04/06/25労働におけるCSRのあり方に関する研究会 第5回議事録        第5回「労働におけるCSRのあり方に関する研究会」                               日時 平成16年6月25日(金)                           10:00〜11:00                        場所 厚生労働省専用第12会議室 議題   中間報告書(案)について 出席者                      委員    足達 英一郎 日本総合研究所創発戦略センター            上席主任研究員    阿部 正浩  獨協大学経済学部助教授         安生 徹   経済同友会常務理事          小畑 史子  京都大学地球環境学堂助教授       佐藤 博樹  東京大学社会科学研究所教授       谷本 寛治  一橋大学大学院商学研究科教授   厚生労働省    青木政策統括官                    草野労働政策担当参事官                及川労働基準局監督課長                中沖労働基準局安全衛生部計画課長           勝田職業安定局雇用政策課長              妹尾職業能力開発局総務課長              石井雇用均等・児童家庭局均等政策課長         堀江労働政策担当参事官室政策企画官          千葉労働政策担当参事官室室長補佐           川野環境省総合環境政策局環境経済課課長補佐       矢野経済産業省産業技術環境局標準課課長補佐 ○谷本座長  ただいまから第5回「労働におけるCSRのあり方に関する研究会」を開催いたしま す。本日は、これまでいろいろ議論を積み重ねてまいりまして、中間報告(案)、お手 元の資料にありますとおりですが、これに基づきまして、皆様にご議論いただきたいと 思っております。  それでは、まず最初に、事務局から、中間報告書(案)につきまして説明をお願いし ます。 ○千葉労働政策担当参事官室室長補佐  それではお手元の資料に基づきまして中間報告書(案)について概要を説明させてい ただきます。なお、労働におけるCSRに関連いたしまして、報告書に入る前で恐縮で すが、川崎重工争議団、全国労働組合総連合、全日本金属情報機器労働組合、部落解放 同盟中央本部から要請書が来ておりまして、委員の皆様方には、ご参考ということで事 前にお渡ししておりますことをおことわり申し上げます。  それでは、報告書の説明に移らせていただきますが、お手元の「中間報告書(案)」3 2枚組みのペーパーをご覧ください。まず最初に目次、続いて中間報告書(案)の概要を 2枚程度にまとめております。本日は、3頁以降の本文のほうでポイントを掻い摘んで ご説明申し上げます。  まず最初に、1番の「労働に関してCSRを検討する背景と意義」ですが、(1)「 CSR/SRIとは」というところは、ご案内の話かと思いますので、割愛をさせてい ただきます。  4頁(2)です。労働についてCSRにより検討する意義。前回も大きな議論になっ たところですが、この点につきましては、私ども、この報告書案では、このようにまと めさせていただいております。4頁の真ん中より少し上のほうです。「企業は、人や物 、金といった経営資源を活用して、財を生産したりサービスを提供し、社会的な価値を 創造する主体であり、価値を最大限創造して社会に貢献していくためには、経営資源を 効果的に投入していくことが不可欠である」。「その際、企業も社会の一員であり」、 「社会の多様なステークホルダーへの影響を十分に考慮しながら活動を行っていく必要 がある」。その場合、いろいろな生産要素があるわけですが、「従業員はじめとした『 人』に関する取組みについては、他とは異なる特別な考慮が必要になるものと考えられ る」。「例えば、環境負荷を軽減の場合に当たっては」、他のものに置き換えるといっ た手法を取れるわけですが、従業員については多様な個性と能力を有しており、従業員 の健康が損なわれ、消耗したからといって、必ずしも代わりがきくというわけではあり ません。「また、職業能力の蓄積なしに失業するというようなことになれば、さらなる 職業能力の低下を招き、無業期間が長期化しかねないが」、これは本人にとってダメー ジを与えるということももちろんありますが、社会全体で見ても貴重な労働力が有効に 活用されないという点で悪影響を及ぼすのではないかといったことなど、例示的に掲げ ております。  5頁に移ります。「したがって、従業員の働き方等に十分な考慮を行い、かけがえの ない個性や能力を活かせるようにしていくことは、『社会的公器』としての企業にとっ て、本来的な責務と言うことができる」。現状を見てみますと、実際は、長時間労働や ストレスが増大したり、女性の登用が十分に進まないといった働き方の持続可能性や、 公平性に照らして懸念される状況というのも見られます。