療法名 | 乳癌の術前、術後化学療法におけるエピルビシン/シクロホスファミド併用療法(EC療法)、あるいはシクロホスファミド/エピルビシン/フルオロウラシル併用療法(CEF療法) |
未承認効能・効果を含む医薬品名 | 手術可能乳癌における術前、あるいは術後化学療法 |
未承認用法・ 用量を含む医薬品名 |
エピルビシン1回100mg/m2、3週間隔投与 |
予定効能・効果 | 乳癌(手術可能例における術前、あるいは術後化学療法) |
予定用法・用量 | EC療法 エピルビシン 100mg/m2 シクロホスファミド 600mg/m2 3週間隔投与、4〜6コース反復 CEF療法 シクロホスファミド 500mg/m2 エピルビシン 100mg/m2 フルオロウラシル 500mg/m2 3週間隔投与、4〜6コース反復 なお、エピルビシンの投与量は年齢、症状により適宜減量する。 |
|
||||||||||
|
||||||||||
|
||||||||||
|
||||||||||
|
臨床試験の試験成績に関する資料 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
閉経前、あるいは閉経への移行期は、正常な月経周期を有する、無月経の期間が1年未満、血中のホルモン検査にて卵巣機能が保たれている、無月経の期間が1〜3年間で52歳未満、あるいは56歳未満で子宮摘出のみを受けた症例のいずれかに該当すると定義されていた。 本試験における無再発生存期間は、無作為割付後から何らかの再発までの期間とされていた。局所の乳房再発とは、温存術後の乳房内再発、局所の胸壁再発とは、上端は鎖骨、下端は剣状突起の高さ、正中線、および後腋窩線で囲まれた範囲内の皮膚、あるいは皮下転移を示し、領域再発とは、同側の腋窩、鎖骨上、および傍胸骨リンパ節転移への再発と定義されていた。遠隔転移とは、乳房内、局所胸壁局所、および領域再発以外の遠隔部位への再発と定義されていた。また、対側乳房癌の発生は2次がんと定義されていた。対側乳癌、2次がん、あるいは乳癌以外の死亡例はその時点で、打ち切り例として扱われた。 それぞれの治療群の用法・用量は、CEF療法:CPA1日投与量75mg/m2、経口、1から14日目まで投与、EPI1回投与量60mg/m2、1および8日目投与、5-FU1回投与量500mg/m2、1および8日目投与、これらの薬剤を28日間隔で投与した。CMF療法の用法・用量は、CPA1日投与量100mg/m2、経口、1から14日目まで投与、MTX1回投与量40mg/m2、1および8日目投与、5-FU1回投与量600mg/m2、1および8日目投与、これらの薬剤を28日間隔で投与した。 CEF群では、cortrimoxazole4錠/日の内服による抗生剤の予防投与を化学療法中に行った。cortrimoxazoleに不耐例には、norfloxacin 800mg/日、あるいはciprofloxacin1000mg/日を投与した。化学療法中は、血算の採血を週1回行った。Colony-stimulatingfactor(CSF)の投与は許容されていなかった。CEF療法における減量は、(1)1日目の好中球数1,500/mm3以上、および血小板数100,000/mm3以上で、当該コースの最低値が好中球数2000/mm3以上、および、血小板数50,000/mm3以上の場合は前コースの1日目と同一の用量で投与、(2)1日目の好中球数1,500/mm3以上、および血小板数100,000/mm3以上で、各コースの最低値が好中球数2000/mm3未満、または、血小板数50,000/mm3未満、または好中球減少性発熱を来した場合は、前コースの1日目の75%用量で投与、(3)1日目の好中球数1,500/mm3未満、または血小板数100,000/mm3未満の場合、投与を1週間延期した後に、好中球数1,500/mm3以上、および血小板数100,000/mm3以上なら、当該コースの最低値によって、(1)あるいは(2)と同様に投与量を変更、(4)8日目の好中球数1,500/mm3以上、および血小板数100,000/mm3以上なら、1日目と同一の用量で投与、(5)8日目の好中球数1,000〜1,499/mm3、および血小板数100,000/mm3以上なら、1日目の75%用量で投与、(6)8日目の好中球数1,000/mm3未満、または血小板数100,000/mm3未満なら、8日目の投与を行わない、と規定されていた(Eur J Cancer 29A: 37, 1993)。 乳房部分切除を受けた症例は化学療法終了後に温存乳房に対する放射線照射を受けた(50Gy/25fraction)。腋窩への照射や乳房切除後の胸壁照射は禁止されていた。乳房部分切除後に切除断端に腫瘍細胞の残存を顕微鏡的に認めた場合は、再切除、それが不可能であれば腫瘍残存部位に放射線の追加照射を行った。Tamoxifen(TAM)、prednisone、あるいはその他のホルモン剤の投与は行われなかった。 1989年12月から1993年7月までに716例が試験に登録され、CMF群360例、およびCEF群356例が割り付けられた。6例が不適格で、CMF群1例(術後10週以上経過後に無作為化割付が行われた)、およびCEF群5例(1例:乳房切除後の切除断端陽性、1例:肉眼で確認可能な腋窩腫瘍、1例:術後10週間以上経過後に無作為割付が行われた、1例:遠隔転移あり、1例:長期間のprednisone 投与が必要)。解析対象は、治療を受けたCMF群359例、CEF群351例であった。1例はfollow-upを行うことができなかった。 患者背景は以下のとおりであった。
