04/04/28 過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会第1回議事録       第1回 過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会                        日時 平成16年4月28日(水)                          10:00〜12:00                        場所 労働基準局16階会議室                    (照会先)厚生労働省労働基準局安全衛生部                                労働衛生課健康班                         TEL03−5253−1111                                 (内5492) ○事務局(井上)  ただいまから、第1回 過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会を開催い たします。座長が選出されるまでの間、事務局で進行せていただきます。本来であれ ば、ここで労働基準局長からご挨拶を申し上げるべきところですが、本日所用により出 席することができません。安全衛生部長の恒川からご挨拶を申し上げます。 ○安全衛生部長(恒川)  先生方、大変お忙しい中、過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に関する検討会に ご参集いただき、誠にありがとうございます。ご案内のとおり大変厳しい経済情勢の中 で、企業競争は大変激化しており、人事労務管理も変化してきております。その中で仕 事に関して強い不安やストレスを感じる労働者が増加しており、現在は6割を超えてい るような状況です。  また、長期間にわたる疲労の蓄積による健康障害や、いわゆる過労自殺などの問題が 発生するなど、過重労働による健康障害防止対策やメンタルヘルス対策は大変喫緊の課 題になっております。厚生労働省としては、ご存じのように過重労働対策については過 重労働による健康障害防止のための総合対策、そしてメンタルヘルスに関しては事業場 における労働者の心の健康づくりのための指針を謳い、現在対策を推進しているところ です。  しかしながら、昨今の状況を見ましても、自殺をする方が3万人ほどおられますが、 その中で勤労者の方が約8,000人ほどおられます。その中で仕事を理由として亡くなら れる方は約1,000人ほどおられます。労災自体は、いま非常に減少しており、1,600人の 方々が1年で命を落とされるという、非常に厳しい事態ですが、その中でもとりわけメ ンタルヘルスによる自殺者と推定される方が8,000人おられるということは、これは国 を挙げて対策を講じていく必要があるのではないかと思っております。  最近、先生方はご案内のとおり、最高裁においても安衛法65条の3を引き、事業主は 労働者の健康に配慮し、労働者の自立、作業を適切に管理しなければならない、と述べ られたわけです。その中においては、単なる労働者の心身ともに与える影響を事業主は 把握するだけにとどまらず、把握した結果に基づいて適切な措置を講じなければならな い、ということも述べられております。  さらに、このメンタルヘルスの問題については大変センシティブな問題でして、事業 主にこの事実を知られたくないという労働者もいるわけです。その場合には、どのよう な措置を講じ、適切な職場改善に結び付けるかという仕組みも考えていかなければなら ないと思っております。これについては、従来の指針または総合対策を超えて、必要な らばこの冬、そして来年の春に予定されている通常国会に安衛法の改正も視野に入れ て、メンタルヘルス・過重労働対策を講じていかなければならないと思っており、先生 方の格段なるご支援をいただければと思っておる次第です。大変お忙しい中ではありま すが、そのような背景をご理解の上、ご協力を賜ればと思っておりますので、よろしく お願いいたします。 ○事務局  本来ですと各委員のご紹介をすべきところですが、お手元の資料No.2「参集者名簿」 により、ご紹介に代えさせていただきます。なお、本日は馬杉委員、保原委員は、所用 のためご欠席です。  本検討会における座長ですが、事務局から提案させていただきたいと思います。本検 討会の検討課題にお詳しい、東京大学名誉教授の和田先生にお願いしたいと考えており ますが、いかがでしょうか。                  (異議なし) ○事務局  それでは、和田先生に座長にご就任いただき、議事の進行をお願いいたします。 ○和田座長  皆様のご承認を得まして、未熟者ですが進行係を務めさせていただきます。どうぞよ ろしくお願いいたします。  早速検討に入りたいと思います。検討開始に当たり、本検討会の開催要綱、会議の公 開の取扱いについて事務局から、ご説明をお願いいたします。 ○主任中央労働衛生専門官(高橋)  開催要綱、会議の公開について説明いたします。資料No.1は「開催要綱」で、今回 の検討会開催の趣旨等をまとめたものです。先ほど部長からもお話いたしましたよう に、経済環境の厳しい中で企業間競争が激化しています。そのようなさまざまな要因を 背景にストレスを感じる労働者が増加している、過労自殺等も発生しているというよう なことを踏まえ、こういった問題に適切に対応するために、有識者の皆様ににお集まり いただき、ご議論をいただこうという趣旨です。  「検討内容」は、1つは過重労働による健康障害の防止対策の在り方です。過重な負 荷がかかることを予防するための対策、負荷がかかった場合の健康管理の在り方を主に ご検討いただきたいと考えております。メンタルヘルス対策に関しては、精神的負荷が かかることを予防するための対策、負荷がかかったときの対応の在り方、またメンタル ヘルスの場合はプライバシー等の問題もありますので、事業場外からの支援というよう なことも検討いただければと思っております。その他、これに関してさまざまな視点か ら、ご意見をいただければと考えております。  資料No.3は会議の公開の取扱いです。会議、議事録及び資料は、基本的には公開と させていただきます。ただ、次に4つ挙げているような場合には、会議の決定により非 公開とさせていただきます。  個人情報の保護が必要な場合、中立性が不当に損なわれるようなおそれがある場合、 不当に国民の間に混乱を生じさせるようなおそれがある場合、特定の者に利益あるいは 不利益を及ぼすおそれがある場合には、会議の決定をもって非公開といたします。 ○和田座長  ただいまのご説明について、何かご意見、ご質問等はありますでしょうか。開催要綱 は前もって委員の方々にお送りしてあると思いますし、資料No.3の公開に関してはい かがでしょうか。特にありませんでしょうか。それでは、資料No.3の(案)を削除し、 会議の公開の取扱いについては本検討会の合意事項としたいと思います。  今日の検討会の主なテーマは、1つは共通の認識をしていただくこと。2つ目は過重 労働とメンタルヘルス対策の在り方について、ご自由に意見をいただくこと。3つ目は ヒアリングについてご意見をいただくこと。この3つです。まず共通の認識をしていた だくことを含めて、過重労働対策、メンタルヘルス対策の在り方を検討する際に、参考 としていただくため、これらに関する資料を事務局から説明していただきます。 ○主任中央労働衛生専門官  お手元の配付資料No.4から14までについて説明いたします。  資料No.4は「労働災害防止計画」です。厚生労働省は昭和33年以来、5年ごとに労 働災害防止計画を策定しております。第10次の労働災害防止計画が平成15年度平成19年 度までの5年間の計画として策定されております。この中から健康管理、特にメンタル ヘルスとか、過重労働に係る部分について抜粋したものです。  量がありますのでポイントだけを説明します。2頁に「3.計画の目標」とありま す。4項目あり、この4つの目標を重点として対策を進めるということです。その中で (4)「過重労働による健康障害、職場のストレスによる健康障害等の作業関連疾患の 着実な減少を図ること」を大きな目標として掲げております。3頁の6で「労働者の健 康確保対策」を掲げ、その中の(3)「メンタルヘルス対策」については、「事業場に おける労働者の心の健康づくりのための指針」を基本として対策を進めていこうという ことにしております。また、(4)「過重労働による健康障害の防止対策」について は、労働時間の削減、適正な健康管理を進めていくこととしています。このようにメン タルヘルス対策及び過重労働による健康障害防止対策を大きな健康確保上のテーマとし て捉えております。  次は個別の施策です。過重労働対策、メンタルヘルス対策として私ども労働基準行政 で行っております措置について、重点的なものを説明いたします。  まず1つは、資料No.5の過重労働による健康障害防止のための総合対策です。現在、 私どもはこの総合対策に基づき、いわゆる過労死等の防止対策を進めております。この 総合対策の内容は、5頁以下の、「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講 ずべき措置等」の周知徹底を図ることを基本として推進しております。その趣旨です が、近年の医学的研究等を踏まえ、平成13年12月12日に「脳血管疾患及び虚血性心疾患 等の認定基準について」、労災の認定基準を改正しており、長期間にわたる疲労の蓄積 についても、業務による明らかな過重負荷として考慮することとされたところです。  この新認定基準の考え方の基礎となった医学的検討結果によると、長時間労働やそれ による睡眠不足が疲労の蓄積を招くということから、疲労の蓄積をもたらす最も重要な 要素と考えられる労働時間の評価の目安ということで次の(1)(2)に示されており ます。1つは、発症前1か月ないし6か月間で、月平均45時間を超える時間外労働が認 められない場合は、業務との因果関係は弱い。45時間を超えると、発症との関連が徐々 に高まるということです。  