戻る

抗がん剤報告書:エトポシド(小児)


1.報告書の対象となる療法等について

療法名 小児がんに対するエトポシドを含む多剤併用療法
未承認効能・
効果を含む医薬品名
エトポシド
未承認用法・
用量を含む医薬品名
 
予定効能・効果 小児悪性固形腫瘍(ユーイング肉腫ファミリー腫瘍,横紋筋肉腫,神経芽腫,網膜芽腫,肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍など)
予定用法・用量  エトポシドとして,1日量100から150 mg/m2(3歳以下では5 mg/kg,体重10 kg未満では3.3 mg/kg)を3ないし5日間点滴静注し3週間休薬する.なお,投与量および投与日数は,疾患や症状および併用する抗悪性腫瘍剤の投与量などに応じて適宜増減する.
用法・用量等に関する参考情報
(未承認薬剤については、ドキソルビシン、エトポシド、イホスファミドについては、今回の報告書で対応)
 本剤を含む併用療法のうち,エビデンスレベルが高く、標準的治療と見なしうるものを以下に記す.

ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
エトポシド 100 mg/m2点滴静注,5日間
イホスファミド 1.8 g/m2点滴静注,5日間
横紋筋肉腫
ビンクリスチン 1.5 mg/m2静注,1日
イホスファミド 1.8 g/m2点滴静注,5日間
エトポシド 100 mg/m2点滴静注,5日間
神経芽腫
エトポシド 100 mg/m2点滴静注,2日間
塩酸ドキソルビシン 30 mg/m2静注または点滴静注,1日
シスプラチン 60 mg/m2点滴静注,1日
シクロホスファミド 1,000 mg/m2点滴静注,2日間
または,
エトポシド 125 mg/m2持続点滴静注,4日間
シスプラチン 40 mg/m2持続点滴静注,4日間
塩酸ドキソルビシン 10 mg/m2持続点滴静注,4日間
イホスファミド 2.5 g/m2静注,4日間
または
エトポシド 125 mg/m2,4日間
イホスファミド 2.5 g/m2,4日間
塩酸ドキソルビシン 10 mg/m2,3日間
シスプラチン 40 mg/m2,3日間
または,
エトポシド 100 mg/m2,5日間
ピラルビシン 40 mg/m2,1日
シスプラチン 25 mg/m2,5日間
シクロホスファミド 1,200 mg/m2,2日間
網膜芽腫
エトポシド 150 mg/m2(3歳以下では5 mg/kg),5日間
カルボプラチン 560 mg/m2(3歳以下では18.6 mg/kg),1日
ビンクリスチン 1.5 mg/m2(3歳以下では0.05 mg/kg),1日
肝芽腫
エトポシド 100 mg/m2(体重10kg未満では3.3 mg/kg),3日間
シスプラチン 40 mg/m2(体重10kg未満では1.3 mg/kg),5日間
または,
エトポシド 100 mg/m2(体重10kg未満では3.3 mg/kg),4日間
カルボプラチン 200 mg/m2(体重10kg未満では6.7 mg/kg),4日間
腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍
エトポシド 100 mg/m2,5日間
カルボプラチン 160 mg/m2,5日間

2.公知の取扱いについて

(1)無作為化比較試験等の公表論文
 本報告書に記載した論文は,米国National Institute of Healthの機関であるNational Center for Biotechnology Information内にある文献データベースNational Library of MedicineのPubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)にアクセスし,Review,Randomized Controlled Trial,Practice Guideline,Meta-analysis,Editorial,Clinical Trial別に,各疾患名をキーワードとしてchemotherapyと掛け合わせ検索した.その中で,本報告書の趣旨に関係が無いもしくは関連が薄い論文は選択せず,症例数が多い論文や各疾患に対する治療法開発の歴史から考えて特に重要と思われる論文を重点的に抽出した.

