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抗がん剤報告書:シスプラチン及びドキソルビシン(子宮体癌AP療法)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名  Cisplatin (シスプラチン:CDDP)、Doxorubicin (ドキソルビシン:ADM)併用療法
(AP療法)
未承認効能・効果を含む医薬品名 Cisplatin (シスプラチン)、Doxorubicin (ドキソルビシン)
未承認用法・用量を含む医薬品名 Cisplatin (シスプラチン)、Doxorubicin (ドキソルビシン)
予定効能・効果 子宮体癌(術後化学療法、転移・再発時化学療法)
予定用法・用量 (使用する薬剤をすべて記載。適応外効能・効果、用法・用量を含む医薬品に下線。適応外用法・用量に下線。)
薬剤名 用法・用量
シスプラチン(CDDP)   50 mg/m2(3週ごと、B法)
ドキソルビシン(ADM)   60 mg/m2(3週ごと)

2.公知の取扱いについて

(1) 無作為化比較試験等の公表論文
  1. Thigpen JT, Blessing JA, DiSaia PJ, et al, A randomized comparison of doxorubicin alone versus doxorubicin plus cyclophosphamide in the management of advanced or recurrent endometrial carcinoma: a Gynecologic Oncology Group study. J Clinical Oncol 12:1408-1414,1994
  2. Thigpen JT, Blessing JA, Homesley H, et al: Phase III study of doxorubicin with/without cisplatin in advanced or recurrent endometrial carcinoma: a Gynecologic Oncology Group (GOG) study. Proc Am Soc Clin Oncol:261, 1993 (GOG 107)
  3. Aapro MS, v.W.F., Bolis G , Vergote I, Vermorken JE et al. EORTC, Doxorubicin versus doxorubiin and cisplatin in endometrial carcinoma: definitive reults of a randomized study (55872) by the EORTC Gynaecological Cancer Group. Ann Oncol 14(3): 441-448, 2003 (EORTC 55872)
  4. Randoll ME, Brunetto G, Muss H, et al. Whole abdominal radiotherapy versus combination chemotherapy in advanced endometrial carcinoma:A randomized phase III trial of the Gynecologic Oncology Group. Proc Am Soc Clin Oncol 21:2 (# 3), 2003 (GOG 122)
(2) 教科書
  1. CLINICAL ONCOLOGY (Edited by Abeloff MD, Armitage JO, Lichter AS, Niederhuber JE),pp1585,1587-1588,1999. Churchill Livingstone (New York, Edinburgh, London, Melbourne, Tokyo)
  2. GYNECOLOGIC ONCOLOGY (Edited by HOSKINS WJ, PEREZ CA, YOUNG RC) Third Edition, pp939-940, LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS,2000
  3. CANCER Principles & Practice of Oncology 3rd Edition (Edited by DeVita VT Jr, Hellman S, Rosenberg SA) pp1143-1144,1989
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス
  1. Homesley HD. Management of endometrial cancer. Am J Obstet Gynecol 174:529-534,1996
  2. Bremond A, Bataillard A, Thomas L, et al. Cancer of the endometrium. British J Cancer 84:31-36,2001