2点目は、発症前1か月に概ね100時間を超える時間外労働、あるいは、発症前2か 月ないし6か月にわたって、1か月当たり平均概ね80時間を超える時間外労働がある場 合は、業務と発症との関連性が強いと判断される、このような知見が示されておりま す。このようなことを踏まえ「事業者が講ずべき措置等」を取りまとめたもので、2以 下に具体的な措置を掲げております。1つは、「時間外労働の削減」です。労働時間に 関しては労働基準法で規定されており、基本的には1日8時間、1週間当たり40時間が 原則とされております。それを超えた時間外労働、あるいは休日労働が、できるだけ少 なくなるように、まず労働時間の短縮を進めていただくことが1つです。次は6頁の3 「年次有給休暇の取得促進」です。疲労の蓄積を考えると、適切に有給休暇を取ること も必要ということです。  次は健康管理です。この部分が今回の議論の中心になろうかと思いますが、「労働者 の健康管理に係る措置の徹底」です。1つ目は「健康診断の実施等の徹底」です。労働 安全衛生法において健康診断の実施、及び、その結果に基づく事後措置が法律上規定さ れており、そういう中で過労死等といったものも含め、労働者の適切な健康管理を図る とされており、この措置の徹底を図ることが1点です。  7頁の(2)「産業医等による助言指導等」ですが、先ほどの医学的知見の月45時 間、あるいは100時間、また発症前2か月ないし6か月間で平均80時間、こういった1 つの目安となるところで対策を考えていただくということで、1つ目は、月45時間を超 えるような時間外労働の場合には、産業医(産業医を専任する義務のない事業場にあっ ては、地域産業保健センターの中で登録されている医師)に助言指導を受けることが1 点です。  イとして、月100時間を超える時間外労働、あるいは2か月ないし6か月の平均で月 80時間を超える場合は、労働者に対し産業医等による面接による保健指導を受けさせ る。その結果、必要に応じ健康診断を行う。あるいは、意見を聞いて必要な事後措置を 行うことを求めております。  ウとして、残念なことに過重労働による疾病が発症した場合は、その原因の究明、再 発防止を進めることを求めております。  こういうことを基本として、私ども行政において指導等を行っているところです。  資料No.6はメンタルヘルス対策で、「事業場における労働者の心の健康づくりのた めの指針の策定について」です。略して「メンタルヘルス指針」といっておりますが、 この指針の周知徹底を図り、心の健康づくりを進めていただくということで進めており ます。内容は2頁以降に付けてあります。「趣旨」については、経済・産業構造の変化 というようなことによりストレスを感じる労働者が増えています。  その進め方においては、特に心の問題ということでさまざまな複雑な要素を持ってお ります。  2の「メンタルヘルスケアの基本的考え方」の、「事業場におけるメンタルヘルスケ アの重要性」のところで、若干その点に触れております。心の健康づくりは労働者自身 がストレスに気づきこれに対処することの必要性を認識することが重要である、しか し、労働者の働く職場には労働者自身の力だけでは取り除くことができないストレス要 因が存在している、労働者の取組みに加えて、事業者の行うメンタルヘルスケアの積極 的推進が重要である、このようなことを踏まえ指針を出しております。  3頁に「メンタルヘルスケアの推進に当たっての留意事項」を4点挙げております。 イとして、「心の健康問題の特性」として、客観的な測定方法が十分確立していないた めに評価が容易でないこと、また、その発生過程には個人差が大きく、そのプロセスの 把握が難しいこと、健康問題以外の視点から評価が行われる傾向が強いという問題があ ることあるいは、心の健康問題自体について誤解等の問題もあるということです。  ロとして、「個人のプライバシーへの配慮」です。特に心の健康については個人のプ ライバシーに十分配慮していくことが必要であると述べております。ハとして、「人事 労務管理との関係」です。体の健康という問題に比べると、職場の配置や人事異動とい った職場組織の問題、人事労務管理と密接に関係する要因が多いということが挙げられ ております。ニとして、「家庭・個人生活等の職場以外の問題」も大きく影響している ということです。  3以降に具体的にその事業場において進める手法等について示しております。1つ は、3に「心の健康づくり計画」を策定していただきたいということで、(1)〜(5)まで 掲げた項目について計画を作っていただき、中長的視点に立って、継続的、計画的にや っていただくようお願いしております。  具体的な進め方としては、4の「4つのケア」を進めていただくことを大きな枠組み としております。  1つは、労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自らのストレスの予防・ 軽減、あるいは、これに対処する「セルフケア」。2つは、労働者に日常的に接する管 理監督者が心の健康に関し、職場環境等の改善や労働者に対する相談等を行う「ライン によるケア」。現場の組織を一般的にラインといいますが、このラインによるケアで す。3つ目は、健康管理の担当者が心の健康づくり対策の提言を行うとともに、その推 進を担い、また労働者、管理監督者を支援する「事業場内産業保健スタッフ等によるケ ア」。最後は、事業場外の資源の活用ということで「事業場外資源によるケア」です。 この4つのケアを適切に進めていただきたいということです。その具体的内容について は、省略させていただきます。  資料No.7は「職場における自殺の予防と対応」という冊子です。これは平成13年に 発行したもので、メンタルヘルス問題に関し、特に緊急性の高い課題として、自殺予防 に関する啓発を行うことを狙いとして作成したものです。これを「自殺予防マニュアル 」という言い方もしておりますが、事業場においてメンタルヘルス問題、特に自殺防止 という観点について対応していただくための資料です。16頁に「自殺予防の10カ条」 と、ポイントを絞って進めております。  資料No.8は、「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」です。印刷物の形で お配りしておりますが、厚生労働省のホームページ、あるいは中央労働災害防止協会の ホームページに載せております。過重労働による健康障害の防止のために労働者自身に も疲労の蓄積の具合いを自らチェックしていただき、自ら管理できる部分については努 めていただくことが必要であろうというねらいのものです。基本的に労働者が自らチェ ックしていただくという趣旨でまとめたもので、項目について点数を付け、疲労が蓄積 されている場合は十分な休養を取るように努める、あるいは、自ら管理できる範囲で仕 事の配分等を考えるとか、労働者で十分対応できない場合は、上司等に相談をするとい うようなことを記載しております。以上、私どもの施策で行っている過重労働、メンタ ルヘルス関係の対策について、一部ですがご紹介をさせていただきました。  資料No.9以下は統計的な資料です。  資料No.9は、平成14年労働者健康状況調査を一部抜粋したものです。平成14年に調 査を実施したもので、この調査は5年に1回の実施しております。この概容は1頁の 「調査の概要」に書かれております、常用労働者10人以上を雇用する民間の事業場から 抽出した約1万2,000事業場を対象とし、それと併せて、そこの事業場に雇用されてい る労働者、約1万6,000人から調査をしたものです。その「結果の概要」として、まず 2頁の事業場関係の調査です。心の健康確保対策についてまとめておりますが、心の健 康対策に取り組んでいる事業場は、全体で23.5%。その前が26.5%ですので若干下がっ ております。下の12表にありますように、具体的には相談の実施、定期健康診断におけ る問診、職場環境の改善という形で取組みをされております。  3頁は「心の健康対策を推進するに当たっての留意事項」、どのような点に注意をし ながら進めているかについては、第13表で、「労働者のプライバシーへの配慮」が9割 近くなっており、あとは、「職場配置、人事異動等」で5割近くと、このようなところ に留意しているということです。4頁の(4)は「心の健康対策の効果」です。取り組 んでいる事業場での結果ですが、「効果があると思う」が61.3%、「良く分からない」 が4割弱というような結果となっております。  7頁以降は労働者に対する調査です。1つ目は、「身体の疲れ及び精神的ストレス等 の状況」です。「普段の仕事での身体の疲れ」と書いてありますが、第20表にあります ように、「疲れる」が約7割で、「とても疲れる」が14%、「やや疲れる」が58%とい うような結果になっております。9頁は、「仕事、職業生活に関する強い不安、悩み、 ストレス」についてで、「感じている」が61.5%。前回は62.8%ですので若干下がって おりますが、6割以上の方がこういったことを感じているというとです。その内訳は、 第23表ですが、職場の人間関係の問題、仕事の量の問題、仕事の質の問題、会社の将来 性の問題といったところが、悩みやストレスの内容として大きな項目になっています。 以上が労働者健康状況調査です。  資料No.10は「定期健康診断における有所見率の推移」です。これは労働安全衛生法 に基づく一般定期健康診断において、所見があるとされた者の割合です。厚生労働省に 報告のあったものですが、平成14年は46.7%の労働者に所見が見られたということで す。有所見イコール疾病、これだけ病人がいるということではありませんが、何らかの 所見があるということです。下表はいろいろな健診項目についてその所見の状況を見た もので、全体としてどの項目も増加傾向にあります。血圧、心電図といったところも含 め、所見率は高まっております。  資料No.11は、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(「過労死」等事案)の労災補償状 況」です。