A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
1.Grier H.E, Krailo M.D, Tarbell N.J, et al. NEJM 348: 694-701, 2003.
2.Bacci G, Ferrari S, Bertori F, et al. J Clin Oncol 18:4-11, 2000.
3.Marina NM, Pappo AS, Parham DM, et al. J Clin Oncol 17:180-190, 1999.
4.Wexler K, Delancy TF, Tsokos M, et al. Cancer 78: 201-911, 1996.
5.Picci P, Bohling T, Bacci G, et al. J Clin Oncol 15: 1553-1559, 1997.
6.Hoffmann C, Ahrens S, Dunst J, et al. Cancer 85: 869-877, 1999.
7.Bacci G, Ferari S, Mercuri M, et al. J Pediatr Hematol Oncol 25: 118-124, 2003.
8.Paulussen M, Aherens S, Burdach S, et al. Ann Oncol 9: 275-281, 1998.
9.Burdach S, van Kaick B, Laes HJ, et al. Ann Oncol 11: 1451-1462, 2000.
10.Bisogno G, Carli M, Stevens M, et al. Bone Marrow Transplant 30: 297-302, 2002.
11.Burdach S, Meyer-Bahlburg A, Laws HJ, et al. J Clin Oncol 21: 3072-3078, 2003.
B.横紋筋肉腫
12.Crist WM, Anderson JR, Meza JL, et al. J Clin Oncol 19: 3091-3102, 2001.
13.Miser JS, Kinsella TJ, Triche TJ, et al. J Clin Oncol 5: 1191-1198, 1987.
14.Baker KS, Anderson JR, Link MP, et al. J Clin Oncol 18: 2427-2434, 2000.
15.Breitfeld PP, Lyden E, Beverly RR, et al. J Pediatr Hematol Oncol 23: 225-233, 2001.
C.神経芽腫
16.Matthay KK, Villablanka JG, Seeger RC, et al. N Engl J Med 341: 1165-1173, 1999.
17.Matthay KK, Peres C, Seeger RC, et al. J Clin Oncol 16: 1256-1264, 1998.
18.Katzenstein HM, Bowman LC, Broduer GM, et al. J Clin Oncol.16: 2007-2017, 1998.
19.Kletzel M, Katzenstein M, haut PR, et al. J Clin Oncol 20: 2284-2292, 2002.
20.Cohn SL, Moss TJ, Hoover M, et al. Bone marrow Transplant 20: 541-551, 1997.
21.Frappaz D, Michon J, Coze C, et al. J Clin Oncol 18: 468-476, 2000.
22.Frappaz D, Perol D, Michon J, et al. Br J Cancer 87: 1197-1203, 2002.
23.Rubie HR, Hartmann O, Michon J, et al. J Clin Oncol 15: 1171-1182, 1997.
24.Stram DO, Matthay KK, O’leary M, et al. J Clin Oncol 14: 2417-2426, 1996.
25.Kaneko M, Tsuchida Y, Uchino J, et al. J Pediatr Hematol Oncol 21: 190-197, 1999.
26.Kaneko M, Tsuchida Y, Mugishima H, et al. J Pediatr Hematol Oncol 24: 613-621, 2002.
D.網膜芽腫
27.Friedman DL, Himelstein B, Shields CL, et al. J Clin Oncol 18:12-17, 2000.
28.Shields CL, Hanavar SG, Meadows AT, et al. Am J Ophthalmol 133: 657-664, 2002.
29.Shields CL, de Potter P, Himelstein BP, et al. Arch Ophthalmol 114: 1330-1338, 1996.
30.Shields CL, Shelil A, Cater J, et al. Arch Ophthalmol 121: 1571-1576, 2003.
31.Advani SH, Rao SR, Iyer RS, et al. Med Pediatr Oncol 22: 125-128, 1994.
32.Doz F, Neuenschwander S, Plantaz D, et al. J Clin Oncol 13: 902-909, 1995.
33.Doz F, Khelfaoui F, Mosseri V, et al. Cancer 74: 722-732, 1994.
34.Beck NM, Balmer A, Dessing C, et al. J Clin Oncol 18: 2881-2887, 2000.
35.Brichard B, De Bruydker JJ, De Potter P, et al. Med Pediatr Oncol 38: 411-415, 2002.
36.Chantada G, Fandino A, Casak S, et al. Med Pediatr Oncol 40: 158-161, 2003.
37.Antoneli CBG, Steinhorst F, Ribeiro KCB, et al. Cancer 98: 1292-1298, 2003.
E.肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍
38.Katzenstein HM, London WB, Douglass EC, et al. J Clin Oncol 20: 3438-3444, 2002.
39.Fuchs J, Rydzynski J, von Schweinitz, D, et al. Cancer 95: 172-182, 2002.
F.腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍
40.Pein F, Pinckerton R, Tournade MF, et al. J Clin Oncol 11: 1478-1481, 1993.
41.Pein F, Tournade M-F, Zucker J-M, et al. J Clin Oncol 12: 931-936, 1994.
42.Pein F, Michon J, Balteau-Couanet D, et al. J Clin Oncol 16: 3295-3301, 1998.
(2)教科書
A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
1.Ginsberg JP, Woo SY, Johnson ME, Hicks MJ, Horowitz ME. Chemotherapy. Treatment. Ewing’s sarcoma family of tumors: Ewing’s sarcoma of bone and soft tissue and the peripheral primitive neuroectodermal tumors. In: Philip A. Pizzo/David G. Polack (eds). Principles and Practice of Pediatric oncology, 4th eds. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia, 2002, p999-1005.
 本剤とイホスファミドの併用療法は再発ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)に対して高い抗腫瘍活性を示すし,新規診断症例に対しても同様である旨,記載がある.また,「Combination chemotherapy studies」の中で,論文1を引用するとともに,その成績を転記し,本剤とイホスファミドの併用療法(IE療法)を加えた方が成績が良好であったことを示している.一方,IE療法を加えても成績は変わらなかったとする別の報告(Caner 82; 1174-1183, 1998.)があるものの,IE療法の施行回数が少なかったことをはじめとして,幾つかの問題点があることを指摘し,限局したESFTに対してはIE療法を加えることは今や標準的であると述べられている.
 一方,晩期に認められる合併症として二次がんについての記載がある.化学療法剤に起因すると思われるものとして急性白血病が代表であり,266例の本疾患生存者を観察したところ,20年後に二次がんを発症する割合が9.2±2.7%であった.二次がんを発症した16例のうち10例は肉腫であり,発生部位は過去の照射野内かその近傍であり,照射量依存性であった.一方,肉腫以外の二次がんとしては急性骨髄性白血病,急性リンパ性白血病,髄膜腫,気管支肺癌,基底細胞癌,子宮頸部癌が各一例であった.これらのうち急性白血病は骨髄異形成症候群と並んで,本剤ないし本剤を含む併用化学療法に起因する二次がんと考えられている(Pui CH, et al. N Eng J Med 325: 1682-1687, 1991)ものである.その他,髄膜腫,気管支肺癌,基底細胞癌,子宮頸部癌は治療関連二次がんであるか否かは不明である.
B.横紋筋肉腫
2.Wexler LH, Crist WM, Helman LJ. Principles of Chemotherapy, Combined-Modality Therapy, TREATMENT, Rhabdomyosarcoma and the undifferentiated sarcomas. In: Pizzo PA, Poplack DG (eds). Principles and practice of pediatric oncology. Philadelphia; LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia, 2002, p953-956.
 シスプラチン,本剤ならびにダカルバジンが単剤もしくは様々な併用療法で,本疾患に対し抗腫瘍活性を持つことが最近の20年間で示されてきたことや,イホスファミドが本剤ないしドキソルビシンと併用で新規症例および再発症例に対して高い抗腫瘍活性を示すこと,さらに,これらの事実からビンクリスチンとイホスファミドならびに本剤からなるVIE療法が,Intergroup Rhabdomyosarcoma Study(IRS)-IVで評価されるに至った,との記載がある.さらに小児横紋筋肉腫ならびに分類不能肉腫に対するIRS-IVで推奨する化学療法としてVIE療法が挙げられている.
C.神経芽腫
3.Brodeur GM, Maris JM. PRINCIPLES OF INITIAL THERAPY, NEUROBLASTOMA. In: Pizzo PA, Poplack DG: Principles and practice of pediatric oncology, 4th eds. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia, 2002, p913-922.
 本教科書では特定の薬剤を取り上げて述べることは避けられているが,米国の大規模治療研究グループであるChildren’s Cancer Group(CCG)とPediatric Oncology Group(POG)の治療研究で使用されたレジメンとその奏効率が表に纏められており,良好な成績が示されている.すなわち,1985年から1989年にかけて行われたCCG-321P2研究では207例を対象として,シスプラチン 60 mg/m21日,ドキソルビシン 30 mg/m2 1日,本剤 100 mg/m2 4日,シクロホスファミド 900 mg/m2 2日を28日周期で5ないし7コース施行し,完全寛解と部分寛解を合わせて76%,1987年から1991年にかけて行われたPOG-8742研究(regimen 1)では,111例を対象とし,シスプラチン 40 mg/m2 5日,本剤 100 mg/m2 4日,ドキソルビシン 35 mg/m2 1日ないしシクロホスファミド 150 mg/m2 7日を5コース施行し,寛解率77%,POG-8742研究(regimen 2)では,115例を対象とし,シスプラチン 90 mg/m2 5日,本剤 100 mg/m2 1日,ドキソルビシン 35 mg/m2 1日,シクロホスファミド 150 mg/m2 8日を21日周期で5コース施行し寛解率68%である.
D.網膜芽腫
4.Hurwitz RL, Shields CL, Shields JA, Chevez-Barrios P, Hurwitz MY, Chintagumpla MM. THERAPEUTIC OPTIONS, RETINOBLASTOMA. In: Pizzo PA and Poplack DG (eds). Principle and Practice of Pediatric Oncology, 4th eds. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia, 2002, p825-846.
 網膜芽腫に対する治療法としては,眼科的局所療法と放射線療法,ならびに抗がん剤による化学療法単独ないし組み合わせを,疾患の進展状況に応じて使い分けることとなるが,何れにせよ,化学療法を考慮する状況においては,ビンクリスチン,カルボプラチンならびに本剤の併用療法が推奨されている.
