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輸血医療の安全性確保のための総合対策
報告書
(案)




平成16年7月


厚生労働省



 はじめに

 基本的考え方

 健康な献血者の確保の推進

 検査目的献血の防止

 血液製剤に係る検査・製造体制等の充実別紙参照)

 医療現場における適正使用等の推進

 輸血後感染症対策等の推進

 おわりに



 はじめに

 我が国は、過去において、血液凝固因子製剤によるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染問題という深甚な苦難を経験しており、これを教訓として、今後、健康被害が生じないよう血液製剤の安全性を向上するための施策を進めることが必要である。

 これまで、輸血医療の安全性確保のため、日本赤十字社をはじめ厚生労働省の担当部局が中心となり、その時々の最新のスクリーニング検査技術を取り入れるなど種々の方策を進めてきた。

 しかし、核酸増幅検査(以下、「NAT」という。)等の最新の検査技術を導入しても、感染初期のウインドウ・ピリオドの存在等から見て感染性ウイルスをすべて検出して排除することは不可能である。実際に平成15年6月には、B型肝炎ウイルスに感染していた供血者の血液がNAT等の各種検査で検出できずに輸血され、その受血者(患者)がB型肝炎に感染した可能性のあることが判明した。
 これを受けて、日本赤十字社は、厚生労働省の指導に基づき、供血血液でウイルス検査陽性が判明した場合は、過去に供血された血液を遡って調査(以下、遡及調査という。)し、関連する血液製剤の回収を行うとともに、既に受血者に提供されていた場合には受血者の健康状態を徹底して確認することとした。
 このように遡及調査を徹底したところ、同年12月にはHIVについても、NATで検出できずに輸血され、受血者がHIVに感染していた事例があることが判明した。この事例により、輸血用血液製剤の安全対策上の問題点が明らかになるとともに、血液事業に対する国民の不安が生じたところである。

 このような状況の下、輸血用血液製剤の検査・製造体制を充実させるのみでなく、献血時における安全な血液の確保の推進や適正使用の推進等を総合的に実施し、より安全・安心な輸血医療が行われるようにするため、「輸血医療の安全性確保のための総合対策」をとりまとめたものである。
 今後、これらの対策を速やかに実施し、国民から信頼される安心・安全な輸血医療が行われるよう努めるものとする。


  基本的考え方

 受血者(患者)に健康被害が起きないよう、万全の安全対策を講じる必要があることから、まずは献血血液へのウイルス等が混入する頻度を低減するために、献血者対策として、健康な献血者の確保を推進するとともに、感染直後のウインドウ・ピリオドにある可能性のある者が自らの感染を確認する目的で行う検査目的献血の防止を徹底する必要がある。
 また、日本赤十字社が輸血用血液製剤の安全性を向上するために推進する8項目に係る安全対策や組織改革の着実な実施など、これまで行ってきた血液製剤の検査・製造体制等の強化も図る必要がある。
 一方、安全対策の一環として、献血によるリスクの存在を医療関係者や患者等が正しく認識し、真に必要な場合にのみ輸血を行うことを徹底するよう血液製剤に係る適正使用の推進を強化することも肝要である。
 そして、万が一、輸血による感染症等が発生した場合は、受血者(患者)に対して適切な対応を図るとともに、被害を最小限に食い止めるよう、輸血後感染症対策等を推進する必要がある。

 これら血液製剤に関する種々の取組を一層推進するとともに、関係部局等にまたがる新たな方策を検討・推進するため、関係部局等が協力して、横断的に取り組むための総合的な対策を推進するものである。

 このような考え方に基づき、輸血医療等に係る各種対策を目的別に5つの項目に分類するとともに、各々の目的を推進するための方策を以下にあわせて示す。
 なお、「※」は特に早急な対応が必要と思われる項目である。

 今後、これらの対策の進捗状況や成果等については、薬事・食品衛生審議会血液事業部会及び同運営委員会に定期的に報告し、その意見及び評価を受けることとする。

(1) 健康な献血者の確保の推進
【目的】
 献血者が、AIDSやウイルス肝炎等の感染症に罹患しないような社会環境の整備を関係機関等の連携の下、促進するとともに、健康な献血者の確保に努め、献血血液へのウイルス等の病原体(以下「病原体」という)が混入する頻度を軽減する。
【主要な方策】
 献血者に対する健康管理サービスの充実
 献血制度の仕組みについての普及啓発
 我が国における血液事業の現状に関する年報の発行
 少子高齢化への対応(継続的な献血制度の在り方を検討)
 複数回献血者の確保