(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン
  1. Society of Gynecologic Oncologists (SGO)のPractice Guidelines: Uterine Corpus-Endometrial Cancer (ONCOLOGY 12:122-126, 1998)
  2. National Comprehensive Cancer Network (NCCN): Uterine Cancers Version 1, 2003
 http://www.nccn.org/
  3. FIGO staging classifications and clinical practice guidelines in the management of gynaecologic cancers. Int J Gynecol Obstr 70: 209-262, 2000
  4. FNCLCC Guideline: Cancer of the endometrium. British J Cancer 84: 21-36,2001
  5. PDQ (The U.S. National Cancer Institute)
  http://www.ccijapan.com/index.html
(5) 総評
 子宮体癌に対する化学療法としてのAP療法について、今までに報告された試験結果を考察し、以下の理由より、用法・用量がADM 60 mg/m2(1日目投与)およびCDDP 50 mg/m2(1日目投与)、3週間隔投与のAP療法の有用性は認められると考えられる。
1) 進行・再発子宮体癌に対し、ドキソルビシン単剤(ADM 60 mg/m2)の第2相試験では43例中16例が奏効した(奏効率37%、CR率26%)(Cancer Treat Rep 63:21-27,1979)。また、first-lineとしてのシスプラチン (CDDP 50 mg/m2)は49例中20例(20%)の奏効が確認された(Gynecol Oncol 33:68-70,1989)。これらの2剤を併用したAP療法での進行・再発子宮体癌に対する有用性はADM:50 mg/m2CDDP: 50 mg/m2での奏効率は60%(12/20)(Am J Obstet Gynecol 149:379-381,1984)、ADM:60 mg/m2CDDP: 60 mg/m2での奏効率は82%(13/17)であり、過去に化学療法を受けていない症例では92%(11/12)であった(Cancer Treat Rep 69:539-542,1985)。進行・再発子宮体癌に対するADM単剤(ADM 60 mg/m2)とAP療法(ADM 60 mg/m2およびCDDP 50 mg/m2)との二つの第三相比較試験(Proc Am Soc Clin Oncol:261, 1993、Ann Oncol 14(3): 441-448, 2003)において、AP療法が奏効率において有意に上回り、生存期間に関しては、有意差は認められなかったものの、AP療法が良好な成績だったこと、毒性も許容できるものであったことから、AP療法(ADM 60 mg/m2およびCDDP 50 mg/m2)は進行・再発子宮体癌に対する有用な化学療法レジメンの一つであると考えられる。また、子宮体癌の術後補助療法として、全腹部放射線照射とAP療法(ADM 60 mg/m2およびCDDP 50 mg/m2)の第三相比較試験の結果(Proc Am Soc Clin Oncol 21:2, 2003)においても、AP療法が全腹部放射線照射よりも無再発生存期間、全生存期間において優っていたことより、子宮体癌の補助療法においてもAP療法の有用性が確立したと考えられる。
2) 用法・用量がADM 60 mg/m2およびCDDP 50 mg/m2であるAP療法(3週間隔)の主な毒性は、悪心・嘔吐、脱毛および白血球減少である。国内においてはCAP(CPA+ADM+CDDP)療法として既に十分な使用経験があり、CAP療法より毒性の少ないAP療法に対する使用においての安全性に関しては特に問題ないと考えられる。最近では、海外からの報告に基づいて、AP療法を行う施設も増えてきている。化学療法に熟知した医師が骨髄抑制、および悪心・嘔吐に十分な注意を払い、AP療法を行うのであれば、安全性は担保できると考えられる

3.裏付けとなるデータについて

薬理作用に関する資料
