04/05/18 社会保障審議会福祉部会生活保護制度の在り方に関する専門委員会第11回 議事録    社会保障審議会福祉部会 第11回生活保護制度の在り方に関する専門委員会 日時:平成16年5月18日(火)15:00〜17:00 場所:厚生労働省 専用第21会議室 出席委員:石橋委員、岩田委員長、大川委員、岡部委員、後藤委員、田中委員、根本委員、      布川委員         京極委員、鈴木委員、八田委員、松浦委員は欠席 議題  :(1)保護の要件等の在り方について       (2) その他 (岩田委員長)  それでは、定刻になりましたので、ただいまより第11回「社会保障審議会福祉部会生 活保護制度の在り方に関する専門委員会」を開催いたします。  大変お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。  それでは、まず事務局から本日の委員の出席状況及び配付資料についての御説明をお 願いいたします。 (事務局)  まず、委員の出席状況ですが、京極委員、鈴木委員、八田委員、松浦委員から御欠席 との連絡をいただいております。  続きまして、資料の確認をさせていただきます。 上から順番に  「議事次第」  「座席表」  資料1「生活保護制度の在り方に関する専門委員会名簿」  資料2「説明資料」  資料3「布川委員提出資料」  第10回の議事録(案) となっております。  資料は以上でございます。お手元に以上の資料がない場合は、お知らせください。事 務局よりお渡しいたします。  なお、資料1につきましては、前回お配りしましたが、後藤委員の所属に変更があり ましたので、再度配付いたします。また、「第10回議事録(案)」は、これから各委員 に内容を御確認いただくため、本日は委員のみの配付となっています。以上でございま す。 (岩田委員長)  どうもありがとうございました。  それでは、議事次第に従い進めさせていただきたいと思います。  前回は、いわゆる出口の議論といいますか、自立支援について、とりわけ稼働能力層 の自立支援について御議論いただきました。本日は、保護の要件等の在り方について、 再び入口の議論です。既に何回か御議論をいただいている点ですが、改めてそこにまた 戻りまして、御検討いただきたいと思います。  まず、事務局で用意された資料がございますので、その説明をいただきたいと思いま す。それから、布川委員から資料をいただいておりますが、それは後ほどの議論の中で 布川委員から御意見の中で御紹介いただければと思います。  それでは、事務局より御説明をお願いいたします。 (岡田保護課長より資料2「説明資料」に沿って説明) (岩田委員長)  どうもありがとうございました。それでは、御議論いただきたいと思います。  今の資料にありますように、入口の問題としては、まず一つ目として、基本的に生活 保護制度というのはミーンズテストという資力の調査を行いますが、その場合には、収 入基準、資産認定が問題になります。なお、保護基準の問題については、前半で議論し たとおりです。  二つ目に、労働能力の活用問題があります。  三つ目として、扶養の問題があります。これは要件というよりは、他法他施策として 民法があります。既に議論いたしまして、一定の結論をみたところです。  したがいまして、今日は特にこの資産活用と稼働能力活用のところに重点を置いて、 今、まとめていただきましたように、資産価値については総論的にまずこれを全体とし てどう考えるかということと、各論で一つずつ、不動産、自動車、預貯金あるいは累積 金と出していただいていますので、まず資産のほうから御議論いただきたいと思いま す。どなたからでも、御質問も含めてどうぞ。 (布川委員)  私の提出資料の最初に書きましたが、要件の議論をするときに、8回目の委員会で取 り上げた捕捉率の問題があります。今の生活保護がどの程度の役割を果たしているの か。住宅扶助は入っていなかったので、あのデータよりもう少し実際には保護の対象は 広がるかもしれませんが、それで見ても、低所得の方が増えていて、その中で実際には 2割くらいの方しかカバーしていないということでした。  あの時お示しした資料では、自治体ごとに捕捉率が10%以下というところもあれば、 4割くらいカバーしているところもありました。そういう資料をもとに議論したとき に、生活保護の要件として、どれくらい生活保護を適用しなければならないのか、適用 できるのか。その場合に、特に資産の問題で、何がネックになっているのかも少し絞り ながら議論ができればと思います。具体的なことではないですが、そのような議論にな ればと思います。 (岩田委員長)  総論的にさっきおまとめいただきましたように、補足性の原理とは、資産があれば、 それを使って生活していただくというのが原則です。それはそのとおりで、補足性の原 理自体の議論を改めてしなければならないとは思いません。  問題は、開始時と受給中の取扱いと二つあると思いますが、一つは保護の開始時で す。  まず、開始時に相談があって、申請して開始するまでの間と言ったらいいでしょう か。つまり、相談時から実施決定して、実際に保護費がおりるまでの間も生きていかな ければなりませんので、その間に資産をどういうふうに考えていくか。あるいは、もう ちょっと別の言い方をしますと、どのくらいの資産であれば、生活保護の利用ができる と国民が判断するかということです。ここまで自分の資産は利用して生活したが、これ 以上、ゼロまで頑張って、それから相談に行くか、それとももうちょっと手前で相談に 行ってもいいのかという、そのあたりの目安の問題になると思います。したがって、開 始時においては「期間」が問題になってくると思います。  二つ目の保護受給中は、今までも少し御議論がありましたように、ある程度累積、貯 めて何らかの自立のための資金にするとか、保険とか一定のものを保有することは認め られるのではないかという論点です。  いかがでしょうか。この委員会の議論としては、前に大川委員のほうから「丸裸にな ってしまうと、かえって自立しにくいのではないか」というような御発言があったかと 思います。しかし、逆に資産保有の範囲を拡大すると、自立が助長できるという保証が あるのか。さらに、一般世帯のバランス。このあたりは当然論点になると思います。ど うぞ。 (岡部委員)  これまで、今、委員長がおっしゃられたように、生活保護の入口というのが非常に狭 いのではないかという指摘がありました。もっと言いますと、生活保護を受けるに当た ってのこれまでの生活の基盤を相当取り崩して、その上で生活保護の決定、給付に至る という状況です。  これは、私は厳しすぎるのではないかという言い方をしましたが、どれくらいが妥当 なのかが、今日事務局のほうで御説明された資産、預貯金などの問題につながってくる と思います。  私個人としては、今の生活保護の取扱いは、今までの生活の基盤、資産の保有を相当 取り壊して生活保護に行き着いているのではないか。ですから、生活保護を受けてから の生活の再建、もっと言いますと自立に向けて、相当難しい状況になっているのではな いか。それが出口も狭いというところにつながっているのではないかと思っておりま す。  この点については、また個々の資産のところで出されているかと思いますので、そこ で意見を言いたいと思います。 (岩田委員長)  抽象的な議論をしていてもしようがないと思いますので、各論のほうにも入っていた だいて構いません。具体的に不動産、自動車、預貯金・累積金、それから先ほど出まし たように、手持ち金がありますが、現在は収入認定ということで0.5カ月分を認めて、 つまり、それは手持ち現金で持っていて、保護申請して、それを最初の収入として判断 するという取扱いがあります。どうぞ。 (大川委員)  各論ということなので、今日事務局のほうから出された説明資料をもとに、私の意見 を述べていきたいと思います。基本的には私も、資産の保有を認めていくという方向、 考え方でいくべきと思っています。  一点目です。事務局で出していただいた資料の1の中に、資産の処分が「自立に向け た意欲をそいでいるという指摘」という表現になっています。資産を認めないから意欲 が落ちるということではなくて、むしろ生活の再建という意味の実質のところでの論議 だというところで、改めて押さえておかないといけません。単なる意欲という問題では ないと私は思っています。  二点目です。例えば、今、お話がありました相談時の資産保有の問題です。現行の生 活保護制度では申請が在れば2週間以内で決定するようになっており、例えば今日申請 があったとすると、月末、5月31日までに、法的には結論を出さなければいけません。 ところが、最近の調査の実態を見ますと、2週間や1カ月では結論が出にくい方が多 い。これは荒っぽい言い方ですが、一定の保有資産を認めた上で、今日申請を受けて、 現行制度では5月18日からの認定になりますが、持っている資産とも比較した上で、生 活保護の開始を例えば6月1日からとか、7月1日からとか、開始の段階で幅を持たせ れば、生活保護の実務上もかなりやりやすくなるという効果があると思います。  