戻る

全身性障害者等長時間介護が必要な者に関する支援の在り方
作業班における議論 (案)

作業班委員

芦田 真吾  東京都福祉局障害福祉部在宅福祉課長
板山 賢治  (福)浴風会理事長
太田 修平  日本障害者協議会理事・政策委員長
大濱 眞  (社)全国脊髄損傷者連合会副理事長
高橋 紘士  立教大学コミュニティ福祉学部教授
谷口 明広  自立生活支援センターきらリンク運営委員長
中西 正司  (NPO)DPI日本会議常任委員
 全国自立生活センター協議会代表
森 祐司  (福)日本身体障害者団体連合会事務局長
山路 憲夫  白梅学園短期大学福祉援助学科教授
(五十音順)
◎は、本作業班の議長


検討の経過

第1回
 日時平成16年2月23日(月) 13:00〜15:30
 議事
 (1)作業班の進め方について
 (2)全身性障害者等長時間介護が必要な者に関する支援の在り方について
 (3)その他

第2回
 日時 平成16年3月10日(水) 13:00〜17:00
 議事
 (1)関係者からのヒアリング
(1)光岡 芳晶氏 (NPOすてっぷ理事長)
(2)小峰 和守氏 (療護施設自治会全国ネットワーク代表)
(3)川島 孝一郎氏 (仙台往診クリニック医師)
(4)新田 勲氏 (全国公的介護保障要求者組合 委員長)
 (2)その他

第3回
 日時 平成16年3月29日(月) 10:00〜12:00
 議事
 (1)全身性障害者等長時間介護が必要な者に関する支援の現状と課題について
 (2)作業班における検討のまとめについて
 (3)その他


検討内容

1.全身性障害者等長時間介護が必要な者が地域生活を送る上での主なニーズについて

 全身性障害者等長時間介護を必要とする者の範囲、地域生活支援の基本的な考え方や主なニーズとその支援の事例は、次のとおりである。

 全身性障害者等長時間介護を必要とする者の範囲
 全身性障害者等長時間介護を必要とする者のおおよその範囲は、『日常生活において、多くの場面で人的支援(コミュニケーション支援・見守り・付き添いなど)を必要とするような、障害の重い全身性障害者等及び、特に、医療的ケア及びコミュニケーション支援・見守り等を日常的に必要とする者。』

 地域生活支援の基本的な考え方
 地域社会の中で自立した生活が実現されるよう、個々人の生活スタイルにあったサービスが用意され、そのサービスは、利用者の自己選択・自己決定したニーズに基づき、サービスが展開されるとともに、社会参加活動に対する支援を十分に行えることが重要である。

 主なニーズとその支援の事例
 全身性障害者等長時間介護が必要な者が地域生活を送る上での主なニーズで、特にニーズの高いいくつかの代表的な事例とその支援の組み合わせは、次のとおりである。

ニーズの高い事例 支援の事例
吸引、呼吸器管理を必要とする者
脳性マヒなどの突然の強い緊張を緩和する服薬介助を必要とする者
頚椎損傷の突発的な痙攣や血圧低下への介助を必要とする者
医療的ケアと断続的な介護との組み合わせ
補水、体位変換(体位の頻繁な調整等)、体温調整、排尿排便の介護等を必要とする者 断続的な介護との組み合わせ
活動や環境等の変化への対応を必要とする者 ・行動の促し、見守り、心理的側面での支援(気持ちをやわらげる、考えを整理する手伝い、安心感を与えるなど)や緊急事態への対応等の支援の組み合わせ
・移動や社会参加の直接的、間接的な支援の組み合わせ
来訪者や電話等の応対を必要とする者 情報入手・コミュニケーションに対する個別的な支援との組み合わせ
上記のいくつかのニーズが重複する者 上記の様々な支援の組み合わせと他の支援の組み合わせ