E.肝芽腫
5.Tomlinson GE and Finegold MJ. Chemotherapy, TREATMENT, TUMORS OF THE LIVER, In: Pizzo PA and Poplack DG (eds). Principle and Practice of Pediatric Oncology, 4th eds. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia, 2002, p857-858.
 肝原発腫瘍の中でより稀な組織型を示すものの場合には,推奨化学療法を規定することは困難であるものの,イホスファミドとカルボプラチンならびに本剤の併用が分類不能肉腫に対して反応を示す場合があることが記載されている.
F.腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍
6.Grundy PE, Green DM, Coppes MJ, Breslow NE, Richey ML, Perlman EJ, Macklis RM. GENERAL CHEMOTHERAPY PRINCIPLES, RENAL TUMORS. In: Pizzo PA and Poplack DG (eds). Principle and Practice of Pediatric Oncology, 4th eds. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS: Philadelphia, 2002, P879-884.
 1969年から開始され米国のNational Wilms’ Tumor Studyシリーズに基づいた記載が為されている.本剤を含んだ併用療法を施行するべき患者としては,腫瘍のstageと組織型によって決められている.すなわち,stage II以上のanaplastic histologyと全てのstageの明細胞肉腫およびRhabdoid腫瘍においては,本剤を含んだ治療スケジュールを施行するものと記載されている.さらに,再発症例においては,最適の化学療法は定まっていないものの,カルボプラチンと本剤の併用療法は有効であること,本剤とイホスファミドの併用療法は極めて有効であることが記載されている.
(3) peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシス
A.ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
1.Rodrigez-Galindo C, et al. Med Pediatr Oncol 2003; 40: 276-287.
 論文1が公表される前に,米国臨床癌学会で発表された結果などを引用し,限局した腫瘍ではビンクリスチン・ドキソルビシン・シクロホスファミド・アクチノマイシンDの併用療法に加えて,本剤とイホスファミドの併用療法が有効なようだと述べている.
 一方,ドキソルビシン,シクロホスファミド,イホスファミドおよび本剤などは治療関連急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群を誘発することが知られており,注意を喚起している.
B.横紋筋肉腫
2.Raney RB, Anderson JR, Barr FG, et al. J Pediatr Hematol Oncol 23; 215-220, 2001.
 本総説は,1972年から全米で開始されたIntergroup Rhabdomyosarcoma Study (IRS)の治療研究シリーズIからVまでを纏めたものである.本総説のEvolution of chemotherapy for rhabdomyosarcoma/undifferentiated sarcomaの中に過去IRSで使用された抗がん剤について記載されているが,本剤とシスプラチンの併用は再発症例に対して,緩やかな抗腫瘍活性を示すこと,標準的なVAC療法(ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロホスファミド)と比較して,VAC療法にドキソルビシンとシスプラチンの併用療法を組み込んだ場合,VAC療法にドキソルビシン,シスプラチン,ならびに本剤の併用療法を組み込んだ場合,何れの場合においても治療成績が変わらなかったというIRS-III研究が述べられている.一方,本剤とイホスファミドは再発横紋筋肉腫に対して抗腫瘍活性を持ち,この併用療法がIRS-IV研究で無作為比較試験として検討されたことが述べられている.
3.Dagher R and Helman L. Oncologist 4: 34-44, 1999.
 本総説のchemotherapyの項目内で,横紋筋肉腫に対して抗腫瘍活性を持つ抗悪性腫瘍剤として,ビンクリスチン,アクチノマイシンD,ドキソルビシン,シクロホスファミド,イホスファミド,そして本剤が挙げられている.また,論文12を引用して,遠隔転移のない横紋筋肉腫に対するビンクリスチン,イホスファミド,本剤の併用療法が取り上げられている.
C.神経芽腫
4.Weinstein JL , Katzenstein HM, Cohn SL. Oncologist 8: 278-292, 2003.
 本総説の治療に関する項では,主に米国のChildren’s Cancer Study GroupとPediatric Oncology Groupで施行された臨床試験に関する発表論文を基に,治療戦略と治療成績について詳述されている.その根拠となった論文では,一部を除いてシクロホスファミドとドキソルビシン,シスプラチンならびに本剤から構成される4剤による併用化学療法で治療することが前提となっている.
D.網膜芽腫
5.Schouten-van Meeteren AYN, Moll AC, Imhof SM, et al. Med Pediatr Oncol 38: 428-438, 2002.
 網膜芽腫の治療には,全身化学療法と眼科的局所療法を疾患の進行度に応じて様々に組み合わせることが基本であるが,本総説では化学療法に重点を置いた概説を行っている.摘出眼が病理組織学的に浸潤性が高いと判断される場合には,遠隔転移を予防する目的でビンクリスチンと本剤ならびにシクロホスファミドの3剤併用化学療法を6コース行うことが,現在の治療戦略であると述べられている.また,Grabrowski and Abramsonの病期分類(GA)でII期となる症例を対象とし,本剤を含む治療スケジュールを施行された代表的な臨床試験として3つが掲載されている.加えて第II相試験であるが,本剤とカルボプラチンの併用療法が有効であったことにも言及している.GA/IV期の場合,ビンクリスチン,シクロホスファミド,シスプラチンならびに本剤の併用療法と,カルボプラチンと本剤の併用療法が有効であることが述べられている.一方,眼内の腫瘍量を減量する目的で全身化学療法が行われるが,その際にもビンクリスチン,本剤ならびにカルボプラチンの併用療法が主に用いられていることが記載されている.
6.Makimoto A. Results of treatment of retinoblastoma that has infiltrated the optic nerve, is recurrent, or has metastasized outside the eyeball. Int J Clin Oncol 9; 7-12, 2004.
 18例の遠隔転移例を含む,59例の進行性網膜芽腫に対して1980-1989年までの期間はビンクリスチン,ピラルビシン,シクロホスファミドの併用療法,1990-2001年までの期間は同療法とエトポシドとシスプラチンの併用療法の交代療法を行った.全体の全生存率は70%で,1980-1989年までの全生存率54%に比べ,本剤を含む治療が行われた1990-2001年までの全生存率は89%であり,特にstage IVの治療成績の向上が認められた.
E.肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍
7.Herzog CE, Andrassy RJ, and EftekhariOncologist 5: 445-453, 2000.
 論文38を取り上げ,著者らは同論文で使用した本剤とカルボプラチンに加えてイホスファミドを併用投与し,寛解には至らないまでもvery good partial responseを得た後に肝移植を施行していると述べている.
F.腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍
 本疾患と本剤の関連に関する総説その他は見あたらない.
(4) 学会又は組織・機構の診療ガイドライン
 1)米国National Cancer InstituteのPDQ (physician Data Query) によるガイドライン.
A. ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/ewings/healthprofessional/
“Localized Tumors of the Ewing’s Family”の”Standard treatment options”に,現在の米国における標準化学療法は,ビンクリスチン・ドキソルビシン・シクロホスファミドとイホスファミド・本剤とを交互に行う治療法である,と論文1を引用して記載されている.
B. 横紋筋肉腫
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/childrhabdomyosarcoma/healthprofessional/
“Chemotherapy treatment options”の”Standard treatment options”にある”High-risk patients”に,イホスファミドと本剤の併用療法は,全生存率においてイホスファミドとドキソルビシンの併用療法と同等で,ビンクリスチンとメルファランの併用療法よりも優れている,と記載されている.
C. 神経芽腫
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/neuroblastoma/healthprofessional/
“Treatment overview”の”Treatment of High Risk Neuroblastoma”内にある”Standard Treatment”の項に,高危険群においては非常に大量の化学療法剤を投与するのであって,化学療法剤としてはシクロホスファミド,イホスファミド,シスプラチン,カルボプラチン,ビンクリスチン,ドキソルビシンおよび本剤がしばしば用いられる,と記載されている.
D. 網膜芽腫
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/retinoblastoma/healthprofessional/
“Intraocular Retinoblastoma”の6項に,全身化学療法を行うことで腫瘍量減量と放射線外照射成功したこと,ビンクリスチンとカルボプラチンで治療されることが多いが本剤を加えることで更に良好な結果が得られること,ただし本剤を加えることで急性白血病のリスクを上昇させること,が記載されている.”Unilateral disease”の”Treatment option”には機能温存その他の目的で全身化学療法を行うが,中でも一部の高危険群ではビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミド,あるいはビンクリスチン,カルボプラチン,本剤の併用療法を行う旨,記載がある.”Bilateral disease”の”Treatment option”の項にも,カルボプラチンと本剤による化学療法が一般的に行われていることが記載されている一方で,本剤に起因すると思われる二次性急性白血病に関して記載されているが,放射線外照射による二次がんと大差がないことも述べている.
E. 肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/childliver/healthprofessional/
“Stage III childhood liver cancer/stage IV childhood liver cancer”の中で,初期治療抵抗性の場合には本剤とシスプラチンの併用療法(米国Pediatric Oncology Groupの第II相試験:未発表)などの治療が考慮されるべきであると述べられている.
F. 腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍
http://www.cancer.gov/cancerinfo/pdq/treatment/wilms/healthprofessional/
“Treatment option overview”の項,”Clear cell sarcoma of the kidney”(CCSK)にstage IIからIVのびまん性anaplasia(組織型)と全てのstageのCCSKは,ビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミドならびに本剤による併用化学療法が施行されている旨,記載されている.以下,”Stage II Wilms’ Tumor”,”diffuse anaplasia (70 % 4-year survival)”,”Stage III Wilms’ Tumor”,”Diffuse anaplasia (56 % 4-year survival)”,”Stage IV Wilms’ Tumor”,”Diffuse anaplasia (17 % 4-year survival)”,”Clear cell sarcoma of the kidney, Treatment options under clinical evaluation”の項にも,同併用療法を行うことが記載されている.
(5) 総評
 以上の根拠から,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍や横紋筋肉腫,神経芽腫,網膜芽腫,肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍等の小児悪性固形腫瘍に対して,本剤を含む併用化学療法の有効性ならびに安全性は医学・薬学上公知であると判断できる.