三点目に、保有の考え方です。もう一つ、資料の一番上の補足性の考え方のところ に、「自立助長の観点以外には基本的に認められないのではないか」とあります。確か にそのとおりと思います。この考え方でいいと思いますが、この場合の自立助長という のは、単なる経済的な自立、つまり保護の脱却だけではなくて、社会的な自立、社会参 加も含めて考えていく。そういった考え方によって、例えば高齢者の一定の預貯金の保 有という考え方が出てくると思います。  これも実務的なことですが、四点目です。現在は、資産はすべて調査をし、保有容認 をするかどうかを判断することとされています。収入もそうですが、車とか土地はさる ことながら、例えば福引で当たったポットとか、極端な話、すべてを資産として金に換 えられるかどうかを見た上で判断する。実際、そんなことはやっていないのですが、少 なくとも今の段階で生活用品の保有についての規定を、基本的には土地・家屋・自動車 ・現金及び金融資産(預金や保険)に絞る。そういう考え方でいくべきだろうと思いま す。その他の生活用品については、原則として保有を認める。つまり、現在ある70%の 保有率とか、こういう技術的に不可能な方法について思い切って見直し、一律に認める という考え方に立つべきと思っています。  当然、車の問題はどうしても出てきます。先ほど言いました経済的自立に限らず、社 会的自立も考えたときに、車の場合はどうしても経済的自立という側面に入ってくると 思います。特に車については、こういう場合は期限を設定して保有を認めるという考え 方に立つのが現実的と思っています。  五点目です。保護費を原資とした累積金とか、資産保有について、保有の趣旨や使 途、金額等を限定する必要があるのではないかという指摘があります。趣旨や使途の制 限は、前々回資料を出しましたが、もう判例上も不可能ですし、技術的にも無理だろう というふうに考えています。むしろ、金額の上限と期限を決めるという形で、つまり解 釈の余地がない形ですっきりさせておかないと、また訴訟が起きたときによろしくない 結果になっていくと考えています。やはり国の制度としては、あくまでもそこに基本を 置いた上で、今お話をした金額の上限と期限を超える部分については、自立助長の考え 方に沿って取り扱うこととする。もちろんこれもいろいろな問題があると思いますが、 自治体の判断に委ねる。地域実態と合わせて、自治体の判断になると考えています。  六点目です。この中に貸付制度の利用ということが出ていますが、私は、貸付制度に ついては慎重であるべきと思っています。というのは、貸付制度の利用後に生活破綻を するケースが多いのです。この典型例が、年金担保貸付による再度の保護申請。これは 現場レベルで相当困惑しておりまして、貸付を使って、それが破綻した後に保護となっ たときに、最低生活保障と貸付の処理の問題に矛盾が生じています。詳しいことは説明 を省きますが、貸付を下手に絡ませると、私はモラルハザードの温床になると考えてい ますので、これは慎重に考えるべきと思っています。むしろ、貸付が想定されるのは、 生活保護とはずっと上の部分のところです。生活保護を必要とする、あるいはその直前 にある人たちについて、貸付を制度設計に入れることについてはいかがなものかと考え ています。  七点目に、相続の問題が幾つか出ています。これは法77条の活用くらいしか、ちょっ と私も妙案がないのですが、ただ法的には保有容認をした資産について、死亡時の返還 規定が新設できるかどうか、あるいはその徴収や法的な強制力に対して、これは自治体 ではなくて国、もっと言うなら司法サイドのいわゆる強制力をかけることが可能かどう か。これは別途取り急ぎ検討することが必要と思っています。  八点目に、限度額を幾らくらいにするかの問題です。個人的には6カ月くらいがいい と乱暴に思っています。それはともかく、やはり捕捉率の調査をした上で、これをきち んと設定する必要があるのではないかと思います。そうでないと、一般世帯の均衡とい う話をしても、あまり意味がないのではないかと思っています。  九点目に、稼働能力の活用についてです。布川委員の報告のメモがありまして、ざっ と目を通しましたが、私も基本的にこの考え方に立つべきではないかと思い、できれば 後でぜひ御説明いただきたいと思います。ただ、一つ付け加えるならば、今、現場で使 われている自立更生計画書というのは、「私は以下の計画に基づき、何月何日までに自 立をすることを約束します」という文章になっています。これは今の社会福祉制度の考 え方、言ってみれば権利と義務が対等であるという考え方に沿ってどうなのでしょう。 今言った様式は、多分、全国どこでも使っているかと思いますが、ほとんど自立更生計 画書が規制調の文書になっています。先ほどもちょっと触れましたが、やはり自立につ いて、経済的自立だけではなく、身体的、社会的自立があり、これを含めて生活保護制 度を保証するという考え方に立つべきと思います。  実施体制のことをちょっと触れさせていただきます。  十点目です。実施体制については、1月の専門委員会で、私からかなり時間を割いて 御説明させていただきましたので、基本的なところは割愛いたします。付け加えるなら ば、資産保有の問題とも絡みますが、生活保護業務の事務の簡素化です。相当多くの通 知が保護手帳という形で出されておりまして、解釈が非常に割れます。これは、資産の 問題と世帯の問題でいろいろな問題を起こしておりますので、先ほど言いました資産に ついてもですが、全体的に生活保護業務の簡素化が必要と思っています。  十一点目です。標準配置数の確保は前々回お話をしましたが、基本的には現行の80対 1の基準、これを維持した上で、あとは80対1で受給者とかかわるのか、例えば、160対 2、240対3とか、あるいは自立支援にかかわるチームであるとか、あるいは高齢者の支 援にかかわるチームであるとか。そのようなバリエーションについては、むしろ自治体 の現実に合わせてやっていくことを認める、あるいはモデルを示すことが必要と思って おります。  十二点目として、アウトソーシングの問題です。これはいろいろなところで最近言わ れておりますが、私の経験の中で、生活保護の認定や決定とそれに伴う相談の部分を完 全に切り離すのは不可能だと考えています。お金を出す、出さないといった、認定に当 たっては、個別の様々な要素を判断して認定しなければいけないので、例えば同じ福祉 事務所、実施機関の中で分担することは可能かと思いますが、いわゆる供給主体、行政 と民間という形で、例えば給付は行政、民間が相談というのは、私はちょっと困難と思 います。  むしろ、例えば生活保護受給者自立支援事業、そういう言い方があるとすれば、そう いった事業を一つの社会福祉事業として行う。これに対して積極的にアウトソーシング していく。この例を前回、布川委員から大阪の釜ヶ崎の例をお出しいただきました。む しろ生活保護を受けておられる方が自立するための社会資源の充実に当たって、アウト ソーシングの考え方を入れていくのが私は現実的な考え方であると思います。  長くなりましたが、以上です。 (岩田委員長)  全体の御意見をいただきましたが、資産にまず絞ってみたいのですが、今、大川委員 から具体的な御意見が出ました。  1つは、資産の範囲の問題です。これを土地、家屋、金融資産、車に限定してはどう か。残りのいわゆる生活財については、基本的には認めていくのが現実的ではないか。 事務的な煩雑さ等々も考慮してということと思いますが、この点で委員の先生、御意見 ございますか。どうぞ。 (根本委員)  開始時の資産の範囲ですが、やはり生活用品をすべて廃止する、資産の範囲から外す のは、かなり乱暴というか、少なくとも今までの常識から言って、かなり厳しいという 気がします。そこに持っていくにはそれなりのルールなり、一定の手続が必要であっ て、納税者と受益者との関係の中で、一定のコンセンサスをきちんと得る必要がありま す。その点だけでも、場合によっては非常に大きな破綻が出てくる可能性もあると思い ます。例のクーラーのときでも、あれだけの大きい話題になったくらいです。そこは常 識というものが試されてよいという気がします。  それと不動産の問題です。不動産については、一般的には所有権のある不動産と、も う一つ話題になっている、いわゆるローン付きの不動産があると思います。ローン付き の不動産については、やはりそれなりに厳しい状況があると思います。保護費で資産を 形成することについて、これも営々と生活保護の中でつくられてきた一つの常識がある わけです。保護費でもって資産を形成するのは、やはり国民感情からみていかがかとい う問題があるわけですから、もう少しその辺はきめ細かく見ていく必要があるという気 がします。  とりあえず以上です。 (岩田委員長)  具体的には、特に不動産のほうですが、御提案がございますか。 (根本委員)  不動産については、事務局が言われている長期生活支援資金の活用は非常に有効であ ると考えます。先ほど大川委員からそういう貸付金制度はまた破綻につながるという意 見がございましたが、少なくともこういう公的資金の貸付制度に関して言えば、それほ ど破綻にならないのではないかと思います。その辺りについてもお示しいただければと 思います。また、長期生活支援資金を活用することによって、例の遺産などの問題も相 当程度解決するので、この御提案はぜひ積極的に前向きに検討したらどうかと思いまし た。 (岩田委員長)  日本の生活保護制度というのは一般扶助であり、対象年齢が大変多岐にわたり、世帯 類型も労働形態も非常に多様です。その中で、現実的に資産が問題となるのは高齢世帯 が中心であって、いただいた資料を見ますと、例えば母子世帯などでは、貯蓄も、もち ろん不動産もほとんど持っていないという状況です。  恐らく若年世帯にとっては、手持ち現金をどのくらい保有して相談に来てほしいと考 えるか、という問題になると思われます。保有限度を緩和するのは本人のメリットのよ うに一見思いますが、行政側、生活保護の機能としても、早めに相談に来てもらったほ うがいろいろ手だてがあります。手持ち現金を使っているくらいならまだいいのです が、消費者ローンなど非常に高利な借金をしてしまうケースもありますので、生活保護 制度の積極的な機能を果たすためにも、あまり遅くならないうちに「ともかく相談だけ にはいらっしゃい」と言ったほうがよいと考えます。その水準がどの辺かという問題が あると思います。  一方、高齢世帯にとって土地家屋を手放すのは、文字どおりの意味だけではなく、そ れまで暮らしてきた地域から切り離されることにもなります。そういう考慮の上で、 2,000万円くらいまでの土地家屋はそのまま居住を認めるという御判断はされていると 思います。ただ、不動産は相続の問題とも絡みますので、全体的な公平性の確保の問題 が出てきます。扶養の問題もですが、その辺は今まで少し矛盾があったのではないかと 感じております。  全体的に言えば、不動産所有を認めた場合や、扶養義務を果たさない親族が相続を要 求してきたときには、少なくとも生活保護でかかったものは返してもらうというような 方策が生み出せないかと思います。そういうことをまず前提にした上で、高齢世帯には 先ほど述べた意味で地域的な関係を失うまでには追い詰めない。もちろん高齢世帯には 先ほど大川委員が触れられた年金担保融資みたいな貸付にいくこともありますし、若年 世帯だってもっといろいろな危険があります。生活保護制度がつくられたときと今で は、消費者金融などの在り方が全然違いますので、ゼロになって生活保護を申請に来る のではなく、マイナスになって申請に来ることを警戒すべきではないかと思います。  そういう意味では、もちろんその処理の仕方は公平の原則がありますが、「若干持っ ているうちに相談に来たほうがいい」というような印象を与えるべきではないか。例え ばさっき大川委員は開始後から6カ月くらいとおっしゃいました。現行の0.5カ月とい うのは、繰越金が大体それくらいであるという事実と、もう一つは最短の決定までの期 間が二週間とされている事実から、私は説明できるのではないかと考えておりました。 ただ現実には、申請から決定までの期間がもう少し長くなっていることを考えますと、 0.5から6の間くらいだと思います。その辺はちょっと幅があり、また、地域感情もあ ると思いますが、仮に3カ月という幅を持たせ、単身世帯と標準3人世帯と2つの世帯 類型の数字を公表すれば、1人だったら幾らというような目安になり、相談に行きやす いのではないかと私は感じています。  ですから、若い人は車と貯蓄、高齢者は住宅不動産と、もちろん例外はたくさんある と思いますが、典型的にはそういう場合を少し念頭に置いてはどうかと思います。  もちろん、一般世帯というのは、生活保護世帯も入っているかもしれないカウントの 仕方ですから、生活保護以外の世帯という意味では決してありませんが、込みになって いる所得分位で見ますと、低いほうは若年世帯がたくさん入っておりますので、貯蓄は やはり低い。若い世帯は資産保有においては弱い層だということは大前提にして、今 後、若い世帯が生活保護を短期的に利用されるということを考えますと、そこでどのく らいがいいか。  高齢者の2,000万以上の価値があり現行の資産要件にひっかかる不動産の場合はどう するか。それは貸付制度みたいなほうがリーズナブルと考えるか。でも考えるとして も、貸付制度にももちろん歯止めを、例えばどんな貸付でもいいということではなく て、死亡時までという長期の貸付があったとしても、不動産の金額によっては十分な生 活資金が毎月出ないとすれば、それはプラスアルファ生活保護が要るとか、そういうル ールを決めるしかないと思います。 (大川委員)  幾つか根本委員の提起に対して答えなければいけない点もあるのですが、まず資産保 有について私は貸付に慎重であるべきだという意見を述べましたが、少し具体的に申し 上げます。例えば、貸付制度を使い生活保護に一時的にならなかったとする。ところ が、その後、いろいろな問題があって、生活が落層して、結果的にその資産も失われて しまう形で生活保護申請になったときに、当然、その貸付金については返還していかな ければいけませんので、生活保護制度上はそれをどう扱うかという問題が出てきます。  年金担保貸付の今の取扱いは年金の部分を収入認定しないというものですが、現場に おいては年金受給者が繰り返し貸付を受け、生活保護を申請するという大変な問題が起 きています。  貸付を受けて、その後、絶対に生活保護にならないということが保証されれば、それ はそれでいいのかもしれませんが、やはり昨今の多重債務の問題とか、負債についての 様相が、今の社会、かなり変わっております。もちろんそういった制度が全国に例がな いわけではありませんが、私たちの現場に来る方々には非常に遠いレベルの世界になっ ているというのが印象です。  生活保護で資産を持っていることも、地域の見方によるのですが、一つは先ほども言 いましたとおり、技術的に簡単にはいかないと思いますが、生活保護が廃止になった時 点で、一定の精算をする仕組みを新たに検討する方法が考えられます。  もう一つは、いわゆる第三者への預託とか、権利擁護のシステムをもう少し活用する 方法が考えられます。例えば、土地の保有を認めたが生活保護になった。その土地を誰 かに売ってそれで収益を得てしまったとなると、当然、これは不正受給になってしまい ます。もちろんそんなケースはまず現実には起きないのですが、言ってみれば資産を権 利擁護のために預託できるような仕組みが必要ではないでしょうか。現行では民生委員 の中にそういう制度がありますが、地域で善意でやってくださっている方にそのような ものを負わせるのではなく、制度、システムをきちんと整備すれば、資産の問題は国民 的合意を得られるのではないかと私は思っています。 (岩田委員長)  どうぞ。 (岡田保護課長)  資料の中で貸付制度というのを何回か触れさせていただいていますが、これは年金担 保貸付みたいなものを想定したものではなくて、むしろ社会福祉協議会にお願いしてい ます生活福祉資金の貸付などを想定しています。前回、田中委員から御発言がありまし た「教育のときに貸付を使えないか」ということとか、今回説明したような長期生活支 援資金を想定して書いています。あらゆる貸付を想定しているわけではありません。説 明が不十分でしたので、補足させていただきます。 (大川委員)  ただ、起きる問題は一緒です。生活福祉資金でも、実は同様なことが起きております ので、やはり私が言った貸付に対するある種の危険部分というのを御理解いただきたい という趣旨で発言いたしました。 (岩田委員長)  貸付に関しては、要保護層よりちょっと上ぐらいの方たちの生活相談の際に利用を勧 めるのは結構なことだと思います。  問題は、最低生活費に、収入的には下回るような場合で不動産を持っている場合で す。この場合の貸付は、何らかの形で社会福祉協議会と福祉事務所が相当密接な関係を 持って、それだけで生活できる場合と、そうではなく片方で貸付の収入があり収入認定 して、片方で生活保護が補足するとなる可能性もあります。  そういう場合に、不動産の所有権そのものは本人に残す方法や、負債をどうするかも 含めて、大変難しい問題があります。極端にいえば、高齢者の最低生活保障がみんな年 金に移ればこういう問題は起こらないと思うのですが、そうならないことを前提にすれ ば、この辺をどう整理するかは大変重要だと思います。  今、2,000万円まで認めているという運用がありますので、これを変えるのは大変難 しいことです。そこは現行法規上のどういうものを使うとどういうことができるのか を、扶養義務も含めて全体的に齟齬のないように、一度もっと専門的に検討していただ きたい。国民感情からいっても、被保護者の保有していた不動産が相続されていくとい うのは、あまりいい感情は持たないし、不公平だと思います。