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抗がん剤報告書:カルボプラチン(小児)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名 カルボプラチンを含む多剤併用化学療法
未承認効能・効果を含む医薬品名 カルボプラチン
未承認用法・
用量を含む医薬品名
カルボプラチン
予定効能・効果 小児悪性固形腫瘍(神経芽腫、ユーイング肉腫、網膜芽腫、肝芽腫、ウイルムス腫瘍、中枢神経系胚細胞腫)
(1) 初期治療として
神経芽腫,網膜芽腫,肝芽腫,中枢神経系胚細胞腫
(2) 再発、難治例
ユーイング肉腫,ウイルムス腫瘍
予定用法・用量
(1) 神経芽腫、ユーイング肉腫、肝芽腫、ウイルムス腫瘍、中枢神経系胚細胞腫
ICE(イホスファミド,カルボプラチン,エトポシド)療法としてカルボプラチンを635mg/m2を1日間点滴静注か,または,400mg/m2を2日間点滴静注する.少なくとも3〜4週間休薬
なお,投与量および投与日数は,疾患や症状および併用する抗悪性腫瘍剤の投与量などに応じて適宜減量する.特に腎機能が低下している場合は、注意し適宜減量すること。また、1歳未満もしくは体重10kg未満の小児に対して,投与量には十分配慮すること.
(2) 網膜芽腫
 ビンクリスチン,エトポシド,カルボプラチン併用療法とし,カルボプラチンを560mg/m2を1日間点滴静注する.少なくとも3〜4週間休薬
ただし,36ヶ月以下の患児にはカルボプラチンを18.6mg/kgとする.

2.公知の取扱いについて

(1) 無作為化比較試験等の公表論文
本報告書に記載した論文は,米国National Institute of Healthの機関であるNational Center for Biotechnology Information内にある文献データベースNational Library of MedicineのPubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)にアクセスし,Review,Randomized Controlled Trial,Practice Guideline,Meta-analysis,Editorial,Clinical Trial別に,各疾患名をキーワードとしてchemotherapyと掛け合わせ検索した.その中で,本報告書の趣旨に関係が無いもしくは関連が薄い論文は選択せず,症例数が多い論文や各疾患に対する治療法開発の歴史から考えて特に重要と思われる論文を重点的に抽出した.
A. 神経芽腫
(1) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol:265-269,1995
(2) Cohn SL, Moss TJ, Hoover M, et al:Bone marrow Transplant 20: 543-551,1997
(3) Katzen Stein HM, Bowman LC, Brodeur GM, et al. J Clin Oncol.16: 2007-2017,1998
(4) Frappaz D, Perol D, Michon J, et al. Br J Cancer87: 1197-1203, 2002
B. 網膜芽腫
(1) Doz F, Neuenschwander S, Plantaz D, et al. J Clin Oncol, 13:902-909,1995
(2) Gallie BL, Budning A, DeBoer G, et al. Arch Ophthalmol 1996,114:1321-1328,1996
(3) Shields CL, de Potter P, Himelstein BP, et al. Arch Ophthalmol, 114:1330-1338,1996
(4) Friedman DL, Himelstein B, Shields CL, et al. J Clin Oncol, 18:12-17.2000
(5) Shields CL, Honavar SG, Meadows AT, et al. Am J Ophtahlmol 133: 657-664, 2002.
(6) Honavar SG, Singh AD, Shields CL,et al. Arch Ophthalmol, 120:923-931,2002
(7) Chantada G, Fandino A, Casak S, et al. Med Pediatr Oncol 40: 158-161, 2003.
(8) Lee TC, Hayashi NI, Dunkel IJ, ey al. Ophthalmology 110: 1989-1995, 2003
C ウイルムス腫瘍、その他の腎原発悪性腫瘍
(1) Pein F, Tournade M-F, Zucker J-M, et al.J Clin Oncol,12: 931-936,1994
(2) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol:265-269,1995
(3) Cairo MS, Shen V,Krailo MD,et al. J Pediatr Hematol 23:30-38,2001
(4) Abu-Ghosh A.M, Krailo M.D, Goldman S.C, et al.Ann Oncol,13:460-469,2002
(5) Dome JS, Liu T, Krasin M, et al. J Pediatr Hematol 24:192-198,2002
(6) Campbell AD, Cohn SL, Reynolds M, et al. J Clin Oncol 22:2885-2890,2004
D. 肝芽腫
(1) Katzenstein HM. Et al. J Clin Oncol.20: 3438-3444,2002
(2) Fuchs J, Rydzynski J, von Schweinitz, D, et al. Cancer 95: 172-182, 2002.
(3) Perilongo G, Shafford E, Maibach R, et al.Eur J Cancer 40: 411-421, 2004
E. ユーイング肉腫
(1) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol:265-269,1995
(2) Cairo MS, Shen V,Krailo MD,et al. J Pediatr Hematol 23:30-38,2001
F. 頭蓋内胚細胞性腫瘍
(1) Casilda Balmaceda,et al, J Clin Oncol14:2908-2915, 1996
(2) Marie C. Baranzelli et al. Cancer,80:1792-7,1997
(3) MatsutaniM and the Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group: J of Neuro -Oncology 54:311-316,2001
(2) 教科書
A. 神経芽腫
(1) Philip A.Pizzo/David G.Poplack : Principles and Practice of Pediatric Oncology、4th edition LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia,2002 p895-937
  神経芽腫に対する単剤としてのphase II試験としてはシクロホスファミド,シスプラチン,ドキソルビシン、エトポシド,カルボプラチン,イホスファミド,イプロプラチン,エピルビシン,トポテカン,タキソールなどが14〜54%にCRまたはPRを達成しており、有効である。多剤併用化学療法としては、CR+PR達成率として、シクロホスファミド150mg/m2×7,ドキソルビシン35mg/m2の組み合わせで59%、シスプラチン90mg/m2,テニポサイド100mg/m2で64%、シスプラチン60mg/m2,ドキソルビシン30mg/m2,エトポシド100mg/m2×2,シクロホスファミド900mg/m2×2で76%、シスプラチン40mg/m2×5,エトポシド100mg/m2×3,シクロホスファミド150mg/m2×7,ドキソルビシン35mg/m2で77%,シスプラチン90mg/m2,エトポシド100mg/m2,シクロホスファミド150mg/m2×7,ドキソルビシン35mg/m2で68%等優れた結果を認めている.
(2) Haskell CM : Cancer Treatment, W.B.SAUNDERS COMPANY, 5th Edition: Philadelphia,2002 p1214-1236
  シクロホスファミド,ビンリスチン,シスプラチン、ダカルバジン,ドキソルビシンエトポシド,カルボプラチン,イホスファミドなど多くの多剤併用化学療法が行われ、CR+PR率として55〜96%を達成しておりこれらの薬剤が有効と考えられる,
B. 網膜芽腫
(1) Philip A.Pizzo/David G.Poplack : Principles and Practice of Pediatric,LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia Oncology、4th edition 2002, p825-846.
  眼内腫瘍に対する化学療法:無治療の両側性の網膜芽腫31例(40眼)をビンクリスチン,テニポサイド,カルボプラチンとシクロスポリンで治療した成績では89%の無病生存が得られた。平均観察期間は2.7年.別の研究であるが,20例の患者(31眼、54腫瘍)に対し,ビンクリスチン,カルボプラチン,エトポシドを2ヶ月間行って,局所治療を行うことで,全例眼球摘出を回避することができ,外部照射も必要としたのは9例のみであった.2ヶ月の治療後には54腫瘍中25例で腫瘍が消失した.腫瘍は平均35%縮小し,50%で腫瘍が縮小,subretinalfluidは76%回復した.転移の可能性例に対する化学療法:カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシドを6-18ヶ月投与するプロトコールも推奨されている.最近の後方視的研究では予防的な化学療法により転移のリスクを減らせることが報告されている。.249放射線治療との組み合わせた化学療法:カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシドを6サイクル行うことにより、(観察期間13ヶ月)groupsI,II,andIIIdiseaseでは39例で外部照射や眼球摘出が不要になった.全身性の網膜芽腫に対する化学療法:カルボプラチン,ビンクリスチン,エトポシド,の3剤を反応性により6-18ヶ月の期間投与するプロトコールが使われている。眼か外進展の網膜芽腫のレジメンで同様に治療し、良い成績が出されている.
(2) Vincent T. DeVita, Cancer: Principles and Practice of Oncology, 6th Edition: Chapter 44 Cancer of childhood 44.2 Solid Tumor of Childhood
  Prattらは進行期や再発の網膜芽腫に対しエトポシド,シスプラチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドらを組み合わせた併用療法の有効性を報告した.エトポシドとカルボプラチンの併用療法は眼外進展性の網膜芽腫の85%に有効であった.眼窩内に進展した網膜芽腫に対してはこれら2剤とビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドの併用療法が推奨されている.
C. ウイルムス腫瘍、その他の腎原発悪性腫瘍
(1) Grundy PE, Green DM, Coppes MJ, Breslow NE, Richey ML, Perlman EJ, Macklis RM. Recurrent disease, RENAL TUMORS. In: Pizzo PA and Poplack DG (eds). Principle and Practice of Pediatric Oncology, 4th eds. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia, 2002, P881-884.
アメリカのNational Wilms' Tumor Study-5では,カルボプラチン500mg/m2x2日をエトポシド100mg/m2x3日,シクロフォスファミド440mg/m2x5日と併用.カルボプラチンとエトポシドの併用療法は,favorable histologyの再発ウイルムス腫瘍に対する治療として有効である.
D. 肝芽腫
(1) Tomlinson GE and Finegold MJ. Chemotherapy, TREATMENT, TUMORS OF THE LIVER, In: Pizzo PA and Poplack DG (eds). Principle and Practice of Pediatric Oncology, 4th eds. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia, 2002,p857-858.
 肝原発腫瘍の中でより稀な組織型を示すものの場合には,推奨化学療法を規定することは困難であるものの,イホスファミドとエトポシドならびに本剤の併用が分類不能肉腫に対して反応を示す場合があることが記載されている.
E. ユーイング肉腫
 教科書等に明らかなカルボプラチンに関しての記載はない
F. 頭蓋内胚細胞性腫瘍
(1) Philip A.Pizzo/David G.Polack : Principles and Practice of Pediatric Oncology、4th edition LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia,2002
シスプラチン,シクロホスファミド,ビンプラスチン,ビンクリスチン,ブレオマオシン,エトポシドを併用した治療では90%近くの患者が,complete responseか,partial responseを認めている.
