検討会、研究会等  審議会議事録  厚生労働省ホームページ

胸腹部臓器の障害に関する専門検討会(第3回腹部臓器部会)議事録


1 日時  平成16年6月17日(木)14:30〜16:30

2 場所  中央合同庁舎第5号館 専用第17会議室

3 出席者  医学専門家:尾崎正彦、戸田剛太郎、戸部隆吉、望月英隆(五十音順)
 厚生労働省:菊入閲雄、渡辺輝生、神保裕臣、菊池泰文 他

4 議事内容


食道について

戸部座長
 食道狭窄は、手術や保存療法(ブジー)によって治療できるものは、当然、治療の対象になりますが、治療が難しかったり手術が難しいこともあり、また、患者さん自身がそういう治療を要望されず、障害を残したまま、労災医療の打ち切りということを希望される場合もあります。そういう場合に、どのように認定するか、という問題があります。前回、そしゃくの機能が労災の認定として、現在ありますので、これが適用できるかどうかについて検討しました。その結果、そしゃくと食道の通過の状態とは別個であるということで、これは適用にならないと結論されました。
 本日検討をお願いしたい問題としては、ここに書かれてありますように(1)通過することができる食べ物の性状によって障害の程度をはかることができるという基準と(2)流動食以外は通過することができない症状を呈している場合に手術ないしブジーの措置により、狭窄部の改善を図るのが通常であるとしても、手術によっても、流動食以外は通過することができない症状を残した場合には療養の対象となり、治ゆとすることは適当ではない。そういうことから、(3)食道に狭窄部を残していることをエックス線写真上確認することができる。かつ、通過障害が生じているもののうち、流動食は通過するものの、固形物は通過できないものがある場合について、障害として評価することが適切である。そういうことが、前回、一応結論として得られたと思います。この流動食は通過するものの、固形物のなかで通過できないものがある場合をどのように確認するのか、狭窄の程度で考えるのが適当か、狭窄があることを前提として、かつ、医師の所見により認められるという要件が適当か、そういうことですけれども。これは、狭窄の程度は流動食が通過できる、固形物は通らない、だいたい流動食は通過できる、これでだいたい食道狭窄の程度を考えるのは適当だと思うんですが、いかがでしょうか。
 狭窄があることを前提、これは、患者さんの訴えではっきりと判ります。経口的にバリウムを摂取していただいて、透視をすれば一目瞭然に狭窄の程度も判りますので、医師の所見により認められるという要件は、確実に認定できると思いますが、いかがでしょうか。

尾崎先生
 客観的な所見と、患者さんの訴えとがありますよね。食べられるけどかなり違和感があって、詰まるような感じはあるけど、まあ何とか食べれますよという、例えば訴えにしても、その辺は、どちらを優先するのかということまで考えた方が良いのでしょうか。症状はともかくとして、食べられるというのを客観的にみられればそれでいい、ということで?

戸部座長
 このことは、他の臓器の認定にも関わると思いますけれども、通過障害というのはひとつの大きな苦痛ですね。ですから、食べられるけれども固形物は食べられない、辛うじて栄養は保てるための流動食はとれる。だから、食道の通過障害そのものは、やはり、患者さんの苦痛が残っているということで、ひとつの認定の条件になるのではないでしょうか。
 流動食を食べられれば、栄養上はある程度生かせることができるかも分からない。要するに他の臓器の影響の有無の程度については、それほど影響は残さないかもわからないけれども、大きなに苦痛ですね。ほかのものは、どうなんでしょうか。

戸田先生
 患者さんによって、非常に苦痛を訴える人とそうでない人があると思うんですよね。だから、ちょっとしたことで苦痛を訴える人とかなりの通過障害があるにもかかわらず苦痛を訴えない人がいるかもわからない。患者の主観的な訴えを評価するか、それとも客観的な評価、狭窄の程度、のどちらに重きを置くかということは…

戸部座長
 これは、自覚症状による愁訴と、他覚所見両方共に重要であると思います。患者さんの訴えがオーバーであるかどうかとういうのは、バリウム透視により通過状態をみて客観的に判断できる、ということでいかがでしょう。

戸田先生
 同程度の通過障害があって、先ほどのようにそれを訴える人もいれば、そうでない人もいると。
 訴えたほう、苦痛があるほうの等級をあげるというのは…?

医療監察官
 例えば、ちょっと、胸腹部臓器とは関係ないのですが、眼で、複視の障害というのを新たに上位に位置づけることにしたのですが、その要件として、複視を自覚していて、もう一つは、客観的な視点として一定上像がずれています、と。患者さんも複視が非常に辛いんです、というふうに訴えている。もう一つは、それだけでなくて、客観的な視点で、一定以上ずれていることがわかります、という二つの要件をもって、障害ということで評価をしているのですが、今のご義論も、似たようなかたちで、患者さんが通過障害があることを自覚していて、狭窄の事実が判ります、と。で、実際にバリウムなどを飲ませてみると、通過障害がある、と、この要件で通過障害があるというかたちで、お話を伺っていると、そんな感じかなという気がしたのですけれども。

尾崎先生
 症状があるというのが前提にあって、症状がある方を認定するということであれば。症状の度合いはいろいろですけれども、症状がなければ、多少狭くなっていても支障はないわけですよね。

望月先生
 客観的な狭窄の状態が同じであっても、患者さんの訴えの程度が違う場合、これは、そしゃく云々の話が前回なされたようですけれども、そしゃくのしかた、つまり、あまり噛まないで飲み込む人と、よく噛んで飲み込む人があるんですね。あまり噛まないで飲み込む人は、多分狭窄の程度はそんなに強くなくても、通過障害を自覚されると思うんですね。逆に、かなり強い狭窄があったとしても、よく噛む人はそんなに感じないんだろう、と。そこのところは、患者さんのそしゃくの程度、あるいは習慣をですね、直しなさいとかそういうことは難しい。やはり、患者さんの訴えというものが前提になるのではないかと思います。
 客観的な狭窄の程度をどのように判断するか、ということはなかなか難しいものと思います。例えば、食道の広い部分と狭い部分との差をとるのか、あるいはちょっとでも生理的な狭窄よりも狭いところがあれば、それを狭窄ととらえるか、狭窄の程度をどう客観的に判断するかとなると、それは難しいですね。皆さんの御意見と同じように、患者さんの訴えというのが前提だと思います。
 客観性をどうするか、ということについて私の印象を言わせて頂ければ、生理的な狭窄よりもさらに狭い器質的な狭窄が造影上認められるとすれば、比較的簡単で客観的かな、という気がします。

