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視覚障害者・聴覚障害者に関する支援の在り方作業班における議論 (案)

作業班委員

芦田 真吾  東京都福祉局障害福祉部在宅福祉課長
大杉 豊  (財)全日本聾唖連盟本部事務所長
板山 賢治  (福)浴風会理事長
笹川 吉彦  (福)日本盲人会連合会長
高橋 紘士  立教大学コミュニティ福祉学部教授
山路 憲夫  白梅学園短期大学福祉援助学科教授
(五十音順)
◎は、本作業班の議長


検討の経過
第1回
 日時平成16年2月9日(月)13:00〜15:00
 議事
 (1)作業班の進め方について
 (2)視覚障害者・聴覚障害者に関する支援の在り方について
 (3)その他

第2回
 日時 平成16年2月24日(火)14:00〜17:00
 議事
 (1)関係者からのヒアリング
(1)小林 文雄氏(社会福祉法人日本盲人会連合総合企画審議会副委員長)
(2)清田 廣氏(社団法人大阪聴力障害者協会会長)
(3)福島 智氏(東京大学先端科学技術研究センターバリアフリー分野助教授)
 (2)その他

第3回
 日時 平成16年3月25日(木)14:00〜17:00
 議事
 (1)情報・コミュニケーション支援の現状と課題について
 (2)作業班における議論の整理について
 (3)その他


検討内容

1.視覚障害者・聴覚障害者等が地域生活を送る上での主なニーズについて

 視覚障害者・聴覚障害者等が地域生活を送る上で、障害の特性に応じて、特に大きいニーズは次のとおりである。

○ 視覚障害者= 移動の自由が確保されることと情報入手・コミュニケーションに対する読み書き面での支援

○ 聴覚障害者= 情報入手・コミュニケーションに対する手話等を主な手段とする支援

○ 盲ろう重複障害者= 移動の自由が確保されることと情報入手・コミュニケーションに対する指点字、触手話等個別の支援

【参考】
視覚障害者の総数 301,000人

聴覚障害者の総数 305,000人

盲ろう重複障害者の総数13,000人

 *平成13年度身体障害児・者実態調査

【参考】
視覚障害者の点字取得状況
(単位:千人)
総数 点字が
できる
点字ができない 回答なし
小計 点字必要 必要なし 回答なし
301
(100.0)
32
(10.6)
229
(76.1)
17
(5.6)
201
(66.8)
11
(3.6)
40
(13.3)
 
聴覚障害者のコミュニケーション手段の状況 (複数回答)
(単位:千人)
総数 補聴器や
人工内耳等の
補聴機器
筆談・
要約筆記
読話 手話・
手話通訳
その他 不詳
305
(100.0)
241
(79.0)
75
(24.6)
19
(6.2)
47
(15.4)
52
(17.0)
134
(43.9)


2.視覚障害者・聴覚障害者等に対する地域生活支援の現状について

 移動の支援
 支援費サービスの移動介護(ガイドヘルプサービス)が支援の中心。また、地方公共団体が実施する各種の施策に対する補助を行っている。

【参考】
サービス名内容
支援費サービス移動介護(ガイドヘルプサービス)
障害者社会参加総合推進事業身体障害者補助犬育成事業
補装具の給付盲人安全つえなど

 情報、コミュニケーション支援援
 地方公共団体等が実施する各種の施策に対する補助を行っているほか、障害者関係団体が実施主体になって事業を実施している。

【参考】
サービス名内容
視聴覚障害者情報提供施設点字図書館、聴覚障害者情報提供施設など
障害者社会参加総合推進事業点字による即時情報ネットワーク事業、手話通訳者養成・研修事業、盲ろう者向け通訳・介助員派遣試行事業など
補装具の給付点字器、補聴器など
日常生活用具の給付又は貸与視覚障害者用活字読上げ装置、聴覚障害者用情報受信装置など
身体障害者福祉促進事業委託費による実施点字図書、声の図書の製作貸出し、手話通訳指導者の養成研修、盲ろう者向通訳者養成研修など