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス
A. 神経芽腫
1. Weinstein JL , Katzenstein HM, Cohn SL : Advances in the Diagnosis and Treatment of Neuroblastoma .The Oncologist, 8, 278ー292, 2003
  カルボプラチンを含む多剤併用寛解導入療法の強度の増加と大量化学療法による強化療法の導入及び支持療法の進歩により,ハイリスク神経芽腫の3年生存率は49%に上昇している.
2. Philip T, Ladenstein R, Lasset C et al. 1070 myeloablative megatherapy procedures followed by stem cell rescue for neuroblastoma: 17 years of European experience and conclusions. European Group for Blood and Marrow Transplant Registry Solid Tumour Working Party. Eur J Cancer ,33:2130-2135,1997
  カルボプラチンを含む多剤併用化学療法及び大量化学療法により,ハイリスク神経芽腫の3年生存率は49%,5年生存率は33%を達成するようになった.
3. Cairo MS.The use of Ifosfamide, Carboplatin, and Etoposide in children with solid tumors. Semin Oncol 22,supple7:23-27,1995
  イホスファミド、エトポシド、カルボプラチンの小児の固形腫瘍に対する投与例の報告がされている.カルボプラチン単独で560mg/m2を4週毎に投与し神経芽腫の患者12%に完全寛解,部分寛解が得られた。米国のChildren Cancer study Group(CCG)では、イホスファミド1.8g/m2を5日間、カルボプラチン400mg/m2を2日間,エトポシド100mg/m2を5日間投与する。米国Pediatric Oncology Group(POG)では、イホスファミド1.5g/m2を3日間,カルボプラチン635mg/m2を1日間,エトポシド100mg/m2を3日間投与する.治療関連毒性は、CCGでは,グレード3/4の血小板減少は59%,好中球減少は83%,非血液毒性はみられなかった.一方POGではグレード3/4の血小板減少は92%,好中球減少は86%,非血液毒性は37%みられた,
B. 網膜芽腫
1. Schouten-van Meeteren AYN, Moll AC, Imhof SM, et al. Med Pediatr Oncol 38: 428-438, 2002.
  網膜芽腫の治療には,全身化学療法と眼科的局所療法を疾患の進行度に応じて様々に組み合わせることが基本であるが,本総説では化学療法に重点を置いた概説を行っている.また,Grabrowski andAbramsonの病期分類(GA)でII期となる症例を対象とし,本剤を含む治療スケジュールを施行された代表的な臨床試験として3つが掲載されている.加えて第II相試験であるが,エトポシドと本剤の併用療法が有効であったことにも言及している。GA/IV期の場合,ビンクリスチン,シクロホスファミド,シスプラチンならびにエトポシドの併用療法と,エトポシドと本剤の併用療法が有効であることが述べられている.一方,眼内の腫瘍量を減量する目的で全身化学療法が行われるがその際にもビンクリスチン,本剤ならびにエトポシドの併用療法が主に用いられていることが記載されている.
C. ウイルムス腫瘍、その他の腎原発悪性腫瘍
1. Weirich A, Ludwig R, Graf N et al. Ann Oncol,15:808-820,2004
  ヨーロッパでのSIOP9(the international Society of Pediatric Oncology)とGPOH(German Society of Oncology)で治療されたウイルムス腫瘍,6ヶ月以上,16歳以下,平均2.9歳の患児に、ビンクリスチン,ドキソルビシン,イホスファミド,エトポシド,カルボプラチンを用いて治療された440例について再発率と死亡率について検討している.このなかで,エトポシドとカルボプラチンを併用して治療を行われたのは385例中26例であった.カルボプラチンによる直接の治療毒性についての記載はなかった.
D. 肝芽腫
(1) Herzog CE, Andrassy RJ, and Eftekhari F. Oncologist 5: 445-453, 2000.
  本剤とエトポシドに加えてイホスファミドを併用投与し,寛解には至らないまでもvery good partial responseを得た後に肝移植を施行していると述べている.
E. ユーイング肉腫
  カルボプラチンに関しての記載されたものはなかった.
F. 頭蓋内胚細胞性腫瘍
(1) Packer RJ, Cohen BH, Coney K. The Oncologist 5:312-320.2000
  頭蓋内胚細胞性腫瘍に対する化学療法の重要性が書かれてあり,シスプラチン,エトポシド,カルボプラチン,ブレオマイシン,イホスファミドが有効である。カルボプラチン,エトポシド,ブレオマイシンを併用した成績では,4サイクルの治療の後51%が完全寛解を得た.
(2) Kaur H, Singh D, Peereboom DM. Current Opt Oncol,4: 491-498,2003
  頭蓋内胚細胞性腫瘍に対する化学療法剤が紹介され,カルボプラチン200mg/m2を3日間,ビンクリスチン,エトポシド併用する.
(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン
A. 神経芽腫
(1) アメリカNational Cancer InstituteのHome page上Cancer.govのガイドラインであるPDQ:http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/neuroblastoma/ HealthProfessional
中間危険群の神経芽腫に対してはカルボプラチン,シクロホスファミド,ドキソルビシンやエトポシドなどが12〜24週間にわたり使用される.高危険群に対しては,シクロホスファミド,イホスファミド,シスプラチン,カルボプラチン,ビンリスチン,ドキソルビシンやエトポシドによる多剤併用化学療法が行われさらに大量化学療法が行われる.
(2) 厚生省神経芽腫研究班治療プロトコール進行性神経芽腫に対しregimen new A2としてシクロホスファミド1.5g/m2を1日間,ピラルビシン50mg/m2を1日間,カルボプラチン400mg/m2を1日間投与する.
B. 網膜芽腫
(1) アメリカNational Cancer InstituteのHome page上Cancer.govのガイドラインであるPDQ:http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/retinoblastoma/HealthProfessional
眼内の網膜芽腫
  リスクによりビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドの併用、またはビンクリスチン,カルボプラチン,エトポシドの併用によるAdjuvant治療が転移を防ぐために行われるが,high riskを規定する臨床試験が必要.
眼外進展の網膜芽腫
  照射や化学療法が施行されているが,有効性がはっきり証明された治療法はない.化学療法ではビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドの併用,カルボプラチン,イホスファミド,エトポシドの併用、さらに自家幹細胞移植との組み合わせが試みられ,CNS以外の転移症例に有効である.
網膜芽腫の再発
  再発の部位と程度により予後は様々であるが,エトポシドとカルボプラチンの併用療法85%が反応するとされる.
C. ウイルムス腫瘍、その他の腎原発悪性腫瘍
Wilms' Tumor and Other Childhood Kidney Tumors(Physician Data Query_): Treatment,National Cancer Institute
http://www.cancer.gov/cancerinfo /pdq/treatment/wilms/healthprofessional/
  再発ウイルムス腫瘍に対しカルボプラチンとエトポシドの併用とシクロホスファミドとエトポシドを交互に行い自家移植を行い,3年生存率は52%と良好であった.
D. 肝芽腫
  アメリカNational Cancer InstituteのHome page上Cancer.govのガイドラインであるPDQにはカルボプラチンに関しての記載はない.
E. ユーイング肉腫
  アメリカNational Cancer InstituteのHome page上Cancer.govのガイドラインであるPDQにはカルボプラチンに関しての記載はない.
F. 頭蓋内胚細胞性腫瘍
  アメリカNational Cancer InstituteのHome page上Cancer.govのガイドラインであるPDQ:http://www.cancer.gov/cancertopics/pdq/treatment/childbrain/ healthprofessionalシスプラチン,シクロホスファミド,ビンプラスチン,ビンクリスチン,ブレオマオシン,エトポシドを併用した治療がおこなわれている.
(5) 総評
以上の根拠からみて,神経芽腫,網膜芽腫,ウイルムス腫瘍,その他の腎原発悪性腫瘍,肝芽腫,ユーイング肉腫,頭蓋内胚細胞性腫瘍の有効性,安全性は医学・薬学上公知であると判断できる.

3.裏付けとなるデータについて

臨床試験の試験成績に関する資料
以下に,本報告書「2.公知の取扱いについて(1)」に記載した主要評価論文内容の概略を記載する.なお,毒性情報は記載のある限り引用した.
以下に本剤を含む併用療法として,代表的小児悪性固形腫瘍に対して効果ならびに安全性の点から通常行われると判断できる併用療法を記載する.
(文献は,『3.裏付けとなるデータについての項目』と対応))
 薬剤名 用法・用量
ICE療法,文献A-(1)
 イホスファミド  1.5g/m2を3日間
 カルボプラチン  635mg/m2を1日間
 エトポシド  100mg/m2を3日間
または,文献C-(3)
 イホスファミド  1.8g/m2を5日間
 カルボプラチン  400mg/m2を2日間
 エトポシド  100mg/m2を5日間
網膜芽腫,文献B-(3),(4),(5)  
 エトポシド  150mg/m2 2日間
 カルボプラチン  560mg/m2 1日間
 ビンクリスチン  1.5mg/m2 1日間
36ヶ月以下
 エトポシド  5mg/kg 2日間
 カルボプラチン  18.6mg/kg 1日間
 ビンクリスチン  0.05mg/kg 1日間
A. 神経芽腫
(1) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol 17:265-269,1995
   米国POGよりPhaseI/IIの研究.21歳以下の再発難治性小児固形腫瘍92人の患者にイホスファミド1.5g/m2を3日間,エトポシド100mg/m2を3日間,カルボプラチンを1日間投与する治療で,カルボプラチンの投与量を300mg/m2から25%ずつ増量しカルボプラチンの投与量を決定した.ユーイング腫瘍8例,ウイルムス腫瘍患者の10例,神経芽腫12例,その他55例に投与した.寛解または部分寛解を認めたのはユーイング腫瘍2例,ウイルムス腫瘍7例,神経芽腫7例であった.カルボプラチンの至適投与量は635mg/m2に決定された.それぞれの薬剤単独か,または2剤組み合わせでは,これまで十分な効果が得られなかったが,イホスファミド,カルボプラチン,エトポシドを組み合わせたICE療法は非常に有効であった.
 治療毒性は,好中球1000以下は87%,5万以下の血小板減少は71%,細菌感染症は15%,肉眼的血尿は2%,ファンコニー症候群様1%あった.