(2) 検査目的献血の防止
【目的】
 検査目的献血は、その供血者が感染直後のウインドウ・ピリオドにある場合、病原体を含んだ血液が検査をすり抜けて受血者(患者)の健康被害につながるおそれがある。
 したがって、受血者(患者)に健康被害が生じないよう、感染直後のウインドウ・ピリオドにある可能性のある者が、検査目的で献血することを防止する必要がある。
【主要な方策】
 無料・匿名の検査体制の充実
 献血手帳のIT化推進
 採血時の問診を実施する医師の一層の資質向上

(3) 血液製剤の検査・製造体制等の充実
【目的】
 採血時における病原体の混入防止対策を充実するとともに、検査による排除や製造工程における不活化等の充実により、安全性を確保することに全力をあげる。
【主要な方策】
 日本赤十字社における8項目の安全対策の確実な実施
 non−エンべロープ・ウイルス等への安全対策

(4) 医療現場における適正使用等の推進
【目的】
 受血者(患者)にウイルス感染等の健康被害ができるだけ生じないようにするため、輸血によるリスクの存在を医療関係者や患者等が正しく認識し、真に必要な場合にのみ投与することを徹底できるよう、医療機関の体制整備等の充実を図る。
【主要な方策】
 医療機関における血液製剤の適正使用及び安全管理に必要な体制整備
 血液製剤の標準的使用量の調査
 適正使用ガイドラインの見直し(指針の具体化を含む)
 輸血療法委員会の設置推進及び、その具体的活動内容等に関するマネジメント・ガイドラインの策定

(5) 輸血後感染症対策等の推進
【目的】
 万が一、輸血による感染症等が発生した場合、早期に発見し早期治療に結びつけることにより、健康被害の発生を最小限にくい止める。
【主要な方策】
 感染事故発生時の迅速な情報収集と予防対策
 輸血前後における感染症マーカー検査の在り方の検討


3 健康な献血者の確保の推進

(1)献血者に対する健康管理サービスの充実
 ア  背景及び課題
 日本赤十字社は、献血した者が通知を希望する場合には、自宅等に肝機能検査、総コレステロール値等の検査結果を送付している。
 この結果は、献血の都度送付されることから、継続的な健康管理情報として有用性が高いと考えられる。医療機関は、これまでも、本人の同意のもと、日本赤十字社に対して検査結果を提供するよう依頼したケースもあるが、その手続きが煩雑なことから迅速かつ十分な対応ができていない。
 このような状況のもと、医療機関等が、検査結果を健康管理上有用な参考情報として活用できる体制の整備やそれを医療機関等へ十分周知することが必要である。

 イ  今後の方向性
 献血での検査結果を健康診査、人間ドック、職域検診等で活用するとともに、地域の保健指導にも用いることができるよう、(1)本人の同意の上、日本赤十字社が関係機関の求めに応じていつでも当該情報を提供できる体制を整備するほか、(2)関係部局は地方自治体(保健所、市町村保健センター等を含む)、医療機関等関係機関に対し、周知又は必要な指導を行う。
 また、事業者に対しては、献血での検査結果を労働者が持参した場合は健康管理に活用するよう周知する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 平成17年度中の実施に向けて、現在、献血での生化学検査等の結果を日本赤十字社から地方自治体、医療機関等関係機関へ円滑に提供する体制として、本人を介して、紙媒体のほか、献血者カードの電子化やフロッピーディスク等電子媒体を提供することなどによる手法を検討しているところである。
 これらの体制が整った時点で、関係部局から関係機関へ周知等を行う。
<関係部局等>
 日本赤十字社、健康局、老健局、労働基準局、社会保険庁、文部科学省、人事院

(2)献血制度の仕組みについての普及啓発
 ア  背景及び課題
 献血は輸血医療を必要とする者に対して提供者の意志がいかされる善意の行為であり、献血に協力するには健康が重要という認識を広く周知する必要がある。
 また、国内自給を目指す我が国において、平成15年には献血者数及び血液確保量ともに減少し、特に10代、20代といった若年層での減少及び成分献血での減少が著しい※1
 このような状況の下、今後とも、献血の趣旨や健康の重要性等を啓発するとともに、必要な血液量の確保を図るため、一層の普及啓発が求められる。

 イ  今後の方向性
 献血に関する国民の理解及び協力を得るため、これまでのパンフレット、ホームページ等によるPRの在り方を再評価し、効果的な手法を検討するとともに、各種啓発資材による教育及び啓発等を行う。なお、安全な血液を将来にわたって安定的に供給するためには、より幅広く、献血の意義(献血が命を助け合い、支え合っていること等)及び血液の使用実態に関して効果的に普及するための方策について検討することが望まれる。
 また、日本赤十字社においては、審議会等の意見も踏まえて献血に係る交通費の償還のあり方などについて検討する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 献血における健康の重要性を含めた献血キャンペーンのあり方を検討する。なお、本年4月、平成16年版の高校生向け副教材を全国の高校に配布。日本赤十字社の協力の下、関係団体は、今後、幼児や学童向けの絵本を作成する予定。
<関係部局等>
 日本赤十字社、医薬食品局、文部科学省他

