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資料 No.2

過重労働・メンタルヘルス対策検討会 議論のまとめ(案)


1 労働者の健康に関する現状と課題
(1)労働者を取り巻く状況
経済の成熟化に伴う成長率の低下、経済のサービス化やホワイトカラー化の進展等の構造変化が進展している。
企業間競争の激化、成果主義の拡大等により労働者への負荷は拡大する方向にある。職場や仕事に関して悩み、ストレス等を感じる労働者は6割以上である。
一般健康診断の結果5割近い労働者に何らかの所見が見られ、中でも高脂血症、高血圧症等の生活習慣病に関連する所見を有する者が多い。
「過労死」の労災認定件数は年百数十名と高水準で推移しており、精神障害等の労災認定件数は増加している。
過労死等に係る事業者の安全配慮義務については、判例が積み重ねられている。
このような状況の下、労働者の健康確保対策の充実が求められている。
(2)過重労働による健康障害に関する現状と課題
所定外労働時間が近年横ばいから若干増加の傾向にある。現在の医学的知見において月100時間〔または2〜6か月の平均で80時間〕を超える時間外労働に継続して従事した場合には業務と脳心臓疾患発症との関連性が強いものと考えられている。
「過労死」等の労災認定事案を見ると、健康診断を受診していない事例などが見受けられる一方で、定期健康診断では異常が認められないにもかかわらず健康状態が悪化して脳心臓疾患の発症に至った事例も数多く認められるなど、従来からの健康管理手法のみでは十分な対応が困難と考えられる。
総合対策に基づく過重労働対策を実施している事業場では、労働時間削減等一定の対策効果が認められるが、こうした対策を実施していない事業場も少なくない。過重労働による健康障害を防止するためには、全ての事業場で適切な健康障害防止措置が講じられるよう必要な施策を検討する必要がある。
以上のようなことから、過労死等の防止のため取組みの強化の必要性がある。
(3)職場における心の健康に関する現状と課題
精神障害等に関する労災認定事案は近年増加している。
精神障害による自殺の労災認定事案における労働時間を見ると長時間となっているケースが多い。
事業所における過重労働対策の調査結果を見ると、過重労働者の医療機関への紹介状況において抑うつ状態の者が過半数を占めていた。
精神障害による自殺の労災認定事案のうち、4分の3が発病から死亡までに2ヶ月以上の期間があるため、この間に介入の可能性があると考えられる。また、自殺企図患者における自殺企図の兆候について、職場で気付いたものはほとんどいないのに対し、家族が気付いているケースは少なくない
心の健康づくりへの取組みを実施している事業場は23.5%と未だ低い状況にある。
以上のようなことから、自殺予防を含めメンタルヘルス対策の取組みの強化の必要性がある。

2 基本的考え方
(1)対策の方向
過重労働については、総合対策の確実な実施、特に適正な労働時間管理を図るとともに、健康診断を軸として健康管理を進めることが基本であるが、やむを得ず長時間労働になった場合にはそれに応じた健康確保のための措置を講ずる必要がある。
メンタルヘルスについては、4つのケアにより心の健康づくりを進めることが基本であるが、自殺予防の観点からメンタルヘルス不全に早期に対応できるようにする必要がある。
過重労働による健康障害、メンタルヘルス不全については、いわゆる作業関連疾患に分類されるものであり、業務上の要因のほか個人の要因がその発症に影響するものであることから、有害物質による健康障害の防止対策のように、一律に対応することが困難な面がある。
(2)事業者の責務
過労死等の判例に見られるように、一般的に、事業者には労働時間管理や労働者の健康状況を把握し、それに応じた適切な措置を講ずる責務があり、実行する意志を表明し、実行する義務がある。
事業者は、健康診断結果、産業医による職場巡視、時間外労働時間の状況等様々な情報から労働者の心身の健康状況及び職場の状況を把握し、それに応じて職場環境の改善、積極的な健康づくり、労働時間を含む適切な作業管理等様々な措置を展開することが必要である。
 職場のリスク低減を図ることにより、過労死等の労災の防止はもちろん、心と身体の健康の保持増進、いきいきとした職場づくりが進む。これにより、労働者の労働意欲が高まることが期待できる。
(3)労使による自主的な取組み
過重労働対策、メンタルヘルス対策については、国が一定の基準を示し、それに沿った措置を実施するばかりでなく、労使一体となった取組みが必要であり、特に衛生委員会等を活用した労使の自主的取組みが重要である。
(4)労働者自身による取組み
労働者自身が積極的に自己の健康管理を行うことも大切であり、労働者自身の自主的努力、取り組みを促進することも重要である。
(5)産業医等の関与
過重労働対策、メンタルヘルス対策については、医学的知識を基礎とした健康管理が対策の軸となるものであり、産業医等の医師の適切な関与が重要である。このため、関係者の教育等により産業保健活動の充実を図ることが必要である。
業種や事業場規模に関係なく全ての事業場において対策を講ずることが求められる。産業医の選任義務のない小規模事業場への産業保健サービスの提供のため、地域産業保健センターが設置されているが、対策の適切な実施のために、この充実を図ることが必要である。
(6)健康情報の保護
事業場において対策を実施する場合、個人の健康情報の保護について十分な配慮が必要である。特にメンタルヘルス対策で肝要である。