基礎的非臨床実験におけるCDDPの効果に関して、子宮内膜癌細胞株9種に対して96穴プレートを用いたクロノジェニックアッセイにて,細胞株により12倍〜25倍の効果相違を認めたと報告した(Rantanen V, Comparative evaluation of cisplatin and carboplatin sensitivity in endometrial adenocarcinoma cell lines. Br J Cancer. 69(3): 482-486, 1994)。一方,Doxorubicinに関しては、Yasuiらが、子宮内膜癌細胞株を用いたクロノジェニックアッセイ系で、ADMがもっとも抗腫瘍効果が強かったことを示した(Yasui Y. Efficacy of anticancer agents in vitro and in vivo using cultured human endometrial carcinoma cells-study of therapeutic index. 日産婦誌 39(2):303-306,1987)。
癌患者に ADM 50 mg/m2を静脈内に一括投与した時の未変化体(ADM)と代謝物ADM-OHの血中濃度推移を図に示す。ADMの血中濃度は最初は急峻に、終末期は緩やかに下降してくる。薬剤は急速に組織へ移行し長時間組織に留まり、徐々に遊離してくることを示唆している。ADM-OHの血中濃度はADMの40-60%であった。
図


図

臨床試験の試験成績に関する資料
1. Thigpen JT, Blessing JA, DiSaia PJ, et al. A randomized comparison of doxorubicin alone versus doxorubicin plus cyclophosphamide in the management of advanced or recurrent endometrial carcinoma:A Gynecologic Oncology Group Study. J Clin Oncol 12:1408-1414,1994
進行・再発子宮体癌356例を対象にドキソルビシン単剤(ADM:60 mg/m2)とADM:60 mg/m2+シクロフォスファミド(CPA:500mg/m2)のランダム化比較試験が行われた。3週ごとに投与が反復された。登録全356例中、測定可能病変を有さない症例が56例で測定可能病変を有する症例は300例であった。実際、300例中24例は評価不能であり、抗腫瘍効果は276例で判定された。ADM単剤投与の132例中、完全寛解 (CR)7例、部分寛解(PR) 22例で奏効率は22%であり、ADM+CPA投与の144例中、CR 18例、PR 25例で奏効率は30%であった。無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)はADM単剤とADM+CPAでそれぞれ、3.2ヶ月、6.7ヶ月と3.9ヶ月、7.3ヶ月であった。予後に関係するPS、組織学的分化度、肝転移や腹腔内病変に関して多変量解析すると奏効率は差がなかった(relative odds of response,1.58;p=0.06,one-tailed test)。生存期間はADM+CPAがやや長い傾向にあった(17% reduction in death rate; p=0.048)。毒性として白血球減少(284例で評価)はADM+CPAに高頻度、血小板減少(284例で評価)は同程度であった。消化器毒性は318例中151例に出現しADM+CPAに高頻度であったが、両群間で差はなかった。その他、貧血、悪心、心毒性、倦怠感、発熱も320例中10例未満であり両群間で差はなかった。この試験で7例が死亡したが、治療に関連する可能性がある死亡は2%であった。この試験の結論は、ADMに CPAを併用することでADM単剤に比べてわずかに有効性が高まるがより頻繁な、重度な骨髄抑制や消化器毒性が増加する。この時点でADMにCPAを併用することは標準的でないと考えられた。
2. Thigpen JT, Blessing JA, Homesley H, et al: Phase III study of doxorubicin with/without cisplatin in advanced or recurrent endometrial carcinoma: a Gynecologic Oncology Group (GOG) study. Proc Am Soc Clin Oncol:261, 1993 (GOG 107)
米国の臨床試験グループであるGOG (Gynecologic Oncology Group)により行われた第三相比較試験(GOG107)で、進行期III/IVまたは、再発子宮体癌、化学療法の前治療歴のない、測定可能病変を有する患者を対象にADM単独(60mg/m2 3週間隔)とAP療法(ADM 60mg/m2+ CDDP 50mg/m2 3週間隔)とにランダム化割り付けされた。本試験の主要評価項目は奏効率、無増悪生存期間、全生存期間であった。1988年12月1日から1992年12月1日までに281名の患者が登録され(ADM群150例、AP群131例)、そのうち、18例が不適格症例であった。