3.裏付けとなるデータについて

臨床試験の試験成績に関する資料
 以下に,本報告書「2.公知の取扱いについて(1)」に記載した論文番号に従って,主要評価論文内容の概略を記載する.なお,毒性情報は記載のある限り引用した.

A. ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
論文1(Grier H.E, Krailo M.D, Tarbell N.J, et al. NEJM 348: 694-701, 2003.)
 米国Children’s Cancer GroupとPediatric Oncology Groupが協力し,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍の限局した398例を前方視的に,これまでのVDC療法(ビンクリスチン 2 mg/m2 1日,ドキソルビシン 70 mg/m2 1日間,シクロホスファミド1.2 g/m2 1日)のみの群と,VDC療法とIE療法(イホスファミド 1.8 g/m25日間,エトポシド(本剤) 100 mg/m2 5日間)を交互に行う群とで無作為化比較試験を行った.ただし,ドキソルビシンが総計375mgに達した後は、代わりにアクチノマイシンD(1.25 mg/m2 1日)を投与した.登録症例の年齢分布は,9歳以下が30%,10歳から18歳未満が57%であった.その結果,5年無イベント生存率はそれぞれ54%と69%(p=.005)であり,VDC療法にIE療法を加えた治療が有意に優れていた.遠隔転移例120例の5年無イベント生存率はいずれの群においても22%と差を認めなかった.
 一方,治療関連合併症死は12例に発生した.死因の内訳は7例が感染症,4例が心毒性,1例が出血であった.

論文2(Bacci G, Ferrari S, Bertori F, et al. J Clin Oncol 18:4-11, 2000.)
 イタリアで施行された転移のない359症例の骨原発ユーイング肉腫治療研究シリーズの予後因子を後方視的に検討した報告.年齢分布は12歳以下が35%.本剤 (100 mg/ m2 5日間)をイホスファミド (1.8 g/m2 5日間)と併用投与するIE療法を施行.ビンクリスチン (1.5 mg/m2 1日), ドキソルビシン (40 mg/m2 2日間),シクロホスファミド (1200 mg/m2 1日),アクチノマイシン-D (1.25 mg/m2 1日)の組み合わせのみのシリーズとIE療法を含む組み合わせとの各種治療スケジュールで治療された一連のケースシリーズが対象.多変量解析の結果,治療スケジュールが独立した予後因子であったが,IE療法が独立した予後因子か否かについては不明.

B. 横紋筋肉腫
論文12(Crist WM, Anderson JR, Meza JL, et al. J Clin Oncol 19: 3091-3102, 2001.)
 米国Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Group(IRS)がシリーズで施行してきたIRS-IVのレポートである.883例の遠隔転移を有さない横紋筋肉腫症例に対し,無作為割付試験が行われた.登録症例の年齢は1歳未満から21歳未満まで.ビンクリスチン(1.5mg/m2 1日), アクチノマイシンD (0.015mg/kg 5日間),シクロホスファミド(2.2 g/m2 1日) (VAC),ビンクリスチン(1.5mg/m2 1日),アクチノマイシンD (0.015mg/kg 5日間) (VA),ビンクリスチン(1.5mg/m2 1日),アクチノマイシンD (0.015mg/kg 5日間),イホスファミド(1.8 g/m2 5日間) (VAI),ビンクリスチン,イホスファミド,本剤 (100 mg/m2 5日間)(VIE)のいずれかを割り付けた.VAC,VAI,VIEそれそれの群の3年FFSは75%,77%,77%(p=.42)と有意差はなく,いずれも良好な成績であった.一方,VAC,VAI,VIEの何れの治療法においても,重症ないし生命を脅かす毒性が84ないし96%に認められた.
 しかしながら治療関連死亡は1%未満であった.二次がんの発生はVACが6例,VAIが1例,VIEが2例,VAが1例であった.

論文15(Breitfeld PP, Lyden E, Raney BR, et al. J Pediatr Hematol Oncol 23: 225-233, 2001.)
 米国Intergroup Rhabdomyosarcoma Study Groupがシリーズで施行してきたIRS-IVのレポートである.遠隔転移を有する新規診断横紋筋肉腫128例に対してビンクリスチン-メルファラン併用療法(VM)をビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロホスファミド併用療法(VAC)に追加する治療法と,イホスファミド(1.8g/m2 5日間)と本剤(100mg/m2 5日間)の併用療法(IE)をVACに追加する治療法のいずれかの第II相window regimenを受けた.対象の年齢は21歳未満.奏功率はVM群74%、IE群79%(p= .428)と差がなかったが,3年failure free survival(無治療不成功生存率)と全生存率はそれぞれ19%と33% (p= .043),27%と55% (p= .012)であり,IE群の方が高い生存率を示した.治療関連毒性としては血液毒性が主であった.二次性急性白血病がVM群69例中2例,IE群59例中1例に発生した.
 治療関連死亡はVM群2例,IE群2例(閉塞性気管支炎1例,敗血症性ショックならびに急性呼吸窮迫症候群)であった.