昨年度に公表されたもので、1頁は過労死等の事案の労災補償状況を挙げて おります。平成14年度の合計請求件数は819件に対し、認定件数は317件で、前年に比べ ると大幅に増加しております。これには平成13年12月に認定基準が改正されたことも影 響していると考えられます。4頁は生存・死亡別で、平成14年度317件認定された中で 死亡のものが160名となっております。5頁は、労災保険関係の精神障害等による労災 補償状況です。いわゆる過労自殺と言われるものも含めたものですが、平成14年度は精 神障害による請求件数341件、認定件数は100件となっており、増加傾向にあります。う ち自殺は請求112件、認定は43件となっております。  資料No.12は「自殺者数の推移」です。これは毎年警察庁が発表しております資料を 基にグラフ等を作成したものです。平成14年度の自殺者合計は、3万2,000人を超える 数となっておます。平成10年から3万人を超えており、これが続いております。下欄が 労働者と認められる方の数ですが、8,000名を超える自殺者が出ております。5頁は自 殺原因別推移です。自殺原因はよく分からないわけですが、警察庁で残された遺書等か ら推定したもので、8,000名すべてについてのものではありません。この中で「勤務問 題」は15%を超える値で推移しております。その内容については、例えば仕事上の失 敗、上司・上役等の叱責、仕事の不調、同僚あるいは上役との不和といったものです。  資料No.13は労働時間関係です。1つは、「労働者1人当たり年間総実労働時間の推 移」で厚生労働省で実施しております「毎月勤労統計調査」から作成したものです。全 体の流れを見ますと実労働時間数は減少しており、平成15年は1,846時間となっており ます。所定内は1,700時間、所定外時間は、平成15年は146時間で、平成13年、平成14 年、平成15年だけを見ると増加傾向となっております。  次頁は、厚生労働省が行いました平成14年における労働時間等総合実態調査です。約 1万5,000の事業場に対し、監督官が訪問する等により調査を行ったもので、時間外労 働についてまとめたものです。1か月の法定時間外労働の実績は、通常の労働者で最長 のものと括弧書が付いております。ちょっとややこしい表ですが、通常の労働者という のは、変形労働時間制のものを除いたものです。最長のものというのは、その事業場の 中で時間外労働がいちばん長かったものということです。いちばん上の欄に合計があり 「45時間超」とあります。その中に、いちばん右端に「100時間超」となっております が、これは100時間を超える、つまり最長のものを見たときに100時間を超えるものがい た事業場が、1.6%あったということで、労働者が1.6%いるということではありませ ん。あくまでも事業場の割合であるとご理解ください。100時間を超える労働者がいる 所が1.6%あったということです。事業場規模あるいは業種での内訳は、その下のとお りです。  資料No.14は、本日以降の検討会の中でご議論をいただく資料ということで、「議論 のポイント」を私どものほうでまとめたものです。対策あるいは問題点等について、こ れから議論をしていただく上で、こういった視点からご議論をいただければいいのでは ないかということで、ポイントのとなるべき事項を拾い出したものです。整理としてメ ンタルヘルス対策に係るもの、過重労働対策に係るもの、それと共通する事業場内の体 制等に係る事項を勝手ながら事務局でまとめました。これからの議論の参考にしていた だければということです。  参考資料として、先ほど説明した過重労働による健康障害防止のための総合対策、あ るいはメンタルヘルス指針についてのリーフレットを付けております。資料に関しては 以上です。 ○和田座長  ただいまの説明について、ご意見、ご質問ありましたら、どうぞご自由にご発言くだ さい。 ○東委員  今までの「メンタルヘルス対策」としてと、それから「過重労働対策」を別々に謳っ ている部分がありますが、1つの総合対策案を考えようというお考えでしょうか。 ○主任中央労働衛生専門官  それはご議論の結果だと思います。特にそれを一緒にしなければならないということ までは考えておりません。むしろ、一緒にやったほうがいいのではないか、というご意 見があれば、そういうことも選択肢としてはあるのかなと。ただ性格的には、やはり違 う部分も多いのではないかと考えております。 ○東委員  体制とか組織とか、そういう形の枠組みを一体化するべきだという前提ではないわけ ですね。 ○主任中央衛生専門官  はい。 ○中嶋委員  今回の検討会議と直接関係するとは思いませんが、主任中央衛生専門官からお話のあ った、平成13年の脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準の改定で、労働時間が月当 たり45時間の法定労働時間内ならば、いわゆる過労死との関係は問題ないと。発症前1 か月間の100時間を超える、発症前2か月ないし6か月間にわたって1か月当たり80時 間を超えると、この労働時間が出てきたお蔭で、認定もしやすくなりましたし、医学的 知見と融合してこういうことをなさったと思います。差し支えなければ、この労働時間 数は、いつどういうメドで導かれたものかをお伺いしたいのです。 ○和田座長  その件につきましては私が関係しましたのでご説明させていただきます。1つは、す べて医学的な文献に基づいたということです。長期間の労働に関していちばん問題にな るのは、やはり労働時間による疲労の蓄積です。逆に言いますと、ただ労働時間だけで は把握できないような、基本には睡眠時間がいちばん関係するだろうということです。 いろいろな文献、疫学調査があり、6時間以上睡眠をとっている場合には、虚血性心疾 患とか脳血管障害のリスクは、有意な増加は示しておりません。主な文献、きちんとし た疫学調査が大体6つか7つあったのですが、それによると脳・心臓血管障害が増える のは大体6時間未満の睡眠です。最近2つほど新しい論文が出ており、睡眠5時間未満 の場合に、そういった血管障害が増加するという。それが共通した事項になるというこ とで、結論とされており、それを採用したわけです。  1日の普通の労働者の生活時間から割り出して、1日に睡眠時間が5時間ということ は、結局、1日に5時間の時間外労働ができると計算されたわけです。それが基本にな り、そして1日の時間外労働に対して、大体20を掛けると月の時間外労働時間が出てく るわけです。したがいまして、5×20=100が基本になったわけです。疫学調査では月 100時間以上の時間外労働がリスクになるということです。、睡眠時間5時間が100時間 に相当します。それを下回ると、すなわち時間外労働が上回ると睡眠時間が低くなるわ けですが、そうすると、心筋梗塞が増えることが医学的に証明されたと考えたわけで す。80時間というのは、睡眠時間が6時間、そして残業が1日の4時間に相当するわけ です。そうすると4時間×20=80時間という一応の線を出したわけです。  実際は、文献的にはそれ以下の場合で、有意の増加を示したという報告は全くありま せんでした。一般に、1日の睡眠時間が7〜8時間が普通であろう。7時間から8時間 の睡眠が最も健康的であるとされているわけです。それは1日の時間外労働は2時間、 ないしは2.5時間に相当します。それに20を掛けると大体45時間になり、人間としてい ちばん健康的な生活が営まれる。その時間においては、過労死は全く発生していなかっ たということです。それで45、80、100という数字が出てきたわけです。 ○中嶋委員  ありがとうございました。 ○和田座長  実際には、労働基準法や限度基準は、どの程度守られているのか、あるいは守られて いなかった場合に、法的あるいは具体的にどのように対処しているのかということにつ いて、何かありますでしょうか。 ○主任中央労働衛生専門官  労働時間管理については、安全衛生関係のほうではなく、労働監督関係で管理をして おります。それは当然ながら、もし問題があるようであれば監督に行って、その是正を 促すという形で対応はしているわけです。今回、総合対策が出されて、その中で健康管 理も含めて指導すると。従来と比べると、そういう意味では、指導は強化しているとい うことです。そういった個別に対応するということのほかにも、集団指導という形で企 業を集めて指導を行う。そういう形で各現場で実施をしているところです。 ○和田座長  企業の方に聞きますと、総合対策が出てから局が非常にうるさく言ってきて、一方、 企業のほうも意識改革をして積極的に管理を始めたということはよく聞きます。 ○大野委員  確認ですが、その問題は特にメンタルヘルスと直接関係してこないということになり ますか。 ○和田座長  労働時間の問題ですか。 ○大野委員  はい。 ○和田座長  その辺のところが非常に微妙だと思います。 ○大野委員  それが発表されたので、メンタルヘルスとの関係、過労自殺との関係で、何か報道が いろいろあったような記憶があるのですが。 ○和田座長  過重労働に関する脳・心に関しては、メンタルのものは一切含めておりません。 ○黒木委員  判断指針によると、いわゆる政治的に最低限の睡眠時間しか確保できないような時間 外労働が発生しているときには、大きな出来事がなくても認定をすると。ただ具体的な 時間に関しては、まだ決められていないということです。  これは質問ですが、産業医による助言指導という、45時間以上あるいは80時間以上の 場合に、その企業は産業医に一応助言を受けなければいけないと。この辺の件数とか実 態はどのぐらい把握されているのでしょうか。 ○主任中央労働衛生専門官  私どものほうとしては、問題のある所を中心に監督しています。結果としては数パー セントです。やっていないので是正を促したということです。 ○中嶋委員  私は法律のほうですから、法学の研究対象は、これを社会的医学用語で、過労死と過 労自殺を一括して研究対象とする、という方式が一般にとられております。それを括る 概念は、心と体という意味の心身の過重負荷という、そういう概念で過労死、過労自殺 への誘引となったうつ病を法学的な問題を論ずるということになっています。