(2) Cohn SL, Moss TJ, Hoover M, et al . Bone marrow Transplant 20: 543-551,1997
  1991年から1994年までの12人の1歳以上のpoor risk NBにカルボプラチンを含む多剤併用治療を行い12人中5人は28-53ヶ月間無増悪生存している.治療内容はChicago1プロトコールとしてA:シスプラチン40mg/m2×5,B:シクロホスファミド1g/m2×2,とドキソルビシン35mg/m2,C:カルボプラチン500mg/m2×1,イホスファミド1.8g/m2×5,エトポシド150mg/m2×5のA,B,Cを交互に2サイクル行い,移植Conditioning Regimenにはチオテパ300mg/m2×3,シクロホスファミド1.5mg/m2×4を使用した.12人中6例が死亡し、5例が無病生存している.移植関連死は、認めてない.移植時に5例が細菌感染症、2人に真菌感染症を認めた.
(3) Katzen Stein HM, Bowman LC, Brodeur GM, et al. J Clin Oncol.16: 2007-2017,1998
  米国POGの1987年から1996年までの臨床研究.0歳から12ヶ月までの110人の乳児神経芽腫.治療としては8743 protocolではシクロホスファミド150mg/m2×7,ドキソルビシン35mg/m2を行いhyperdiploidyであれば4コース追加する.Diploidyであればシスプラチン90mg/m2(day1),テニポサイド100mg/m2(day3)を3週毎にを行う.9243protocolではdiploidyであればカルボプラチン560mg/m2,エトポシド30mg/m2×3とエトポシド100mg/m2×5,イホスファミド1.6g/m2を交互に行った.
対象はStage D(S)神経芽腫で結果は,発症年齢が2ヶ月以上の3年生存率は93%(70人)、発症年齢が2ヶ月以下の3年生存率は71%(40人),組織型がfavourabeであれば,3年生存率は93%(53人),組織型が、unfavourabeであれば,3年生存率は33%(6人),Hyperdiploidyであれば,3年生存率は90%(86人),Diploidyであれば3年生存率は68%(19人)N-mycが非増幅であれば,3年生存率は91%(85人),N-mycが増幅であれば,3年生存率は33%(9人)であった..
 1人はアンソラサイクリンによる心筋症で亡くなった.2人は敗血症で死亡した.
(4) Frappaz D, Perol D, Michon J, et al. Br J Cancer87 :1197-1203, 2002
  1992年より1995年まで25例のstage IVの神経芽腫の患者に対しての治療成績の報告.LMCE5プロトコールは,初期治療はシクロホスファミド2g/m2×3,エトポシド50mg/m2×5のコースとエトポシド100mg/m2×5,シスプラチン40mg/m2×5のコースの治療を交互に2サイクル行い,手術を行う.反応良好群にはLMCE5A(エトポシド100mg/m2×5,カルボプラチン100mg/m2×5)を2コース行いメルファラン200mg/m2×1及び自家幹細胞移植を行う.反応不良群ではドキソルビシン90mg/m2を投与しエトポシド100mg/m2×5,カルボプラチン100mg/m2×5を2コース行いメルファラン200mg/m2×1及び自家幹細胞移植を行う.結果は6年の無病生存率は8%であった.治療関連死は4%であった.
B. 網膜芽腫
(1) Doz F, Neuenschwander S, Plantaz D, et al. J Clin Oncol, 13:902-909,1995
  20人眼外進展性の網膜芽腫(年齢9-120ヶ月)に対してのエトポシド100mg/m2とカルボプラチン160mg/m2の5日間の併用療法を2コース行った.効果は,9人が完全寛解を認め8人が部分寛解をえた.85%に有効であった。治療毒性では,grade IVの好中球減少は,39回投与中23回認められた.血小板減少はgrade IIIが9回,grade IVは11回認められた.血小板輸注は12回必要であった。grade IVの貧血は2回認めた.全40コースで治療関連死は認めなかった。
(2) Gallie BL, Budning A, DeBoer G, et al. Arch Ophthalmol 1996,114:1321-1328,1996
  無治療の両側性の網膜芽腫31例(40眼)をビンクリスチン,テニポサイド,カルボプラチンとサイクロスポリンで治療した.7人の患児には,ビンクリスチン0.05mg/kgテニポサイド230mg/m2(乳児には7.7mg/kg)とサイクロスポリンを10日間投与した。25人にはカルボプラチン560mg/m2(乳児には18.7mg/kg)投与した.成績では89%の無病生存が得られた。
平均観察期間は2.7年.治療毒性に関しての記載はない.
(3) Shields CL, de Potter P, Himelstein BP, et al. Arch Ophthalmol, 114:1330-1338,1996
   106例162眼球の網膜芽腫に対して化学療法6コースと局所療法を施行した単一アーム治療研究.対象の年齢は3生日から39ヶ月(中央値7生月).化学療法の内容は,ビンクリスチン1.5mg/m2(36ヶ月以下時0.05mg/kg)1日間,エトポシド150mg/m2(36ヶ月以下時5mg/kg)2日間,カルボプラチン560mg/m2(36ヶ月以下時18.6mg/kg)1日間.片眼性28例では,再発は非家族性23例中2例(9%),家族性5例中4例(80%),両眼性では再発は非家族性57例中11例(19%),家族性21例中8例(38%)であった.全体として,5年無新病変出現生存率は76%であった.全身の化学療法による毒性は、一時的な腹痛、嘔気、嘔吐、脱毛、骨髄抑制等であった.中心静脈ラインを使用する事無く化学療法は遂行できた.重篤な感染症や腎障害等も認めなかった.治療を中止するような症例もなかった.
(4) Friedman DL, Himelstein B, Shields CL, et al. J Clin Oncol, 18:12-17.2000
  前方視的single-armの臨床研究.47例(75眼球)を対象。エトポシド(150mg/m22日間)本剤(560mg/m21日),ビンクリスチン(1.5mg/m21日)の併用療法を6コース施行した。
多くの患者(83%)で眼科治療(cryotherapy, laser photocoagulation, thermotherapy, or plaque radiation therapy)を併用した.観察期間は13ヶ月、無病生存率は73%であった.
Reese-Ellsworth groups1,2,and3の結果は良く、39例、全例照射や眼球摘出を免れた.
治療の副作用は軽微であった.治療関連死は認めなかった.83%に好中球減少を認めたが,2人しか赤血球輸注、G-CSFを併用しなかった.28%の患者に発熱や好中球減少を認めたが,明らかな細菌感染は,6例(9%)であった.大腸菌の敗血症が1人に認めた.食事接種困難例や脱水症やビンクリスチンによる副作用が40%に認めた.4人にビンクリスチンを減量することが必要であった.腎障害や聴力障害は認めなかった.
(5) Shields CL, Hanavar SG, Meadows AT, et al. Am J Ophtahlmol 133: 657-664, 2002.
   103例158眼球の網膜芽腫に対して,腫瘍量減量の目的で化学療法を施行した.年齢は0.2ヶ月から72ヶ月(中央値8ヶ月)であった.化学療法の内容は,エトポシド(150mg/m2[3歳以下では5mg/kg]2日間),カルボプラチン(560mg/m2[3歳以下では18.6mg/kg]1日),
ビンクリスチン(1.5mg/m2[3歳以下では0.05mg/kgかつ最大投与量は2mg]1日)を6コース.その結果,全ての眼球において腫瘍の良好な縮小効果が得られた.さらに,診断から5年後までに外照射が必要となった割合は,Reese-Ellsworth(RE))病期分類で,グループIからIVまでで10%しかなかったが,グループVでは47%であった.眼球摘出を必要とした割合はREグループIからIVまででは15%でしかなかったが,グループVでは50%であった.REグループIからIVまでであれば,化学療法を施行すると良好な成績が得られた.
また,腎障害,難聴,二次がんなどの重篤な副作用は認めなかった.
(6) Honavar SG, Singh AD, Shields CL,et al. Arch Ophthalmol, 120:923-931,2002
  高リスクの網膜芽腫に対して照射後の化学療法の有効性に関しての報告.1974年から1999年までの80人に対しての後方視的臨床研究.照射後の化学療法を施行したのは46人(58%)であった。1994年以前は,ビンクリスチン1.5mg/m2,ドキソルビシン60mg/m2を21日毎に行う.1994年以降はビンクリスチン1.5mg/m2,カルボプラチン560mg/m2,エトポシド150mg/m2×2を28日毎に6サイクル行った。照射後の後療法を行い,転移を認めた例は2/46であった。一方照射後の後療法を行わず転移を認めた例は8/34であった。照射後の化学療法の有効性を認めた.
重篤な化学療法による合併症は認めなかった.
(7) Chantada G, Fandino A, Casak S, et al. Med Pediatr Oncol 40: 158-161, 2003.
  再発後の症例を含み眼球外に進展した網膜芽腫41例が対象.年齢は15から69ヶ月(中央値37.5ヶ月).エトポシド(3.3mg/kg(体重10kg未満)もしくは100mg/m2(体重10kg以上)3日間),本剤(18.6mg/kg(体重10kg未満)もしくは560mg/m2(体重10kg以上)1日)の併用をシクロホスファミド(65mg/kg1日),ビンクリスチン(0.05mg/kg1日),イダルビシン(10mg/m21日)の併用と交互に行う治療スケジュール(protocol94),ならびに,別の治療スケジュール(protocol87)で治療したケースシリーズを解析.遠隔転移がなかった15例ではEFSが84%と良好な成績で,遠隔転移があった26例では5年後の生存例はなかった.毒性による治療関連死亡は1例であった.
(8) Lee TC, Hayashi NI, Dunkel IJ, ey al. Ophthalmology 110: 1989-1995, 2003
  1994年から2000年まで網膜芽腫と診断された平均6.4ヶ月の34例(57眼球)の患児.カルボプラチンを体重が12kg以下であれば18.7mg/kg,体重が12kg以上であれば560mg/m2を投与した。3-4週後に判定し,効果を認めた例に関してはカルボプラチンを続け,効果を認めない例に関しては他の治療に変更した.カルボプラチンの治療後に27眼球(47%)に63カ所に新しい腫瘍が出現した.カルボプラチンの治療開始して4ヶ月以内に出現している.年齢が6ヶ月以下の患児に新しい腫瘍が出現した.カルボプラチンの治療毒性に関する記載はなかった.
C. ウイルムス腫瘍、その他の腎原発悪性腫瘍
(1) Pein F, Tournade M-F, Zucker J-M, et al. J Clin Oncol ,12: 931-936,1994
  治療抵抗性ないし再発ウイルムス腫瘍小児26例が対象.年齢は2から15歳(中央値6歳).エトポシド(100mg/m2)とカルボプラチン(160mg/m2)を5日間投与し,21日間隔で2コース以上の投与計画をした.実際に1コース(3例)ないし2コース(23例)投与した症例での奏効率としては,完全寛解が8例,部分寛解が11例であった.全体では8例で治癒と考えられた.治療関連毒性としてはWHO分類でgrade III/IVの出血が各々2例,1例であった.Grade IVの感染症が1例に発生した.本療法開始前に腹部に放射線照射を受けていた1例で,肝中心静脈閉塞症が発生し死亡した.