患者背景について、それぞれ、年齢は、49歳以下4.7%、7.6%、50-59歳 22.0%、22.1%、60-69歳 38.7%、37.4%、70-79歳 32.0%、29.0%、80歳以上 2.7%、3.8%、PSはPS 0 35.3%、38.2%、PS 1 48.0%、39.7%、PS 2 16.7%、22.1%、前放射線治療歴有りは、29.3%、35.1%、組織型は、endometrioid 49.3%、47.3%、serous 15.3%、15.3%、adenosquamous 16.0%、13.0%、adenocarcinoma, unspecified 9.3%、13.0%、clear cell 6.0%、4.6%、mucinous 0%、0.8%、villoglandular 0.7%、1.5%、other 3.3%、4.6%であった。奏効率はADM群で25%(CR 8%、PR 17.4%)、AP群で42%(CR 19.1%、PR 22.9%)とAP療法が優れていた。無増悪生存期間の中央値はADM群で3.8ヶ月、AP群で5.7ヶ月とAP群が優れていた。全生存期間の中央値は、ADM群で9.2ヶ月、AP群で9.0ヶ月であり、有意差は認められなかった。毒性 (GOG criteria) については、ADM群、AP群それぞれ、白血球減少は、1,000〜1,999 /mm3 32.9%、および34.1%、1,000/mm3未満7.4%、および27.9%、血小板減少は、25,000〜49,999 /mm3 1.3%、および8.5%、25,000 /mm3未満0.7%、および5.4%、悪心・嘔吐は、悪心のみ、14.0%、および10.9%、24時間中1-5回の嘔吐13.4%、および27.1%、24時間中6回以上の嘔吐2.7%、および9.3%であった。(文中のデータはGOG statistical report 1998による)
3. Aapro MS, van Wijk FH, Bolis G, et al. Doxorubicin versus doxorubicin and cisplatin in endometrial carcinoma: definitive results of a randomized study (55872) by the EORTC Gynaecological Cancer Group. Ann Oncol 14:441-448,2003 (EORTC 55872)
ヨーロッパの多施設共同試験グループEORTCによって行われた第二/三相比較試験で、進行・再発子宮体癌にADM単剤(ADM:60 mg/m2)とAP療法(ADM 60 mg/m2+CDDP 50 mg/m2)とを比較した。本試験の主要評価項目は抗腫瘍効果(奏効率、生存期間)であり、副次的評価項目は毒性であった。患者の適格規準は、組織学的に証明された進行・再発子宮体癌、(1)評価可能病変を有する、(2)75歳以下、(3)生命予後3ヶ月以上が期待できる、(4)PS 2以下、(5)十分な臓器機能を有する、(6)説明と同意が得られる、であった。除外規準は、(1)前化学療法がある、(2)放射線治療やホルモン療法から4週間以上の間隔がある、(3)同時・異時重複癌を有する、(4)脳・髄膜・胸水・腹水を有する、(5)骨転移のみ、(6)活動性の感染症、心不全、コントロールされない高血圧などの疾患を有する、であった。治療方法はADM単剤(ADM:60 mg/m2)、AP療法(ADM 60 mg/m2+CDDP 50 mg/m2)それぞれ、4週間隔に投与が反復された。骨転移などに対する放射線照射の併用は許容された。次コースの開始基準は白血球数3,000/mm3、かつ血小板数50,000-99,000/mm3であり、次コース開始基準を満たさない場合は投与が延期された。投与延期後、白血球数2,000-2,900/mm3、または血小板数50,000-99,000/mm3となった場合は、ADMの投与量を次コースより50%減量した。投与を2週間延期しても、白血球数2,000/mm3未満、または血小板数50,000/mm3未満であった場合は、プロトコール中止とした。Day15の白血球数1,000-1,900/mm3または血小板数50,000-74,000/mm3、またはビリルビン値2.5-5.0mg/dlであった場合は、ADMを50%減量、Day15の白血球数1,000/mm3未満、または血小板数50,000/mm3未満、またはビリルビン値 > 5.0mg/dlであった場合はADMを25%に減量した。口内炎が起こった場合ADMを50%減量した。血清クレアチニン値が正常値の1.25倍以上となった場合、または、クレアチニンクリアランスが半分以下に減少した場合は、CDDPの投与量を50%減量した。中等度以上の知覚異常、または筋力低下、または、聴力障害が出現した場合はCDDPの投与を中止した。最低2コース投与するものとし、増悪が認められるまで投与を継続した。ADMの投与は7コースまで(計420mg/m2)とした。本試験のデザインはランダム化第二/三相試験であり、第二相試験の段階でそれぞれの群で20例の登録があった時点で、5例以上奏効率があることが確認された後、第三相試験に移行した。1988年9月から1994年6月まで177名ADM群87例、AP群90例の患者が登録された。登録症例のうち、12例が不適格症例であった。うちわけは、ステージの違い(ADM群2例、AP群2例)、測定可能病変の欠如(ADM群3例、AP群1例)、評価病変に放射線治療歴あり(ADM群1例、AP群1例)、全身状態不良(AP群1例)、前治療あり(ADM群1例)であった。患者背景について、ADM群、AP群それぞれ、年齢の中央値は、63歳(41-76歳)、63歳(40-76歳)、PSはPS 0 39例、29例、PS 1 29例、42例、PS 2 17例、15例、不明2例、4例、進行例は、36例、36例、再発例は、51例、54例、腫瘍の分化度は、Well 16例、18例、Moderate/Poorly 71例、72例、前手術歴有りは、73例、79例、前放射線治療歴有りは、48例、40例、前化学療法歴有りは、1例、0例、前ホルモン療法歴有りは、15例、25例であった。