戸部座長
 客観的な認定の判断基準として、生理的な狭窄部位よりも、災害によって起こされた狭窄部位が狭い場合は、判断の一つの基準にはなると思われますが、実際に嚥下障害を訴え、通過障害を来すのは、狭窄はもっともっとひどいです。

尾崎先生
 ただ、外圧がかかったときに狭窄を起こしやすい場所というのは、生理的狭窄部なんですよね。そうすると、もともとの生理的狭窄部位がどのくらいか、というのはなかなかとりにくいかな。要するに、同じところが狭くなってしまう、と。

戸部座長
 文献などでアルカリ性劇薬を誤飲した場合、起こる場所は生理的な狭窄部位であると記載されています。

尾崎先生
 そうなんです。だから、どのくらい狭まったか、というのがわかりにくい。通常の患者さんを診ていても、生理的狭窄部位がかなり狭い方がいらっしゃるんですね。それが損傷によってさらに狭くなったのか、元から狭いのかというのは判りにくいかも知れないですよね。
 でも、客観的には生理的狭窄部位より、通常より狭いところがあれば、通過障害、というのがシンプルで判りやすいですよね。

戸部座長
 判りやすいですね。そして患者さんが大きな苦痛を訴えている場合は障害の認定をしても良いんじゃないでしょうか。

課長補佐
 前回の議論にもあったと思うのですが、全部食道を取ってしまって、胃を直結するような例がある、と。それでも、大した問題は生じない、というお話でした。そうすると、今のように狭窄があって、飲み込みが大変なんだ、という人の場合、むしろそうした方が障害がないという評価ができるのではないか、という非常に素朴な疑問があるのですが。

戸部座長
 はい。それで、最初に申しましたように、外科手術によって治るような場合には、手術を行うべきで、また、手術を勧めた方がいいと思います。けれども、今の医療の水準ではそれが難しいような災害の障害がいっぱいあります。それから、患者さんが希望されない場合、それを労災医療の終了として認定することが必要になってくるのではないかと思うのですが、それはどうでしょうか。

課長補佐
 患者さんが希望されない、というのは、例えば全部取ってしまった方が良いですよ、自覚症状がありませんよ、と。それにもかかわらず、それをしない理由がですね、判りにくいのです。手術が怖いとかですね、そういう理由があるのかも知れませんが、それについて、患者の希望をきいて高い補償を払うのか、障害を残さないような治療法があるのに、その治療を拒否した場合にそんなことをやるのか、というようなところがありまして、法律的には、損害賠償のような考え方をすると、損害の少ない方を選びなさい、と。もしそれを選ばないのであれば、やったものとみなして損害賠償するべきだ、という考え方も、法律的にはあると思うんですよね。

戸部座長
 おっしゃるとおりなんです。例えば、食道ガンなどは手術をして、食道を全部取ってしまって、腸管などを代用食道にするということは通常行われます。ところが、ガンが進みすぎてしまうと、これはできない。
 労働災害の場合でも、外傷の程度によって、とても再建手術ができない場合がいくらでもあるわけですね。胸部が潰れるような事故に遭って生存している場合ですね。勧める側にとっても、食道狭窄があって、すべてがそういう代用食道でまかなえるわけでもないのです。

望月先生
 それからもう一つ、手術をしてですね、違う臓器を持ち上げて食道の狭窄を改善しようという手術をしてもですね、その手術の結果、つないだところが狭窄を起こしてさらに悪い狭窄が生じてしまうことが、ある一定頻度で起こり得ます。ですから、そうなりますと大変ミゼラブルなことになってしまう。ですから、患者さんが希望しないからといって、認定の基準を操作するというのはおかしいのではないかと思います。

課長補佐
 それは、必ずしも成功するとは限らないというリスクがあるから、そこは患者の選択に委ねることが適当ということですか。

望月先生
 そうです。現実問題としては一定の頻度で手術による狭窄が起こりうるのです。

戸田先生
 胃を持ち上げて手術した後で、患者には相当苦痛があるわけですかね。通過障害の他に何かあるわけですか?

望月先生
 例えば下部食道の通過障害、狭窄があって、胃を持ち上げて胸部食道と胃袋を直接つなぎますと、今度は逆流性食道炎がかなり強く出てきてですね、狭窄よりももっと厳しい訴えをする人がいます。だから、必ずしも手術がすべてを解決するわけではない。
 先ほどのご質問に対しては、手術を選ばないからということを条件にして認定基準を決めてはいけないと思います。手術でも思わしくないことは起きます。先ほど戸田先生がおっしゃったように胃を持ち上げて頸部につなげば小胃症状が出てしまいますね。胃袋は管状の細長い臓器になってしまいますから、たくさん溜まりませんので、健康なときの胃の作用とは違ってくる。

課長補佐
 そうすると、今、食道の障害としては通過障害しかないというようなことで議論が進んでいるのですが、取ってしまう、ということについての障害もあるということですか。

望月先生
 そうですね。食道損傷後の食道狭窄があって、狭窄部位をとることによって新たな障害が生じることがあります。

課長補佐
 取る障害というのもある場合、それが同じ程度の障害であれば、食道について取ってしまう障害と通過障害が、いずれも何級です、とすれば解決するんですが、障害の評価に差があるのであれば分けなければいけないのですけども。

戸部座長
 今望月先生がおっしゃったように、むしろ、通過障害よりも悪い障害が残ってくる場合がありますね。胃を持ってきても腸管を持ってきても、これはなかなか難しい場合があります。

医療監察官
 それはむしろ、胃がそのままであると、胃の噴門部が逆流をしないような機能を果たさなくなることによって逆流性食道炎のようなものが生じるというのと、胃を持ち上げた場合に吻合部が狭窄してしまって、治そうと思ったものよりも、もっと重篤な症状通過障害が生じてしまう、という理解でよろしいでしょうか。

