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過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会報告書のポイント


過重労働・メンタルヘルスの現状

 過重労働による脳・心疾患の労災認定件数が年間310件以上。
 自殺者が年間3万4千人を超え、うち約9千人が労働者。
 精神障害の労災認定件数が増加し、うち自殺の認定件数は年間40件。
 労働時間が長短両極へ二分化し、所定外労働時間が増加の傾向にあるとともに、6割を超える労働者が仕事に強い不安やストレス。
 →過重労働・メンタルヘルス対策の強化が必要


取り組むべき対策の方向

 基本的考え方
 ・  過重労働による健康障害防止対策は、適正な労働時間管理と健康管理が基本であるが、疲労の蓄積が生じた場合には、それに応じた健康確保措置が必要。
 ・  メンタルヘルス対策は、4つのケアにより心の健康づくりを進めることが基本であるが、労働者がうつ状態になったような場合には、早期の対応が必要。また、家族によるケアも重視する必要。


 過重労働による健康障害防止対策
【医師による面接指導】
 ・  脳・心臓疾患発症との関連が強いとされる月100時間を超える時間外労働又は2ないし6か月間に月平均80時間を超える時間外労働を行った場合の医師による面接指導の実施を制度化すべき。
 ・  時間外労働がこれより短い場合でも、労働者自身が健康に不安を感じた場合、周囲の者が労働者の健康の異常を疑った場合等で、産業医等が必要と認めたときは医師による面接指導の実施が必要。これらの場合については、各事業場において、衛生委員会等の意見を聴き、自主的な基準により制度化することが適当。

【事業場における労使の自主的取組】
 ・  職場における負荷要因を把握し改善方策を検討する場として、衛生委員会を活用すべき。
 ・  小規模事業場においても労使による職場改善の検討がなされることが適当。

【労働者自身の取組の促進】
 ・  労働者自身も自覚と自助努力が必要であり、事業者が教育、情報提供を行い、労働者自らが実践することが必要。


 メンタルヘルス対策
【医師による面接指導】
 ・  上記の長時間労働者等に対する医師による面接指導において、メンタルヘルス面もチェックすべき。
 ・  労働者本人がメンタルヘルスの不調を疑った場合等には、事業場内での面接指導に繋げる仕組みに加え、労働者本人が外部の医師の面接を受け、その結果を事業主に提出することができる仕組みが必要。

【介入が可能となる仕組みづくり】
 ・  精神障害による自殺等の最悪の事態を避けるためには、労働者が深刻な状況に陥った場合に、上司、同僚、家族等周囲の者の気づきを端緒として専門家による介入が可能となる仕組みが必要。

【教育の実施等】
 ・  労働者や管理監督者に対する教育、随時職場内外の専門家に相談できる体制の整備も重要。


 体制の整備
【事業場内の体制整備】
 ・  医学的知識を基礎とした健康管理が対策の軸となることから、産業医等の医師の積極的関与、産業保健スタッフの活用が重要。また、産業保健スタッフと人事労務部門との連携、衛生委員会等の活用による労働者の意見の反映が重要。

【事業場外の機関の活用】
 ・  メンタルヘルス対策については、公的機関や外部の医療機関などのサービスの活用が重要。
 ・  家族を通じたメンタルヘルス対策を地域と職域が連携して進めることが必要。

【国の支援措置】
 ・  国は、小規模事業場に対して産業保健サービスの提供を実施している地域産業保健センターの活動の充実を図ることが必要。



過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会報告書(平成16年8月)
(労働時間関連部分の抜粋)


 労働者の健康に関する現状と課題

(2)過重労働による健康障害に関する現状と課題
 ○  労働時間の状況については、毎月勤労統計調査によれば、労働者一人当たりの所定外労働時間は年間130時間から140時間で近年横ばいから若干増加の傾向にある。事業者が時間外労働又は休日労働をさせようとする場合には、労働基準法の規定により労使協定の締結が必要であり、その内容についても延長時間の限度など一定の条件を遵守することが求められているが、平成14年度労働時間等総合実態調査によれば、1か月の法定労働時間外労働が100時間以上の労働者がいる事業場が全体の1.6%、45時間を超える労働者がいる事業場が全体の14.7%となっている。

 ○  現在の医学的知見によれば、長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積による健康への影響について、(1)発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる、(2)発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強い、とされている(脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書(平成13年11月))。