(3)ボランティア活動としての献血の周知
 ア  背景及び課題
 献血がボランティアであることの認知度が低く、現にボランティア関連の雑誌等には献血に関する記載がないのが現状である。

 イ  今後の方向性
 ボランティア関係部局等が発行するパンフレット、ホームページ等において、献血活動を紹介してもらい、ボランティア活動としての認知度を高める。
 また、「血液製剤の安全性の向上及び安定供給の確保を図るための基本的な方針(平成15年5月厚生労働省告示)」に則り、「官公庁及び企業等が献血に対し積極的に協力を呼び掛けるとともに、献血のための休暇取得を容易にする等、進んで献血しやすい環境作りに努める」よう要請していく。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 関係するパンフレット等の更新時期に、献血に関する記載が盛込まれることとなった。また、平成16年度には日本赤十字社が献血可能年齢に満たない小中学生を対象とした施設見学や献血についての絵画展等を積極的に開催する予定である。
<関係部局等>
 日本赤十字社、労働基準局、職業能力開発局、社会・援護局

(4)血液事業に関する年報の発行
 ア  背景及び課題
 平成15年6月から日本赤十字社が実施してきた供血者からの遡及調査により、現行の検査では検出できない微量のウイルスを含む血液が血液製剤として用いられていることが明らかとなった。このことによる国民の不安解消の観点から、血液製剤の安全性に関する情報等を年報のような形で国民に提供するべきと血液事業部会で指摘された。

 イ  今後の方向性
 血液製剤の安全性及び供給状況に関する情報を「血液事業報告」(年報)として簡潔かつ網羅的にとりまとめ、冊子として配布し、また厚生労働省のホームページで公開する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 7月末日までに公開できるよう、現在、医薬食品局で原案を作成中。
<関係部局等>
 医薬食品局、日本赤十字社他

(5)少子高齢化を踏まえた採血基準の在り方の検討
 ア  背景及び課題
 我が国の採血基準※2は昭和31年以降順次改正されてきた。基準には、比重、血色素量、体重、血圧、採血量(年齢制限含む)、採血間隔等が設けられている。しかし、諸外国やWHOの基準と比較すると、我が国の採血基準は1回当たりの採血できる量が少なく(体重比)、採血間隔が長く設定されている※3
 一方、平成15年には血液確保量が減少し、特に若年層では急激に減少してきている※1ことを考えると、献血者の健康影響を十分考慮したうえで、今後の少子高齢化社会への対応を踏まえた対策が求められる。

 イ  今後の方向性
 採血基準の見直し(特に若年層での要件の見直し)を検討する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 平成13年度から15年度までの研究結果を踏まえ、16年度も研究班での検討を継続する。また、輸血学会等関係学会とも調整しながら、必要に応じて本年度中にも安全技術調査会で検討する。
<関係部局等>
 医薬食品局

(6)採血により献血者に生じた健康被害の救済の在り方の検討
 ア  背景及び課題
 採血により献血者に皮下出血等の健康被害が発生するのは100件に1件と言われている※4。多くは被害が発生した際に現場で対応可能であるが、中には、重篤なものや採血後時間を経過してから発現するもの等、医療機関での加療を要するものがある。こうした場合、採血時の過失による事故については採血所に所属する医師が加入している医師賠償責任保険により、治療費の補償が行われている。採血事業者に過失がなかった場合は、日本赤十字社の内規に基づき、見舞金が支払われているのが現状である※5

 イ  今後の方向性
 採血に伴い献血者に生じた健康被害の実態に係る情報を収集した上で、その救済のあり方について検討し、必要な措置を講ずる。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 平成16年度から医薬食品局において懇談会を立ち上げる予定としており、採血に伴い献血者に生じた健康被害の実態を把握するとともに、救済制度のあり方について検討を進める。
<関係部局等>
 医薬食品局、日本赤十字社

(7)複数回献血者の確保
 ア  背景及び課題
 複数回献血者は、初回献血者に比べて献血による感染性ウイルスのすり抜けの危険性を理解しているという報告もあり※911、安全な血液を国内で自給するためには、複数回献血者のより一層の確保が必要である。

