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抗がん剤報告書:塩酸プロカルバジン(脳腫瘍)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名 塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法
未承認効能・効果を含む医薬品名 塩酸プロカルバジン
未承認用法・用量を含む医薬品名   
予定効能・効果 悪性星細胞腫,乏突起膠腫成分を有する神経膠腫
予定用法・用量 現行の用法・用量
プロカルバジンとして1日50-100mg(1-2カプセル)を1-2回に分割して経口投与を開始する.その後約1週間以内に漸増し,プロカルバジンとして1日150-300mg(3-6カプセル)を3回に分割投与し,臨床効果が明らかとなるまで連日投与する.
予定効能における予定用法・用量
本剤を含む多剤併用療法においては,プロカルバジンとして1日量60-75mg/m2を14日間経口投与し,これを6-8週毎に繰り返す.

2.公知の取扱いについて

(1) 無作為化比較試験等の公表論文
1)Levin VA et al. Superiority of post-radiotherapy adjuvant chemotherapy with CCNU, procarbazine, and vincristine (PCV) over BCNU for anaplastic gliomas: NCOG 6G61 final report. Int J Radiat Oncol Biol Phys 18:321-324, 1990
2)Prados MD et al. Procarbazine, lomustine, and vincristine (PCV) chemotherapy for anaplastic astrocytoma: a retrospective review of Radiation Therapy Oncology Group protocols comparing survival with carmustine or PCV adjuvant therapy. J Clin Oncol 17:3389-3395, 1999
3)Cairncross G, et al. Chemotherapy for anaplastic oligodendroglioma. National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Group. J Clin Oncol 12:2013-2021, 1994
4)Jeremic B et al. Combined treatment modality for anaplastic oligodendroglioma: a phase II study. J Neurooncol 43:179-185, 1999
5)Buckner JC, et al. Phase II trial of procarbazine, lomustine, and vincristine as initial therapy for patients with low-grade oligodendroglioma or oligoastrocytoma: Efficacy and associations with chromosomal abnormalities. J Clin Oncol 21:251-255, 2003
6)Soffietti R et al. PCV chemotherapy for recurrent oligodendrogliomas and oligoastrocytomas. Neurosurgery 43:1066-1073, 1998
7)河内正人.成人大脳半球膠芽腫に対するPCB, ACNU, VCR-IFN-beta (PAV-IFN) vs. PAV: 第III相試験.第61回日本脳神経外科学会総会,松本,2002 (抄録)
(2) 教科書
1) Devita VT et al. (eds). Cancer Principles & Practice of Oncology. 6th ed, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2001, pp.2091-2160.
悪性神経膠腫に対する標準的な治療は手術+放射線照射+化学療法であり,化学療法としてはカルムスチン(BCNU)と塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)を挙げ,また乏突起膠細胞系腫瘍に対する化学療法としては塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)を解説している.
2) Abeloff MD et al. (eds). Clinical Oncology. Churchill Livingstone, New York, 1995, pp.851-886.
悪性神経膠腫の化学療法としてのbest drugsはBCNUまたは塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)と記載し,乏突起膠細胞系腫瘍の化学療法では塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)が広く行なわれていると記載している.
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス
1) Burton EC, and Prados MD. Curr Treat Options Oncol 1:459-468, 2000.
退形成性星細胞腫,および乏突起膠腫,乏突起星細胞腫において標準的に行なわれる治療として 塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)を挙げている.
2) van den Bent MJ. Semin Oncol (6 Suppl 19):39-44, 2003.
乏突起膠腫が塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)に感受性があることを述べている.
3) Engelhard HH, Stelea A, Mundt A. Surg Neurol 60:443-456, 2003.
乏突起膠腫ならびに退形成性乏突起膠腫に対する標準治療は手術+照射+塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)であると述べている.
4) Gaya A, Rees J, et al. Cancer Treat Rev 28:115-120, 2002.
悪性神経膠腫(膠芽腫,退形成性星細胞腫,退形成性乏突起膠腫,退形成性乏突起星細胞腫)において,塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)が最も優れた補助化学療法であると位置付け,temozolomide(本邦未発売)とのランダム化比較試験が開始されようとしていることを解説している.
(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン
1) National Comprehensive Cancer Network (NCCN) Clinical Practice Guidelines in Oncology - v. 1.2003 (http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/f_guidelines.asp#site
NCCN Clinical Practice Guideline in Oncology (v.1.2003)は,悪性星細胞腫および乏突起膠腫に対する化学療法剤としては,BCNU (本邦未発売),temozolomide(本邦未発売)と並んで,塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)を推奨している.
2) National Cancer InstituteによるPhysician Data Query(PDQ) ガイドライン(http://www.cancer.gov/cancertopics/pdq/treatment/adultbrain/HealthProfessional
退形成性細胞腫,膠芽腫,退形成性乏突起膠腫,乏突起星細胞腫,および退形成性乏突起星細胞腫の標準治療の一つとして手術+放射線照射+化学療法を挙げ,化学療法に関する引用文献の中に塩酸プロカルバジンを含む多剤併用療法(PCV療法)に関する文献が挙げられている.
(5)総評
 塩酸プロカルバジンは,悪性星細胞腫ならびに乏突起膠腫成分を有する神経膠腫に対して,外国では主にロムスチン(CCNU)と硫酸ビンクリスチンとの併用療法(PCV療法)において用いられ,その有効性および安全性については,以下に説明するように充分な量とレベルのエビデンスが存在すると考えられる.
1)有効性
 初発あるいは再発退形成性乏突起膠腫に対し,National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Groupは,PCV療法を6週毎に6サイクル投与する多施設共同第II相試験を行った.計24症例のうち,CRが9例(38%),PR 9例(38%),SD 4例,PD 2例であり,有効率は18/24=75%で,無増悪生存期間中央値は,16.3ヶ月以上であった.(J Clin Oncol 12:2013-2021, 1994).
 Jeremic B等は,退形成性乏突起膠腫および退形成性乏突起星細胞腫に対し,手術・放射線療法後に,PCV療法を計6コース,6週間毎に行う第II相試験を行った.23症例に対し,3年生存率78%, 5年生存率52%であった(J Neuro-oncol 43:179-185, 1999).日本脳腫瘍統計10版によれば,我が国において1985年から1990年に登録された退形成性乏突起膠腫29例の3年生存率は66.5%,5年生存率は32.5%(The Committee of Brain Tumor Registry of Japan. Report of brain tumor registry of Japan. 10th ed. Neurol Med Chir 40(Suppl): 1-92, 2000)であり,PCV療法の有効性が示唆される,
 乏突起膠腫および乏突起星細胞腫に対しては,Mayo ClinicおよびNorth Central Cancer Treatment Groupによる多施設共同第II相試験が報告されている.PCV療法を8週毎に6サイクル施行し,終了10週以内或いは腫瘍増悪がみられた時点で放射線治療を行った.評価対象となった28症例において,腫瘍縮小をしめす奏効率は,治療医による評価で29%,盲目化された神経放射線医による評価で52%であった(J Clin Oncol 21:251-255, 2003).
 再発した乏突起膠腫あるいは乏突起星細胞腫に対し,University of Torinoのグループは,PCV療法を8週間毎計6サイクル行う第II相試験を行った.評価対象となった26症例において,CR 3例(12%), PR 13例(50%), SD 8例(31%), PD 2例(8%)で,奏効率は62%であった(Neurosurgery 43:1066-1073, 1998).
 退形成性星細胞腫ならびに膠芽腫に対しては,手術+放射線照射+ACNU(国外においてはBCNU)が標準治療であるが,生存期間中央値は,それぞれ46カ月と12ヶ月でしかない(Takakura K et al. J Neurosurg 64:53-57, 1986).臨床の場においては,特に再発退形成性星細胞腫および膠芽腫症例に対して,少しでも多くの治療選択肢を可能にすることが脳腫瘍治療における急務である.
 Northern California Oncology Group は膠芽腫および退形成性神経膠腫(退形成性星細胞腫,退形成性混合神経膠腫など)を対象として,hydroxyureaを併用した放射線照射の後,カルムスチン(BCNU)の静脈内投与を6-8週毎に繰り返す群と,PCV療法を6-8週毎に繰り返す群とを比較する無作為化比較試験を行った.1977年から1983年までに膠芽腫60例,退形成性神経膠腫 73例が登録された.生存期間中央値は,膠芽腫においては両群に差が無くBCNU群(29例)57.4週,PCV群(31例)50.4週であったが,退形成性神経膠腫群においてはBCNU群(37例)82.1週に対してPCV群(36例)157.1週と有意にPCV群が優れていた(p=0.021).(Int J Radiat Oncol Biol Phys 18:321-324, 1990).
 退形成性星細胞腫に対してはRadiation Therapy Oncology Groupによる無作為化比較試験を集めたメタアナリシスが報告されている.4つの臨床試験(3つは第III相無作為化比較試験,1つは第I/II相無作為化比較試験で放射線線量を検討するために施行された)の症例を集め,手術後放射線照射+BCNU投与群と手術後放射線照射+PCV療法群の比較を行った.年令,Karnofsky Performance Score,および手術による摘出度をマッチさせた,BCNU群133例,PCV群133例について比較した結果,生存期間に差は認められなかった(J Clin Oncology 17:3389-3395, 1999).
 以上より,退形成性星細胞腫および膠芽腫においても,PCV療法は,標準治療であるニトロソウレア系アルキル化剤であるBCNUあるいはACNUと同等以上の有効性が認められると考えられる.
2) 安全性
 PCV療法としてCCNU (1回投与量100-130 mg/m2 x 1日間,初日,経口投与),硫酸ビンクリスチン(1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間,Day 8およびDay 29,静注),と塩酸プロカルバジン(1日投与量60-75 mg/m2 x 14日間,Day 8-21,経口投与)を投与した場合の主たる副作用は骨髄抑制である.その他には悪心・嘔吐ならびに硫酸ビンクリスチンによる神経毒性と塩酸プロカルバジンによる皮疹の頻度が多いが,いずれも重症化する頻度は少ない,ロムスチンを塩酸ニムスチン(ACNU, 70mg/m2)に置き換えたPAV療法においても同様で,熊本大学の報告によれば,grade 3以上の白血球減少と血小板減少がそれぞれ43,7%, 12.3%に認められ,塩酸プロカルバジン投与中断を要する皮疹は16.4%に認められた(第61回日本脳神経外科学会総会,松本,2002).化学療法に熟知した医師が骨髄抑制、および悪心・嘔吐,神経症状,皮疹等に十分な注意を払いつつ本療法を行うのであれば、安全性は担保できると考えられる。