C. 神経芽腫
論文16(Matthay KK, Villablanka JG, Seeger RC, et al. N Engl J Med 341: 1165-1173, 1999.)
 米国Children’s Cancer Groupが施行した無作為割付比較試験の報告.Stage4神経芽腫小児189例に対して寛解導入化学療法(初期化学療法)として,本剤(100 mg/m2 2日間)とドキソルビシン(30 mg/m2 1日),シスプラチン(60 mg/m2 1日),およびシクロホスファミド(1000 mg/m2 2日間)の併用療法を28日毎に5サイクル行い,その後の地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法+自家移植群と化学療法群に分かれる無作為割付が行われた.移植群の前処置は,本剤(640 mg/m2)とメルファラン (140 mg/m2),カルボプラチン(1000 mg/m2)を併用し,化学療法群は本剤(500 mg/m2/4日間)とシスプラチン (160 mg/m2/4日間),ドキソルビシン (40 mg/m2/4日間),イホスファミド (2.5 g/m2 3日間)を併用し3サイクル施行する.本剤は両群で寛解導入化学療法に使用され,また骨髄破壊的大量化学療法と無作為割付後の地固め化学療法における化学療法群で使用されている.造血幹細胞移植併用大量化学療法群で3年無病生存率34%,化学療法群で22% (p=.034)であった.
 治療関連毒性としては,初期化学療法中に敗血症が17例に認められた.地固め療法として化学療法を施行された群では,治療中に重篤な感染症および敗血症が各々52%,28%に認められた.NCI-CTC,grade 3/4の腎障害が化学療法群の8%に認められた.大量化学療法群では18%であった.治療関連死亡は化学療法群では3%であった.

論文17(Matthay KK, Peres C, Seeger RC, et al. J Clin Oncol 16: 1256-1264, 1998.)
 米国Children’s Cancer Groupが施行した試験の報告.Stage IIIの1歳以上の神経芽腫小児228例が対象.寛解導入化学療法として本剤(125 mg/m2 4日間)とイホスファミド( 2.5 g/m2 4日間),ドキソルビシン (10 mg/m2 3日間),シスプラチン(40 mg/m2 3日間)の併用化学療法(CCG-3891研究)あるいは本剤 (100 mg/m2 2日間)とドキソルビシン (30 mg/m2 1日),シスプラチン(60 mg/m2 1日),シクロホスファミド(900 mg/m2 2日間)の併用療法(CCG-3881研究)が行われた.寛解導入療法後にCCG-3881研究,CCG-3891研究ともに骨髄破壊的移植前処置に本剤 (160 mg/m2 4日間)とカルボプラチン(250 mg/m2 4日間),全身放射線照射10 Gyを使用して地固め療法を行った.favorable biology群で,4年無イベント生存率(EFS)は100%と良好であり,unfavorable biology群でも54%と良好な成績であった.
 治療関連死亡は4例認められた.但し,4例中2例は原疾患増悪後に発生した.

論文25(Kaneko M, Tsuchida Y, Uchino J, et al. J Pediatr Hematol Oncol 21: 190-197, 1999.)
 Stage4の神経芽腫日本人小児99例に本剤 (100mg/m2 4日間)とドキソルビシン (60mg/m2 1日),シクロホスファミド (300 mg/m2 5日間),ビンクリスチン (1.5 mg/m2 1日),シスプラチン (40 mg/ m2 5日間)の併用療法が行われた.地固め療法として骨髄破壊的大量化学療法と自家造血幹細胞移植が行われた.大量化学療法としてはビンクリスチン (1.5 mg/m2),メルファラン( 180 mg/m2),前身障者 12Gyまたはカルボプラチン (1750 mg/m2),メルファラン(180 mg/m2)を施行した結果,評価可能72例における7年の無増悪生存率は29%であった.

論文26(Kaneko M, Tsuchida Y, Mugishima H, et al. J Pediatr Hematol Oncol 24: 613-621, 2002.)
 Stage3および4の神経芽腫日本人小児に対して,本剤 (100 mg/m2 5日間)とシクロホスファミド (1200 mg/m2 2日間), ピラルビシン (40 mg/m2 1日),シスプラチン (25 mg/m2 5日間)の併用療法(A3療法),または本剤(100 mg/m2 5日間)とシクロホスファミド (1200 mg/m2 1日),ピラルビシン (40 mg/m2 1日),シスプラチン (90 mg/m2 1日)の併用療法(New A1療法),あるいはシクロホスファミド (1200 mg/m2 1日),ビンクリスチン (1.5 mg/m2 1日),ピラルビシン (40 mg/m2 1日),シスプラチン(90 mg/m2 1日)の併用療法(A1療法)が行なわれた.1985-1991年の A1療法 による併用療法では MYCN増幅例の5年EFSは 23.2% ,MYCN非増幅例では33.3%であり,1991-1998 年のA3療法による併用療法では、MYCN増幅例の5年EFSは 49.0%, MYCN非増幅例は32.2%,またNew A1療法による併用療法では,5年EFSは 37.0%(造血幹細胞移植有)または47.0%(造血幹細胞移植なし)であった.
 治療関連死亡はA3療法で88例中4例,New A1療法133例中1例であった.

D. 網膜芽腫
論文27(Friedman DL, Himelstein B, Shields CL, et al. J Clin Oncol 18:12-17, 2000.)
 47例,75眼球の網膜芽腫に対して,前方視的非無作為割付試験が行われた.全体の患者年齢は不明だが,両眼性の38例は4生日から33生月(中央値5生月)であった.本剤 (150 mg/m2 2日間),カルボプラチン (560 mg/m2 1日),ビンクリスチン (1.5 mg/m2 1日)の併用療法を6コース施行し,眼球の局所療法は眼腫瘍医が個々の症例に応じて決定した.眼球摘出と外照射をイベントとすると全体のEFSは74%と良好であった.
 毒性は概して軽微であった.

論文28(Shields CL, Hanavar SG, Meadows AT, et al. Am J Ophtahlmol 133: 657-664, 2002.)
 103例158眼球の網膜芽腫に対して,腫瘍量減量の目的で化学療法を施行した.年齢は0.2ヶ月から72ヶ月(中央値8ヶ月)であった.化学療法の内容は,本剤(150 mg/m2 [3歳以下では5 mg/kg] 2日間),カルボプラチン(560 mg/m2 [3歳以下では18.6mg/kg] 1日),ビンクリスチン(1.5 mg/m2 [3歳以下では0.05 mg/kgかつ最大投与量は2 mg] 1日)を6コース.その結果,全ての眼球において腫瘍の良好な縮小効果が得られた.さらに,診断から5年後までに外照射が必要となった割合は,Reese-Ellsworth (RE))病期分類で,グループIからIVまでで10%しかなかったが,グループVでは47%であった.眼球摘出を必要とした割合はREグループIからIVまででは15%でしかなかったが,グループVでは50%であった.REグループIからIVまでであれば,化学療法を施行すると良好な成績が得られた.
 また,腎障害,難聴,二次がんなどの重篤な副作用は認めなかった.

論文29(Shields CL, de Potter P, Himelstein BP, et al. Arch Ophthalmol 114: 1330-1338, 1996.)
 106例162眼球の網膜芽腫に対して化学療法6コースと局所療法を施行した単一アーム治療研究.対象の年齢は3生日から39ヶ月(中央値7生月).化学療法の内容は,ビンクリスチン(0.05 mg/kg),本剤(5mg/kg),カルボプラチン(18.6 mg/kg).片眼性28例では,再発は非家族性23例中2例(9%),家族性5例中4例(80%),両眼性では再発は非家族性57例中11例(19%),家族性21例中8例(38%)であった.全体として,5年無新病変出現生存率は76%であった.合併症や副作用の記載なし.

