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第3 「被保険者・受給者の範囲」について


 
 ○  本部会は、報告書冒頭で整理しているとおり、法施行後5年を目途とした介護保険制度見直しの論点として、(1)「基本理念を踏まえた施行状況の検証」、(2)「将来展望に基づく新たな課題への対応」及び(3)「制度創設時からの課題についての検討」の3つを掲げ、これまで、主に、(1)及び(2)について述べてきた。
 (3)の「制度創設時からの課題」も、そのいくつかについては既に対応すべき方向性を述べてきたが、ここでは、そうした課題の一つである「被保険者・受給者の範囲」について、論点を中心に整理することとする。


 ○  介護保険制度は、社会経済に広範な影響を与える制度であることから、1994年(平成6年)の制度設計の検討開始から2000年(平成12年)の施行までに、7年を要した。それでもなお、「走りながら考える」という言葉に象徴されるように、制度スタートの時点において、施行後引き続き検討すべきものとされた課題は少なくない。
 「被保険者・受給者の範囲」の問題は、その中で最大の課題であると言える。


1. これまでの経緯

(1)介護保険制度をめぐる議論

  (制度設計当初から大きな論点)
 ○  介護保険制度において「被保険者・受給者の範囲」をどうするかは、当初から大きな論点の一つであった。
 1994年(平成6年)12月の「高齢者介護・自立支援システム研究会報告書」では、「65歳以上の高齢者を被保険者かつ受給者とすることが基本と考えられる」とした上で、高齢者以外の障害者については「介護サービスを取り出して社会保険の対象とすることが適当かどうか、慎重な検討が必要」との考え方が示された。
 ○  その後、65歳以上とする意見や20歳以上とする意見などをめぐり様々な議論が行われる中で、1996年(平成8)4月に出された老人保健福祉審議会・最終報告では、
 (1)  「65歳以上の高齢者を被保険者とすることが適当である」とした上で、「20歳以上の者を被保険者、受給者とすべき」との意見などがあったことも附記され、また、
 (2)  65歳未満の若年者を被保険者・受給者とすることについては、今後の検討課題として位置づけ、その前年に策定された「障害者プラン」に基づくサービス整備の進展状況等も見極めた対応を行うべきではないかとの指摘がなされた。

(施行5年後の検討課題に)
 ○  さらに、この問題は与党内でも大きな争点となり、論議が重ねられた。その結果、最終的には「老化に伴う介護ニーズに応えること」を目的として、被保険者・受給者を「40歳以上の者」とする現行の枠組みがとりまとめられた。その理由としては、老化に伴う介護ニーズは高齢期のみならず中高年期にも生じ得ること、40歳以降になると一般に老親の介護が必要となり、家族の立場から介護保険による社会的支援という利益を受ける可能性が高まることがあげられた。
 そして、これと併せ、法施行後5年を目途として制度全般に関して検討を加え、必要な見直しを行うことを定めた介護保険法附則第2条において『被保険者及び保険給付を受けられる者の範囲』が検討項目の一つとして具体的に掲げられることとなった。

(2)障害者施策をめぐる動向

  (障害者施策における対応)
 ○  一方、障害者施策の観点からは、1996年(平成8年)6月の身体障害者福祉審議会の意見具申において、
(1)  「介護に対するニーズは、年齢や障害の原因を問わず、すべての国民が・・(中略)・・共通して必要なものであり、地域における要介護者の支援体制は、高齢者・若年者にかかわることなく整備していく必要がある」とした上で、
(2)  「しかしながら、障害者施策のうち、介護ニーズへの対応について介護保険制度に移行すること」については、「なお検討すべき 点も少なくなく、また、これらの点についての関係者の認識も必ずしも一致していない」ことから、さらに十分に議論を重ねていくべき課題であるとされた。

(介護保険制度の優先適用)
 ○  その後、介護保険法の制定にあわせ、身体障害者福祉法等の中に介護保険制度による給付と障害者福祉制度による給付との調整規定が設けられ、両者に共通するサービスについては、介護保険制度から給付されることとなった。これは、高齢障害者の介護サービスについては、介護サービスに関する一般制度である介護保険制度を優先して適用するという趣旨であった。
 例えば、身体障害者約350万人のうち約6割(約210万人)が65歳以上であるが、これらの高齢障害者の介護サービスは介護保険制度から給付され、重複するサービスは障害者福祉制度からは給付されない。その結果、高齢障害者の大半は介護保険制度のサービスを利用している状況にある。