3.裏付けとなるデータについて

臨床試験の試験成績に関する資料
 以下に示すように,本剤とロムスチン(CCNU)および硫酸ビンクリスチンを併用するPCV療法が広く神経膠腫に対して行なわれ,その有効性と安全性に関する多くの報告がある.
 Northern California Oncology Group は膠芽腫および退形成性神経膠腫(退形成性星細胞腫,退形成性混合神経膠腫など)を対象として,hydroxyureaを併用した放射線照射の後,カルムスチン(BCNU) 200mg/m2の静脈内投与を6-8週毎に繰り返す群と,PCV療法(CCNU,1回投与量110 mg/m2 x 1日間,初日,経口投与,硫酸ビンクリスチン,1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間,Day 8およびDay 29,静注,および塩酸プロカルバジン,1日投与量60 mg/m2 x 14日間,Day 8- 21,経口投与)を6-8週毎に繰り返す群とを比較する無作為化比較試験を行った.1977年から1983年までに膠芽腫60例,退形成性神経膠腫 73例が登録された.化学療法は1年間あるいは腫瘍増大が認められるまで繰り返し施行された.生存期間中央値は,膠芽腫においては両群に差が無くBCNU群(29例)57.4週,PCV群(31例)50.4週であったが,退形成性神経膠腫群においてはBCNU群(37例)82.1週に対してPCV群(36例)157.1週と有意にPCV群が優れていた(p=0.021).(Int J Radiat Oncol Biol Phys 18:321-324, 1990).
 退形成性星細胞腫に対してはRadiation Therapy Oncology Groupによる無作為化比較試験を集めたメタアナリシスが報告されている.4つの臨床試験(3つは第III相無作為化比較試験,1つは第I/II相無作為化比較試験で放射線線量を検討するために施行された)の症例を集め,手術後放射線照射+BCNU投与群と手術後放射線照射+PCV療法群の比較を行った.年令,Karnofsky Performance Score,および手術による摘出度をマッチさせた,BCNU群133例,PCV群133例について比較した結果,生存期間に差は認められなかった(J Clin Oncology 17:3389-3395, 1999).即ち,以上の2つの資料より,退形成星細胞腫および膠芽腫においては,PCV療法は,標準治療である放射線照射+BCNUと同等の有効性が認められたと考えられる.
 初発あるいは再発退形成性乏突起膠腫に対し,National Cancer Institute of Canada Clinical Trials Groupは,PCV療法としてCCNU (1回投与量130 mg/m2 x 1日間,初日,経口投与),硫酸ビンクリスチン(1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間,Day 8およびDay 29,静注),と塩酸プロカルバジン(1日投与量75 mg/m2 x 14日間,Day 8-21,経口投与)を6週毎に6サイクル投与する多施設共同第II相試験を行った.計24症例のうち,CRが9例(38%),PR 9例(38%),SD 4例,PD 2例であり,有効率は18/24=75%であった.過去に放射線治療を受けている再発例と初発症例とはほぼ同様の有効率(各73%, 78%)を示した.無増悪生存期間中央値は,16.3ヶ月以上であった.重篤な有害事象としては,Pneumocystis肺炎による死亡が1例,塩酸プロカルバジンによると考えられる可逆性脳症が1例,腫瘍内出血1例,硬膜下血腫1例,重篤な食思不振と呼吸不全による死亡が1例認められた.他の有害事象は予期できる範囲のもので対処可能な範囲であった.即ち,grade 3/4の好中球減少が40%,grade 3/4の血小板減少が15%,軽症あるいは中等度の悪心・嘔吐が70-80%,10%以上の体重減少が18%,塩酸プロカルバジンによる皮疹が30%,また硫酸ビンクリスチンによる麻痺性イレウスを2例に認めた(J Clin Oncol 12:2013-2021, 1994).