望月先生
 私が指摘させていただいたのは、その二種類ですね。

戸部座長
 逆流が起こらないと、今度は詰まってしまうんです。ところが逆流が起こりますと、アルカリ性の腸液や胃酸そのものが逆流して、炎症が発生し、患者さんは苦しいのです。ですから、いずれにしても食道の損傷の後の修復というのは難しい場合が多い。それが、医学的に難しいのと同時に、その後の状態というのは、患者さんによって千差万別です。そういうことも含めて、食道狭窄そのものを考えていく必要があると思います。
 これはあくまで、他の臓器にも共通することですけれども、手術によって確実に治しうるものは再手術すべきですけれどもそれができないことが想定される場合、あるいはできたとしても、それによる障害が十分考えられるような場合、そういうことも含めて患者さんに説明すると思いますし、患者さんが、それを受け入れられない場合も含めて考えていかなければならないと思います。

尾崎先生
 食道を切除しても自覚症状がなければ、それを障害として評価しなくても良いと思いますし、切除しなくても自覚症状があれば、評価することを考えなくてはならないと思います。
 では、食道をなくした人に自覚症状がないからそのままで良いかといえば、例えば胆のうにしてもこの間話し合ったように、一つの臓器が失われたということに関しては、何かしら考えなくてはならないと思いますが、通過障害というのは、食道を切除しようがしまいが、その症状が出た時点で考えていかなければ、という気がします。
 治療方針というのは千差万別で、それをいちいち場合分けすることは現実的ではない。

望月先生
 食道の障害を、今のところ通過障害ということに絞って検討していますね。その議論の中で、今度は逆流性食道炎という話も出てきている。かなり複雑化しているわけですが、通過障害に関しては、先ほどから指摘があるように、本人の自覚症状と、それからバリウム造影による客観的な評価で障害認定基準が作れるだろうと思いますね。それと、通過障害以外の障害として、もう一つ、逆流性食道炎というものも入れておかないと、カバーできない面が出てくるのではないかな、と。話を複雑にしてしまうようで申し訳ないのですが。

戸部座長
 そうですね。そういう意味で、障害による患者さんの訴えは非常に大きいと思いますね。そしてそれを、客観的に裏付けられれば、ということですかね。

望月先生
 今、私が申し上げたのは、4ページの2番の「食道の構造及び機能並びに業務上の傷病による影響」の「要検討」の(2)ですね。食道の相当部分を切除した場合においても、胃の機能に影響をもたらすことは通常ないと考えてよいか、というところで、先ほど医療監察官が、噴門がどうの、という御指摘をなさいましたよね。つまり、逆流性食道炎はそういうことで起こるわけで、この(2)の要検討の点については、私が先ほど指摘させていただいたようなことがあるということで、障害の一つに入れる必要がある。それを具体的にどういうふうに評価していくか、ということになると、やはり、患者さんの訴えと客観的な評価の両方が必要になるのではないでしょうか。

医療監察官
 この場合食道の障害として評価するべきなのか、それとも胃の障害として評価するのか、ということなのですけれども。逆流性食道炎が、胃のところにも出てくるし、食道のところにも出てくるということにするのか、食道については通過障害として、その、切ったところによって、吻合したときに胃から昇ってくる、と。そういう胃の障害として評価した方がよろしいのか、あるいは食道の障害として盛り込むのがよろしいのでしょうか。

望月先生
 障害の原因となった臓器ですね、修復の後、あるいは障害によって起こったものが、病態として同じものであれば、両方に置かなければいけないと思いますね。食道の障害の場合にもこういうことが起こるし、胃の障害でも起こります、と。

戸田先生
 食道に通過障害がある場合、これは障害として評価しますよね。その通過障害があるために行われた医療行為によって起こったものも、一緒に考えていかなければならないのではないでしょうね。

尾崎先生
 先ほどおっしゃったように、自覚症状があることを前提として、まず、通過障害に関しては、例えば狭窄で一つ考える。それを判定した医者がそんなに通過障害はないけれども自覚症状と乖離しているという場合、例えば、内視鏡所見で食道粘膜のびらんがあるとか、ということで、これは逆流性食道炎だろうという、そういう二本立てでいけばいいのかな、と。
 逆流性食道炎の診断をつけるのは内視鏡しかないので、検査としてはレントゲンで通過障害と、逆流性食道炎内視鏡所見、この二つで客観的な評価をする、ということですね。

課長補佐
 逆流性食道炎というのは、炎症ですよね。つまり病気の状態だと思うんですが、これは、頻繁にそれが起こるという状態で固定されてしまうんですか?治療の必要はないのですか?

尾崎先生
 薬物治療だけですね。

課長補佐
 薬物治療が必要ということになると、治ゆの状態ではありませんので、そうすると、障害の対象にはならないんです。炎症があるので、これは薬で抑えます、という状態を治ゆとみていいのだろうか、という点に問題が出てくるのです。

望月先生
 そうですね。それは、もう半永久的に制酸剤を飲まなければならない。

課長補佐
 それを押さえる薬だけを投与すれば、あとは特段悪さをしません、ということであれば、それをアフターケアの対象にするという方法が考えられるのですが、そうではなく、積極的に治療を行わなければならない、ということであれば、治ゆにはならずに治療を継続するということになってしまうんです。

戸部座長
 そういう症状を起こしていて、治療が必要だから労災では障害認定をしない、ということですが、そういう障害があるわけですから、障害として認定することが必要でしょうね。

医療監察官
 薬を飲むことくらいしか、治療はない、という理解でよろしいのでしょうか。

戸部座長
 難しいですね。症状によっては手術が必要な場合もありますし。食道炎がひどい場合は吻合方法を変えるとか、そういうこともよくやりましたけれども、そういう症状を起こした、ということも含めて障害として評価することができれば、やはり等級は考えるべきではないでしょうか。補佐のおっしゃったこともわかるのですが。

課長補佐
 今の制度では、治療行為と障害の認定、この両方はできないことになっております。ただ、唯一の接点としてアフターケアという制度がありまして、症状は固定しているけれども、あとは簡単な鎮痛剤を投与し続けるとか、症状を抑えるという薬物投与を行う程度であれば、アフターケアということで、一応障害として評価して、治療に近いものなのですが、治療とはちがうものとして位置づけているものがありまして、そこに位置づけられるものなのか、あるいはそうでないのか。

望月先生
 アフターケアというのは、どういう位置づけですか?一応治ゆということで認めるわけですか?