観察期間中央値が59ヶ月の時点で、5年無再発生存率は、CMF群53%、およびCEF群63%でCEF群が有意に優れていた(p=0.009)。初再発部位は、CMF群、およびCEF群でそれぞれ、乳房内のみ:4.7%、および4.3%、胸壁のみ:4.2%、および5.1%、領域リンパ節のみ:7.8%、および5.1%、遠隔転移のみ:27.6%、および20.2%、複数部位に再発:2.8%、および2.8%であり、両群で再発部位の頻度に有意な差は認められなかった。5年生存率は、CMF群70%、およびCEF群77%で、CEF群が有意に優れていた(p=0.03)。 National Cancer Institute Common toxicity criteriaにて評価された有害事象の頻度、および程度を以下に示す。
本試験の主要評価項目は無病生存期間、および生存期間であった。本試験における無病生存期間は、無作為割付の時点から局所、領域、あるいは遠隔再発のいずれかを最初に認めるまでの期間と定義されていた。また、対側乳房癌の発生は2次がんと定義されていた。生存期間は、無作為割付の時点から原病、あるいは原病以外の死亡と定義されていた。本試験の統計解析は、Pharmacia&Upjohnと試験と独立した生物統計家、双方により盲検化されて実施された。 次コースの投与開始規準は、投与予定日に顆粒球が2,000/mm3以上、および血小板数が100,000/mm3以上を満たすことと規定されており、その規準を満たさなければ治療を1週間延期した。また、次コース治療開始予定日よりその規準までに3週間を越えても回復しない場合には治療を中止した。血清ビリルビンが35〜50μmol/Lの場合は、EPIの1回投与量を50%に減量し、50μmol/Lを越える場合には治療を中止した。 閉経後症例には、化学療法開始時よりTAm30mg/日を3年間投与した。ホルモン受容体が陰性の場合には、TAM投与の有無は主治医の判断に任されたが、その方針は各施設内で統一された。乳房切除例では、胸壁、鎖骨上、内胸リンパ節領域、および腋窩に放射線照射を行った(50Gy/25Fr)。乳房温存例では、温存乳房(55Gy/27Fr)、胸壁、鎖骨上、内胸リンパ節領域、および腋窩(50Gy/25Fr)に放射線照射を行った。 1990年4月から1993年7月までに565例が試験に登録された。不適格例は20例で、評価対象例数は以下のとおりであった。
化学療法を受けた546例のうち、それぞれの群の平均治療コース数は、CEF50群(278例)5.9、およびCEF100群(268例)5.85であった。28例が途中で治療を中止した(CEF50群12例、およびCEF100群16例)。その理由は、患者拒否7例、非血液毒性7例、心毒性4例、遷延する好中球減少1例、乳癌の進行1例、当初存在した転移巣が後に判明1例、死亡2例(脳虚血発作1例、胸膜病変1例)、catheter obstruction1例、交通事故1例、および理由不明3例であった。EPI総投与量の平均値は、CEF50群298.2mg/m2(予定量300 mg/m2)、およびCEF100群589.8mg/m2(予定量600mg/m2)であった。 観察期間中央値が67ヶ月の時点で、5年無再発生存率は、CEF50群54.8%、およびCEF100群66.3%で、CEF100群が有意に優れていた(p=0.03)。初再発部位は、CEF50群、およびCEF100群それぞれ、乳房内のみ3.7%、および3.0%、軟部組織のみ1.1%、および0.7%、領域リンパ節のみ2.6%、および1.1%、遠隔転移のみ24.3%、および24.4%、複数部位に再発13.6%、および7.9%であり、両群で再発部位の頻度に有意な差は認められなかった。5年生存率は、CEF50群65.3%、およびCEF100群77.4%%で、CEF100群が有意に優れていた(p=0.007)。乳癌再発前の死亡例は、CEF50群9例(2次がん5例(大腸癌2例、胃癌1例、鼻腔cylindroma1例、急性白血病1例)、心筋梗塞1例、脳虚血発作1例および原因不明2例)、およびCEF100群6例(2次がん2例(膵癌1例、急性白血病1例)、脳虚血発作1例、自殺2例、心筋の前中隔の壊死1例)であった。 WHOの判定基準による有害事象の頻度、および重篤度を示す。
