○ | わが国において、悪性新生物(がん)は1981年以来死亡原因の第1位となっており、疾病対策上の最重要課題として対策が進められてきた。 |
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○ | がん研究については、1983年に厚生省(当時)等により「対がん10カ年総合戦略」が策定され、がんの本態解明を目指した基礎研究や、その臨床応用を目指した研究が進められてきた。 |
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○ | がん予防については、わが国では1950年代後半からがん検診が始められ、予防対策の中心を担ってきた。なかでも1982年から実施された老人保健法に基づく医療等以外の保健事業(以下、「老人保健事業」という。)によって全国的に体制の整備がなされ、住民に身近な「市町村で実施されるがん検診」として定着してきた。 |
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○ | 老人保健事業に基づき市町村で実施されているがん検診については、1982年から胃がん検診及び子宮頸部がん検診が実施され、1987年からは肺がん検診、乳がん検診及び子宮体部がん検診が、1992年からは大腸がん検診が実施されている。 |
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○ | これらのがん検診については、1998年から、従来の国からの補助金は廃止されて、市町村が自ら企画・立案し、実施する事業として位置づけられている。厚生労働省においては、地域において適切ながん検診が実施されるよう、1998年に「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(平成10年3月31日老健第64号)を定め、その後も必要な改正(平成12年3月31日老健第65号)を行うとともに、マニュアルを作成するなど技術的な支援を行ってきている。 |
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○ | しかし、わが国のがん検診については、
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○ | 2003年に策定された「第3次対がん10か年総合戦略」は、がんの罹患率と死亡率の激減を目指して、がん研究の推進や、質の高いがん医療の均てん化を図ることなどを目的としている。同戦略の中では「がん予防の推進」が柱のひとつとなっており、今後、同戦略に基づき、がんの有効な予防法の確立、国民に対するがん予防に関する知識の普及、最新の研究成果に基づくがん検診の効果の向上等を推進していくことが求められている。 |
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○ | このような中、厚生労働省老健局の求めに応じ、2003年12月に老健局内に設置された本検討会には、がんの予防・医療に関係する専門家11名の委員が参画し、2004年3月まで6回にわたって、老人保健事業に基づき市町村で実施されているがん検診について、検討した。特に2001年3月に「新たながん検診手法の有効性の評価報告書」※1で報告された死亡率減少効果の観点から、実施方法や対象年齢等に問題が指摘されている乳がん検診と、子宮頸部がん検診及び子宮体部がん検診(以下、「子宮がん検診」という。)について、関係学会・団体等のヒアリングや総合討論を行い、今後の乳がん検診及び子宮がん検診の見直しについて中間報告をとりまとめた。 |
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○ | 本検討会では、わが国の乳がん検診及び子宮がん検診の現状と課題を分析し、今後の見直しについて提言している。とりまとめに際しては、広く国民の理解を得るための一助になることも期待して、専門技術的な用語はなるべく避け、分かりやすい記載となるよう配慮した。 |
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○ | 本報告書が、今後のがん検診の有効性の確立に向けた新たなる一歩となり、併せてがん検診の受診率向上とがんの死亡率の減少に資することを期待する。 |
○ | 老人保健事業に基づき市町村で実施されているがん検診は、1982年の制度発足以来、多くの研究やそれに基づく検討が行われてきたが、本検討会においては、乳がん検診及び子宮がん検診を見直すにあたって、以下の事項を特に重視することとした。
