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抗がん剤報告書案): ビンクリスチン、ドキソルビシン及びデキサメタゾン
(骨髄腫VAD療法)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名 骨髄腫におけるビンクリスチン、ドキソルビシン、デキサメサゾンの併用療法(VAD療法)
未承認効能・効果を含む医薬品名 doxorubicin, vincristine, dexamethazone
未承認用法・用量を含む医薬品名 ドキソルビシン 10mg/m2持続点滴 1日を4日間投与、3週間間隔投与
予定効能・効果 骨髄腫(標準化学療法)
予定用法・用量 
VAD療法
薬剤名 用法・用量
dexamethasone 40mg/day 点滴 4日間((第1〜4日、第9〜12日、第17〜20日)(注射のみとする)
doxorubicin 10 mg/m2持続点滴 1日を4日間持続点滴

総投与量は塩酸ドキソルビシンとして500mg(力価)/m2(体表面積)以下とする。
vincristine     0.4mg/m2/day, 4日間
3週から4週毎に3-4コース繰り返す。
副作用を避けるため、1コース(4日間の総投与量)2mgを超えないものとする。
(使用する薬剤をすべて記載。適応外効能・効果、用法・用量を含む医薬品に下線。適応外用法・用量に下線。)

2.公知の取扱いについて

(1) 無作為化比較試験等の公表論文
1) Barlogie B, et al. Effective treatment of advanced multiple myeloma refractory to alkylating agents. N Eng J Med. 310:1353-1356. 1984.
2) Alexanian R, et al. VAD-based regimens as primary treatment for multiple myeloma. Am J Hematol. 33:86-9, 1990.
3) Anderson H, et al. VAD chemotherapy as remission induction for multiple myeloma. Brit J Cancer. 71:326-30, 1995.
4) Segeren CM, et al. Vincristine, doxorubicin and dexametasone (VAD) administered as rapid intravenous infusion for first-line treatment in untreated multiple myeloma. Brit J Haematol. 105:127-30, 1999.
5) Dimopoulos MA, et al. Prospective randomized comparison of vincristine, doxorubicin and dexamethasone(VAD) administered as intravenous bolus injection and VAD with liposomal doxorubicin as first-line treatment in multiple myeloma. Ann Oncol. 14:1039-44, 2003.
6) Gertz MA, et al. Phase III study comparing vincristine, doxorubicin, and dexamethasone(VAD) chemotherapy with VAD plus recombinant interferon alfa-2 in refractory or relapsed multiple myeloma. An Eastern Cooperative Oncology Group Study. Am J Clin Oncol. 18:475-480, 1995.
7) Lokhorst HM, et al. Induction therapy with vincristine, adriamycin, dexamethasone (VAD) and intermediate-dose melphaalan followed by autologous or allogeneic stem cell transplantation in newly diagnosed multiple myeloma. Bone Marrow Tranpl 23:317-322, 1999.
8) Cesana C, et al. Risk factors for the development of bacterial infections in patients with multiple myeloma treated with two different vincristine-adriamycin-dexamethasone schedules. Haematologica. 88:1022-28, 2003
9) Minew P, et al. VAD or VMBCP in multiple myeloma refractory to or relapsing after cyclophosphamide-predonisolone therapy. Brit J Haematol. 103:512-7, 1998.
(2) 教科書
米国の教科書であるDeVita VT, et al. Cancer. Principle and practice of Oncology, 5th ed. P2344-2387.に掲載されている。出版社Lippincott-Raven Publishers. Philadelphia, USA.
Wintrobe MM, Wintrobe’s Clinical Hemtaology: Lee et al. 10th edition. P2659.出版社Lippincott Williams & Wilkins.1999年。
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス

(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン
JCOG-LSGリンパ腫・骨髄腫臨床研究マニュアル第1版. P96.にガイドラインではないが、標準治療として記載されている。
NCCNのガイドラインにも初回治療のひとつとして、記載されている。
http://www.nccn.org/にNCCNのホームページがあり、Clinical Practice Guideline in Oncologyがある。
(5) 総評
骨髄腫におけるVAD療法については、今までに報告された臨床試験結果を考慮し、以下の理由により、用法、用量がdoxorubicin 10mg/m2および、3週間間隔投与の有用性は認められると考えられる。国際的に少なくとも8報以上の信頼できる学術雑誌に掲載された内容、米国の臨床腫瘍学、血液学の教科書についても記載されており、有効性および安全性は医学薬学上公知であると考えられる。
  1) 骨髄腫における化学療法は、従来melphalan, predonisoloneを中心としたMP療法が経口であることもあって、1958年にmelphalan単独で始めて用いられて、続いて1967年に高用量のpredonisolone間欠的投与が、報告された。1969年時点の報告では有効率35%に対して、MPの併用は70%と報告されて、標準となった。特に高齢者では依然として有効な治療法としてある。しかし比較的若年者例や今後幹細胞移植を考慮する症例や増悪スピードの速い例ではMP療法では反応が不良であり、幹細胞採取にも不良とする報告がみられた、これに比較して、VAD療法は奏功率が高く、できるだけ早く有効性をもたらし、幹細胞採取上も優れた治療法とされている。
  2) 用法、用量は一日投与量としては少ないものの、主な有害事象は、ビンクリスチンによる神経障害、デキサメサゾンによる高血糖、ドキソルビシンによる白血球減少、好中球減少、血小板減少、で時にgrade3/4も生じるため、化学療法に熟知した医師が、骨髄抑制、神経障害、糖尿病の悪化の有無に十分な注意を払い、行うのであれば安全性が担保できる。また中心静脈を留置して4日間にわたって注入する必要がある。感染症、この疾患自体の易感染性に注意が必要である。
 以上の根拠からみて、骨髄腫に対しての本剤を含むVAD療法の有効性、安全性は医学・薬学上公知であると判断できる。