化学療法中に13例の心臓に関する異常を認めた(CEF50群6例、CEF100群7例)。うち、3例で治療の中断を必要とするgrade 2の事象を認めた(CEF50群:心電図上左室肥大を来した1例、CEF100群:臨床症状はないが左室駆出率が68から45%へ減少した1例、左室駆出率が41%となった1例)。また、10例で慢性心毒性を認めた(CEF50群6例、CEF100群4例)。2例は手術後の化学療法のみを受けていた(EPI総投与量300mg/m2を受けた17ヶ月後に心筋梗塞で死亡1例、EPI総投与量577mg/m2を受けた63ヶ月後に左室駆出率が44から20%へ減少した1例)。8例は転移性乳癌に対する化学療法後に慢性心毒性を認め(CEF50群5例、CEF100群3例)、うち3例はdoxorubicin(DOX)、3例はmitoxantrone、2例は転移例に対する1次化学療法としてEPIを受けていた。これら8例は、左室駆出率の減少とうっ血性心不全を来し、1例はmitoxantroneの総投与量100mg/m2のmitoxantroneを受けた後に心不全にて死亡、5例は原病の進行にて死亡し、2例は心機能が正常に回復した。さらに、無再発の150例(CEF50群65例、CEF100群85例)を対象に心機能に関する長期follow-upが行われた(J Clin Oncol 22:3070, 2004)。観察期間中央値が102ヶ月の時点で、CEF100群85例中5例が左室駆出率50%未満であり、うち2例は化学療法に関連性ありと考えられる心不全を来した。無症候性の左室機能異常をCEF50群65例中1例(grade 1)、およびCEF100群85例中18例(grade 1/2:9/9例、うち8例は化学療法に関連性ありと判定)に認めた。 37例に2次がんを認めた。対側乳癌の発症は21例であった(CEF50群14例、CEF100群7例)。急性白血病を2例で認めた(CEF50群1例で急性リンパ球性白血病、CEF100群1例で急性骨髄性白血病)。固形癌を14例に認めた(CEF50群7例、CEF100群7例、子宮体癌3例(TAM投与例)、大腸・直腸癌3例、膵癌1例、胃癌1例、肺癌1例、膀胱癌2例、基底細胞癌1例、鼻腔cylindroma1例、頬部histiocytoma1例)。
次コースの投与開始規準は、投与予定日に白血球数が3,500/mm3以上、および血小板数が100,000/mm3以上を満たすことと規定されており、その規準を満たさなければ治療を1週間延期した。また、次コース治療開始予定日よりその規準までに2週間を越えても回復しない場合には次コースの各薬剤の投与量を20%減量した。CMF療法の8日目に白血球数が2,500/mm2以上で3,500/mm3未満、あるいは、血小板数が75,000/mm3以上で100,000/mm3未満ならば、各薬剤の投与量を50%減量した。さらに、CMF療法の8日目に白血球数が2,500/mm3未満、あるいは、血小板数が75,000/mm3未満ならば、8日目の投与を中止した。Colony-stimulating Factor投与は許容されていなかった。前コースでgrade 3あるいは4の非血液毒性が認められた場合には、次コースの各薬剤の投与量を20%減量した。EC療法群では、左室駆出率が少なくとも15%以上減少、あるいは正常値より10%以上減少した場合には、次コースのEPI投与を中断した。左室駆出率は治療前、4、および7コース後、治療開始より12ヶ月後に計測された。 閉経後でERが陽性、あるいは不明例にはTAM40mg/日を5年間内服した。TAMは各群の化学療法の最終コース開始と同時に始められた。乳房温存術後、あるいは乳房切除後で各施設のガイドラインに沿って適応と見なされる症例には、化学療法終了後に放射線治療を行った(乳房、鎖骨上、胸壁、および傍胸骨リンパ節領域には、50Gy/25fraction照射、乳房温存の場合には腫瘍切除部位に10Gy追加照射)。 本試験では、CMF群と比較してEC100群は5年無再発生存率を20%向上させるという仮説が立てられた。CMF群の5年無再発生存率を60%とし、typeIerror0.05、typeIIerror0.20にて必要症例数を算出すると各群86例であった。腋窩リンパ節転移陽性乳癌の術後に対するanthracycline系薬剤とCMF療法の比較試験結果が公表された後(J Clin Oncol 8:1483,1990、J Clin Oncol9:1124, 1991)、anthracline系薬剤の治療成績がCMF療法に有意に優れてはいなかったことを踏まえて、1991年に本試験のsteering committeeは仮説をCMF群と比較してEC100群は5年無再発生存率を12%向上させることに変更した。変更した仮説に従って症例数を算出すると各群250例であった。症例数の増加を避けるためにCMF群とEC60群の比較を行うための症例数の算出は実施しなかった。 本試験における無病生存期間は、無作為割付の時点からいずれかの再発、2次がん、死亡を最初に認めるまで、あるいは最終の追跡日までの期間と定義されていた。局所の乳房再発とは、温存術後の乳房内再発、局所の胸壁再発とは、上端は鎖骨、下端は剣状突起の高さ、正中線、および後腋窩線で囲まれた範囲内の皮膚、あるいは皮下転移を示し、領域再発とは、同側の腋窩、鎖骨上、および傍胸骨リンパ節転移への再発と定義されていた。遠隔転移とは、乳房内、局所胸壁局所、および領域再発以外の遠隔部位への再発と定義されていた。また、対側乳癌の発生は2次がんと定義されていた。生存期間は、無作為割付の時点からいずれかの死亡、あるいは追跡不能となった日と定義されていた。 なお、本試験は、一部Pharmacia-Upjohnのsupportを受けていた。 1988年3月から1996年12月までに804例が試験に登録された。27例が不適格であった(病期診断が不適切:CMF群7例、EC60群2例、EC100群5例、心機能あるいは骨髄機能が不適格:各群1例ずつ、その他の適格規準逸脱:CMF群2例、EC60群1例、EC100群2例、治療開始前に同意撤回:CMF群2例、EC60群1例、EC100群2例)。 適格777例の患者背景を示す。