こうした中において、「人」 の観点からも持続可能な社会を形成していくということが重要になっており、こういう 観点から、行き過ぎた利益市場主義に対して、従業員などのステークホルダーに対する 考慮を強調するCSRの考え方というのは、社会の持続可能性を保持していく上で重要 性が増しているのではないか。  特にSRIについては、「CSRを果たしている企業に対して投資するSRIのあり 方については」、市場において、投資家、消費者や、あるいは求職者等から、高い評価 を受けるようにしていくという意味合いにおいて重要ではないかと。もちろんその前提 として、「労働」分野についても、自社でどういう取組みをしているかを、積極的に世 に知らしめていくということも大事ではないかと考えております。  それから、5頁から6頁にかけてです。「CSRはあくまで企業の自発性に基づいて 進められるものであるが、それぞれの企業が社会的公器としての認識を深め、多種多様 な取組みを積み重ねていくことで、『人』の観点からも持続可能な社会が形成されてい くことが期待される」。こうしたことなどを述べさせていただきました。  続きまして8頁です。2、「社会情勢の変化に応じた従業員への考慮」ですが、具体 的に従業員等に対しまして企業がどういう事項について考慮を払うことになるのかとい うことを概観しています。(1)「人」の能力発揮のための取組みですが、ここの中身 は、今後付加価値を上げていくためには「人」というのが重要になってくる。(1)から(4 )で、「人材の育成やキャリア形成支援が積極的に行われ、能力の向上が図られること」 。あるいは、「個人それぞれの生き方・働き方に応じて働くことができる環境が整備さ れること」。「全ての個人について能力発揮の機会が与えられること」。「安心して働 く環境が整備されること」、といったことが特に重要になるのではないかという指摘を しております。  9頁以降、いま申し上げた(1)から(4)に対応いたしまして、もう少し具体的にどのよ うな考慮が必要かということを述べています。例えば(1)で見ますと、OFF−JTを中 心として、企業における人材育成の実施状況も低下してきている。企業は、継続的に能 力開発を行い、職業生活の全期間を通じて能力開発が行われる体制を確立していくこと が重要になるのではないかといった指摘などをしております。(2)の、個人それぞれの生 き方、働き方に応じた環境が整備されるということでは、例えば育児や介護に関する支 援措置を充実したり、または、ボランティアに関する休暇の制度化、あるいは活動情報 を提供する取組みが重要になるのではないか。  (3)の、全ての個人について能力発揮の機会が与えられることでは、女性労働者の能力 発揮を促進するための積極的な取組みとか、あるいは高齢者、障害者に雇用の場を提供 していくことを掲げております。(4)は、安心して働く環境が整備されることについてで すが、心身両面の健康確保対策及び労働災害防止対策が重要になるのではないかという ことを記載しております。  (2)海外展開の進展に対応した取組みでは、海外においても労働問題は頻発してい るところであり、進出先においても現地従業員などに対し考慮を払っていく必要があり ます。また、サプライチェーンの事業所においても、労働等のCSRに配慮しているか どうかが、商取引上の要件となってきている実情もあり、こうした点についても考慮す る必要性は増大している旨の指摘をしております。  (3)の人権への配慮です。今日においても、人権侵害はなお存在しているところで すが、企業においても、差別の禁止、セクシュアルハラスメントの防止などについて、 社内研修で従業員の人権に配慮するような取組みをしていくことが重要ではないか。  以上、企業がやらなければならない事項、求められる事項を中心に申し上げました。 以上の事柄につきましては、企業から見て、大きなメリットがあるところであり、(4 )で3つほど掲げておりますが、優れた人材を集めるとともに、優秀な人材の定着にも 役立つ面がある。多様な人材を会社の中に入れ込むということにより、人材の多様性、 ダイバーシティーが広がって、新しい発想、ひいては高い付加価値につながっていくの ではないかということ。さらに、働く人を大切にしている企業が市場において評価され ることを通じて、財・サービスの消費の増加、あるいは投資の増加、こうしたものにつ ながるのではないかということです。  続きまして、13頁です。「労働に関するCSR推進における国の役割」ですが、労働 におけるCSR、これを推進する主体というのは、もちろん企業ですが、国の役割とし て一体どういうことが考えられるのかを検討しているところです。(1)の国の役割で すが、推進主体は企業であって、なおかつ、CSRを構成する諸要素のうち、どれを重 点的に実行するかについては、社会で一体何が求められているのかということを勘案し ながら企業が決定していくということであろう。