しかし、今困っていて、 不動産というより、そこに居住したほうがいいという場合に、居住は認めるものの資産 保有は留保する、さっきの預託ではありませんが、何かそういう仕組みが一つは考えら れていけば、かなり自主的に入口を広くしながら、公平な扱いができる。その一つとし て、貸付というのが福祉貸付の範囲であればあり得るという感じです。どうぞ。 (樋口総務課長)  生活福祉資金貸付制度の長期生活支援資金の件に関して御説明いたします。長期生活 支援資金は、住宅をお持ちであるが、そこにお住まいで、ほかに資産がなく生活するこ とができない、生活保護に陥るといった問題に対応する制度です。そのときに、土地を 担保として資金を借りて、それで先ほど言いましたが、30万なりを支給する。そうする と、住みながら資産を活用して、資金を得ていく。最終的には、資産の限度いっぱい使 われるまで資産を活用して、お亡くなりになったときに最終的に精算するという制度で すから、本人が住みながら、自分の生活に資産を活用できる。  仮に長期生活支援資金を活用しなければ、その資産を売るか、あるいは住むだけで生 活保護に陥る。そして、お亡くなりになったときにどうなるかというと、その資産は、 結局扶養義務を果たさない子供たちが相続をすることになるわけです。先ほど御意見の ありました、最後の段階で資産も処分するという意味では、非常に合理的で、なおかつ 本人にとって一番いい使い道の制度でございます。これは他の年金担保の貸付とか、普 通の貸付と違う制度であり、今言った不合理なものをすべてある程度解決したような仕 組みになっています。長期生活支援資金を活用するときには、相続人の一人が保証人に なりますが、本人も資産を活用しながら生活できるし、相続の場合のいろいろな問題も 解決するという意味で、これはいろいろな矛盾とか、今の不合理な仕組みをある程度解 決した仕組みではないかと考えております。 (岩田委員長)  よろしいでしょうか。 (大川委員)  もし、そういうことでしたら、次回で構わないので、どのくらいの実績とどのくらい 活用されているかを、それほど詳細でなくても結構ですので、資料として出していただ ければありがたいと思います。 (岩田委員長)  これは最近導入された制度です。ケアサービスについては、今までいろいろな試行例 がありましたが、これは長期生活支援資金として導入されておりますので、この活用と いう選択肢は一つあり得る。そうすると、資産問題が、生活保護の外でということにな ります。あるいは一部重なり合いながらということも考えられます。 (樋口総務課長)  最終段階で、その資産がなくなったときには、生活保護を受けることとなりますが、 それまでは生活保護ではなくて、長期生活支援資金で生活できます。 (岩田委員長)  そうしますと、長期生活支援資金制度が使えれば、今の問題は少しクリアできるとい うことになるかもしれない。これは次回具体的な資料でまた御説明いただきたいと思い ます。 (事務局)  長期生活支援資金の貸付件数は、今年の4月1日現在で136件という状況になってお ります。 (岩田委員長)  ありがとうございました。136件の貸付実績があるということです。この辺は、もう 少し知られれば、利用してもいいという層ができる可能性はあることがわかりました。  不動産以外のさっきの生活用品に関しては、2通りの考え方が出たわけですが、これ はいかがでしょうか。どうぞ。 (大川委員)  こだわるようですが、生活用品の件について、むしろ現場がつくってきたルールは、 どうやって認めようかというものです。生活実態を見て保有を認めなければいけないと ケースワーカーが判断したとしても、今の生活保護の制度上は換金し、生活費に充てる ことができるものについては原則処分すべきという考え方に沿っているので、どうして もそこに拘束されています。古くは、朝日訴訟から始まって、最近のクーラー事件も含 めて、生活用品というのは例えば電話、テレビ、あるいは冷蔵庫、最近はファックスと か、どうやって容認していくかということの積み重ねでした。  今の社会情勢、つまりものを売ってお金に代えるということは非常に難しくなってき た。例えば、パソコンなんかも古くなれば、もう2年、3年すればただの箱になってし まいますし、そういう意味で考え方を少し変えていかなければいけないと提案させてい ただきました。そういう意図を御理解いただければと思います。  さらに言えば、先ほど言いましたが、70%という地域の算定は正直言うと無理です。 私たちが自分の管轄する自治体の住宅を全軒回って、例えばパソコン何軒持っている か、そして普及率が何%かということを調べることは不可能です。語弊がありますが、 大体というか、雰囲気で保有を認めるかどうかを決めざるを得ません。したがって、こ のような非合理な仕組みは改めるべきと思います。  もっと言えば、例えばクーラーについては地域差で認めている自治体もたくさんあり ます。一番いい例が鹿児島市などで、桜島の灰が降ってきますので、クーラーがないと 生活できません。あるいは大阪府の衛星都市も空港の関係がありますので、クーラーが ないと困ります。またある自治体では、そういった経費に充てるため、独自に夏季慰問 金などを出しています。逆に、寒冷地ではクーラーの保有については大変厳しくされて いるという話も聞いています。  この考え方の根底に何があるかというと、やはり生活保護を受けている人は贅沢なも のを持っていてはいけないという地域感情に左右されている。これが保護受給に当たっ てのスティグマになっているということです。今の社会的な通念あるいは経済状況から 考えて、生活用品は、ほぼ通常の世帯で持っていてもおかしくないと理解していいので はないか。そうでないと、新しい生活用品が出たときに、その都度厚生労働省や都道府 県にどうするのかという問い合わせをして判断を仰ぐという、決して生産的は言えない 問題が起きるのではないでしょうか。反論めいた意見で恐縮ですが、現場の実態から発 言させていただきました。以上です。 (岩田委員長)  資産の要件については、実際上は、資産、つまり換金してある程度の金額になるとい うことと、今おっしゃったように、生活様式上、一般より劣っているべきだという一種 のスティグマをそこにつけるという作用が、二重に働いている状況があるとは思いま す。資産として見ていくのが制度としての筋ですが、そのときに奢侈品であっても、換 金不可能であるものがあるのかわかりませんが、売っても換金できないものはどうしよ うもないわけです。また、売ることが非常に困難なのものも同様です。ですから、さっ きの範囲なのか、あるいはもうちょっとプラスアルファ、貴金属とか何か入れたほうが いいのかわかりませんが、それらを除いた生活用品については一般的に認めるという考 え方があるかもしれません。  それと世代によって生活用品の意味も異なってきますし、さっきの地域差もありま す。独り暮らしの高齢者にとってテレビはかなり必需品中の必需品かもしれませんし、 それが少し大型のものであっても必要かもしれないということはある。それを、今、そ の都度、福祉事務所が判断するわけです。どうぞ。 (後藤委員)  ほとんど今の岩田先生の発言と重なるのですが、資産というとアセットであり、語感 からはいかにも金目のものという感じがしますが、個人が使える社会的資源というふう に考えると、その中には、本人にとっての価値があっても、ほかの方にとってはあまり 価値がないものも含まれています。つまり、簡単に取り替えできないものであるかもし れない。事務局側が強調されていたように、本人が自立していくために必要な個別的な 社会資源は何だろうかという発想のもとで、本人にとってどういう生活用品の組合せが 不可欠なのかという判断をしていかなければならないと思います。  今回の事務局からいただいた資料を事前に読んで、「個別的な対応が必要ではないか 」ということがどこかに書かれていて、私はこの記述はとても大事だ思いました。こう いう観点を政府で働く人たちが持ってくださるのは、私は非常に大事にしなければなら ないと思います。  ただ、個別的な観点を持ちつつ、公平性を保つにはどうしたらいいのかという問題提 起をされているわけで、この問いに関しては、恐らくもう一つ事務局が指摘されていた ように、ガイドラインが必要なのではないかと思います。  最終的には大川さんがおっしゃったように、それぞれの地域の福祉事務所の人たちが 判断をするのがいいだろうと思うのですが、その人たちが判断するためにも何らかのガ イドラインが必要です。個別的な、本人にとって必需である社会資源を捕捉できるよう な、掴むことができる、捉えることができるガイドラインをどうやってつくっていくの かという議論をしていけるといいと思います。その辺、大川さんを初めとして御意見を お願いします。 (岩田委員長)  どうぞ。 (石橋委員)  この事務局の資料の1ページにあります保護の開始時の取扱いの2番目では、「自立 助長の観点から、個別の被保護者の実情に応じた資産保有の在り方が考えられないか。 