3 取り組むべき対策の方向
(1)過重労働による健康障害防止対策の在り方
 健康診断の実施とその結果に基づく適切な事後措置
引き続き、現行法令に基づく措置の適切な実施の促進が必要である。
今後、事後措置等のより適切な実施のため、有効な判断基準、マニュアル等の検討、普及が必要である。
 疲労の蓄積によるリスクが高まった場合の面接指導
過重な労働により疲労が蓄積しているときには、脳・心臓疾患の発症のリスクが高まることから、医師による面接指導を行うことを原則とするべきである。
医師による面接指導が必要な場合としては、脳・心臓疾患発症との関連性が強いとされる月100時間以上の時間外労働をやむなく行った場合等が考えられる。
上記の場合以外であっても、基礎疾患を有する等一定程度以上のリスクを持っている労働者の他、労働者自身が健康に不安を感じたときや周囲の者が異常を疑ったとき等産業医等が必要と認めた場合には医師による面接指導を実施することが必要である。これには企業の実施体制、労働者の意見等も考慮する必要があることから、企業において、衛生委員会の意見を聴き、自主的な基準により制度化していくことが適当である。
医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて労働時間の制限や休養・療養等の適切な措置を実施する必要がある。
なお、ハイリスクグループの効果的な管理という観点から、医師による面接指導は、労働者の健康診断結果、作業内容等の要素を勘案し、医師の判断により毎月連続して面接指導を行わなくともよい場合もあると考えられる。  ・長期出張中の労働者、管理監督者、裁量労働者など一般の労働者とは労働時間管理が異なる者についても原則として一般の労働者に準じた措置を実施する必要がある。
 事業場における労使の自主的な取組み
対策としては、時間外労働の削減等による過重な負荷の排除が基本であり、労働基準法令の遵守のほか、時間外労働、交替制勤務、深夜勤務等の負荷要因の把握と改善に向けて労使が協力して自主的な取組みを行うことが期待されるところである。
この検討の場として衛生委員会が有効である。衛生委員会等で有効な議論が行われるためには、時間外労働時間の実態等の情報が提供されることが必要である。
また、産業医等が現場の状況に応じて適切な助言ができるよう、時間外労働時間等の情報が産業医等産業保健スタッフに適切かつ迅速に提供される必要がある。
 労働者自身の取組みの促進
労働者自身も自らの健康管理に対して自覚と自助努力が必要である。
労働者自らが可能な業務の管理、健康的な生活習慣等に関して教育、情報提供等を事業者から行い、かつ自らも研鑽することが必要である。
(2)メンタルヘルス対策の在り方
 計画の策定
職場の改善等を含め、メンタルヘルス対策が計画的、継続的に行われるよう、事業場において、衛生委員会等で審議の上、計画が策定されることが重要である。
 健康づくり・快適職場づくりの取組み
これまでも労働安全衛生法第69条に基づく心身両面の健康保持増進対策(THP)が進められており、この中でメンタルヘルスケアの取組みも行われてきた。また、労働安全衛生法第71条の2に基づく快適職場づくりについても、「仕事による疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場づくり」を目指した取り組みが行われている。THPは積極的な健康づくりを、また、快適職場づくりも働きやすい職場づくりを主眼としたものであり、うつ状態への介入等までを視野に入れたものではないが、健康づくり運動や快適職場づくりを通じたメンタルヘルス対策という面で一定の効果があるものと考えられる。
 職場のストレスの把握と改善
職場のストレスの要因を把握し、それを改善していくことで、労働者への心と身体の両面での負担を軽減することが可能である。
職場のストレスの要因、影響は様々であり、事業場での自主的な取組みとして進めることが適当である。
個人レベルでの対応として、健康診断時等に個人のストレスの状況を把握し、それに対応した必要な措置を講じることも重要と考えられるが、その際、心の健康問題を抱える労働者に対する健康問題以外の観点からの評価が行われる可能性、プライバシー保護の重要性等を考慮する必要がある。
その際、チェックリスト等による形式的な点数評価にならないよう産業保健スタッフによる評価や事後措置を適切に実施できる体制にあること等が前提となる。
職場単位での問題点の把握、改善といった集団的アプローチには効果が期待できる。
ストレスの大きいと考えられる職場には、健康管理部門から問題提起していくことも必要である。
 個人のストレス対処力の向上
個人がストレスに適切に対処できるようにするために、教育、情報提供等によりストレスへの気付き、ストレスの予防・軽減・対処の方法、事業場内外の相談対応体制等について知識を付与することが必要である。
このような教育については、健康づくりの中での健康教育の一環として行うことも考えられる。
上記の教育、情報提供等は繰り返し行われることが必要である。
 メンタルヘルス不全に早期に対応する方策
(ア)セルフチェックの実施
労働者のストレスの気付きのために、随時セルフチェックができる機会の提供が有効である。
(イ)長時間労働者等に対する医師等による面接指導