放射線治療を受けた症例の割合は、CMF群79%、EC60群84%、およびEC100群79%であった。また、TAMを受けた症例の割合、および投与期間中央値は、CMF群43%、および37ヶ月、EC60群40%、および36ヶ月、およびEC100群38%、および42ヶ月であった。 WHOの副作用判定基準による各群のgrade 3/4の有害事象の割合を示す。
各群の観察期間中央値は、それぞれ、CMF群58ヶ月(5〜119)、EC60群52ヶ月(7〜116)、およびEC100群56ヶ月(1〜120)であった。各群の3年無増悪生存率、および3年生存率は、それぞれ、CMF群78%、および91%、EC60群72%、および89%、EC100群80%、および92%であった。 本試験の主要評価項目であるCMF群とEC100群の無再発生存期間のhazard ratioは0.96(0.70-1.31)であり、両群間で有意な差は認められなかった(p=0.80)。また、遠隔転移についての無再発生存期間、および生存期間のhazard ratioは、それぞれ、0.97(0.70-1.34、p=0.87)、および0.97(0.65-1.44、p=0.87)であり、CMF群とEC100群で有意な差は認められなかった。これらの解析では、予後因子である術式(乳房切除、温存)、および腋窩リンパ節個数について、各群の割合によって調整した上で解析を行った。なお、不適格27例を解析に含めても結果は変わりなかった。 さらに、EC60群とEC100群の無再発生存期間、遠隔転移についての無再発生存期間、および生存期間のhazard ratioはそれぞれ、0.73(0.54-0.99、p=0.04)、0.75(0.55-1.02、p=0.06)、および0.69(0.47-1.00、p=0.05)であり、EC100群はEC60群と比較して有意に優れていた。これらの解析では、予後因子である術式(乳房切除、温存)、および腋窩リンパ節個数について、各群の割合によって調整した上で解析を行った。なお、不適格27例を解析に含めても結果は変わりなかった。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
手術可能な乳癌は局所性疾患と全身性疾患に分類され、局所性疾患は局所療法のみで治癒し、全身性疾患は微小転移を伴う。微小転移巣は、術後数ヶ月〜数年の間に明らかな病巣を形成し再発と診断される。手術時、既に微小転移のある可能性、すなわち再発リスクを予測する因子として、腋窩リンパ節の転移状況、年齢、腫瘍の浸潤径、組織型異型度(あるいは核異型度)、ホルモン受容体状況(エストロゲン/プロゲステロン受容体:ER/PgR)、HER2蛋白発現状況が挙げられている(Disease of the Breast, 3rd ed, Lippincott Williams & Wilkins, p223, 2004)。乳癌の術後に再発抑制を目的として行われる術後薬物療法は、個々の症例の予後・予測因子を考慮した上で、化学療法と内分泌療法を適切に組み合わせ施行されている。 腋窩リンパ節の転移状況は最も重要な予後因子である。乳癌の術後薬物療法を検討する際には、まず腋窩リンパ節転移陰性と陽性の2つの群に分ける。腋窩リンパ節陰性例においては、予後因子によって再発のリスクの高い群が存在し、ホルモン受容体状況、腫瘍の浸潤径、組織学的異型度および年齢により、Minimal riskとAverage riskの2群に分類されている(J Clin Oncol 21:3357,2003)。現時点では、腋窩リンパ節転移陽性、および腋窩リンパ節転移陰性Average riskに対して術後薬物療法として原発巣のホルモン受容体状況に応じて化学療法と内分泌療法を組み合わせた治療が行われている。また、最近では、手術可能乳癌の術前に化学療法を行い腫瘍の縮小をはかり、乳房温存術の向上を目指した術前化学療法も一般臨床として行われている(J Clin Oncol 21:2600,2003)。 1970年代より腋窩リンパ節転移陽性乳癌に対する無治療とCMF療法の第III相比較試験にてCMF療法による再発抑制効果が示されたことにより(N Engl J Med 332:901,1995)、CMF療法は乳癌の術後化学療法における標準的治療レジメンと位置づけられてきた。さらに1980年代には、doxorubicin(DOX)やEPIなどのanthracycline系抗がん剤が術後化学療法に導入された。転移性乳癌に対するEPIとDOXを含む併用化学療法の比較試験(CEF(CPA/EPI/5-FU) vs CAF(CPA/DOX/5-FU:EPIおよびADMの1回投与量はいずれも50mg/m2、DOX(60mg/m2) vs EPI(90mg/m2))では、両群の奏効率、無増悪生存期間および生存期間に有意差は認められず、有害事象の程度も両群で明らかな差は認められなかった(J Clin Oncol 6: 679, 1988、J Clin Oncol 6:976, 1988、J Clin Oncol 9:2148, 1991)。 