したがって、国が施策を講じていくに 当たっては、企業の自発性あるいは多様性を尊重する必要がある。こうした観点から、 例えば労働におけるCSR規格を国が策定・認証するような施策を講じることは、現時 点では望ましくないものと考えられる。なお、CSRの推進主体は確かに企業であるが 、中小企業においては必ずしもCSRの取組みが進んでいるものではない。サプライチ ェーンや取引先企業にCSRの配慮を求めることを通じ、中小企業を含め労働に関する CSRの取組みが行き届くことが期待されるという旨の文言も書いております。  13頁の次の黒の◇のところですが、CSRを企業が主体的に推進しようと思っても、 なかなか難しいという点もあります。企業は社会全体で何が求められるかというのを鋭 敏に察知し、対応策を実施していく必要があることから、社会の変化の方向性や、社会 から必要とされているものについて、国が情報や判断材料を提供していくことが、CS Rを推進しようという個別の企業にとっても利点があるのではないかと考えられます。 国は、CSRを推進する主体である企業を側面から支援していくことが求められるので はないかということです。  14頁で、SRIに関する取組みが積極的に行われる環境を整備していくことも、国の 役割としてあげることができるのではないかという指摘しております。CSRを果たし ている企業に対し、投資をしていく気運が高まることは有益であり、投資家啓発の実施 など、SRIの環境整備を行い、「人」を重視する社会の変革が進むことが期待される のではないかということです。  以上を踏まえ、国の施策の方向性というのは一体どうなるのかですが、企業の自主的 な取組みを促すソフトな手法の採用というところで、企業との関わり合いについて言え ば、法律によって直接的に義務付けるのではなく、例えば、労働に関する取組みのうち で、企業が情報開示することが望ましい事項を提示していくといった形で、企業のCS Rに関する自主的な取組みを支援して促していくということが考えられるのではないか 。  各種啓発・広報を通じたCSR/SRIの推進ですが、投資家啓発や消費者広報を行 い、理解の裾野を広げていくということがあろうかと思います。それから、国の既存の 施策・制度を通じたCSR/SRIの推進ですが、現にいまある施策・制度、こうした ものにCSRやSRIの要素を組み込んで促進していくということも方策としては考え られるところです。  以上のような認識の下に、さらにどういう施策が考えられるかということについて、1 5頁にまとめております。4の「労働のCSRを推進するための環境整備の方策」、まず 最初に企業の自主的な取組みを促進する施策として、情報開示項目の提示。労働に関す る情報開示については、企業において十分進んでいるとは言えない。また、求職者が、 企業情報を見て、会社間の比較対照を行うといったこともなかなか難しいという面もあ る。こうしたことから、社会報告書に盛り込むことが望ましいと考えられる労働の項目 について、国が民間機関と協力しながら検討を深め、その成果を広く企業に提示・公開 しながら普及していくといったことが望まれる。また、労働に関する情報は、そもそも なかなか外に出ないということがあるので、結果は必ずしも伴わなくとも、まずは情報 開示そのものを広めていくことも検討に値するのではないか。こうした観点から、好事 例を広く収集し、あるいは積極的に情報公開している社会報告書自体を顕彰することも 、方策の1つとして考えられるということです。  (2)です。企業による自主点検用チェック指標の作成です。企業が労働のCSRをやろ うという際に、自分の会社はどこまで労働のCSRが進んでいるのか、また、業界平均 と比べてみるとどこが足りないのか、あるいはプラスなのかを、認識するための1つの ツールとして開発していくことも考えられるのではないか。こうした観点から、「両立 指標」や「女性の活躍推進状況診断表」の開発が、すでに分野ごとになされており、こ れらを踏まえて、労働全体に係るチェック指標の点検項目等を検討していくということ も重要ではないかという指摘をしております。  表彰や好事例の情報提供では、労働関係については、厚生労働省だけを見ても、労働 安全衛生、障害者雇用、男女の機会均等推進等、さまざまな表彰制度があります。この ような表彰制度を横断的に整理した上で、ホームページなどに公開し、企業の取組みに 役立てていくことが考えられる。また、CSRに関する企業の好事例について、幅広く 収集・整理して、企業に広く発信していくことも有益です。  (2)各種啓発・広報を通じたCSR/SRIの推進のための施策ですが、社会的な 責任を果たしている企業の製品を購入したり、あるいは株を買うことで、労働に配慮す る企業を評価するCSR、SRIの考え方を普及させる上においては、消費者や投資家 を対象とした啓発・広報が重要になる。