ただ医学 的に言うと、過労自殺のほうも過重負荷と捉るのは問題でしょうか。 ○黒木委員  その解釈はどういうことでしょうか。 ○中嶋委員  つまり、心身というふうに言っていると、心と体という意味だと思うのです。やはり 労働によって精神的な負荷が非常に高くなる。そして生活上の心身の過重負荷が高まる と、いわゆる過労死も、過労自殺も蓋然性が高くなるのではないかという括り方をして 私ども、法学のほうは素人なりに問題を研究しているのですが、それはちょっと乱暴だ ということになるのでしょうか。 ○黒木委員  その労働は時間外労働が非常に発生して、それがどのぐらい続いたかによると思いま すが、非常に消耗疲弊した状況がうつ病発生の地盤をつくることは当然あると思いま す。当然睡眠時間も少なくなって、眠れないという状況が続きますと、判断能力も当然 落ちるわけです。仕事のノルマが達成できないということになると、次第に本人の状況 がどんどん追い込まれていく状況ができます。そうすると、やはりうつ病は発症しやす いという状況ができると思います。  ただ具体的に、時間外労働がどのぐらい続いてうつ病が発症するかということになる と、これはなかなか言えないし、難しいと思います。 ○中嶋委員  そうすると、私どもはこの2つの問題をひっくるめて「心身の過重負荷の法的問題」 と論ずることは、一応、差し支えないでしょうか。 ○黒木委員  私は差し支えないと思います。 ○大野委員  私も黒木委員と基本的に同じ考えです。ただ同じ負荷がかかったときに、心の面と体 の面が同じように考えられるかというと、これは分けて考える部分も必要だと思いま す。確かに睡眠が不足して精神的にも負担がかかってくるというのはあると思います が、同じように指針で出ている100時間、80時間が当てはまるかというと、もう少し細 かく見ていく必要があるだろうと思います。 ○主任中央労働衛生専門官  先ほど黒木委員から話のありました指導の状況ですが、だいぶ前に私どものほうでま とめた情報としては、45時間を超えて何らかの指導をしたというのは1割ちょっとあり ます。ただ、これを適正に対応されているものも含めて、45時間は一応限度基準という ことで、それを超えないようにという指導をしておりますので、詳細は分かりません。 月100時間または2か月ないし8か月で80時間ということで、何らかの対応をお願いし たのが5、6%ほどあります。ただ、過重労働があることを推定していったケースも多 いと思いますので、そういう意味では、比率は高く出ている可能性はあると思います。 ○和田座長  いまのお話は次の実際の対策に少し入っていると思いますので、また何かありました ら、そこで一緒に検討させていただきたいと思います。  それでは次に進めさせていただきます。 ○黒木委員  もう1つよろしいでしょうか。 ○和田座長  はい、どうぞ。 ○黒木委員  資料No.13の表27の中で、法定労働時間の100時間を超えているものが1.6と。これは 事業場の割合ということですが、事業場の規模は出ているのでしょうか。大企業である のか、中小企業であるのか。 ○主任中央労働衛生専門官  事業場規模はその下欄にあります。括りとして300人の所をマキシマムとして出して おりますので、それ以上の所の区分はありません。 ○黒木委員  大企業のほうは、この中に含まれているということですね。 ○主任中央労働衛生専門官  はい。 ○和田座長  それでは、一緒にやっていくべきというご意見があるかもしれませんが、とりあえず 過重労働対策とメンタルヘルス対策の2つに分けて、各々について予防対策、健康管理 のポイントは何かについて、委員の先生方の考え方について発言をお願いしたいと思い ます。もちろん、最終的に一緒にしたほうがいいということであれば一緒にできるわけ ですが、とりあえずメンタルヘルス対策について、いろいろご意見を伺いたいと思いま す。主なポイントは資料No.14ですが、このようなことについて意見をいただければと 思います。 ○藤村委員  私は精神科でもありませんし、この問題にはあまり詳しくはありません。また、この 委員会にも初めて出席しました。非常に基本的なことだと思いますが、例えば、こうい う精神障害には素因というものがあると思うのです。つまり個人の遺伝、素質、そうい うようなものが関係してくると思います。そうしますと、あまりこの問題を掘り下げて やりますと、今度は労働者採用の時点で、そういうチェックがなされたりする可能性も 出てくるのではないかと思います。そういう状態は、好ましいことか、好ましくないこ とか。  要するに、メンタルヘルスというよりメンタルの障害ということは、セルフケアとか ラインケアとかいろいろありましたが、そういうものでどれだけ防げるものかが非常に 疑問だと思います。そういうわけで、素質、素因というようなものをどう捉えて、この 問題を進めていったらいいのかということをお伺いします。 ○和田座長  大野委員か黒木委員、何かご意見ありますでしょうか。 ○黒木委員  仕事が強く影響して、いわゆる精神疾患を発症したかどうかということでよろしいで すか。 ○藤村委員  はい。 ○黒木委員  仕事がどの程度影響したかという、仕事の過重性があって精神疾患が発症したことを 想定するためには、一応認定の指針からいくと、個体側の要因と、いわゆる業務上の職 場の要因といったことを総合的に判断して、仕事による確率が高いという判断をするわ けです。  仕事が非常に強く影響したものに対しての対策ということであれば、過重によって精 神疾患が発症したものということに、ある程度焦点を絞った上で検討していくことが必 要かなという気がします。 ○大野委員  先ほど藤村委員がご指摘になったのは、その場合にストレスを感じやすい人は入社時 点で排除されるのではないかというご懸念だと思うのです。その点に関してはいくつか のポイントがあると思います。まず精神疾患と言われる、ここで出ているのは、うつ病 と神経症性障害が労災でみると非常に多いということですが、平成14年度に厚生労働省 が行いました1,600人ぐらいの地域調査があります。それによりますと、調査時点まで にそれに罹っていた方は大体20%弱ほどいます。そうしますと、何か特別なものという ものではなく、かなり多くの者が罹るものだということが言えると思います。ですか ら、特別に弱い人がいるわけではないということが言えると思います。  もう1つは、最近精神学で「ストレス脆弱性モデル」と一般に言われております。つ まり、その個人が持っているある特定の弱い部分、これは誰でも持っていますが、それ にあるストレスが加わったときに精神的な問題が出てくるというのが一般的に理解され ています。そうしますと、その個人にとって弱い部分にストレスが加わらないように配 慮するのが、やはり職場としては考えるべきだろうと私は考えております。  もう1点は、実際に職場で社員の方を拝見していますと、あるところでは合わない が、もしくは、ある人とは合わないが異動したら症状が良くなるという方は非常にたく さんいます。特に医学的な治療をしなくても、また薬物療法をしなくても。そういうこ とを考えると、いま言われた懸念というのは、一方ではしながら、しかし企業としては 個人個人の特性を把握した配慮をしていくことが必要だろうと思います。 ○東委員  それはメンタルヘルスに限らず身体のところでもありますね。オランダは、たしか就 業前、採用時の健康診断を禁止しています。特段の理由がある場合についてのみ、つま り審査委員会が認めた場合については、企業はそれを実施できるのですが、基本的には できない。面接するとか一般的な行為は可能ですが、健康診断という身体情報について は取ることができない。これは別にメンタルだけでなくて他のことも、一般的にある程 度配慮する時代が来るのではないかと思います。  このことに関連して気になることがあるのですが、この4つのケアが始まってずいぶ ん時が流れましたね。この評価はどうなっているのですか。いわゆる事例についてうま くいっているとか、ちょっと不明で申し訳ありませんけれども。 ○和田座長  それに関しては何かございますか。 ○労働衛生課長  実は定量的な評価はまだ出ていません。と申しますのも、やはり事業場というのは非 常に大規模な所もあれば、中小零細の非常に小さい所もある。約600万の事業場が日本 にはあり、このメンタルヘルス指針に基づいてさまざまな対策を講ずるよう、国では指 針を示したわけですけれども、まだ一層の普及が必要だろうと、現段階ではそういう状 況というのが正直なところかと思います。  ただ、一部、この指針に基づいて積極的に取り組んでいらっしゃる事業場については 一定の成果が上がっています。これは事例ではありますが、機会がありましたらご紹介 できると思っています。そういう状況です。 ○東委員  事例でも成功しているという経過があるのであれば、これを推進することは結論の1 つになると思います。体制づくりについてもですね。それと人材の素養と言いますか教 育訓練については、かなり課題がメンタルヘルス上の過重対策についてもあると思いま す。産業医がどうしたらいいのかについては、まだ認識というか標準的な知識として持 っていないことが多いですし、また現実にそういうものについての影響を、どういうふ うに自分の責任として考えるのか。またそうした効果をどうやって評価するのかについ ても、まだ確証がないと思いますので、この辺の課題が残っているかもしれません。 ○和田座長  教育を重視すべきであるということですね。教育をどんどんやるということ。 ○東委員  そうです。一度打ち出した施策ではあるので、この評価を事例でもいいからやって推 進すべきものなのか。基本的に人が使いやすいようになれば普及することになると思い ます。 ○大野委員  要するに資料を拝見しても、なぜしてないかの2つの大きな問題というのは、やり方 がわからないというのと、スタッフがいないというのが多かったです。 ○和田座長  そうですね。そのやり方をきちんと示してあげるのが1つの方法だということです。 ○黒木委員  調査を見ても、大企業は産業スタッフを揃えている。