医療監察官
 治ゆということで治療行為は終わります。

望月先生
 でも実際には投薬という治療が行われるわけですよね。

課長補佐
 投薬とはいっても積極的な治療というよりは、症状の変動がない程度に抑えるといった程度のものになります。

望月先生
 それは、実際には医療費ですけれども、その医療費はカバーされるわけですね?

課長補佐
 はい。

望月先生
 やはり、逆流性食道炎に関しては、胃袋が残っている場合でも胃袋を全部とられた形でも、月に一回程度処方してもらうために通院する、ということになりますね。それで症状が良くなるかならないかは別として、一応それで症状が固定したということで障害認定してアフターケアの範疇でもって通院の補償をしていく、というのが良いんじゃないでしょうかね。

戸部座長
 内視鏡で潰瘍ができているような場合は治療が必要でしょうね。そして多分一生涯つづく可能性はありますが、内視鏡で潰瘍が発生するような逆流性食道炎を起こしておれば、治療して、終わった時点で障害認定するということもあり得ますから、一応、逆流性食道炎を発生するような状態と食道狭窄は認定する方向で、患者の訴えとバリウム透視と、場合によっては内視鏡所見によって認定する、という形でどうですか。それで11級に認定するというような。

医療監察官
 症状が一つであれば11級、症状が二つ以上あれば9級というような形になりますでしょうか。

戸部座長
 9級というのは、具体的にはどういう状況でしたか?

医療監察官
 労働に支障が認められるというのが11級で、職種制限が認められる場合、要するに通常の業務はできるけれども職種によっては業務に就けないようなものがある場合は9級ということになります。

戸部座長
 等級は、最後に他の臓器との整合性、それから他の部会との整合性が必要だと思いますけれども、やはり、ある程度ここでだいたいの等級を考えておいて最終的に整合性を考えなければいけないと思います。等級をつけるとすれば、だいたい何級くらいが適当でしょうかね。

望月先生
 5ページの一番下のところにある11級の9、これが順当なんじゃないでしょうかね。

課長補佐
 第1回会議の資料の4ページに、目安が示されています。9級くらいになると、職種の制限がありますよ、というのが一つの大きな目安です。職種の制限がない、ということであれば11級というのが、基本的な考え方です。
 食道の狭窄がある場合について等級を、最終的には他の障害との比較が必要ですが、とりあえず、この障害の程度を考えた場合に、何級が適当か、ということなんですけれども。具体的に日常生活、あるいは仕事をしていくなかで特に支障がないような感じを受けるんですね。ただ、飲み込むときに辛いとか、そういう支障はあるけれども、それさえ我慢すれば普通の仕事はできる、ということであれば11級という評価が適当なのかなという感じがしますけれども。

戸部座長
 課長、どうですか?

補償課長
 やはり11級くらいが妥当ではないでしょうか。

戸部座長
 それでは、一応11級ということにしておいて良いですか?また、最終的に見直すことにします。



腹膜・腸間膜について

戸部座長
 いろいろな認定の中で、腸管癒着と書かれている例はずいぶん多いでしょうね。
 労災にしても、交通外傷にしても、いろいろの手術の後の障害にしても、不定愁訴があれば腸管癒着と書かれている場合が多いと思いますので、そういうものについての論議というのは大事だと思います。
 また、今回腹膜、腸間膜の取扱いの中で、腸間膜と腹膜と一緒になって、腸間膜の中でも非常に大事な腸間膜動脈の損傷が含まれています。腸間膜動脈の損傷は、非常に大事な腸管壊死の問題がありますので、望月先生にいろいろと検討していただいていますけれども、これは別個に考えるべきでしょうか?

望月先生
 いや、腸間膜の中の血管、これは動脈にしても静脈にしてもこの損傷が起きますと、それの支配領域も、胃だとか腸だとか、いわゆる消化管が損傷を受けまして、切除されるわけですね。したがいまして、腸間膜動脈の損傷に関しては、それに関連する臓器の障害と同じことになってしまう、ということから、腸間膜動脈あるいは静脈だけを取り上げた分類は必要ないのではないか、というのが私の考えです。

戸部座長
 そのとおりですね。それで良いですね、ここに書かれている意味は。

医療監察官
 はい。7ページの4の(1)のアは、先生がいまおっしゃったことを書かせていただいているつもりです。

戸部座長
 教科書などで腹膜と腸間膜が一緒になっているので、こういう風な取り上げ方をしている、と理解して良いですね。

医療監察官
 はい。

戸部座長
 大きな課題である腸管癒着の中で、癒着に起因する病態では狭窄、閉塞、絞扼壊死といったものがありますが、閉塞、絞扼壊死は、救急手術でとりあげるものなので障害補償の検討の対象から外すということですね。

医療監察官
 はい、そういう理解でよろしければ、腸管狭窄のみを障害として評価するということでいきたいと思います。先生のおっしゃるように、閉塞と絞扼壊死は治療対象、と書かせて頂いております。

戸部座長
 腸管の狭窄だけを障害の評価の対象とすることでよろしいのですね。

医療監察官
 はい。

戸部座長
 腸管狭窄がどの程度認められる場合に障害補償の対象にするか、ということで具体的に、狭窄による症状にとどまる場合には障害の程度は軽いと考えられるので11級が適当である、と、そういうことでしたね。具体的にどのような点に着目するかについて、狭窄症状の発現の頻度による評価、狭窄症状回避のための摂食制限の実態による評価、腹部単純エックス線像による評価、ということですね。1は自覚症状、3は他感的な所見ですね。これは両方ともに必要ですね。これで評価する、と。この評価の基準についていろいろ御意見頂いておりますね。それは全部、まとめるときに書いていただけますね。

