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社会保障審議会−福祉部会
生活保護制度の在り方に関する専門委員会
第11回(平成16年5月18日) 資料3

【布川委員提出資料】


1 保護の要件の見直しを検討する前提
 (1) 基本方向
  捕捉率を一定水準以上に引き上げることが、生活保護制度の存在意義に関わる課題である。その視点から、保護の要件の内容や運用を見直す。

 (2) 保護の要件・要否認定に関する現行規定と運用
(1) 生活保護への請求権は、世帯の構成員である一人ひとりが有している。
(2) 保護の要否や保護給付額の決定については、世帯を単位に行なう。
(3) 要否認定は、当該世帯につき認定した最低生活費と、認定した収入との対比による。
(4) 資産の活用については、申請時に換金処分可能な資産を有している要扶助者に対して、売却を助言援助し、申請審査期間(原則14日、例外30日)内に売却でき、最低生活費を上回る十分な対価を得ることができた場合に、保護の実施要件を充たさないとして申請拒否となる。
(5) 売却せよという助言援助に従わなくとも、まだ売れていなくて対価を得られていないのだから、とりあえず、4条3項に基づき保護を開始し、引き続き売却を指導指示し、売却できたら63条に従い費用返還を請求する。
(6) なお、保護開始後の指導指示は、27条によることになり、62条3項の保護の不利益変更もありうる。
(7) 稼働能力の活用についていえば、資産の活用と異なり、活用後の収入額を見込むことは困難であり、たとえすぐに能力を活用したとしても、申請審査期間内に収入を得られるとは限らない。保護の要件を否定できるのは、最低生活を維持しうることが明確な場合に限られる。
(8) 生活保護に優先する扶養については、生活保護法制定時から、保護を受ける資格・要件に関連するものではなく、「単に事実上扶養が行われたときにこれを被扶助者の収入として取り扱うものである」とされている(『解釈と運用』p.120)。


2 保護の要件の検討
 (1)原則: 「使いやすく、出やすい、自立支援型」への転換

 (2)資産活用: 余力を残して保護が開始できるようにする。
保護受給中の貯蓄等を積極的に認め、生活再建を可能にする。
自立を妨げることになるような要件はなくす。

 (3) 稼働能力活用
(1) 保護開始にあたって稼働能力活用を保護の積極的要件とすることには無理がある。
能力活用要件は、保護の権利障害・消滅要件であるとの位置づけを確定すべきである。
(2) 能力開発・キャリア形成支援を確実に行うには、目先の能力活用を求めるのではなく、中長期的な能力開発・キャリア形成の視点に立たなければならない。
 高校を卒業しても安定した仕事に就くのが難しい状況なのに、その先の大学や専門学校への進学を認めないばかりか、高校進学さえ援助せず、短絡的に稼働能力活用を求める近視眼的対応をしてきた。能力向上・形成支援が、能力活用に優先することを明確にし、就学・研修中は能力活用要件を問わず生活扶助を給付すべきである。
(3) 年齢や身体的精神的条件をもとにした就労可能性の判断とは別に、その人の職業能力や資格などの条件や、育児・介護など家庭の条件などをもとに、いかなる労働条件の就労先ならそこへの就労を期待できるか(「期待可能性」)の判断基準を明確にする。
(4) 稼働能力の活用は自立支援の課題であるとの位置づけを明確にし、生活・社会参加・就労支援などを組み合わせた具体的施策の充実を図る。
 なお、稼働能力不活用に対する制裁(不利益変更)に関しては、第9回専門委員会へ提出した資料に示したドイツの事例が参考となる。
  「扶助は、第1段階として少なくとも基準生活費の25%を削減するものとする。扶助受給者にはあらかじめ適切な教示がなされなければならない」(ドイツ連邦社会扶助法25条)。 不利益変更(給付削減・給付停廃止)は就労拒否に対する制裁ではなく、将来における就労をつうじた自立のための教育的手段であるとの考え方が有力である。それゆえ、一定期間の給付削減という経済的圧力が要扶助者の自立に効果がない場合は、社会扶助給付を従前どおりに再開するという対応も当然だとなる。困窮によって人間としての尊厳が脅かされている以上、その原因を問わず社会扶助としての世話義務が継続するのであって、実施機関は、就労を拒否する人を援助の対象外として放逐する権利を与えられているわけではないとも判示されてきた。

  ※ 生業扶助を「困窮のおそれのある者」に実際に適用できるよう、運用の原則と基準を定める。


3 世帯原則における世帯の範囲の見直しが必要

 誰までを世帯の範囲に設定するかについての規定は、生活保護法制定当時の家族の実態にもとづいたものである。当時から、将来的には変更が必要だと指摘されてきた。
  各国の制度では「世帯として取り扱われるものの内容は必ずしも同一ではなく、夫婦親子をその中核的構成員とする点は概ね共通であるが、これだけに限るもの、この中から更に成熟した子を除くもの、或いはこの外に生計を等しくする者があればこれを加えるもの等いろいろの型がある。 我が国の現状を見ると家族制度は形式的には消滅したが、現実には夫婦親子の範囲を超えたより大きな生活の共同体が社会生活上今なお現存して居り、これを簡単に無視することは適当でないので、構成員相互の関係は一応これを度外視し、現実に世帯としての機能を社会生活上営んでいるものであればこれをそのまま受け容れて生活保護法適用上の単位とすることにしたのである。」(『解釈と運用』p.220)
 保護の要否及び程度を世帯単位で決める際、どの範囲まで住居と家計を共通にしている他者の収入・資産を認定できるのか、また、その者の最低生活需要をともに参入できるのかを、現代の家族の実態に合わせる必要がある。

 〔改善の方向〕
 (1) 保護の要否と程度を決定する際、住居と家計を共通にしている他者の収入・資産を認定する範囲を、生活保持義務関係にある人だけの収入・資産に限定する。
 (2) なお、居住を同一にしている場合は、最低生活費の計算において、家計を共通することで節約できる部分の算出方法を確定する必要がある(2類費の比例配分など)。


4 「指示等に従う義務(62条)」

(1) 受給者の自己決定を基本におき、受給者への指示は生活維持と生活再建に必要不可欠の場合に限定する。指示は文書で行い、受給者に反論の機会を付与する。
(2) 保護の停・廃止のまえに、第1段階として、25%の給付削減を行う。
(3) 保護の停・廃止によるしか義務違反が改善できないと認められる場合に、停・廃止を行うことができる。
(4) 保護の削減や停・廃止は、最低生活以下の生活をもたらすことになるのであるから、実施機関は、継続して見守る義務を負う。


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