産業医の専任規定もあるという ことで取り組むことはできるかもしれませんが、中小企業の場合はどうしてもそういっ た人材がいないこともあって、どういうふうに手を付けていいかというところで、手の 付けようがないという現状もあるのではないでしょうか。 ○和田座長  そういったところを、どのように克服するかということでしょうね。実際に職場のス トレス度がわかれば、それを改善する方法を考えればいいわけです。職場のストレス度 をある程度客観的に把握できる方法がないのでしょうか。専門の先生方、専門の立場か ら見ていかがですか。 ○黒木委員  ストレスの把握ですか。 ○和田座長  ええ、職場のストレスです。 ○黒木委員  いわゆる個人がどうストレスを感じているかと、職場の事業場がどういう負荷がかか っているか、この辺を考えていかないと本当のストレスの状況はわからないと思いま す。例えば病院でもそうですが、いろいろな部署や内容によってストレスのかかり具合 が全然違います。その中に個人が置かれているわけですから、そういった置かれている 状況と周りのサポートシステムとか、あるいは周りがどの程度負荷を緩和しているかを 総合して考えていくことが必要だろうと思います。 ○和田座長  企業のそういった面と、あともう1つは労働者の個人的な面と、両方を考えていくと いうことでしょうね。 ○黒木委員  だから負荷がかかっているところに対して、例えば健康管理部門から、そういった問 題提起ができるかどうか。いまはそれがなかなかできない現状にあると思います。企業 は生産性を高めて効率を上げなければいけない1つの課題がありますから、そのために まっしぐらに走っているとなると、その中で個人がどういう状況にあるかというところ は、ある意味ではわからない状況になってきている。それを今度は逆の立場から、個人 がこういうストレスを受けていると知らせていくためには、事業主や管理監督者が、そ れをどう把握するかがまず第1だと思います。その辺が難しいのです。  管理監督者が4つの心のケアということで、まず本人が気をつける。それからライン がそれを気をつけて、そして産業スタッフに相談し事業外の資源も利用する。しかし、 管理監督者がいちばんのメインになっていますが、現実には管理監督者が非常に負荷が かかっている状況があると思います。だから結局、管理監督者が部下のマネジメントを しなければいけない立場でありながら、その部下のマネジメントができる余裕がない状 況も、ある事業場や企業では起こっているのではないかと私は思います。 ○労働衛生課長  場合によっては、管理監督者自身が大きなストレスに泣く場合もあるのかもしれませ ん。 ○黒木委員  管理監督者は自分の仕事もやらなければいけない。部下の面倒も見なければいけない となると、非常に負荷がかかっているのではないかという気がします。 ○和田座長  実際の現場の管理を担当されている安福委員、何かご意見はございませんか。 ○安福委員  先ほどの4つのケアをどう評価するかという議論ですが、たぶん一生懸命やっていら っしゃる企業もあるし、いま言われたようにスタッフの問題とか、やり方がわからなく て苦労されている所もある。これを一生懸命やり出すと、どこまで企業が介入するの か、いちばん最後のプライバシーの問題とまさに表裏一体になります。  例えば管理職に一生懸命教育すると、たぶん教育された管理職がいちばん痛んでしま う。だからどこまで医学知識を持って逆にやらなければいけないかと、先ほどから出て いる時間管理の問題も含めての議論になるのでしょうが、たぶん企業ができるのは、そ の人が目の前にいる労働時間の間です。ではそこから先のプライバシーに関わる個人の 生活時間の問題を引っ張って来ている方に、どこまで介入できるのか。だからやればや るほど悩みますし、やっていない所はわからないという、たぶん二極化になっている気 がします。そういう意味では、もう少し具体的なモデルを示してあげるとか、何かそう いうことをしないと手が付けられない。手を付けた所は手を付けて悩むという状況が、 いま起きている気がします。 ○和田座長  ほかに何かございますか。 ○藤村委員  職場復帰の問題ですが、例えば外部で患者として治療を受けた労働者が職場復帰する とき、一般に向精神薬をかなり多量に処方される例が多いのです。私は泌尿器科で精神 科は全く知りませんが、最近、排尿障害が非常に多いのです。実際に残尿測定すると残 尿がいっぱいある人がいるのですが、そういう人たちは例外なく向精神薬を多量に処方 されている人なのです。向精神薬だけでなく、加療による副反応みたいなものはいろい ろ問題になると思います。そういう人たちが一見、正常な状態で労働に耐えられるとい うことで職場復帰した場合に、問題がまた起こるのではないか。こういうことも考慮し なければいけないと思います。  睡眠時間の問題もそうなのです。睡眠時間が足りないと言って、睡眠導入薬を1人で 3種類ぐらい処方されている場合がよくあります。あれは睡眠が足りたことになるのか どうか素朴な疑問があります。そんなわけで職場復帰にあたっては、そういう治療中の 労働者をどうするかもご検討いただきたいと思います。 ○大野委員  その問題について2、3あるのですが、1つは、いま藤村委員が言われたように精神 疾患に対する治療の問題はあるのだと思います。ただ、ここもどこまで踏み込めるかと いうことがあります。確かに精神保健問題では多剤併用や大量処方が問題になってい て、それでガイドラインを作ろうという話もあります。だからそこの問題が1つあると 思います。  ただ、もう一方で、治療を受けていて普通に機能できている方の場合には、ほかの例 えば高血圧や糖尿病と同じ扱いで私はいいのだろうと思います。ただ、そのときに職場 のストレスが何らかの影響を及ぼしていた場合に、配慮が必要となってくるだろうと思 います。ですから、そのあたりの治療の内容の問題と職場での働きの問題は区別して考 えていただく必要があると思います。  もう1つ、先ほどのストレスの評価の問題ですが、これは先ほど伺っていて数量的な 評価と質的な評価に分けられるだろうと思います。つまり先ほどおっしゃっていたよう に、実際に中間管理職の問題とか個別的に悩んでいるのは、質的な援助が必要になって くると思いますし、個別的援助をどうしていくかの問題になってくると思います。もう 1つは、黒木委員が言われたように量的に括ることが可能かどうか、その2つの視点か ら議論が必要だと思います。  量的な問題で個人、職場に関しては、何年か前に加藤正明先生の班で調査票を作られ て、その経次研究が行われていると思います。そのあたりも参考にしてやっていただけ ればいいと思います。 ○黒木委員  いま大野委員が言われたのは、加藤正明先生が班長でやられた作業関連疾患の予防に 関する研究班のことだと思います。この中で確か川上先生が分担されたのですが、JC Qを使って職場の本人の負荷度、コントロール度、支援度、同僚と上司の支援度の4つ の評価で、本人がどういう状況に置かれているかを判断しているレポートが出ていると 思います。たぶんそのことだと思います。 ○東委員  ある程度評価が出ていないうちに、こういう発言はどうか分からないのですが、この 4つのケアの中でひとつ思っているのは、実態としてよく聞くことですが、4つのケア のことについて非常に取り入れやすいと考えた企業も多いと思います。例えば外部のE APを行いましょうという形になっていますけれども、その情報は会社に還元されな い。産業医と専門医との間はつながっていない。会社として対策をしようと専門家を雇 っても、彼らはどうなるかというと、プライバシーの保護ですから私たちがやっている ことを会社に教える必要はないとなって、基本的にはコストが増えていくだけで何も変 わらなかったと。基本的に4つのケアの意味は、リンケージというかネットワークがあ って意味をもつ企業活動ですから、うまく活用していこうというはずだったのに、実際 はバラバラでコストが出ていく。  ただ、企業としてはセーフティネットとして、何かあったときにちゃんとしていまし たという形作りには必要ではないかということでやるし、産業医のほうも外に送ったほ うが自分の仕事も減るし、ある意味で責任逃れになることもあって移っていく。これは 極端な話ですが、その実態はあり得ると思います。  逆にそれが少し時間がたってしまうと、今度はコストだけかかって実効も上がらない だろうから、初めからこのプランは失敗だったという話も出てくるのではないか。ちょ っと言い過ぎなのかもしれませんが。打ち出すとすればこれは企業の中におけるものな ので、もちろん守秘義務のこととか、さまざまな個人についての危害を加えないという か、そういういろいろなバリアーが要るかもしれません。  やはりネットワークでやるものだということをもう少し強調しないと、先ほどのよう なセクターが出来上がって、カウンセリングの人間たちはこう考えます、精神科医はこ う考えます、主治医はこう考えます、産業医はこう考えますという話で、違う島ができ てしまうだけに終わるのではないか。そういう実例も幾つかあるようですので気にはな っているのです。 ○和田座長  その場合、産業医の権限を高めて、産業医に情報がすべて集まるようにして産業医が 中心的指導をやっていく。もちろん事業主に対しては、プライバシーの問題があります から産業医にとどめるようにして、ただし権限を高めてきちんとやるだけの能力を養っ てもらう。そういう方法でうまくいくようにする。 ○東委員  おっしゃるとおりです。ただ、疑問があるのは、そこまでの素養を産業医が持ってい るのか。そこまでの実現に耐えられるのかどうかの問題はありますし権限のこともあり ますので、その議論は必要かもしません。 ○安福委員  別の場でも申し上げたことですが、いま産業医のお話が出ていますけれども、大きな 企業の産業医と、小さい規模の所の産業医で非常勤でいるのでは差もずいぶんあって、 何でもかんでも産業医の先生が機能してくださるかといったら、個の問題も実は非常に 多くて、たぶん規模の小さな所がうまくいっていないのは、産業医の先生の素質云々の 議論よりも前に、そういう所の産業医の先生がどういう機能をしてくださるかです。