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○ | 乳がんの原因としては、遺伝や人種、ホルモン、閉経後の肥満、妊娠出産との関係等が考えられている。また、発症のライフスタイル因子として、未婚、未産や高齢初産、早い初経や遅い閉経、閉経後の肥満、家族歴等が指摘されている。わが国の女性の近年のライフスタイルの変化により、今後増加することが予想されている。 |
○ | 現在、わが国では、女性のがん罹患の第1位となっており、年間約3.5万人が発症し、約1万人が死亡している。 |
○ | 乳がんの年齢調整罹患率は、1975年時点で10万人当たり21.7人であったが、1998年では10万人当たり43.6人となっており、23年間で約2倍に増加している。発症のピークは45歳〜49歳となっているが、この年齢階級の罹患率は、1975年時点で10万人当たり55.3人であったものが、1998年では10万人当たり123.7人となっている※5。このようにわが国では、40歳代が好発年齢であるが、欧米では60歳以上の高齢者の罹患率が高い。 |
○ | 乳がんの年齢調整死亡率は、1975年時点で10万人当たり6.5人であったが、2002年には10万人当り10.8人となっている※6。特に65歳未満の比較的若い世代で女性のがん死亡の第1位となっている。 |
○ | 乳がんの治療法は、かつては外科手術による乳房切除術が標準的な治療法であったが、近年では、乳がんを早期に発見し、乳房の部分的な切除や抗がん剤・ホルモン剤による薬物療法、放射線療法などによる集学的な治療により、生存率の向上とともに、できる限りQOLを維持する方向が重視されて、診断・治療技術が進歩してきている。 |
○ | このような技術の進歩について、2004年4月からは、乳腺腫瘍画像ガイド下吸引術(マンモトーム)や腋窩部郭清を伴わない乳房部分切除術も保険診療で新たに認められることとなった。 |
○ | このようなことを踏まえると、今後、乳がんをより早期の段階で発見するための精度の高い検診体制を構築する必要がある。 |
○ | 乳がんは、しこり(腫瘤)の自覚によって発見されることが多いことから、唯一自分で検査ができるがんとして自己触診が推奨されてきた。しかし、しこりが触れるような乳がんは、そのほとんどが浸潤がんであり、他臓器への転移の可能性も高いと言え、臨床での見逃しも許されない段階と言える。 |
○ | 今後、しこりが触知可能となる前の自覚症状のない段階で発見されるようにすることが肝要である。 |
○ | また、単に死亡率を減少させるだけでなく、乳房温存によるQOLの向上の観点からも、精度の高い検診による早期発見が必要である。 |
○ | 最近の研究によると、子宮頸部がんの多くは、性感染症であるヒトパピローマウイルス(HPV)が関与していることが明らかにされている。そのため、高齢者に罹患率の高い他のがんと異なって、性活動が活発となる若い年代からの罹患が見られている。 |
○ | その他の要因としては、ホルモンや妊娠出産との関係等も考えられている。発症のライフスタイル因子として、活発な性活動、多妊・多産、喫煙などが指摘されている。 |
○ | 子宮頸部がんの進展は一般に緩徐であり、前がん段階から浸潤がんとなるのには、2〜3年かかると言われている。 |
○ | わが国の子宮頸部がんは、年間約7千人が罹患し、約2千人が死亡している。 |
○ | 子宮頸部がんの年齢調整罹患率は、浸潤がんで見ると、1975年時点で10万人当たり17.5人であったものが、1998年には、10万人当たり9.3人と減少傾向にある。20歳〜24歳では、1975年に10万人当たり0.7人であったものが1998年で10万人当たり0.5人に、25歳〜29歳では、10万人当たり1.7人から10万人当たり3.5人になっている。しかし、上皮内がんも加えると、20歳〜24歳では、10万人当たり1.0人から10万人当たり2.1人に、25歳〜29歳では10万人当たり2.9人から10万人当たり11.4人となっている等、若い年齢層では罹患率が増加傾向にある※5。 |
○ | 子宮頸部がんによる死亡は、治療技術の進歩や検診による早期発見等によって減少しており、2002年で2,443人であり、年齢調整死亡率は10万人当たり2.7人となっている※6。 |
○ | 子宮体部がんの発症原因は、遺伝や人種、ホルモン、肥満、妊娠出産との関係等が考えられている。発症のライフスタイル因子としては、未妊・未産、閉経、肥満、高血圧、糖尿病等が指摘されている。 |
