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家族が行う「たんの吸引」に関する違法性阻却の考え方


 家族が行う「たんの吸引」について、当該行為の違法性が阻却される場合の要件としては、下記のようなことが考えられるのではないか。
(家族が行うことについて患者が同意していることが前提)

(1) 目的の正当性
 患者の療養目的のために行うものであること

(2) 手段の相当性
次のような条件の下で、「たんの吸引」を実施
医師・看護師による患者の病状の把握
医師・看護師による療養環境の管理
「たんの吸引」に関する家族への教育
適正な「たんの吸引」の実施と医師・看護師による確認
緊急時の連絡・支援体制の確保

(3) 法益衡量
 「たんの吸引」が家族により行われた場合の法益侵害と、在宅療養を行うことによる患者の日常生活の質の向上を比較衡量

(4) 法益侵害の相対的軽微性
 侵襲性が比較的低い行為であること
 行為者は、患者との間において「家族」という特別な関係(自然的、所与的、原則として解消されない)にある者に限られていること(公衆衛生の向上・増進を目的とする医師法の目的に照らして、法益侵害は相対的に軽微であること)

(5) 必要性・緊急性
 早急に「たんの吸引」を行わなければならない状況が不定期に訪れるが、医療資格者がすべてに対応することが困難な現状にあり、「たんの吸引」を家族が行う必要性が認められること


家族が行う「たんの吸引」の手段の相当性について


項目 具体的な方策
患者の病状把握
 患者の主治医等は、個々の患者について、定期的な診療等を行い、病状が安定していることを確認する
 患者の主治医等は、個々の患者の病状について、家族に対し、的確に伝達する
療養環境の管理
 患者の主治医は、患者が入院から在宅療養に移行する前に、個々の患者について、家族や、訪問看護師等ケアを行う者の状況を把握・確認する(質・量両面)
 患者の主治医は、患者や家族に対して、事前に「説明と同意」を適正に行う
 家族は、患者の在宅療養への移行に備え、必要な準備を行う
 患者の主治医や、訪問看護師、家族等患者の在宅ケアを行う者は、患者が在宅療養に移行した後も、相互に緊密な連携を確保する
 在宅ケアを行う家族の負担軽減のために、適切にレスパイト・ケアを行う
家族への教育
 家族は、たんの吸引行為が伴う危険性について、事前に十分に習得する
 家族は、自らの知識・手技に自信をもって行うことができるまで訓練を行う
 患者の主治医等は、家族がたんの吸引行為を適切に行うことができるかを確認する
適正な「たんの吸引」の実施と医師・看護師による確認
 患者の主治医等は、家族が行ったたんの吸引行為について、医学的見地から評価を加える
 患者の主治医等は、定期的に、家族がたんの吸引行為を適切に行うことができているかを確認する
緊急時の連絡・支援体制の確保
 主治医や専門医等と家族との間で、緊急時の連絡体制を取る
 主治医は、空床を確保する


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