 イ  今後の方向性
 複数回献血者の確保対策を推進するなど必要な対策を講じる。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 具体的には、平成17年度を目途に各血液センターに「複数回献血クラブ(仮称)」を設立して、以下のようなサービス等を受けることができることとする。
(ア) 特別な献血カードの授与
(イ) 献血アドバイザー(仮称)による健康相談
(ウ) 献血や健康関連情報の提供(情報誌の送付、講演会の開催)
(エ) E−mail、電話等による献血依頼(専用ホームページの立ち上げ)
<関係部局等>
 日本赤十字社、医薬食品局


4 検査目的献血の防止

(1)無料・匿名の検査体制の充実
 ア  背景及び課題
 我が国では、全献血者におけるHIV抗体検査陽性(NAT陽性を含む)率が年々増加していること(平成15年:1.5人(人口10万対))※6や、西欧諸国と比較して我が国の献血血液のHIV抗体陽性率がHIVの流行規模に比して高い※7といった独自の問題を抱えており、献血により感染の有無を確認しようとする者の存在も指摘されている。
 こういった状況を改善するためには、問診技術の向上やHIV検査体制の充実等が重要と言われている※8。特に、保健所等においては、HIV検査を無料・匿名で受けることができ、年々受検者は増加しているものの、検査可能な受診日時が限られ、地理的・時間的な利便性も必ずしも良いとは言えないことから、今後、より利便性に配慮した体制の充実が必要である。

 イ  今後の方向性
 HIVについては、保健所等を活用して迅速検査や土日や平日夜間も利用可能な無料・匿名の検査体制の充実を図る。
 また、検査目的の献血者については問診を強化することなどにより的確に検査目的か否かを把握するとともに、再度献血ルーム等へ来所しないよう、問診医等が無料・匿名で検査を受けられる利便性の高い医療機関、保健所等へ紹介する枠組みを構築する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 利便性等を考慮して、HIVの無料検査所の開設といったような検査体制の拡充を図ることについて、平成15年度から土日や平日夜間も無料検査所を開設している「東京都南新宿検査・相談室」以外に、本年度は名古屋、大阪でも同様の施設を開設するとともに、これらの状況を評価した上で順次拡大していく予定である。
 また、検査目的の献血者を対象にした新たな枠組みについては、平成17年度の実施を目指し、医薬食品局と日本赤十字社で検討中である。
<関係部局等>
 健康局、医薬食品局、日本赤十字社

(2)検査目的献血の危険性の周知
 ア  背景及び課題
 各種感染性ウイルスについては、ウインドウ・ピリオドが存在し、献血で提供された血液により感染する危険性がある。
 しかし、全献血者におけるHIV抗体検査陽性(NAT陽性を含む)率が年々増加していること※6、献血者の69%しかウインドウ・ピリオドの存在を知らなかったという報告があること※9を踏まえると、国民がこのことを広くかつ十分に認識しているとは言えない状況であると考えられる。

 イ  今後の方向性
 献血に関する啓発を行う際に、検査目的献血が善意の献血に反する行為であり、受血者(患者)に対して感染の危険性があることを併せて伝える。 国、地方自治体、日本赤十字社、(財)エイズ予防財団等の相互協力により、血液を介した感染症に関する知識の普及を図る。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 普及啓発資材において、検査目的の危険性を盛込んでいる。日本赤十字社、保健所等の相互協力については、両機関のパンフレット等の配備、献血推進協議会やエイズ対策推進協議会での参加交流などの具体的な連携方策等を健康局と医薬食品局で検討中である。
<関係部局等>
 医薬食品局、日本赤十字社、健康局他

(3)献血血液におけるHIV、HBV、HCV検査結果の取扱いの検討
 ア  背景及び課題
 現在、献血者が希望する場合は、HIVを除き、梅毒、HBV、HCV及びHTLV-1の検査結果を通知することとしている。HIVが通知対象から除かれているのは、検査目的献血者の増加防止が念頭にあるが、(1)増加防止の観点からは他の性行為感染症でも同様であり、HIVのみ特別視することが妥当か否かという議論があること、(2)HIV陽性と判明した者の健康影響や二次感染防止を無視できないこと、(3)諸外国では原則通知していること等の観点から、問診技術の向上や検査体制の整備とあわせて、検討していかなければいけない課題である。

 イ  今後の方向性
 梅毒、HBV、HCV、HIV、HTLV-1の検査結果を通知するか否かについて平成9年の「血液行政の在り方に関する懇談会報告書」の方針※10も踏まえて検討する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 本年度中に、安全技術調査会等において検討を開始する。
<関係部局等>
 医薬食品局、日本赤十字社