精神障害による自殺の労災認定事案における労働時間を見ると、長時間となっているケースが多くなっており、また、事業所における過重労働対策の調査結果を見ると、過重労働者の医療機関への紹介状況において抑うつ状態の者が過半数を占めていた。時間外労働時間の長い者はメンタルヘルス面のチェックの機会が必要であり、(1)イの長時間労働者を対象とした医師による面接指導において、メンタルヘルス面にも留意して行うことが有効と考えられる。
医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて適切な措置を実施する必要がある。
本人又は家族がメンタルヘルス不全を疑った場合、所属している事業場内の者に訴えることは抵抗があることも多いことから、自ら外部の医師の面接指導を受け、その結果を事業者に提出することができる仕組みをつくる必要がある。また、この場合、事業者は事業場内の産業医により面接指導を実施した場合と同様に産業医の意見を聞いた上で適切な措置を講じることが適当である。
(ウ)介入が可能となる仕組みづくり
自殺等の最悪の事態を避けるために、深刻な状況においては専門家による介入が可能となる仕組みづくりが必要である。
介入のきっかけとして、上司・同僚による気付きのほか家族による気付きも重要である。
周囲の者の不適当な判断による情報提供等もあり得ることから、衛生委員会等における労使を含めた場で、プライバシー保護に十分に留意した仕組みづくりを検討することがきわめて重要である。
(エ)相談体制の整備
労働者が自らの心の健康に不安を感じたとき、他者に知られることなく、随時、職場の内外の専門家に相談できる体制の整備が重要である。
このため、企業内での体制整備のほか、公的機関を含め外部機関の利用も考慮する必要がある。
(オ)管理監督者に対する教育
現場において日常的に労働者の指揮・管理を行うのは管理監督者であり、労働者のメンタルヘルスケアについて、管理監督者の配慮等が重要であることから、管理監督者に教育、情報提供等によりメンタルヘルスについて知識を付与することが不可欠である。
(カ)職場復帰
メンタルヘルス不全により休業していた労働者の職場復帰について、当該労働者が円滑に職場に復帰するとともに、再発を防止するため、職場における支援、配慮等が必要である。
その際、治療に当たっている主治医との十分な連携が欠かせないが、事業者は産業医に、主治医と相談しつつ本人への就労上の配慮や職場内における様々な支援について具体的な指示や調整を行わせることが必要である。
産業医が選任されていない場合は、地域産業保健センターから紹介を受ける等により専門家からの指導援助を受けるべきである。
(3)体制の整備
 事業場内の体制整備
 医学的知識を基礎とした健康管理がこれら対策の軸となるものであり、産業医等の医師の適切な関与がポイントとなる。また、そのために十分な能力を備える必要がある。
 なお、メンタルヘルス対策については、必要に応じて、精神科医が労働者や事業者に対し助言指導を行う体制を整備することも望まれる。
対策を効果的に進めるためには、産業保健スタッフと人事労務部門との連携が不可欠であり、必要な情報の共有、相互に協力した措置の実施等を進める必要がある。
メンタルヘルス対策に関しては、事業場外の機関を含めたネットワークを作り、産業医に情報が集まるようにし、産業医が指導的に取組む体制が不可欠である。
過重労働対策、メンタルヘルス対策は、労働者自身の意識、個性に関わる部分も少なくなく、対策を事業場において効果的に実施するためには、労働者の意見が反映されるよう衛生委員会の場を活用することが重要である。
衛生管理者、衛生推進者、保健師といった産業保健スタッフの活用も(特に専属産業医を選任していない事業場で)重要である。
産業医等の産業保健スタッフにより、過重労働対策、メンタルヘルス対策を始めとした健康管理対策がより適切に行われるよう、体制の整備、スタッフの資質の向上、情報提供の充実等が不可欠である。
 事業場外の機関の活用
産業医がメンタルヘルスに関する知識が不十分な場合もあり、産業医等に対する教育、専門医のサポート体制、ネットワーク作りが重要である。
事業場外の機関(EAP)の活用も効果的である。利用に当たっては、実効あるものとなるよう留意が必要である。
事業場が抱える問題に応じた事業場外の機関の活用が必要である。例えば、アルコール依存症であれば保健所や断酒会、精神障害であれば保健所や精神保健福祉センターが考えられる。
産業医の選任義務のない小規模事業場においては、「会社のかかりつけ医」といった医師を事業場外に持つことも考えられる。
 行政の支援措置
過重労働対策、メンタルヘルス対策に係る事業場、労働者に対する周知啓発、具体的な実施手法の検討・提示、事例の紹介、関係情報の提供等の支援が必要である。また、小規模事業場に対しては、具体的手法を提示する必要がある。
産業医に対して、面接指導の方法、メンタルヘルスに関する知識等を内容とする専門研修を実施する必要がある。
事業場内での教育研修の実施、事業場での対策立案等を担当する産業保健スタッフ等の育成が必要である。
産業医の選任義務のない小規模事業場での対策の実施の支援のため、地域産業保健センターの充実を図ることが必要である。