また、企業におけるトップや経営幹部、さらに は担当者に至るまで、CSR、SRIについての理解を深めていくということは重要で あり、基本的には経営者団体や、業界団体などの、民間においてもこうした取組みを進 めていくといったことが望まれるが、国としても、それに資するような情報提供を行っ ていくことが望まれるのではないか。さらに大学等において、企業と社会に関わる問題 について、基礎的な教育を行うともに、専門的な研究を進めるといったこともポイント として指摘しております。  17頁(3)国や地方自治体が業務の中で行うCSR/SRIへの配慮です。公的年金 等の積立金をSRI運用することも考えられることから、今後SRIの投資効果に関す る検証を深めるとともに、SRI運用の是非について、受託者責任との関連で検討を進 めることが期待されるという旨の記載をしております。  次に株主議決権の行使のところです。SRIを進める手法として、株主議決権を行使 しつつ、それぞれの企業の望ましい方向に向けての経営を促していくといったことも考 えられる。こうした手法について、そのあり方をさらに検討していくことが重要と考え らる。次に、調達におけるCSRの考慮ですが、国や地方自治体が調達する際に、労働 などの事項についてCSRに配慮している企業を優先することも考えられるのではない か。現に千代田区などにおいては、こうした取組みがすでになされているところですが 、こうしたCSR調達が全国に向けて広まっていくことが期待される。  最後に18頁の(4)上記施策を行うに当たっての留意点では、こうした施策を講じて いくに当たっては、特に中小企業への配慮というのが必要とされるのではないか。中小 企業においては十分取組みが進んでいるとは言えない。例えば欧州においても、中小企 業向けの事例集を発行したり、あるいは自己診断用のツールを開発したりしている。特 に中小企業におけるCSRの取組みが進むような工夫を講じていく必要がある。  また、こうした施策の中には、厚生労働省が単独で行うということが困難なものもあ る。もともとCSRというのは、企業の経営全般に関わる概念であり、施策を講じてい くに当たっては、関係省庁間で十分な連携を図っていくことが不可欠ではないかと考え られるます。  それから、付表として21頁以降に、これまでの研究会におきまして使いました資料を 掲げさせていただいております。あと、最後に、これまで研究会でどのようなことが行 われてきたかということを32頁にまとめております。  繰り返しになりますが、こうしたCSR、労働に関します取組み等につきまして、先 ほど申しましたように、川崎重工争議団、全国労働組合総連合、全日本金属情報機器労 働組合、部落解放同盟中央本部から要請書が来ておりまして、委員の皆様方に事前にお 配りしているということも、再度申し上げておきたいと思います。以上、報告書の概要 について報告をさせていただきました。 ○谷本座長  どうもありがとうございました。前回この中間報告書(案)のまさに叩き台になるよ うなメモを見ながら皆さんと議論を進めてまいりました。それから、また、ほぼ1カ月 ほどの間も意見調整を進めてまいりまして、最終的にこういう案がまとまったわけです が、一応今回を一つのまとめの研究会ということで、この案を巡って、皆さんの質疑応 答を進めてまいりたいと思います。全体的な構成、あるいは細かい文言などを含めまし て、皆様、ご意見がありましたらよろしくお願いいたします。いかがでしょうか。  目次、あるいは、最初に見やすいようにというので、概要を付けましょうということ で付けたわけですが、最初に労働に関してCSRを考えていく背景と意義を述べた上で 、従業員に配慮するということの意味、それから、国が果たしていく役割は何か、それ は側面から支援していくことなんだと、そういうことの環境整備について、そんな構成 でまとめていったわけです。ですから、ここの研究会では最初から議論しておりました が、大きな枠組みというか、方向性を考えるということが主たる論点でありまして、個 々の例えば施策のあり方の細かい部分について、ここで詰めるという管掌ではございま せんから、中間とりまとめという形で具体的な施策等につきましては今後もまた議論に なってまいると思います。何かありましたらよろしくお願いいたします。  もちろん皆さんとの意見交換をした上でですから、特にちょっと待ってくださいとい うことがなければ、一応皆様に、今日で5回目で、6回目があるかどうかは、いまはわ かりませんが、これまでのこの委員会の検討に関して、こういうふうに感じられたとか 、報告書について、自分はこんなふうに思っているんだというようなことを、特に手が 挙がりませんでしたので、それでしたら順番にお話していただく中で、コメント等をい ただければと思います。短い時間でも結構ですので、全体の感想も含めて言っていただ ければと思います。 ○足達委員  ここまでおまとめいただきました事務局の皆さんのご苦労にはまず感謝を申し上げた いと思います。今回私自身も労働という観点から、このCSRなりSRIを見直すきっ かけになりました。