(2) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol:265-269,1995
  米国POGよりPhaseI/IIの研究.21歳以下の再発難治性小児固形腫瘍92人の患者にイホスファミド1.5g/m2を3日間,エトポシド100mg/m2を3日間,カルボプラチンを1日間投与する治療で、カルボプラチンの投与量を300mg/m2から25%ずつ増量しカルボプラチンの投与量を決定した.ユーイング腫瘍8例,ウイルムス腫瘍患者の10例,神経芽腫12例,その他55例に投与した.寛解または部分寛解を認めたのはユーイング腫瘍2例,ウイルムス腫瘍7例,神経芽腫7例であった.カルボプラチンの至適投与量は,635mg/m2に決定された.それぞれの薬剤単独か,または2剤組み合わせでは,これまで十分な効果が得られなかったが,イホスファミド,カルボプラチン,エトポシドを組み合わせたICE療法は非常に有効であった.治療毒性は、好中球1000以下は87%,5万以下の血小板減少は71%、細菌感染症は15%,肉眼的血尿は2%、ファンコニー症候群様1%あった.
(3) Cairo MS, Shen V,Krailo MD,et al. J Pediatr Hematol 23:30-38,2001
   米国CCGよりの難治性再発固形腫瘍患者123人にG-CSF(Granulocyte Colony-Stimulating factor)を併用しイホスファミド1.8g/m2を5日間、エトポシド100mg/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間投与する.ユーイング肉腫16例、横紋筋肉腫15例,ウイルムス腫瘍4例が含まれている.全生存割合は51%、CR率は27%と良好な結果であった.治療毒性は、grade 4の好中球減少は88%,血小板が2万以下になるのは82%認め,血小板が10万以上に回復するには27日必要であった.62%(76/123)に発熱、抗生剤投与を認めた.G-CSFを併用するとgrade 3/4の非血液毒性は見られなかった.grade 3/4の腎毒性は2%認めた.
(4) Abu-Ghosh A.M, Krailo M.D, Goldman S.C, et al.Ann Oncol,13:460-469,2002
   米国CCGによる非常に予後不良(早期再発、予後不良組織型、腹部再発)なウイルムス腫瘍11例に対するICE療法(イホスファミド1,8g/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間,エトポシド100mg/m2を5日間)の効果の報告.診断時年齢は13ヶ月より16歳、平均39ヶ月であった。完全寛解導入率は27%,部分寛解導入率は55%で,3年無病生存率は63.6%と良好であり、予後不良な再発ウイルムス腫瘍にはICE療法は、有効である.
治療毒性は,血液学的毒性ではgrade IVは100%認めた.非血液学的毒性では5例45%に報告がある.敗血症性ショックは46サイクル中3回,6.5%認めた.Grade IIIの肝障害,低K血症,蛋白尿それぞれ1例に認めた.Grade IIの尿細管障害も1例に認めた.1例にイホスファミドによる慢性腎不全を発症した.Grade III/IVの尿細管障害は認めなかった。治療関連死も認めなかった.
(5) Dome JS, Liu T, Krasin M, et al. J Pediatr Hematol 24:192-198,2002
   1969年から2000年までのSt,Jude子ども病院での再発ウイルムス腫瘍54例の治療成績の報告.最近では,イホスファミド,カルボプラチンやエトポシド,シスプラチン,エトポシドやシクロホスファミド,カルボプラチン,エトポシドなどの併用療法が行われている.ICE(イホスファミド2g/m2×3,エトポシド100mg/m2×3,カルボプラチンAUCを6mg/ml×minを基準に投与している.
(6) Campbell AD, Cohn SL, Reynolds M, et al. J Clin Oncol 22:2885-2890,2004
   再発ウイルムス腫瘍に対する再寛解導入と幹細胞移植の有効性に関しての検討.診断時平均年齢4.8歳の13例。7例はシクロホスファミド14.7mg/kg/日を5日間、または500mg/m2を4日間,エトポシド3.3mg/kg/日を5日間、または100mg/m2を5日間,カルボプラチン16.7mg/kg/日を5日間または500mg/m2を3日間投与した.残りの2例はICE(イホスファミド1.8g/m2を5日間、エトポシド100mg/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間)療法,1例はICE+ドキソルビシン30mg/m2を投与した.その後チオテパ、カルボプラチンを用いた前処置,またはメルファラン,シクロホスファミド,エトポシド等用いた前処置を行った.4年無病生存率は60%であった.すべて治療関連死はみとめなかった.
D. 肝芽腫
(1) Katzenstein HM, London WB, Douglass EC, et al. J Clin Oncol 20: 3438-3444, 2002.
  Stage III/IVの肝芽腫33例を対象とした第II相試験.年齢は2生日から10歳(中央値22ヶ月).初回治療カルボプラチン(体重10kg以上で700mg/m2,10kg未満で25mg/kg1日)の後,カルボプラチン(体重10kg以上で700mg/m2,10kg未満で25mg/kg1日),5-FU(体重10kg以上で1000mg/m2,10kg未満で33mg/kg3日間),ビンクリスチン(体重10kg以上で1.5mg/m2,10kg未満で0.05mg/kg1日)の3者からなる治療を3コース施行.この時点で手術不能例や無反応例,進展例に対してエトポシド(体重10kg以上で100mg/m2,10kg未満で3.3mg/kg3日間)をシスプラチン(体重10kg以上で40mg/m2,10kg未満で1.3mg/kg5日間)(HDDP-ETOP)と併用した.Stage IIIの5年無イベント生存率は59%,stage IVは27%.HDDP-ETOPを施行された12例に限ってみれば9例(75%)で治療反応が得られ5例は寛解となり全例生存しており,5年無イベント生存率は42%であった.
毒性は全症例中,細菌と真菌による敗血症が各々2例であった.HDDP-ETOPをうけた7例中5例で難聴となった.
(2) Fuchs J, Rydzynski J, von Schweinitz, D, et al. Cancer 95: 172-182, 2002.
  肝原発悪性腫瘍108例の小児を対象とした前方視的単一アーム研究.そのうち69例が肝芽腫で,26例が肝細胞癌,その他が13例.本論文では肝芽腫の症例を対象に解析した.診断時の年齢は28生日から16歳.初期治療はシスプラチン(20mg/m25日間)イホスファミド(500mg/m2をbolusで1日,3g/m2を3日間持続投与),ドキソルビシン(30mg/m22日間)の併用療法を2ないし4コース施行.これを診断時の病期と治療反応性ならびに手術後の残存腫瘍状況にから,より反応不良と考えられる18例に対して,エトポシド(100mg/m24日間)と本剤(200mg/m24日間)(VP16/CBDCA)の併用療法を合計34コース施行した.これらの薬剤投与量は,1歳未満では1m2を30kgと仮定し,実際の投与量は体重計算とした.従ってVP/CBDCAの治療を受けた症例の殆どはstage III/IVである.その結果,18例中12例で反応が認められた.また治療後再発を来した14例中7例でVP16/CBDCAによる化学療法を受けたが,そのうち3例で反応が認められた.
治療関連毒性としては血液毒性が大半を占め,全VP16/CBDCA療法のうちgrade 3-4の急性毒性を61%に認めた.
(3) Perilongo G, Shafford E, Maibach R, et al.Eur J Cancer 40: 411-421, 2004
  ヨーロッパにおける1995年10月より1998年5月まで135人に対しての肝芽腫患児の大規模前向き治療成績の報告である.発症部位、転移の有無にによりリスクを分類し標準リスク、高リスク群に分類され治療を行われている,標準リスク77人(平均16ヶ月),高リスク58人(平均18ヶ月)であった。高リスク群に対しカルボプラチン500mg/m2を1日間,ドキソルビシン60mg/m2を2日間にかけて持続静注するコースとシスプラチン80mg/m2を24時間かけて投与するコースとを繰り返し行い.カルボプラチンとドキソルビシンのコースを3回終了し手術できる症例は行い、出来ない症例はさらにカルボプラチンとドキソルビシンのコースとシスプラチンのみのコースを3回行い手術の可能性を判断する.高リスク群の治療反応性は78%,切除率は67%であった.3年全生存率は,53%,無増悪生存率は48%であった.
治療毒性に関しては,高リスク群に関して58人の患者に対して計357例の投与機会があった.治療が予定より延期されたのは68回(19%),好中球減少性発熱を認めたのは47例,明らかな感染症は44例(76%),粘膜障害は21例(36%),赤血球輸注15例(26%),血小板輸注29例(50%)高カロリー栄養が必要であったのは18例(31%)であった.治療関連死は認めなかった.
E. ユーイング肉腫
(1) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol 17:265-269,1995
  米国POGよりPhaseI/IIの研究.21歳以下の再発難治性小児固形腫瘍92人の患者にイホスファミド1.5g/m2を3日間,エトポシド100mg/m2を3日間,カルボプラチンを1日間投与する治療で、カルボプラチンの投与量を300mg/m2から25%ずつ増量しカルボプラチンの投与量を決定した.ユーイング腫瘍8例,ウイルムス腫瘍患者の10例,神経芽腫12例,その他55例に投与した.寛解または部分寛解を認めたのはユーイング腫瘍2例,ウイルムス腫瘍7例,神経芽腫7例であった.カルボプラチンの至適投与量は,635mg/m2に決定された.それぞれの薬剤単独か,または2剤組み合わせでは,これまで十分な効果が得られなかったが,イホスファミド,カルボプラチン,エトポシドを組み合わせたICE療法は非常に有効であった.治療毒性は、好中球1000以下は87%,5万以下の血小板減少は71%、細菌感染症は15%,肉眼的血尿は2%、ファンコニー症候群様1%あった.
(2) Cairo MS, Shen V,Krailo MD,et al. J Pediatr Hematol 23:30-38,2001
  米国CCGよりの難治性再発固形腫瘍患者123人にG-CSF(Granulocyte Colony-Stimulating factor)を併用しイホスファミド1.8g/m2を5日間、エトポシド100mg/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間投与する.ユーイング肉腫16例、横紋筋肉腫15例,ウイルムス腫瘍4例が含まれている.全生存割合は51%、CR率は27%と良好な結果であった.治療毒性は、grade 4の好中球減少は88%,血小板が2万以下になるのは82%認め,血小板が10万以上に回復するには27日必要であった.62%(76/123)に発熱、抗生剤投与を認めた.G-CSFを併用するとgrade 3/4の非血液毒性は見られなかった.grade 3/4の腎毒性は2%認めた.