○ | 子宮体部がんは不正性器出血を契機に発見されることが多い。病状が進行していない早期の段階で出血をきたすことが多いことから、予後は良好なことが多い。 |
○ | 欧米諸国においては、子宮がんに占める体部がんの割合が高く、罹患率もわが国より極めて高い状況にある。 |
○ | わが国の子宮体部がんの年齢調整罹患率は、1975年時点で10万人当たり1.8人であったが、1998年では10万人当たり5.8人と増加傾向にある※5。罹患率は50歳〜69歳で高くなっている。 |
○ | わが国の子宮体部がんによる死亡は、2002年で1,299人であり、年齢調整死亡率は10万人当たり1.3人となっている※6。 |
2 | これまでの老人保健事業に基づく乳がん検診及び子宮がん検診の取組と現状 |
○ | 1987年より、乳がん検診は老人保健事業に基づいて実施されている。30歳以上の者に対して視触診により実施されてきたが、2000年からは50歳以上の者にマンモグラフィが導入されている。 |
○ | 2002年度に市町村が実施した乳がん検診の受診者は、3,337,202人、受診率12.4%となっており、受診率は依然として低い状況にある。また、マンモグラフィによる検診の受診者は、563,082人、受診率はわずかに2.1%となっている※7。 |
○ | 2002年度に乳がん検診を実施している市町村は全体の97.1%※8であり、ほとんどの市町村で実施されている。一方、マンモグラフィによる検診を実施している市町村は、2000年以降年々増加傾向にあるが、2002年度で約48%※9と報告されており、導入後3年を経過した時点でもマンモグラフィの普及は進んでいない状況にある。 |
○ | 乳がん検診により、2002年度に4,250人にがんが発見されている。方法別に見ると、視触診単独によるがんの発見率は0.11%、マンモグラフィ併用によるがんの発見率は0.19%となっており、マンモグラフィを併用した場合の発見率の方が高くなっている※7。 |
○ | 1982年の老人保健事業の創設と同時に子宮頸部の細胞診による子宮がん検診が開始された。 |
○ | 2002年度に子宮頸部がん検診を実施した市町村は全体の99.9%※8であり、ほとんど全ての市町村で実施されている。 |
○ | 2002年度に市町村が実施した子宮頸部がん検診の受診者は、3,863,380人、受診率14.6%となっている。検診によるがんの発見は2,281人で、発見率は0.06%となっている※7。 |
○ | 1987年より、子宮がん検診の受診者のうち医師が必要と認める者(原則として、最近6か月以内の不正性器出血を訴えたことのある者で、(1)年齢50歳以上の者、(2)閉経以後の者、(3)未妊婦であって月経不規則の者、のいずれかに該当する者)に対し子宮体部の細胞診による子宮体部がん検診が導入されている。 |
○ | 2002年度に市町村が実施した子宮体部がん検診の受診者は、349,118人、子宮頸部がん検診受診者のうち9.04%に実施された。検診によるがんの発見は311人で、発見率は0.09%となっている※7。 |
○ | 2002年度に子宮体部がん検診を実施した市町村は全体の44.1%※8であり、半数以上の市町村では実施されていない。 |
○ | 現在老人保健事業に基づき実施されている乳がん検診については、主に視触診単独検診によって実施されているが、視触診単独で行われる検診については、死亡率減少効果がないとする相応の根拠があるとされている※1。 |
○ | しかしながら、視触診は乳がんの発見の契機となることは多く、臨床の場では患者自身が自己触診で発見したもの、検診による視触診で発見されたものが多くを占めている。 |
○ | 乳がんを早期発見して乳房の温存を目指す観点からは、しこりを発見する視触診単独では必ずしも十分な検査法であるとは言えない。また、視触診による検診が、医師の確保が困難である等の理由から、視触診の手技に十分に習熟していない医師によって実施されることもあり、検診精度の面の問題点も指摘されている。 |
○ | わが国においては、特に罹患率の高い40歳代に対しては、これまで視触診による検診が実施されているが、今後は、精度の高い検診を実施することにより、乳がんの早期発見を図る必要がある。また、30歳代については、乳がん検診の有効性に関する根拠となる報告はなされておらず、他の年齢階級と比べても、検診によるがんの発見率は低くなっている。 |