 ○  脳・心臓疾患の労災認定事案を見ると、健康診断を受診していない事例が見受けられる一方で、健康診断で異常が認められなかったにもかかわらず、発症に至った事案が認められるなど、従来からの健康管理手法のみでは十分な対応が困難であると考えられ、特に、月100時間を超える時間外労働を実施させた場合等においては、健康管理措置の一層の充実が必要であるといえる。

 ○  厚生労働省は平成14年2月に「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定し、周知啓発、指導にあたっている。この総合対策の事業場での取組状況をみると、時間外労働時間の把握が徹底した、極端な過重労働が減少した、事業者が過重労働の削減に意欲を示すようになったなど一定の効果は認められるものの、こうした対策を実施していない事業場も少なくない。

 ○  このような状況に対応して、今後、過重労働による健康障害防止を図るために、健康管理対策をより一層強化することが求められている。


(3)職場における心の健康に関する現状と課題
 ○  我が国において精神疾患で医療機関を受診している人は、平成14年では国民の約45人に1人にあたる260万人に上っている。また、自殺者の数は、平成10年以降全国で3万人を超える状況が続き、平成15年には34,427人と過去最高となり、そのうち約9000人が労働者となっている。

 ○  また、精神障害等の労災補償状況を見ると、請求件数、認定件数とも近年増加しており、そのうち未遂を含めた自殺の労災認定件数は年間40件に及んでいる。これら精神障害による自殺の労災認定事案の分析結果をみると、平成14年度以前に労災認定された51件の事案のうち、27件において月100時間以上の時間外労働時間が認められ、長時間労働が心の健康にも大きく関与していることが考えられる。また、企業における過重労働対策の効果に関する研究結果によれば、回答のあった176人の産業医等のうち長時間労働を行った者に対する面接等の結果、当該労働者を医療機関に紹介したことのある産業医等は全体の37.5%であり、そのうち59.1%の産業医等が労働者を抑うつ状態と診断して医療機関を紹介した経験があった。


 基本的考え方

(1) 対策の方向
 ○  過重労働による健康障害防止対策については、平成14年2月の「過重労働による健康障害防止のための総合対策」に示されている事業者が講ずべき措置((1)時間外労働の削減、(2)年次有給休暇の取得促進、(3)労働者の健康管理に係る措置の徹底)を確実に実施すること、特に、適正な労働時間管理と健康診断を軸とした健康管理を進めることが基本であるが、やむを得ず長時間労働になり、疲労の蓄積が生じたと考えられる場合にはそれに応じた健康確保のための措置を講ずる必要がある。

(2)事業者の責務
 ○  過労死等について事業者の安全配慮義務違反が認められた裁判例に見られるように、事業者には労働者の労働時間管理や健康状況を把握し、それに応じた適切な措置を講ずる責務がある。事業者は、対策に取り組む意志を表明し、確実に実行していく必要がある。

 ○  具体的には、事業者は、健康管理に係る体制を整備するとともに、健康診断結果、産業医による職場巡視、時間外労働時間の状況等様々な情報から労働者の心身の健康状況及び職場の状況を把握するよう努め、労働者の健康状況に配慮して、職場環境の改善、積極的な健康づくり、労働時間管理を含む適切な作業管理等様々な措置を実施することが求められる。

 ○  このような措置を通じて職場の負荷要因・ストレス要因の低減等を図ることにより、過重労働による健康障害等の防止はもちろん、心と身体の健康の保持増進、快適でいきいきとした職場づくりが進むこととなる。また、このことにより、労働者の労働意欲が高まるといったメリットも期待できる。


 取り組むべき対策の方向

(1)過重労働による健康障害防止対策の在り方
 イ  疲労の蓄積によるリスクが高まった場合の面接指導等
 ○  労働者に長時間の時間外労働など過重な労働をさせたことにより疲労が蓄積している場合には、脳・心臓疾患発症のリスクが高まるとされていることから、このような状況となった労働者の迅速な把握が不可欠であり、また、その健康の状態を把握し、適切な措置を講じるようにするため、医師が直接労働者に面接すること及び健康確保上の指導を行うことを制度化すべきである。

 ○  さらに、事業者は、医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて健康診断、労働時間の制限や休養・療養等の適切な措置を実施するようにすべきである。

 ○  この医師による面接指導が必要な場合としては脳・心臓疾患発症との関連性が強いとされる月100時間を超える時間外労働又は2ないし6か月間に月平均80時間を超える時間外労働をやむなく行った場合が考えられる。具体的には、事務処理などの実効性を考慮すると時間外労働時間の算定は月単位での処理が適当であると考えられる。