F. 頭蓋内胚細胞性腫瘍
(1) Casilda Balmaceda,et al, J Clin Oncol 14:2908-2915 1996
  71例が登録、68例が解析。カルボプラチン500mg/m2をday1-2、エトポシド150mg/m2をday1,2,3,とブレオマイシン15mg/m2をday3に併用.これを3週間ごとに4回.ここで評価し,CRなら同じ治療を2回、CRで無ければ放射線照射を行う.2年生存率はgerminoma84%、NGGCTで62%.78%が化学療法だけでCR.medianのフォロー期間は31ヶ月.
(2) Marie C. Baranzelli et al.Cancer,80:1792-7,1997
  29例の非転移例;1990年〜1994年、カルボプラチン600mg/m2をday1、エトポシド150mg/m2をdays1-3、イホスファミド1.8g/m2をdays22-26+エトポシド150mg/m2をdays22-26を併用。これを2サイクル行いその後40Gyのinitial tumor volume radiation、成績は、OS100%(4yeas)EFS93.3±6%(4years)
(3) MatsutaniM and the Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group: J of Neuro -Oncology 54:311-316,2001
  多施設1995年〜1999年143例の登録112例の解析。(PE療法との同時解析)カルボプラチン450mg/m2をday1に(CARB-VP療法),エトポシド150mg/m2を3日間連続併用.カルボプラチン-エトポシド療法を3〜4週ごとに3回繰り返し,その後24〜30Gyの腫瘍部への放射線照射を行い、その後CARB-VP療法を3〜4ヶ月ごとに5回繰り返す.結果は、good prognosis group でtumor free rate after the initial treatmentは92%(median follow up period2.9年)。
 intermediate prognosis groupではtumor free rate after the initial treatmentは55.6%(median follow up period 3.7年).

4.本療法の位置づけについて

他剤、他の組み合わせとの比較等について
本邦における精度の高い全国レベルの小児がん統計は存在しないが,小児がん患者のほとんどは小児慢性特定疾患治療研究事業に登録されていると推定されるため,同研究事業の統計から疫学データの概略を知ることができる.同研究事業の統計データ概略は国立成育医療センターのインターネットホームページ(http://www.nch.go.jp/policy/1-akusei.htm)でアクセス可能で,その中から平成12年度における小児悪性腫瘍新規診断症例を抽出すると,下表の通りである.
平成12年度小児慢性特定疾患治療研究事業における新規診断小児がんの登録人数
急性白血病 1017
脳(脊髄)腫瘍 669
神経芽細胞種 431
悪性リンパ腫 231
網膜芽細胞種 137
骨肉腫 111
Ewing肉腫 28
横紋筋肉腫 98
Wilms腫瘍 60
肝芽腫 60
卵巣悪性腫瘍 26
悪性組織球症 33
甲状腺癌 27
睾丸腫瘍 21
合計 3271

 この表に抽出した各疾患は,ICCC(International Classification of Childhood Cancer)によれば,さらに急性リンパ性白血病,急性非リンパ性白血病,上衣種,星細胞種,PNET,神経膠種,その他の頭蓋内脊髄内腫瘍,神経芽種,神経節芽種,その他の交感神経系腫瘍,ホジキンリンパ腫,非ホジキンリンパ腫,バーキットリンパ腫,その他のリンパ網内系腫瘍,網膜芽細胞種,骨肉腫,Ewing肉腫,横紋筋肉腫,ウイルムス腫瘍,肝芽腫,胚細胞種,性腺癌などに細分化される.さらに,厚生労働省統計表データベスシステム
(http://www.dbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/indexk_1_1.html)を閲覧すると,本邦における15歳未満の人口総数は約1800万人,上表に対応すると思われる18歳未満は約2530万人であり,小児がん全体の頻度はもとより各種小児がんは稀少疾患であることが明らかである.現時点で小児悪性固形腫瘍に対して保険上の承認が得られている薬剤はごく限られており,科学的に考えて現行の承認薬剤のみを用いた治療で,患者が当然期待する治療成績を得ることは不可能といえるであろう.この背景においての本剤は,ほとんど全ての小児悪性固形腫瘍に対する第一ないし第二選択の併用療法に含まれる重要な薬剤であり,小児悪性固形腫瘍に対して早急な適応取得が望まれる薬剤の一つである.対象疾患に応じて用法・用量や併用抗がん剤に多少の違いがあることは当然であるが,本報告書1.の予定用法・用量に示した方法のいずれかを用いることによって,本剤を必要とする全ての小児悪性固形腫瘍に対応可能である.
 小児悪性固形腫瘍において,科学的に議論しうるデータが収集可能な6疾患について文献収集を行い,本剤を用いた併用療法の科学的妥当性を示すデータを上記2.および3.に紹介した。本剤が、第一選択とならないユーイングン肉腫、腎芽腫以外は,何れの疾患も無作為比較試験を含む複数の臨床試験によって本剤の有効性ならびに安全性が示されている.また,本剤は、ここに示したいくつの論文(A-1,B-6,C-1,2,3,4,5,E-1,2)に示すように第一選択治療法で効果がない治療抵抗例や再発例に対する効果が期待できる第二選択薬剤として重要な位置を占めている.特にICE療法(イホスファミド、カルボプラチン、エトポシド)は,論文(A-1,C-2,3,4,E1,2)に示すように小児再発難治性固形腫瘍には効果が期待できる。
 さらに本剤は,同じ白金製剤であるシスプラチンと比較し治療効果は同等と考えられており,腎障害や聴力障害の頻度は低く,治療蓄積毒性等でシスプラチンの継続投与が困難例に投与しうると考える.
 これらの事実は教科書および総説の記述でも確認され,また米国国立がん研究所(NCI)のホームページにも紹介されている内容と矛盾しないものであり,本剤が小児悪性固形腫瘍治療の第一ないし第二選択薬剤である事は医学薬学上公知であると考えられる。
 それぞれの疾患に関してのカルボプラチンの位置づけに関して以下に記載する.
A. 神経芽腫
 Stage 3または4の進行性神経芽腫に対する標準的化学療法レジメンは確立されているとは言いがたいが、本報告書「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のAや,同じく「2項(4)学会又は組織・機構の診療ガイドライン」に記載したとおり国内外を問わず塩酸ドキソルビシン,本剤またはシスプラチン,シクロホスファミド,エトポシド,イホスファミド,ビンクリスチン等の薬剤の一部または全てを組み合わせた併用療法を行うことは,治療の標準と言える.従って,神経芽腫に対し本剤は第一選択薬の一つと言えよう.またfirst lineで治療されたが、難治性、再発性症例に対してもICE療法として本剤が使用されており、予後の改善に寄与していると考えられる.
B. 網膜芽腫
 網膜芽腫に対する標準治療としてビンクリスチン,シクロホスファミド,カルボプラチン,エトポシド等を組み合わせた治療を選択するということは,教科書,総説,米国PDQにも記載されカルボプラチンは網膜芽腫に対する標準治療の薬剤の一つであることは公知の事実と考えられる.
C. ウイルムス腫瘍、その他の腎原発悪性腫瘍
 ウイルムス腫瘍に対する標準的治療は、米国National Wilms Tumor Study(NWTS)よりのビンクリスチン,アクチノマイシンD,ドキソルビシン,シクロホスファミド等を併用した治療法がある.しかし,これらの治療法を用いても治療抵抗性例や再発例があり,これらの症例に対してカルボプラチン,エトポシドを併用し良好な治療結果を得ている症例もあり、治療抵抗性例や再発例に対して選択できる薬剤と考える.また,このことは,教科書やpeer review journalに掲載された総説や米国PDQにも記載されており,本剤はウイルムス腫瘍に対して有効な薬剤であることは公知の事実と考える.
D. 肝芽腫
 本報告書の「3.裏付けとなるデータについて」に記載した公表論文にあるように,欧州と米国「2項(2)教科書」のDや「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のDに記載したように,エトポシド,イホスファミドとともに本剤は肝芽腫に対する化学療法剤として必要不可欠であることは明白と判断できる.また,初期治療にドキソルビシン,シスプラチン,イホスファミドに対して反応不良例にカルボプラチン,エトポシドの併用療法で効果を得ている症例もあり難治性例に対しても選択できる薬剤と考える.
E. ユーイング肉腫
 ユーイング肉腫に対する標準的治療法は,ビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドとエトポシド,イホスファミドの交互療法と考えられるが,再発例や治療抵抗例に対してICE療法(イホスファミド、カルボプラチン,エトポシド)が選択され,予後の改善に寄与しており,カルボプラチンは,このような症例に対して十分適応となる薬剤と考えれれる.
F. 頭蓋内胚細胞性腫瘍
 頭蓋内胚細胞性腫瘍対する治療は、従来は放射線治療のみで行われてきたが、多剤併用化学療法を併用することで,高い生存率を維持するようになっている.多剤併用化学療法としては,シスプラチン,シクロホスファミド,イホスファミド,エトポシド,カルボプラチンなどを併用することが教科書,総説に記載されており,カルボプラチンが頭蓋内胚細胞性腫瘍対し,有効な薬剤であることは公知の事実である.また,本剤は頭蓋に照射することによる難聴の合併症を少なくするためシスプラチンに代わる薬剤としても重要な薬剤と考えられる.

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等
A. 神経芽腫
(1) 梅田雄嗣,他.小児がん37: 26-31, 2000
  進行性神経芽腫に対し造血幹細胞移植行い再発例に対する治療成績を報告している.10例中4例にカルボプラチンを併用しているが投与量、投与期間に関しては記載がない.
(2) 大曽根眞也,他.小児がん38:145-150,2001
  1歳、神経芽腫にイホスファミド1.8g/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間,エトポシド100mg/m2を5日間投与している.他にもイホスファミド,シスプラチン,エトポシドを投与している。腎障害を認めている,イホスファミドの総投与量が多く,カルボプラチンを併用し,低年齢の場合などは腎障害の出現に注意しなければならないと報告している.
