戻る

1.はじめに

 介護福祉士資格取得者数は、昭和63年の社会福祉士及び介護福祉士法の施行以来、順調に増加し、平成16年4月において約40万人と量的整備は進んでいる。
 一方、平成12年4月に介護保険制度が実施されるとともに、同年には利用者の立場に立った社会福祉制度の導入を目指し、いわゆる社会福祉基礎構造改革が行われた。
 社会福祉基礎構造改革の理念は、個人が人としての尊厳をもって、家庭や地域の中で、障害の有無や年齢にかかわらず、その人らしい安心のある生活が送れるよう自立を支援することにある。
 これからの社会福祉は、このような理念に基づき国民一人ひとりが、その人らしく生活していけるよう、利用者個々人のニーズに対応したサービスを提供し、その自立を支援することが求められている。 このように、利用者個々人のニーズに応えるサービスを提供するためには、サービスに携わる人材の育成と資質の向上が重要であり、サービスの中心的担い手である介護福祉士の質の向上は重要な課題となっている。 このような状況を踏まえ、厚生労働省は、介護福祉士の質の向上を図るため、平成12年4月に介護福祉士養成施設の教育課程の改正を行うとともに、その改正内容に対応した介護福祉士試験(筆記試験)への改善等を行ってきた。
 本検討会においては、介護福祉士のさらなる質の向上を目指して、介護福祉士試験の在り方等介護福祉士の質の向上に関し検討を重ね、今般、その結果を取りまとめたので、ここに報告する。


2.介護福祉士養成の現状と課題

  (介護福祉士指定養成施設)

   ○介護福祉士指定養成施設(以下「指定養成施設」という。)は、平成16年4月現在389校465課程入学定員約2万6千人と、量的には拡大を続けているが、指定養成施設の定員充足率は約8割で、定員を割り込む指定養成施設が約7割に達しているという状況にある。

   ○かかる状況から、指定養成施設の入学選抜機能が低下するとともに、卒業生の質が統一されていないなど指定養成施設の間で格差が生じてきているとの指摘がある。

   ○また、指定養成施設には専任教員の不足など不適切な運営を行っているものも散見される。

   ○指定養成施設の卒業生については、現場で即戦力となる人材を養成することが必要であり、介護実習を重視する必要があるとの指摘がある一方、どのような資格でも、資格取得当初は即戦力とならないものであり、むしろ将来性に期待するべきとの指摘もある。

   ○指定養成施設における教育内容については、より高度な専門性、技術を備えた介護福祉士を養成する観点から、修業年限を現行の2年課程から3年課程に変更する必要があるとの指摘がある一方、指定養成施設の養成課程にいくつもの専門領域に関する内容を盛り込むのではなく、指定養成施設では基礎的な教育を行い、専門領域に関する教育は、資格取得後の研修を通じて行うべきとの指摘もある。

  (実務経験者と高等学校福祉科等)

   ○実務経験を経て資格を取得した者については、指定養成施設の卒業者と比較して、概して、業務に直接結びついた介護技術はすぐれているという側面がある一方、なぜそのような介護を行うのかといった理論的な部分がやや不足している側面もある。

   ○高等学校福祉科等の卒業者については、国家試験合格率は平均より高くなってきている一方、介護を必要とする者は生活歴が長く、高校生等の人生経験だけでは生活支援に対応できないなどの側面がある。

  (介護福祉士国家試験)

   ○筆記試験については、平成12年の養成課程の改正に対応した介護福祉士試験(筆記試験)の改正、平成15年度から、合格基準・正答公表などが行われており、試験の透明度や精度の向上が図られている。

   ○実技試験については、介護業務の範囲の拡大に伴い受験者が急増しており、試験要員等の確保や、統一的な採点精度の確保が難しくなってきている。

   ○また、会場やモデル、試験時間に制約があるため、入浴、排泄及び食事の介助に関する試験が実施できないという課題がある。

   ○さらに、課題漏洩防止の観点から、受験者の長時間にわたる拘束等、受験者や試験要員等双方に相当の負担がかかっている。



3.介護福祉士の資格取得後の現状と課題

  (継続研修)

   ○資格の取得は介護職員としての専門性を高める第一歩であり、資格取得後の継続研修が重要である。

   ○また、高度な知識や介護技術を必要とする痴呆・障害等の領域に対応した研修についても重要である。

   ○しかしながら、現状では、各種の研修は行われているが、十分な体系化がなされていない。

  (医療との境界領域の整理)