 ○  また、これより時間外労働時間が短い場合であっても、予防的な意味を含め健康上問題が認められる場合には面接指導を行うことが必要と考えられ、例えば、労働者が脳・心臓疾患に係る基礎疾患を有する等一定程度以上のリスクを有しているとき、労働者自身が健康に不安を感じたときや周囲の者が労働者の健康の異常を疑ったとき等であって産業医等が必要と認めた場合等には医師による面接指導を実施することが必要と考えられる。さらに、これらの対象者が事業場内の産業医等による面接を希望しない場合、自ら外部の医師の面接指導を受け、その結果を事業者に提出することができるようにすることも必要と考えられる。これらの場合に関しては、専属産業医の有無等事業場の実施体制、労働者の意見等も考慮する必要があることから、一律に基準を定めるのではなく、各事業場において、衛生委員会等の意見を聴き、自主的な基準により制度化していくことが適当である。

 ○  なお、上記の面接指導は、月100時間を超える時間外労働を行った者等については必ず実施することが原則であるが、ハイリスクグループに集中して効果的に健康管理を進めるという観点から、労働者の健康診断結果、それまでの面接指導の結果、労働者が従事する作業内容、時間外労働時間の状況等の要素を勘案した上で医師の判断によっては、毎月連続して行わなくともよい場合もあるものと考えられる。

 ○  上記の措置等を的確に実施するため、また、産業医等が現場の労働負荷の状況に応じて適切な助言ができるよう、時間外労働時間等の情報が産業医、衛生管理者、衛生推進者、保健師等の産業保健スタッフに適切かつ迅速に提供される必要がある。

 ○  また、長期出張中の労働者、管理監督者、裁量労働者など一般の労働者とは労働時間管理が異なる者についても、過重労働による健康障害のリスクを考慮すると、原則として一般の労働者に準じた措置を実施する必要がある。

 ○  なお、長時間の時間外労働により疲労が蓄積している者に対しては、適切な休養を取らせることにより蓄積した疲労を解消させるようにすることも必要である。

 ウ  事業場における労使の自主的な取組
 ○  過重労働による健康障害防止対策としては、時間外労働の削減等により過重な負荷を排除することが基本であり、労働基準法令の遵守はもとより、時間外労働、交替制勤務、深夜勤務等の負荷要因の把握と改善に向けて労使が協力して自主的な取組を行うことが期待されるところである。特に、月100時間を超える恒常的な時間外労働はさせないようにすべきである。

 ○  職場における負荷要因を把握し、これを改善していく方策を検討する場としては、労働者の健康障害を防止する観点から、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用すべきである。衛生委員会等で有効な議論が行われるためには、時間外労働時間等の情報が衛生委員会等に適切に提供されることが必要である。衛生委員会の設置義務のない小規模事業場においても、労使による職場改善の検討がなされることが適当である。

(2)メンタルヘルス対策の在り方
 エ  メンタルヘルスの不調に早期に対応する方策
(イ)長時間の時間外労働を行った者等に対する医師等による面接指導
 ○  精神障害による自殺の労災認定事案における労働時間を見ると、長時間であったケースが多く、また、企業における過重労働対策の効果に関する研究結果を見ると、長時間労働を行った者について医療機関に紹介したことがある産業医のうち約6割が労働者を抑うつ状態と診断して医療機関を紹介した経験があった。このことから、長時間の時間外労働を行ったことを一つの基準として対象者を選定し、メンタルヘルス面でのチェックを行う仕組みをつくることは効果的であると考えられる。(1)イにおいて、過重労働による健康障害防止のために長時間の時間外労働を行った者等を対象とした医師による面接指導を実施すべきとしているが、この際、メンタルヘルス面にも留意した面接指導を行うようにするべきである。具体的には、(1)イにおいて月100時間又は2ないし6か月間に月平均80時間を超える時間外労働を行った者に対して面接指導を行うほか、それ以外の場合でも労働者自身が健康に不安を感じたとき、周囲の者が異常を疑ったとき等について事業場で自主的な基準を設けて面接指導を行うべきこととしているが、これらの面接指導においてメンタルヘルス面についてもチェックを行うようにするべきである。特に、心の健康は外部からは評価しにくいものであること、周囲の者が異常を疑うようなときは相当程度深刻な状況となっている可能性があることを考えると、本人や周囲の者を端緒とした面接指導は重要であるといえる。

 ○  この場合も、事業者は、医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて適切な措置を講じることが求められる。


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