1.報告書の対象となる療法等について
療法名 | 悪性骨・軟部腫瘍に対するイホスファミドを用いた化学療法 |
未承認効能・ 効果を含む医薬品名 |
イホスファミド(併用薬) ドキソルビシン |
未承認用法・ 用量を含む医薬品名 |
イホスファミドの用法・用量は現在承認されている用法・用量と同じである。 |
予定効能・効果 | (下線部今回申請時追加) 肺小細胞癌、前立腺癌、子宮頸癌、骨肉腫、骨肉腫以外の悪性骨・軟部腫瘍 |
予定用法・用量 | 通常、成人にはイホスファミドとして1日1.5〜3g/m2(30〜60mg/kg)を3〜5日間連日点滴静注又は静脈内に注射するのを1コースとし(4.5g/m2〜15g/m2)、末梢白血球の回復を待って3〜4週間ごとに反復投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。 併用療法 イホスファミド・ドキソルビシン併用療法 イホスファミド2g/m2点滴静注5日間(10g/m2) ドキソルビシン20mg/m2点滴静注3日間(60mg/m2) なお、1患者に対するドキソルビシンの総投与量は500mg/m2を越えないようにする。 |
2.公知の取扱いについて
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3.裏付けとなるデータについて
臨床試験の試験成績に関する資料 |
現在までに公表された海外における臨床試験の結果によると、進行悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤単独の奏効率は7%から38%(中間値26%)と報告されている。以下の文献は、海外において実施された多数の質の高い臨床試験から代表的であると判断して選択したものである。 A) Response to ifosfamide and mesna: 124 previously treated patients with metastatic or unresectable sarcoma 「既治療の転移性あるいは切除不能肉腫124例のイホスファミドに対する反応性」(J Clin Oncol 7: 126-131, 1989) 悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤の有用性を検討するために、ドキソルビシンを中心とする既存の化学療法抵抗性となった悪性骨・軟部腫瘍124例(悪性軟部腫瘍95例、悪性骨腫瘍29例)に対する第II相試験を行なった。本剤は1回2,000mg/m2 x 4日間(8g/m2)投与し、21日毎に繰り返した。奏効率は21%(CR 4例、PR 22例)で、無増悪生存期間中央値は5ヵ月、生存期間中央値は7ヵ月であった。投与法別の奏効率は分割投与(64例)26%、連続投与(60例)9%で、両群間に有意差を認めた(p=0.03)。また、組織学的悪性度により奏効率に差が見られた(グレード3:23%、グレード1,2:6%)。 副作用として不穏、失見当識などの神経症状が19%に生じ、これは治療開始時のperformance status(p<0.01)、血清クレアチニン値(p<0.01)と相関を示した。血尿などの泌尿器毒性はメスナの投与により予防された。用量規定因子は骨髄毒性でありWBC 1,000/ul以下の白血球減少が49%に認められた。本研究により、治療抵抗性の悪性骨・軟部腫瘍に対して本剤が有効であることが示された。 B) An intergroup phase III randomized study of doxorubicin and dacarbazine with or without ifosfamide and mesna in advanced soft tissue and bone sarcomas 「進行骨軟部肉腫に対するドキソルビシン/ダカルバジン療法とドキソルビシン/ダカルバジン/イホスファミド療法の第III相比較試験」(J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993) 転移性あるいは手術不能な進行悪性骨・軟部腫瘍(未治療例)に対して、米国のSouthwest Oncology Group(SWOG)は、ドキソルビシン(60mg/m2)とダカルバジン(1,000mg/m2)あるいはドキソルビシン(60mg/m2)、ダカルバジン(1,000mg/m2)と本剤(7,500mg/m2)の併用療法による第III相無作為化比較試験を行なった。