前回の議論で、「これまでも人事労務管理論としては同じような議 論がなされてきたではないか」という佐藤先生からのご発言などもありまして、私自身 も、なぜ改めてCSRということをご議論すべきなんだろうかということを、少しこの 1カ月、モヤモヤっとしながらも考え続けてきたところがあります。いちばん大きなポ イントとして私自身が感じましたのは、マクロ政策というか、国のあり方全体を考える 部分と、この労働におけるCSRというのは、非常に密接に関係しているのかなと。そ こで改めて少し大きな視点から議論をする必要があるのかなというふうな、私自身なり の結論を持っております。  例えば、今回の中にも入れていただいておりますが、「近年企業間競争の激化等によ って、働く人のストレスが増大している」というような部分、これが、日本の企業なり 、経済全体の生産性とか競争力にも影響してくるというような、そんな恐れもたぶんあ るんだろうと思いますし、これから少子高齢化が進んでいったときに、女性の皆さんの 活躍をいかに進めるかということで、たぶん企業の競争力もうんと変わってくるでしょ うし、もしかすると、国の競争力も、韓国なんかに行きますと、女性の人たちが随分総 合職で頑張っておりますが、そういうところでも、国の競争力も決まってくるかもしれ ない。  それから、この研究会の中で議論がありましたが、いまフリーターの人たちというの がどんどん増えているというお話がありましたが、そういう人たちの意識調査を、私も この研究会を機会に、ちょっと調べてみる機会を得まして、会社に対して夢が実現でき ない、いまの会社勤めをすることで夢が実現できないからフリーターをやっているんだ という、こういう回答が多いわけです。この回答の多さを見ると、ちょっと考え込んで しまうところがあって、既存の企業で何か自分の夢が実現できないということでフリー ターをしているのであれば、やはりいまの企業の目標設定の仕方とか、企業自身が、何 というか、ちょっときれいごとに聞こえるかもしれませんが、何らかの理念とか志を持 っている、そういう姿が弱いのではないかと。その結果、例えばフリーターの人が増え てくる。それは職業選択の自由かもしれませんが、これもマクロ的に見ますと、必ずし も国内の資源を有効に配分しているとは言いがたい面とか、あるいは、将来の年金制度 、まさにこれは近々の課題であるわけですが、年金制度を考える上でも、非常に課題を 残す結果にならざるを得ないとかいうことと結び付いている。それならば、やはり企業 がもう少し理念や志、若い人たちの心に訴えかけるような企業像なり、まさに行動です ね、口で言うだけではなくて、行動というものを取るべきではないのかと、そんなこと も感じた点でした。  最後に1つだけ申し上げたいのは、環境省がご出席ですが、昨年環境省からの委託で 、日本の個人投資家のSRIに関する意識調査というのをさせていただいて、欧米に比 べて、労働の部分の関心というのが、残念ながら日本では低いのですね。消費者につい ても、これは海外では、何か労働問題で不祥事を起こしたような企業には、すぐボイコ ット運動とかが起こりますが、日本ではそういうことはほとんどないわけでありました 。この中間報告の中の1つのバックボーンにも流れておりますが、やはり世の中で投資 家や消費者や、あるいは、労働者、勤労者そのものもそうかもしれませんが、そういう 人たちが、より積極的に企業のあり方を評価して、行動を取っていくと。そういうこと が今後の経済モデルとしては重要になるのだろうと思っております。この施策のところ で言いますと、これは投資家も消費者もそうですが、安生委員からは、逆に、あまり企 業をいじめないでくださいという声が出るかもしれませんが、企業がそういう選択肢に さらされるような、そのことをバックアップしていただけるような国の施策というもの を是非お願いできればと思っております。 ○谷本座長  皆さんのコメントを聞いて、それについて議論するというそういうことではありませ ん。報告書についてコメントがあった場合には議論したいと思いますが。いまは研究会 を振り返って、この労働におけるCSRをいかに考えるかという、足達さんなりのお考 えをおまとめいただいてコメントをいただきました。阿部委員、どうでしょう。 ○阿部委員  足達さんに付け加えて何か申し上げるということは基本的にはないと思うのですが、 このCSRの意義を考えてみると、やはりおっしゃられたように、個々の企業とか個々 の人々の行動というのが結果的には社会を支えることになるわけですが、社会全体の目 標値と、個々人や個々の企業の目標値というのは、それぞれ違うわけです。それをうま く調和させていくということに、このCSRの意義があるのかなというふうに思います 。  それを国が、安生委員はいやがるのかもしれませんが、企業の自主的な取組みという のも大事ではあるのですが、そこをやはり社会との調和を考えさせる上でも、うまく使 っていくことは必要ではないかと思います。