2.全身性障害者等長時間介護を必要とする者に対する地域生活支援の現状について

 各委員やヒアリングの参考人から出された主な意見は次のとおりである。

(地域での生活支援の現状について)
 支援費ホームヘルプサービスについては、一人当たりの利用時間に地域格差があるほか、サービスの内容ごとに大きな差がある。
 ALS等医療的ケアを必要とする者に対する支援は生命の維持を中心とした特殊な身体介護であり、介護保険、支援費は、ほとんどが生命の維持に使われている。
 ALSについては、限定的な痰の吸引をホームヘルパーが行うことが現在でも可能であるが、このようなニーズを持つ者はALSだけではない。
 人工呼吸器使用者については、呼吸器装着という理由により、デイサービスやショートステイの利用を拒否される場合があり、日中の介護が家族の負担となっている例がある。
 全ての全身性障害者が24時間の支援が必要とは限らない。また、知的障害者(強度行動障害者)の中にも長時間の支援が必要な者もいる。
 全身性障害者の持つ障害は、言語障害等様々な複合的要素がある。特に、一人暮らしの場合、見守り・付き添い・コミュニケーション支援などが必要となり、上記の障害が軽度であっても、長時間介助を必要とする場合がある。

(施設等の利用者の現状について)
 療護施設入所者は、高度な医療、手厚い看護を必要とする者と地域での生活支援体制が整っていないため、仕方なく入所しているという2パターンに分かれているというアンケート調査の結果もある。
 療護施設入所理由として、入所となった原因がまだ解消されていない。例えば、楽に生活ができる、濃密な介護が必要である、新しい価値観を施設へ求めているというパターンに分けられるというアンケート調査の結果もある。
 地域生活に移行する場合の不安は、市町村の受入れ体制ができていない、住宅の保障がない、家族へ負担をかけたくないとの理由であるというアンケート調査の結果もある。

3.全身性障害者等長時間介護を必要とする者に対する支援の主な課題と今後の対応について

 地域生活支援の在り方や支援費制度の主な課題と今後の対応について、各委員やヒアリング参考人から、様々な意見が出され、その主な意見は次のとおりであった。

(地域での生活支援について)
 医療的ケアを必要とする者や、言語障害などによってコミュニケーションに困難が伴う者については、長時間同じ介護者が支援する方法の検討が望まれた。
 障害者が地域で暮らすには、家族から独立して生活をする支援体制が不十分であるとの指摘があった。
 重度障害者の生命の維持とともに、家族の介護疲労の軽減が必要で、習熟したホームヘルパーが家族と同様の長時間介護を行うこと等により、家族が休養をとることができるような仕組みを検討する必要があるとの指摘があった。
 地域生活を行うにあたり、どのような居住形態が必要か議論することが望まれる。例えば、身体障害者のグループホームを作ることは、在宅サービスの利用量の限定をする可能性があるので採用しない。
 就労、日中活動、緊急サービスをどうしていくか、ホームヘルプサービス以外のサービスをどう組み合わせるのかを検討する必要があるとの指摘がある。特に、緊急時以外にも、希望する障害者に対しては、必要なときに呼べる待機ヘルパーを用意するなどの仕組みを考える必要がある。

(施設等の利用者の地域生活移行について)
 施設から地域生活への移行については、自立生活体験室等を使ってサービスの試行的な利用を行い、初回のアセスメントはピアアセスメント(※)で行った上で、自分のニーズを把握しながら支給決定を行っていく、体験的自立のための支援費利用を制度化し、従来のアセスメントを越える公明性を持たせる必要がある。
(※)ピアアセスメント: 自分と同じ種類・同じ程度の障害者と相談しながらニーズを確認していくプロセス
 さらに、地域生活に移行するにあたり、入所施設から地域移行への過程と利用方法を併せて検討する必要がある。
 地域生活への移行については、地域生活の体験や情報提供、家族や施設への情報提供をしながら自立しやすい環境を作っていくこととエンパワメント支援が重要である。
 施設の役割については、これまでのサービスを充実させる役割と地域移行をサポートする役割の2本化が必要である。
 施設で暮らしている障害者が地域社会での生活を希望した場合、除々に地域に出ていけるようなシステム・応援体制が必要である。
 施設から地域への移行を支援するため、施設入居者が自立生活体験室や外出体験をしていくために、その費用を支援費から受けられるよう、時間割で施設訓練等支援費と居宅支援費をトレードオフできるようにする仕組みが必要である。
 一部の自治体に利用者が集中することを避けるため、障害者の出身地の自治体に負担を求めるような方策をとる仕組みが必要である。