医療監察官
 はい。

戸部座長
 障害の程度は軽いと考えられるので11級が適当、ということですが、これはいかがでしょうか。

望月先生
 障害の程度は、やはり11級でよろしいかと思います。狭窄というものは閉塞ですとか絞扼壊死に至らないものでして、時々苦痛がでるとか、腹腔膨満感とか、そういうものですから、職種を変えなければいけないとか、そういうことには至らないかな、と思います。したがって、11級の9でよろしいと思います。
 それから具体的な基準をどうするかということで、案1から案3までございますが、案2は摂食制限の実態による評価ということなのですが、これは非常に評価が難しいものだと思います。ですから、案2というのはあまりなじまないのではないかと思います。案1には発現頻度による評価と書いてありますが、実は案1の中には案3の中に書いてあるのと同じような客観的な評価も述べられておりますので、案1が妥当なのではないかな、と考えます。

医療監察官
 12ページのところに、これも望月先生の御教示で書かせていただいたのですが、では何回程度から障害として評価をするのか、ということについては腸管狭窄でもあまりしばしば起こるようなものは治療の対象になるということ。ただ、ほとんど起こらないものについて障害として評価するのはどうか、ということにもなるものですから、これ以上でこれ以下、というようなものについて御議論いただきたいのですが。

尾崎先生
 これは難しいですね。

戸部座長
 それと、例えば、狭窄のために保存療法、イレウス管を入れて入院しないとなかなか治らないけれども、手術するには至らないような状態を繰り返すことが比較的多いですね。ちょっとした腹痛で、自分で自宅療法をしていれば良くなるものと、少なくとも入院して治療しないとなかなか治らない場合と。

望月先生
 入院しなければ治らない、腸管内減圧をしなければ治らないようなものは、閉塞として定義して、入院しなくても改善するような状態のものを狭窄とする、と、そんなイメージです。ですから、入院加療の必要なものは閉塞ということで。

医療監察官
 今の御議論は、7ページの下の4行くらいのところに書いてあるものでカバーされているものと考えてよろしいでしょうか。

戸部座長
 そうですね。これでよろしいでしょうか?

戸田先生、尾崎先生
 はい。

戸部座長
 では、この望月先生から頂いた案を採用したいと思います。

尾崎先生
 ただ、月何回くらいというのは難しいですけれども、週に一回くらいですかね。月4,5回程度とか。

医療監察官
 何回も起きるようだと、これは治療の対象になりますでしょうか?

望月先生
 なりますね。入院になった時点で、それはもう再発、治療でしょう。

医療監察官
 では、週1回程度、ということでよろしいでしょうか?

尾崎先生
 そうですね。

戸部座長
 課長さん、それでよろしいですか?

補償課長
 障害としてある程度評価をして、なおかつ、積極的な治療を必要とするときは再発としよう、というくらいなものですから、出てくる症状がわからないということでは、ちょっとまずいだろう、ということからすると、尾崎先生がおっしゃったように、週に1回くらいそういう症状を感じるものは評価の対象とする、というのがやはり妥当なのだろう、と思います。

尾崎先生
 で、入院は必要ない、と。

補償課長
 そこが大事なのだろう、と思います。

戸部座長
 入院を必要としない、というのが大前提ですね。



ヘルニアについて

戸部座長
 腹壁瘢痕ヘルニアの他に、腹壁ヘルニア、そけいヘルニア、内ヘルニア、横隔膜ヘルニアについては、労働省からの通達に従って検討するということに致します。また、内ヘルニア、横隔膜ヘルニアについては、症状が出現する場合には療養の対象となることから障害補償の対象とはならないということです。
 腹壁瘢痕ヘルニアの重症合併症が急性絞扼性嵌頓であることから、ヘルニア内容の脱出が起こる腹圧の程度、ヘルニア内容の還納が容易でか否か等に着目する方向で検討する。なお、この場合、還納が容易であるか否かは何により判断することが適当か併せて判断する、ということですが、還納が容易であるか否かについては、自分で入れられるかどうか、お医者さんが入れても入りにくいのか、容易かどうかというだけで判断でき、問題ないと思います。
 急性絞扼性嵌頓、普通は瘢痕ヘルニアなどの場合、こういうことよりも、大きくガバーっと出てくる場合が比較的多いのですが、むしろ最初の手術の状況でヘルニア門が非常に小さいときは、飛び出したまま入らないということも起こりうるでしょうね。ただ、その頻度は比較的少ないですが、これも考えておく必要がありますか?

望月先生
 あると思います。外傷によって瘢痕ヘルニアができること以外に、外傷のための手術をした結果、腹壁瘢痕ヘルニアができる場合があるんですね。その場合には小さな瘢痕ヘルニアができる。

戸部座長
 その場合でも急性の絞扼性の嵌頓が起これば、救急手術の対象になりますね。ですから、絞扼性の嵌頓が起こった場合は治療の対象となるということを書いておいてもらえればよろしいのではないのでしょうか。
 還納が容易か否かについては、自分で入れられるかどうか、ということで判断できます。

医療監察官
 9ページに要検討ということで、還納が容易とは、患者が患部に圧迫を加えるのみで還納するものをいうと理解してよいか、とありますが、これでよろしいでしょうか?

戸部座長
 そうですね、自分で押さえれば入るとか、寝ころぶとすぐ入る、というのは還納が容易です。

医療監察官
 9ページから10ページにかけて、Aとして軽い腹壁瘢痕ヘルニア、Bとして中程度の腹壁瘢痕ヘルニア、Cとして高度な腹壁瘢痕ヘルニア、ということで三つに分けていますが、Cはいつも脱出してしまうというもので病態としても予防がなかなか困難なもの、Bは時々出るもので、予防するためには必ず腹帯などをしていなければならないもの、Aはたまに出ることがあるものですが、すぐに還納することができるもの、というような形で三つに区分するようなことでどうか、ということです。これは尾崎先生に御教示いただいたところなのですが。

尾崎先生
 ヘルニアの治療方針がどの程度なのかということを考えてみますと、基本的には有症状例おいうのは絶対的適応だ、という考え方でいって、治療をした上でどうしても治療しきれないくらいのものを対象にするのかな、という気がしているんですね。それで、ヘルニア門の大きさとか症状とかいろいろあるのですけれども、結果的には脱出する頻度と脱出予防が可能であるかというところで分けるしかないのかな、ということです。

戸部座長
 そうですね。高齢者などは手術しても縫合した筋膜が弱くて、再発してくる可能性が多いですね。メッシュで整復しても…

望月先生
 腹壁瘢痕ヘルニアで多いのは正中部分ですね、正中部分で白線が離開しているだけで、突出してこない場合というのがありますね。逆にヘルニア門がはっきりしているような場合は、小さくても大きくても、大体は出てしまうのではないでしょうか。ですから、軽微な場合というのが脱出することはほとんどないと書いてあるのですけれども、これは白線の離開に止まっているだけで、脱出してこないという、そういう理解でよろしいのですか?

