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資料2

障害者の在宅就業に関する研究会報告書

− 多様な働き方による職業的自立をめざして −



平成16年4月

障害者の在宅就業に関する研究会


− 目次 −


 はじめに
(1)本研究会の趣旨
(2)在宅就業の概念整理

 障害者の在宅就業の実態
(1)障害者の就労実態と在宅就業
(2)アンケート調査
(3)ヒアリング

 障害者の在宅就業の課題
(1)在宅就業全般に共通の課題
(2)障害者に特徴的な課題
(3)発注元や支援団体からみた課題
(4)在宅勤務の課題

 障害者の在宅就業支援の基本的考え方
(1)障害者にとっての在宅就業の意義
(2)今後の在宅就業支援のあり方
(3)セーフティネットの必要性

 障害者の在宅就業支援策の方向性
(1)障害者の在宅就業への発注に対する奨励
(2)官公需における配慮
(3)セーフティネットとしての支援団体の整備
(4)在宅勤務の環境整備
(5)能力開発機会の提供
(6)在宅就労コーディネーターの育成

 おわりに


 はじめに
 (1)本研究会の趣旨
 21世紀に我が国が目指すべき社会は、障害の有無にかかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う共生社会である。共生社会の実現を目指し、障害者の社会参加、参画を実質的なものとするためには、障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している諸要因を除去するとともに障害者が自らの能力を最大限発揮し自己実現できるよう支援することが求められる。
 職業的な自立の面でもそうした取り組みが必要とされているところであるが、ITの普及が在宅就業という働き方に新たな可能性をもたらしていることはつとに指摘されているところであり、就業場所、就業形態についての選択可能性の広がりが、障害者の働き方にとっては特に大きな意義を有するものと考えられる。
 現に、通勤が困難な重度障害者がインターネットを活用して在宅で就業するといった例が多く見られるようになってきており、ITを活用した在宅就業が今後、このような障害者の能力に応じた就業機会を拡大し、その自立の促進を図る上での重要な方策の一つとなり得るものと考えられる。
 本研究会は、ITを活用した在宅就業による障害者の就業機会拡大のための施策のあり方について検討することを目的とし、障害者の在宅就業の実態把握やヒアリング等を行いながら、在宅就業を営む障害者が抱える問題を明らかにし、望ましい環境づくりのための施策の方向性について議論を行ってきたところである。
 このたび、その議論の結果をとりまとめたので報告する。

 (2)在宅就業の概念整理
 本研究会で取り上げた在宅就業の概念を整理すると以下のとおりである。
(i) 就業場所、就業形態、業務内容
 本研究会では、就業場所、就業形態(雇用か請負か)という視点から、障害者の就業機会の拡大の方向性を取りあげた。即ち、仮に事業主に雇用されて事業所で働く形を典型とすると、就業場所については、移動に制約のある障害者の就業機会の拡大という視点から自宅等事業所以外の場所で働くことの可能性の広がりを検討し、就業形態については、健康面の理由などから就職が難しい障害者の就業機会の拡大という観点から、雇用されて働くこともさることながらそれ以上に仕事を請負う形で働く就業形態も念頭において検討を行った。事業所以外の就業場所としては、自宅以外にサテライトオフィス等も当然考えられるところであるが、本研究会の趣旨からして必要以上に厳密な定義、機能分類等は試みず、基本的に自宅を想定して検討を行った。
 なお、就業場所、就業形態の双方に関わりがあることとして、仕事のペースや労働時間等の自由度が就業機会の拡大にとって密接な関連を有しており、これらの点も念頭において検討を行った。
 また、本研究会が、今、在宅就業を取り上げる基本的な動機、背景は、いうまでもなく障害者の就業機会拡大の可能性としてのITの普及にあり、在宅就業の業務内容もデータ・文章入力、ホームページ作成、テープ起こしなどITを活用したものを前提に、将来的にはさらに付加価値の高い業務が生まれることも念頭において、課題、支援策の検討も、必要に応じIT関連業務、就労の特性を踏まえて行った。
(ii) 用語
 本研究会が行ったアンケート調査の対象や本報告書で掲げる在宅就業の課題、 支援策の多くは、主に請負形態の在宅就業を念頭においている。これは、就業機会の拡大という観点からみたとき請負形態の在宅就業に政策課題がより多く存するとの問題意識に基づくものであり、本報告書では、原則として、請負形態の在宅就業のみを指して単に在宅就業という用語を用いることとする。なお、事業主に雇用されて自宅等事業所以外の場所で働く形態を指す場合については在宅勤務という用語を用いることとする(注)。
 また、在宅就業一般に、在宅就業者と発注元事業主の間に立って仕事の受注、分配等を行う仲介機関とよばれるものが存在するが、後に述べるように、障害者の在宅就業の場合、仲介機関の役割が、単なる仕事の仲介や情報提供等だけではなく、ビジネスマナーの習得や障害特性を踏まえた生活面も含めた相談支援にも及ぶという特徴が見受けられる。そこで、本報告書ではこうした役割を果たす者(法人)を、障害者の在宅就業を支援する団体という意味で、支援団体と称することとする。
(注) なお、「労働経済の分析」(平成13年厚生労働省)では、情報通信ネットワークを活用して時間と場所に制約されることなく仕事ができる働き方を「テレワーク」とし、そのうち非雇用で他人を雇っていない就業形態を在宅就業、雇用され自宅で働くものを在宅勤務としている。


