予防接種後副反応報告は、医師が予防接種後の健康被害を診断した場合又は市町村が予防接種を受けた者若しくはその保護者等から健康被害の報告を受けた場合に、「予防接種実施要領」(平成15年11月28日健発第1128002号厚生労働省健康局長通知及び平成13年11月7日健発第1058号厚生労働省健康局長通知)に基づき厚生労働省へ報告するものである。
当該報告制度は、予防接種後の被接種者の健康状況の変化についての情報を収集し広く国民に提供すること及び今後の予防接種行政の推進に資すること等を目的として、平成6年の予防接種法改正に伴い実施されてきたものであり、本集計報告書は、厚生労働省に報告された予防接種後副反応報告書を、報告基準にある臨床症状ごとに単純集計し、まとめたものである。
当該報告制度の留意点は以下のとおりである。
(1) | 本報告は、予防接種法に基づく定期接種として実施された予防接種を対象としており、いわゆる任意の予防接種は報告・集計の対象とはなっていない。 |
(2) | 報告するかどうかの判断は報告者が行うため、各都道府県の接種対象者人口などを考慮しても報告数に県ごとのばらつきが大きく、副反応数の発生率などについてはこのデータからは分析できない。 ワクチン別の副反応発生頻度については本報告ではなく、平成8年度より実施している予防接種後健康状況調査事業の報告書を参照していただきたい。 |
(3) | 本報告は、予防接種との因果関係の有無に関係なく予防接種後に健康状況の変化をきたした症例を集計したものであり、これらの症例の中には、予防接種によって引き起こされた反応だけでなく、予防接種との関連性が考えられない偶発事象等も含まれている。 集計に当たっては、予防接種との因果関係がないと思われるもの、もしくは、報告基準の範囲外の報告等についても排除せず、単純計算してまとめている。 |
(4) | 本報告は、予防接種健康被害救済制度と直接結びつくものではない。救済措置の給付を申請する場合には、別途、各市町村でまとめた書類の提出が必要である。 |
I 総論
本集計報告書は、平成15年4月1日から平成16年3月31日までの間に厚生労働省に報告された予防接種後副反応報告を報告基準にある臨床症状ごとに単純集計し、まとめたものである。
1 | 対象とされたワクチンは、定期接種として実施されたジフテリア・百日せき・破傷風混合(以下「DPT」という)、ジフテリア・破傷風混合(以下「DT」という。)、麻しん、風しん、日本脳炎、ポリオ(急性灰白髄炎)、BCG、インフルエンザである。 |
2 | 報告書の集計は、第1報が提出された日時で行い、第2報以降で症例の転帰が明確にされたものなど変更があったものについては追記した。また、既に前回集計報告(平成14年3月31日まで)にて集計され、今回次報として報告されているものについては集計していない。 |
3 | 期間中の都道府県別、ワクチン別の報告数を第1表にまとめた。 報告された症例数(副反応件数)はDPT(DTを含む)212例(237件)、麻しん19例(36件)、風しん12例(14件)、日本脳炎80例(92件)、ポリオ11例(11件)、BCG85例(89件)、インフルエンザ31例(34件)で報告された総数は、450例(513件)であった。 副反応が重複しているものがあるので、解析については件数で示した。(なお、DPT(DT)ワクチンは1期4回、2期1回の計5回、日本脳炎ワクチンは1期3回、2期1回、3期1回の計5回、ポリオワクチン(経口)の2回の各々の総計である。) |
4 | まとめに使用した分類は報告基準を基本とした。報告の中で通常の副反応と思われるもの、明らかに予防接種との関連性が考えられないものが基準外報告となっている。 |
5 | 死亡・重篤・入院等の重症例に関しては、副反応の概要の詳細につき付記する。 |
ワクチン別副反応報告数 (平成15年4月〜平成16年3月)
|
(参考)ワクチン別接種者数 (平成14年4月〜平成15年3月)
|
※ | 症例数は副反応が起こった人の報告人数であり、副反応件数はその人数に対する副反応の発生数(重複あり)である。 |
II 各論
1.DPT,DTワクチン(表2−1〜3参照)
報告されたDPT・DTワクチン接種後の副反応報告件数は237例(男156件、女81件)、このうち基準外報告は60件(25.3%)であった。102件(43.0%)が24時間以内の報告であり、1〜3日121件(51.1%)、4〜7日は10件(4.2%)、8〜14日は4件(1.7%)であった。それ以降の報告は無かった。
年齢別に見ると0歳児が40件、1歳代が66件、2歳代が55件、3歳代は26件の報告があった。
