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平成16年6月17日

介護保険に関する全精社協見解と方針

(社福) 全国精神障害者社会復帰施設協会
理事長 新保 祐元

1、安定財源の確保に向けて
 わが国の精神障害者を支える施策は、昭和62年改正による精神保健法によって制度化された精神障害者社会復帰施設(以下社会復帰施設と略記)が、医療外(福祉的)施設として唯一の施策であることから、精神障害者の社会参加促進と地域生活支援を実体化していくことのみならず、精神障害者福祉関連諸施策の展開に不可欠な対象施設である。
 したがって、社会復帰施設の整備進捗は新・障害者プランによって数値目標が示されるなど、精神障害者の社会復帰・社会参加を促進する国の重点施策として位置づけられている。ところが、その財源がきわめて不安定なことから、新・障害者プランスタートの年から新たな施設整備に支障を来すなどの不測の事態が生じた。
 もとより社会復帰施設はその事業の推進にあたって、年度単位の事業執行に関する財源に問題を抱えているばかりか、補助制度による事業費目制限によって職員報酬の体系化が図れず、事業の継続にも不安を払拭しきれていない。理念的には障害者基本法によって他障害と併記されたとはいえ、他障害者施設にかわる施策と対比して、きわめて貧しい財源で運営されていることを否定し得ない。それは社会復帰施設制度化当初からの課題であった。その課題のひとつであった1/4設置者負担の解消を目途に本協会が設立されて以来、他障害者施策との格差是正を求めてきたところである。
 社会福祉基礎構造改革はその是正を求める好機ととらえられた。しかしながら、基礎構造改革は措置制度の改革であり、精神障害者は措置制度の対象ではないとの理由で支援費の適用に関わる議論からはずされ、現行補助金制度は三位一体の改革の中でその継続性を担保できそうにないといった課題を抱え込み、社会復帰施設にかかわる安定財源の目途がたたない状況下に置かれている。
 こうした状況を脱却し、安定した財源確保のもとで、利用者ニ−ズに応え、その利用成果を求めていくことが、社会復帰施設の役割遂行にかかわる最大の課題である。

2、財源問題の解消と介護保険の導入
 精神障害者社会復帰施設の財源確保に関する課題解決に向けて、社会保障審議会障害者部会及び介護保険部会で議論されている障害者施策を取り巻く状況の変化、とりわけ財源問題にかかわる議論は、社会復帰施設の財源確保に向けて重要な示唆を与えている。ことに障害者施策に介護保険の導入を図る議論は、昨年11月以来、本協会の常任理事会及び制度・政策委員会において検討してきた事柄であり、本年1月の会報で本協会が介護保険の検討を開始したことを会員にお知らせした方向性と合致するものである。
 財源問題で障害者福祉の理念を歪めることがあってはならない。このことを大前提にしながらも、社会復帰施設の新たな安定財源確保を図ることは緊急の課題である。その解決策の一つとして介護保険導入が大きな選択肢として考えられる。介護保険の導入を図ることで生じる利点と欠点を整理しつつ、精神障害者支援策のあり方を問うことで、精神障害者施策の制度設計と今後のあり方を構築する必要がある。

3、介護保険導入にあたって譲れないこと
 介護保険はその制度化時点から若年障害者を対象とするといった議論がなされてきた。このことからすれば、どのような障害を持とうとも、国民の理解と協力の下にその支援をなすということであり、介護保険で精神障害者支援を担うことは大きな選択肢である。併せて介護保険は国・地方公共団体の責務であり、安定財源としての確立につながることや、制度の立ち上げと運営の過程で精神障害者問題に関する国民的理解を求めやすいといった利点がある。
 しかし、現行の介護保険では精神障害者の自立支援などに適用できない。あるいは応益負担に耐えられない精神障害者の生活実態から乖離した制度であるといった問題は、社会復帰施設の運営にとって大きな課題である。また、マネジメントに関わる指標がないこと、あるいはどのような機関が責任をもってケアマネジメントを担うのかなどといった課題が山積している。
 財源問題だけで介護保険に移行することへの危惧が指摘されていることから、介護保険の導入にあたっては、これらの課題解決を図ることが譲れない事柄となる。

4、介護保険に対する協会方針
 これまで述べてきたことから、全精社協は介護保険の導入に賛成し、以下の5点を介護保険の活用に向けた取り組みへの協会方針とする。

(1) 障害者基本法の理念を実現すべく、障害者施策の中でもっとも貧しい状況下に置かれていた精神障害者施策の進展を願って、介護保険の導入を積極的に推進する。

(2) 現行介護保険は精神障害者の自立支援などになじまない課題を抱えている。介護保険導入にあたっては介護の範囲拡大などに着目し、これらの課題克服をひとつの目安とする。

(3) 社会復帰施設の運営に関し、精神障害者の持つ障害特性が介護保険に反映しにくい場合、介護保険適用外の部分については丸め方式などの財源担保を行い、介護保険による介護度認定の活用と並行した2階建て運営費などの仕組みを求めていく。

(4) 精神障害者のケアマネジメント体制を確立し、公的責任の担保とともに、精神障害者地域生活支援センターにその中枢的機能を持たせることを推進する。

(5) 利用者の負担能力を考慮した制度を確立し、社会保障との関連で整合性が保てるシステムの構築を求めていく。


◇付帯事項:全精社協に介護保険対策本部を設け、必要な意見具申及び広報・研究・研修を行い、介護保険にかかわる会員意見の集約を図り、総合的施策のあり方を求めていく。


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