(人材について)
 医療技術やコミュニケーション技術といった特殊技能があるヘルパーには訓練期間が必要で、特にALSや呼吸器の管理が必要な障害者、ALSや足指文字などのコミュニケーションの時間がかかる障害者、筋ジストロフィー・頚椎損傷・脳性マヒなどの微妙な体位交換など、介助に習熟するまでの時間がかかるので、新旧のヘルパーが並行して入る時間を必要なだけ併給する仕組みが必要である。
 医療的ケアのニーズからホームヘルパーが准看護師の資格をとる事例があり、取得には夜間でも3年間を要していた。個々人によって、十分な知識と技術を習得するのに必ずしも3年必要というわけではないので、看護資格を義務付けずに、医師による実習を受ければヘルパー資格で行えるようにする必要がある。
 介護者の選択について、障害者自らが介護者を面接、採用、教育、コーディネートしたいというニーズと介護者を教育し管理できる事業者を選択するというニーズがある。

(制度の工夫について)
 パーソナルアシスタンスを希望する障害者に対しては、介護者と直接契約を結ぶことができるように、介護費用を本人に支給するダイレクトペイメントなど、障害者の自立性や自主性を尊重する新しい仕組みを検討することが必要である。
 地域生活を送る上で、自立生活プログラムやピアカウンセリングといった当事者による精神的な支援、地域生活へのノウハウの支援や当事者が支援するセルフヘルプ等の支援を制度に仕組めるか議論することが必要である。
 障害者と高齢者とでは違いがあり、障害者は自立と社会参加することが大切であり、高齢者と意識やニーズが違うので、障害者の場合は自立と社会参加をどう捕らえるかという視点での議論が必要である。
 在り方検討会としてケアと自立の概念を以下のように定めることが必要である。
 ケアの概念: 日常生活において、本人が行きたいと思う身体・知的・精神活動で、本人だけではできなかったり、困難だったりするときに、それを人的、心理的、側面的に支援することである。つまり、映画、デート、旅行、セミナーに行く、本を読む、計算をする、字を書く、話相手になることによって、気持ちをやわらげる。考えを整理する手伝い、そばにいることによる安心感、緊急事態には来てくれる体制などを含む概念。
 自立の概念: 身辺的自立や経済的自立はできなくても、他者・家族・専門家・行政などに自分に関することの決定を委ねず、必要な場合に情報提供等のサポートを得ながら、自ら選択し、決定し、その結果に責任を負うこと。また、日々の生活の中で、他者への依存を最小限にすること。

(サービス利用にあたっての諸課題について)
 ケアマネジメントは一般論としては必要だが、単にケアマネ−ジャーと言うと介護保険制度における介護支援専門員が実施するケアマネジメントと同一視されるので、ケアマネの内容を十分吟味し、その在り方としてセルフマネジドケアを踏まえた生活支援の目的を確立するケアマネジメントの検討が必要である。
 介護時間や介護費用の認定は、本人の障害状況と生活希望に沿ったものを基本とし、市町村が要否決定を行う場合には、本人と市町村が協議して、障害者のニーズを組み入れることが必要であり、問題が生じる場合は、障害当事者団体や地域福祉団体を交えて、本人と市町村が協議して決定をする仕組みや障害当事者が含まれている権利擁護機関の充実について検討が必要である。
 現在の勘案事項におけるアセスメントは現状のアセスメントツールの中で利用者にとっても最もニーズを伝えやすいツールであるのでこれを残すことが必要である。
 ケアプランづくりを義務づけられない支援費制度は利用者にとって使いやすいものとなっている。また、現在の勘案事項による支給決定は全身性障害者のニーズを反映できる適切なものである。
 支援費制度は制度である以上、市町村が支給を決定している。支給決定においては、当事者の希望を尊重しながらも、どういう支援が必要か、その必要なサービスの質や量に客観性があるのか、客観性のある物差しづくりについての検討が必要である。
 支援の在り方、サービスの在り方論は重要である。一方、資源は有限であるため、どういう支援が障害者には必要で、そのためにはどれくらい費用が必要なのかについて、国民一人ひとりが納得し得る社会的な合意が必要である。

 (作業班の資料から一部抜粋)
【参考】全身性障害者等長時間介護が必要な者に係る年間所要額の例
ホームヘルプサービス(日常生活支援)24時間利用する場合の年間所要額
年額:15,662,150円
(日中)(2,410(1.5h)+40,500円(22.5h))×365日=15,662,150円
 ※ 丙地の場合

ALS等医療的ニーズが高い障害者の1年間にかかる費用の例
月額374,846円〜1,526,986円 ×12ヶ月=4,498,152円〜18,323,832円
 うち療養費総額に対する支援費総額は、
月額139,887円〜 636,753円 ×12ヶ月=1,678,644円〜7,641,036円

 ※ 仙台往診クリニック提供資料


トップへ
戻る