(4)献血者の本人確認の徹底
 ア  背景及び課題
 HIV検査陽性の献血者の中には、氏名、連絡先等を偽って告げるような者の存在も指摘されており※11、このような者を窓口の段階で受け付けないような体制の整備が必要である。

 イ  今後の方向性及び実施に向けた具体的取組状況
 本年3月から日本赤十字社が一部地域(札幌、東京、大阪)で試行的に本人確認を実施しており、結果を評価したうえで10月には全国展開を図る予定である。
 なお、本人確認に際しては、献血者に対し礼を失することのないよう配慮するとともに、地域や献血者層も考慮して柔軟に対応することが求められる。
<関係部局等>
 日本赤十字社

(5)献血者手帳のIT化の推進
 ア  背景及び課題
 昭和48年から紙ベースの献血手帳が使用されてきたが、情報の多様化、安定性、利便性等の観点からIT化の推進が求められる。

 イ  今後の方向性
 献血者手帳を磁気カード化し、ID機能を付与することによりセキュリティを向上させ、本人確認を確実かつ容易にするとともに、検査データの有効利用を図るための体制を整備する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 平成17年度の実施を目指し、医薬食品局と日本赤十字社で検討中である。
<関係部局等>
 日本赤十字社

(6)問診医の一層の資質向上(臨床研修必修化への対応を含む。)
 ア  背景及び課題
 我が国では、全献血者におけるHIV抗体検査陽性(NAT陽性を含む)率が年々増加していること(平成15年:1.5人(人口10万対))※6等を踏まえると、検査目的献血者を除外するための手法として問診技術の向上が必要である。また、問診技術については、諸外国と比較して不十分であることも指摘されており※8、これらを改善することが必要である。
 なお、臨床研修必修化に伴い、これまで問診医として協力してきた研修医の確保が難しくなるとの指摘もあり、この点の解消も求められる。

 イ  今後の方向性
(ア) 問診医の一層の資質向上に向けた取組を推進する。
(イ) 医師の卒後臨床研修での臨床研修協力施設に「血液センター」を明記したところであるが、今後、血液センターにおける臨床研修プログラムのための統一様式等を策定する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 問診医、担当看護師等の問診技術について質の向上を図るため、平成17年度を目指して、医薬食品局と日本赤十字社で諸外国の問診方法を参考に我が国独自のマニュアルを作成するとともに、全国の問診医等に対して研修・講習会を定期的に開催する方向で検討する。
 なお、各血液センターにおいて問診医の確保対策を検討する。
<関係部局等>
 日本赤十字社、医薬食品局


5 血液製剤に係る検査・製造体制等の充実別紙参照)

(1)日本赤十字社における安全対策(8項目)の確実な実施

(2)各種安全対策の推進のための日本赤十字社における血液事業の機能強化

(3)non-エンベロープ・ウイルス等への安全対策(不活化を除く)

(4)ヒューマンエラー予防対策


<関係部局等>
 日本赤十字社、輸血学会等関係学会他


6 医療現場における適正使用等の推進

(1)輸血医療を行う医療機関における適正使用及び安全管理に必要な体制整備の充実・促進についての検討
 ア  背景及び課題
 輸血医療を行う医療機関における適正使用及び安全管理については、血液製剤の安全性の向上及び国内自給を基本とする安定供給の確保の観点から、平成11年の「血液製剤の使用指針」及び「輸血療法の実施に関する指針」で示すとともに、平成15年7月に施行された「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」で「血液製剤の適正な使用に努める」ことを医療関係者の責務として明記している。
 これらの取組により、血液製剤の使用量は平成11年から年々減少しており、平成15年には血漿製剤で約2/3、アルブミン製剤で約3/4になっている。しかしながら、赤血球製剤及び血小板製剤は横ばい、免疫グロブリン製剤は平成15年度にはじめて減少に向かうなど、十分な効果がみられているとは言い切れない状況となっている※11213
 また、諸外国と比べると、新鮮凍結血漿等の血液製剤の使用量が約3倍の状況にとどまっており※14、さらなる縮減が可能と想定される。
 血液製剤の適正使用を推進することにより、輸血量は減少し、これによりウイルス感染等のリスクを減少させることができると考えられる。