 Jeremic B等は,退形成性乏突起膠腫および退形成性乏突起星細胞腫に対し,手術・放射線療法(60 Gy)後,PCV療法(CCNU,1回投与量100 mg/m2 x 1日間,初日,静注,硫酸ビンクリスチン,1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間(最大2mg),Day 1およびDay 8,静注,および塩酸プロカルバジン,1日投与量60 mg/m2 x 14日間,Day 1-14,経口投与)を6週間毎に計6コース行う第II相試験を行った.23症例が解析され,3年生存率78%, 5年生存率52%であった.有害事象としては血液毒性が最も高頻度で,grade 3の白血球減少が26%,grade 4の白血球減少が9%に,grade 3の血小板減少が13%,grade 4の血小板減少が4%に,またgrade 3の貧血が4%に認められたが,grade 4の貧血は出現しなかった.その他には痙攣発作1例,脳内出血1例,硬膜下血腫1例,grade 3の感染(肺炎)が2例,grade 3の悪心・嘔吐が2例に見られた.硫酸ビンクリスチンによる便秘が27%,四肢の知覚障害が27%,四肢の脱力が9%,また塩酸プロカルバジンによる皮疹(grade 2以下)が22%に,全身倦怠感が27%に認められた(J Neurooncol 43:179-185, 1999).
 乏突起膠腫あるいは乏突起星細胞腫に対しては,Mayo ClinicおよびNorth Central Cancer Treatment Groupによる多施設共同第II相試験が報告されている.CCNU (1回投与量130 mg/m2 x 1日間,初日,経口投与),硫酸ビンクリスチン(1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間,Day 8およびDay 29,静注),と塩酸プロカルバジン(1日投与量75 mg/m2 x 14日間,Day 8-21,経口投与)を8週毎に6サイクル投与するPCV療法を先行させ,投与終了10週以内或いは腫瘍増悪がみられた時点で放射線照射(59.4 Gyまたは54 Gy)を行った.評価対象となった28症例において,腫瘍縮小をしめす奏効率は,治療医による評価で29%,盲目化された神経放射線医による評価で52%であった.主たる有害事象は骨髄抑制で,白血球減少はgrade 2以下が25%, grade 3が64%, grade 4が11%で認められた.血小板減少はgrade 2以下が36%, grade 3が64%, grade 4は0%であった.消化器症状はgrade 3の嘔気が21%,grade 3の嘔吐が7%,grade 4の嘔吐が4%,grade 3の食思不振が7%,grade 3の下痢が4%に認められた.その他,grade 3の意識障害が4%,grade 3の知覚障害が4%,grade 3の腹痛が11%,grade 4の腹痛が4%,またgrade 3のアレルギー症状が7%に認められた(J Clin Oncol 21:251-255, 2003).
 手術後あるいは手術+放射線治療後に再発した乏突起膠腫あるいは乏突起星細胞腫に対し,University of Torinoのグループは,CCNU (1回投与量110 mg/m2 x 1日間,初日,経口投与),硫酸ビンクリスチン(1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間,Day 8およびDay 29,静注),と塩酸プロカルバジン(1日投与量60 mg/m2 x 14日間,Day 8-21,経口投与)を8週間毎計6サイクル投与するPCV療法を行う第II相試験を行った.評価対象となった26症例において,CR 3例(12%), PR 13例(50%), SD 8例(31%), PD 2例(8%)で,奏効率は62%であった.主たる副作用は血液毒性と皮疹で,白血球減少はgrade 1; 17%,grade 2; 11%,grade 3; 1%,血小板減少は grade 1; 7%,grade 2; 3%,grade 3; 1%に出現し,塩酸プロカルバジンによる皮疹は15%の症例で認められた(Neurosurgery 43:1066-1073, 1998). 