論文36(Chantada G, Fandino A, Casak S, et al. Med Pediatr Oncol 40: 158-161, 2003.)
 再発後の症例を含み眼球外に進展した網膜芽腫41例が対象.年齢は15から69ヶ月(中央値37.5ヶ月).本剤 (3.3mg/kg (体重10kg未満) もしくは100 mg/m2 (体重10kg以上) 3日間),カルボプラチン (18.6 mg/kg (体重10kg未満)もしくは560 mg/m2 (体重10kg以上)1日)の併用をシクロホスファミド (65 mg/kg 1日),ビンクリスチン (0.05 mg/kg 1日),イダルビシン (10 mg/m2 1日)の併用と交互に行う治療スケジュール(protocol 94),ならびに,別の治療スケジュール(protocol 87)で治療したケースシリーズを解析.遠隔転移がなかった15例ではEFSが84%と良好な成績で,遠隔転移があった26例では5年後の生存例はなかった.
 毒性による治療関連死亡は1例であった.

E. 肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍
論文38(Katzenstein HM, London WB, Douglass EC, et al. J Clin Oncol 20: 3438-3444, 2002.)
 Stage III/IVの肝芽腫33例を対象とした第II相試験.年齢は2生日から10歳(中央値22ヶ月).初回治療カルボプラチン (体重10 kg以上で700 mg/m2,10 kg未満で25 mg/kg 1日)の後,カルボプラチン (体重10 kg以上で700 mg/m2,10 kg未満で25 mg/kg 1日),5-FU (体重10 kg以上で1000 mg/m2, 10 kg未満で33 mg/kg 3日間),ビンクリスチン (体重10 kg以上で1.5 mg/m2,10 kg未満で0.05 mg/kg 1日)の3者からなる治療を3コース施行.この時点で手術不能例や無反応例,進展例に対して本剤 (体重10 kg以上で100 mg/m2,10 kg未満で3.3 mg/kg 3日間)を CDDP (体重10 kg以上で40 mg/m2,10 kg未満で1.3 mg/kg 5日間) (HDDP-ETOP)と併用した.Stage IIIの5年無イベント生存率は59%,stage IVは27%.HDDP-ETOPを施行された12例に限ってみれば9例(75%)で治療反応が得られ5例は寛解となり全例生存しており,5年無イベント生存率は42%であった.
 毒性は全症例中,細菌と真菌による敗血症が各々2例であった.HDDP-ETOPをうけた7例中5例で難聴となった.

論文39(Fuchs J, Rydzynski J, von Schweinitz, D, et al. Cancer 95: 172-182, 2002.)
 肝原発悪性腫瘍108例の小児を対象とした前方視的単一アーム研究.そのうち69例が肝芽腫で,26例が肝細胞癌,その他が13例.本論文では肝芽腫の症例を対象に解析した.診断時の年齢は28生日から16歳.初期治療はシスプラチン(20 mg/m2 5日間)イホスファミド(500 mg/m2 1日,3 g/m2 3日間),ドキソルビシン(30 mg/m2 2日間)の併用療法を2ないし4コース施行.これを診断時の病期と治療反応性ならびに手術後の残存腫瘍状況にから,より反応不良と考えられる18例に対して,本剤(100 mg/m2 4日間)とカルボプラチン(200 mg/m2 4日間)(VP16/CBDCA)の併用療法を合計34コース施行した.これらの薬剤投与量は,1歳未満では1m2を30kgと仮定し,実際の投与量は体重計算とした.従ってVP/CBDCAの治療を受けた症例の殆どはstage III/IVである.その結果,18例中12例で反応が認められた.また治療後再発を来した14例中7例でVP16/CBDCAによる化学療法を受けたが,そのうち3例で反応が認められた.
 治療関連毒性としては血液毒性が大半を占め,全VP16/CBDCA療法のうちgrade 3-4の急性毒性を61%に認めた.

F. 腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍
論文40(Pein F, Pinckerton R, Tournade MF, et al. J Clin Oncol 11: 1478-1481, 1993.)
 治療抵抗性ないし再発ウイルムス腫瘍小児31例を対象.年齢は1.5歳から20歳.本剤(200 mg/m2 5日間以上)を21日間隔で繰り返した.その結果,部分寛解が11例,完全寛解が2例であった.
 治療関連死亡は認めなかった.

論文41(Pein F, Tournade M-F, Zucker J-M, et al. J Clin Oncol 12: 931-936, 1994.)
 治療抵抗性ないし再発ウイルムス腫瘍小児26例が対象.年齢は2から15歳(中央値6歳).本剤(100 mg/m2)とカルボプラチン (160 mg/m2)を5日間投与し,21日間隔で2コース以上の投与計画をした.実際に1コース(3例)ないし2コース(23例)投与した症例での奏効率としては,完全寛解が8例,部分寛解が11例であった.全体では8例で治癒と考えられた.
 治療関連毒性としてはWHO分類でgrade III/IVの出血が各々2例,1例であった.Grade IVの感染症が1例に発生した.本療法開始前に腹部に放射線照射を受けていた1例で,肝中心静脈閉塞症が発生し死亡した.

4.本療法の位置づけについて

他剤、他の組み合わせとの比較等について
 現時点で小児悪性固形腫瘍に対して保険上の承認が得られている薬剤はごく限られており,科学的に考えて現行の承認薬剤のみを用いた治療で,患者が当然期待する治療成績を得ることは不可能といえるであろう.この背景において本剤は,ほとんど全ての小児悪性固形腫瘍に対する第一ないし第二選択の併用療法に含まれる重要な薬剤であり,小児悪性固形腫瘍に対して早急な適応取得が望まれる薬剤の一つである.対象疾患に応じて本剤の用法・用量や併用抗がん剤に多少の違いがあることは当然であるが,本剤は全ての小児悪性固形腫瘍の治療に不可欠な治療薬であり,本報告書1.の予定用法・用量に示した方法のいずれかを用いることによって,全ての小児悪性固形腫瘍に対応可能である.
 小児悪性固形腫瘍において,科学的に議論しうるデータが収集可能な6疾患について文献収集を行い,本剤を用いた併用療法の科学的妥当性を示すデータを上記2.および3.に紹介した.本剤を含まない第一選択となる治療法が確立した,ないし確立されつつある腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍や肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍においては,初期治療反応不良の症例や再発症例が本剤投与の適応と考えられるが,そのような症例はかなり少数であるため,本剤を含む臨床試験が十分とは言えないかもしれない.しかし,この2疾患群を除いては何れの疾患も無作為比較試験を含む複数の臨床試験によって本剤の有効性ならびに安全性が示されている.一方,肝芽腫や腎芽腫においても前向き第II相試験が示す高い有効性のデータから,再発難治症例に対する選択すべき治療薬剤のひとつである事は疑いない.このうち,ユーイング肉腫ファミリー腫瘍,横紋筋肉腫,網膜芽腫,および腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍においては,米国にて施行された大規模臨床試験の結果から,標準治療レジメンとして認められるレジメンを上記1.に記載した.
 神経芽腫と肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍においては,国,研究グループ,施設によって,独自レジメンを使用されている事が多いので,標準治療法として一義に決定する事が困難であり参考レジメンとして記載したが,安全性担保の観点から,上記1.に示した用法・用量の本剤,ならびに小児がん専門医師が妥当であると考える併用薬剤の用量設定において使用するべきであると考えられる.横紋筋肉腫においては,標準治療であるVAC(ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミド)療法に対するVIE(ビンクリスチン・イホスファミド・本剤)療法の優越性は証明されなかったものの非劣性は証明されており,進行期および胞巣型の組織型を示す症例に対しては依然利益があるものと考えられるため,標準治療が無効な一群や重篤な有害事象を来したために標準治療が継続困難な症例では,積極的に使用されるべき薬剤であると考えられる.
 これらの事実は教科書および総説の記述でも確認され,また米国国立がん研究所(NCI)のホームページにも紹介されている内容と矛盾しないものであり,本剤が小児悪性固形腫瘍治療の第一ないし第二選択薬剤である事は医学薬学上公知であると考えられる。

 以下に,本剤を含む併用化学療法の位置付けを各疾患群別に記載する.

ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
 本報告書の「2項(2)教科書」のA,「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のA,「2項(4)学会又は組織・機構の診療ガイドライン」のAから明らかなように本剤とイホスファミドの併用療法(IE療法)を組み込んだ化学療法は,遠隔転移のないユーイング肉腫ファミリー腫瘍に対しては標準治療法となっている.従来施行されてきたビンクリスチン・ドキソルビシン・シクロホスファミドからなるVDC療法を施行した場合の無イベント生存率が54%であるのに対し,VDC療法とIE療法を交互に施行した場合には69%であり,「2項(2)教科書」のAで述べられているように本剤を含むIE療法は現状では標準治療法と言える.
横紋筋肉腫
 本疾患に対する確立された標準治療法としては,ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミドの3剤を併用するVAC療法である.しかし.診断時に遠隔転移を有する症例ではVAC療法をもってしても治療成績の向上が得られないため,新規治療法の開発が必要とされてきた.本報告書の「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のBと3に記載したように,VAC療法にビンクリスチン・メルファランの併用療法とVAC療法とIE療法の併用とを比較した場合,3年failure free survivalにおいて各々19%,33%(p=.043)と後者で良好な成績が得られた.一方,診断時遠隔転移を有さない症例においては,標準治療法であるVAC療法とビンクリスチン・イホスファミド・本剤の3剤からなる併用療法(VIE療法)との比較において,3年無イベント生存率は各々75%,77%と両者で同等の成績が得られた.これらのことから,「2項(2)教科書」のBや「2項(4)学会又は組織・機構の診療ガイドライン」のBに記載されているように本剤は本疾患に対する重要な治療薬剤として選択され得るべき抗がん剤と位置づけられる.
神経芽腫
 Stage3または4の神経芽腫に対する標準的化学療法レジメンは確立されているとは言いがたいものの,「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のCに記載したとおり国内外を問わずドキソルビシンまたはピラルビシン,シスプラチンまたはカルボプラチン,シクロホスファミド,本剤,イホスファミド,ビンクリスチン等の薬剤の一部または全てを組み合わせた併用療法を行うことは,治療の標準と言える.従って,神経芽腫に対し本剤は第一選択薬の一つと言えよう.
網膜芽腫
 本疾患は稀少疾患であるうえ様々な局所療法が存在するために,化学療法の評価はある程度限定される.しかし,主要公表論文について「3.裏付けとなるデータについて」に記載したように,全身的化学療法は疾患の進行度如何に拘わらず,生命予後と眼科的予後のいずれにおいても有効な治療手段であると判断可能である.その化学療法の方法であるが,主要公表論文はもとより「2項(2)教科書」のD,「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のD,「2項(4)学会又は組織・機構の診療ガイドライン」のDに記載した如く,本剤は本疾患における現在の中心的治療薬剤であると判断される.
肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍
 本疾患は希少性が極めて高いため,十分な臨床試験が行われているとは言い難い.標準治療確立のための臨床試験が国際的に施行されつつある,というのが現状である.その一方で「3.裏付けとなるデータについて」に記載した公表論文にあるように,本疾患に対する化学療法剤としては白金製剤であるシスプラチンもしくはカルボプラチンが中心的治療薬剤となっている.しかしながら,論文38と39にあるように,白金製剤を中心とした初期化学寮法に反応不良の症例や診断時進行期症例においては,本剤と白金製剤の併用療法が行われ各々75%,67%に治療に対する反応が認められており,本疾患治療において本剤は必要な治療薬であると判断される.
腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍
 本疾患における標準治療法は,米国National Wilms’ Tumor Study Groupが連続して行ってきた臨床試験によって,一部を除いて確立された.その概要は本報告書「2項(2)教科書」のE,「2項(3)peer-review journalに記載された総説,メタアナリシス」のE,「2項(4)学会又は組織・機構の診療ガイドライン」のEに詳しいが,治療抵抗性ないし再発ウイルムス腫瘍やstage II以上のanaplastic histology,全てのstageの明細胞肉腫とrhabdoid腫瘍においては標準的治療が確立されておらず,これらの場合においては「2項(2)教科書」のEや「2項(4)学会又は組織・機構の診療ガイドライン」のEにあるとおり,本剤を含んだ併用療法を行うことが推奨されている.従って,本疾患において本剤は必要な薬剤であると判断される.

5.国内における本剤の使用状況について

公表論文等
 医学中央雑誌刊行会(http://login.jamas.or.jp/enter.html)において,各診断名やエトポシド,VP-16などのキーワードを用いて検索し,明らかに本剤を投与したと考えられる,ないし本剤投与症例が含まれると考えられた報告を抽出した.
 無作為比較試験は無く,多施設のデータを集めた観察研究や1施設のケースシリーズ,症例報告のみであるが,本剤の我が国における日常的使用状況が反映されていると判断可能である.
 ほとんどが海外での併用療法を外挿しているうえ,安全性においても特段の有害事象は発生しなかったと考えられる.

ユーイング肉腫ファミリー腫瘍
1. 豊田.小児外科 34;399-406,2002.
2. 麦島ら.日本外科学会雑誌 104;136,2003.
3. 山田ら.日本小児科学会雑誌 105;301,2001.
4. 麦島ら.小児がん 37;356,2000.
5. 熊谷ら.小児がん 37;357,2000.
6. 松田ら.小児がん 37;460,2000.
7. 松崎ら.小児がん 36;486, 1999
8. 清水ら.小児がん 36;486, 1999.
9. 宇佐美ら.小児がん 36;526,1999.
10. 熊谷ら.小児がん 35;446,1998.

横紋筋肉腫
1. 照井ら.小児外科 35;57-63,2003.
2. 古田ら.小児がん 39:234-238,2002.
3. 原ら.小児がん 36;24-28,1999.
4. 河野ら.小児がん 36;266-269,1999.
5. 永山ら.小児がん 40;267,2003.
6. 本田ら.小児がん 37;116,2000.
7. 山田ら.日本小児科学会雑誌 105;301,2001.
8. 福島ら.小児がん 37;462,2000.
9. 大浜ら.小児がん 37;462,2000.
10. 伊藤ら.小児がん 36;312,1999.
11. 渡辺ら.小児がん 35;448,1998.
12. 徳田ら.小児がん 35;449,1998.

神経芽腫
1. Kaneko M, et al. J Pediatr Hematol Oncol 24: 613-621, 2002.
2. Imaizumi M, et al. Tohoku J Exp Med 195: 73-83, 2001.
3. Kaneko M, et al. J Pediatr Hematol Oncol 21: 190-197, 1999.
4. Kaneko M, et al. Med Pediatr Oncol 31: 1-7, 1998.
5. 亀岡ら.日本小児外科学会雑誌 34;951-952,1998.