」とあります。今回は最低生活の保障と同時に、自立助長ということを強調していると 私は理解しました。  では、どういう場合に、個別の被保護者の実情に応じて自立助長の観点からこの資産 を認めることを判断していくのか。やはりどこか利用価値とか資本価値とか、この部分 がもう少し具体的な基準、こういう場合は自立助長に非常に重要だからこの資産を認め るとか、何かそういう基準があると運用しやすいし、弾力的な運用ができると思いま す。私はそういう観点から、どういうふうに弾力的に運用するのかというのは難しいと は思うのですが、もう少し具体化された基準を設定する必要があると思います。 (岩田委員長)  現在でもある程度弾力的です。さっきの住宅でも2,000万とか、車でも事情によって 認めるとか、そういう取扱いになっています。ここは大変難しいのですが、大川委員が さっきおっしゃったのは、逆にあまりそういう事情によって判断しないですっきり保有 を認めたほうが明瞭なのではないかという意見です。これは事務的、利用する側からも はっきりします。「私のときはこう言われたんが、あの人は違う」というよりは非常に すっきりする。これは最低生活保障と自立助長の2つの違う目的が一つの制度の中にあ るので、非常に難しいように私は思います。そのせいで非常にクリアにできないのだろ うと思うのです。  資産として当然誰もが思い浮かぶようなものについても幅があります。あるいはさっ き言った貸付制度の利用といった何か別の手段についても、それをどう取り扱うのかと いう話が一方であります。後藤委員がおっしゃったように、生活の資源として考えれ ば、自立とか生活再建のときにはむしろ不可欠になるようなものを「売れ」と言って も、仕方がない場合もありえます。  現実に、福祉事務所で個別判断というか、地域ルールというか、そういうものは可能 なのでしょうか。大川委員、いかがですか。 (大川委員)  さっき言った考え方からすると、まず一つは処分しなければいけないものを明記す る。原則保有容認、例外として処分するものを明記する。これが多分、土地家屋、車と か、さっき例に幾つか挙げましたが、一般的に高価なものというのは、これは今の制度 上、致し方ないかなと思っています。  問題は生活用品の売却の話です。今のもう一つの問題は、仮にこういう生活用品があ って、これは売れば結構なお金に、例えば10万円くらいになる。地域の人たちが持って いないし、しかもこれは使っていないから持っていてもしようがないから売りましょう といったときに、例えば10万円で売れたとする。でもそのことによって得られるのは自 立ではなくて、保護費の減額だけです。つまり、実務上は売却益について、63条返還な り、収入充当という形で引くので、資産を活用することが実は自立につながらない。単 なる引き算の一つの方法になってしまうので問題だと思うのです。  確かにいろいろなケースがあるかと思いますが、例えば売却して換金しても自立にな らないものについては、言ってみれば保有を認めると整理をするか、自立にはならない が地域の均衡から見てどうもふさわしくないというものについては売却を認める代わり に、その売却の部分については現金としての保有を認め、自立に充てると。つまり、保 護費から引かないということです。そういう仕組みの中でやらないと、やっていて作業 的には非常にむなしいのです。  例のクーラーの保有については、報道されている事実はかなり違う面はありますが、 クーラーが例えば10万円で売れて、あの人の自立助長の何になるのかと、多分報道を聞 いた人たちは感じたのではないかと思います。  以上のように、生活資産の保有の考え方について整理をする。あとは個別に出てきた ら、そのときに考える。非常にいい加減ですが、でも、今出ている生活用品で大きな問 題になるものは何かあるかなという気がします。以上です。 (岩田委員長)  生活保護の入口のところは、どうしても自立の問題よりもむしろ資力活用の問題が出 てきますから、むなしくても仕方がないというか、そういう面が制度上、どうしてもや むを得ない。とは言っても、売るコストといいますか、今捨てるのでもお金がかかる時 代ですから、なかなか難しいこともあります。  これまでの御意見を少しまとめますと、原則処分と考えるものをきちんと列挙した上 で、しかし、当然、事情による例外を認める。それから、もうちょっと細かいものにつ いては、地域や個人の状況を勘案しながら、現場で弾力的に運用する。特に自立とか生 活再建の要素を入れて考えるという整理をして、地域の70%の世帯が保有しているとい うことだけを一人歩きさせない。  もう一つは、貯金ですが、ものを売って貯金するという、今、その話は別として、持 っているお金あるいは累積金については、最初の貯金と手持ちも含めて、自立へ向けた お金であるとしてある程度認めることもありうると思うのですが。どうぞ。 (田中委員)  私ども保護施設といいますか、施設の立場で申し上げると、先ほど資産の問題でも若 干関係ある問題をよく利用者から聞きます。  あるケースは、今まで地域で独り暮らしをしていてそれなりの仕事もあったが、諸般 の事情で生活できなくなった。収入のある時代にいろいろなものを揃えて、施設に入る ときに、あれこれ処分されます。購入時には相当額のものでも、大体、何万円で買った ものでも、処分するときはほんの二、三千円です。そして、幾らの所持金がありますと いうことで施設に入って来られます。  もちろん、施設の生活と在宅の生活とは基本的に違いますから、最低基準の金額も一 緒に論ずることは難しいのですが、大抵の実施機関の方はかなり好意的に見てくださっ て、これこれの所持金はあるが、この程度は本人の現金として持っていたほうが本人の 生活の安定のためにいいとするケースがほとんどです。  もう一つ、不動産の場合に、本人の名義等で不動産を持っていて施設に入ってくると いうのはあまりないのですが、ただ財産の相続問題で、この人は相続の権利は持ってい るが、生活保護でいずれ施設に入るから、相続放棄するという形で入ってくる方がほと んどです。あまりその辺は施設側で介入することはできませんが。それがいいか悪いか は別の問題として、相続を受けても、いずれは収入認定の対象になることは皆さんよく 御存じです。だから、本人と話し合って放棄という形で入ってくるケースがほとんどで す。そこら辺はどうなのかという問題はかなりあるのですが、そういうケースがよく施 設であります。  ただ、所持金の額の問題では、かなり好意的に解釈してくださる実施機関がほとんど です。一例として、私どもの施設に3年前にホームレスのような生活をしていた弱視の 方が来られたことがあります。全盲ではないが、このケースは努力によっては自立がで きるから、何とか救護施設のほうでみてくれないかととある更生施設から私どもの救護 施設に入ってきたケースです。本来、更生施設こそそういうケースを更生しなければな らないのですが、私どもの施設が視覚障害者向けだから、という理由で入って来られま した。  それで、すぐ盲学校に入れました。彼は50歳ちょっと過ぎていました。あまりお勉強 したことがない人が盲学校に入って勉強するというのは至難の業なのです。3年間、た びたび挫折をしかけては、何とか施設の側もなだめ、かつ本人の頑張りもあり、この3 月にうまく資格を取得し、4月からとある特養にマッサージ師として採用されたので す。3年間ずっと通っている間は、この人は収入がほとんどないもので、就学奨励費と かいろいろ使って工面したのですが、施設を出るとき、我々施設側も随分努力したので すが、ほとんど収入や預貯金なしです。出たらすぐ洗濯機やその他いろいろなものが必 要になります。実施機関でも大分骨を折ってくださって、何とかこの4月に出たのです が、やはりそのときに収入がなくても、将来の自立のために、少なくとも加算分の半年 分くらい、十五、六万は預貯金として必要だったのですが、そういう余裕もなかったの です。施設の場合には、施設の生活をしているからいいのではなく、ほとんどの人は施 設に完全に預託しているのです。そうすると、「今、自分のお金はどのくらい残ってい ますか」としょっちゅう聞きにくるのです。ちょっと減ると、「それは大分減ったな。 心配だな」と気にしたり、中にはそのために不安定になったりする人もいるのです。で すから、社会に出て自立するということでなくても、自分の生活自体が精神的にきちん と安定していくためには、人間というのは一定のストックのようなものが、たとえそれ が施設であっても、必要だなとしょっちゅう私どもは感じます。  そういう意味で、額はどのくらいが適当かということ、これはいろいろあります。ど のくらいが正当の額かということは、もちろんここではこれだと申し上げられません が、一定のストックのようなものをこの時代に必要だということをまず申し上げたいと 思います。基準を決めるときは、ぜひそういうことを念頭に置きながら、適正な最低基 準というものができていくといいなと思っております。