本剤投与群は出血性膀胱炎予防のためメスナ(10,000mg/m2)を同時に使用した。各コースは21日毎に繰り返された。対象患者の年齢は18〜85才(中央値52才)であった。 ドキソルビシン/ダカルバジン群(170例)とドキソルビシン/ダカルバジン/本剤群(170例)の奏効率は各々17%と32%で、本剤併用群の方が有意(p<0.002)に奏効率が高かった。無増悪期間は各々4ヵ月と6ヵ月で、両群間に有意差を認めた(p<0.02)。一方、骨髄抑制、悪心・嘔吐などの重篤な副作用はドキソルビシン/ダカルバジン/本剤群で、より高頻度に認められ、84例目以後の同群においては本剤の投与量が7,500mg/m2から6,000mg/m2に減量された。生存期間中央値はドキソルビシン/ダカルバジン群13ヵ月、ドキソルビシン/ダカルバジン/本剤群12ヵ月で、単変量解析では、特に50才以上の高齢者でドキソルビシン/ダカルバジン群の方が予後良好な傾向が認められたが、多変量解析では両群間に差は認められなかった。 悪性骨・軟部腫瘍の化学療法における他の2つの大規模な無作為化比較試験の結果についての総括:European Organization for Research and Treatment of Cancer (EORTC)は、ドキソルビシン療法とドキソルビシン/本剤療法とCYVADIC(シクロフォスファミド/ビンクリスチン/ドキソルビシン/ダカルバジン)療法の第III相無作為化比較試験を行い、ドキソルビシン単独に比べて後2者の併用療法において、有意差はないもののより高い奏効率と生存期間を認めた(Proc Am Soc Clin Oncol 9: 309, 1990)。米国のEastern Cooperative Oncology Group (ECOG)は、ドキソルビシン療法とドキソルビシン/本剤療法の第III相無作為化比較試験を行い、後者において有意に高い奏効率(20% vs. 34%, p<0.03)と、より長期の生存期間(生存期間中央値9ヵ月 vs.12ヶ月)を認めた(Proc Am Soc Clin Oncol 11: 413, 1992)。 C) Adjuvant chemotherapy for adult soft tissue sarcomas of the extremities and girdles: Results of the Italian randomized cooperative trial 「四肢発生成人軟部肉腫に対する補助化学療法:イタリアにおける多施設共同無作為化比較試験の結果」(J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001) 104例の高悪性度成人軟部腫瘍に対して、局所根治術後の補助化学療法の有効性を検証するための第III相無作為化比較試験が行なわれた。51例がコントロール群(化学療法なし)、53例が化学療法群(エピルビシン/本剤療法)に割り振られた。エピルビシン/本剤療法はエピルビシン(1回投与量60mg/m2 x 2日間:120mg/m2)と本剤(1回投与量1,800mg/m2 x 5日間:9g/m2)投与を3週毎に5回繰り返すものとした。無病生存期間中央値はコントロール群16ヵ月、化学療法群48ヵ月(p=0.04)、生存期間中央値はコントロール群46ヵ月、化学療法群75ヵ月(p=0.03)であり、共にエピルビシン/本剤療法を施行した化学療法群の方が有意に良好な生存率を示した。化学療法による生存率の改善効果は2年で13%、4年で19%(p=0.04)であった。 D) Long-term results of the co-operative German-Austrian-Swiss osteosarcoma study group’s protocol COSS-86 of intensive multidrug chemotherapy and surgery for osteosarcoma of the limbs「四肢発生骨肉腫に対する多剤併用化学療法と手術的治療(ドイツ-オーストリア-スイス多施設共同グループ研究COSS-86)の長期成績」(Ann Oncol 9: 893-899, 1998) 診断時遠隔転移の無い40才以下の骨肉腫症例171例がCOSS-86共同研究に登録された。