 奏効率はADM群で17.2%(CR 9.2%、PR 8.0%)、AP群で43.3%(CR 14.4%、PR 28.9%)とAP療法が優れていた(p<0.001)。無増悪生存期間の中央値はADM群で7ヶ月(95%信頼区間6-10)、AP群で8ヶ月(95%信頼区間7-11)とAP群がやや優れていた。全生存期間の中央値は、ADM群で7ヶ月(95%信頼区間4-9)、AP群で9ヶ月(95%信頼区間7-14)であり、AP群がやや良好であった(long-rank p=0.107, Wilcoxon p=0.064)。
 毒性(WHO grading)は、165例(ADM 82例、AP 83例)で評価され、ADM群、AP群それぞれ、白血球減少は、1,000〜1,999 /mm3 17.1%、および44.6%、1,000/mm3未満13.4%、および10.8%、血小板減少は、25,000〜49,999 /mm3 4.9%、および10.8%、25,000 /mm3未満0.0%、および2.4%であった。悪心・嘔吐は、Grade3が10例、29例、Grade4が0例、1例、感染は、Grade3が1例、0例、Grade4が0例、2例、心毒性は、Grade3が1例、1例、Grade4はなし、口内炎は、Grade3が0例、5例、Grade4は認められなかった。他に重篤な有害事象は認められなかった。AP群の90例中1例(1%)が1コース目開始2週後に治療と関連が否定できない死亡が観察された。
4. Randoll ME, Brunetto G, Muss H, et al. Whole abdominal radiotherapy versus combination chemotherapy in advanced endometrial carcinoma: A randomized phase III trial of the Gynecologic Oncology Group. Proc Am Soc Clin Oncol 21:2 (#3),2003 (GOG 122)
米国GOGでは子宮体癌III/IV期の術後治療として、米国でそれまでの標準的治療であった全腹部照射 (WAI)とAP療法 (ADM60 mg/m2 + CDDP50 mg/m2、3週ごと、8コース、ADMの最大投与量は420mg/m2)とを比較するランダム化第三相試験を行った(GOG 122)。適格基準は、(1)子宮全摘術+両側付属器摘出術+骨盤及び傍大動脈リンパ節サンプリングによるステージングが行われ、III/IV期の症例、(2)術後残存腫瘍が2cm以下になった症例、(3)骨髄・腎・肝機能が保たれている症例、(4)傍大動脈リンパ節転移例では鎖骨上リンパ節生検が陰性・胸部CT陰性であること、であった。主要評価項目は無再発生存期間で副次評価項目は生存期間、毒性、QOLであった。不適格症例は26例(WAI群11例、AP群15例)であった。CDDPの減量は行わず、ADMの最大投与量は420mg/m2、血液毒性、消化器毒性、心毒性によりADMは15 mg/m2減量された。WAI群は治療完遂例84%、副作用で中止例3%、治療期間の中央値は 1.3ヶ月であり、AP群ではそれぞれ 63%、17%、5.1ヶ月であった。患者背景について、WAI群、AP群それぞれ、年齢の中央値は、63歳(26-84歳)、63歳(27-85歳)、PSはPS 0 51%、52%、PS 1 43%、43%、進行期III期は、75%、72%、進行期IV期は、25%、28%、腫瘍のGradeは、Grade115%、13%、Grade2 29%、30%、Grade3 52%、53%、組織型は、endometrioid 52.5%、47.4%、serous 21.3%、20.6%、mixed 9.4%、16.0%、adenosquamous  5.9%、6.2%、clear cell 3.5%、5.2%、であった。Grade 3-4の毒性としてWAIでは白血球数 4%、消化器症状 13%、治療死 4例であり、AP療法ではそれぞれ62%、20%、8例であった。無再発生存としてはWAI群202例中126例が再発し、AP群194例中111例が再発しており、両群間のHR 0.81 (95%CI 0.63-1.05)とAPが良好であった。生存としてはWAI群202例中120例が死亡、AP群194例中90例が死亡しており、両群間のHR 0.71 (95%CI 0.54-0.94)でAPが良好であった。