 イ  今後の方向性
 平成15年12月の「厚生労働大臣医療事故対策緊急アピール」において、輸血医療を行う医療機関での責任医師及び輸血療法委員会の設置、特定機能病院等での輸血部門の設置により、輸血の管理強化を図ることとしており、その具体化など今後の取組方策については関係機関等と相談した上で必要な対策を推進する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 血液製剤の安全性の向上及び国内自給を基本とする安定供給の確保並びに医療安全の観点から、本年度中には、医政局、保険局及び医薬食品局が協力して輸血医療を行う医療機関に対して適正使用に関する指導を徹底するとともに、都道府県や各血液センター等を通じて効果的かつ効率的な先進事例(輸血医療アドバイザー制度など)を収集し、全国の都道府県、血液センター、医療機関等関係機関に広く周知する。
 また、各医科大学・医学部に対し、医学教育の中で適正使用の必要性に関する教育の充実を促すとともに、医師国家試験の出題基準にも次期改訂時の導入に向けて検討を行う。
 一方、既に(財)日本医療機能評価機構による病院機能評価の評価項目に「輸血血液部門の体制整備」及び「輸血用血液製剤の適切な供給」が取り上げられていることから、これらの受審機会を捉えての指導・徹底が肝要と考えられる。
<関係部局等>
 医薬食品局、医政局、保険局、文部科学省

(2)適正使用ガイドラインの見直し
 ア  背景及び課題
 昭和61年度に「新鮮凍結血漿・アルブミン・赤血球濃厚液の使用基準」が作成され、平成11年に改定されて以来、変更がなされていないことに加え、免疫グロブリン製剤などについて指針が作成されていない状況にある。

 イ  今後の方向性
 免疫グロブリン製剤などについて新たに適正使用指針を作成するほか、術中輸血、血小板輸血等の指針の見直し等最新の知見に基づいた変更を行う。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 平成15年から厚生労働科学研究費補助金「医療機関における血液製剤の適正使用の推進に関する研究」(主任研究者:清水勝)を継続中(平成17年度まで)であり、今後、関係学会とも調整しながら、適宜、適正使用調査会へ諮ることとする。
 なお、白血球除去に係るフィルターの使用に関しては、今後日本赤十字社が行う保存前白血球除去の実施状況にあわせて、順次改訂していくこととする。
<関係部局等>
 医薬食品局

(3)輸血医療に係るマネージメント・ガイドライン(仮称)の策定
 ア  背景及び課題
 輸血医療を行う医療機関が輸血療法委員会を設置している割合は決して高くはないが、特に使用量の多い医療機関の多くは輸血療法委員会を設置していると言われていることから※1516、これらの委員会の効果的かつ効率的な運用を促すことで適正使用に関して一定の効果が期待できると考える。

 イ  今後の方向性
 輸血医療を行う医療機関での適正使用を推進するため、院内の輸血療法委員会が継続的に機能を発揮するための「輸血医療に係るマネージメント・ガイドライン(仮称)」を策定し、輸血医療を行う医療機関に当該ガイドラインの活用を促す。
 なお、輸血療法委員会の機能には、輸血実施症例の検討が必須である。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 平成16年度から研究班(主任研究者:高橋孝喜)を設置して検討中である。原案作成後は関係学会と調整した上で適正使用調査会等へ諮り、関係機関へ通知する予定である。
<関係部局等>
 医薬食品局

(4)血液製剤の標準的使用等の調査と結果公表
 ア  背景及び課題
 我が国においては、平成11年に「血液製剤の使用指針」及び「輸血療法の実施に関する指針」が策定され、受血者個々人への投与量を推定する計算式等が明示されたが、患者の状態等により調整が必要であり、医療機関としての標準的な使用量は明らかとなっていない。また、当該医療機関の血液製剤の使用量が他医療機関と比較して過剰か否かすら比較できない状況であることなどが、輸血医療を行う医療機関での適正使用を推進するに当たっての一つの障壁となっている。

 イ  今後の方向性
 輸血医療を行う医療機関に対して、医療機関の特性に応じた血液製剤の「標準使用量」を提示し、当該医療機関が実際の使用量と「標準使用量」を比較・検討し、血液製剤の使用に当たっては留意するよう求めていく。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 現在、研究班で調査中であり、報告書は適正使用調査会等へ諮り、公表する予定。
 また、平成17年度はこれら指標を踏まえた改善状況について評価するため、医療機関ごとの使用状況を把握するための調査を行うとともに、統計情報部と協議し、社会医療診療行為別調査等既存の情報を用いるなどして血液製剤の使用状況を把握する方法についても検討する。
<関係部局等>
 医薬食品局、統計情報部

(5)輸血療法委員会の設置及び活用の推進に関する検討
 ア  背景及び課題
 輸血医療を行う医療機関が輸血療法委員会を設置している割合は決して高くはないが、特に使用量の多い医療機関の多くは輸血療法委員会を設置している※1516一方、血液製剤を適正に使用するための人的確保を含めた財政面での環境整備が不十分であることから、これら委員会の効果的な活用、院内の指導体制の確立などが困難であるとの指摘がある※17
 このように適正使用に係る医療機関のインセンティブを図り、結果として医療費削減につなげるべく、何らかの支援策について検討する必要がある。