(3) 鈴木孝,他.小児がん 38: 157-163,2001
  2歳8ヶ月の男児,進行神経芽腫の患児に厚生省班会議神経芽腫治療プロトコールごとに自家末梢血移植を施行したが再発した。この患児に再発後、カルボプラチン300mg/m2を5日間,シクロホスファミドを1.2g/m2を1日間投与している。その後、臍帯血移植を行ったが再発した。
(1) 橋井佳子,他.小児がん 41:65-70,2004
  腹部原発進行神経芽腫に対し大量化学療法を行った7例を報告している。このうち2例に対しカルボプラチンを一部併用しているが投与量、投与期間に関しては記載がない.
B. 網膜芽腫
(1) 上田晴雄,他.小児がん38:178-182,2001
  2例の転移再発性網膜芽腫に対してエトポシド100mg/m2を5日間,カルボプラチン160mg/m2を5日間3コースを行った。1例は3コース後効果を認め,幹細胞移植を施行したが再々発し治療抵抗性となり死亡した,他の1例には合計11コース施行しているが再発を繰り返している.
(2) 加藤陽子,他.小児がん39:518-521,2002]
  国立がんセンター眼科での1ヶ月より2歳8ヶ月までの患児6例,進展度は眼球外に進展を認めない5例,眼窩内に限局した眼球外に進展した1例であった.ビンクリスチン1.5mg/m2(0.05mg/kg),エトポシド150mg/m2を2日間,カルボプラチン560mg/m2を4週毎に2-6コース施行し、随時局所療法を追加した.初期化学療法には全例に効果を認めたが,2例に再発を認めた.
治療毒性は全例に骨髄抑制を認め1例のみ赤血球、血小板輸注を必要とした.嘔吐,下痢,食欲不振などは全例に認めた.4例に軽度肝機能障害を認めた.1例に化学療法施行後ウイルス性肺炎を認めた.
(3) 浜田聡,他.小児がん39:547-552,2002
  診断時6ヶ月,三側性網膜芽細胞腫の報告,化学療法はエトポシド100mg/m2を5日間,カルボプラチン100mg/m2を5日間を2コースと厚生省神経芽腫班会議プロトコールA1の変法とし,シクロホスファミド1200mg/m2,ビンクリスチン1.5mg/m2,ピラルビシン40mg/m2とシスプラチン90mg/m2を5日間を1コース施行した.その後、幹細胞移植を行ったが,再発を来たし,シクロホスファミド1200mg/m2,エトポシド500mg/m2,ピラルビシン40mg/m2,カルボプラチン500mg/m2を施行し効果を認めている.治療関連毒性に関しては記載がなかった.
(4) 浜田聡,他.小児がん40:548-553,2003
  1999年1月より2003年1月まで診断された網膜芽細胞種18例の報告.診断時年齢は2ヶ月より71ヶ月,片側性12例,両側性6例であった.化学療法は厚生省神経芽腫班会議プロトコールA1の変法とし,シクロホスファミド1200mg/m2,ビンクリスチン1.5mg/m2,ピラルビシン40mg/m2とカルボプラチン90mg/m2を5日間を1コースとし,片側性は平均1.7回,両側性は平均2.5回施行された.レザー治療を併用した.1例を除き,縮小効果を認めた.治療関連毒性に関しては記載がなかった.
C. ウイルムス腫瘍、その他の腎原発悪性腫瘍
(1) 田尻達郎,他.小児がん35:487-492,1998
  Malignant Rhabdoid Tumor of the kidney(MRTK)に対して日本ウイルムス腫瘍グループのRegimenn RTKを用いた治療を行った.エトポシド3.3mg/kgを3日間,カルボプラチン16.7mg/kgを2日間投与した.原発部位の摘出を行ったが,再発を来たし腫瘍死した.
(2) 井上隆,他.小児がん37:489-492,2000
  過去20年間に経験したウイルムス腫瘍の治療成績の報告.ウイルムス腫瘍の再発例にエトポシド,カルボプラチンを投与しその後幹細胞移植を行い生存中.MRTKの症例にエトポシド,カルボプラチン,ピラルビシンを併用したが死亡する。具体的な投与量や日数の記載はない.
(3) 福里吉充.小児がん.37:507-512,2001
  同時両側性ウイルムス腫瘍に対する化学療法を先行し腎温存手術を行った8例について報告している.8例中2例にカルボプラチンを併用しているが投与量や投与期間に関しての記載はない.
(4) 塩沢裕介,他.小児がん40:629-632,2003
  再発ウイルムス腫瘍の一例.ウイルムス腫瘍と診断しビンクリスチン、ドキソルビシン、コスメゲンを併用し治療を行い,腫瘍全摘術を行い化学療法は継続した.しかし肺に転移を認め、イホスファミド3.0g/m2を2日間,カルボプラチン400mg/m2を1日,エトポシド100mg/m2を5日間投与し,これを1コースとして4コース行い,メルファラン70mg/m2を2日間,エトポシド150mg/m2を4日間,カルボプラチン200mg/m2を4日間投与した。重篤な合併症の認めなく生存している.
D. 肝芽腫
(1) 大杉夕子,他.小児がん36: 45-48.1999
  治療抵抗性肝芽腫に対し大量化学療法を施行した5例を報告している.2例に対し治療抵抗例に対しカルボプラチンを併用する化学療法を行っている.投与量,投与期間などについての記載はない.
(2) 藤野寿典,他.小児がん40:214-218,2003
  先天性肝芽腫と診断され化学療法としてカルボプラチン100mg/m2,ピラルビシン7.5mg/m22日間を1コース投与した.その後、拡大右葉切除しカルボプラチン100-160mg/m2,ピラルビシン7.5-10mg/m22日間を5コース行い、無病生存中である.
E. ユーイング肉腫
 文献は見つからない.
F. 頭蓋内胚細胞性腫瘍
(1) MatsutaniM and the Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group: J of Neuro -Oncology 54:311-316,2001
  多施設1995年〜1999年143例の登録112例の解析。(PE療法との同時解析)カルボプラチン450mg/m2をday1に(CARB-VP療法)、エトポシド150mg/m2を3日間連続併用。カルボプラチン-エトポシド療法を3〜4週ごとに3回繰り返し、その後24〜30Gyの腫瘍部への放射線照射を行い、その後CARB-VP療法を3〜4ヶ月ごとに5回繰り返す。結果は、good prognosis groupでtumor free rate after the initial treatmentは92%(median follow up period 2.9年)。
 intermediate prognosis groupではtumor free rate after the initial treatmentは55.6%(median follow up period 3.7年)。

6.本剤の安全性に関する評価

 
 本剤を併用療法で使用する場合には骨髄抑制やその他の副作用が増強される可能性があるが,G-CSF製剤投与や輸血などの支持療法を積極的に行うことで対処が可能である.しかしながら,そのような対処を行っても重篤な出血や,本報告書「3.裏付けとなるデータについて,臨床試験の試験成績に関する資料」に記載した如く,敗血症をはじめとした重症感染症などを合併する危険が回避出来ない場合のみならず,合併症死に至る症例が少数ながら存在するため,がん化学療法に十分な知識と経験を有する者の慎重な観察が必要である.
 さらに,本剤は現在の添付文書に記載があるように,腎障害と聴力障害を来しうるため,使用においては,がん化学療法に十分な知識と経験を有する医師(小児医)が慎重に使用する,もしくはそのような医師の監督下において使用されるべきであると考える.とくに、再発例や難治例では,以前にシスプラチンなどの腎障害性の薬剤が大量に投与されていることもあり、このような症例にカルボプラチンを使用する際には,投与量,投与期間について特に留意する,べきと考える.
 本剤の排泄率は,GFR(Glomerular filtration rate)により異なることは,すでに報告されている.(Nemell DR et al.J Clin Oncol 11:2314 -2323,1993, Thomas H, et al. J Clin Oncol 18:3614 -3621,2000)腎機能障害がある場合,本剤のAUC(Area under the serum concentrtion versus time curve)が高値となり用量依存性の血液毒性を招く可能性が十分予想される.従って,GFRにより本剤の投与量を決定する事が行われている。(Marina NM, et al. J Clin Oncol 11: 554-560,1993, Nemell DR et al.J Clin Oncol 11:2314 -2323,1993, Thomas H, et al. J Clin Oncol 18:3614 -3621,2000)
 本報告書「3.裏付けとなるデータについて」の項,「臨床試験の試験成績に関する資料」に参考文献において報告されている重篤な毒性情報を併記しているが,以下にまとめて再掲する.
A. 神経芽腫
(1) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol 17:265-269,1995
  米国POGよりPhaseI/IIの研究。21歳以下の再発難治性小児固形腫瘍92人の患者にイホスファミド1.5g/m2を3日間、エトポシド100mg/m2を3日間、カルボプラチンを1日間投与する治療で、カルボプラチンの投与量を300mg/m2から25%ずつ増量しカルボプラチンの投与量を決定した。カルボプラチンの至適投与量は、635mg/m2に決定された。治療毒性は、好中球1000以下は87%、5万以下の血小板減少は71%、細菌感染症は15%、肉眼的血尿は2%、ファンコニー症候群様1%あった。
(2) Cohn SL, Moss TJ, Hoover M, et al . Bone marrow Transplant 20: 543-551,1997
  1991年から1994年までの12人の1歳以上のpoor risk NBにカルボプラチンを含む多剤併用治療を行った。治療内容はChicago1プロトコールとしてA:シスプラチン40mg/m2×5,B:シクロホスファミド1g/m2×2,とドキソルビシン35mg/m2,C:カルボプラチン500mg/m2×1,イホスファミド1.8g/m2×5,エトポシド150mg/m2×5のA,B,Cを交互に2サイクル行なった.12人中6例が死亡し、5例が無病生存している.移植関連死は、認めてない。移植時に5例が細菌感染症、2人に真菌感染症を認めた。
(3) Katzen Stein HM, Bowman LC, Broduer GM, et al. J Clin Oncol.16: 2007-2017,1998
  米国POGの1987年から1996年までの臨床研究.0歳から12ヶ月までの110人の乳児神経芽腫.
9243protocolではdiploidyであればカルボプラチン560mg/m2,エトポシド30mg/m2×3とエトポシド100mg/m2×5,イホスファミド1.6g/m2を交互に行った.1人はアンソラサイクリンによる心筋症で亡くなった.2人は敗血症で死亡した.