い ちばんいいのは、会社とご本人の問題だというのであれば、会社の事情がわかる人がき ちっとした情報を伝えて、まさに先ほど座長が言われたように皆で1つの答えを出して あげるようにする。それがないと特定の人にみんな被せてしまう。  もう1つは、例えば痛んでいる人の話を聞くと、経済的な問題や家庭的な問題と仕事 の問題がかぶさって痛んでいる人が結構いらっしゃる。そのときに経済的な問題は誰が 解決してあげるのか。家庭的な問題はどうアドバイスできるかというときに、誰がそこ まで介入してあげるかも考えておかないと、ただ単にそれを疾病のみで見るといった議 論では解決しない。もっと根底にあるものです。そういう意味では、まさにどういう人 がユニットを組んで、こういう問題にきちっと対応してあげるのかという議論が、もっ と大事な議論のような気がします。 ○東委員  おそらく中小企業の場合、違うサービス形態になります。いま病院でも疾患のことも ありますけれども、生活上のいろいろなアドバイスをするとか、保険関係のことについ てもトライするとか、あるいは行政の窓口への橋渡しをする形になってきています。そ ういう病院が増えてきています。これはどういう形で課金しているかわかりませんが、 同じように中小企業の場合について考えたら、総合的サービスを提供できるような外部 機関の育成がなければいけない。私は産業医ですよ、私はこの専門家としてやります よ、私はそういう社会保険労務士でやれますよという話でなく、ワンストップサービス ができる者を育成する以外にはないかもしれません。これは別に精神保健だけに限ら ず、そういう形になるのではないかと思います。 ○中嶋委員  この問題は、日本の法律の問題を言って恐縮ですが、労働安全衛生法令の思想から出 発しているわけでしょうね。労働安全衛生法は事業主の責任ということで貫かれていま すので、メンタルヘルスも事業主の責任という、言ってみればトータル・ヘルス・プロ モーション・プランですか。昭和63年のTHPです。あれも要するに事業主の責任だと いう背景で、行政としてはそうならざるを得ないのだろうと思いますが、特にメンタル ヘルスとかセンシティブデータでHIVとかB型、C型肝炎等については、医学に素人 の事業主が手を出せることではないような気がします。  1つはプライバシーですね。水を差すようで恐縮ですが日本の労働安全衛生法令でい くと、事業主は積極的に配慮して立ち入って従業員の面倒を見なさいということです。 これはプライバシーのチェックとの関係がほとんど希薄なのです。一面的であると私は 思います。法的均衡を探る必要があると思います。そうだとすると中間的に出ているよ うに、医療従事者が何らかの形でもっと前面に出てきて、事業主が退くという形にしな いと、法律的には非常に問題が発生しやすいと思っているのです。  ただ、労働安全衛生法令が事業主の責任というので貫かれているときに、その体系を 崩すことについて行政としては、そう容易に「はい」とは言えないでしょうから、だか ら私はそこで委員をお引き受けするのをためらったのは、水を差すようなことになって は申し訳ないと思ったのです。いつも考えていることなのですが、ただ、産業医も専門 医も足りないと聞いていますので、そこは困難な体制になると思います。 ○安全衛生部長  健康情報とプライバシーの問題は大変重要な問題で、最初に申し上げればよかったの ですが、別途委員会を設けて、現在検討しているところです。それは必ずしも事業主責 任を貫くという固まった立場ではなくて、労働者の権利として何が考えられるかも含め て、現在検討いただいているところです。 ○中嶋委員  それは非常に結構なことだと思います。 ○和田座長  労働安全衛生法の根幹にかかわる問題になると思います。確かにプライバシーの問題 が出てきてから、かなりいろいろ問題が出てきている現状だと思います。それがどちら の方向にいくか。 ○労働衛生課長  まさにいろいろ議論があるところです。例えば安衛法は当然ながら事業主責任という 基本的な立場に立っています。一方で、例えば労災事例などを見ていても、まさにこう した精神の問題であるとか、あるいは脳血管疾患などいろいろあって、そうした中に は、当然ながら作業関連疾患と言われる部分も相当含めています。従来からの例えばじ ん肺などのように、明らかにその作業によって引き起こされたと、それが直接的な原因 になるということが明確な疾患がある一方で、例えば高血圧など、確かにこれは先ほど 藤村委員からご指摘があったわけですが、もともと個人個人が持っているファクターで あるとか、それぞれ個人個人の生活の仕方など、さまざまなものが合わさっていろいろ な疾病が起こることも現実にあります。  ただ、私どもが問題としているのは、そうした作業関連疾患と言われるものは働くこ とによってその疾病が悪化するとか、そうした関連性があるということで、この安全衛 生法の中で事業主としての一定の配慮が必要ではないかと、そういう視点でいま検討し ているわけです。ある病気がすべて事業主の責任だと、必ずしもそういう立場ではあり ません。ただ、作業に伴って悪化するという視点も必要ではないかと考えているわけで すが、確かにプライバシーとの関係で難しい問題がありますので、先生方にさまざまな ご意見を頂戴したいと思っています。 ○藤村委員  先ほどから話の出ている産業医の問題ですが、ご存じのように日本医師会は認定産業 医制度を進めていて、産業医の資質向上を一生懸命今後も続けてやっていくつもりでは います。ただし、需要に見合う十分な産業医を育てられるかは、まだ甚だ疑問なところ があるわけです。ただ、事業場の数からすると、産業医をいくら育てても十分な数には なかなかならないと思うので、事業場の特殊性によって、産業医が個別の視点を持って 働けという要求を出されても非常に難しいところがある。  もう1つは産業医の待遇の問題です。実際問題として産業医が仕事をして十分な待遇 を受けているかといったら、現状では十分だとは申し上げられません。こういうことを 改善してもらえれば、個別に私の所はこういう問題があるから、こういうところを重点 的にやってくれという注文を付けることはできると思います。そういうわけで今後とも 日本医師会は、資質向上については一生懸命やるつもりですので、それに事業場のほう もある程度お応えいただきたい。そういうことでお願いしたいと思います。 ○和田座長  確かに産業医の権限を高めれば、責任も当然生じるわけですから、それに対する報酬 も当然考えなければいけない。それは間違いないことです。 ○大野委員  もう1点、先ほど東委員が言われたネットワークとの関連ですが、産業医に権限をと いうことを言っても、産業医のカバーする範囲が非常に広いわけです。研修会でも例え ばメンタルヘルスの部門はその一部なわけで、そこの部分で責任をという話になると非 常に負担が大きいと思います。ですから、その場合に例えば専門の医師がサポートする ようなネットワークを作るのは大事です。ただ、そうは言っても今までの精神医学の教 育を見て、産業場面で生かせるような教育をしているかというと、なかなかそうではな いというのがありますので、そのあたりも含めて検討していただくことが必要かと思い ます。 ○和田座長  精神科を専門とされている先生方が、是非、働く人のメンタルヘルスのほうに少し力 を伸ばしていただいて、関与していただけると非常にありがたいと思います。いずれに してもメンタルヘルスの問題は、指針は早期の発見を基本に置いています。いま4つの ケアを何らかの方法で高めることでいいのか、もっと他に何かいい方法があるかが問題 になります。何かそれに関してご意見がございますか。基本は4つのケアで、それをき ちんと高めていく。場合によっては法的に対処するとか、そういうことでやっていけば 大丈夫であろうかということです。 ○東委員  システムですから何か付けなければいけない。バラバラに走っていくとなると意味が ない。 ○和田座長  システムも、もちろんきちんと作ってということです。 ○安福委員  産業医のお話がずっと出ていますが、労働安全衛生法の中では衛生管理者などの資格 者、いわゆる産業医を構えられないぐらいの規模の所で、そういうものをどうやってつ ないでいくか。あるいは企業の中でそういう者がどういう仕事をするか。そういう資格 者の方もおられました。たぶんそのあたりもきちっと、規模の小さな所から大きい所ま で機能させようと思ったら、もう一度見直しをするというのがないと、いわゆる外の力 ばかりを借りるだけでは解決しない問題ではないか。  例えば、最近非常に充実してきた保健師と衛生管理者の違いがどこにあるのか。保健 師は会社の中での配置で、法ではきちっと整理がされていない。そういう産業医の先生 方をサポートする周辺の人、あるいは一緒にやっていく医療の資格をお持ちの方の力 を、どういう形で借りていくのかも併せて考えていく必要があるのではないかと思いま す。 ○和田座長  場合によっては専門のメンタルヘルス担当者とか、専門の衛生管理者や産業医を増や すという意味ですか。 ○安福委員  衛生管理者を増やすというか、衛生管理者がどのくらいの資質の担保をされているの かも含めての議論かもしれません。産業医の先生でも難しいものを、ではそういう方が できますかという議論も片方でありますから、ちょっとそこまでは私も。 ○大野委員  いまの点は非常に重要です。私は地域でのうつ病や自殺の対策にも協力させていただ いているのですが、その中での保健師や医療従事者の働きは中心になってくるのです。 だからそういう人たちがどういうふうに働けるかは、企業でも同じように重要になって くると思います。その中で、例えば地域ですと保健師が早期発見して医療機関につなげ る。それに応える形で日本医師会でもこの前、自殺防止マニュアルを作成していただき ました。そういう形のネットワークができるのはすごく大事だと思います。先ほどご指 摘にあったように、そういう人たちが今度は経済的な問題とか、他の問題でもネットワ ークを持ってやっていただく。そういうのは非常に重要だと思います。 ○黒木委員  先ほど東委員から、例えば専門医が入るにしてもプライバシーの問題があって、むし ろ外部に任せたほうがいい。いろいろな権利やプライバシーがあって、なかなか情報が 共有できないというお話がありました。それは場合によってはあるかもしれませんが、 むしろ私は企業の中に専門医が入ることは、ある意味で企業にとって円滑になっていく のではないかという気がします。  例えば、先ほど藤村委員も言われた社会復帰の問題に関しても、外部でかかっている ドクターから職場復帰可という診断書が出てきたときに、それをどう企業の中で扱う か。外部の医師は職場復帰は大丈夫だと言っても、果たして本人が復帰して就労が本当 に可能かどうかはまた別問題です。企業側が受け入れて、本人にどういう仕事を与え て、どれだけ配慮すればいいかは再度検討しなければいけない。そういうこともあるの で、むしろ中に入り込むことのほうが私はいいと思います。  ただ、もう1つ例えば自殺を予防する観点からいくと、企業の中ではなかなか本人が 相談しづらい。むしろ外部の医療機関やEAPのほうがプライバシーの問題も出しやす いこともあるので、その辺のシステムが非常に難しいと思います。 ○東委員  誤解のないようにしていただきたいのですが、専門家が入ることは別に構わない。問 題は情報が切れてしまっていることです。現実を見ると産業医は日本医師会のご協力も あって数が増えてきているのですが、専門家の精神科医で企業に従事できる数は限られ ています。ですから最終的に企業の内実を知って、経営者に対して基本的な情報はある 程度押さえた上で、必要な情報だけを提示できるのが産業医だと思いますし、そこでリ ンケージをちゃんとしていかないといけないという意味ですから、専門家が外にいても 中にいても別に構わないのです。ネットワークの話を出すために出したものですから、 それは雇うことに反対だという意味では全くありません。  それと先ほど安福委員が言われていたことですが、中嶋委員も言われていたように、 医師とか保健師は他の罰則を持っていて、だから守秘義務がありますよとか、自分の患 者さんに対してのそういう仕組みがあるので、できない範囲を持っていますけれども、 衛生管理者の場合、もちろん安衛法の中であるのですが、健康情報、その他についての 他の罰則を法的に持っていないので、隘路になってしまう可能性があります。そこで先 ほど中嶋委員も言われたように、この仕組みも一緒に考えていかないと、簡単に中にい る人材で特殊な資格を持たないけれども、衛生管理者や推進者でいいではないかという 話は難しい部分があるかもしれません。 ○和田座長  いずれにしてもシステムの問題、管理体制を充実というのは、かなり重要な問題だと 思います。それを生かす場としての衛生委員会の充実も非常に重要になってくるのでは ないかと思います。その辺のところを基本的にどうやっていくかも1つの問題になると 思います。時間の関係もありますので、また後でこれに関していろいろご意見を伺いた いと思います。次に過重労働対策についてご意見を伺いたいと思います。 ○東委員  資料No.13ですが、これは一般的な傾向で、それから調査された結果はこうなってい るのですが、いちばん興味があるのは、これは実際に調査に入られた監督官からの情報 ですよね。それと会社側が持っていたと言うか報告していると言うか、ある種記録とし て残していた情報との食い違いがどうなっているかなのです。これがいちばん大きい問 題の1つでのではないかと思います。事実上、月45時間とか、多いとしても8時間抑え ているのですが、実態は140時間と、ほとんど土日なく出勤した月があり得るのです。 ただし、公式上はとても出せないから出てこないのです。過重労働の問題も、これを信 じていいかというのがあったので、とても興味があったのが乖離の問題です。 ○主任中央労働衛生専門官  今日説明した調査によると、全国の監督署の監督官が基本的に事業場を訪問して実施 している。これは平成14年4月1日現在の実態を調査しているということですので、基 本的には行って確認したものと考えていただいていいと思います。 ○中嶋委員  資料No.13の「所定内」というのは契約時間のことですか、法定の時間のことですか。 ○主任中央労働衛生専門官  これは契約だと思います。 ○中嶋委員  つまり法律は8時間ですが、契約で35時間ぐらいの事業場がいっぱい出てきました ね。そうすると37時間働いた人は所定内なのですか。契約でしょうかね。 ○主任中央労働衛生専門官  前のほうは契約だと思います。 ○中嶋委員  所定外も契約ということになりますね。40時間内であっても時間外労働に換算してい るということになりますね。 ○主任中央労働衛生専門官  総実労働時間から所定内労働時間を引いて求めたとなっています。 ○中嶋委員  契約時間外ですね。 ○主任中央労働衛生専門官  契約と言いますか、総実労働時間というのがありますので、これはまさに実労働時間 だと思います。その中で所定内というのは契約時間だと思います。所定外はその差の分 ということですから実態ということになります。 ○中嶋委員  そうですね、わかりました。 ○藤村委員  睡眠時間が脳血管病変あるいは心疾患の発生と非常に関わりがあるということを、和 田座長から先ほどご説明いただきまして非常にわかりやすかったのですが、時間外労働 と睡眠時間との関係を調べたデータはありますか。例えば、1日に2時間あるいは3時 間の時間外をやったら、実際にそれだけ睡眠時間が減るかどうか。そういうことを調べ てはありますか。 ○和田座長  我々が集めた文献では、残業時間と脳・心臓疾患との関係とか、あるいは労働時間と 脳・心臓疾患の関係に関しては、明確な論文はほとんどありません。疫学調査も少ない です。例えば労働時間が8時間で、その後どこかへ行って飲み歩き、夜中の3時ごろ帰 って来て睡眠時間が3時間だったということもありますし、そういったことで基本は睡 眠時間で取りましょうということにしたわけです。論文がなかったことと、基本的にそ ういう考えでやったということです。 ○藤村委員  ということは、時間外労働が直接関わっているのでなくて、睡眠時間が関わっている という考え方でよろしいですね。 ○和田座長  そうですね。睡眠時間が基本で、普通の生活をなさると仮定して時間外労働時間を計 算したということになるわけです。 ○藤村委員  わかりました。 ○和田座長  もちろん、テレビを見たり家族との団らんといった余裕の時間も取ってあります。そ の時間をある程度短くして睡眠時間を増やせば、それでいいことはいいわけです。休日 の土日にぐっすり眠るとかでカバーしてもいいのです。 ○藤村委員  いまの睡眠時間と脳血管障害、心疾患の相関ということはわかりましたが、実はこう いう疾患は他にいろいろな要素があります。例えば塩分、摂取カロリー、肥満、嗜好の 問題、酒、タバコ等いろいろなものとの相関があるわけですが、その相関の強さの問題 です。つまり睡眠時間が少ないのは過重労働であると結論づけるのは私は納得できない のですが、睡眠時間とそういう疾患との相関と、他の従来から言われているいろいろな 因子との相関の強さが問題だと思います。 ○和田座長  そういう生活習慣といった、労働以外の因子ですね。それに関して当然考慮しなけれ ばいけないのですが、それに関しては定量的なデータがありません。それで我々検討し た立場としては、労働との関係だけで考えましょう。生活習慣に関しては最終的には労 働者の方々に自覚的、自主的に守ってくださいと強調しましょうと、それにとどめたこ とになるわけです。むしろ因子としては、生活習慣のほうがはるかに大きいわけです。 ○大野委員  もう1点、労働時間に関してですが、通勤時間はどういうふうになっていますか。 ○和田座長  通勤時間は、一応1時間ということで計算しました。もっと長い所が東京ではありま すし、もっと近い所もありますけれども、1時間にしておいて、そのほか余裕の時間を 4時間ぐらい取っていますから、基本的にそこでカバーしてもらってはどうかという考 えです。通勤時間は1時間、昼休み1時間ということで計算してあります。 ○東委員  これはいろいろな提言を出せる部分があると思いますが、1つは先ほどの質問に関連 して45時間を超える場合について、事業主は産業医に指導を仰ぐ必要があるという、そ の45時間を本当に超えていなければそのチャンスはないわけですよね。だから実態とし ては、例えば産業医とかそういう産業保健スタッフに労働時間の報告とか提示が健診の ときにあるとか、事前に入手できるとか、そういうふうに変えたほうがシンプルではな いか。そうしないと実態と合わないことが分からないことになってくるのではないか。 それこそ先ほどの質問の後編です。  あと先ほどの通勤時間等のことがありますが、いま社宅などがどんどんなくなってい っています。実際に開発部門といった場所においては、必然的に残業が発生し過重労働 が発生しやすい部署があるわけです。ある種これは産業保健対策になるかもしれません が、いま減退している福利厚生施設の対策を盛り込むことが、ここで可能なのかどうか をお聞きしたいと思います。アメリカのビジネスマンなどは都心に住むためにすごく無 理をしている。それはどうしてかといったら仕事を続けるためです。東京の場合は都心 回帰と言いながらも地価も高いし、しかも社宅は減っていくし、なかなか近い所に住め ない実情があります。 ○黒木委員  確かに社宅はどんどんなくしていますね。 ○東委員  典型は病院です。病院のレジデントが病院の近い所に基本的に住居を構えているの は、おそらくいつでもオンコールということではないでしょうか。 ○労働衛生課長  当然、この検討委員会の中で委員の先生から、そういうことが必要であれば提言をい ただいて差し支えないと思います。ただ、実際にそれが実現できるかは難しい問題もあ るかもしれません。 ○和田座長  何かご意見、ございませんか。 ○中嶋委員  裁判所の裁判例を見て、これが循環器系疾患による死亡であるか自然増悪死である か、そういうのはどうかというのは必ず出てきます。ほとんど対象になった方は中高年 の本態性高血圧を持った方と、一種の奇形を持った方が多いように記憶しているので す。