171例は診断時の臨床病理学的パラメータにより、これまでの研究から予後良好なことが示されているlow-risk群(41例)と、予後不良なことが想定されるhigh-risk群(128例)に層別化された。Low-risk群に対してはドキソルビシン(90mg/m2,計4回)、メソトレキセート(12g/m2,計12回)、シスプラチン(120mg/m2, 計4回)の3薬剤による術前後の化学療法を施行。High-risk群に対してはドキソルビシン(90mg/m2,計5回)、メソトレキセート(12g/m2,計14回)、シスプラチン(120mg/m2, 計5回)に本剤(6g/m2,計5回)を加えた4薬剤による術前後の化学療法を行なった。全171例の10年生存率(無病生存率)は72%(66%)であった。Low-risk群、High-risk群の10年生存率(無病生存率)は各々75%(66%)、72%(67%)であった。本研究は、骨肉腫に対する補助化学療法に本剤を組み込んだ初の臨床試験の長期成績の結果である。骨肉腫high-risk群に対しても局所根治術に加えて本剤を含む多剤併用補助化学療法を施行することによって約3分の2の症例で長期無病生存が可能であることが示された。 E) Phase II/III trial of etoposide and high-dose ifosfamide in newly diagnosed metastatic osteosarcoma: a pediatric oncology group trial 「初診時転移を有する骨肉腫に対するエトポシドと大量イホスファミドの第II/III相試験」(J Clin Oncol 20: 426-433, 2002) 初診時既に遠隔転移を有する骨肉腫に対して、米国のPediatric Oncology Group (POG)はエトポシド(1回投与量100mg/m2 x 5日間:500mg/m2)と本剤(1回投与量3,500mg/m2 x 5日間:17.5g/m2)併用療法の第II/III相試験を行った。G-CSF投与を第6日目から好中球数が5,000/uLを超えるまで併用した。この化学療法を3週間隔で2回施行、画像評価の後、原発巣の手術を行い、病理学的評価を行なった。術後は本療法にメソトレキセート、ドキソルビシン、シスプラチンを加えた多剤併用化学療法を8ヵ月間行なった。 評価可能39例中、4例(10%)がCR、19例(49%)がPRで、奏効率は59%(骨転移例80%)であった。組織学的奏効率(90%以上の腫瘍壊死をみとめるもの)は65%。全症例の2年無増悪生存率は43%、2年生存率は55%であった。Grade 4の好中球減少が83%、血小板減少が29%に認められ、10例(24%)で敗血症を生じた。Fanconi症候群を5例で認め、治療関連死が2例で生じた。エトポシド/本剤併用療法は高度の骨髄抑制を示す毒性の強い治療法であるが、従来の治療法ではその殆どが2年以内に死亡し予後不良であった骨肉腫遠隔転移例に対して高い治療効果を示す治療法であることが示された。 F) Addition of ifosfamide and etoposide to standard chemotherapy for Ewing’s sarcoma and primitive neuroectodermal tumor of bone「ユーイング肉腫/未分化神経外胚葉性肉腫に対する標準化学療法へのイホスファミドとエトポシドの追加」(N Engl J Med 348: 694-701, 2003) ユーイング肉腫/未分化神経外胚葉肉腫に対して米国のChildren’s Cancer Group (CCG)とPediatric Oncology Group (POG)は、従来の標準的化学療法(ドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロフォスファミド、ダクチノマイシン)(コントロール群)と、この4剤と本剤(1回投与量1,800 mg/m2 x 5日間:9g/m2)、エトポシド(1回投与量100mg/m2 x 5日間:500mg/m2)を交互に投与する化学療法(スタディ群)の第III相無作為化比較試験を行なった。