(別紙)

過重労働・メンタルヘルス対策検討会 議論のまとめ(案)目次


 労働者の健康に関する現状と課題
(1)労働者の健康に関する状況
(2)過重労働による健康障害に関する現状と課題
(3)職場における心の健康に関する現状と課題
 基本的考え方
(1)対策の方向
(2)事業者の責務
(3)労使による自主的な取組み
(4)労働者自身による取組み
(5)産業医等の関与
(6)健康情報の保護
 取り組むべき対策の方向
(1)過重労働による健康障害防止対策の在り方
 健康診断の実施とその結果に基づく適切な事後措置
 疲労の蓄積によるリスクが高まった場合の面接指導
 事業場における労使の自主的な取組み
 労働者自身の取組みの促進
(2)メンタルヘルス対策の在り方
 計画の策定
 健康づくり・快適職場づくりの取組み
 職場のストレスの把握と改善
 個人のストレス対処力の向上
 メンタルヘルス不全に早期に対応する方策
(ア)セルフチェックの実施
(イ)長時間労働者に対する医師等による面接指導
(ウ)介入が可能となる仕組みづくり
(エ)相談体制の整備
(オ)管理監督者に対する教育
(カ)職場復帰
(3)体制の整備
 事業場内の体制整備
 事業場外の機関の活用
 行政の支援措置


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