○ | 一方、乳がんについて、特に若年者のQOL等を勘案した場合に、乳がん検診の有効性を「死亡率減少効果」のみで判断して良いのか、という意見もあった。 |
○ | また、乳がん検診の受診率が低いという問題に加えて、マンモグラフィの導入がなされていない市町村が約半数にのぼるなど、体制が未整備なままでマンモグラフィの導入を検討することの是非についても議論があった。 |
○ | 現在わが国においては、診療用も含めて約3,000台のマンモグラフィ撮影装置がある。しかし、日本医学放射線学会の仕様基準を満たすものはそのうち約半数である。仕様基準を満たさないマンモグラフィは、鮮明な画像を得るためにも、今後更新される必要がある。仕様基準を満たさないものの中には、放射線の散乱を防ぎ、画像を鮮明にするグリッドのないものも含まれており、グリッドのないマンモグラフィで撮影した場合、300ミクロン以下の微細な石灰化像が見逃されることも指摘されている。 |
○ | また、マンモグラフィ検診の実施においては、撮影や読影に専門的な知識・技術が求められる。マンモグラフィの普及のためには、習熟した撮影技師、読影医師の確保が必要である。 |
○ | マンモグラフィ検診に必要な装置や人材については、それらの配置状況に地域較差があることが指摘されている。 |
○ | 子宮頸部がん検診についても、受診率が低いことが指摘されている。 |
○ | 特に、20歳代後半の罹患率が増加しており、今後も患者数の増加が見込まれることから、早期発見に向けた対策が必要である。 |
○ | 欧米諸国の例を見ると、子宮頸部がん検診の開始年齢を初交年齢や20歳とするのが一般的となっている。また、対象年齢に上限を設定している国も多い。 |
○ | 欧米諸国では、3回連続して異常を認めなかった場合には検診頻度を3年に1度とする等、受診間隔を延長している例が多い。 |
○ | わが国の子宮体部がんによる死亡は増加しており、50歳代を中心に罹患率の上昇を認めている。 |
○ | 前述の通り、欧米諸国においては、子宮がんに占める体部がんの割合は高く、罹患率もわが国より高い。現時点で諸外国において子宮体部がん検診を実施している例はみられない。しかしながら、近年、欧米諸国においても有訴者及びホルモン補充療法を受けている者を対象に、わが国で行われている細胞診と同様の器具を用いた細胞診及び組織診が外来診療で実施され、一定の有効性が示されている例もある。 |
○ | 現在わが国で行われている子宮体がん検診の実施については、地域によって較差があり、対象者の選定等に問題があることが指摘されている。 |
○ | マンモグラフィによる乳がん検診については、検診による死亡率減少効果があるという報告がなされている※2※3。 |
○ | 欧米諸国においては、乳がんの罹患率が60歳以上で高く、マンモグラフィに視触診を併用していない国が多く見受けられる。 |
○ | 健康な者にマンモグラフィを使用する場合には、それによる放射線被曝の不利益を考慮する必要がある。しかし、40歳以上においては、乳がんからの救命効果による利益が不利益を大きく上回ることが報告されている※10。 |
○ | これらのことから、乳がん検診におけるマンモグラフィの適応を40歳以上とし、マンモグラフィによる検診の普及を一層推進すべきである。ただし、40歳代は、乳腺密度が高く、精度が十分でないため、マンモグラフィは2方向撮影とすべきである。 |
○ | 視触診単独による乳がん検診については、現在のところ、検診による乳がんの死亡率減少効果がないとする相応の根拠があるとされている※1。 |
○ | マンモグラフィと視触診の併用による乳がん検診については、現在のところ、50歳以上においては検診による乳がんの死亡率減少効果があるとする十分な根拠がある。また40歳代においては検診による乳がんの死亡率減少効果があるとする相応の根拠がある※1。 |
○ | わが国では、乳腺密度が高い40歳代や50歳代の女性の罹患率が高いことから、マンモグラフィ単独では十分な精度が得られないため、マンモグラフィと併用して視触診を実施すべきである。 |
○ | さらに、精度管理が適切に行き届いたマンモグラフィによる検診の実施体制が整備されるまでは、その精度を補完するためにマンモグラフィと視触診を併用するのが妥当である。 |
○ | なお、マンモグラフィに併用して実施する視触診についても、その精度管理が重要であり、医師会や関係学会等が開催する研修を受けた者等の習熟した医師によって実施されなければならない。 |
○ | 超音波検査は、乳がんの臨床において有用な検査であるが、現在のところ検診における乳がんの死亡率減少効果について根拠となる報告はなされていない※1。 |