EPIを含むレジメンとCMF療法の比較に関して、57歳以下、閉経前、腋窩リンパ節転移陽性乳癌術後に対してCEF1(CPA600mg/m2、EPI50mg/m2、5-FU600mg/m2、3週間隔投与)x8コース(180例) vs classicalCMF(CPA1日投与量100mg/m2、経口、1から14日目まで投与、MTX1回投与 40mg/m2、1および8日目投与、5-FU600mg/m2、1および8日目投与、4週間隔投与)x6コース(180例)とCEF2(CPA600mg/m2、1および8日目投与/EPI50mg/m2、1日目投与/5-FU600mg/m2、1および8日目投与、4週間隔投与)x6コース(200例) vs iv-CMF(CPA600mg/m2、1および8日目投与、MTX40mg/m2、1および8日目投与、5-FU1回投与量600mg/m2、1および8日目投与、4週間隔投与)x6コース(199例)の第III相比較試験が行われた(J Clin Oncol 14:35,1996)。この試験結果によれば、CEF1群とclassicalCMF群の無増悪生存期間、および生存期間に有意な差は認められなかった(5年生存率:CEF1群71.5%、classicalCMF群77.7%、p=0.96)。一方、CEF2群はiv-CMF群よりも無増悪生存期間、生存期間は有意に優れていた(5年生存率:CEF2群86.6%、CMF群73.8%、p=0.02)。 さらに、閉経前、腋窩リンパ節転移陽性乳癌術後に対して、CEF(CPA1日投与量75mg/m2、経口、1から14日目まで投与、EPI60mg/m2、1および8日目投与、5-FU500mg/m2、1および8日目投与、4週間隔投与)x6コース(351例)とclassicalCMFx6コース(359例)の第III相試験が行われた(J Clin Oncol 16:2651,1998)。CEF群はclassicalCMF群と比較して無増悪生存期間、および生存期間が有意に優れていた(5年無再発生存率:CEF群63%、classicalCMF群53%、p=0.009、および5年生存率:CEF群77%、classicalCMF群70%、p=0.03)。 また、70歳以下、腋窩リンパ節転移陽性乳癌術後対して、EC60(EPI60mg/m2、CPA500mg/m2、3週間隔投与)x8コース(267例)、EC100(EPI100mg/m2、CPA830mg/m2、3週間隔投与)x8コース(255例)、classicalCMFx6コース(255例)の第III相試験が行われた(J Clin Oncol 19:3103,2001)。EC100群とclassicalCMF群の無再発生存期間、および生存期間に有意な差は認められなかった(3年無再発生存率:EC100群80%、classicalCMF群78%、p=0.8、および3年生存率:EC100群92%、classicalCMF群91%、p=0.87)。一方、EC60群はEC100群と比較して、無再発生存期間、および生存期間が劣っていた(3年無再発生存率:EC100群80%、EC60群72%、p=0.04、および3年生存率:EC100群92%、EC60群89%、p=0.05)。 腋窩リンパ節転移陽性の乳癌術後に対する従来のCMF療法とEPIを含む併用療法の比較試験結果より、EPIを含む併用療法はCMF療法と同等の治療効果を有しているが、一方EPIの投与量が低用量であるとCMF療法より治療効果が劣る可能性が示唆された。腋窩リンパ節転移陽性、あるいは陰性再発高リスクの乳癌術後に対するAC(DOX60mg/m2、CPA600mg/m2、3週間隔投与)x4コースとclassicalCMFx6コースの第III相試験では、AC療法の無増悪生存期間、および生存期間はclassicalCMF療法と有意な差は認められなかったことが示されており(J Clin Oncol 8:1483, 1990、J Clin Oncol 19:931, 2001)、CMF療法との比較試験結果より、現時点では、乳癌術後の化学療法において、EPIはDOXと並んでAnthracycline系抗がん剤の中心的役割を担う薬剤と見なされている。 1976年から89年に公表された乳癌術後に対するanthcycline系抗がん剤を含むレジメン(DOXやEPI)とCMF療法の第III相試験(11試験、7,250例)のメタアナリシスでは、anthracycline系抗がん剤を含むレジメンにより、5年無再発および生存率は、54.1%から57.3%および68.8%から71.5%へ改善されたことが示されている(Lancet 352:930, 1998)。このメタアナリシスの結果より、乳癌術後の化学療法においてanthracycline系抗がん剤は従来のCMF療法に代わり汎用される薬剤となった。 現在、乳癌の術後化学療法において、最も広く用いられているanthracycline系抗がん剤を含むレジメンは、AC療法(DOX/CPA)、CAF療法(CPA/DOX/5-FU)、CEF療法(CPA/EPI/5-FU)、およびEC療法(EPI/CPA)であるが(J Clin Oncol 21:3357,2003)、これらのレジメンをそれぞれ、直接比較検討した臨床試験は存在せず、どのレジメンが最も優れているのか不明である。 