網膜芽腫
1. 敷島ら.臨床眼科 56;277-281,2002.
2. 加藤ら.小児がん 39;518-521,2002.
3. 天野ら.現代医学 49;101-105,2001.
4. 上田ら.小児がん 38;178-182,2001.
5. 加藤ら.眼科臨床医報 95;57-61.2001.
6. 初川ら.眼科臨床医報 95;62-65,2001.
7. 梅田ら.小児がん 36;212-216,1999.
8. 林ら.日本小児科学会雑誌 107;943,2003.
9. 熊谷ら 家族制腫瘍 3;A23,2003.
10. 柳澤ら.日本癌治療学会雑誌 38;248,2003.
11. 佐野ら.小児がん 40;507,2003.
12. 藤井ら.小児がん 39;440,2002.
13. 河本ら.日本小児科学会雑誌 106;288,2002.
14. 加藤ら.小児がん 39;518-521,2002.
15. 浜田ら.小児がん 39;547-552,2002.
16. 堀部ら.日本小児科学会雑誌 105;300,2001.
17. 松原ら.小児がん 38;391,2001.
18. 豊田ら,日本小児科学会雑誌 105;300,2001.
19. 神戸ら.小児がん 37;119-120,2000.
20. 北道ら.眼科臨床医報 95;194,2001.
21. 加藤ら.小児がん 37;440,2000.
22. 上田ら.小児がん 36;348,1999.
23. 近藤ら.小児がん 35;428,1998.

肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍
1. 草深ら.小児外科 35;622-627,2003.
2. 松永ら.小児外科 35;628-632,2003.
3. 松永ら.日本外科学会雑誌 104;136,2003.
4. 山岡ら.日本外科系連合会誌 26;1317-2323,2001.
5. 宮原ら.日本小児科学会雑誌 106;526,2002.
6. 金子ら.小児がん 39;417,2002.
7. 奥山ら.日本小児科学会雑誌 105;1261,2001.
8. 島ら.小児がん 38;88,2001.
9. 吉田ら.小児がん 38;88,2001.
10. 堀部ら.日本小児科学会雑誌 105;300,2001.
11. 矢内ら.小児がん 37;414,2000.
12. 八木ら.小児がん 37;414,2000.
13. 平川ら.小児がん 37;416,2000.
14. 宇田津ら.小児がん 35;413,1998.

腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍
1. 田尻ら.小児がん 35:487-493,1998.
2. 梶梅ら.小児がん 35:229-231,1998.
3. 高嶋ら.小児がん 36:207-211,1999.
4. 横森ら.小児がん 39;361,2002.
5. 日野ら.小児がん 38;247,2001.

6.本剤の安全性に関する評価

 
 本剤を併用療法で使用する場合には骨髄抑制やその他の副作用が増強される可能性があるが,G-CSF製剤投与や輸血などの支持療法を積極的に行うことで対処が可能である.しかしながら,そのような対処を行っても重篤な出血や敗血症をはじめとした重症感染症などを合併する危険が回避出来ない場合のみならず,合併症死に至る症例が少数ながら存在するため,専門家の慎重な観察が必要である.また,使用においてはがん化学療法を熟知している専門的な小児腫瘍専門医師が使用する,もしくは専門医師の監督下において使用されるべきであると考える.
 本報告書作成時点で本剤添付文書にはG-CSF製剤を用いた支持療法に関する項以外は同様の記載があるものの,腹部照射の既往がある腎芽腫再発症例において1例ではあるものの肝中心静脈閉塞症を合併し死亡した症例がある.本合併症は同種骨髄移植後に主に認められるものであるが,本報告書に引用した論文41以外に腎芽腫の治療経過中に発生した肝中心静脈閉塞症(VOD)の報告(Czauderna P, et al. Eur J Pediatr Surg 10: 300-303, 2000.)があり,同報告書でも欧州を中心とした治療研究グループであるInternational Society of Pediatric Oncology(SIOP)の治療プロトコールであるSIOP-93-01で治療された206例中10例でVODを合併したと報告されており,アクチノマイシンDがVODに重要な役割を果たしていることと,特に腹部照射がVOD発症の危険因子であることが述べられている.その他横紋筋肉腫に対する標準的化学療法であるVAC療法(ビンクリスチン・アクチノマイシンD・シクロホスファミド)後にも発生することが知られている(Ortega JA, et al. Cancer 79: 2435-2439, 1997.)し,同論文ではシクロホスファミドを増量したVAC療法の場合にVODが発生していることを指摘して,増量したシクロホスファミドが原因でないかと推測しているが,VAC療法と本剤を含むIE療法(ビンクリスチン・イホスファミド・本剤)とを交互に投与した症例からも発生しており,本剤がVOD合併に無関係であるとは結論できない.
 また本報告書「2.公知の取扱いについて」(2)教科書のA-1および(3)peer-review journalに掲載された総説、メタ・アナリシスのA-1に記載したとおり,本剤ないし本剤を含む併用化学療法による重大な晩期障害として,既知ではあるものの,二次がん特に二次性白血病と骨髄異形成症候群がある.本報告書作成時点では,本剤添付文書には「本剤と他の抗悪性腫瘍剤の併用により,急性白血病(前白血病相を伴う場合もある),骨髄異形成症候群(MDS)が発生したとの報告がある」との記載があるが,添付文書の記載は「その他の注意」として動物実験レベルの情報と同等の取扱いとなっているため,別途項目として記載するなど,何らかの改善が必要かもしれない.
 以上,本剤を含む化学療法を施行した場合には肝中心静脈閉塞症の合併があり得ること,特に腹部照射を施行された症例では注意する旨,安全性情報の追記は必要であろう.

7.本剤の投与量の妥当性について

 
 ユーイング肉腫ファミリー腫瘍をはじめとして,横紋筋肉腫,神経芽腫,網膜芽腫,肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍などの小児悪性固形腫瘍に対する本剤の有効性及び安全性について,これまでに公表された臨床試験結果を考察し,さらに海外の教科書ならびに信頼できる海外の学術雑誌に掲載された総説および治療ないし診療ガイドラインに基づき,本剤を含む併用化学療法全般から本剤の有用性を評価した結果,本剤の効能又は効果として前記疾患等を追加することは妥当であると考えられた.なお,標準的と考えられる併用療法を組み合わせた用法及び用量で本剤を使用することは,これらの併用療法での有効性及び安全性から妥当と考えるが,当該効能については現時点で未承認のものを含むものであって,本報告書1に記載した標準的併用療法については現時点では参考的に示すものであり,未承認薬剤における承認に関するエビデンスの収集は引き続き行うべきものである.
 本報告書「4.本療法の位置付けについて」に記載したように肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍と腎芽腫その他腎原発悪性腫瘍に関しては科学的に充分量の臨床試験が行われていたとは言いきれないものの,「3.裏付けとなるデータについて,臨床試験の試験成績に関する資料」に記載した如く,本剤を含む併用化学療法を必要とする疾患・病期群が存在することは明らかであり,そのような病期においては本剤投与が患者に対して十分な利益をもたらすことは,客観的に評価可能である.
 本剤の投与量設定においては,一つの疾患においても治療研究グループや施設によって投与する薬剤の組み合わせや治療スケジュールならびに投与量が様々であるため,投与量を一つに限定することが不可能である.そこで本報告書では,各疾患に対する臨床試験の代表的なレジメンから頻用される用法・用量を比較・検討し,用量および用法の幅を設定した.
 強力な併用化学療法による重篤な有害事象および合併症死が一定の頻度で発生することが懸念されるものの,本報告書「2.公知の取扱いについて」ならびに「3.裏付けとなるデータについて」で詳述したように,致死的疾患である悪性固形腫瘍から救命できる小児患者の割合を考慮するとともに,報告されている治療関連合併症死の割合が極めて低いことを考慮すると,本剤投与量を妥当と判断するとともに,国内における本剤の使用状況を鑑みると,適応拡大を行うことは妥当と判断した.


トップへ
戻る