○ | このようなことから、超音波による検診について、今後その有効性の検証を行うとともに、機器や撮影技術及び読影の技術の標準化、検診における診断基準の確立が課題である。超音波検査については、今後、マンモグラフィで病変が描出されにくい、乳腺密度が高い受診者に対しての活用を検討すべきである。 |
○ | 30歳代については、現在のところ、検診による乳がんの死亡率減少効果について、根拠となるような研究や報告がなされていないため、今後引き続き調査・研究を行うことが必要である。 |
○ | 本検討会としては、乳がんの罹患の動向や検診による死亡率減少効果、発見率等から判断し、40歳以上とすることが妥当である。 |
○ | わが国において、マンモグラフィと視触診の併用による検診の適正な受診間隔について、早期乳がん比率と中間期乳がん発生率から検証した結果※11、2年に1度とすることが適切である。 |
○ | 子宮頸部の細胞診による子宮頸部がん検診は、現在のところ、検診による子宮頸部がんの死亡率減少効果があるとする十分な根拠がある※1とされており、精度の高い検診手法である。わが国の子宮頸がん検診の精度管理については、欧米諸国と比べて同等以上の水準にあると言われている。 |
○ | 子宮頸部がんの発症に関与しているヒトパピローマウイルスの検査は、現在のところ、検診による子宮頸部がんの死亡率減少効果について根拠となる報告がなされていない※1。検診としてのヒトパピローマウイルス検査は、今後その有効性の検証を行うことが必要である。 |
○ | 子宮頸部がん検診の対象年齢については、20歳以上を受診可能とし、特に若年層に対しては、活発な性活動などのライフスタイル因子の周知により積極的な受診を促すべきである。 |
○ | 子宮頸部がん検診については、受診間隔を延長しても有効性が十分保たれるという報告※12※13があり、2〜3年に1度の受診頻度で有効性が示されている。 |
○ | 罹患のリスクが上昇傾向である20歳代に対して十分に受診の機会を提供することや、実際に市町村が実施・管理する体制等を勘案し、総合的に判断すると、2年に1度とすることが妥当である。 |
○ | 過去に検診を受診したことが無い者については、特に積極的な受診が求められる。また、わが国では、初回妊娠時に初めて産婦人科を受診するということも多いことから、妊婦健診時に、子宮頸部がん検診も併せて実施していくべきである。 |
○ | 子宮体部の細胞診による子宮体部がん検診は、現在のところ、検診による子宮体部がんの死亡率減少効果について根拠となる報告はなく※1、引き続き検討が必要である。早期発見は、子宮の温存につながる可能性があり、死亡率減少効果のみならず、このようなQOLの観点も含めた有効性の検証が必要である。 |
○ | 検診により発見されたがんと外来受診で発見されたがんの比較では、検診発見群の予後が良いという報告がある※1。一方、検診による子宮体部がんの診断について、現在行われている子宮体部の細胞診は、子宮頸部の細胞診に比較すると、感度がやや劣るという指摘がある。 |
○ | 子宮体部の細胞診の採取時には、軽微な疼痛や出血を伴うことがある。また、未産婦や帝王切開による分娩のみの経験を持つ閉経女性に対しては、子宮口閉鎖などにより、子宮体部の細胞診の実施が困難な場合もある。 |
○ | このように、子宮体部の細胞診については、検査の安全性や精度についてのガイドラインの整備が必要である。 |
○ | 子宮頸部がん検診受診者のうち、有症状者及びハイリスク者に対しては、十分な安全管理のもとで多様な検査を実施できる適切な医療機関の受診を勧奨すべきである。ただし、希望者については、検査の安全性や精度等についての十分な説明を行い、同意を得た者に対して、子宮体部の細胞診を実施する。 |
○ | 今まで述べてきたことを踏まえ、本検討会としては、検診によるがんの死亡率減少効果の観点から、以下を提言する。 |
(1)検診方法
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(1)検診対象年齢
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(1)検診対象年齢
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○ | マンモグラフィによる検診については、速やかに導入を図るべきであり、2005年度からは全市町村で受診が可能となるよう、国や都道府県、市町村及び検診機関、関係団体等が連携し、必要な措置を行っていくことが必要である。 |