(4) Frappaz D, Perol D, Michon J, et al. Br J Cancer87 :1197-1203,2002
  1992年より1995年まで25例のstage IVの神経芽腫の患者に対しての治療成績の報告.LMCE5プロトコールは,初期治療はシクロホスファミド2g/m2×3,エトポシド50mg/m2×5のコースとエトポシド100mg/m2×5,シスプラチン40mg/m2×5のコースの治療を交互に2サイクル行い,手術を行う.反応良好群にはLMCE5A(エトポシド100mg/m2×5,カルボプラチン100mg/m2×5)を2コース行いメルファラン200mg/m2×1及び自家幹細胞移植を行う.反応不良群ではドキソルビシン90mg/m2を投与しエトポシド100mg/m2×5,カルボプラチン100mg/m2×5を2コース行いメルファラン200mg/m2×1及び自家幹細胞移植を行う.結果は6年の無病生存率は8%であった.治療関連死は4%であった.
B. 網膜芽腫
(1) Doz F, Neuenschwander S, Plantaz D, et al. J Clin Oncol, 13:902-909,1995
  20人眼外進展性の網膜芽腫(年齢9-120ヶ月)に対してのエトポシド100mg/m2とカルボプラチン160mg/m2の5日間の併用療法を2コース行った.治療毒性では,grade IVの好中球減少は,39回投与中23回認められた.血小板減少はgrade IIIが9回,grade IVは11回認められた.血小板輸注は12回必要であった。grade IVの貧血は2回認めた.全40コースで治療関連死は認めなかった。
(2) Friedman DL, Himelstein B, Shields CL, et al. J Clin Oncol, 18:12-17.2000
  前方視的single-armの臨床研究.47例(75眼球)を対象。エトポシド(150mg/m22日間)本剤(560mg/m21日),ビンクリスチン(1.5mg/m21日)の併用療法を6コース施行した。治療関連死は認めなかった.83%に好中球減少を認めたが,2人しか赤血球輸注、G-CSFを併用しなかった.28%の患者に発熱や好中球減少を認めたが,明らかな細菌感染は,6例(9%)であった.大腸菌の敗血症が1人に認めた.食事接種困難例や脱水症やビンクリスチンによる副作用が40%に認めた.4人にビンクリスチンを減量することが必要であった.腎障害や聴力障害は認めなかった.
(3) Shields CL, de Potter P, Himelstein BP, et al. Arch Ophthalmol, 114:1330-1338,1996
   106例162眼球の網膜芽腫に対して化学療法6コースと局所療法を施行した単一アーム治療研究.化学療法の内容は,ビンクリスチン1.5mg/m2(36 ヶ月以下時0.05mg/kg)1日間,エトポシド150mg/m2(36ヶ月以下時5mg/kg)2日間,カルボプラチン560mg/m2(36ヶ月以下時18.6mg/kg)1日間.全身の化学療法による毒性は、一時的な腹痛、嘔気、嘔吐、脱毛、骨髄抑制等であった.中心静脈ラインを使用する事無く化学療法は遂行できた.重篤な感染症や腎障害等も認めなかった.治療を中止するような症例もなかった.
(4) Shields CL, Hanavar SG, Meadows AT, et al. Am J Ophtahlmol 133: 657-664, 2002.
   103例158眼球の網膜芽腫に対して,腫瘍量減量の目的で化学療法を施行した.年齢は0.2ヶ月から72ヶ月(中央値8ヶ月)であった.化学療法の内容は,エトポシド(150mg/m2[3歳以下では5mg/kg]2日間),カルボプラチン(560mg/m2[3歳以下では18.6mg/kg]1日),
ビンクリスチン(1.5mg/m2[3歳以下では0.05mg/kgかつ最大投与量は2mg]1日)を6コース.腎障害,難聴,二次がんなどの重篤な副作用は認めなかった.
(5) Honavar SG, Singh AD, Shields CL,et al. Arch Ophthalmol, 120:923-931,2002
   高リスクの網膜芽腫に対して照射後の化学療法の有効性に関しての報告.1974年から1999年までの80人に対しての後方視的臨床研究.照射後の化学療法を施行したのは46人(58%)であった。1994年以前は,ビンクリスチン1.5mg/m2,ドキソルビシン60mg/m2を21日毎に行う.1994年以降はビンクリスチン1.5mg/m2,カルボプラチン560mg/m2,エトポシド150mg/m2×2を28日毎に6サイクル行った。重篤な化学療法による合併症は認めなかった.
(6) Chantada G, Fandino A, Casak S, et al. Med Pediatr Oncol 40: 158-161, 2003.
  再発後の症例を含み眼球外に進展した網膜芽腫41例が対象.年齢は15から69ヶ月(中央値37.5ヶ月).エトポシド(3.3mg/kg(体重10kg未満)もしくは100mg/m2(体重10kg以上)3日間),本剤(18.6mg/kg(体重10kg未満)もしくは560mg/m2(体重10kg以上)1日)の併用をシクロホスファミド(65mg/kg1日),ビンクリスチン(0.05mg/kg1日),イダルビシン(10mg/m21日)の併用と交互に行う治療スケジュール(protocol94),ならびに,別の治療スケジュール(protocol87)で治療したケースシリーズを解析.毒性による治療関連死亡は1例であった.
C. ウイルムス腫瘍、その他の腎原発悪性腫瘍
(1) Pein F, Tournade M-F, Zucker J-M, et al. J Clin Oncol ,12: 931-936,1994
  治療抵抗性ないし再発ウイルムス腫瘍小児26例が対象.年齢は2から15歳(中央値6歳).エトポシド(100mg/m2)とカルボプラチン(160mg/m2)を5日間投与し,21日間隔で2コース以上の投与計画をした.治療関連毒性としてはWHO分類でgrade III/IVの出血が各々2例,1例であった.Grade IVの感染症が1例に発生した.本療法開始前に腹部に放射線照射を受けていた1例で,肝中心静脈閉塞症が発生し死亡した.
(2) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol:265-269,1995
  米国POGよりPhaseI/IIの研究。21歳以下の再発難治性小児固形腫瘍92人の患者にイホスファミド1.5g/m2を3日間、エトポシド100mg/m2を3日間、カルボプラチンを1日間投与する治療で、カルボプラチンの投与量を300mg/m2から25%ずつ増量しカルボプラチンの投与量を決定した。カルボプラチンの至適投与量は、635mg/m2に決定された.治療毒性は、好中球1000以下は87%、5万以下の血小板減少は71%、細菌感染症は15%、肉眼的血尿は2%、ファンコニー症候群様1%あった.
(3) Cairo MS, Shen V,Krailo MD,et al. J Pediatr Hematol 23:30-38,2001
  米国CCGよりの難治性再発固形腫瘍患者123人にG-CSF(Granulocyte Colony-Stimulating factor)を併用しイホスファミド1.8g/m2を5日間、エトポシド100mg/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間投与する.治療毒性は、grade 4の好中球減少は88%,血小板が2万以下になるのは82%認め,血小板が10万以上に回復するには27日必要であった.62%(76/123)に発熱、抗生剤投与を認めた。G-CSFを併用するとgrade 3/4の非血液毒性は見られなかった.grade 3/4の腎毒性は2%認めた.
(4) Abu-Ghosh A.M, Krailo M.D, Goldman S.C, et al.Ann Oncol,13:460-469,2002
  米国CCGによる非常に予後不良(早期再発、予後不良組織型、腹部再発)なウイルムス腫瘍11例に対するICE療法(イホスファミド1,8g/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間,エトポシド100mg/m2を5日間)の効果の報告.診断時年齢は13ヶ月より16歳,平均39ヶ月であった.治療毒性は,血液学的毒性ではgrade IVは100%認めた.非血液学的毒性では5例45%に報告がある.敗血症性ショックは46サイクル中3回,6.5%認めた.Grade IIIの肝障害,低K血症,蛋白尿それぞれ1例に認めた.Grade IIの尿細管障害も1例に認めた.1例にイホスファミドによる慢性腎不全を発症した.Grade III/IVの尿細管障害は認めなかった.治療関連死も認めなかった.
(5) Campbell AD, Cohn SL, Reynolds M, et al. J Clin Oncol 22:2885-2890,2004
  再発ウイルムス腫瘍に対する再寛解導入と幹細胞移植の有効性に関しての検討.診断時平均年齢4.8歳の13例。7例はシクロホスファミド14.7mg/kg/日を5日間,または500mg/m2を4日間,エトポシド3.3mg/kg/日を5日間,または100mg/m2を5日間,カルボプラチン16.7mg/kg/日を5日間または500mg/m2を3日間投与した.残りの2例はICE(イホスファミド1.8g/m2を5日間,エトポシド100mg/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間)療法,1例はICE+ドキソルビシン30mg/m2を投与した.すべて治療関連死はみとめなかった.
D. 肝芽腫
(1) Katzenstein HM, London WB, Douglass EC, et al. J Clin Oncol 20: 3438-3444, 2002.
  Stage III/IVの肝芽腫33例を対象とした第II相試験.年齢は2生日から10歳(中央値22ヶ月).初回治療カルボプラチン(体重10kg以上で700mg/m2,10kg未満で25mg/kg1日)の後,カルボプラチン(体重10kg以上で700mg/m2,10kg未満で25mg/kg1日),5-FU(体重10kg以上で1000mg/m2,10kg未満で33mg/kg3日間),ビンクリスチン(体重10kg以上で1.5mg/m2,10kg未満で0.05mg/kg1日)の3者からなる治療を3コース施行.この時点で手術不能例や無反応例,進展例に対してエトポシド(体重10kg以上で100mg/m2,10kg未満で3.3mg/kg3日間)をシスプラチン(体重10kg以上で40mg/m2,10kg未満で1.3mg/kg5日間)(HDDP-ETOP)と併用した.毒性は全症例中,細菌と真菌による敗血症が各々2例であった.HDDP-ETOPをうけた7例中5例で難聴となった.
(2) Fuchs J, Rydzynski J, von Schweinitz, D, et al. Cancer 95: 172-182, 2002.
  肝原発悪性腫瘍108例の小児を対象とした前方視的単一アーム研究.そのうち69例が肝芽腫で,26例が肝細胞癌,その他が13例.本論文では肝芽腫の症例を対象に解析した.診断時の年齢は28生日から16歳.初期治療はシスプラチン(20mg/m25日間)イホスファミド(500mg/m2をbolusで1日,3g/m2を3日間持続投与),ドキソルビシン(30mg/m22日間)の併用療法を2ないし4コース施行.これを診断時の病期と治療反応性ならびに手術後の残存腫瘍状況にから,より反応不良と考えられる18例に対して,エトポシド(100mg/m24日間)と本剤(200mg/m24日間)(VP16/CBDCA)の併用療法を合計34コース施行した.これらの薬剤投与量は,1歳未満では1m2を30kgと仮定し,実際の投与量は体重計算とした.従ってVP/CBDCAの治療を受けた症例の殆どはstage III/IVである.