尾崎先生
 最初私が考えたのは、門というよりは、症状としてみるしかないだろうと思って、白線離開程度のものであっても門が小さくても大きくても、すぐに戻るのであれば軽微として扱ってよいのではないか、ということです。

望月先生
 では、頻度というのはあまり関係ないということでしょうか。やはり容易に還納することができる、と?

尾崎先生
 はい。頻度というよりは、自分で押せばすぐに戻りますよ、というのが一番軽いもので、腹帯あるいはコルセットのようなもので脱出を予防できます、というのが中程度というところでどうかな、と。あるいは予防できるものも含めて一緒でも良いかなという気もしますが、要するに、治療対象になるかならないか、と。本来の症状であれば治療対象なのだけれど、全身的な要因で治療の適応にならないものをどうするか、という考え方の方がいいかなという気がします。
 やはり、症状が出ているというのは治療を前提に考えますよね。

医療監察官
 今のお話ですと案の1も案の2もヘルニア門のことが書いてあるのですが、そのようなことよりも、まず、ヘルニア内容の還納が容易であるというのが軽微なものという方がいいということ。二番目として、腹帯をしていれば、予防ができるもの。ほかのものは腹帯をしても予防もできないもの、という形で書いてありますけれども、予防ができれば、三段階でなくて二段階でも良いというお話がありましたが、どちらのほうがよろしいのでしょうか。

戸部座長
 治療のことをおっしゃいましたけども、ヘルニアがはっきりしていて、症状が絶えず出てくるものは手術を勧めるべきです。根治手術で治るから治してしまうべきです。だけど、手術しても治らないものがあるんです。お年寄りとか、メッシュなんかを使っても最終的には治らないというものは障害を残すものと考えて認定すべきではないか、と思います。

課長補佐
 そのように取り扱うことを前提とした場合、どのように評価をするかということになるんですが、今の整理ですと、予防できるかどうかということに着目して評価するということになるのでしょうか?

医療監察官
 予防というか、腹帯を付けなければいけないかどうかで、まず決めます。腹帯をしていればヘルニア内容が脱出してくることがないようであれば障害として評価して、腹帯をしていても脱出してしまうようなものは治療の対象とします、というのが今の案なんです。

望月先生
 治療というのが二つ混在していて判りにくいですね。尾崎先生ご指摘のように、症状のあるものは手術の適応ですということで、手術できないものだけが障害の対象となるという意見がありましたよね。しかし、今議論が進む中で、また手術しなければいけないものというのが出てきていますよね…ちょっと判りにくいですよね。

戸部座長
 パン屋さんの職人で、できたパンをたくさん持って運搬するためにお腹に力が加わって、そけいヘルニア、内そけいヘルニアがたえず出て困ったということで、初めはヘルニアバンドでずっと治療しておりました。手術をしたけれども重たいものを持つものですから再発してきました。それは作業関連疾患だと思います。労働省からの通達にヘルニアを入れているのも、そういうことを含めてだと思います。交通災害などでお腹に傷を負って、手術をして、それが腹壁瘢痕ヘルニアになった、という場合でも同じようなことがいえると思います。

医療監察官
 様子を見なければいけないという、治療という言葉が二つあって判りにくいということですが、Cにあるようなものは医師のもとで定期的にみてあげないといけないような状態、という理解でよろしいのでしょうか。その時点では治療できないにしても、ある程度塞がれば、こういうものは、当然、手術の対象としていくんですよ、というもの…一旦無理ですよ、と言ってそのまま放置するような事案ではない。AとBで変わらないということであればCについての障害を考えなければいけないということなのですが。

補償課長
 これ、どうなんですかね、Bのような状態のときは、職種が明らかに制限を受けるくらい、重量物を取り扱うようなことをやると必ず出てしまうのですか?

尾崎先生
 出ますよね。

補償課長
 Aは、出るんだけれども自分で戻すことができるから、そんなに職種制限は受けません、ということですから、ある程度力を入れることについて制限を受けることが明々白々だ、というようなところの分け方でAとBは違うんだ、というのは駄目でしょうかね。

医療監察官
 案の1では、Aについては通常では殆ど出ることはなく、かつ、還納も容易なもの。Bでは、ある程度の腹圧がかかったときに初めて出る、ということで分けています。

尾崎先生
 イメージとしては、軽微なものは殆ど制限はない。ただ、出ることは出るという程度で、中程度というのはやはり何かしらの制限を受ける。

補償課長
 完全に出るのはレベルが全然違うという話ではなくて、作業に対しては相当制限があるかどうかで分けることはできないでしょうか。

望月先生
 あの、それはですね、その人が元々どういう作業をしているかによって違ってきますよね。座ってやる作業であれば、Bであっても、職種変えなくてもいいわけですよね。Aであっても、重いものを持つような場合は気になると思うんです。還納はできるとはいってもその都度横になったりしなければならないようでは仕事にならないですから。ですから、程度の部分は非常に難しい。

補償課長
 それならば先ほどのように、補助具等で押さえていれば通常は大丈夫であるとか、そういう分け方ではどうでしょうか?