以上でございます。 (岩田委員長)  その点は、累積金はある程度容認できるのではないか、特に自立資金といいますか、 ただ貯めるのではなくて、きちんと使途を本人も自覚して、それを活用できるような方 向でやっていくというのは、それは一つの努力だからあり得るのではないか、というの が皆さんの共通認識でしょうか。もちろん施設は基本的には現物給付ですから、居宅と 施設においては、どう考えるかは少し違うかもしれません。  ですから、入口の場合も出口の場合もそうですが、どのくらいのストックが容認でき るかという、やはり現実的なラインの問題だと思います。いかがでしょうか。根本委 員。 (根本委員)  あまり具体的なことというと難しくなってしまうかもしれないのですが、ただ前回も 勤労控除に関して、これを全額収入認定除外にしたらいいのではないかというお話や、 短期に関しては自立更生計画のお話がありました。私自身もない智恵をいろいろ絞った り、周りからいろいろな話を聞きました。先ほどの貸付制度の問題をまたぶり返すよう で申し訳ないのですが、生活福祉資金制度とこの預貯金の問題とをドッキングさせる話 に対して、先ほど大川委員から「自立更生の中身、自立更生とは何かが非常に難しい」 という御発言がありましたが、そうであればそこの部分も含めて生活福祉資金に関して は、自立更生とドッキングさせて、返済もそこの中からしていく形にするというのも一 つの便法としてあると思います。生活福祉資金制度に関してはある程度の実績を積み重 ねているわけですから、それも一つの考えとしてあってもいいと思いました。 (岩田委員長)  それはむしろ貯めないで、出るとき貸してもらうという感じですか。  それは一案だと思います。ただ、生活福祉資金も打ち出の小槌ではないので、生活保 護がもしもこれを本格的にやりだすとパンクしてしまわないでしょうか。 (根本委員)  もちろん、それはまたいろいろと検討が必要かと思います。ただ、一つの方法として 検討に値すると思います。 (岩田委員長)  同感です。今まで一番よく使ったのは就学資金だったわけですが、仮に高校進学まで 生活保護が認めていくという方向になっていけば、またその辺との兼ね合いで、違う使 い方があり得ます。 (根本委員)  具体的な額も非常に明確だと思います。 (岩田委員長)  こうすると、生活保護はお金を貯めるものではないという原則も保てるということに なります。それは一つの考え方だと思います。  しかし、貸付の場合は、利子はほとんどつかないがいずれ返すという制度ですから、 なかなか難しい問題もあります。多少、保険とか本人の家計のやりくりも一つの自立能 力であり、容認すると考えていくと、自分で自立のために備えたいという人には、最低 生活費の3カ月分を容認してはどうかというのが私の考えです。  もちろん、家を借りるときのお金は生活保護が出してくれたりしますが、出してくれ ないこともよくありますし、非常に難しいことです。ここでいう入口や出口の額は、最 高額のことを言っています。何もそこまで貯めなさいという意味ではなくて、ストック の話です。駒村先生の論文では6カ月の算定と現行0.5カ月の算定があって、6カ月だと 相当高くなってしまうのです。ですから、3カ月の数字というのは数値がありません が、被保護者数はあの半分ではなくもっと下のほうになります。これは実際、試算して みる価値はあると思います。試算してみたほうがいいと思いますし、その人たちがみん な生活保護に来るわけでは決してありません。一つの考え方はそのあたりかなというふ うに思っています。  イギリスは60万くらいだったと思います。はっきり額が提示されるわけです。だか ら、場合によっては、逆にさっきの資産価値の問題も、ものを売らないが、ものを持っ てはいるとき、それも換算するとそれくらいというのでもいいとは思います。  それが、3カ月はちょっと多いよと、2カ月だと。その根拠に依りますが、何かそう いうものを考えてはどうでしょうか。何カ月というのか、それともこれは一人ひとりと いうことではないでしょうから、1世帯大体どのくらいという感じでもいいと私は思っ てはいるのです。  これは今の制度からいうと、ちょっと冒険のような感じもあると思います。もちろん さっきから出ているように、貸付制度と入口、出口でリンクしていく考えは、一つの合 理的な考え方です。特に、資産に関しては理由がつくと思いますが、その場合は生活福 祉資金が、その後の返済も含めて、非常に濃厚な援助サービス、相談事業を一緒に行っ ていく、そういうこととドッキングしていかないと、逆にまたそれで転んでしまうとい うことが、公的資金でさえもないわけではないと思います。  ほかに御意見ございますか。 (岡田保護課長)  開始時にその預貯金をどう考えるかという問題について、事務局から補足させていた だきます。  生活保護では、いったん生活保護に入ってきた場合に、例えば日用品で足らないもの については一時金で一時扶助として給付しますし、医療が必要の場合には医療扶助とし て全部給付します。敷金礼金についても、ホームレスの関係で整理したときに、そうい う費用も支給できると整理しています。このように、生活保護受給中は、必要になる費 用は基本的には全部出すという仕組みになっています。  このような制度において、どういう理由で預貯金の保有を認めるかは、非常に説明が 難しいのです。その理由をどう考えるのか。我々としては説明責任を負いますので、例 えば委員長が言われる3カ月ならなぜ3カ月なのかという理由をどう説明するのかとい う点が非常に気になります。事務局として悩んでいることを御説明させていただきまし た。私はその辺は御議論が要ると考えます。 (岩田委員長)  私は基本的には手持ち現金も収入認定の対象ではなくて、資産の対象にすべきだと考 えています。資産については、使うのではなくて、止めると言いますか、貯蓄の形で凍 結しておく、あるいは生活財の場合ですと、それは使うわけですが、逆に売れないよう にする。  そういう意味で、これらは自立資金として考えるしかないと思います。生活保護中の 生活は生活保護がみるわけですから、そう考えて、なるべく速やかに自立させるための 資金とみなすべきです。どういう自立の仕方があるかは、様々です。同じアパートに暮 らしていてたまたま収入が増えて、自分で生活できるようになる人もいるでしょうし、 転宅が必要な人もいるでしょうし、いろいろだと思いますが、かなり地域移動とか就労 のためにさまざまな費用が必要であり、生活保護を出てから何カ月か、生活再建の大変 さがあるように思うのです。  安定して生活保護費が入ってくる段階から、安定した収入があって自立する人もいれ ば、やや不安定な形で廃止になる人もいるだろうと思うのです。その間の生活調整、ス ムーズに自立に、なるべく生活保護に戻ってこないような安定した生活基盤をつくって いくというような機能が、保護開始後に必要です。保護開始前は、繰り返し言っている ように、もしかすると保護決定までに使ってしまうかもしれません。  だから、あまりマイナスにならないうちに来ていただくためにはゼロにしない。それ が3カ月なのか、2カ月なのか、1カ月でいいのか、それは決定までの期間の有り様だ と思います。ですから、私は0.5ヵ月というのは、自己資金というより2週間と見合っ ているのだろうと思っていたのですが、その辺はどうなのでしょうか。 (大川委員)  先ほどの繰り返しになってしまうかもしれないですが、受給中の保護費については、 先ほど判例上という例もあげましたが、それをコントロールするというのは非常に困難 だろうと考えています。  もう一つは、開始時の手持ち金についていえば、これも先ほど言ったことの繰り返し ですが、やはり手持ち金を持っていて調査までの間に余裕があったほうが、生活保護を 開始し、その後、どういう自立支援をしていくかの計画を立てやすい。特に、日本の生 活保護制度の場合、却下率が非常に低いというのが特徴としてあると思うのですが、そ れは要するに生活保護の申請になったときは、既にもう生活保護とほぼ同等の状態にな っていて、自立をすぐ開始しなければいけない。ところが、いろいろな問題があって、 例えば貯金の問題とか、車の処分とか、自立支援の在り方とかいろいろ整理している中 で、実質、2週間では決定できずに、1カ月、法定期限ぎりぎりになって判断せざるを 得ないケースというのも非常に多いのです。  そういった意味で、開始に当たっての適正な資産調査をする意味でも、ある程度の期 間が保障されているという意味づけはあると思っています。 (岩田委員長)  生活保護にかかっている間は、かなりパーフェクトにお金が出ている構造になってい ます。十分出ているかどうかは別の話として、なっていると思うのです。ただ、入口と 出口のところです。生活保護から出た直後と、相談している期間の間です。これを持ち こたえられるようなストックはやはりあったほうが、逆に貧困のわなみたいなものを回 避する上でもいいという考え方は成り立たないでしょうか。  