報告された副反応でもっとも多かったのは接種局所が肘を越えた異常腫脹で126件(53.2%)であった。その他39℃以上の発熱は17件、アナフィラキシー7件、全身の発疹6件、けいれん6件、じんましん12件、その他の神経障害が1件報告された。この1例は接種1日後の顔面神経麻痺と報告されている。
回復したと報告したうちで治癒3件(1.7%)、入院11件(6.1%)、後遺症6件(32.8%)、その他59件(32.8%)、無記入101件(56.1%)であった。
未回復と回答されたのは局所の異常腫脹の24件、全身蕁麻疹2件、39℃以上の発熱4件、全身の発疹2件、基準外18件、けいれん・その他の神経障害各1件ずつの52件であった。そのほか無記入が26例あった。
2.麻しんワクチン(表3−1〜3参照)
麻しん副反応報告総症例数は19例(男8例、女11例)であった。報告件数は36件となった。1件(2.8%)が24時間以内の副反応であり、1〜3日4件(11.1%)、4〜7日14件(38.9%)、8〜14日17件(47.2%)であった。
総報告件数36件の年齢別では、1歳台34件であった。
副反応から回復していると報告されたのが11例(21件)であった。回復状況が不明は4例(7件)あり、回復していないと報告されたのが3例(6件)、死亡例が1例(2件)あった。
死亡例は、1例みられた。1歳11か月の症候性全般てんかんを基礎疾患に有する男児で、麻疹ワクチン接種後7日目に38℃台の発熱あり、接種後11日目に死亡した。回復していない症例のうち、1例は1歳9か月男児例で、接種後8日目に発熱を認め、同日より歩行せず。接種後18日目からむせやすくなった。接種後20日目に入院、髄液タンパク細胞解離、神経伝達速度遅延あり、ギラン・バレー症候群と診断された。他の2例は皮疹例である。
[まとめ]
昨年度と比較すると、麻しん予防接種後副反応報告症例数は減少傾向にある。重篤な副反応として、死亡1例、ギラン・バレー1例が報告された。死亡例においては、基礎疾患があることが影響したと思われる。
3.風しんワクチン(表4−1〜3参照)
風しん副反応報告総症例数は12症例(男7例、女5例)であった。報告件数は14件であった。3件(21.4%)が24時間以内の副反応であり、1〜3日3件(21.4%)、4〜7日1件(7.1%)、8〜14日5件(35.7%)、15〜28日2件(14.3%)であった。
年齢別では、1歳台8件、2歳台2件、3歳台1件、15歳以上3件であった。
回復していると報告されたのが6例(7件)であった。このうち2例は血小板減少性紫斑病であった。回復状況不明は1例(2件)で、発熱、けいれんの例であった。回復していないと報告されたのが、5例(5件)あった。このうち3例は血小板減少性紫斑病であり、1例はアレルギー性紫斑病(接種後34日目に発症)であった。1例は3歳2か月女児例で、接種後約10日に発症した小脳失調症例であった。
[まとめ]
風しん副反応報告件数は多くはないが、血小板減少性紫斑病は今期5例報告された。小脳失調症の1例も報告された。
4.日本脳炎ワクチン(第5−1〜3表参照)
報告された日本脳炎ワクチン接種後の副反応の症例数は80例(男45例、女35例)、92件(男54件、女38件)であった。
最も多い副反応は即時性全身反応で、22件(23.9%)あり、そのうち7件はアナフィラキシー、15件は全身蕁麻疹で、アナフィラキシーの全例、全身蕁麻疹の大部分は24時間以内、2件は1〜3日、1件は8〜14日に発症していた。
次に多かったのは39℃以上の高熱19件(20.7%)で、基準外報告14件(15.2%)、けいれん10件(10.9%)、その他の異常反応9件(9.8%)、脳炎・脳症8件(8.7%)、その他の神経障害4件(4.3%)と続いた。副反応の発現は多くは24時間以内で、高熱は3日以内に発症し、その他の副反応も多くは3日以内に発症した。しかし脳炎・脳症は8件のうち3件は接種後4〜7日、3件は7〜14日、2件は15〜28日と、いずれも接種後4日以降に生じた。また、その他の神経障害も1件は24時間以内にみられたが、残りの3件は接種後4〜7日に生じた。
今回目立った神経系副反応を詳しく見ると、けいれん10件のうち、4件は接種後0〜3日に38.5〜40℃の高熱を伴う全身けいれんで、いわゆる“発熱けいれん”のカテゴリーに入るけいれんであった。無熱性けいれんは5件報告され、そのうち2件は部分発作から始まる二次性全汎化発作で、うち1件は発育遅滞の基礎疾患を持っていた。他の3件は全身けいれんで、うち2件は接種1〜2日後に発症しているが一過性の軽症例であり、他の1件は接種後10日後に発熱の既往があり、接種後17日後にけいれん重積で入院している。脳波上棘波があり、てんかんと診断されているが、発作前に易刺激性などの症状があったため脳炎・脳症可能性も否定できないとされている症例である。他の1件は接種直後から一過性の左手の痺れと同部の筋肉のけいれんがあり、部分的ミオクローヌスが否定できない症例であった。