 イ  今後の方向性
 輸血医療の適正な推進のため、輸血療法委員会の設置及び活用の推進を図る仕組みを検討する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 今後、輸血療法委員会の設置及び活用を推進するための評価方法について検討する。
<関係部局等>
 医薬食品局、医政局、保険局


7 輸血後感染症対策等の推進

(1)輸血後感染症発生調査の実施
 ア  背景及び課題
 輸血後感染症については、現在、医療機関等からの副作用感染症報告及び血液センターからの遡及調査に基づき、日本赤十字社による献血血液の保管検体の個別NAT等により把握しているが、輸血後感染症の有無を明確に判定するためには、輸血前後の感染症検査の実施、検査検体や記録の保存、献血者の協力等が必要である。
 しかしながら、感染症検査未実施等のため、輸血による感染か否かを明確に判定できない例も存在する。

 イ  今後の方向性
 輸血後感染症の存在は、現在、医療機関からの副作用感染症報告等によって把握しており、今後は輸血感染症検査等の取組を充実・強化して輸血後感染症発生調査の徹底を図る。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 平成16年1月から日本赤十字社において医療機関での輸血後感染症に関する全数調査を実施中。今後これらの結果を踏まえて調査体制の整備を検討する。
<関係部局等>
 日本赤十字社、医薬食品局

(2)輸血前後の感染症マーカー検査の在り方についての検討
 ア  背景及び課題
 血液製剤由来感染症の有無を確実かつ早期に確認するには、受血者(患者)の輸血前後の感染症検査を行う必要がある。また、平成16年4月1日から生物由来製品感染等被害救済制度が創設されたことも踏まえ、感染症が発生した際に血液製剤との因果関係を把握する必要がある。
 しかし、現時点では保険診療としての裏付けがあるのは、HIV、HBV及びHCVの術後検査のみであり、さらにはHIVを除いては回数及び期間に関して明確な基準が設定されていないことから、少なからず医療現場における混乱がみられる。

 イ  今後の方向性
 平成16年4月1日から生物由来製品感染等被害救済制度が創設されたことを踏まえ、血液製剤由来感染症が発生した際に因果関係を把握するため、輸血前後のHIV、HBV、HCV検査の在り方について検討する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 現在、医薬食品局において、HBV及びHCV検査に必要な回数等の基準を検討しているところであり、今後保険局と調整しながら、安全技術調査会等へ諮り、関係機関へ周知する予定である。
<関係部局等>
 医薬食品局、保険局

(3)感染事故発生時の迅速な情報収集と予防対策
 ア  背景及び課題
 感染事故があった場合、医療機関からの副作用感染症報告等に基づき、例えば緊急かつ重要な場合については、血液事業部会に設置した運営委員会で審議し、安全性等に関する情報を速やかに共有・評価するとともに、必要な措置等を検討することとしている。
 なお、自己血輸血に関しては報告制度が確立していないのが現状であり、細菌感染等に対し、十分な改善策が採られているとは言い切れない状況と考えられる。

 イ  今後の方向性
 感染事故に関する報告制度として自己血輸血に関する情報収集方策を検討するとともに、カテーテル血流感染を含む院内感染対策を推進する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 すでに、医政局がカテーテル血流感染を含む院内感染対策に取り組んでいるが、平成16年度から医薬食品局で研究班(主任研究者:佐川公矯)を設置して自己血輸血の使用実態とリスク調査をする予定であり、今後はこれらの結果を踏まえて、必要な対策に取り組んでいく。
<関係部局等>
 医薬食品局、医政局

(4)遡及調査の在り方に関する検討
 ア  背景及び課題
 献血後及び輸血用血液製剤使用後の感染情報等を踏まえて、感染の拡大防止を目的とした当該血液製剤の回収及び受血者(患者)の健康影響確認のため、献血者の感染情報に基づく遡及調査が実施されている。
 しかし、ウインドウ・ピリオドを踏まえた遡及期間の設定などを含む指針の策定については、最新の科学的知見に基づく必要があり、また、これらの適正かつ円滑な運用については医療機関の協力が不可欠と考えられる。

 イ  今後の方向性
 日本赤十字社が作成した原案を踏まえて採血事業者としての「遡及調査ガイドライン(仮称)」を策定するとともに、医療機関等に対して必要な協力を依頼する。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 平成16年6月1日の安全技術調査会で概ね了承され、次回の血液事業部会に諮り、了承され次第、都道府県、医療関係団体等へ周知するとともに、協力依頼を行う。
<関係部局等>
 日本赤十字社、医薬食品局他