最近では、手術可能乳癌の術前に、4コースのAC療法を術前と術後に行う治療を比較した第III相試験では、術前化学療法は術後と比較して、無増悪生存期間、および生存期間に有意な差は認められなかったことが示された(J Clin Oncol 16:2672,1998)。乳癌の術前化学療法は乳房温存率の向上をはかることが可能な治療であり、最近では一般臨床として広く行われるようになった(J Clin Oncol 21:2600,2003)。EPIを含む併用療法では、T1c-3,4b/N0-1/M0、70歳未満の症例を対象に、4コースのCEF(CPA600mg/m2、EPI60mg/m2、5-FU600mg/m2、3週間隔投与) を術前(350例)と術後(348例)に行う治療を比較した第III相試験が行われた(J Clin Oncol 19:4224, 2001)。術前化学療法は術後と比較して、無増悪生存期間、および生存期間に有意な差は認められなかった(術前vs術後:4年無増悪生存率65%vs70%(p=0.27)、4年生存率82%vs84%(p=0.38))。 現時点では、術前化学療法においてもDOX、あるいはEPIを含む療法は主要なレジメンの一つであると見なされている(J Clin Oncol 21:2600,2003)。 以上、述べたように、乳癌の術前、および術後化学療法において、現時点ではCEF、およびEC療法は標準的治療レジメンの一つであり、また、術後化学療法におけるCMF療法との比較試験結果より、CEF療法、およびEC療法におけるEPIの1回投与量100mg/m2は最も有効性が高い用量と考えられている。 |
公表論文等 | ||||||||
国内で、乳癌の術前、あるいは術後にEPIを含む併用療法の検討について以下の口頭による発表が行われている。
|
乳癌の術後化学療法におけるEC、およびCEF療法の主な有害事象は、悪心・嘔吐、脱毛および白血球減少である。その他、発熱性好中球減少、感染、口内炎、下痢、出血性膀胱炎、肝機能異常、皮膚の色素沈着および爪の変色などである(J Clin Oncol 19:602, 2001、J Clin Oncol 19:3103, 2001)。さらに、晩期に認められる有害事象は、心不全、無月経および治療関連白血病などである(N Engl J Med 344:1997, 2001、J Clin Oncol 21:3066, 2003、J Clin Oncol 22:3070, 2004)。 腋窩リンパ節転移陽性の乳癌術後を対象とした6コースのCEF療法(CPA500mg/m2、および5-FU500mg/m2、3週間隔投与)におけるEPI1回投与量 50と100mg/m2の比較試験では、CEF100群(268例)はCEF50群(278例)よりも、頻度が高かった有害事象は、grade 3/4好中球減少(25.2vs11.1%)、貧血(42.4vs11.1%)、grade 3/4悪心・嘔吐(34.7vs23.3%)、粘膜炎(27.9vs7.8%)、感染症(20.6vs15.9%)、および脱毛(94.5vs74.5%)であった(J Clin Oncol 19:602, 2001)。なお、治療関連死亡は認められなかった。両治療群のコンプライアンスについて、それぞれの群の平均治療コース数は、CEF50群(278例)5.9、およびCEF100群(268例)5.85であり、CEF50群12例、およびCEF100群16例で治療を中断した。CEF100群のコンプライアンスはCEF50群と比較して不良とは判断できなかった。化学療法中にCEF50群6例、およびCEF100群7例に心毒性を認め、それぞれ1、および2例に治療の中断を必要とするgrade 2の事象を認めた。また、CEF50群6例、およびCEF100群4例に慢性心毒性を認めた。さらに、無再発の150例(CEF50群65例、CEF100群85例)を対象に心機能に関する長期follow-upが行われた(J Clin Oncol 22:3070, 2004)。観察期間中央値が102ヶ月の時点で、CEF100群5例が左室駆出率50%未満で、うち2例は化学療法に関連性ありと考えられる心不全を来した。無症候性の左室機能異常をCEF50群1例(grade 1)、およびCEF100群18例(grade 1/2:9/9例、probable 8例、doubtful13例、possible9例と判定)に認めた。この検討より、乳癌術後に6コースのCEF療法(CPA500mg/m2、EPI100mg/m2、5-FU500mg/m2、3週間隔投与)を受けた際には、心機能について長期の経過観察が必要であることが示唆された。 一方、腋窩リンパ節転移陽性の乳癌術後を対象とした6コースのCMF療法と8コースのEC60(EPI60mg/m2、CPA500mg/m2、3週間隔投与)、およびEC100(EPI100mg/m2、CPA830mg/m2、3週間隔投与)の比較試験において認められたgrade 3/4の主な有害事象の頻度は、CMF群(255例)、EC60群(267例)、およびEC100群(255例)でそれぞれ、無力感3、3、および7%、悪心8、25、および27%、粘膜炎2、1、および3%、感染 各1%ずつ、でCMF群と比較してEC群は悪心の頻度が高かった(J Clin Oncol 19:3103,2001)。EC100群は、EC60群と比較して無力感の頻度が高かった。 