4.本療法の位置づけについて

他剤、他の組み合わせとの比較等について
 子宮体癌治療の主役は手術療法であり、進行期I-II期の子宮体癌の5年生存率は手術のみでも85%以上が得られる(1979〜1996年 国立がんセンター中央病院http://www.ncc.go.jp/jp/index.html)。化学療法の対象となるのは、進行・再発症例(手術不能なIII期以上の進行癌や再発期の癌)であるが、再発例がかなり少ないため、大規模な臨床試験のデータは、国内ではもとより、海外でもそれほど多くはない。子宮体がんに対する単剤での化学療法の奏効率で20%を越えているのは、Cisplatin(CDDP), Carboplatin(CBDCA), Doxorubicin(ADM), Epirubicin(EPI), Fluorouracil(5-FU), Paclitaxel(TXL)の6剤のみである。1979年に発表された進行・再発子宮体癌に対するADM単剤の第二相試験では、43例中16例が奏効し(奏効率 37%)、うち11例が完全寛解(CR)であった(Cancer Treat Rep 63:21-27,1979)。併用化学療法は、単剤に比較して良好な成績が得られている。CAP療法(CPA+ADM+CDDP)で31-56%、AP療法(ADM+CDDP)で33-81%、CA療法(CPA+ADM)で31-46%の奏効率が認められている。
 ランダム化比較試験の結果としては、米国のGOG(Gynecologic Oncology Group)が行ったADM単剤(60mg/m2)とCA療法(ADM 60mg/m2+ Cyclophosphamide; CPA 500mg/m2)の試験(J Clin Oncol 12:1408-1414,1994)では、ADM単剤、CA療法でそれぞれ、奏効率で22%、30%、無増悪期間の中央値で3.2ヶ月、3.9ヶ月、生存期間の中央値でそれぞれ6.7ヶ月、7.3ヶ月であり、奏効率では有意差は認められず、生存期間でわずかにCA群が優れていたが、CA療法の方が毒性が強く、CA療法は標準的治療とはなり得ないと判断された。次に、GOGはCDDP 50mg/m2 + ADM 60mg/m2(AP療法)vs ADM 60mg/m2単独の比較試験(Proc Am Soc Clin Oncol 12:261 (#830),1993)を行ったところ、奏効率はAP療法が45%、ADM単剤27%より、有意に優っていた (GOG 107)。無増悪生存期間の中央値はADM群で3.8ヶ月、AP群で5.7ヶ月とAP群が優れており、全生存期間の中央値は、ADM群で9.2ヶ月、AP群で9.0ヶ月であり、有意差は認められなかったものの、毒性はややAP療法に強い傾向にあったが許容できる範囲と判断され、これらの結果を受けてGOGはAP療法を再発・進行体癌の標準的治療とするに至った。さらにEORTC(European Organization for Research and Treatment of Cancer )でも化学療法の既往がない177例の進行・再発子宮体癌にドキソルビシン単剤87例(ADM:60 mg/m2)とADM:60 mg/m2+ CDDP: 50 mg/m2 90例のランダム化比較試験を行った(Ann Oncol 14:441-448,2003)。ADM+CDDP では43%が奏効し、ADM単剤 (17%)に比べ有意に良好であった。生存期間中央値はADM+CDDP が9ヶ月でADM単剤の7ヶ月に比して有意差には至らなかったものの良好であり(Wilcoxon p=0.0654)、GOG107と同様な結果が示された。以上の結果より、欧米では、AP療法は進行・再発子宮体癌の標準的化学療法と考えられるようになった。
 術後補助療法としての化学療法は再発のハイリスク例(骨盤、または傍大動脈リンパ節転移のある症例や、筋層浸潤が深い症例など)が対象となると考えられるが、これまで術後化学療法の有用性は確認されなかった。GOGは、術後リンパ節転移が陽性または、50%以上の筋層浸潤、頚部・附属器浸潤のあった症例を対象として、放射線治療後にADM 60mg/m2を3週間毎に総投与量500mg/m2まで投与する群(92名)と、無治療で経過観察する群(89名)とのランダム化比較試験を行った(GOG34)。しかし、この試験は症例登録率が極めて悪く、9年間で181例しか登録されず、不適格症例も43例と多く、ADM群に割り付けられた患者のうち25名は実際にADMの投与がなされなかった。結果として、再発率、生存率ともは両群で差は認められなかったが、検出力が低いため、この試験だけでは化学療法が本当に無効なのかどうかは証明することはできないと考えられていた。その後、GOGは、III/IV期症例で術後2cm以上の残存腫瘍を有さない症例を対象に全腹部照射をコントロールアームとしてAP療法、3週ごと8コース(CDDP 50mg/m2 + ADM60mg/m2)とのランダム化比較試験を行った(GOG122)(Proc Am Soc Clin Oncol 21:2(#3),2003)。この結果、主評価項目の無増悪生存期間(PFS)はAP療法が良好(HR 0.81)であった。また、副評価項目の全生存期間(OSもAP療法が勝っていた(HR 0.71)。毒性では骨髄抑制がAP療法で強かったが許容できる範囲であった。この結果、子宮体癌において、初めて術後補助療法としての化学療法の有用性が示され、標準的治療として推奨されるに至ったと考えられる。