○ | マンモグラフィによる検診においては、機器の精度管理や撮影する技師及び読影する医師の確保ならびに質の向上が重要であることから、国や都道府県、市町村及び国立がんセンター、医師会、学会等の関係団体が互いに連携し、検診に携わる放射線技師や医師等に対する研修の充実、人員の確保に努め、十分な精度管理のもとに実施されるよう取り組んでいくことも必要である。 |
○ | また、検診後に精密検査を実施する医療機関における精度の確保も重要課題であり、これに取り組んでいくことも必要である。 |
○ | わが国では、妊娠時の健診をほとんどの妊婦が受けているが、子宮頸部がん検診の効率的な実施のために、初回妊娠時の妊婦健診などの場で子宮頸部がん検診を併せて実施すべきである。 |
○ | わが国の乳がんは女性の一生を通じて見た場合に、概して30人に1人以上が罹患する疾患となっている。乳がん検診を受けない理由として、自分には関係ないと思っている女性が多いと言われており、今後、検診や治療について普及啓発や教育を充実すべきである。特に40歳代からの罹患率が高いことから、早期発見するために2年に1度マンモグラフィによる検診を受けることを強調しなければならない。 |
○ | 自己触診については、日常の健康管理の一環として実施し、それによりしこりが触れるなどの自覚症状を認めるときは、検診の機会を待つことなく、速やかに乳房疾患の治療を専門とする診療科(乳腺外科等)を受診することが重要であり、このための普及啓発をより一層図っていくべきである。 |
○ | また、乳がんについて、症状や検診、治療法等について不安を持つ女性も多く存在することから、個別の相談体制について充実を図っていく必要がある。 |
○ | 子宮がんについては、子宮頸部がんと子宮体部がんが混同されるなど、国民の知識は十分ではない。子宮頸部がんと子宮体部がんとで発生する部位が異なるだけでなく、その好発年齢やライフスタイル因子、検診の方法、治療の方法等が異なっていることなどについて、国民に対して、広く周知することが必要である。 |
○ | 特に、子宮頸部がんの多くは、性感染症であるヒトパピローマウイルスが関与している。このため、ヒトパピローマウイルス感染の予防等の普及啓発を図るべきであり、その効果的推進のために、若年者への性教育と連動した子宮頸部がんについての健康教育を実施すべきである。 |
○ | 子宮体部がんについては、検査の適応、検査方法及びその精度、安全管理、検査後の診断及び治療について検証することが必要である。そのため、日本産科婦人科学会を中心とする関連学会等によって、子宮体がんについてのガイドラインが速やかに作成されることが望まれる。 |
○ | 本中間報告書は、増加を続けるがんの死亡率の激減を目指して、有効ながん検診を確立することを目的としてとりまとめたものである。今年度は、乳がんと子宮がんについて検討を行ったが、今後、引き続き市町村で実施されているがん検診や新しいがん検診についても検討していく予定である。 |
○ | 国や都道府県、市町村においては、本中間報告を踏まえ、乳がん検診及び子宮がん検診の方法及び対象、実施体制等の見直しや整備を行うとともに、医療関係者及び国民への普及啓発など具体的な方策を検討・実施することを期待する。 |
○ | また、検診関係者においては、あらゆる機会を通じて本中間報告の内容の国民への普及啓発に努めるとともに、国民が希望する「効果のあるがん検診」が実施できるよう、あらゆる努力を図ることを期待する。 |
○ | さらに、本中間報告書を契機として、国民ひとりひとりが、がんの予防についての知識を高め、自らがんの発生を予防する活動を実践することを願っている。 |
※1 | 「新たながん検診手法の有効性の評価報告書」:財団法人日本公衆衛生協会,2001.3.(久道茂,他) |
※2 | Hendrick RE, Smith RA, Rutledge JH, Smart CR. Benefit of screening mammography in women aged 40-49: a new meta-analysis of randomized controlled trials. Journal of National Cancer Institute Monograph, 22 : 87-92, 1997. |
※3 | US Preventive Services Task Force. Screening for breast cancer: recommendations and rationale. Annals of Internal Medicine, 137: 344-346,2002. |