518例が登録され、化学療法は両群とも3週毎に17回施行(予定治療期間49週)された。 治療開始時に転移を有する症例(120例)の5年無病生存率、5年生存率はそれぞれコントロール群(62例)22%、34%、スタディ群(58例)22%、35%で両群間に差を認めなかった。一方、治療開始時に転移のない症例(398例)の5年無病生存率、5年生存率はそれぞれコントロール群(200例)54%、61%、スタディ群(198例)69%、72%で、スタディ群が有意に予後良好であった(p<0.01)。従来の4薬剤に本剤とエトポシドを加えた化学療法は、治療開始時転移を有さないユーイング肉腫/未分化神経外胚葉肉腫の予後を有意に向上させることが明らかとなった。 |
4.本療法の位置づけについて
他剤、他の組み合わせとの比較等について |
代表的な悪性骨腫瘍である骨肉腫、ユーイング肉腫と、悪性軟部腫瘍に分けて述べる。 (i) 骨肉腫 現在、骨肉腫に対して単剤で20%以上の奏効率が報告されている抗がん剤はメソトレキセート(超大量メソトレキセート療法)、ドキソルビシン、シスプラチンと本剤の4剤に過ぎない。歴史的には1980年代より、まずメソトレキセート、ドキソルビシンをもちいた補助化学療法が骨肉腫の治療に導入され、化学療法なしの時代の5年生存率20%台から5年生存率60%台へ治療成績の飛躍的な改善をみた(Cancer 35: 936-945, 1975)。次いでシスプラチンが導入され、治療成績は更に向上した(Cancer 49: 1221-1230, 1982, J Clin Oncol 10: 5-15, 1992)。1985年、再発骨肉腫に対する本剤(1回投与量1,800mg/m2 x 5日間:9g/m2)の高い奏効率(33%)が報告された(Cancer Treat Rep 69: 115-117, 1985)。以後、術前化学療法の組織学的壊死率の低い症例など、従来のメソトレキセート、ドキソルビシン、シスプラチンの3剤のみによる化学療法では予後の不良であった治療抵抗例を対象に、本剤を加えた4剤による補助化学療法が試みられ、このような治療抵抗症例においても本剤の併用により70%前後の良好な5年生存率が得られることが示された(Ann Oncol 9: 893-899, 1998)。また、エトポシドと本剤の併用療法は、初診時既に遠隔転移を有する骨肉腫に対しても高い有効性を示すことが報告された(J Clin Oncol 20: 426-433, 2002)。このように、本剤は現在、骨肉腫の化学療法において他の3薬剤とともに中心的な役割を担う薬剤と考えられている。 (ii) ユーイング肉腫 ユーイング肉腫に対する化学療法としてはドキソルビシン、VACレジメン(ビンクリスチン、アクチノマイシン、シクロフォスファミド)などが広く用いられてきたが、体幹発生例、再発例など、化学療法施行にもかかわらず予後不良な症例も多く存在した。1987年、これら化学療法抵抗性のユーイング肉腫に対して、本剤(1回投与量1,800 mg/m2 x 5日間:9g/m2)とエトポシド(1回投与量100mg/m2 x 5日間:500mg/m2)の併用療法が高い奏効率(94%)を示すことが報告された(J Clin Oncol 5: 1191-1198, 1987)。この報告の後、米国で大規模な第III相無作為化比較試験が行なわれ、従来の4薬剤に本剤とエトポシドを加えた化学療法の施行によって、治療開始時転移を有さないユーイング肉腫の予後は有意(p<0.01)に向上することが明らかとなった(N Engl J Med 348: 694-701, 2003)。現在米国では、ドキソルビシン、ビンクリスチンなど従来の薬剤にエトポシドと本剤を加えた補助化学療法を約1年間行なうのがユーイング肉腫に対する標準的治療法と考えられている。 (iii) 悪性軟部腫瘍 ユーイング肉腫などの小円形細胞型肉腫を除く成人型悪性軟部腫瘍に対して、現在までに単剤で20%以上の奏効率が認められている薬剤はドキソルビシンと本剤の2薬剤のみである。進行成人型悪性軟部腫瘍に対する第II相試験の結果、ドキソルビシン(356例)と本剤(300例)は共に26%の奏効率を示すことが報告されている(Hematology and Oncology Clinics of North America 9: 765-785, 1995)。