3.裏付けとなるデータについて

臨床試験の試験成績に関する資料
1. Barlogie Bらは1984年に、29例の進行不応例の骨髄腫に、VAD療法が行われ、75%の症例に急速に反応が認められ、アルキル化剤耐性例20例中14例に反応が認められたことを報告した(N Eng J Med 310:1353-6, 1984)。初回、第2回投与時の有害事象のうち好中球減少は、最低値が平均1,700/microL(250〜4,100), 血小板減少は、13.8万(1.1〜23.3万)、11例に発熱、8例に抗生物質の投与が必要で、うち4例に肺炎、2例にグラム陽性菌による敗血症、2例はグラム陰性菌の敗血症であった。ウイルス感染としては、ヘルペスによる食道炎、herpes zoster感染1例、cytomegalovirus感染症1例である。麻痺性イレウスが1例認められたが、vincristine中止により生じなかった。
2. 1990年にAlexanian Rらは175例の未治療例骨髄腫に対して、VAD療法を行ったところ、55%に有効性が認められたことを報告している(Am J Hematol. 33:86-9, 1990).
3. Anderson Hらは、さらに142例のうち、未治療75例、既治療67例(内訳再発31例、不応36例)においてVAD療法を行ったところ、奏功率は84%で、平均生存期間36ヶ月間、既治療例では10ヶ月間であった( Brit J Cancer. 71:326-30, 1995)。治療法としては、vincristine 1.6mg(total dose)として持続点滴、またdoxorubicin 36mg/m2を4日間持続点滴でdexamethazoneは経口で40mg/dayで4日間投与した。まず併用としてallopurinol 300mg/dayを第1コースの2週間投与した。また感染症の予防として、cotrimoxazole 480mg/回、を一日2回投与から960mg/回まで増量しながら行っている。Cimetidineを400mg/dayステロイド剤によるdydpepsiaを予防するために投与した。1984年から1992年にかけて、上記の患者数が治療を受け、奏功率は以下の通りであった。完全寛解:未治療例20/75(27%), 既治療例2/67(3%), 部分寛解では未治療例、43/75(57%), 既治療例では39/67(58%), 死亡例はそれぞれ未治療例4/75(5%), 既治療例7/67(10%)であり、未治療例の方において好成績であった。生存期間については、未治療例では75%生存が14ヶ月間、診断からの生存中央値は38ヶ月間である。既治療例でも39ヶ月間である。有害事象については、脱毛119/142(84%),抗生物質の投与が必要な感染症が76/142(54%), dyspepsia 52/142(37%), 便秘42/142(30%), 知覚異常40/142(28%), 浮腫38/142(27%), 点滴ラインに関するトラブル34/142(24%), 嘔気嘔吐30/142(21%), 中枢神経系19/142(19%), Candida感染 18/142(13%), 心不全 7/142(5%)であった。原因菌の同定された感染症は22/142(14%)で15例はグラム陽性、7例はグラム陰性菌であった。2例は敗血症で死亡した。
4. Seregen CMらは、未治療骨髄腫139例に投与して、134例が評価可能症例となり、62%に部分寛解、5%に完全寛解を得ている。主な有害事象は、9例(2%)に吐き気、嘔吐、10例(2%)に粘膜炎、肝臓障害8例(2%)、腎臓機能障害7例(1%)、心臓機能障害2例である。24例(18%)に軽度の神経障害、発熱または感染症が37例(27%)に認められた。投与にあたっては、全例に抗生物質の予防的投与、抗真菌剤の投与を行い、感染症予防とし、制吐剤の投与は全例に行っている。139例に対して、合計416コースのVAD療法を行い、うち117例は、3コースの13例には4コース行った。なおこの論文では、この治療法が、中心静脈留置を必要としており、外来治療を困難にしていること、留置したカテーテルに伴う敗血症、血栓症が24%にもあったことを不利益としている(Bri J Haematol. 105:127-130. 1999)。
5. Dimopoulos MA らはVADとliposomal doxorubicin(VAD doxil群)の比較試験を行っている(Ann Oncol 14:1039-44, 2003)。127例のVAD療法と、132例のliposomal doxorubicin(VAD doxil群)を用いた群との比較では、127例VAD群のみの結果について記載する。年齢中央値66(37-88)歳、男性67例、女性59例、治療に対する反応は完全寛解16例(12.6%), 部分寛解62例(48.8%), 反応なしが、49例(38.6%)であり、grade 2以上の好中球減少20%, grade 2以上の血小板減少10%, greade 2以上の吐き気、嘔吐4%, 脱毛55%, grade 2以上の粘膜障害7%, grade 2以上のerythrodysesthesia 2%, grade 2以上の神経障害13%であった。VAD doxil群でもほぼ同じであった。VADでのTTPは23.93ヶ月間であった。(95%CI16.92~30.94).
6. Gertz MAらはVADとVADにinterferon alfa2を併用した群との比較を報告した(Am J Clin Oncol. 18:475-480, 1995)。1990年から1992年までに47例の第1選択治療に不応であった骨髄腫患者、VAD単独群24例、interferon併用群23例の比較である。差は認められず、有害事象については24例のVAD単独」において、白血球減少11例、血小板減少4例、貧血9例、感染症6例、口腔粘膜障害1例、肺炎3例、低血圧1例、神経障害;運動性2例、浮腫1例、高血糖1例、その他3例であった。
7. Lokhorst HM らは、77例のVAD療法に続いて、末梢血幹細胞採取を行った。77例中62例にVAD療法で行っている。62例中72%(部分寛解70%, 完全寛解2%)であり、VAD療法中の有害事象として、grade2以上の感染5例、grade 3の感染症2例であった。治療中の死亡例はなかった。治療後はPDで1例死亡している。
8. Cesana Cらは、97例に対して、合計340コースのVAD療法について細菌感染症の危険因子について報告している。(Haematologica 88:1022-1028, 2003)1990年5月から2001年12月までの97例において、340コース中、敗血症3例(1.5%)、肺炎18例(9.7%)、CMV感染症2例、原因不明熱1例であった。その他に軽度の感染症として、尿路感染3例、急性気管支炎1例、皮膚蜂か織炎、である。帯状疱疹3例、口腔内カンジダ症4例、32例の患者に合計44回感染症のエピソードがあった。危険因子については単または多変量解析によって、診断後4ヶ月以後、好中球数最低値が1,000未満、血清クレアチニン値1.2mg/dLをこえている、抗生物質の予防投与の内場合、中心静脈留置、に感染症発症の危険率が高くなるとしている。治療前の危険因子としては男性、前治療歴を有する、持続点滴による投与、年齢56歳を越えた場合、骨髄腫のタイプとしては、病期にはよらず、尿中L鎖陽性者、PS, 非寛解例に高かった。
以上の8編の論文から好中球減少は約20%に認められ、感染症の合併には注意を要する。またこの疾患自体が免疫不全であり、高齢者に多い疾患であり、感染症、特に肺炎の合併、PSの不良例では注意する。