 放送通信を通しての情報支援
 字幕番組、解説番組等障害者向け放送通信サービスを実施している。


3.視覚障害者・聴覚障害者等に対する支援の主な課題と今後の対応について

(1)視覚障害者・聴覚障害者の支援費サービス利用について

ア.視覚障害者・聴覚障害者のサービス利用手続き等

 支援費サービスの利用に当たって必要となる諸手続き(支給申請をはじめ、変更手続きや事業者とのサービスの利用契約手続きなど)が、視覚障害者が苦手とする筆記が主体となっている。また、事業者の情報についても紙媒体やホームページ上で提供されることが多く、視覚障害者に対する配慮が十分とは言えない。

 契約に基づく利用者本位の支援費制度が、却って利用を妨げることになってはならないよう、相談、情報提供からサービス利用にいたるまで、点訳・音訳、代筆・代読等のきめ細かな利用支援が講じられることが必要である。

 聴覚障害者が支援費サービスを利用しようとする場合には、手話等のできるホームヘルパー等がいなければ、必要な支援を受けることができない。また、重複聴覚障害者には、一般的な手話通訳では対応できず、触手話など、個々の障害者に応じた支援が必要となるケースがある。こうした聴覚障害者のニーズに対応できる事業所は、非常に少ない。

 東京都では、事業者に対して、筆談・手話等個々の利用者に応じた情報提供を行うようガイドラインを作って指導している。国においては、手話ができるホームヘルパーの養成を推進するとともに、こうした先進的な利用者支援の取組みを全国に紹介するなど、広く周知を図ることが必要である。

イ.ケアマネジメント機能

 支援を必要とする視覚障害者・聴覚障害者のニーズを必要なサービスに適切に結びつけるケアマネジメントの機能を制度的に位置づけることが必要である。

(2)移動の支援(ガイドヘルプサービス)について

ア.ガイドヘルプサービスの範囲

 ガイドヘルプサービスの範囲は、「屋外での移動に著しい制限のある視覚障害者又は全身性障害者に対する社会生活上必要不可欠な外出及び余暇活動等の社会参加のための外出(通勤、営業活動等の経済活動に係る外出、通年かつ長期にわたる外出及び社会通念上適当でない外出を除き、原則として1日の範囲内で用務を終えるものに限る。)の際の移動の介護」と規定されている。

 「社会通念上適当」かどうかの判断が、市町村によって異なっており、基準を明確にすべきとの意見があるが、たとえば、次のような場合は、社会通念上適当なものとして運用すべきではないか。

I 障害者団体の大会、研修会等に参加する場合の宿泊を伴う外出
II 公共交通機関を利用することが困難な場合の自家用車利用(高齢者、過疎地)

 さらに、視覚障害者の移動介護は、通常「身体介護を伴わない」区分が適用されているが、介護保険の対象となる特定疾病による要介護者や高齢の視覚障害者の外出は「身体介護を伴う」ことが通常であり、個々の利用者の状況に応じて取り扱うべきではないか。

イ.ニーズ把握と緊急時の対応

 支援費サービスの利用に際しては、あらかじめサービスの必要量を申請した上で、支給量が決定されるが、とりわけ、ガイドヘルプサービスに関しては、ニーズの把握が困難であるとの意見がある。

 全国のガイドヘルプサービスの利用実績を見ると、支給決定の総時間に対して実利用時間は35%、東京都の実績でも45%程度にとどまっている。急なニーズに備えるために、市町村は多めに支給決定をし、利用者はサービス利用を控えることが原因と考えられる。