他の薬剤の奏効率は、ダカルバジン16%、シスプラチン12%、メソトレキセート(大量メソトレキセート療法)13%、エトポシド8%などであり、いずれもドキソルビシンと本剤の奏効率よりも劣る(Hematology and Oncology Clinics of North America 9: 765-785, 1995)。組織型別では、悪性軟部腫瘍の中でも本剤は特に滑膜肉腫に対して高い奏効率を示すことが報告されている(Cancer 73: 2506-2511, 1994)。 併用療法としては、この2薬剤を中心に様々なレジメンで研究が行なわれてきた。米国のEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)は、ドキソルビシン単剤(80mg/m2)と、ドキソルビシン(60mg/m2)と本剤(7.5g/m2)の併用療法の奏効率は各々20%、34%であり、ドキソルビシンと本剤併用のほうが有意(p=0.03)に高い抗腫瘍効果を示したと報告している(J Clin Oncol 11: 1269-1275, 1993)。一方、European Organization for the Research and Treatment of Cancer (EORTC)による663例を対象とした第III相無作為化比較試験では、ドキソルビシン単独群(75mg/m2)とドキソルビシン(50mg/m2)と本剤(5g/m2)の併用療法群の奏効率は各々23%、28%であり、両群間で奏効率、生存率に有意差は認められなかったと結論された(J Clin Oncol 13: 1537-1545, 1995)。米国のSouthwest Oncology Group(SWOG)は、ドキソルビシン(60mg/m2)とダカルバジン(1,000mg/m2)あるいはドキソルビシン(60mg/m2)、ダカルバジン(1,000mg/m2)と本剤(7.5g/m2)の併用療法による第III相無作為化比較試験を行ない、ドキソルビシン/ダカルバジン群とドキソルビシン/ダカルバジン/本剤群の奏効率、無増悪期間は各々17%(4ヵ月)と32%(6ヵ月)で、本剤併用群の方が有意(p<0.002)に奏効率が高く、無増悪期間も長かった(p<0.02)と報告している。生存期間に有意差は認められなかった(J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993)。 これらの併用療法の多くにおいて、期待されたほど奏効率の向上が得られていない大きな理由は、副作用(主に骨髄抑制)の重積のため各薬剤の投与量が制限され、各々の薬剤の至適投与量が投与されていない点にあると考えられた。そのため、G-CSF, GM-CSFなどの細胞増殖因子(Ann Oncol 9: 917-919, 1998, Am J Clin Oncol 21: 317-321, 1998)や末梢血幹細胞移植(Cancer 80: 1221-1227, 1997)の併用によって各薬剤のdose intensityを高め、より高い治療効果を得る試みが行なわれている。 一方、非進行例を対象とした補助化学療法としては、悪性軟部腫瘍に対してドキソルビシンを含むレジメンによる術後補助化学療法が行なわれた14試験1568例を集めたメタアナリシスの結果、これらの化学療法は、局所再発、遠隔転移の出現時期を遅らせ、四肢発生例においては生存率を有意に向上させることが示された(Lancet 350: 1647-1654, 1997)。1990年代にイタリアで行なわれた第III相無作為化比較試験では、四肢発生高悪性度成人型軟部腫瘍に対して、局所根治手術後、エピルビシン(1回投与量60mg/m2 x 2日間:120mg/m2)と本剤(1回投与量1,800mg/m2 x 5日間:9g/m2)を3週毎に5回投与する補助化学療法によって、生存率は化学療法なしのものに比べて有意(p=0.04)に改善されることが明らかにされた(J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001)。 このように、本剤は悪性軟部腫瘍に対するキードラッグとして、進行例あるいは術後補助化学療法に用いられ、その有効性が確認されている。 以上、述べたように、本剤は悪性骨・軟部腫瘍の化学療法において、現時点でもっとも高い治療効果を示す薬剤の一つであり、単剤あるいは他の抗がん剤と併用で悪性骨・軟部腫瘍進行例ないし補助化学療法に用いられる。 |