労務管理はもうやっているというのは確か にあるのですが、それはやはり企業の中の閉じた世界の中での労務管理であって、社会 との調和というのを考えていく上では、こういう取組みというのは必要ではないかと思 っています。それに対して、どういうふうに進めていくかということですが、ここで挙 がっていますが、金銭的なインセンティブとしてSRIを活用する。だから、国がやは り、国というか、社会が、SRIをうまくファンドとして使っていくというのは効果的 なのではないかと思っていますし、もう1つ、ここにもはっきり書いてありますが、非 金銭的インセンティブとしての表彰制度とか、こういうのもありますので、うまくお使 いになっていかれればいいのかなと思います。重要なのは、社会がどの方向に進むべき なのかということだろうと思うのですが、その点は、うまくこれから考えていくべき問 題としてあるのではないかと思います。 ○谷本座長  ありがとうございました。引き続きまして、安生委員、どうでしょうか。 ○安生委員  私自身はCSRを非常にポジティブに考えております。企業の自主性とか取組みの多 様性とかいうところがきちんと確保されるのであれば、例えば足達さんの表現ですと、 やはり社会の変化、社会からの声によって、企業は鍛えられるという側面がありますし 、いろんな変化から刺激を受けて次に進むという面がありますから、すべて防戦とかそ ういうふうに考えているわけではないということです。  報告書に関連してちょっと申し上げれば、4、5頁のところに、労働についてCSR の観点から検討するのはどういう意義があるのかということが整理されているわけです が、この辺はいろいろ議論もさせていただいたので、直すとかいう話ではないのですが 、私はこの研究会の議論を通じて、労働についての施策、特に企業の取組みについては 、CSRという観点から取り組むのは非常に有効なのではないかと考えております。も ちろん政府の役割として、法令とかそういうことがあります。ただ、そういうものとい うのはやはり、社会でかなりのコンセンサスが出来た部分について、要するに守るべき 部分を義務としてやるという話なのですが、労働については、企業の中で見れば、人を 育て、どうやって活用するか、それで、生産性を上げて成果につなげるかという面がい ちばん大切なわけでして、そのためにどういう取り組みをするかは当然企業のやってい る事業内容、その企業を 取り巻く環境、それぞれのステークホルダーとの関係などを 含めて多様なわけでして、この多様な取組みを進めるのには、要するにCSRという観 点から取り組むのが非常に有効なのではないかと。  ですから、労働は、他のCSR分野に比べて特殊なのではなくて、労働の分野につい ては、CSRの観点から取り組むことがむしろ成果につながると考えることができるの ではないかというようなこともちょっと申し上げましたが、私は大体そんなふうに考え ております。だから、むしろ労働の分野の取組みというのは、CSR的な側面から取り 組むことに馴染みやすいし、成果にもつながりやすい。ただそのときに重要なのは、や はり企業の自主的な取組み、それから、多様な取組みということをきちんと認めるとい うか、そこを確保しておくということが必要なのではないかと思っております。 ○谷本座長  わかりました。ありがとうございます。小畑委員、どうですか。 ○小畑委員  3人の委員の先生方がすでにおっしゃったこと、そして、中間報告書(案)として提 示していただいた内容に賛成です。確かにCSRを推進する主体は企業ですが、それを 側面から国が支援していくというこの骨子というものが、やはり望ましいと考えており ます。いろいろな面からCSRというものについて、検討する研究会の場に参加させて いただきまして、これがこの先、大変大きな意味を持っていくような方向に行けるよう な報告書(案)が出来上がったのではないかと感じております。 ○谷本座長  ありがとうございます。佐藤先生は。 ○佐藤委員  前回やや少し乱暴なコメントをさせていただいたのですが、労働についてCSRの点 から検討するというのが、単に早い、だからやろうではなくて、やはりそれには意味が あるし、これから10年20年間は結局大事だということがわかるようにまとめていただい てよかったかなと思います。それと、やはり企業の自主的な取組みをサポートするとい う国の役割も、明確に告げていただいている。そのサポートをするといったとき、どう いう取組みをやるのかということも整理していただいたので、非常にいいなと思います。  それで、言葉の使い方だけですが、ちょっと2カ所あって、4頁の本当に表現だけな んです。上から7行目、「労働問題」というのがあるのです。ここは問題を付けなくて も十分なはずだと。労働についてなぜ特にCSRなのか問題というので。ちょっと問題 をとっていいのではないかと。労働というと全部労働問題と言われるのですが、これは 問題がないところもやるわけですね、問題のあるところもやるし。だから、ここは「問 題」をとっていいのではないかと。