それは、一般的に私たちがストックを持つというときの考え方と同じであってもいい ということです。逆に言いますと、丸抱えで何でも生活保護から出すから預貯金はゼロ にする運用ではなく、先ほどの貸付資金の問題もそうですが、生活保護を利用しなが ら、通常の私たちが努力しなければならないような生活運営を被保護者の方にもしてい ただき、ある程度はストックを認めていくという考え方はあり得ると思います。  この場合は、今の一時金みたいな臨時の扶助です。こういう考え方をどういうふうに 整理するかというのは別途あると思いますし、開始後はそれを凍結していくという考え 方もあり得るとは思います。  これは、ただ若い世帯と高齢者で違うでしょうし、どこまで一律に考えられるかとい うのはわかりません。資産の考え方としてスウェーデンなどは大変厳しいです。その代 わり、扶養は全く緩いです。一方が厳しくもう一方が緩いというのが諸外国の感じです が、日本の場合はどっちにも振れないから、中間的になるのかなというのが私の考え方 です。  時間が少なくなってまいりましたので、少しそこはまた御意見をいただきたいと思い ますが、労働能力のところ、全然やっていませんので、稼働能力について、時間まで御 意見をいただきたいと思います。 (布川委員)  稼働能力については、資産の活用との違いがあることを最初に確認しないといけない と思います。入口の問題と保護受給中の問題と、資産については分けて議論しました が、稼働能力の活用というのは入口の問題ではなくて、保護受給中の受給者の義務の問 題ではないかと思います。  今、それが入口の問題として、入口で稼働能力を活用していないと保護を出さないと いうことになっていて、実際に仕事がない人にとって、どんな運用になっているかとい うのは、前の委員会で説明いたしました。稼働能力が活用できなくて生活に困っている のに、それが能力の活用をしないということで入口の段階で受給を断られ、問題になっ ています。ですから、現実には稼働能力の活用という要件を入口の要件とするのは、無 理な現状なのではないかと思います。  生活保護制定以来というのでしょうか、制定したときからの稼働能力の位置付けは、 入口の問題ではなくて、生活保護を受給しているときの、保護を継続させるかどうかの 要件という扱いだったと思うのです。保護が成り立つという積極的な要件というのでは なくて、受給者としての義務があまりにも果たされていないようなときには、その人に 対していろいろな指導をして、それでもあまりにもという場合には、保護の停廃止もあ り得るというような、保護の受給権が消えていくという意味での要件だと思います。  資産と同じように、入口の議論と保護受給中の議論という形で稼働能力の要件を話す のはちょっとおかしいのではないかと思います。稼働能力の位置付けというのは受給中 の問題として議論をしないといけないのではないかと思うのです。その位置付けによっ て要件の中身の在り方も変わってきますので、議論の前提として確認したいと思いま す。 (岩田委員長)  今の点は、課長、いかがでしょうか。 (岡田保護課長)  私も十分先生の御発言を理解していないのかもしれませんが、働いていないという事 実があれば直ちに保護が開始されるという仕組みはちょっとどうかなという気はしま す。どういう稼働能力があり、実際に職を探す努力をしているのかを判断した上で、な おかつ職がないということで保護が開始されるべきで、直ちに働いていないという事実 だけをもって、すぐに保護が始まるという仕組みは、社会的な理解を得られないと考え ます。  それから、現場でいろいろなケースがあり、例えば、自分から会社をやめて、仕事が ないからすぐに保護を受けさせてくださいというような方に、直ちに保護を適用するの が適当なのかということがあります。そういう趣旨で言われているのかどうか、私も十 分理解していませんが、働いていないということだけをもって、直ちに保護が始まると いうのはちょっと問題が多いと直感的には思います。 (布川委員)  現在は、稼働能力を活用しているということが保護の開始の要件だという解釈です。 実際にはそれは無理なことで、稼働能力の活用のしようがないわけですよ。仕事のない 人に稼働能力の活用を課すというのは、どういうことなのでしょうか。 (岡田保護課長)  それは今言いましたように、現に仕事がないという、そういう人にもいろいろな種類 があるのではないかということです。稼働能力の活用については、前回まで御説明して きましたような、3つの視点、(1)能力があるのかどうか、(2)ちゃんと職探しをしてい るのかどうか、(3)その上でなおかつ仕事がない、という方については、稼働能力を活用 した上で仕事がないわけでして、仕事がないことだけをもって、直ちに保護開始になる のはちょっとどうかという気がします。 (布川委員)  なかなか言っている意図が伝わらないのですが、現行は稼働能力の活用という条件を クリアして保護が始まるという扱いでしょうか。 (岡田保護課長)  そうです。 (布川委員)  だから、実際に仕事がない人に対して、稼働能力の活用の場がない人に対して、活用 しなさいといってもできないのだから、稼働能力の活用の場がない人は稼働能力を活用 していないとは言えないから、保護を適用しますという、現行はそういう運用かと認識 しているのですが、その理解で正しいでしょうか。 (岡田保護課長)  はい、そのとおりです。 (布川委員)  そうしますと、そこの中に入ってしまうと、稼働能力を活用しているか否かではな く、これも前回か前々回に言いましたが、「稼働能力の活用をしていないとは言えない 」ということの証明をどうするかという議論に入っていくわけです。そうなると、実際 に仕事があるのかとか、意思があるのかということが、ここで詰める要件になっていっ てしまうと思うのですが、実際にはそれでいいのかというのがまず1点目です。  もう一つ、議論を戻しますと、生活保護制度の制定のとき以来、稼働能力の活用とい うのは、入口の要件ではなくて、保護が開始された人で、保護をまずは開始してから、 受給者の義務として、その人に合った勤労をしてもらうという義務をどうしていくのか という位置付けだったと思うのです。それは違うという御理解でしょうか。 (岩田委員長)  どうぞ。 (事務局)  布川先生のおっしゃるように、「稼働能力を活用していないとは言えない」というお 話は、そもそも、どれだけ稼働能力を活用しているかという評価は難しく、各保護の実 施機関においていろいろ問題を抱えているだろうと認識しています。  ただ、いずれにしても、その評価を客観的にするということが、今後大切だというこ とだと思いますので、事務局のほうから論点の整理という中でお示しした資料の中で も、そのような過去の職歴ですとか、そういったものを総合的に評価することがその能 力の活用、また稼働能力を活用していないと言えないと言えるかどうか、その判断に当 たって大切であると考えております。  それについては、その保護の申請に当たって、申請者の方からこれまでの申請に当た って、そういった職歴などを教えていただくとともに、それに従って、福祉事務所にお いてどう客観的に評価していくかということが大きなポイントといいますか、大切なこ とであろうと思います。 (布川委員)  繰り返しになりますが、保護の入口の段階における稼働能力の活用の要件の議論にな るのか、制定当時書かれた『生活保護法の解釈と運用』ではそういう位置付けではなか ったはずですが、あるいは、保護の開始になってからつまり生活保護法でいえば60条の ところでどういう対応をするかというところの議論なのか、位置付けを確認したいので すが。 (事務局)  多分、今のお話は、『生活保護の解釈と運用』という本の記述についての解釈という ことだろうと思います。しかしそれだとなかなか皆さんに議論が伝わりにくいと思われ ます。 (布川委員)  保護を受けてからの稼働能力の活用をどう図るかというのがこの資料の議論だと思う のですが、入口の段階で稼働能力を活用していなければ生活保護が受けられないという 判断をしないというのは、今の生活保護法の考え方ではないかと思いますので、そこの 確認を。 (岩田委員長)  日本の生活保護法というのは、世界でも珍しい、一般扶助の仕組みをとっていますの で、実質的には失業扶助の機能を中に込められているわけです。諸外国の場合は生業扶 助の形をとって、例えば類型で排除するか、あるいは何時間働いている人はだめよとい う、そういう排除の仕方をしているわけですが、日本はしていないので、働いている人 も入ってくる可能性があるし、働けない人も入ってくるかもしれないし、働けるのに働 いていない人も入ってくるかもしれない。入口でやる場合は、一種の「働けるのに働い ていない」という人は排除しようという機能としてやるとすれば、やるということにな ります。  例えば、前に事務局のほうが例に出されたイギリスの求職者手当の場合は、実質上、 失業しているか、非常に短時間労働の人が所得が低くて、生活保護にかかるという場合 には、違う制度に連れていってしまうわけです。