4.本療法の位置づけについて

他剤、他の組み合わせとの比較等について
VAD療法はMPまたはVMCPとの比較がされるが、奏功率では特に比較試験はない。すでに国際的にも国内でも標準的治療法のひとつであり、非常に高頻度に使用されている。すでに米国では次世代の薬剤の臨床試験でもこの治療法後が条件となっているものもある。VADとそれ以外ではVAD+interferonまたはVADのdoxil使用群との比較、VAD+Cyclosporin Aとの比較があるが、有意な差はなく、ほぼ同様の成績と有害事象であるので、上記に述べた。

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等
Suguro M, Kanda Y, Yamamoto R, Chizuka A, Hamaki T, Matsuyama T, Takezako N, Miwa A, Togawa A.
High serum lactate dehydrogenase level predicts short survival after vincristine-doxorubicin-dexamethasone (VAD) salvage for refractory multiple myeloma.
Am J Hematol. 2000 ;65(2):132-5.
日本での不応性骨髄腫36例に行われた1990年から1999年にかけてのretorospective studyであり、診断からVAD療法に入るまでの中央値は14ヶ月間(2〜76)、血清LDH値が高い群では予後不良であると報告している。
Fujii Y, Nisimura Y, Tanizawa Y, Azuno Y, Yaga K, Hirosige Y, Kaku K, Kaneko T, Matumoto N.
[VAD regimen for multiple myeloma--the effectiveness as first line therapy]
6例の未治療例および4例の既治療例に対して、VAD療法を行ったところ、それぞれ67%, 50%に有効性が認められ、奏功持続期間は4〜38ヶ月間であり、感染症は36.8%に認められたが、重篤なものは観察されなかった。有用であるとしている。
臨床血液 1991 Mar;32(3):280-2.
Amano M, Itoh K, Togawa A. [VAD chemotherapy of multiple myeloma]
臨床血液 1990 Jul;31(7):917-21.
12例の不応性または再発した骨髄腫に、行われ、7例に奏功し、部分寛解3,minor response4例である。63.7%に奏功したと考えられる。感染症、消化管出血、うっ血性心不全が有害事象として報告された。
 以上のように国内において症例報告等もあり、すでに繁用されており、使用経験は多い。

6.本剤の安全性に関する評価

 
VAD療法は公表時の主な毒性は骨髄抑制であり、現在ではG-CSFの使用により、骨髄抑制に伴う好中球減少による重症感染症は十分な対応が可能となっている。軽度の末梢神経障害が約20%に生じる。
Dimopoulos MA らはVADとliposomal doxorubicin(VAD doxil群)の比較試験を行っている(Ann Oncol 14:1039-44, 2003)。この報告がもっとも頻度の記載が詳細にされている。127例のVAD療法と、132例のliposomal doxorubicin(VAD doxil群)を用いた群との比較では、127例VAD群のみの結果について記載する。年齢中央値66(37-88)歳、男性67例、女性59例、治療に対する反応は完全寛解16例(12.6%), 部分寛解62例(48.8%), 反応なしが、49例(38.6%)であり、grade 2以上の好中球減少20%, grade 2以上の血小板減少10%,である。
doxorubicin, vincristine使用に習熟している医師のような化学療法に習熟している医師よる慎重な使用、又はそのような医師の指導の下で実施することが重要と判断する。
vincristineはこれまでに投与日数の誤りから、医療過誤のおこる場合があり、院内においてそのような医療過誤防止のために十分な対策が講じられていることが望ましい。

7.本剤の投与量の妥当性について

(doxorubicin, vincristine)持続点滴 4日間(総量)であり、既承認の癌腫での使用法と同様である。ただし持続点滴のために安全性が担保されるために中心静脈留置を要する。
国内外での使用実績があり、有効性、安全性の面からも十分妥当なものであると判断できる。感染症や好中球減少は頻度が高い有害事象または合併症であるので、注意が必要である。


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