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輸血用血液製剤でHIV感染が疑われる事例について


1.経緯等
 平成15年9月5日、後天性免疫不全症候群発生届にて感染経路として輸血が考えられるHIV感染者が報告されたとの情報を入手。同日、当該報告医が、同事例について副作用感染症報告を日本赤十字社に提出、これを受けて同社による調査が開始され、その結果が、平成15年10月30日に開催された第95回エイズ動向委員会(委員長:吉倉廣国立感染症研究所長)に報告された。

2.事例
 50歳代の男性で平成15年の3月〜7月に赤血球製剤(MAP16単位)の輸血を受けた後、実施した血液検査においてHIV感染を確認(WB検査陽性)。報告医は感染経路として輸血を疑っている。

3.事実関係
 1)輸血された輸血用血液製剤について
当該感染者には、8人の供血者から採血された赤血球製剤(MAP)が8本(保管検体の個別NATはいずれも陰性)投与された。
 2)他の血液製剤への影響について
投与された赤血球製剤の原料血液からは、他に新鮮凍結血漿と血漿分画製剤用の原料血漿が製造されていた。
原料血漿については流通を停止。
新鮮凍結血漿については3本が製造されており、既に他の医療機関で3名の患者に投与されていた。(他に行方不明の製剤はない。)
 3)新鮮凍結血漿の投与を受けた3名について
1名は既に原疾患により死亡
残り2名については輸血後(約6ヵ月後)の抗体検査で陰性。

4.エイズ動向委員会での専門家からの意見
 記者会見では、「HIVの感染が輸血用血液製剤によるか追求すれば、患者のプライバシーに関わりうるケースである。」との発言があった。

5.エイズ動向委員会後の事実経過
 1)健康状態の確認を行っていた2名の受血者は、いずれも感染していなかったことが確認された。
 2)供血者の次回献血での検査については、平成16年7月1日現在、8名中5名が来訪し、感染していなかったことが確認された。

6.今後の対応
 当該感染者のプライバシーの最大限尊重を徹底しつつ、引き続き調査を継続するよう指導してまいりたい。



輸血用血液製剤でHBV(B型肝炎ウイルス)
感染が疑われた事例(6月30日報告)について


 経緯
 平成16年6月30日、日本赤十字社から輸血(人赤血球濃厚液)によるHBV感染の疑い事例で患者が死亡した症例の報告があった。

 事例
 60歳の男性。原疾患は胃ガン。本年3月2日〜10日の間に、貧血及び胃ガン手術のため輸血を計3回(人赤血球濃厚液2単位を4袋分)受ける。
 輸血前の2回の血液検査(昨年2月4日、2月24日)ではHBs抗原検査(B型肝炎ウイルスの検査)は陰性であったが、本年6月8日に実施したHBs抗原検査は陽性、肝機能検査(GOT、GPT)は大幅に上昇した数値を示す。
 患者は劇症肝炎で6月10日に死亡。

 状況
1)輸血された赤血球製剤について
 当該患者には、4人の供血者から採血された赤血球製剤を輸血。
 当該製剤に関わる血漿のうち、新鮮凍結血漿1袋(2単位、160mL)は既に出荷され、使用済み(投与された患者は輸血後約40日後、原疾患により死亡。輸血前のHBs抗原検査は陰性、輸血後検査は実施していない。)。残りは原料血漿で使用されないよう措置済み。
2)4人の供血者について
 4人の供血者は、その後献血していない(6月29日現在)。
3)個別NATの試験結果
 4人の供血時の保管検体について、個別NATを実施したところ、全て陰性であった。
4)輸血とHBV感染(劇症肝炎発症を含む。)との因果関係は不明。

 今後の対応(案)
1)本件におけるフォローについて
 4人の供血者の再献血時のフォロー
2)輸血医療の安全性確保対策等について
 輸血医療の安全性確保のための総合対策(別紙)を推進する。
 また、日赤に対して、核酸増幅検査の制度を向上、輸血用血液製剤に対する不活化工程の導入等を推進するよう指導する。
 供血時の保管検体の個別NAT陰性時等における供血者の調査の在り方について検討する。



輸血用血液製剤でHBV(B型肝炎ウイルス)感染が疑われた
事例(7月9日報告)について


 経緯
 平成16年7月9日夕方、日本赤十字社から輸血(人赤血球濃厚液、人血小板濃厚液及び新鮮凍結血漿)によるHBV感染の疑い事例で患者が死亡した症例の報告があった。

 事例
 2歳の男児。原疾患は急性リンパ性白血病。昨年9月16日〜本年7月5日の間に、輸血を計19回(人赤血球濃厚液1単位を10袋分、人血小板濃厚液10単位を8袋分及び新鮮凍結血漿2単位を1袋分)受ける。
 輸血前の血液検査(昨年9月16日)ではHBs抗原検査(B型肝炎ウイルスの検査)は陰性であったが、本年7月6日に実施したHBs抗原検査は陽性、肝機能検査(GOT、GPT)は大幅に上昇した数値を示す。また、7月6日に新鮮凍結血漿による血漿交換(2単位製剤(約160mL)を7本使用)を行っていた。
 患者は劇症肝炎による急性肝不全で7月7日に死亡。