望月先生
 そうですね、そういう面での分類のほうが良いのかも知れませんね。

課長補佐
 一番簡単なのは、どの程度、特に重勤労働とかそういうレベルではなくて、日常生活的なことですね、日常生活の中でも重量物を運ぶというのは、例えば屋内でバケツを持つ程度とか、その程度のことでどのくらいの割合で脱出が起きるとか、そういうのを考えたときに、わりと頻繁に出るとか、滅多に出ないとか、そういうのは判るのでしょうか。

戸部座長
 ヘルニアというのは、腹圧がかかったときに、抵抗の弱いところに腸管とか腸間膜が腹膜をかぶったままお腹から出てきてしまうわけです。ですから、立っただけでも出てくるヘルニアもあります。それから、重たいものを持ったときに出てくるものもあります。ヘルニア門が小さい場合はお腹に力を入れたとき、例えば、重たいものを持ち上げたときに初めて出てくる、そういうものから、手術をしたときに、白線が切れて出てしまうもの、これは、もう立っただけで出てきます。ただ、そういうものはすぐに元に戻ります。

課長補佐
 そうすると、ヘルニア門の大きさで障害の程度を評価できるのではないか、ということでしょうか?

戸部座長
 そういうものもあるでしょう。小さいところから出てきたヘルニアは入りにくくて、症状がきつい場合がありますね。

望月先生
 そうなんです。大きいからといって症状が強いとは限らない。

戸部座長
 大きい方がかえって楽ですね。

課長補佐
 症状が強いとか弱いとかというのは、痛みのことですか?

望月先生
 痛みですね。それから、不快感。

課長補佐
 評価の要素としては出る頻度、これは大きさに比例しているようですが、それと、出た場合の痛みの強さ。この二つくらいでしょうか?

戸部座長
 大きい場合は立っただけですぐ飛び出します。それでも横になるとすぐ入りますし、腹帯をしていれば、自分で納められる場合があります。

戸田先生
 腹帯をしていれば納まるというのは、職種制限はある、ということですか?

戸部座長
 ないでしょうね。

望月先生
 そういう人は重いものは持てないですよね。デスクワークなら問題ないかも知れない。
 ですから先ほど申し上げたように、元々どういう仕事をしていたかが問題になると思うんです。

課長補佐
 この仕事はできるけどこれはできない、といったような厳密な分類は必要ないのですが。

望月先生
 認定の程度がありますよね、11級なのか9級なのかという…

課長補佐
 9級くらいの職種制限があるというのは、重勤労働は無理だ、というような、そう人については当然、9級の評価がなされるべきだと思います。

望月先生
 元々はデスクワークだった人は、程度がひどくても11級になるのですか?

課長補佐
 いいえ。

望月先生
 それはやっぱり9級になる…?(「9級です。」と答える。)それなら、判ります。

課長補佐
 頻繁に出るような人は、還納が容易であっても重い荷物を持つような仕事は難しいのではないかな、と。

医療監察官
 そうしますと、9ページのBのところで二つ書かせていただいているのですけれどもヘルニア内容の脱出の頻度が書いてあるのですが、ある程度重たいものを持った場合にヘルニア内容が脱出してしまうというものと、もう一つは腹帯をしていれば予防はできます、と、これを中程度の…

課長補佐
 そこがよくわからない。

戸部座長
 労働省の文献の終わりの方にある重激な業務についての記述で、重激な業務とは重量物を間断なく取り扱う業種で、その中にヘルニアがありますね。ですから、どのくらいでヘルニアが出るかという一つの目安にはなるでしょうね。

課長補佐
 頻度を目安にした場合に、それを予防できるかどうかが目安になる、というのがわからないのです。

医療監察官
 脱出は腹圧の程度だけで言ってしまうというのが…

尾崎先生
 腹圧をかけた場合に初めて起こる場合と、立位だけで起こる場合と、常に起こっている場合があるわけですね。

課長補佐
 常に起こるというのは、具体的にはどういう状態なのでしょうか。

望月先生
 完全に、もう離開しちゃっててですね、ひどい場合は寝ていても臓器が皮膚の下に見えているような場合もありますよね。立って労働することは結構つらいと思いますよ。これをCとしています。それから、そういうのだと殆ど手術でも治せない、欠損が大きすぎて。
 Bというのは、立位で出る。Aというのは、腹圧を強くかけたときに出る。例えばここで10級程度とかありますけれども、それは適切に規定すればいいわけです。
 そんなことで、どうでしょうか、尾崎先生。

尾崎先生
 出ることは出るから、と、そういうことで良いんですよ。先に出ているというのが条件にあって、そのグレードを、力を入れて出るか、立って出るか出っ放しか、という…そして、それに併せてBくらいだと当然、職種制限も加わるだろう、ということで9級くらい。立っただけで出てしまうくらいだと…

課長補佐
 Cだと、もう一つぐらい上になるわけですね。

医療監察官
 常に出ているような状況というのは、今の案ですと治療の対象だ、ということにしています。

尾崎先生
 ただ、治療にならないケースが出てきてしまうので…
 当初、私は治療の対象だ、と考えていたのですが、治療はこの場合は外してしまって、ヘルニアの出方だけで三つに分けるのがシンプルだと思うんです。

医療監察官
 最初にご紹介させていただいたような、通院自体が寝たままのような状況、こうなりますと、3級にもなってしまうかな、と思います。そもそも仕事に就けないわけですから。そういう症例が出た場合は、やはり働けないと考えたほうがよろしいですか?常に出っ放しという状況というのは。

補償課長
 そういう場合、日常の生活はどのようになるのですか?

尾崎先生
 腹帯を巻いたりして、出ているけど押さえている、という状況になります。

戸部座長
 腹膜が大きく開いて出てしまう場合は、案外あまり症状がないのです。狭いそけい部から、一所懸命力を入れて物を持ち上げたようなときは、そこで締め付けられますから出たままになってしまうとまた大変なのです。
 大きな西瓜くらいのものが飛び出す人は、出っ放しでも、横になるとスッと納まりますから、症状はわりかた少ない。

尾崎先生
 そうですね、でもそういう人は必ず何か巻いてますよね。症状として痛みは軽微だけれども、やっぱり邪魔くさいみたいですね。

課長補佐
 そういう人で仕事に就いている人というのは…

尾崎先生
 デスクワークならできますよね。

医療監察官
 そういうことであれば、軽易な業務には就ける、ということで7級相当になりますかね。

尾崎先生
 そうすると、等級の段階は11級、9級、7級という感じですかね。

尾崎先生
 最初に紹介された腹壁瘢痕ヘルニアの場合には、症状は腸管癒着とかいろいろなものがからんだ最終的な症状だと思いますので、その場合には複合されてくるのでしょうから…

課長補佐
 望月先生が先ほどおっしゃられた痛みの評価というのは考慮する必要があるのでしょうか?これはかなり強い痛みなのでしょうか?