 ○  ただし、介護保険制度にはない「ガイドヘルプ(外出支援)サービス」などの障害者福祉サービスを利用できるほか、全身性障害者については、介護保険制度の支給限度額を超えるサービス利用分について、引き続き障害者福祉制度から必要なサービスを提供できることとされている。

(支援費制度の導入)
 ○  障害者施策においては、2003年(平成15年)4月から支援費制度が導入された。
 支援費制度は、身体障害者及び知的障害者に対するサービスについて、それまでの「措置」制度を改め、利用者とサービス提供者間の「契約」によることとし、その費用を市町村が支給する制度である。サービス利用を「契約方式」とする点において介護保険制度と理念を共通にするものであるが、制度的には、財源はすべて公費(税)としていること、要介護認定やケアマネジメントが制度化されていないこと、利用者負担は応能負担であることなどの違いがある。

 ○  この支援費制度の施行に伴い、障害者の在宅サービスは急増し、初年度(平成15年度)の給付費は対前年度比で6割増となっている。こうした状況に対して、障害者の地域生活を支援する観点から評価する声がある一方で、財源不足をはじめ財政基盤をめぐる懸念が急速に高まっている。

(支援費サービスの利用者数)
 ○  ここで、支援費サービスの現状を見てみる。平成13年の全国調査によると、身体障害者(児)は、総数で約350万人(平成13年)、18歳以上65歳未満の者は約120万人である。また、知的障害者(児)は、総数で約46万人(平成12年調査)、18歳以上65歳未満の者は約21万人である。そのうち、支援費制度によるサービスを利用している者は、在宅・施設を合わせて約32万人(平成15年4月分、一部利用者の重複計上を含む)となっている。

(利用者別にみたサービス利用状況)
 ○  全国107市町村からの報告(平成16年1月サービス分)によると、18歳以上65歳未満の在宅の身体障害者のうち支援費サービスを利用している者は約6%(全国数で推計すると約7万人)であり、在宅サービス利用月額は平均10.7万円である。その分布状況を見ると、5万円未満の層(45.2%)や5〜10万円の層(20.6%)が多数を占めている。35万円を超える利用者は、全体の5.2%であるが、この層の利用者によって、費用総額の31.9%が使用されており、利用状況のばらつきが大きい。
 同報告で、18歳以上65歳未満の在宅の知的障害者の場合は、支援費サービスを利用している者は約55%(全国数で推計すると約10万人)、在宅サービスの利用月額は平均14.6万円である。その分布状況を見ると、15〜20万円の層(43.3%)や10〜15万円の層(20.4%)が多数を占めている。35万円を超える利用者は、全体の1.0%であり、この層の利用者によって、費用総額の3.2%が使用されている。

(地域格差が大きい「サービス基盤」と「サービス利用状況」)
 ○  市町村でのサービス基盤の整備状況(平成15年4月)について見ると、身体障害者に対するホームヘルプサービスを提供した市町村は73%、デイサービスでは36%、ショートステイでは27%である。知的障害者に対するサービスに関しては、ホームヘルプサービスでは47%、デイサービスでは26%、ショートステイでは45%となっている。このようにサービスを未だに提供していない市町村が多数存在しており、全国的にみて普遍的にサービスが提供されている状況にはない。
 また、人口当たりのホームヘルプサービスの利用者割合(平成15年4月)を都道府県単位で算出し最大と最小を比較すると、身体障害者ホームヘルプサービスで5.5倍、知的障害者ホームヘルプサービスで23.7倍となっており、サービス利用量の地域間格差も依然として大きい。

(精神障害者・障害児福祉サービスの課題、「制度の谷間」問題)
 ○  さらに、精神障害者は、介護保険制度のみならず、支援費制度の対象にもなっておらず、在宅サービスをはじめサービス基盤の整備は大幅に立ち遅れているのが実情である。
 また、18歳未満の障害児の場合も施設サービスは、支援費制度の対象とはなっていない。このように未だ制度的には、障害種別に基づく縦割りの取扱いが残っている状況がある。
 加えて、65歳未満の者の中には、要介護状態であるにもかかわらず、公的サービスを受けられないケースが存在する。例えば、高次脳機能障害や難病に伴う身体等の障害、成人期以降に発生した知能の障害を有する者については、障害福祉各法による「障害者」と認められず、福祉サービスの対象とならない場合がある。介護を必要とする理由や年齢の如何を問わず普遍的に介護サービスを提供する制度が存在しないことから、こうした「制度の谷間」の問題が生じている。

