その基本的な在り方についてこれまでの議論の整理を行うこととした。今後、一層の具体化が必要な点等についてさらに検討を進め、本年11月頃を目途に最終的なとりまとめを行う予定である。

 就学前の教育・保育をめぐる現状と課題
 ○  生涯にわたる人間形成の基礎となる就学前の教育・保育については、次のような課題が指摘されている。

 (子どもを取り巻く環境の変化と子どもの育ちの課題)
子どもをめぐる社会的環境の著しい変化の中で、近年の子どもの育ちについては、基本的な生活習慣や態度が身についていない、運動能力の低下、他者との関わりが苦手、自制心や規範意識が十分育っていないなどの課題が指摘されている。

 (集団活動や異年齢交流の機会の不足)
少子化が進行し、子どもの数やきょうだいの数も減少する中で、乳幼児の成長・発達にとって大切な、集団の中で同年齢児あるいは異年齢児とともに育つ体験を十分に得ることが困難な状況となっている。

 (多様な教育・保育ニーズへの対応)
パートタイム労働等の就業形態を始めとする生き方(ライフスタイル)の多様化などと相まって保育ニーズも多様化しており、こうした多様な保育ニーズへの対応が求められている。他方、幼稚園教育についても、地域によってその機会が偏在しているとともに、保護者の就労等の事情により幼稚園における教育を希望する者がこれを受けられない状況も見られる。

 (子育てを取り巻く環境の変化と家庭や地域の子育て力の低下)
核家族化の進行や地域関係の希薄化などによる家庭や地域の子育て力の低下等を背景に、子育てが孤立化し、子育てに不安や負担を感じる親が増加している。
子育てを取り巻く環境が変容する一方で、特に幼稚園や保育所に通っていない在宅の3歳未満の子どもの子育て支援について、保護者が子育ての相談をする場や子どもとともに交流する場が不足している状況がある。

 (仕事等と子育ての両立支援)
共働き世帯が半数を超え、厳しい社会経済情勢の中で、仕事やその他の活動と子育ての両立を支援するため、待機児童の解消を図るための取組とともに、男性を含めた全ての人が、仕事時間と生活時間のバランスがとれた生活を送ることができるよう、働き方の見直しが求められている。

 (幼稚園・保育所をめぐる諸課題)
現在、各地域において幼稚園と保育所の連携が進みつつあるが、地域の課題や親の幼児教育・保育のニーズが多様化する中で、地域によっては既存の制度の枠組みによる連携だけでは、必ずしも柔軟に対応できない状況が指摘されている。
また、子どもの発達は連続していることから、幼児教育・保育施設と小学校との連携強化の必要性が指摘されている。


 意義・理念
 ○  総合施設の在り方については、子どもと親を取り巻く社会環境が変化する中で、子どもの視点に立ち、生涯学習の始まりとして人間形成の基礎を培う幼児教育の観点、そして社会全体で次代を担う子どもの育ちを支える次世代育成支援の観点から検討を進めることが必要である。
 すなわち、子どもの視点に立ち、「子どもの最善の利益」を第一に考え、次代を担う子どもが人間として心豊かにたくましく生きる力を身につけ、また、子どもを育成する父母その他の保護者や地域の子育て力が高まるよう、地域に開かれたものとして地域の様々な人々の参加も得つつ、各種の支援を行うことにより、子育てをする人が子育てに喜びを実感できるような社会を形成していくとの基本的認識に立って検討することが重要である。

 ○  また、総合施設については、地域によっては既存の制度の枠組みだけでは必ずしも多様化する幼児教育・保育のニーズに柔軟に対応できにくい状況があることから、規制改革や地方分権等の流れも踏まえ、地域が自主性を持って地域の実情や親の幼児教育・保育のニーズに適切かつ柔軟に対応することができるようにするための新たなサービス提供の枠組みを提示しようとするものである。
 したがって、既存施設からの転換や既存施設がその有する機能を互いに活かしつつ連携することなどを含め、可能な限り柔軟な制度とする方向で検討すべきであり、積極的に施設の新設を意図するものではない。