   ○在宅介護及び施設介護において、医療ニーズの高い者に対する介護の在り方が課題となっている。

   ○このような中で、利用者主体といった視点に立ち、家族であれば認められるような行為は、介護福祉士ができるようにすべきとの指摘がある一方、利用者の状況に応じた総合的な判断が必要であり、医療関係の資格を有する者との効率的な連携を図るべきとの指摘、さらには、個々の行為についての具体的な手順の研究を積み重ねるとともに、医療の高度化、関係職種の連携強化の状況に応じ、利用者の生活の質の向上、安全性の確保等総合的な観点から検討がなされるべきとの指摘もある。

  (資格の活用)

   ○介護福祉士は介護老人福祉施設や介護老人保健施設で平均的には介護職員の約4割を占めている。

   ○しかしながら、個々の施設ではばらつきがあるとともに、全国社会福祉施設経営者協議会が行った「介護福祉士の現状と課題に関するアンケート」では、社会福祉法人において介護福祉士を介護職員(常勤職員)の採用条件にしているのは17%にとどまるなど、介護福祉士の資格は必ずしも十分に活用されているとはいえない。



4.今後の方向と具体的施策(提言)

 これからの社会福祉は、国民一人ひとりが、その人らしく生活していけるよう、利用者のニーズに対応したサービスを提供し、その自立を支援することを目指す必要がある。そのためには、サービスに携わる人材の育成と資質の向上を図っていかなければならない。
 本検討会は、このような基本的な認識の下、サービスの中心的担い手である介護福祉士の質の向上を目指し、2,3で述べた現状と課題を踏まえ、以下のとおり、今後の方向と具体的施策を提言する。

 (1)介護福祉士養成の在り方

  (養成施設)

   ○定期報告のチェックや随時の報告徴収の実施など指定養成施設に対する指導を強化する。

   ○養成課程について、保健医療との連携、高齢者の虐待防止等介護を必要する者の人権尊重など、近年の介護をめぐる動向や来年予定されている介護保険制度の見直しを踏まえ、さらなる充実や見直しを行う。

  (国家試験)

   ○筆記試験について、介護福祉士にとって必要な知識でかつ適正な難易度であるか、引き続き、検証する。

   ○実技試験について、受験者の申請に応じ介護技術に関する講習会(以下「介護技術講習会」という。)を修了した者には実技試験を免除する制度(以下「介護技術講習会制度」)を導入する(別添参照)。

   ○介護技術講習会の実施主体については、同講習会が介護福祉士の資格を取得するための資格取得前の講習であることを踏まえ、介護福祉士養成を担っている指定養成施設の設置者とする。

   ○指定養成施設から成る団体は、介護技術講習会の指導者に対する講習の実施、介護技術講習会に関する普及啓発・情報提供、会員校への参加要請、指定養成施設の設置者の依頼に応じた介護技術講習会に関する事務の一部の受託など、全面的に指定養成施設の設置者を支援することにより、介護技術講習会の円滑な実施の役割を担うものとする。

   ○職能団体についても、介護技術講習会の指導者に対する講習の実施や、指定養成施設の設置者の依頼に応じた介護技術講習会に関する事務の一部の受託により、介護技術講習会の円滑な実施に協力するものとする。

   ○介護技術講習会制度の施行については、平成17年4月を目途とし、遅くとも平成17年度中とする。

  (資格取得方法)

   ○介護福祉士の資格取得方法については、資格の取得方法の見直しに関する環境整備の状況等を踏まえ、指定養成施設の卒業者が受験資格を取得する方法に統一することを検討する。

 (2)介護福祉士の資格取得後の在り方

   ○職能団体は、資格取得後の継続研修について、経験等に応じた研修体系の構築に取り組む。

   ○資格取得後の研修が職能団体の役割であることを踏まえ、職能団体が団体認定資格を創設する場合には、指定養成施設から成る団体はこれに協力するものとする。

   ○介護保険制度等において、例えば訪問介護員や施設の介護職員については介護福祉士を基本とするなど、介護福祉士の位置づけを明確化する。



5.おわりに

   ○厚生労働省及び関係者においては、本提言を踏まえ、施策の具体化を図るべきである。


トップへ
戻る