 利用者のニーズを十分把握するケアマネジメントの制度化とともに、病気、災害等の緊急時には、事後承認を含む柔軟な取扱いをすることについて、検討が必要である。

【参考】

身体障害者の移動介護(ガイドヘルプサービス)の支給決定・利用状況(平成15年4月分)
サービスの類型 支給決定が
あった
市町村数
支給決定 利用
延人数 時間数 一人当り時間
(時間/月)
延人数 時間数 一人当り時間
(時間/月)
移動介護
(身体介護伴わない)
773 17,253 539,201 31.3 12,034 189,372 15.7
 3,180市町村の集計
 平成15年10月28日付け「居宅生活支援サービスの利用状況調査の結果について(仮集計値)」から抜粋

ウ.人材の養成・確保

 支援費制度の施行に伴い、ガイドヘルパーとして従事するためには、国が規定する養成研修の受講が必要となったが、それまでのボランティアヘルパーの中には、何十年にもわたりサービスに携わり、利用者の信頼を得てきた方も含まれている。

 ガイドヘルパーの質と量を確保する観点から、従事実績を評価する視点を盛り込むなど、現在の養成研修の在り方について、検討が必要である。

エ.利用者負担の在り方

 措置制度下では、ガイドヘルプサービスの利用者負担は、ホームヘルプサービスの「生計中心者の前年の所得税課税年額に応じた費用負担」に対して、「当分の間、生計中心者を本人と読み替えて」算定していたが、支援費制度の実施に伴い、ガイドヘルプサービスを含む居宅サービス全般が、ホームヘルプサービスと同様の取扱いとされた。

 支援費は、サービス利用に対する対価として支払われるものであり、サービスは、障害者本人に対するものであることから、今後、利用者負担の在り方については、応能負担、応益負担に関わらず、とりわけ成人障害者が利用する場合には、現行の生計中心者を中心とするものから、利用者本人を中心とする視点へ変更するべきではないか。

(3)情報・コミュニケーション支援について

ア.制度について

 手話等コミュニケーション支援に関するサービスメニューは、対象者が少なく、専門的なサービスであることから、利用者と地域の事業者との契約利用を前提とする支援費サービスではなく、障害者福祉一般施策としての障害者社会参加促進事業を活用し、市町村を中心に実施している。

 こうした希少性のあるサービスにあっては、市町村ごとに基盤を整備する方式が馴染むのかどうか。また、個人の生活圏が拡大していることからも、広域の福祉圏や都道府県単位での情報提供支援の在り方や、当事者団体、NPO等が行う支援の在り方について、検討が必要である。

 さらには、ノーマライゼーションの理念のもと、生活のあらゆる場面で、コミュニケーションが保障されるためには、将来的に、対人サービスとしての福祉施策での取組みにとどまらず、あらゆる行政分野をはじめ、司法、立法、民間を含めた取組みが期待される。

 なお、情報・コミュニケーション支援にあっては、技術革新により、利便性が飛躍的に向上する可能性と障害者に情報格差が生じるおそれの両面がある。情報化・電子化の進展に伴い、支援の内容を絶えず更新していく工夫とともに、ユーザー自身の力を育てることが必要である。

イ.人材の養成・確保

 これまで、手話等コミュニケーション支援にあたる通訳者は、ボランティア活動や家族の協力を前提にしていた。ユーザーにとっては、使い勝手の良い便利な面もあるが、障害者のニーズが多様化する中で、こうしたボランティア的な行為だけでは限界があり、通訳者の質と量を確保する観点から、ボランティアの活動を支援しつつ、専門的な通訳者の養成を一層推進することが必要である。

 人材の養成・確保は、報酬の問題と切り離すことができない。専門的な通訳者がその技術に対する報酬だけで生活することが可能にならなければ、優秀な人材の確保は困難である。その一方で、報酬が高額化すると、サービスにより便宜を得るユーザーの利用料負担をどう考えるのかが次の課題となる。コミュニケーション支援の公益性と個人の利益性との関係を整理することが、今後必要である。

 なお、盲ろう重複障害者に対する指点字、触手話等の個別の支援にあっては、通訳者と利用者本人の能力が適合している必要がある。このため、支援に当たっては、専門的な通訳者によるサービスの提供だけではなく、障害者本人の力を育てていく視点が重要である。


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