治療のコンプライアンスについて、各群の治療コース中央値は、CMF群6、EC60群8、EC100群8コースで、予定治療コース数を完遂した症例は、CMF群90%、EC60群84%、およびEC100群71%であった。治療中止の主な理由は、CMF群では、消化器毒性(6例)、および遷延する骨髄抑制(5例)、EC群では左室駆出率の減少(EC60群21例、EC100群33例)であった。減量、および投与延期の必要な症例は、各群、それぞれ、CMF群42%、および21%、EC60群1%、および18%、EC100群6%、および19%であった。各群ともに、減量、あるいは投与延期の主な理由は骨髄抑制、白血球減少の遷延であった。心毒性は、EC60群1例、EC100群3例にうっ血性心不全を認めた。この試験結果より、EC100群の治療コンプラアンスは、CMF療法やEC60群と比較して不良とは判断できず、骨髄抑制に注意すれば治療コンプライアンスは良好であると考えられる。ただし、心毒性について、治療終了後も長期の経過観察が必要であると判断される。 なお、国内において、国立がんセンター東および中央病院において、70歳未満の乳癌の術前化学療法において、4コースのCEF療法(CPA500mg/m2、EPI100mg/m2、5-FU500mg/m2、3週間隔投与)の安全性の検討を行った(向井博文ら、日本乳癌学会誌,2003、抄録)。薬剤投与前に嘔気対策として、デキサメサゾン8mg、およびグラニセトロン3mgを静脈内投与した。また、化学療法投与翌日より、デキサメサゾン2mg/日、およびドンペリドン30mg/日を3〜5日間経口投与した。2002年11月〜2003年5月までに26例(年齢中央値48歳、29-64)が治療を受けた。血液毒性(各コース開始時の末梢血数)は、grade 0/1/2/3/4、それぞれ、白血球減少21/2/2/1/0例、好中球減少18/6/1/1/0例、ヘモグロビン減少9/13/1/3/0例であった。また、主な非血液毒性は、grade 0/1/2/3/4、それぞれ、好中球減少性発熱22/-/-/4/0例、悪心・嘔吐1/9/11/5/-例、下痢21/5/0/0/0例、食欲不振13/10/3/0/0例、口内炎11/14/1/0/0例、爪の変化20/6/0/-/-例、GPT上昇20/4/1/1/0例、脱毛0/0/26/-/-例であった。4例で悪心・嘔吐のため、EPIの1回投与量を100から75mg/m2へ減量した。有害事象のため、治療の延期(1から2週間)をしたものは6例であった(白血球減少3例、肝障害2例、感冒1例)。治療の中止を行ったものはなかった。この検討より、CEF療法(CPA500mg/m2、および5-FU500mg/m2、3週間隔投与)について、海外での有害事象の頻度、および重篤度と相違があるとは判断できず、また骨髄抑制、および悪心・嘔吐に十分注意すれば安全に施行可能であることが示唆された。 Anthracycline系抗がん剤は、心毒性を有する薬剤として知られているが、そのうち主な事象である心不全の発症は総投与量と関連性があり、DOXで450〜550mg/m2を越えると頻度が高くなることが報告されている(Ann Intern Med 91:710, 1979)。心不全を発症する総投与量はEPIではDOXの1.8倍とされ、900〜1000mg/m2を越えると頻度が高くなることが報告されている(Cancer Treat Rev 19:197, 1993)。腋窩リンパ節転移陰性の乳癌術後に対するAC療法(DOX60mg/m2、CPA600mg/m2、3週間隔投与)x4コース(986例)における心毒性の発症は、grade 3/4:10/2例、死亡1例を認め、重篤な心毒性の頻度は1%であった(J Clin Oncol 19:931, 2001)。乳癌術後に対するEPI1回投与量100mg/m2における心毒性の頻度は、CEFx6コース(11/268例)4%(J Clin Oncol 19:602, 2001)、ECx8コース(3/255例)1%であり(J Clin Oncol 19:3103,2001)、現時点では、乳癌術後化学療法に対してEPI総投与量が800mg/m2以下では、EPIの方がDOXよりも心毒性の頻度、および重篤度が高いとは判断できない。ただし、EPIを含む化学療法終了後も心不全症状の発症など心機能についての長期の経過観察が必要と考えられる。特に、乳癌術後にanthracycline抗がん剤を投与後、縦隔や左胸壁に放射線照射を行った症例は心機能異常を来すリスクが高くなることが示唆されており(J Clin Oncol 16:3493, 1998)、放射線治療施行例では特に注意が必要である。 晩期毒性の一つである2次性白血病について、乳癌術後に対する臨床試験において急性白血病の発症頻度はCEF療法(539例、観察期間9年)2.2%で(7例:急性骨髄性白血病5例、急性リンパ球性白血病2例)、CMF療法(678例、観察期間7.4年)0.4%(1例急性骨髄性白血病)、およびAC療法(231例、観察期間4.9年)1.3%(2例急性骨髄性白血病)であった(J Clin Oncol 21:3066, 2003)。また、乳癌術後に対するAC療法(DOX60mg/m2/CPA600mg/m2、3週間隔投与)x4コースの急性骨髄性白血病の頻度は観察期間5年の時点で0.21%と報告されている(J Clin Oncol 21:1195, 2003)。