次いで今回は脳炎・脳症に分類される症例が8件あり、その内訳は報告者がADEMと診断したものが6件、その他の脳炎・脳症として報告されたものが2件あった。後者の1件は髄液細胞数の上昇、脳波の全般性徐波化があり臨床所見はこのカテゴリーに一致するが、他の1例は先にけいれんの項でもカウントした症例で、てんかん重積の原因として病歴から本症を否定できない疑い例である。その詳細は不明なので脳症か否かは結論づけられないが、疑い例としてカウントした。
その他の神経障害として分類した症例は4件あり、2件は一過性の失調性歩行であり、1件は接種後6日目に歩行時失調あり、よくしりもちをつき4日で回復した症例で、精査したが検査は全て正常、他の1件は接種後4日目、活気無く嘔吐あり、歩行不可能になる。2日後も坐位不安定で歩行するも直進できなかったが、6日後までに回復している。これら失調性歩行の2例は、詳細が不明なので結論づけられないが、報告された症状や発症時期を考えるとこれらの失調性歩行は小脳や脊髄の障害を疑わせ、脊髄を主として犯すADEMの可能性を鑑別しなければならない。失調性歩行以外の2例は、1件は左上肢の一過性の痺れとミオクローヌスをきたした先のけいれんの項で述べた症例である。他の症例は多発奇形群の基礎疾患を持ち、接種後けいれん重積を伴った症例で脳炎・脳症なのか基礎疾患の症候悪化なのかが判断できない例である。
その他の異常反応9件の内訳は、いわゆる迷走神経反射による一時的ショック様症状で接種直後に発症した症例が8件あり、年長児に多く見られ、アナフィラキシーショックと区別された症例であった。他の1件は左下眼瞼の一過性浮腫であるが蕁麻疹と異なっていた。
基準外報告の大部分内訳は発熱11件、その他3件で、局所反応は見られなかった。
5.ポリオワクチン(表6−1〜3参照)
ポリオワクチン接種後の副反応症例として報告された数は合計11例(男4例、女7例)で、件数は同じく11件であった。
日数別に見ると11件中6件(54.5%)が24時間以内、1〜3日3件(27.3%)、4〜7日および8〜14日が0件、15−28日が2件(18.2%)であった。
各年齢別にみると0歳代8件、1歳代3件であった。
副反応として報告された中で、麻痺例は2件、基準外報告(全身反応)9件であった。
2件の麻痺例はいずれも免疫不全のない者であった。1例は8ヶ月男児でOPV服用17日目頃より麻痺症状出現、22日目頃に両下肢弛緩性麻痺出現。髄液PCR陰性、便PCRでエンテロウイルス陽性のため、ウイルス性脊髄炎として報告されたものである。もう1例は7ヶ月男児で1回目のOPV服用後23日目にみられた弛緩性麻痺例で、髄液からは Cox A19が分離されている。
基準外報告の9例は以下のものである。
広範な膨疹または紅斑が6例、頬部発疹1例、感染性胃腸炎2例で、8例について回復が確認されているが、じんましん様発疹の1例の回復状況が確認されていない。
死亡例の報告はない。
6.BCGワクチン(表7−1〜3参照)
報告された今期のBCGワクチン接種後の副反応件数は89件(基準外報告3件を含む)であった。本事業の開始以来の報告件数は累計で790件となった。
今期の報告件数89件についてみると、性別では男47件、女42件と大きな性差は見られなかった。年齢別には0歳45件(50.6%)、1〜4歳28件(31.5%)、5〜9歳7件(7.9%)、10〜15歳8件(9.0%)と乳児の被接種者が多かった(ほかに15歳以上が1件)。
副反応の種別では、腋窩リンパ節腫脹48件(53.9%)が最も多く、次いでケロイド形成(その他の異常反応「その他」に分類)14件(15.7%)、接種局所の膿瘍・潰瘍13件(14.6%)が多かった。ほかには皮膚結核様病変7件、骨炎・骨髄炎2件が注目される。腋窩以外のリンパ節腫脹も2件みられた。
腋窩リンパ節腫脹例48件はそのすべてが0〜2歳の乳幼児で、特に0歳が28件(58.3%)を占めていた。他では1歳が18件(37.5%)であり、他は2歳児で2件、小学生、中学生では皆無であった。その発生時期は早いものでは1日〜3日に7件あったが、8日〜2カ月で27件(56.3%)、その後3カ月までに39例(81.3%)が発生していた。3ヶ月を経過した後に発生した者は9件(18.8%)であった。報告時点までに「回復している」と答えた者が18件(経過の記載ある者の58.1%)、「回復していない」と答えた者が12件(同37.5%)であった。経過中に入院した者が6件あった。
