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1.はじめに


 厚生労働科学研究費補助金は、昭和26年に創設された厚生科学研究補助金制度が発展した制度で、「厚生労働科学研究の振興を促し、もって、国民の保健医療、福祉、生活衛生、労働安全衛生等に関し、行政施策の科学的な推進を確保し、技術水準の向上を図ること」を目的としている。社会的要請の強い諸課題を解決するための新たな科学的基盤を得るために、競争的な研究環境の形成を行いつつ、必須で先駆的な研究を支援してきた。現在、厚生労働科学研究費は、我が国の代表的な競争的研究資金制度のひとつとして位置づけられている。
 科学技術基本法(平成7年法律第130号)に基づき策定された第1期科学技術基本計画(平成8年7月閣議決定)に続く第2期科学技術基本計画(平成13年3月閣議決定)において、優れた成果を生み出す研究開発システムの必要性が指摘されている。そのため「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成13年10月内閣総理大臣決定)が改定され、総合科学技術会議においても「競争的研究資金制度改革について:中間まとめ(意見)」(平成14年6月19日)を公表し、公正で透明性の高い研究評価システムの確立を求めている。
 以上の背景に対応し、厚生労働省は、『「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」の策定について』(平成14年8月27日、大臣官房厚生科学課長)を通知するなど、研究開発評価の改善に取り組んできた。
 特に、厚生科学審議会科学技術部会において、総合科学技術会議における競争的研究資金制度の評価の考え方に従って、厚生労働科学研究費補助金の制度及び成果を概観し、課題採択や資金配分の結果の適切性、および研究成果について評価を行った(平成15年5月30日)。この報告書は総合科学技術会議の競争的研究資金の有効性に関する評価の基礎資料となり、厚生労働科学研究費補助金制度に対して「資金配分の適切性や研究成果等について概ね適切に評価されている」との総合科学技術会議の結論を得るに至った(平成15年7月23日,<参考1参照>)。
 ただし、総合科学技術会議からは、あわせて調査分析機能の整備等の必要性も指摘されており、成果の評価を継続しながら、引き続き研究評価システムの整備を進めることが求められている(<参考2参照>)。そもそも、評価は、競争的研究資金制度におけるマネジメントサイクルの一環であり、評価を「定着」(総合科学技術会議評価専門調査会)させていく必要がある。
 以上の経緯に鑑み、厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会では、平成15年度の厚生労働科学研究費補助金の成果の評価を行うこととした。


2.評価目的


 厚生科学審議会科学技術部会は、厚生労働科学研究費補助金について、行政施策との連携を保ちながら、研究開発活動と一体化して適切な評価を実施し、その結果を有効に活用して、柔軟かつ競争的で開かれた研究開発を推進しつつ、その効率化を図ることにより、一層優れた研究開発成果を国民、社会へ還元することを目的とし、評価を実施する。
 評価結果については、研究費等の研究開発資源の配分への適切な反映等を行うことにより、研究開発の一層効果的な実施を図るものである。
 特に、今回の評価では、総合科学技術会議から「政策支援的要素の強い研究課題では、学術的な側面に加え、行政への貢献を明確にし、研究者が納得する評価指標を導入することが重要である」(<資料1>参照)との指摘を受けていることから、「行政への貢献」を重点に評価する。


3.評価方法


1)評価の対象と実施方法
 評価対象は、(1)厚生労働科学研究の各研究事業(4研究分野の18研究事業)、および(2)平成15年度に終了した課題の成果である。基礎資料は平成16年4月〜5月に厚生労働科学研究費補助金の各研究事業を所管する厚生労働省関係部局が大臣官房厚生科学課と調整の上収集した。

2)各研究事業の記述的評価
 4研究分野18研究事業の各研究事業の評価は、これまでの事業の成果に基づいて各研究事業を所管する厚生労働省関係部局が作成したものを、評価委員会委員等外部有識者の評価を踏まえて作成した。「各研究事業の概要」を以下の項目に従って作成した。
  (1)研究事業の目的
  (2)課題採択・資金配分の全般的状況
  (3)研究成果及びその他の効果
  (4)行政施策との関連性・事業の目的に対する達成度
  (5)課題と今後の方向性
  (6)研究事業の総合評価