治療関連毒性としては血液毒性が大半を占め,全VP16/CBDCA療法のうちgrade 3-4の急性毒性を61%に認めた.
(3) Perilongo G, Shafford E, Maibach R, et al. Eur J Cancer 40: 411-421, 2004
  ヨーロッパにおける1995年10月より1998年5月まで135人に対しての肝芽腫患児の大規模前向き治療成績の報告である.発症部位、転移の有無にによりリスクを分類し標準リスク、高リスク群に分類され治療を行われている,標準リスク77人(平均16ヶ月),高リスク58人(平均18ヶ月)であった。高リスク群に対しカルボプラチン500mg/m2を1日間,ドキソルビシン60mg/m2を2日間にかけて持続静注するコースとシスプラチン80mg/m2を24時間かけて投与するコースとを繰り返し行い.カルボプラチンとドキソルビシンのコースを3回終了し手術できる症例は行い、出来ない症例はさらにカルボプラチンとドキソルビシンのコースとシスプラチンのみのコースを3回行い手術の可能性を判断する.
治療毒性に関しては,高リスク群に関して58人の患者に対して計357例の投与機会があった.治療が予定より延期されたのは68回(19%),好中球減少性発熱を認めたのは47例,明らかな感染症は44例(76%),粘膜障害は21例(36%),赤血球輸注15例(26%),血小板輸注29例(50%)高カロリー栄養が必要であったのは18例(31%)であった.治療関連死は認めなかった.
E. ユーイング肉腫
(1) Kung F.H, Desai S.J, Dickerman J.D et al.J Pediatr Hematol 17:265-269,1995
  米国POGよりPhaseI/IIの研究.21歳以下の再発難治性小児固形腫瘍92人の患者にイホスファミド1.5g/m2を3日間,エトポシド100mg/m2を3日間,カルボプラチンを1日間投与する治療で,カルボプラチンの投与量を300mg/m2から25%ずつ増量しカルボプラチンの投与量を決定した.カルボプラチンの至適投与量は,635mg/m2に決定された.治療毒性は,好中球1000以下は87%,5万以下の血小板減少は71%,細菌感染症は15%,肉眼的血尿は2%,ファンコニー症候群様1%あった.
(2) Cairo MS, Shen V,Krailo MD,et al. J Pediatr Hematol 23:30-38,2001
  米国CCGよりの難治性再発固形腫瘍患者123人にG-CSF(Granulocyte Colony-Stimulating factor)を併用しイホスファミド1.8g/m2を5日間、エトポシド100mg/m2を5日間、カルボプラチン400mg/m2を2日間投与する.治療毒性は,grade 4の好中球減少は88%,血小板が2万以下になるのは82%認め,血小板が10万以上に回復するには27日必要であった.62%(76/123)に発熱,抗生剤投与を認めた.G-CSFを併用するとgrade 3/4の非血液毒性は見られなかった.grade 3/4の腎毒性は2%認めた.
F. 頭蓋内胚細胞性腫瘍
(1) Casilda Balmaceda,et al, J Clin Oncol 14:2908-2915 1996
  71例が登録、68例が解析。カルボプラチン500mg/m2をday1-2、エトポシド150mg/m2をday1,2,3,とブレオマイシン15mg/m2をday3に併用。これを3週間ごとに4回。ここで評価し,CRなら同じ治療を2回、CRで無ければ放射線照射を行う。2年生存率はgerminoma84%、NGGCTで62%。78%が化学療法だけでCR。medianのフォロー期間は31ヶ月。
(2) Marie C. Baranzelli et al.Cancer,80:1792-7,1997
  29例の非転移例;1990年〜1994年、カルボプラチン600mg/m2をday1、エトポシド150mg/m2をdays1-3、イホスファミド1.8g/m2をdays22-26+エトポシド150mg/m2をdays22-26を併用。これを2サイクル行いその後40Gyのinitial tumor volume radiation、成績は、OS100%(4yeas)EFS93.3±6%(4years)
(3) MatsutaniM and the Japanese Pediatric Brain Tumor Study Group: J of Neuro -Oncology 54:311-316,2001
  多施設1995年〜1999年143例の登録112例の解析。(PE療法との同時解析)カルボプラチン450mg/m2をday1に(CARB-VP療法)、エトポシド150mg/m2を3日間連続併用。カルボプラチン-エトポシド療法を3〜4週ごとに3回繰り返し、その後24〜30Gyの腫瘍部への放射線照射を行い、その後CARB-VP療法を3〜4ヶ月ごとに5回繰り返す。結果は、good prognosis group でtumor free rate after the initial treatmentは92%(median follow up period 2.9年)。
 intermediate prognosis groupではtumor free rate after the initial treatmentは55.6%(median follow up period 3.7年)。

7.本剤の投与量の妥当性について

 
神経芽腫,網膜芽腫,肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,ウイルムス腫瘍,その他腎原発腫瘍、ユーイング肉腫,頭蓋内胚細胞腫瘍などの小児悪性固形腫瘍に対する本剤を含む併用化学療法に関して,これまでに公表された臨床試験結果を考察し,さらに海外の教科書ならびに信頼できる海外の学術雑誌に掲載された総説および治療ないし診療ガイドラインに基づき,本剤の効能又は効果として前記疾患等を追加することは妥当であると判断した.
 また、投与量については,各疾患に対する臨床試験の代表的なレジメンから頻用される用法・用量を比較・検討し,妥当と考えられる用量および用法を設定した.
 カルボプラチンをイホスファミド,エトポシドと併用するICE療法としてPhaseI研究が小児固形腫瘍で行われている.(Marina NM, et al. J Clin Oncol 11: 554-560,1993)1990年2月から1991年3月まで、治療抵抗性の45例(神経芽腫10例,ウイルムス腫瘍5例,横紋筋肉腫4例,ユーイング肉腫10例,骨肉腫2例,上衣腫2例,その他10例)の小児固形腫瘍に対しカルボプラチンは2mg/ml×minを目標AUCとして投与開始し2mg/ml×minずつ増量し、イホスファミド2g/m2とエトポシド100mg/m2を2,3日目に投与した.カルボプラチンが8mg/ml×minに達したとき20回投与中13回の発熱を合併する好中球減少を認めた.これによりICE療法におけるカルボプラチンの投与量は7mg/ml×minと決定された.また前治療で頭蓋照射や大量のシスプラチン投与が行われている患児に関しては6mg/ml×minに減量することが決定された。非血液毒性に関しては、比較的軽度から中等度であった.血中BUNの上昇が10回の投与で観察された.BUN100mg/dl,Cr6.6mg/dlまで上昇した患児の場合、カルボプラチンが8mg/ml×minで,かつバンコマイシン、アンホテリシンBなどが併用されていた.11例が尿細管アシドーシスを認めているが、10例が、以前にシスプラチンの投与を受けていた.4例がファンコニー症候群を発症したがこのうち3例は大量シスプラチン療法を受けていた.効果に関しては,2例が完全寛解に至り,13例が部分寛解に至っている,RiccardiR.等は、年齢1歳から17歳までの腎機能が正常(71-151 ml min-1 m-2)な小児がん患児,35人に関して,本剤のAUCと体表面積当たりの投与量は直線的に比例することを報告している。(Riccardi R et al. Cancer Chemother Pharmacol, 33:477-483,1994)
従って,体表面積当たりの投与量設定は科学的に妥当であると考えられる.
 一方、米国POG(Kung F.H, et al.J Pediatr Hematol 17:265-269,1995)よりも小児再発固形腫瘍に対してICE療法のPhaseI/IIの研究が報告されている。21歳以下の再発難治性小児固形腫瘍92人の患者にイホスファミド1.5g/m2を3日間、エトポシド100mg/m2を3日間、カルボプラチンを1日間投与する治療で、カルボプラチンの投与量を300mg/m2から25%ずつ増量しカルボプラチンの至適投与量を決定した.21日から28日の間隔で治療は行われた.ユーイング腫瘍8例,ウイルムス腫瘍患者の10例,神経芽腫12例,その他55例に投与した.寛解または部分寛解を認めたのはユーイング腫瘍2例,ウイルムス腫瘍7例,神経芽腫7例であった.カルボプラチンの至適投与量は,635mg/m2に決定された.それぞれの薬剤単独か,または2剤組み合わせでは,これまで十分な効果が得られなかったが,イホスファミド,カルボプラチン,エトポシドを組み合わせたICE療法は非常に有効であった.治療毒性は,好中球1000以下は87%,5万以下の血小板減少は71%,細菌感染症は15%,肉眼的血尿は2%,ファンコニー症候群様1%あった.この報告では,ICE療法をイホスファミド1.5g/m2を3日間,エトポシド100mg/m2を3日間、カルボプラチン635mg/m2に1日間に決定された.
 また、米国CCG(文献C-(2))のICE療法では難治性再発固形腫瘍患者123人にG-CSF(Granulocyte Colony-Stimulating factor)を併用しイホスファミド1.8g/m2を5日間,エトポシド100mg/m2を5日間、カルボプラチン400mg/m2を2日間投与する.ユーイング肉腫16例,横紋筋肉腫15例,ウイルムス腫瘍4例が含まれている.全生存割合は51%,CR率は27%と良好な結果であった.治療毒性は,grade 4の好中球減少は88%,血小板が2万以下になるのは82%認め,血小板が10万以上に回復するには27日必要であった.62%(76/123)に発熱,抗生剤投与を認めた.G-CSFを併用するとgrade 3/4の非血液毒性は見られなかった.grade 3/4の腎毒性は2%認めた.
 以上より,現在,標準的に用いられている小児固形腫瘍に対するICE療法は,イホスファミド1.5g/m2を3日間、エトポシド100mg/m2を3日間、カルボプラチン635mg/m2を1日間とイホスファミド1.8g/m2を5日間、エトポシド100mg/m2を5日間,カルボプラチン400mg/m2を2日間投与する方法が用いられている.
 強力な併用化学療法による重篤な有害事象および合併症死が一定の頻度で発生することが懸念されるものの,本報告書「2.公知の取扱いについて」ならびに「3.裏付けとなるデータについて」で詳述したように,致死的疾患である悪性固形腫瘍から救命できる小児患者の割合を考慮するとともに,報告されている治療関連合併症死の割合が極めて低いことを考慮すると,本剤投与量を妥当と判断するとともに,国内における本剤の使用状況を鑑みると,適応拡大を行うことは妥当と判断した.


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