(5)生物由来製品感染等被害救済制度の創設
 ア  背景、課題等
 血液製剤等の生物由来製品については、最新の科学的知見に基づく安全対策を講じたとしても感染症を伝搬するおそれを完全には否定できないことを踏まえ、生物由来製品を介した感染等による健康被害について、民事責任とは切り離し、製造業者等の社会的責任に基づく共同事業として、迅速かつ簡便な救済給付制度が平成16年4月1日から創設された。

 イ  今後の方向性
 今後、生物由来製品を介した感染等による健康被害の迅速な救済を図るため、各種の救済給付を行う。
<関係部局等>
 医薬食品局

(6)免疫学的な副作用対策の推進
 ア  背景及び課題
 輸血による副作用には、感染性のもの以外に免疫学的なものがある。具体的には、人為的過誤(患者の取り違い、転記ミス、検査ミス、検体採取ミス等による型不適合輸血)による血管内溶血、各種ショック、循環不全、輸血関連急性肺障害(TRALI)等がある。近年の感染性対策が進む中、これら免疫学的副作用が目立ってきており、早急な対策が求められている。

 イ  今後の方向性
 人為的過誤等については、平成11年に策定された「輸血療法の実施に関する指針」に従って、適切な保管や確認を行うことである程度は防げると考えられることから、医療機関で適切な運用を図るための効果的な方策を検討していく。
 また、これまでほとんど調査・検討されてこなかった領域であることから、調査研究等による実態把握が必要である。

 ウ  実施に向けた具体的取組状況
 血液事業に関する年報の中で、これまで生じた事例の件数について整理したところである。
<関係部局等>
 医薬食品局


 おわりに

 「輸血医療の安全性確保のための総合対策」は、厚生労働省が現時点での輸血医療等に係る背景及び課題を踏まえた今後の政策的方向性について示したものであり、また今後の方向性を視野に入れながら、特に短・中期的観点から関係部局等における取組状況についてとりまとめたものである。

 これらについては、平成16年3月19日の薬事・食品衛生審議会血液事業部会において、「輸血医療の安全性確保のための総合対策」の骨子に当たる「フレームワーク(案)」として提示・了承され、その後、同運営委員会及び同安全技術調査会において、当該総合対策の具体的内容及び進捗状況を報告し、委員から意見を聴取してきたところである。

 今後は、国民に安全・安心な輸血医療等を提供するため、これらの取組を速やかに実施するとともに、関係部局等が当該項目ごとの取組状況や輸血医療等に係る状況の変化に応じて適切に対応するため、これらの対策の進捗状況や成果等については、血液事業部会及び同運営委員会に定期的に報告し、その意見及び評価を受けることとする。



参考文献

※1  日本赤十字社中央血液センター作成:血液事業の現状 平成15年統計表2003,日本赤十字社事業局血液事業部,P69〜74
※2  安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律施行規則,平成15年厚生労働省令改正
※3  関口定美 監修、霜山龍志 著:今日の輸血,北海道大学図書刊行会,p132〜139,1997.
※4  愛のかたち献血,日本赤十字社事業局血液事業部,p16,2003.
※5  献血者事故見舞金の贈呈について,平成11年日本赤十字社副社長通知
※6  厚生労働省医薬食品局血液対策課作成,献血件数及びHIV抗体・核酸増幅検査陽性件数
※7  木原正博,今井光信,清水 勝:献血者におけるHIV感染情報,IASR,Vol21,p140、141
※8  木村和子ら:海外のドナーセレクトに関する研究,厚生労働科学研究費補助金 HIVの検査法と検査体制を確立するための研究(12〜14年度)総合研究報告書,p170〜173
※9  井上千加子ら:献血者におけるHIVについての意識調査,Japanese Journal of Transfusion Medicine,Vol.47.No.1 47(1),22〜28,2001
※10  血液行政の在り方に関する懇談会:血液行政の在り方に関する懇談会報告書,p15,平成9年
※11  高野正義ら:献血者及び血液の安全性向上のための問診のあり方に関する研究,平成14年度厚生労働科学研究費補助金報告書,p2,平成14年
※12  平成14年度版血液事業関係資料集,財団法人血液製剤調査機構
※13  厚生労働省調べ
※14  高木朋子ら:内科疾患における新鮮凍結血漿とアルブミン製剤の適正使用に関する研究,第51回日本輸血学会総会発表,平成15年
※15  平成15年度血液製剤使用適正化普及事業調査
※16  東京都輸血状況調査(H14)
※17  「輸血医療の安全性を確保するための総合対策」に関する日本輸血学会の見解,平成16年1月12日


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