 その他の薬剤との併用では、Paclitaxelが単剤でかなり良好な奏効率(36%)が認められたため、併用療法での期待がされている。2002年にAP療法(ADM 60mg/m2, CDDP 50mg/m2)とTAP (Paclitaxel 160mg/m2, day2, ADM 45mg/m2, day1, CDDP 50mg/m2 day1)の比較試験の結果が報告された(GOG177)。266名が登録され、奏効率AP群 33%、TAP群 57%とTAPが優り、1年生存率でもAP群50%、TAP群59%とTAP療法がAP療法より有意(P=0.024)に優っていたが、TAPの毒性がAP療法よりも強かったため、TAP療法が標準治療と結論されるには至らなかった(Proc Am Soc Clin Oncol:807, 2002)。
 以上の結果から、現時点での子宮体癌に対する標準的化学療法はAP療法であると考えられる。

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等
 1988年FIGOでは子宮体癌は手術進行期分類に変更され、日本産科婦人科学会でも1996年「子宮体癌取扱い規約」の改定第2版が刊行され、新FIGO分類を導入した(日本産科婦人科学会、日本病理学会、日本医学放射線学会 編:子宮体癌取扱い規約 改定第2版、金原出版、東京、1996)。このように子宮体癌の初回治療は手術療法が基本で、本邦では94.6%に手術が行われている(日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会第37回治療年報、日産婦誌 55:765-769, 2003)。術後の病理学的な予後因子を有する症例には術後(補助)療法が行われるが、本邦では多くの施設で化学療法が行われている。この大きな理由として子宮体癌は子宮頸癌と異なり、卵巣癌に類似して広汎に腹腔内に進展することより、放射線を照射する場合全腹部照射が必要になり、日本人では欧米人より高頻度に腸管への晩期毒性(腸閉塞)が起こり、治癒の有無にかかわらず患者のQOLを一生に渡り障害すること、また、体癌のほとんどが腺癌であり、扁平上皮癌のように放射線感受性が高くないと考えられているからである。実際、上記の第37回治療年報(130機関、1,393例)によると術後治療は手術症例の13.6%に放射線療法が行われ、31.4%にCAP療法を主とした化学療法が行われている。大半を占める組織型である類内膜腺癌での5年生存率は放射線療法が63.3%に対し、化学療法は75.4%である。その前の第35回治療年報(128機関、1,307例)でも、放射線療法が10.3%、化学療法が 33.2%に施行され、5年生存率はそれぞれ67.6%、74.8%と化学療法の方が高い傾向が示されている(日産婦誌 50:278-308, 1998)。本邦での前方視的な臨床試験はないが、多くの施設でhistorical controlとの比較が行われ、化学療法は放射線療法と同等以上の効果が期待できると考えられている(第38回子宮癌研究会:産科と婦人科 66:1173-1200,1999)。一方、以上のような本邦での治療スタンスを背景に、婦人科悪性腫瘍共同研究機構(JGOG)では体癌第4次研究(JGOG 2033)では、筋層浸潤1/2以上の完全手術例を対象とした術後放射線療法と術後化学療法(CAP:CDDP 50-60mg/m2、CPA 500mg/m2, ADM 30-40mg/m2)のランダム化試験、ならびに筋層浸潤1/2以下の完全手術例で再発の危険因子を有する症例を対象にした手術単独、術後放射線療法、術後化学療法を自由に選択できるオープントライアル(JGOG2034)を実施している。これらの今までの中間解析結果や卵巣癌でのJGOGのCAP療法での結果では毒性は十分に管理できるものであった。
 子宮体癌に対する化学療法として、本邦では、欧米で有効な薬剤として用いられている薬剤の中ではシクロフォスファミド(CPA)に唯一保険適応があることより、CPA併用療法として卵巣癌に準じたCAP療法が広く行われてきたため、CAP療法の使用経験は十分にある。CAP療法のCPAを省いた治療としてAP療法を施行することは困難ではないと思われる。

6.本剤の安全性に関する評価