4.本療法の位置づけについて

他剤、他の組合せとの比較等について
代表的な神経上皮性腫瘍と,原発性脳腫瘍における頻度を示す.
A.星細胞系腫瘍
   1. びまん性星細胞腫    8.0%
   2. 退形成性星細胞腫    5.0%
   3. 膠芽腫    9.0%
   4. (以下略)
B.乏突起膠細胞系腫瘍
   1. 乏突起膠腫    1.1%
   2. 退形成性乏突起膠腫    0.2%
C.混合腫瘍    0.5%(下の1,2合計)
   1.乏突起星細胞腫
   2.退形成性乏突起星細胞腫
D.上衣系腫瘍
E.(以下略)
(分類はWHO分類[Kleihues P, Cavenee WK, eds. Pathology and genetics of the tumours of the nervous system. IARC, Lyon, 2000]により,日本名は脳腫瘍全国統計委員会,日本病理学会編.脳腫瘍取り扱い規約[第2版],金原出版,2002に,また頻度はThe Committee of Brain Tumor Registry of Japan. Report of brain tumor registry of Japan. 10th ed. Neurol Med Chir 40(Suppl): 1-92, 2000によった).
 今回の予定効能である組織型は悪性星細胞腫(退形成性星細胞腫,膠芽腫),ならびに乏突起膠腫成分を有する神経膠腫(乏突起膠腫,退形成性乏突起膠腫,乏突起星細胞腫,退形成性乏突起星細胞腫)である.原発性脳腫瘍の発生頻度はおよそ人口10万人あたり10人と考えられるので(脳腫瘍取り扱い規約, p.9),この6つの組織型の腫瘍の合計の頻度は,上記表より15.8%で,年間発生数は人口10万人当り1.6人と見積もられる,
 膠芽腫ならびに退形成性星細胞腫においては,手術後に放射線照射+ニトロソウレア系アルキル化剤(国外ではカルムスチン(BCNU),国内では塩酸ニムスチン(ACNU))によって治療する方法が標準的な治療と考えられる.臨床試験の成績についての説明で述べたように,膠芽腫,退形成性星細胞腫においては,放射線照射+BCNUと比べて放射線照射+PCV療法は,同等あるいはそれ以上の有効性を示している.また国内におけるPAV療法の報告においても,膠芽腫において,放射線照射+ACNUと同等以上の有効性が示されていると考えられる.
 乏突起膠腫を成分とする腫瘍群(乏突起膠腫,退形成性乏突起膠腫,乏突起星細胞腫,退形成性乏突起膠腫)のうち,退形成性乏突起膠腫と退形成性乏突起星細胞腫については,PCV療法の有効率は極めて高く,70%以上と報告されている.また乏突起膠腫および乏突起星細胞腫においてもPCV療法の有効率は50%以上である.従来の放射線照射を中心とした治療との比較試験はまだ報告されていないが,Jeremic B等は,退形成性乏突起膠腫および退形成性乏突起星細胞腫に対し,手術・放射線療法後に,PCV療法を計6コース,6週間毎で行う第II相試験を23症例において行い,3年生存率78%, 5年生存率52%と報告している(J Neuro-oncol 43:179-185, 1999).日本脳腫瘍統計10版によれば,我が国において1985年から1990年に登録された退形成性乏突起膠腫29例の3年生存率は66.5%,5年生存率は32.5%(The Committee of Brain Tumor Registry of Japan. Report of brain tumor registry of Japan. 10th ed. Neurol Med Chir 40(Suppl): 1-92, 2000)であり,PCV療法の有効性が示唆される.
 NCCN Clinical Practice Guideline in Oncology (v.1.2003)は,悪性星細胞腫および乏突起膠腫に対する化学療法剤としては,BCNU (本邦未発売),temozolomide(本邦未発売)と並んで,PCV療法を推奨している.