 ○  こうした総合施設という新たな選択肢が生まれることで、幼児教育の機会の拡大や地域の子育て家庭に対する支援の充実が図られるとともに、幼稚園と保育所をめぐる諸課題や待機児童の解消等につながることが期待されるが、これからの就学前の教育・保育に求められる取組みを積極的に推進することにより、幼稚園や保育所における教育・保育サービスのあり方にも好ましい影響を与えるものと考えられる。

 ○  なお、「総合施設(仮称)」の名称については、その理念や機能を踏まえた適切なものとする必要がある。


 基本的機能
 ○  こうした意義・理念を踏まえ、総合施設については、親の就労の有無・形態等で区別することなく、就学前の子どもに適切な幼児教育・保育の機会を提供し、その時期にふさわしい成長を促す機能を備えることを基本とすることが適当である。

 ○  また、子育てを取り巻く環境の変化と家庭や地域の子育て力の低下を踏まえれば、総合施設において、上記の基本的機能に加え、地域の実情等に応じて、在宅を含め地域の子育て家庭に対し、子育てに関する必要な相談・助言・支援を行うとともに、これらの地域の親子が誰でも交流できる場を提供することが重要である。
 総合施設は、親の育児を単に肩代わりするのではなく、親とともに子育てに参加し、親の育児力の向上(親の育ち)を支援することを通じて、子どものより良い育ちを実現するものとすべきである。

 ○  このほか、地域のニーズに応じて様々な機能やサービスを付加することが考えられるが、このような機能等としては、例えば、
 早朝や夜間において保育を行う機能
 地域の様々な子育て支援サービスについて、情報提供を行う機能
 虐待予防などの観点から、関係機関と連携して適切な支援を行う機能
などが考えられる。


 対象者と利用形態
 ○  総合施設の利用対象者については、3の基本的機能を踏まえ、就学前の子どもの育ちを一貫して支える観点から0歳から就学前の子どもとその保護者とすることを基本とする。この場合、例えば、0〜2歳児については、親子登園や親子の交流の場の提供などを通じた親と子の利用に供しつつ、幼児教育・保育については、主として3〜5歳児を対象とするなど、地域の実情やニーズに柔軟に対応できる多様な形態も可能とすることが適当である。

 ○  利用形態については、利用者と施設が向き合う直接契約が望ましいと考えられるが、例えば、共働きやひとり親の家庭であって保育を必要とする場合など、配慮が必要な家庭が排除されないような何らかの仕組みを検討するとともに、障害児の利用についても配慮することが適当である。
 また、サービスの利用に際し必要な情報の提供など、子育て家庭がサービスを円滑に利用するための援助を行うことも重要である。

 ○  利用時間については、適切な教育・保育の内容を提供する観点を踏まえつつ、個々の子どもや親のニーズに応じて利用できるようにすることが適当である。具体的には、例えば保護者の就労の有無・形態等に関わりなく、すべての子どもの育ちを支える共通の教育・保育時間に加え、必要に応じ、一定時間の保育などを利用できるようにすることが考えられる。


 教育・保育の内容
 ○  総合施設における教育・保育の内容については、現在の幼稚園教育要領及び保育所保育指針を踏まえ、子どもの発達段階に応じた共通の時間・内容を確保しつつ、子どもの視点に立ち、個々の子どもの状況に応じたきめ細かな対応に特に留意して、来年度に実施される試行事業も含め、引き続き検討していくことが適当である。

 ○  この場合、遊びや食事も含めた乳幼児の成長にふさわしい弾力的な環境づくりや小学校教育との適切な連携といった様々な観点が求められるものと考えられる。


 職員配置・施設設備
 ○  職員配置や施設設備等については、経営の効率性のみを重視するのではなく、次代を担う子どもの健やかな育ちを中心においた上で、地域の実情に応じた柔軟な対応が可能となるよう、来年度に実施される試行事業も含め、その適切なあり方について引き続き検討していくことが適当である。