3)終了課題の成果の評価
 各研究事業を所管する厚生労働省関係部局を通じて、平成15年度終了課題の主任研究者に対して調査を実施した。調査項目は、(1)専門的・学術的観点、(2)行政的観点、(3)その他の社会的インパクト、(4)普及・啓発活動件数から構成されている。
調査項目:
(1) 専門的・学術的観点
 研究目的の成果
 研究成果の学術的・国際的・社会的意義
(2) 行政的観点
期待される厚生労働行政に対する貢献度等
(3) その他の社会的インパクトなど(予定を含む)
発表状況 原著論文(件・発表誌)、その他論文(件)、口頭発表等(件) 特許の出願及び取得状況
(4) 普及・啓発活動件数

4)評価作業の手順
 各研究事業について、それぞれの研究事業に設けられた評価委員等外部有識者のご意見を踏まえ、各担当課より提出された資料に基づいて評価を行った。
 なお、今回の評価を行うに当たっては、各研究事業の内容について、研究事業所管課評価を行う際の指針(<参考3>参照)で示されている観点等を参考にした。


<参考1>
「競争的研究資金制度の評価」(平成15年7月23日、総合科学技術会議)
C.厚生労働科学研究費補助金−厚生労働省―
3.成果等の評価について
 今回の厚生労働省における制度評価は、統一様式で事業担当課が外部評価委員の意見を聞き一次資料を作成し、これを厚生科学審議会科学技術部会で審議して評価結論を得たものであり、資金配分の適切性や研究成果等について概ね適切に評価されている。
 なお、本制度は広範な研究開発を対象としていることから、課題の特性に応じて多様な評価指標が必要と考えられる。特に、政策支援的要素の強い研究課題では、学術的な側面に加え、行政への貢献を明確にし、研究者が納得する評価指標を導入することが重要である。また、政策支援的要素の強い研究課題の成果は、目標が明確に設定されれば比較的容易に評価できると思われるが、制度としての成果が明らかにあるまでには長期間を要するので、このための調査分析機能を整備してゆくことが重要と考えられる。
 (以下略)
<参考2>
「競争的研究資金制度改革について」(意見)
(平成15年4月21日、総合科学技術会議)
II.改革のための具体的方策
4.競争的研究資金の効率的・弾力的運用のための体制整備
(2)公正で透明性の高い評価システムの確立
 ○各配分機関は、研究課題についての中間評価や事後評価を適切に行い、その結果を踏まえて、必要に応じて研究の見直し・中止を行う。その際、制度や課題によっては、ピアレビューによる評価のみならず、プログラムオフィサーによる評価等柔軟性をもって対応する。
 ○各配分機関の競争的研究資金制度の改革が適切に行われるよう、各省あるいは配分機関は、所管する制度全体を把握した上で、「国の研究開発に関する大綱的指針」に基づいて研究課題の事後評価や追跡評価を実施し各制度の成果の波及効果や活用状況等を把握して制度評価を行う。その結果を踏まえ、目的・計画の見直し、運用の改善を図り、さらに、制度の統合・廃止・拡大・縮小等へ反映させる。
<参考3>
「厚生労働省の科学研究開発評価に関する指針」
(平成14年8月27日、厚生労働省大臣官房厚生科学課長決定)
第2編 研究開発施策の評価の実施方法
1.評価体制
 各研究事業等の所管課は、当該研究事業等の評価を行う。
2.評価の観点
 政策評価の観点も踏まえ、研究事業等の目標、制度、成果等について、必要性、効率性及び有効性の観点等から評価を行う。
 研究事業等の特性に応じて柔軟に評価を行うことが望ましいが、「必要性」については、行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等の観点から、「効率性」については、計画・実施体制の妥当性等の観点から、また「有効性」については、目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から評価を行うことが重要である。
3.評価結果
 評価結果は、当該研究開発施策の見直しに反映させるとともに、各所管課において、研究事業等の見直し等への活用を図る。


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