2. 問題の所在

(1)介護保険制度との関わりにおける問題

  (「対象年齢を引き下げるべきかどうか」が課題)
 ○  今回の制度見直しで問われている問題は、現行制度では40歳以上の者とされている「被保険者・受給者の対象年齢」を引き下げるべきかどうかである。
 この問題は、介護保険制度はもちろんのこと、障害者施策などの他の制度にも大きな影響を及ぼす。このため、それぞれの問題の所在と相互の関連性、さらには具体的な論点を十分に理解することが重要となる。

(「被保険者」と「受給者」は表裏の関係)
 ○  まず、「被保険者の問題」と「受給者の問題」の関連についてであるが、両者は厳密な意味では異なるものの、介護保険制度においては、被保険者としての「負担」と、受給者としての「給付」は連動することが基本となることから、実際上は表裏の関係にあると言える。
 例えば、仮に被保険者の対象年齢を引き下げるとするならば、負担のみ新たに求め、給付を行わないようでは、国民の理解が得られないことは明らかである。したがって、受給者の対象年齢も同様に引き下げることが求められることとなる。

(「老化に伴う介護ニーズ」という基本骨格の見直し)
 ○  また、被保険者・受給者の対象年齢の引下げは、「老化に伴う介護ニーズ」への対応という、制度の基本骨格の見直しにもつながるものである。
 現行制度では、「40歳から64歳の者」である第2号被保険者が給付を受けられるのは、「老化に伴う介護ニーズ」として15の特定疾病により介護が必要となった場合に限られている。このため、交通事故や高次脳機能障害などに伴い介護が必要となった場合には、介護保険制度によるサービスを利用できない状況にある。
 40歳未満への対象年齢の拡大は、こうした「介護の原因に関する制限」を見直すことにも連動する性格のものであると言える。

(「制度の支え手」としての意味)
 ○  さらに、保険財政や負担の面では、被保険者の範囲は保険料を負担する「制度の支え手」の在り方に関わっている。その対象年齢を引き下げることは、支え手を拡大することになり、財政的な安定性という面ではプラスに作用することを意味している。
 なお、保険料負担の趣旨という点では、現行の第1号保険料は「同世代支援」の面が強いものの、第2号保険料は、自らの老親をはじめとする高齢者世代を支える「世代間扶養」ということが中心となっており、仮に若年障害者へ適用するとするならば、「同世代間支援」の面が強くなってくると言えよう。

(2)障害者施策との関わりにおける問題

 
 ○  一方、障害者施策との関係で見た場合、被保険者・受給者の対象年齢の引下げの問題は、64歳以下の障害者の福祉制度の在り方に関わる問題でもある。この問題を制度面から検討する場合、以下のような点が論点としてあげられる。

(介護保険制度と障害者施策の適用関係)
 ○  前述のように、65歳以上の高齢障害者の場合、介護ニーズに関しては介護保険制度を優先して適用する仕組みが基本となっている。したがって、被保険者・受給者の対象年齢を引き下げるということは、制度論としては、64歳以下の若年障害者の介護ニーズについては介護保険制度を適用することを意味している。
 これは、両制度の基本的性格として、介護保険制度が「介護サービスに関する一般制度」であるのに対し、障害者福祉制度は介護ニーズに限らず、それ以外の就労支援等のニーズへの対応を含めた「広範なサービスを視野に入れた制度」であり、両者が重複する場合には前者がまず適用される関係となるからである。このことは、障害者施策と医療保険制度や年金制度との関係にも共通するものである。

(障害者のニーズへの対応)
 ○  ただし、上記のような適用関係になるとしても、介護保険制度の対象とならない障害者ニーズに対応する仕組みは当然に必要である。現に、高齢障害者においても、介護保険でカバーしていないニーズ(介護ニーズ及び介護以外のニーズ)に対しては障害者福祉制度からのサービス提供を行うという「両制度を組み合わせた仕組み」が実際に運用されている。
 したがって、こうした仕組みを基本とすると、若年障害者が介護以外の就労支援、社会参加支援等のサービスを利用できるようにするための方策や、長時間の介護を必要とし介護保険制度の支給限度額内では十分対応できないような重度のケースに対する対応方策の在り方が具体的な論点となってくる。

(介護サービスの論点)
 ○  介護サービスの在り方に関しては、前述したとおり介護保険制度が今後目指す基本方向は、地域で高齢者が生活を継続できるような「地域ケア」であり、このことは障害者福祉サービスにも共通するものであると考えられる。住み慣れた地域での小規模多機能型のサービス提供を目指す基本方向において、両者の共通性はますます高まるものと考えられる。