※4 | Shapiro S, Coleman A, Broeders M, et al. Breast cancer screening programmes in 22 countries: current policies, administration and guidelines. International Journal of Epidemiology, 27: 735-742,1998. |
※5 | 厚生労働省がん研究助成金による『地域がん登録』研究班(主任研究者:津熊秀明)の推計値(The Research Group for Population-based Cancer Registration in Japan: Cancer incidence and incidence rates in Japan in 1998: estimates based on data from 12 population-based cancer registries . Jpn J Clin Oncol ,33 (5) 241-245,2003.) |
※6 | 平成14年度 人口動態統計(厚生労働省大臣官房統計情報部) |
※7 | 平成14年度 地域保健・老人保健事業報告(厚生労働省大臣官房統計情報部) |
※8 | 平成14年度 地域保健・老人保健事業報告(厚生労働省大臣官房統計情報部)で受診者が計上されている市町村の割合 |
※9 | 「がん検診に関する効果的な推進手法の開発に関する検討」:財団法人日本公衆衛生協会,2003.3.(辻一郎,他) |
※10 | 「乳房撮影を用いる乳がん検診の利益と被曝によるリスク」日本乳癌検診学会誌3(3):227-236,1994.(飯沼武,他) |
※11 | 「早期乳癌比率と中間期乳癌発生率からみたマンモグラフィ併用検診の適正な検診間隔」日本乳癌検診学会誌 5(2): 245-248,1996.(大内憲明,他) |
※12 | Sawaya GF et al Risk of cervical cancer associated with extending the interval between cervical-caner screenings. N Engl J Med, 349:1501-9,2003. |
※13 | Sasieni P et al Benefit of cervical screening at different ages: evidence from UK audit of screening histories. Br J Cancer, 89: 88-93,2003. |
安達 知子 | 東京女子医科大学産婦人科学助教授 | |
遠藤 登喜子 | 国立名古屋病院放射線科医長 | |
大内 憲明 | 東北大学大学院医学系研究科教授 | |
○ | 垣添 忠生 | 国立がんセンター総長 |
斎藤 博 | 国立がんセンターがん予防・検診研究センター検診技術開発部長 | |
櫻井 秀也 | 日本医師会常任理事 | |
笹子 充 | 国立がんセンター中央病院第一領域外来部長 | |
清水 弘之 | 岐阜大学医学部公衆衛生学教授 | |
田中 憲一 | 新潟大学医学部産婦人科学教授 | |
土屋 了介 | 国立がんセンター中央病院副院長 | |
渡邊 昌彦 | 北里大学医学部外科学主任教授 | |
(敬称略、五十音順、○は座長) |
2003年 第1回(12月3日)
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2004年 第2回(1月16日)
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第3回(1月27日)
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第4回(2月26日)
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第5回(3月12日)
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第6回(3月18日)
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照会先: | 厚生労働省老健局老人保健課 03(5253)1111(代) 椎葉(内3941) 西村(内3946) |