5.国内における本剤の使用状況について
公表論文等 | ||||||||||||||||||||
1990年代半ば、我が国においても本剤の特徴的副作用である出血性膀胱炎の治療薬メスナが使用可能になると、悪性骨・軟部腫瘍進行例あるいは骨肉腫などに対する補助化学療法として本剤は広く使用されるようになった。ちなみに2004年4月現在、医学中央雑誌刊行会のWebサイトで骨肉腫と本剤をキーワードに文献検索を行なうと56件、軟部肉腫と本剤をキーワードに文献検索を行なうと134件の公表論文が抽出される。いくつかの題名を以下に列記する。
以上より、骨軟部肉腫に対して本剤は既に国内において使用経験があると考えられる。 |
6.本剤の安全性に関する評価
悪性骨・軟部腫瘍に対して本剤を前述の推奨用法・用量(4.5g/m2〜15g/m2、3週間隔投与)で用いた際の主な有害事象は、食欲不振、悪心・嘔吐等の消化器系障害、白血球減少、出血性膀胱炎、排尿障害等の泌尿器系障害である。 本剤の代謝産物であるacroleinなどによって引き起こされる出血性膀胱炎は、メスナ(sodium-2-mercapto-ethanesulfonate)の投与によって抑制可能であり、顕微鏡的/肉眼的血尿あるいは頻尿などの膀胱刺激症状が出現した場合にも、メスナの追加投与、尿のアルカリ化、利尿の確保により症状の改善が得られる。本剤に対するメスナ投与量の割合(w/w)は、60%(J Clin Oncol 11: 1269-1275, 1993, J Clin Oncol 15:2378-2384, 1997, J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001)から、100%(J Clin Oncol 13: 1600-1608, 1995)、133%(J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993)、160%(J Clin Oncol 5: 1191-1198, 1987)、175%(Ann Oncol 9: 917-919, 1998)まで様々報告されている。メスナが本剤投与に起因する出血性膀胱炎の特異的予防薬であること、メスナの投与によって本剤の抗腫瘍効果は減弱しないこと、メスナ自身に起因した重大な有害事象が報告されていないこと等を考慮すると、本剤投与時併用するメスナの推奨用量は、本剤と等量(100%)前後が適当と考えられる。 メスナによる出血性膀胱炎の予防が行なわれた場合の本剤の古典的な用量規定因子は骨髄抑制である。不穏、幻覚、錐体外路症状などの中枢神経障害や、代謝性アシドーシス、血清クレアチニン値の上昇、ファンコニー症候群などの腎障害が5%〜10%の症例でみられることがある。通常これらの非血液毒性は薬剤の投与中止後1〜5日で軽快するが、腎障害は遷延する傾向がある。 本剤による腎障害発生の危険因子として、(1)本剤の総投与量(50〜100g/m2以上)(J Clin Oncol 11: 173-190, 1993, Lancet 348: 578-580, 1996, Br J Cancer 82: 1636-1645, 2000)、(2)シスプラチンの併用またはその既往(J Clin Oncol 9: 1495-1499, 1991, J Clin Oncol 11: 173-190, 1993)、(3)低年齢(小児)(Curr Opin Pediatr 7: 208-213, 1995)、(4)腎摘出例(Curr Opin Pediatr 7: 208-213, 1995)などが報告されている。しかし、本剤による腎障害発生の機序については未だ不明な点も多く、その発生を正確に予測することも困難である。本剤の投与に際しては、クレアチニンクリアランスなどの検査値に注意するとともに、これら危険因子を有する患者に対しては特に注意してこれを行なう必要がある(Med Pediatr Oncol 41: 190-197, 2003)。 本剤により稀に発生する中枢神経障害の程度は、不眠から意識障害、昏睡に至るまで様々である。治療開始時のperformance status、先行するシスプラチン投与などによる腎障害の存在が、これら非血液毒性の発生と関連する可能性が指摘されている(J Clin Oncol 7: 126-131, 1989, Hematology and Oncology Clinics of North America 9: 767-768, 1995)。 