 職員資格等
 ○  総合施設の職員については、一定の教育・保育の質を確保する観点から、保育士資格及び幼稚園教諭免許を併有することが望ましいが、例えば、地域の実情等に応じて、低年齢児については一定数の保育士を、3〜5歳児については一定数の幼稚園教諭免許保持者を置く、あるいは一定の研修を課すことなどにより、一定の教育・保育の質を担保しつつ、そのいずれかの資格を有する者でも可とするなど、弾力的な職員資格の在り方についても検討することが必要である。

 ○  職員の資質及び専門性を向上させるため研修は重要であり、総合施設内外における研修の機会やその内容のあり方についても、引き続き検討していくことが必要である。


 設置主体・管理運営
 ○  総合施設の設置主体や管理運営方式については、安定性・継続性、質の確保の仕組みを整えた上で、可能な限り弾力的なものとなるよう配慮することが適当である。

 ○  また、教育・保育活動、運営状況等について、定期的な自己点検・評価や第三者評価などを行うとともに、その結果の公表など必要な情報提供を行うことなどが重要である。


 利用料・保育料
 ○  幼稚園及び保育所については、幼稚園の利用料が設置者ごと、すなわち公立の場合には市町村ごと、私立の場合には幼稚園ごとの設定となっているのに対し、保育所の保育料は、公立・私立を問わず市町村ごとに設定することとなっているほか、幼稚園と保育所、公立幼稚園と私立幼稚園とで利用者負担の水準にも相当の相違があるなど、利用者負担のあり方が異なっている。

 ○  総合施設の利用者負担については、こうした両者の相違を踏まえつつ、施設サービスを利用している家庭と利用していない家庭との負担の公平、利用したサービスに応じた負担、子育て家庭の負担能力に応じた負担、地域における類似施設との負担の均衡等に配慮したものとすることが適当である。


10  財政措置等
 ○  総合施設の財源については、利用者からの利用料だけでなく、子育てを支えていく次世代育成支援の理念に基づき、社会全体が負担する仕組みとしていくことが必要である。

 ○  現在の幼稚園及び保育所の費用負担の仕組みは、利用者負担のほか、公立の施設である場合にはいずれも地方自治体の一般財源で賄うことを基本としているの対し、私立の幼稚園の場合には、その経常的経費の一部について国庫による補助が、私立の保育所の場合には、その運営に要する費用の一部について国庫による費用負担が行われるなど費用負担の仕組みが異なっているが、今後、総合施設の意義・理念に照らして、新たな枠組みにふさわしい費用負担の仕組みを検討していくことが必要である。


11  地方公共団体における設置等の認可・監督等の体制
 ○  幼稚園及び保育所については、国においても所管する省庁が異なるが、地方公共団体においても、幼稚園と保育所で、また幼稚園の中でも公立と私立で、設置等の認可や監督、管理運営等に関して、担当する部署が異なっている。

 ○  総合施設の設置等の認可や監督、管理運営等の体制については、事務の簡素化・効率化が図られるなど、行政の縦割りによる弊害が是正され、地域の実情に応じた柔軟な対応が可能となるようにすべきである。


12  幼稚園及び保育所との関係
 ○  総合施設は、多様化する幼児教育・保育のニーズに対し、例えば少子化が急速に進行している過疎地域など、地域によっては幼稚園や保育所といった既存の制度の枠組みだけでは必ずしも柔軟な対応が困難な場合があることを踏まえ、こうしたニーズに適切かつ柔軟に対応することが可能な新たなサービス提供の枠組みを示そうとするものである。したがって、地域の幼児教育・保育のニーズに対して、既存の幼稚園や保育所等の機能の拡充、組み合わせ・連携の強化等により対応するのか、あるいはこうした対応を基盤としつつ、さらに新たな枠組みである総合施設を組み合わせて対応していくかは、地域の実情に応じて判断されるべきものである。