 AP療法が子宮体癌に対する標準的な併用療法であるが、本邦ではCAP療法が広く行われている。この理由は、卵巣癌に準じた併用療法であることに加え、体癌に対して薬事上承認されているCPAを併用することで保険査定されないという弊害も作用している。しかし、有効性が劣るCPAを漫然と併用することなく、エビデンスに基づきCDDPとADMを併用したAP療法に変更すべきである。現時点で本邦ではCAP療法が主体であるので、AP療法の安全性を考える観点より、まず、この実地臨床で行なわれているCAPでの投与量での安全性に関して検証してみる必要がある。婦人科悪性腫瘍化学療法共同研究機構(JGOG)で臨床試験を行っている投与量が本邦で標準的なCAP療法の投与量と考えられる。すなわち、シスプラチン(CDDP)50-60mg/m2、シクロフォスファミド(CPA)500mg/m2でドキソルビシン(ADM)は30-40mg/m2である。欧米でのCAP療法との違いはADM投与量が少ないことであり、欧米ではADMは50-60mg/m2が標準的に行われている。卵巣癌に対する大規模な試験である欧州のICON 2やICON 3でのCAP療法ではCDDP50mg/m2、CPA 500mg/m2ADM 50mg/m2で行われている。ICON 2では、CAP療法はコントロールのカルボプラチン(CBDCA) AUC5より好中球減少は高頻度であるが血小板減少は低頻度であり、ともに管理可能な毒性であった(Lancet 352:1571-1576,1998)。またICON3では、CAP療法は実験アームであるパクリタキセル175mg/m2、3時間投与+CBDCA AUC5-6 (TJ療法)と比べても有意な血液毒性の差は認められていない(Lancet 360:505-515,1998)。これらCBDCA AUC 5あるいはTJ療法の投与量は本邦でも標準的に用いられている投与量と同じであることを考えると、CAP療法でのADMは50-60mg/m2は十分に毒性に耐えうる投与量であると考えることができる。一方、欧米での子宮体癌での臨床試験ではkey drugであるCDDPとADMの単剤としての投与量はそれぞれ、50mg/m260mg/m2で、併用療法にても有効性を確立する観点から両剤の併用であるAP療法での両剤の投与量も単剤と同様で50mg/m260mg/m2である。Gynecologic Oncology Group (GOG)でのAP療法もCDDP 50mg/m2 +ADM60mg/m2が標準的である。EORTCでのランダム化試験ではAP療法90例(ADM:60 mg/m2+CDDP CDDP: 50 mg/m2)の毒性としてGrade3以上の白血球減少はADM+CDDP55%、血小板減少症は13%、脱毛72%、悪心/嘔吐は36%であった。血液毒性は過去に放射線療法を受けた症例に主に出現した。抗生剤がADM+CDDPで5例(5%)、輸血は5例(5%)に必要であった。90例中1例(1%)が1コース目開始2週後に治療と関連が否定できない死亡が観察された(Ann Oncol 14:441-448,2003)。Gynecologic Oncology Group (GOG)で行なわれた、子宮体癌III/IV期の補助療法の比較試験(GOG 122)では、AP 療法194例(ADM60 mg/m2 + CDDP50 mg/m2)では 毒性のため治療継続できなかった症例が17%、Grade 3-4の毒性として骨髄抑制 62%、消化器症状 20%に出現した。治療関連死が対照群の全腹部照射202例中4例(1.9%)に比べ、AP療法では4.1%に認められており骨髄毒性には注意が求められる(Proc Am Soc Clin Oncol 21:2 (#3),2003)。化学療法に熟知した医師が、主な毒性である骨髄抑制、および悪心・嘔吐に十分に注意して治療を行えば、AP療法(ADM 60 mg/m2およびCDDP 50 mg/m2)の安全性は担保できると考えられる。

7.本剤の投与量の妥当性について

 子宮体癌において、AP療法(ADM 60 mg/m2およびCDDP 50 mg/m2)のADM、CDDPの投与量は、臨床第二相試験の結果をもとに、臨床第三相試験でも同様の投与量が用いられてきた。ADM、CDDPの投与量を比較したランダム化比較試験は行われていないため、投与量を増量あるいは、減量した投与量の妥当性は示されない。従って、これまで報告されてきたAP療法の投与量ADM 60 mg/m2およびCDDP 50 mg/m2が標準的投与量として妥当であると考えられる。
 ADMの投与量に比べて、CDDPの投与量がやや低いと考えられるのは、子宮体癌では、ADMの方をKey Drugと考えてきたため、ADMの投与量を単剤の推奨容量を用い、CDDPを加える形で併用されているためである。
 ADMの投与量60 mg/m2は、現行の承認用法・用量をはずれるものであるが、子宮体癌のこれまで報告された臨床試験の結果から、また、他の固形癌の乳癌の投与量で60mg/m2が標準投与量(J Clin Oncol 21:976 ,2003)であることからも60mg/m2が至適投与量として妥当であると考えられる。
 以上、CDDP投与量は50mg/m2と固定して、ADM投与量を60mg/m2に増量するCPAを除いたAP療法の投与量は妥当性を有すると考えられる。ただし、現在のADMの用法・用量に示してあるように心毒性回避の観点から総投与量を500mg/m2以下とすることで安全性は現在と同様に保たれると考えられる。


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