 ○  その上で、障害者の特性に対応した介護サービスの内容やケアマネジメントの在り方などが具体的な論点となってくると考えられる。特にケアマネジメントについては、介護サービスと介護以外の就労支援等の障害者に必要なサービスをいかに地域で一体的に提供できるようにするのかといった点について、十分な検討が必要である。現時点では障害者のケアマネジメントは制度化されておらず、実績が必ずしも十分でないことから、早急な検討が望まれる。
 また、例えば、障害者福祉サービスの中には、授産施設のように、介護と就労支援の双方のニーズに対応するサービスがあり、こうしたサービスが地域において十分に展開され活用されるよう、給付メニュー等についてきめ細かく検討する必要がある。
 さらに、知的障害者や精神障害者等について、現行の要介護認定によって介護の必要性を適切にとらえることができるかどうか検証し、その結果を踏まえた検討を行う必要がある。

3. 本部会における審議

 
 ○  本部会においては、以上述べたような基本的な認識に基づき、「被保険者・受給者の対象年齢を引き下げる」ことについて審議を行ったが、これについては、以下のとおり積極的な考え方と慎重な考え方が出された。
 この問題は、国民負担に関わる重要事項であることから、制度の運営主体である市町村はもとより、国民各層の十分な理解と合意を得ながら議論を進めていくことが求められる。したがって、今後広く関心と議論を喚起する趣旨から、これまでの本部会において出された考え方・論点を以下のとおり紹介することとする。

(1)積極的な考え方

  (「介護ニーズの普遍性」の観点から)
 ○  そもそも介護ニーズは高齢者に特有のものではなく、年齢や原因に関係なく生じうるものである。そうした「介護ニーズの普遍性」を考えれば、65歳や40歳といった年齢で制度を区分する合理性や必然性は見出し難い。
 したがって、現行制度のように対象を「老化に伴う介護ニーズ」に限定する考え方を改め、介護を必要とするすべての人が、年齢や原因、障害種別の如何や障害者手帳の有無を問わず、公平に介護サービスを利用できるような「普遍的な制度」への発展を目指すべきである。
 これにより、対象者の「制限」をなくし、全国民が連帯して全国民の介護問題を支える仕組みが実現され、国民の安心を支えるセーフティネットとしての役割を更に増すことになる。

 ○  ドイツ、オランダ、イギリス、スウェーデン等の欧米諸国においても、社会保険方式と税方式の違いはあるものの、年齢や原因などによって介護制度を区分する仕組みとはなっていない。ドイツとオランダについては、社会保険方式を採用しているが、どちらも、0歳児を含め、全年齢を対象として介護サービスの保険給付を行っている。こうしたことから見ても、「普遍的な制度」への発展は、社会保障システムとして当然の方向であると言える。

(「地域ケアの展開」の観点から)
 ○  介護保険制度が目指す方向は、前述したとおり、地域で高齢者が生活を継続できるような「地域ケア」である。住み慣れた地域での小規模・多機能型のサービス提供を目指すのならば、年齢や障害種別によって、サービスが分断されることはあってはならない。
 現状でも、様々な地域で制度の縦割りを超えた動きが拡がっている。例えば、高齢者デイサービス施設で知的障害者へのサービスが提供されているところでは、知的障害者が高齢者を自然に支える場面が出てきているなどの報告がなされている。こうした現場レベルの取組に応え、制度面でも年齢や障害種別を超えたサービスが「地域」において提供できるような仕組みに切り換えるべきである。

 ○  また、介護保険制度では、全国の市町村が3年おきに5年間を計画期間とする事業計画を策定し、サービス量の見込みやその確保策を定めることとなっている。こうした過程を通じて、障害者介護サービスに対する市町村の主体的な関与が強まり、実際のサービス供給を伴った「中身のある地域ケア」の進展が期待される。

(「介護保険財政の安定化」の観点から)
 ○  介護保険財政の面では、前述したように、被保険者の対象年齢の引下げは介護保険制度の支え手を拡大し、財政的な安定性を向上させる効果があると言える。
 介護保険財政については、短期的な対応は別としても、長期的には、制度の支え手を拡大し財政安定化の対策を講じることを真剣に検討すべきである。そうすることにより、制度の「持続可能性」を高め、今後高齢化が急速に進展する時期を乗り越えていくことが可能となるものと考えられる。