ケロイド形成の14例は、6例(42.9%)が小学生、また8例(57.1%)が中学生であった。性別では男女7件(50.0%)づつであった。
接種局所の膿瘍13件中5件は0歳児、6件が1〜3歳児、2件が5歳以上であった。その発生時期は接種後1ヶ月以内が5件(38.5%)、1カ月を越えて2カ月までが4件(30.8%)、3ヶ月を越えるものが4件(30.8%)みられた。回復状況については「回復している」が7件、「未回復」が6件であった。
皮膚結核様病変の7件はいずれも0歳児で、男4件、女3件であり、発生時期は接種後1〜3日1件、8日〜1カ月2件、〜2ヶ月3件、〜3ヶ月1件であった。報告時点までに「回復している」が2件、「回復していない」が2件であった。臨床的には1例が接種部位から離れた上腕皮下の膿瘍、他6例は全身の皮疹(1例は水疱)として発病した。
骨炎の2例は、男女各1件ずつで、いずれも0歳で接種し、その後ともに1歳になってから発病した者である。1例は接種後9ヶ月で歩行障害を発症し、股関節炎と診断され、切開排膿してBCG菌を証明したものである。他の1例は接種後13ヶ月に歩行障害を発症し、骨髄炎と診断され、骨髄穿刺にてBCG菌を証明した者である。
[まとめ]
今期もリンパ節腫大(腋窩、腋窩外)を中心に、ケロイド、接種局所の潰瘍が多く、これらが全体の86.5%を占めていた。
リンパ節腫大は初接種の乳幼児に多く、典型的なものは1〜3カ月頃に発生し、その後6カ月頃までに消退する。技術的に適切な方法で行った場合には被接種者の0.7%程度に発生する。ごくまれに化膿して穿破し、排膿することもある。多くは単個であるが、まれに複数個、また今回見られているように腋窩以外の部位(胸壁、鎖骨窩部など)に発生することもある。
ケロイドは通常は再接種でみられ、過去の接種による瘢痕の強い者、接種部位が不適切な者(とくに肩峰近くなど)などで発生しやすい。
今回は皮膚結核様反応が7件あった。うち3件が同一ロットのワクチンを接種されたものであった。いくつかの型があるが、結核疹とよばれるものは多く接種後数週間で発症し、全身に発疹が散布し、発熱を伴うこともある。今回見られたもう1つの型はBCG菌が接種局所から離れた部位に転移し、そこで増殖して反応(腫瘤形成、ときに化膿)を起こすものである。いずれも予後は良好であるが、結核症としての化学療法を行うことが多い。
7.インフルエンザ (表8−1〜3参照)
インフルエンザワクチン接種後の副反応が疑われ、報告された例は32症例(男:10例、女22例)34件であった。年齢構成はすべて65歳以上であったが、そのうちの23例(71.9%)は75歳未満の前期高齢者であった。
接種当日に発熱、皮疹などが出現した即時型全身反応は5件に見られた。ショックを伴う例は報告されなかったが、1件で副腎皮質ホルモン、1件でボスミンが使用されている。3件は皮膚症状が中心であった。2日目以後に皮膚症状が見られたものは5件で、7日目までに出現している。
39℃以上の発熱は1件のみに見られた。
6例で何らかの神経症状が見られた。1件はギラン・バレー症候群が疑われ、γグロブリンの大量投与を受けている。他には、手足のしびれ感2件、閉眼障害、めまい、ふらふら感が各一件報告されている。
ワクチン接種後、発症までの日数は24時間以内が20件(58.8%)、1〜3日11件(32.4%)、4〜7日1件(2.9%)、4週間以上1件(2.9%)であった。
報告時点の予後は回復しているもの18件、回復していないもの12件であり、4件は記載がない。死亡例は1例あり、接種翌日に頭痛を訴え、接種2日後に意識障害にて入院、接種3日目に死亡した症例で、剖検にて脳腫大、クモ膜の肥厚・混濁が見られ、インフルエンザ以外の脳炎を強く疑わせる所見であったと報告されている。
その他には、接種局所の腫脹などの局所反応が5件報告されている。
[まとめ]
ショックを伴う例は見られなかった。死亡例について担当医は何らかのウイルス性脳・髄膜炎を疑い、ワクチン接種との因果関係には言及していない。その他も、予測範囲内の事例のみであった。
照会先
厚生労働省健康局結核感染症課予防接種係
TEL:(03)5253−1111
FAX:(03)3581−6251
PDFファイルを見るためには、Adobe Readerというソフトが必要です。
Adobe Readerは無料で配布されています。(次のアイコンをクリックしてください。) Get Adobe Reader