悪性骨・軟部腫瘍患者40人(年齢22〜71歳、中央値46歳、男:女=19:21)に対して本剤を12g/m2投与(4g/m2 x 3日間連続投与)(計147回)した際に認められた有害事象は、グレード3,4の好中球減少76%、グレード3,4の血小板減少10%、グレード3,4の貧血11%、好中球減少を伴う発熱8%、急性腎不全3%、ファンコニー症候群15%、低カリウム血症22%、代謝性アシドーシス39%、蛋白尿14%、糖尿13%、血尿19%、尿細管障害13%、グレード3の意識障害6%、グレード2の悪心・嘔吐29%であった。投与規制因子は好中球減少であった。中枢神経障害は、急性腎不全の発症、血小板減少、好中球減少を伴う発熱を生じた症例でより多く認められた。後腹膜腫瘍を有する症例は有意に慢性腎不全を生じる危険が高かった(J Clin Oncol 13: 1600-1608, 1995)。 四肢発生悪性軟部腫瘍患者53人(年齢18〜65歳、男:女=33:20)に対して局所根治術後の補助化学療法として行われたエピルビシン120mg/m2と本剤9g/m2(1.8g/m2 x 5日間)の併用療法では、グレード3,4の好中球減少が58%、グレード3,4の血小板減少が11%、グレード3,4の貧血が20%で認められ、24%の症例で輸血が必要であった(J Clin Oncol 19: 1238-1247, 2001)。骨肉腫遠隔転移患者41人(年齢7〜22歳)に対してエトポシド500mg/m2と本剤17.5g/m2(3.5g/m2 x5日間)の併用療法を3週間隔で2回繰り返した際に認められた有害事象は、グレード3,4の好中球減少85%、グレード3,4の血小板減少44%、グレード3,4の貧血10%、敗血症10%、ファンコニー症候群7%、血尿2%、悪心・嘔吐4%であり、2例が化学療法による副作用のため死亡した(J Clin Oncol 20: 426-433, 2002)。 以上、述べたように、本剤の投与により様々なレベルの血液及び非血液毒性が認められる。今回申請する本剤の用法・用量は、現在、国内で承認されている用法・用量「通常、成人にはイホスファミドとして1日1.5〜3g/m2(30〜60mg/kg)を3〜5日間連日点滴静注又は静脈内に注射するのを1コースとし(4.5g/m2〜15g/m2)、末梢白血球の回復を待って3〜4週間ごとに反復投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。」と同じである。 悪性骨・軟部腫瘍に対して本剤を投与した文献の検討からは、骨軟部腫瘍で特異的に発現する本剤由来の有害事象はないと考えられるが、本剤投与量の増加、併用薬剤(ドキソルビシン)の使用、シスプラチンなどによる抗がん治療歴等により、有害事象の頻度、重症度は高くなることが予想される。G-CSFなどによる支持療法を行なうことが一般的であるが、そのような対処を行なっても危険が回避できないケースもあるため、専門家による慎重な観察が必要と考えられる。本剤の使用に際しては、化学療法に熟知した医師がこれら有害事象に十分に注意し、必要な対応が可能な施設でこれを行なうことが重要である。 |
7.本剤の投与量の妥当性について
悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤の用法・用量については、現在までに多くの研究が行なわれてきた。 (i) 本剤単独投与 EORTCは悪性軟部腫瘍135例における第II相無作為化比較試験を行い、本剤5g/m2の24時間持続投与を3週間毎に繰り返す化学療法(奏効率18%)は同じアルキル化剤であるシクロフォスファミド1.5g/m2を同一スケジュールで投与する化学療法(奏効率8%)に比べて、より高い抗腫瘍効果を示すことを報告した(Eur J Cancer Clin Oncol 23: 311-321, 1987)。Antmanらは、既存の化学療法抵抗性の悪性骨・軟部腫瘍124例(悪性軟部腫瘍95例、悪性骨腫瘍29例)に対する第II相試験において、本剤2,000mg/m2 x 4日間(8g/m2)の3週間間隔の投与によって、21%の奏効率を報告した(J Clin Oncol 7: 126-131, 1989)。