例えば、10頁のここはあってもいいのですね。ここ は海外で労働問題と。ここでは問題を挙げているんだから、あってもいいと思うのです が、前のほうはここしか出てこないんです。あとは「労働について」しか出てきません から、「労働分野について」ということだっていいと思うというご提案です。  あと16頁の1つめの黒の◇ですが、「これにより、企業は労働の中で不足している対 策等を自ら把握し」。不足しているというと、一律望ましいものがあってという感じに なる。ですから、私としては、「企業は労働の中で取り組むべき課題を自ら把握し」で いいのではないか。つまり、望ましいものがあって、みんなそちらに向くのではなく、 我が社としてはここをやろうと。みんながやっているところをやる。みんながやってい ないところをやってもいいわけですので、不足していると言わなくていいのではないか と。「企業は労働の中で取り組むべき課題を自ら把握し」というので十分かなと。多様 なメニューの中からそれぞれが自主的に選ぶということからすると、「不足」というと 、何か望ましいものが一律にあるような感じがするので。表現だけです。 ○谷本座長  わかった上で言われているというのも私もよくわかります。4頁のところも、何かト ラブルがある問題だという意味ではなくて、あくまで労働に関するさまざまな問題だと いうことでは、文脈上あるんですが、そうか、そこまでは私も気がつきませんでした。 ○佐藤委員  ええ、他はいらないだろうと。そういう意味では必要ないのに使われているんだろう と思ったので。 ○谷本座長  意味はよくわかります。16頁は、不足というのが確かにそういうイメージを抱きます ね。 ○佐藤委員  よりそういうものを進める場合もあるだろうし。 ○谷本座長  ええ、標準ラインがあって、確かにそれより少ないんだというイメージですね。文言 の調整は当然可能ですので。わかりました。いま委員の方々に、これまでの5回の研究 会を踏まえて、それぞれコメントをいただいたわけです。概ねこれまで調整してまいり ました中間報告案につきまして、大きなご異議があるとは、いま私、感じませんでした 。概ね賛成いただいたのではないかと思います。  CSRに関しましては、もうこれまでも議論いたしましたし、今日も意見が出ました が、要するに個別の企業レベルでやるミクロな、これを例えばミクロと言えば、その中 での企業内での政策の問題があります。もう1つは、社会全体の中で整えていくという 意味での社会的なマクロなCSRに関してもあると思うのです。個別の合理性が必ずし も、その合計が、社会的な合理性につながらないという議論は、もう昔からあります。 効率性と公正性のバランスをいかにとるかということも、経済学では古典的な課題でも あるわけです。  その中に、ただこれは政府と企業という対立図式ではなくて、もう1つ、市民、社会 というような動きの中で新しい価値観が求められるという、そういう中で、もちろん労 働だけではない、多様な問題についてCSRが議論されるようになってきた。その中で 、今回は特に労働という問題について、これまでの取組み、日本の企業、何も取り組ん でいないわけではなくて、取り組もうとしていることも含めて、それを踏まえて、なお かつ、それがごく一部の企業ではなく、一部先端的に取り組んでいる企業もありますし 、これからどうしようかと逡巡している企業もある。それから、多くの企業は中小企業 でもある。中小企業に関する取組みについてもこの中で触れましたが、そこまでひっく るめて全体を見回すときには、必要な当然の課題になってくると思います。  そのためには、いちばん最後に、各省庁間の連携が必要だと。当然これは企業の中で も、CSRというと、特定の部署だけで解決するものではなく、いま先端的に取り組ん でいる企業はもう、いかにラインに横串を刺すかという形で、ただCSR部署ができれ ばそれで終わりというテーマでは全くないわけです。これはかつて環境部が出来たとき と似たような状況が当然あるわけです。但し、環境でも、かなり広い曖昧なことも含む 領域なわけです。  ですから、今回は労働に関する中身について議論いたしましたが、CSR全体のあり 方を考えるということにおいては、環境省であり、経産省であり、厚労省であり、多様 な省庁に跨る課題です。そこでは、ただ単にCSRが良きものとかいうことではなく、 結局近未来の日本の産業政策のあり方がどうなのかと。その中にCSRという考え方が 1つ有効な考える契機になっていくようなことになればいいのではないかと私は思って おります。皆さん、コメント、ご意見、ありがとうございました。 ○堀江労働政策担当参事官室政策企画官  折角ですので、先ほどの佐藤委員のご意見で確定したものだけ文章的に申し上げれば 、皆さんご覧いただいていますように、4頁のところは、「労働問題を」というのは、 「労働について」とさせていただきました。