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等
 これまで述べたように,外国において本剤はロムスチン(CCNU)および硫酸ビンクリスチンとの併用によるPCV療法において広く使用され,本剤の有効性と安全性に関する多くのエビデンスが蓄積されてきている.国内においては,CCNUが発売されていないために,ニトロソウレア剤をCCNUから塩酸ニムスチン(ACNU)に変更したPAV療法が行なわれ,インターフェロンβを加えた併用療法(PAV-IFN療法)との無作為化比較試験が報告されている.熊本脳腫瘍研究グループは,成人大脳半球膠芽腫に対して,手術後に放射線治療(60 Gy)と同時に,PAV療法あるいはPAV-IFN療法の化学療法を開始する無作為化比較試験を行った.PAV療法群では,6週毎に塩酸ニムスチン (1回投与量70 mg/m2 x 1日間,初日,静注),硫酸ビンクリスチン(1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間,Day 8およびDay 29,静注),と塩酸プロカルバジン(1日投与量60 mg/m2 x 14日間,Day 8 -21,経口投与)を,PAV-IFN群ではPAV療法にインターフェロンβ 300万単位点滴静注,週3回,6週連続,以後1回/2週間を追加投与した.化学療法は病態の進行が無い限り1年間継続施行した.総計73症例において,生存期間中央値はPAV群で16.5ヶ月,PAV-IFN群で16.3ヶ月と有意差を認めなかった.副作用としてはgrade 3以上の白血球減少と血小板減少がそれぞれ43,7%, 12.3%に認められ,塩酸プロカルバジン投与中断を要する皮疹は16.4%に認められた(第61回日本脳神経外科学会総会,松本,2002).本試験によって,CCNUをACNUに変更した療法が安全に施行できることが示された.また膠芽腫に対しての本邦における標準治療と考えられる放射線照射+ACNU投与の治療成績である生存期間中央値12カ月(Takakura K et al. J Neurosurg 64:53-57, 1986)と比べて,同等以上の有効性が見込まれることが示された.
 その他,学会における症例報告の状況などから,国内においては相当数の使用経験があるものと推測される.しかし,多数例の報告は上記の熊本大学からの報告のみである.むしろ,化学療法に十分な知識と経験を有する医師によって慎重に使用されることにより,安全性を担保することが急務であると考えられる.

6.本剤の安全性に関する評価

 
 本剤をロムスチン(CCNU)および硫酸ビンクリスチンと併用するPCV療法における各薬剤の用法・用量は,CCNU が1回投与量100-130 mg/m2 x 1日間,初日,経口投与,硫酸ビンクリスチンは1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間,Day 8およびDay 29,静注,塩酸プロカルバジンは1日投与量60-75 mg/m2 x 14日間,Day 8-21,経口投与である.この併用療法における主たる副作用は骨髄抑制である.その他には悪心・嘔吐ならびに硫酸ビンクリスチンによる神経毒性と塩酸プロカルバジンによる皮疹の頻度が多いが,いずれも重症化する頻度は少ない,ロムスチンを塩酸ニムスチン(ACNU, 70mg/m2)に置き換えたPAV療法においても同様で,熊本大学の報告によれば,grade 3以上の白血球減少と血小板減少がそれぞれ43,7%, 12.3%に認められ,塩酸プロカルバジン投与中断を要する皮疹は16.4%に認められた(第61回日本脳神経外科学会総会,松本,2002).化学療法に熟知した医師が,骨髄抑制、悪心・嘔吐,神経症状,皮疹等に十分な注意を払いつつ本薬剤を用いるのであれば、安全性は担保できると考えられる。

7.本剤の投与量の妥当性について

 
 国内において熊本大学のグループから報告されている投与量および投与方法,塩酸ニムスチン (1回投与量70 mg/m2 x 1日間,初日,静注),硫酸ビンクリスチン(1回投与量1.4 mg/m2 x 2日間,Day 8およびDay 29,静注),と塩酸プロカルバジン(1日投与量60 mg/m2 x 14日間,Day 8 -21,経口投与)を6週毎,は,その有効性と安全性の両面から妥当なものであると考えられる.
 本剤の用法・用量は,現行の規定では,1日量50-100mgを1-2回に分割投与(1カプセル50mgのもののみ市場に存在する)することより開始して,以後1週間以内に漸増して1日150-300mgを3回に分割投与とし,効果が明らかになるまで連日投与,となっているが,上述の投与量はこれを越えるものではない.従って本剤の用法・用量は妥当なものであると考える.


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