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資料10

平成16年9月1日

厚生労働省「痴呆」に替わる用語ヒアリング

日本老年看護学会理事長
  中島 紀惠子(新潟県立看護大学長)

1 「痴呆状態」に対する看護学的認識について(中島の考え)

 老年看護学(表1)や介護福祉(表2)にとって,鍵になる共通概念は身体技法ではないか,とくに痴呆ケアにとっては.痴呆の本質は,身体技法と社会的知能のアンバランスにある.それがある特定の環境下で,行動・行為としてあからさまにみえるのだが,我々がみなければならないのは,今のパフォーマンスの中にある身体技法と社会的知能の一体性や一貫性などである(表3).すなわち,総合体系として表現される身体技法のメカニズムを「ライフ」と「人間」の観点からきちんとみる,きく,読む,査定するといった能力を持っていることでケアは成り立っている.
表1. 老人看護とは

 老人看護とは,老人ゆえのリスク(老化と複合する病気像,不完全な回復,それらと闘い自立的な生活を営まければならぬには不足する潜在力と時間)をもった人々を対象とし,その個人にふさわしい援助をすることだと考える.
 ふさわしい援助とは,その老人の生命と日常生活活動にとって必要なもの,まだ働けるものを選びとり,サポートをすることで,生命と生活を維持し,めざしうる望ましい態様(修復される健康像,時には修復の結果の死)を獲得していく活動をすることである.

(中島紀恵子:老人看護学,真興交易医書出版,1986)
表2. 介護とは

 介護とは,介護という「関係」のうえに成り立つ援助の行為表現をいう.健康や障害の程度を問わず,衣・食・住の便宜さに関心を向け,その人が普通に獲得してきた生活の技法に注目し,もし身の回りを整えるうえで支障があれば,「介護する」という独自の方法でそれを補うという形式をもって支援する活動である.
 介護は,介護を利用する人々のこれまでの生涯に獲得してきた生活力(身体と心が統合的に働く,活動する身体を日々の生活場面で再構成し,統制できる能力)に注目するところから始まる.

(中島紀恵子:介護概論,中央法規出版,1989)
表3. 身体技法への着眼

身体技法とは,立つ,座る,着る,脱ぐ,あいさつするなど,単に運動形態学的な現象であることにとどまらず,それぞれの民族文化の中で伝承される1つの身体の技(わざ)である.
痴呆の本質は,複数の認知機能障害の組合せには還元できない社会的知能の障害である.
痴呆の人は,身についた社会的知能と身体技術の体系にトラブルを抱える.
それは身体技法から観察できる.痴呆の人は,例えば洗濯,排泄,食事といった1つ1つの動作・行為における計画性・順序性・秩序性が障害されるために生活の自立上の問題を抱えている.

(中島紀恵子:「生活の場から看護を考える」,医学書院,1994)

 ケアのスタンスは,「よくわからない」ということにおきたい.コミュニケーションにおいては,これが最も大切な入口になる.痴呆性老人の老人ならではの健全さ,健康さを,人間のふるまいから見つけ,人間的なエンパワーを見出すための評価尺度の質が「生活健康スケール」である(表4).

表4. 生活健康スケール

〔使用法〕
1.このスケールは,精神症状やいわゆる問題行動に着目するのではなく,「痴呆」といわれる病気をもちながら生きて生活している個人の人間的な能力や健康さを評価します.
2.評価は集団に比較しての個人ではなく,その個人がどのような状態であるかに視点をおいて行ってください.他人に較べて低くてもデイケアに通うことで維持・改善した面があればその人の健康さと評価します.最近の状況からみたその人の平均像で付けてください.
3.スケールは以下の4段階に分かれています.デイケア場面での印象に基づいて評価してください.

3.かなりみられる
2.ややみられる
1.あまりみられない
0.全くみられない
〔項目〕
1.仲間への気配りがある 11.思い出話がうまい
2.聞こうとする態度がある 12.人を誉めるのがうまい
3.身だしなみに気をつかう 13.礼節・道徳への関心がある
4.自分の居場所をみつけることがうまい 14.手伝おうとする
5.人にものが頼める 15.表情が豊かである
6.自分の意志を示せる 16.生き生きした目をしている
7.人をなごませる雰囲気がある 17.待っていられる
8.集団遊びができる 18.人をひきつける雰囲気がある
9.外出を楽しめる 19.好奇心がある
10.人の使いわけがうまい 20.楽しみにしていることがある
(中島紀恵子他:デイケアにおける痴呆性老人に対する生活健康スタイル作成の試み,
社会老年学No.36,1992)


2 「痴呆」に替わる「名称」について学会理事個々の提案とまとめ

名称:「認知失調症」
理由:
(1)痴呆状況についての判断指標とし多く使われているMMSEは別名認知機能検査といわれているように,痴呆状況は種々の認知に関わる機能低下であると考えられている.またMMSEは言語機能,エピソード機能,注意遂行機能,構成機能,視空間認知機能を評価している.
(2)障害という言葉には,じゃま,さまたげという意味があり,認知のさまたげということになりる.また障害という言葉の使用は最小限にする社会の動きもあるので,失調にした.失調は調和を失うことという意味で,社会との調和が取りにくい状況ということである.
名称:「認知症」
理由:病名との関連で表現出来ること,高齢者の状態として表現することができること,ことばや文字で端的に表しやすいことなどから,「認知症」がよいのではないか.
名称:「認知低下性生活障害」
理由:痴呆は認知機能低下を中心に様々な生活障害を起こす症状の総称だと考える.
名称:a)「老人性難識症候群」
理由:老化による難聴と同様に,疾病ではなく加齢による脳細胞の減少(死滅)・萎縮―脳の変性から知的障害を引き起こし様々な症候を呈すると考え,命名した.国際的視野の点からは,難しいかもしれない.
名称:b)「アミロイド沈着性症候群」
理由:現在痴呆の早期発見や治療のためにアミロイドの沈着に関する研究が盛んにおこなわれている.行動障害の原因はなにかという視点から命名を考えた.
名称:「アルツハイマー症候群(Alzheimer’s)」
理由:
(1)これまでアルツハイマー病,老人性アルツハイマー,アルツハイマー型痴呆など混乱して使用されている.今回を機にこの命名がよいのではないか.
(2)この名称は「アルツハイマー・ディ(WHO)」の活動としても,すでに68カ国が加盟している「Alzheimer’s Disease International (ADI)」の目的とその組織的運動の業績からみても.


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