望月先生
 腹壁瘢痕ヘルニアで痛みがあるのは殆ど嵌頓の場合ですね。そけいヘルニアの場合には、丁度そこのところにいろいろな神経が通っていますから、他の神経を圧迫することがあります。睾丸にいく神経とかですね、それの刺激症状が出たりして、非常に不快なんですね。不快感を伴った痛みがある。腹壁瘢痕ヘルニアの場合には、嵌頓しない限りはそれほど痛みはありませんね。

医療監察官
 内ヘルニアと横隔膜ヘルニアについては治療の対象ということで、望月先生に御教示いただいて書かせていただいたものなのですが、こういう理解でよろしいか御確認いただければ、というものです。

戸部座長
 内ヘルニアが症状を現わしてくる場合、大抵の場合、お腹の中で腸管がそこへはまり込んで閉塞を起こすとか、そういうことがない限り、なかなか見つからないですから、それが出たときは手術の対象になりますし、障害認定としては考えなくても良いのではないでしょうか。
 横隔膜ヘルニア…横隔膜障害は、胸部部会でしたか?

医療監察官
 実際には腹部の臓器が脱出して胸部臓器を圧迫している状態だと思いますので、どちらも絡んでくるような話ですから、腹部部会ではこのような結論です、ということを胸部部会に伝えてもよろしければそのようにいたします。

戸部座長
 これが障害として残るというのは、どうなんでしょうかね。交通災害とか落下災害で横隔膜が損傷された場合は、その場で縫合されてしまうでしょう。

望月先生
 何年か経過して初めて見つかる場合がありますが…それも症状がなくて見つかることがあるんですね。それをどうしたらいいかというのも問題なんですが、それは非常に希でしょう。

望月先生
 戸部先生おっしゃったように、障害の時に、もう、わかりますよね
 横隔膜ヘルニアがある状態で治ゆとされて、障害認定の対象ということにはならないと思います。

医療監察官
 内ヘルニアも横隔膜ヘルニアも、基本的には治療の対象だ、ということで、障害の対象ということにはしないということでよろしいですか?

戸部座長
 治ゆ認定には当たらないということでよろしいのではないでしょうか。



胆のうについて

医療監察官
 肝外胆管につきましては、前回の議論をおさらいさせて頂いているだけでございます。15ページから16ページにかけてでございますけれども、胆のうの摘出は、通常の術式ですと、殆どそれで症状も出ない、ということですが、まったく、元に戻るわけではないといところで11級ないし13級、これは障害等級の新設ということになりますので、他の部会との整合性を図りながら決める、ということになります。
 それから、肝外胆管につきましては、狭窄で通過障害があれば治療の対象にします、と。通過障害が認められなければ障害としては評価しない、というかたちの前回の御議論でしたので、そのように書かせて頂いております。

戸部座長
 これでよろしいでしょうか。望月先生、いかがですか?

望月先生
 胆のうに関しては、胆のうは一つしかない臓器ですから、取った場合、11級の9というのも判らないわけでもないんですけれども、例えばひ臓なんか取った場合にはやっぱり11級になるんですか?

医療監察官
 ひ臓についてはこれからの議論になるのですが、同じように、症状が生じないのであれば、現行は8級なのですが、11級ないし13級という評価になろうかと思います。

望月先生
 胆のうは無くても、まったく普通の生活ができるんですよね。ですから、胆管の損傷もそれがきちんと修復されてしまえば障害の対象としなくても良いとするならば、胆のうも障害の対象にしなくても良いのではないかと思うのですけれども…蒸し返しで申し訳ありませんが。

戸部座長
 そのとおりなんです。前回も議論になったのですが、胆のう摘出の手術というのは良く行われていまして、全くといって良いほど症状は残しません。従って、等級を考える必要はないという考えも確かにあります。ただ、やはり唯一の臓器を無くした場合、全く無症状であるからといって評価しないのはいかがなものかな、という観点から非常に軽い等級ではありますがゼロにしなかったんですね。

医療監察官
 他はそれなりに症状が出ているのに11級だ、という均衡もありますので、それについては11級又は13級ということで書かせて頂いているわけです。ここのところは、殆ど症状として現れないということを確認させて頂いて、他の部会との関係もありますので13級にするのか、障害なしということにするのか、その部分については再度御議論頂いて、基本は症状がないということについては間違いがないということでよろしいでしょうか?

望月先生
 胆のうの取り方が妥当な取り方さえしていれば、症状は出ないと思います。

戸部座長
 もう一つの観点は、交通災害や落下災害のときには、胆のうだけが損傷されることはまずない、ということです。周辺の肝臓、あるいは腸管、他の臓器の障害も考えられます。胆のう摘出術後はまったくのゼロでありまして、ゼロで妥当なのではないか、という意見も確かにあるのです。外科手術は胆のうだけを取るものですから、これは問題ないのですが、それでも時々、脂っこいものを食べると下痢をするなどの症状もなきにしもあらず、ということもあります。

補償課長
 等級をつけるとすれば、そういう理屈になるのでしょうね。

戸部座長
 やっぱり、体の中にある唯一の臓器が失われて、今の検査では所見はなくても、何か障害が起こるのではないか、という観点に立っています。それの典型的なのがひ臓ですね。ですけれども、ひ臓は、あまり大きな障害を起こさないんですね。ですから、それも含めてゼロにしてしまうのはいかがなものか、ということで軽い等級にしているわけですが。

医療監察官
 ひ臓については殆ど症状を生じないというのは同じかと思いますので、それを踏まえてどういう位置づけにするのか、ということに関しては事務局で整理をさせて頂きます。

〈終了〉

照会先  厚生労働省労働基準局労災補償部補償課障害認定係
 TEL 03-5253-1111(内線5468)
 FAX 03-3502-6488


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