 ○  このように、総合施設の制度化は、既存の幼稚園や保育所の意義・役割を大切にしながら、幼稚園・保育所と新たな枠組みである総合施設がそれぞれ相まって、乳幼児期の子どもの健やかな成長を支える役割を担うことを意図するものであるが、子どもの健やかな育成をより一層推進する観点から、既存施設のあり方についても、その改善に向けて必要に応じ適切な検討が加えられるべきである。



就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設について
(中間まとめのポイント)

 中央教育審議会幼児教育部会と社会保障審議会児童部会の合同の検討会議

 総合施設の基本的な在り方について、本年5月以来の3回にわたる議論を整理。
本年11月頃を目途に最終的なとりまとめを行う予定。

総合施設の意義・理念
 ○  幼児教育の観点、次世代育成支援の観点からの検討が必要。

 ○  規制改革や地方分権等の流れも踏まえ、地域が自主性を持って地域の実情や親の幼児教育・保育ニーズに適切かつ柔軟に対応できるようにするための新たなサービス提供の枠組みを提示するもの。

 ○  幼児教育の機会の拡大や地域の子育て家庭に対する支援の充実、幼稚園と保育所をめぐる諸課題や待機児童の解消等につながることが期待される。

基本的機能
 ○  親の就労の有無・形態等で区別することなく、就学前の子どもに適切な幼児教育・保育の機会を提供し、その時期にふさわしい成長を促す機能を備えることが基本。

 ○  この基本的機能に加え、地域の実情等に応じて、地域の子育て家庭に対し、子育てに関する必要な相談・助言・支援や親子の交流の場を提供することが重要。

対象者と利用形態
 ○  利用対象者は、就学前の子どもの育ちを一貫して支える観点から、0歳から就学 前の子どもとその保護者とすることが基本。

 ○  利用形態については、利用者と施設が向き合う直接契約が望ましい。

教育・保育の内容、職員配置・施設設備
 ○  教育・保育の内容については、幼稚園教育要領及び保育所保育指針を踏まえ、子どもの発達段階に応じた共通の時間・内容を確保しつつ、きめ細かな対応に特に留意して、来年度に実施される試行事業も含め、引き続き検討。

 ○  職員配置・施設設備については、経営の効率性のみを重視するのではなく、子どもの健やかな育ちを中心においた上で、地域の実情に応じた柔軟な対応が可能となるよう、来年度に実施される試行事業も含め、引き続き検討。

職員資格等
 ○  保育士資格及び幼稚園教諭免許を併有することが望ましいが、一定の教育・保育の質を担保しつつ、いずれかの資格を有する者でも可とするなど、弾力的な職員資格の在り方についても検討が必要。

設置主体・管理運営
 ○  安定性・継続性、質の確保の仕組みを整えた上で、可能な限り弾力的なものとなるよう配慮することが適当。

利用料・保育料
 ○  幼稚園及び保育所の利用者負担のあり方の相違を踏まえつつ、施設サービスを利用している家庭と利用していない家庭との負担の公平、利用したサービスに応じた負担、子育て家庭の負担能力に応じた負担、地域における類似施設との負担の均衡等に配慮したものとすることが適当。

財政措置等
 ○  利用者からの利用料だけでなく、次世代育成支援の理念に基づき、社会全体が負担する仕組みとしていくことが必要。

 ○  総合施設の意義・理念に照らして、新たな枠組みにふさわしい費用負担の仕組みの検討が必要。

地方公共団体における設置等の認可・監督等の体制
 ○  事務の簡素化・効率化が図られるなど、行政の縦割りによる弊害が是正され、地域の実情に応じた柔軟な対応が可能となるようにすべき。

幼稚園及び保育所との関係
 ○  地域の幼児教育・保育のニーズに対して、既存の幼稚園・保育所等の連携の強化等により対応するか、さらに新たな枠組みである総合施設を組み合わせて対応するかは、地域の実情に応じて判断されるべきもの。

 ○  総合施設の制度化は、既存の幼稚園や保育所の意義・役割を大切にしながら、幼稚園・保育所と新たな枠組みである総合施設がそれぞれ相まって、子どもの健やかな成長を支える役割を担うもの。


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