そこの制度はもういわばハローワーク にくっついているような制度で、今、布川委員が言ったように、労働能力の活用をセッ トにして、初めて給付が出るというふうに、いわば労働能力の活用とセットの給付金に してしまうわけです。あるいはボランティアとか、そういうものも含めてという御説明 が前にあったと思います。  多分、布川委員がおっしゃったのは、日本の生活保護法でも、そういう形があり得る し、そういう解釈があったのではないかということです。例えば1日4時間以上労働し ている人はだめよというのははっきりわかりますが、日本の場合、大変微妙なのは、労 働能力の活用という抽象的な文言が非常にわかりにくいということだと思うのです。事 務局のほうは、だからどういうふうにやるかを考えましょうという提案で、依然、入口 のところに一つ関門を設ける。それは働けるのに働いていないとか、努力していないと いう人をはじこうというふうに考えるのか、それともともかくそういう人でも一回来た ら、無理やり働くところに連れていってしまうとするか、非常に積極的な労働政策とい うか、そこと結びつけてしまうか、生活保護の機能とか、活用の仕方の問題だと思いま す。  布川委員のおっしゃることはよくわかるのですが、一つはもちろん法制度の解釈の問 題がありますから、その議論があると思います。もう一つは今日的な生活保護の機能を 私どもはここで問題にするわけですから、現在の失業とか、労働能力のある人たちの生 活保護受給についてどう考えるかということをもう一つのベースに置いて、どういう在 り方があり得るかということになります。その面でこの事務局の3ページの御提案のよ うな、何か総合的な評価、システムみたいなものをつくって、一応、入口である程度入 れる人を決めてしまうか、それともそこをあまり決めないかわりに、入ってきたらとも かく集中的に自立してしまうような、特に稼働能力のある方については、もう全然別の 制度に連れていってしまうか、その2つのやり方が多分あり得るだろうと思います。  法解釈上、どちらが正しいかという議論はもちろんあり得ると思うのですが、ここで の議論は現状においてどういうことが一番現実的でやるべきかというか、場合によって は法制度の改正ということだって、生業扶助という言葉についても前出てきましたが、 ないわけではないので、そういう面も含めて総合的な議論をしてはどうかと思います。  今日はいずれにしても、時間が来てしまいまして申し訳ありません。ちょっと不手際 な議事でしたので、その点は宿題ということで。 (布川委員)  入口の条件と入ってからの条件だと、中身の基準の高さが違ってくると思います。だ から、どっちを発言すればいいかなということになりますので。 (岩田委員長)  確かにそうだと思います。それと、入口でまず一回それをやった場合に、今度、入っ てきてからどうやるかというのが変わるということです。逆にいうと入ってきたからど うやるかということによって、入口のところをどういうふうにやるかが変わるから、同 じことになるかもしれないとは私は思いますが、結果的には。いずれにしても、入って からどういうふうに、特に失業問題にかかわるとすれば雇用保険が切れたとか、雇用保 険にきちんとくっついていられなかったような人たちの失業問題をどう考えるかとか、 そういうことになってくると思います。そこに生活保護はどのくらいの機能を果たせる かということになると思います。もしセットの仕方があれば、この入口を緩くという か、総合的判断で、こういう人はこっちに連れていけばいいという評価ができるかもし れないという意味では同じかもしれないという気もします。  それでは、この点は私どもも事務局のほうも宿題ということで、たくさん論点がある 中、次回は施設問題をと考えていましたが、相談体制と今の稼働能力の活用の問題を次 回もう一回最初のところで少し議論させていただいて、施設のほうに議論に移りたいと 思います。 (岡部委員)  この要件のところで論議になるかなと思ったのですが、そうでないので提案いたしま す。  1つめは、他法他施策の関係の論議です。これは具体的にいいますと、生活保護制度 では「他法を優先」というふうになっておりますが、国民健康保険と医療扶助の関係だ けは医療扶助優先という形になっているのです。この問題について、ぜひ取り上げた い。  2つめは、これも大きく分ければ生活保護の受給資格の観点になるかと思いますが、 国籍要件の問題です。外国人の方の生活困窮者の問題をどうするのかというのは、やは り国際化の進展で非常に大きな問題だと思います。生活保護においては国籍要件を入れ ておりますので、やはりこのあたりのところを時代の趨勢からすると、国籍要件の見直 しというのもぜひ検討に入れていただけないかというのが私のお願いです。  ですから、ここのあたりのところをもし次回、次回以降でも結構ですが、事務局のほ うである程度整理していただいて、少し議論をしていただければというふうに考えてお ります。以上です。 (岩田委員長)  どうぞ。 (根本委員)  今後の運営ということですが、前回あたりから相当煮詰まってきて、今日も相当具体 的な問題提起が出てきていますので、場合によってはこの委員会の委員のメンバーだけ では代表しきれないような、いわゆる一般常識的なセンスもちょっと問うてみるという ふうな形で、例えば民生委員の方とか、その地域を代表されるような方にも少しヒアリ ングというか、こういうふうなことはどうだろうかという形の問いかけなどもできる機 会があればいいなと思うのですが、よろしくお願いいたします。 (岩田委員長)  今の点は事務局とも相談しまして。  生活保護の問題は、根本的にいいますと、今の岡部委員の御発言にあったような、そ もそも国籍要件ということがありますし、他法他施策について、私、2回くらいこのこ とには触れたと思いますが、国民皆保険、皆年金と生活保護との関係をどうとらえるか という問題もありまして、なかなか難しい問題があると思います。ですから、結論が出 るようなことかどうかわかりませんが、一度、短時間でも議論だけして、どういう意見 があり得るかということは今後の議論のために示しておくということも必要かもしれま せん。スケジュールがかなりタイトなので、どこに入れ込めるかわかりませんが、でき るだけ考えてみたいと思います。 (田中委員)  最後の確認。次回は、いずれにしても、時間の問題は別として、施設のほうに入りま すか。 (岩田委員長)  でないと議論の時間がありませんので。施設をいつも後回しにして田中委員には大変 申しわけないと思います。施設問題については、内容の問題もそうですし、そもそも保 護施設とは何かということから考えますと、社会福祉法の位置付けの中で、社会福祉法 の時代だというふうにお考えいただいた上で、保護施設をどういうふうに考えるかとい うことは少なくともやっておかなければならないと思います。  大変申し訳ありません、時間が超過してしまいましたが、本日の議論は中途半端な形 になりましたが、ここまでというふうにしたいと思います。  それでは、次回以降の日程を。 (事務局)  次回以降の日程の前に、前回の委員会におきまして、委員の御質問の中で、平均勤労 控除額についての御質問がございました。その際、事務局のほうから間違った回答をし てしまいましたので、訂正をさせていただきたいと思います。  前回、勤労控除の関係で、前回の資料でいいますと6ページでございますが、平均勤 労控除額の内訳について、表をお示しして御説明したところでございましたが、これ、 御質問をいただいた際に、標準世帯の平均勤労控除額を1カ月平均で全世帯の場合には 約2万2,000円の中に、実費控除額も含んでいるというふうに御説明をさせていただいた ところですが、確認いたしましたところ、実費控除額は含まれておりませんでしたの で、その点訂正させていただきたいと思います。  ちなみに、実費控除額について申し上げますと、全世帯の場合ですと、2万2,402円 以外に実費として1万1,942円の控除がされているということでございます。  続きまして、次回の委員会の日程については、6月8日(火)の15時から17時に厚生 労働省7階専用第15会議室におきまして、また次々回については、6月29日(火)の10 時から12時に厚生労働省5階のここ共用第7会議室で開催したいというふうに考えてお ります。  それ以降の日程につきまして、各委員の調整をさせていただきまして、追って御連絡 さしあげたいと思いますので、よろしくお願いいたします。以上でございます。 (岩田委員長)  それでは、本日の会議はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。                                    −以上− (照会先) 社会・援護局 保護課 企画法令係       電話 03-5253-1111(内線2827)