また、この報告の中では、本剤の投与は連日4時間毎の分割投与(奏効率26%)の方が連日24時間持続投与(奏効率9%)より有意に奏効率が高いことが記載されている。 本剤の悪性骨・軟部腫瘍に対する抗腫瘍効果には用量-効果相関が認められることが知られている(J Clin Oncol 8: 170-178, 1990, Cancer Chemother Pharmacol 31: S174-179, 1993, Semin Oncol 23: 22-26, 1996)。Le Cesneらは、ドキソルビシンを中心とする化学療法に抵抗性となった成人型悪性軟部腫瘍40例(28例は通常量の本剤(5〜10g/m2)による化学療法も既施行)に対して、本剤4g/m2 x 3日間(12g/m2)を4週間隔で投与する化学療法を行い、33%でPR以上の効果、22%で病状の進行の停止が得られたと報告した(J Clin Oncol 13: 1600-1608, 1995)。MDアンダーソン癌センターのShreyaskumarらは、化学療法歴のある悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤14g/m2投与(3週間隔)の成績を報告している(J Clin Oncol 15: 2378-2384, 1997)。それによると、本剤14g/m2の74時間連続投与では奏効率29%(悪性骨腫瘍40%、悪性軟部腫瘍19%)、2g/m2の本剤を2時間で投与し、12時間おきに7回繰り返す(計14g/m2)間歇投与では奏効率57%(悪性軟部腫瘍45%)の成績が得られており、通常量の本剤(5〜10g/m2)では治療効果が得られなかった悪性骨・軟部腫瘍症例に対しても本剤の大量(12g/m2以上)投与によって治療抵抗性の克服が可能であることが示唆されている。 (ii) 併用療法 本剤を悪性骨・軟部腫瘍に対するもう一つのキードラッグであるドキソルビシンと併用する化学療法では、ドキソルビシン40〜75mg/m2と本剤5〜10g/m2を併用するレジメンが多く、30〜50%台の奏効率が得られている(Eur J Cancer 26: 558-561, 1990, J Clin Oncol 11: 15-21, 1993, J Clin Oncol 11: 1276-1285, 1993, J Chemother 8: 224-228, 1996)。G-CSFなど細胞増殖因子の積極的な使用によって両薬剤のdose intensityをさらに高め、より高い治療効果を得る試みも報告されており(Ann Oncol 9: 917-919, 1998, Am J Clin Oncol 21: 317-321, 1998)、現在、両薬剤の最大併用可能用量はドキソルビシン90mg/m2と本剤10〜12.5g/m2と考えられている(Souhami RL, ed. Oxford Textbook of Oncology 2nd ed. p2516)。一方、米国のPOGは、若年者の骨肉腫遠隔転移例に対するエトポシド(500mg/m2)と本剤(17.5g/m2)併用療法の第II/III相試験を行い、奏効率59%(CR 10%, PR 49%)、2年生存率55%のきわめて優れた成績を得ている。しかし、骨髄抑制、腎毒性などの有害事象の発生も高い頻度で認めており、同レジメンは非常に毒性が強い治療法であることも事実である(J Clin Oncol 20: 426-433, 2002)。 以上、悪性骨・軟部腫瘍に対する本剤の使用においては、用量-効果相関を認めるその抗腫瘍効果と、投与量増大に比例して発生する有害事象を、有効性と安全性のバランスからみてどのように勘案し、どの用量を選択するかという判断が求められる。上記の多くの臨床研究では、通常の単独投与として本剤5〜10g/m2、大量投与として12g/m2ないし14g/m2が用いられており、これらの投与量が最もエビデンスの豊富な本剤単独投与時の推奨用法・用量と考えられる。一方、ドキソルビシンとの併用療法においては、ドキソルビシン40〜75mg/m2と本剤5〜10g/m2の併用が最もエビデンスが豊富な推奨用法・用量である。若年者の骨肉腫遠隔転移例など、致死的経過が予想される症例においては、G-CSF等の支持療法の下に併用両薬剤の用量増加を行なうことも報告されているが、重篤な有害事象の発生に十分注意する必要がある。 |