16頁のほうは、「企業は労働の中で不足し ている対策等を」というのは、「企業は労働の中で取り組むべき課題を」と書き改めさ せていただくと、こういうことでよろしければ。 ○千葉労働政策担当参事官室室長補佐  補足させていただきます。いま政策企画官のお話にあったとおりですが、あと、1頁 3行目をご覧いただきますと、中間報告書案の概要におきましても、佐藤委員ご指摘の ところが重なっておりますので、「労働について、なぜ特にCSRの観点から」という 形に直させていただきます。 ○谷本座長  文言としましてはいまの3点ですね。そこの部分を直すということでとりまとめるこ とができたということでよろしいでしょうか。 ○足達委員  これは本文ではないのでよろしいかと思いますが、国連の「グローバル・コンパクト 」の9原則については、この6月の「グローバル・コンパクト・サミット」で10原則に 変わります。収賄の問題が入りますので、その形で最新のものに変えておかれるとよろ しいかと思います。 ○佐藤委員  それはいつからですか。 ○足達委員  今月の6月20何日ですか、ちょうどいまごろやっているのではないかと思うのですが。 ○谷本座長  いいのではないでしょうか。 ○佐藤委員  今日の日付のときに変わっていなければいいのかと。 ○足達委員  わかりました。余計なことを申し上げました。 ○谷本座長  いやいや、変化はかなり早いですから、いろいろあると思います。文言の修正を3カ 所整えて、今日付という形のとりまとめであれば私は問題ないと思いますが、よろしい ですか。では、その文言の修正を踏まえた上で、今日もうとりまとめて発表するという 形で、事務局のほうにお願いしたいと思います。そういたしましたら、当初の予定より も早いですが、本日の第5回目の「労働におけるCSRのあり方に関する研究会」を、 これで終了させていただきたいと思います。委員の皆様方には本当にご協力いただきま してありがとうございました。事務局のほうも大変でございました。最後に政策統括官 からご挨拶をいただきます。 ○青木政策統括官  各委員の皆様方におかれましては、大変お忙しい中、この研究会に5回にわたりまし て、毎回大変活発なご意見をいただきまして、ありがとうございました。おかげさまで 非常にわかりやすい中間報告書になったのではないかと思っております。この中に出て きますが、特に労働については、「人」との関係ということでありますので、企業にと っても企業の人格といいますか、そういったことに根ざした行動なり考え方が求められ ているであろうかなというふうに思います。  とりわけCSRにつきましては、私もいちばん最初に、いままで企業自身は随分とそ ういう意味ではCSRという言葉ではなくても、取り組んできたのではないかなという ふうに申し上げました。今回私もずっと皆様方のお話を聞かせていただきながら、やは りそういったことを社会に、足達委員の今日のお話にも出ましたが、企業の中での関係 だけではなくて、社会に返すといいますか、その中で進んでいくんだということだと思 いますが、そういう意味では、いろんな企業の中の取組みでありますとか、状況であり ますとか、CSRという形で積極的に開示をしていくということが大切だということも 、この中で示されたと思っております。  ちょうど私どもは、ついこの前、我々大臣懇と呼んでおりますが、向こう10年間を目 指して労働政策のありようはどういう社会になるのか、少しそういうものを長期の目で 見られるようなものを考えようではないかということで、先生方にお願いして、出して いただいたところです。「人間開花社会」とかいうような言葉で一言で言えばまとめて いただいたわけですが、同時に、また、もう1カ月もすると、例年のことですが、労働 経済白書で、報告をさせていただくことになると思いますが、労働の質とは何かとか、 質を良くする、良質な労働というのはどういうことだろうかということを、少し統計と か経済学的に分析できればということで、取り組んでいるところです。  そういう意味では、いわば日本の成熟した社会で、いろんな問題を深化させるといい ますか、深めていく。それぞれの働く人やあるいは企業が考えていくという方向性に、 すべて向いているのではないかなと思っております。とりわけCSRにつきましては、 そういう意味では企業に求められる自主的な取組みというのが大切だというふうに思い ますし、そういう面では、我々としても、今日おまとめいただきました報告書を踏まえ まして、いろんな環境整備をできるだけしていきたいと思っておりますので、どうぞ引 き続きまたご支援をいただきたいと思います。本当にありがとうございました。 ○谷本座長  今後の研究会の進め方につきましては、事務局や委員の先生方にご相談の上、また追 ってお伝えするようにお願いします。特段ございませんか。それではこれで本日の会議 を終了したいと思います。皆さん本当にありがとうございました。どうもお疲れさまで した。 照会先:  政策統括官付労働政策担当参事官室調整第二係  電話 03−5253−1111(内線7719)