大体、医学的にも臨床でもそういう感じなのでしょうか。 ○和田座長  もちろん基礎疾患がある人であれば、起こしやすくなるのは当然です。ただ、ニュア ンスとして我々の考え方としては、極限まで行って最後の1滴というのは過重労働があ っても省きましょう。しかし、ある一定期間においては、基礎疾患が増悪することも1 つの労働による負荷と考えましょうと、一応はしたわけです。 ○黒木委員  有所見率のデータは、年齢分布はわかるのですか。 ○和田座長  どうですかね。 ○労働衛生課長  私どものデータでは難しいのですが、例えば産業医科大学では非常に膨大なデータを 求めています。そうした幾つかの研究的なものでは相当細かいデータを得ることができ ます。ただ、全体として見ると有所見率が高くなっているわけですけれども、もちろん 委員がご指摘なさったように、労働者自身の年齢が高くなれば多くの項目について有所 見が高くなる。  もう1つ、こうした有所見であるかどうか判断するときの基準が難しい部分がありま す。基本的に診察した医師あるいは産業医の先生方が、この程度だったら所見として取 るべきではないかといった判断は当然あります。その判断自体が、例えば10年前、5年 前と比べて今はどうなっているかを考えると、必ずしも一定ではないかもしれない。場 合によってはその判断基準がより厳しいというか、そうしたものに仮に動いているとす れば、有所見率は見かけ上は高くなる。そうしたことも幾つかファクターとして考えら れます。この有所見率が高くなっていることをもって、直ちに労働者のそれぞれの健康 状態が現実に悪くなっているかどうかは、ちょっとわからないという状況です。 ○黒木委員  4つのリスクファクターがありましたよね。その辺のデータというのはわかるのでし ょうか。肥満、高血圧、血糖、高脂血症です。 ○和田座長  定性的なデータというのはあります。定量的なものはどうでしょうか。 ○労働衛生課長  現実に生のデータを私どもは集めるシステムになっていませんし、またそれを企業に 要求することは困難な部分があります。そうした生のデータがないから、なかなか確定 的なことは申し上げにくい状況です。 ○西村委員  黒木委員の質問ですが、ランダマイズして5,000〜1万人の動脈硬化のリスクファク ターを年齢別、性別に調べたデータはあります。ですから、大体それに一致して中年の 方のパーセントだと思います。  実際に総合対策を取られて、ここに問題の人が出ていますけれども、負荷要因の評価 の方法で例えば45時間、100時間といった定量的なものを出しましたが、定量的にでき ないもので、実際に現場から、こういう要因はどう評価するのかといった問題が何か出 てきていないかどうか。私が聞いているのは、例えば拘束時間が長い勤務も1項目あり ますけれども、裁量労働者の労働時間の把握はどうなっているのか、海外出張はどうか など、いろいろな問題が出てきていますので、それに対する考え方も示す必要があるの ではないかと思います。  それから、先ほど中嶋委員あるいは和田座長がおっしゃっていたように、虚血性心疾 患体因子によって発生する疾患であり、あるバランスを取った意見が総合対策の最後に 数行書いてありますけれども、ああいうものの考え方が長期的に見た時には、疾患を減 らしていくほうに作用するというのが、私は医師として思いますので、そういう面のバ ランスも取っていただきたいと思います。例えば嗜好の問題とか食生活の問題も非常に 重要ではないかと思います。 ○和田座長  それに関しては働く人々の自主的な努力です。自覚と自主的な努力を大いに促さない といけないという考えです。あとは産業医が個別に相談して、基礎疾患がある人に対し て対応していく形は一応取ってあるわけです。いずれにしてもこの過重労働に対して は、かなりきちんとした総合対策が出ています。ある程度それをきちんと遂行できる体 制を取れば、かなりいくのではないかという感じがします。またご意見をいろいろ伺い たいと思います。時間の関係上、次に移らせていただきます。こういった議論を、これ からいろいろさせていただくわけですが、こういう資料はないかといったことがありま したら、申し出てくだされば誠意探させていただきます。 ○東委員  我が社はこうしているといった労働対策の成功事例というか、いま経済的な過渡期に あって難しい時代であると思いますけれども、それもあればと思います。 ○西村委員  いまの点で追加ですが、ここに総合対策の1つのモデルを示していますね。45時間で 勧告を出して産業医が面談をする1つのモデルですが、このモデルがすべての事業場に 当てはまるわけではありません。それぞれの規模とか体制に応じた、東委員が言われた うまくいっている例とか、そういう具体的な例を示すことは、すごく分かりやすいので はないかと思います。 ○藤村委員  自殺者の問題ですが、自殺者の推移を見ていくと、労働者は特に増えているわけでは なく比率としては全く変わっていないと思いますが、自殺者の年代構成を見ると50代が 非常に増えていますね。40代と20代が減っていて50代だけが増えている。この50代の自 殺者が増えている分析データは何か作れるのでしょうか。 ○主任中央労働衛生専門官  自殺そのものは労働者だけではない全体だと思います。いろいろな評価をしたものを 探すことは可能だと思いますが、これといった特定をすることは難しいところがあると 思います。 ○大野委員  いまの点については、厚生労働省が昨年度も自殺対策検討会を開催していて、その中 で検討されると思います。おっしゃるように50代の自殺は非常に増えています。ただ、 勤労者だけではなくて無職者、離職者が多いのです。ですからリストラの問題も関係し てくるだろうと思います。 ○藤村委員  わかりました。もう1つ自殺の原因別推移を見ると勤務問題は比較的低いのです。無 視してもいい程度に低くて、いちばん多いのは健康問題です。それから経済生活の問題 があるのですが、これは例えば時間外労働がなくなれば所得も減るわけです。そうする と経済生活に関係するわけです。過重労働がいけないのか、時間外労働がいけないの か、このデータで見ると、むしろある程度所得が上がったほうが自殺が防げるのかとい うのがあります。これも分析して何かデータが出たら出していただきたいと思います。 ○黒木委員  これは警察庁の統計ですから、「勤務問題」と書いてあっても、果たして本当に勤務 問題で自殺したのかどうか真実はわからないと思います。それと経済的問題と言われて も先ほど大野委員が言われたように、例えば離職して失業保険が出ている間は大丈夫で あっても、どのくらいの間で本当に困って、その後に自殺したりしたのはリストラから そうなっているわけですから、時間外労働で経済的な猶予があることのほうがむしろい いというのは、ちょっとどうかなという感じもします。 ○藤村委員  経済問題は、勤労者の年齢層においてもかなり高いわけです。ですから全くないと否 定することはできないのではないですか。 ○黒木委員  もちろんそうですが、時間外労働によって労働者がどういう環境に追い込まれている かのほうが、むしろストレスが絡んでいると言えるのではないでしょうか。 ○大野委員  いまの問題は非常に重要で、自殺問題の検討委員会でも、経済問題が非常に関係して いるだろうという意見が出ています。基本的にいまの経済状況が社会的に改善してこな いと、なかなか全体を少なくしていくことは難しいのではないかという意見も出たぐら いです。  ただ、もう1つは、確かに全体で見れば少ないのですが、一方で実数としては先ほど 部長が言われたようにかなりの数にのぼっている。そこに手を付けることが重要だろう と思います。幾つかの原因があるにしても、途中で自殺した方の8割から9割が精神疾 患に罹っていたという問題とか、1か月以内に一般医を受診される自殺者が6割とか言 われて非常に多い。そういう意味でメンタルヘルスの問題に力を入れるのは、企業とし ては重要かなと思います。 ○和田座長  わかりました。資料が必要でしたら後でも結構ですから事務局にお申し出くだされば と思います。最後のテーマですが、次回から企業担当者とか関係団体などからヒアリン グを実施してはどうかと思います。その実施方法とか内容について何かご意見がござい ましたらいただきたいと思います。事務局で何か案はありますか。 ○主任中央労働衛生専門官  いま座長からお話がありましたように、実際に事業場の中で健康に関して携わってい る産業医や人事労務担当の方から、お話を聞いてみてはどうかと考えています。具体的 にはそういう担当者の方をお招きして、1人当たり20分ぐらい状況についてお話いただ き、それから質疑をする形で、1回2名ないし3名ぐらいで、2回目、3回目あたりで そういった時間を設けてはどうかと考えています。率直にお聞きするために、特にメン タルの問題などでは特別のケースも絡んできますので、ヒアリングに関しては非公開と いうことで進めてはどうかと考えています。ご意見をいただければと思います。 ○東委員  対象ですが、これは総合対策と謳う中に中小零細が入っています。そうすると郡市区 医師会が運営している地域産業保健センターにコーディネーターがいますが、そこの成 功事例を伺えればと思います。 ○主任中央労働衛生専門官  そういうメンバーの1人として、各郡市区下の産業保健センターの方もお招きできれ ばと考えています。 ○東委員  そこでのお話が、どういう支援をしたらいいかについても分かりやすいと思いますの で、是非、お願いしたいと思います。 ○和田座長  この件に関しては事務局と私とで設定して具体化したいと思います。先ほどお話があ りましたように具体的な内容ということもあり、プライバシーに関係するかもしれませ んので、冒頭の合意事項により非公開でやりたいと思いますが、よろしいですか。では 次回のヒアリングについては非公開ということでやりたいと思います。次回の予定につ いて事務局からお願いします。 ○主任中央労働衛生専門官  次回ですが、5月28日(金)午前10時から予定したいと考えています。場所等につい ては別途ご案内します。 ○和田座長  よろしいですか。本日の検討会は終了します。ありがとうございました。