 状況
(1)輸血された血液製剤について
 当該患者には、19人の供血者から採血された赤血球製剤、血小板製剤及び新鮮凍結血漿を輸血。
 当該製剤に関わる血漿は、人赤血球濃厚液2単位1本及び原料血漿19本。
 なお、赤血球製剤については、既に医療機関へ供給していたが、医療機関へは当該情報を提供済み。
(2)19人の供血者について
 19人の供血者のうち、7人の献血者がその後献血しており、検査は陰性であった。(8月4日現在)。
(3)供血者の個別NATの試験結果
 供血者19人の保管検体について、個別NATを実施したところ、全て陰性であった。
(4)患者の保管検体の個別NAT及びHBs抗原の試験結果
 医療機関に保管されていた患者検体のうち、12検体すべての個別NAT及び検査可能な6検体のHBs抗原検査はすべて陰性。

 検討課題
(1)7月7日検査のHBc抗体(+)について、IgM抗体が上昇していないので、HBVによるものとは考えにくい、及びHBVで劇症肝炎を発症する前にはウイルスDNAが上昇するが、この症例ではそれが見られないのでHBVは否定的との専門家の意見あり。
 また、7月6日のHBs抗原が低力価であったことや6月29日の患者検体の個別NAT及びHBs抗原検査が陰性であるということから、7月6日の反応が非特異的な反応であることやアーチファクトである可能性が高いとの専門家の意見あり。
(2)その他、7月6日の血漿交換により、個別NAT(−)となった可能性、6月24日個別NAT(−)であるが、短期間で劇症肝炎となるのか等の問題等を整理する必要がある。

 今後の対応
 19人の供血者のうち、その後献血に来ていない12人のフォローを行う。
 なお、患者の保管検体は微量であり、医療機関側の希望でHBs抗原検査を行った(すべて陰性)ことから、上記4課題確認のための「IgM抗体検査」、「HBV以外のウイルス検査」、「NAT」等の検査が困難な状況となっている。



輸血用血液製剤でHBV(B型肝炎ウイルス)
感染が疑われた事例(3月22日報告)について


 経緯
 平成16年3月22日及び30日、日本赤十字社から輸血(人血小板濃厚液及び人赤血球濃厚液)によるHBV感染の疑い事例の報告があった。

 事例
 70歳代の女性。原疾患は急性骨髄性白血病。昨年10月5日〜本年1月22日の間に、輸血を計18回(人血小板濃厚液10単位を11袋分並びに人赤血球濃厚液1単位を3袋分及び2単位を4袋分)受ける。
 輸血前の血液検査(昨年10月3日)ではHBs抗原及び抗体検査(B型肝炎ウイルスの検査)はいずれも陰性であったが、輸血後の本年3月19日に実施したHBs抗原検査は陽性、肝機能検査(GOT、GPT及びLDH)は高値を示す。
  患者は4月26日に死亡したことを確認済み。死因は現在調査中。

 状況
(1)輸血された血液製剤について
 当該患者には、37人の供血者から採血された血小板製剤及び赤血球製剤を輸血。
 当該製剤に関わる血漿のうち、4人分由来の5本が新鮮凍結血漿(FFP)として医療機関へ供給された(残りは原料血漿)。
(2)37人の供血者について
 37人の供血者のうち、23人の献血者がその後献血しており、検査は陰性であった。(8月3日現在)。
(3)供血者の個別NATの試験結果
 供血者37人の保管検体について、個別NATを実施したところ、全て陰性であった。
(4)患者の保管検体の個別NAT及びHBs抗原の試験結果
 本年3月19日(輸血後)の医療機関に保管されていた患者検体は個別NAT及びHBs抗原検査はいずれも陽性(輸血前は保管されていなかった)。
(5)輸血とHBV感染との関連
 現在のところ、輸血とHBV感染(当該事例の死亡原因を含む)の因果関係については不明。

 今後の対応(案)
(1)当該事例への対応
 医療機関へ供給した5本の新鮮凍結血漿に関して医療機関へ情報提供する。
 37人の供血者のうち、その後献血に来ていない14人のフォローを行う。
(2)血液の安全対策の推進
 「輸血医療の安全確保のための総合対策」を着実に実施する。



輸血用血液製剤でシュードモナス(緑膿菌)の感染が疑われた事例について


1.経緯等
 平成16年5月13日、日本赤十字社から輸血(人赤血球濃厚液)によるシュードモナス感染(緑膿菌感染)疑いの症例の報告があった。

2.事例
 20歳代の男性。原疾患は舌の悪性新生物。
 平成16年4月28日、輸血(人赤血球濃厚液2単位を2本)を実施。翌29日夜に39度台の発熱、血圧低下、ショックを生じ、エンドトキシンが高値であった。
 同月30日に2回採血を行い、1回目採血の検体の血液培養で緑膿菌を検出(2回目は陰性)。同年5月3日に敗血症にて死亡。

3.状況
 1)輸血された輸血用製剤について
当該患者には、2人の供血者から採血された赤血球製剤を輸血。
当該製剤に関わる血漿は新鮮凍結血漿(FFP)2単位2本(供給停止:検体検査に使用)、原料血漿2本(保管中)。
 2)検体検査の状況
日本赤十字社から輸血血液と同一採血番号の血漿について、6月4日には、無菌試験において菌が検出されなかったとの結果が報告された。

4.今後の対応
 1)輸血用血液製剤とシュードモナス感染(緑膿菌感染)の因果関係は、確認できなかった。
 2)今後、問診強化策や細菌を除去・不活化する方策の検討を進める。

【参考】
緑膿菌:
 口腔、表皮、尿路などに常在する菌で、健康なヒトには問題はないが、免疫の低下した患者などに感染を起こすと、敗血症や肺炎などを引き起こす。院内感染を起こす細菌で、一部の抗生剤に耐性を有するものもある。


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