現時点では、乳癌の術前、あるいは術後に行われる化学療法において、晩期毒性である2次性白血病発症のリスクよりも再発予防効果のメリットの方が高いと考えられているが(N Engl J Med 344:1997, 2001)、EPIを含む化学療法後の2次性白血病発症の頻度がCMF療法よりも高いことが示唆される報告も存在するため、心毒性とともに2次性白血病など晩期毒性に十分注意して長期経過観察を行う必要があると考えられる。 以上、化学療法に熟知した医師が、主な有害事象である骨髄抑制、粘膜炎、および悪心・嘔吐、さらに心毒性や2次性白血病などの晩期毒性にも十分に注意して治療を行ない、さらに心毒性や2次性白血病などの晩期毒性に留意し長期経過観察を行うのであれば、乳癌術前、あるいは術後に対するCEF、およびEC療法の安全性は担保できると考えられる。 |
乳癌に対するEPIの用量について、転移例に対して、単剤の1回投与量40(75例)、60(66例)、90(64例)、および135mg/m2(58例)、3週間隔投与の検討が行われた(J Clin Oncol 14:1146, 1996)。各投与群の奏効率、および無増悪生存期間は、それぞれ、20%、および4.4ヶ月、19.7%、および4.7ヶ月、37.5%、および8.4ヶ月、36.2%、および8.4ヶ月であった。この試験結果より、EPIは1回投与量が40〜90mg/m2の間で治療効果に用量依存性があることが示された。 腋窩リンパ節転移陽性の乳癌術後を対象とした6コースのCEF療法(CPA500mg/m2、および5-FU500mg/m2、3週間隔投与)におけるEPI1回投与量50mg/m2(278例)と100mg/m2(268例)の比較試験では、5年無再発生存率、および生存率は、それぞれ、CEF50群54.8%、および65.3%、CEF100群66.3%(p=0.03)、および77.4%(p=0.007)で、CEF100群が有意に優れていた。さらに、腋窩リンパ節転移陽性の乳癌術後を対象とした6コースのCMF療法(255例)と8コースのEC60(EPI60mg/m2、CPA500mg/m2、3週間隔投与、267例)、およびEC100(EPI100 mg/m2、CPA830mg/m2、3週間隔投与、255例)の比較試験(J Clin Oncol 19:3103,2001)では、EC100群とCMF群の無再発生存期間、および生存期間に有意な差は認められなかった(3年無再発生存率:EC100群80%、CMF群78%、p=0.8、および3年生存率:EC100群92%、CMF群91%、p=0.87)。一方、EC60群はEC100群と比較して、無再発生存期間、および生存期間が劣っていた(3年無再発生存率:EC100群80%、EC60群72%、p=0.04、および3年生存率:EC100群92%、EC60群89%、p=0.05)。また、これらの比較試験では、EPIの1回投与量を増量することにより骨髄抑制、悪心・嘔吐、および粘膜炎の頻度、および重篤度が高くなることが示されたが、EPI100mg/m2の治療コンプライアンスが低用量と比べて特に劣っていなかった。以上より、乳癌の術後化学療法におけるEPIの1回投与量は100mg/m2が標準的と考えられる。 今まで行われた臨床試験の結果より、CEF療法の標準的な用法・用量はCPA500mg/m2、EPI100mg/m2、5-FU500mg/m2(1日目投与)、3週間隔投与と考えられる。乳癌の術後に対するAC療法(DOX60mg/m2)における検討では、CPAの1回投与量を600mg/m2以上増量しても治療効果の向上は認められなかった(J Clin Oncol 15:1858, 1997、J Clin Oncol 17:3374,1999)。これらの試験結果より、EC療法の標準的な用法・用量はEPI100mg/m2/CPA600mg/m2(1日目投与)と考えられる。 乳癌の術前、あるいは術後におけるEPIの1回投与量が100mg/m2のCEF、およびEC療法について、治療コース数に関する比較試験は行われていない。乳癌術後に対するAC療法x4コースとCMF療法x6コースの比較試験(J Clin Oncol 8: 1483, 1990、J Clin Oncol 19: 931, 2001)、およびCEF療法とCMF療法の比較試験(J Clin Oncol 16:2651, 1998)、および転移性乳癌に対するDOXとEPIの比較試験(J Clin Oncol 6: 679, 1988、J Clin Oncol 6:976, 1988、J Clin Oncol 9:2148, 1991)より、乳癌に対してEPIはDOXとほぼ同等の効果を有していると考えられることより乳癌術後に対するCEF、およびEC療法の標準的コース数は4〜6コースと考えられる。 以上の検討より、現時点では、乳癌の術後化学療法におけるEC療法:EPI100mg/m2およびCPA600mg/m2(1日目投与)、3週間隔投与、およびCEF療法:CPA500mg/m2、EPI100mg/m2および5-FU500mg/m2(1日目投与)、3週間隔投与、それぞれ、4〜6コースが標準的な用法・用量と判断される。 |