(「障害者施策の推進」の観点から)
 ○  一方、障害者施策との関係では、短期的には、支援費制度の下で予算不足が懸念される障害者福祉サービスについて、安定的な財源が確保され、将来的にもサービス基盤の計画的な整備が進むことが確保されることとなる。前述したとおり、介護保険制度の導入により、規制緩和の流れの中で事業者の新規参入が促進され、サービスの利用者や利用量が増え、地域や個人によるサービス利用の格差が縮小した。障害者の介護においても、こうした効果によって、地域におけるサービス利用環境が改善され、サービスの均てん化・平準化が進むと考えられる。
 さらに長期的には、障害者に対するサービスが、社会連帯を理念とする介護保険制度の対象となり、そのために国民が保険料を支払うようになることは、障害者福祉を国民がより身近な問題として受け止める契機になるものと期待される。

(2)慎重な考え方

  (「保険システムに馴染むのか疑問」との観点から)
 ○  障害者施策は、公の責任として、全額公費(税)による実施を基本とすべきである。
 また、高齢者の場合と異なり、若年者が障害者となる確率は低く、しかも、障害の原因が出生時やそれより前であることも多い。このような観点から見て、40歳未満の若年者まで被保険者・受給者の対象年齢を引き下げることは、介護保険制度という保険システムには基本的に馴染まないと考えられる。

 ○  現行の第2号被保険者範囲の設定は、家族による介護負担の軽減効果があるのは主に中高年層であるなどの点から、保険料負担を求めることについて一定の納得感があり、被保険者範囲の拡大については慎重であるべきと考える。

 ○  介護保険制度は市町村を保険者として給付と負担のバランスの上に地域ケアを目指すという考え方に基づいているが、若年の障害者等を制度の対象とすることは、こうした考え方に基づく介護保険制度に馴染まないと考えられる。

(「保険料負担の増大」の観点から)
 ○  若年者にとっては、新たな負担が課されることとなる。これにより、介護保険料や国民健康保険料の未納や滞納が増えるおそれもある。さらに、これまで税でまかなわれてきた福祉サービスを保険方式に切り換えることは、負担を安易に企業へ転嫁するものである。
 さらに、介護保険制度の安定的な運営を確保する観点からは、障害者福祉サービスについて、財政的な観点から適切な費用管理が可能となるのかどうか懸念がある。仮に支援費制度のように、支給限度額などの仕組みがないままに、介護保険制度へ組み入れていくこととなれば、介護保険本体にも大きな混乱を招くおそれがあると言わざるを得ない。

(「現行サービス水準の低下不安」の観点から)
 ○  現に支援費サービスを利用している障害者にとって、介護保険制度の要介護認定や支給限度額の仕組みが適用されることにより、利用できるサービス量が減るおそれがある。また、現行の支援費制度では応能負担だが、それが介護保険制度での応益負担に変わることにより、自己負担額が増加するおそれがある。

 ○  若年障害者は、社会経済活動をはじめ様々な経験を重ねるべきライフステージにあることから、高齢者と比べた場合、同じ介護サービスであっても、具体的なメニューの内容や利用者への接し方などが異なるべきである場合も多いと考えられる。こうした配慮が高齢者と同じ制度の下で担保できるのか疑問である。

(「時期尚早である」との観点から)
 ○  支援費制度の導入からまだ1年余であり、まず障害者の給付が増加した原因の分析など支援費制度の検証等を行い、これを踏まえた制度の効率化や給付の公平化等の改善策の検討が優先されるべきである。
 また、仮に障害者福祉サービスを介護保険制度に位置づけるとすれば、その具体的なサービス内容の整理や要介護認定の検証と必要な見直し、さらには障害者の特性を踏まえたケアマネジメント体制の確立等に時間を要することは必至である。高齢者の場合と比べ、障害者福祉サービスの基盤や人材確保など受け皿の準備が十分でないことから見ても、現状では時期尚早と考えられる。

(3)今後の検討の進め方について

 
 ○  以上のように、本部会では「被保険者・受給者の範囲」の問題について、現時点では、一定の結論を得るには至らなかった。
 本部会における審議に関しては、「この問題については必ずしも十分な時間をかけて議論をしていない」、「今後の方向性を見極めるためには、より具体的な検討が必要である」等の意見が出された。この問題については、介護保険法附則において、検討が求められている事項でもあり、国民的な論議をさらに深める観点から、今後、本部会において引き続き議論を積み重ねていくこととする。


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