 障害者の在宅就業の実態
 (1)障害者の就労実態と在宅就業
 障害者の在宅就業は、事業所における雇用や授産施設等におけるいわゆる福祉的就労と比較するとその人数、規模等、不明な点が多い。
 一般的な障害者の就労実態についてみてみると、雇用障害者数(従業員5人以上の事業所)は51万6千人(平成10年障害者雇用実態調査)であり、施設等に入所しておらず地域で生活している15歳から64歳までの身体障害者及び知的障害者のうち3割程度が事業所に雇用されていることになる。授産施設や作業所などの利用者、入所者は約16万7千人(平成14年調査)であり、働く障害者のほとんどは事業所とこれら授産施設等に存在するものと考えられる。
 一方、障害者の在宅就業についてはその数についての統計がないが、現状では事業所雇用やいわゆる福祉的就労と比べると、在宅就業は人数、規模ともかなり小さな存在であることは確かであろう(注)。
 在宅就業の制度環境についてみると、在宅ワーク(情報通信機器を活用して請負契約に基づきサービスの提供等を行う在宅形態での就労のうち、主として他の者が代わって行うことが容易なもの)について、紛争が起こることを未然に防止するため、契約条件の文書明示及び保存や契約条件の適正化等について、発注者が守るべき最低限のルールが「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」として定められている。
 なお、雇用関係が無くても、委託者との間に経済的な従属関係があり、労働の対償を得るために物品の製造又は加工に従事する形態(家内労働)の場合は、家内労働法により最低工賃や安全衛生上の措置等の規制が行われることとなるが、家内労働法は物品の製造又は加工に従事する者を対象としており、ITを活用した在宅就業の場合は、そのほとんどが対象外になるものと考えられる。
 このように、雇用されずに請負により在宅就業を営む場合については、家内労働法が適用されるような限られた場合を除いて労働関係法令の適用も無く、企業による勤務状況の把握・管理もなされていない。このため、労働時間や収入をはじめとして、その就労の実情は推し量りづらいものがあるとともに、様々な課題を抱えていることが考えられる。
(注) なお、「在宅ワーカーの労働者性と事業者性−在宅ワーカーへの対応・支援をめぐって−」(日本労働研究機構調査研究報告書2003)は、おおまかな推計値として在宅ワーカー全体の人口を29万人としているが、この値からみても在宅就業を営む障害者の数は雇用障害者数等と比較してかなり小さな数であることがうかがえる。

 (2)アンケート調査
 本研究会では、(1)のような問題意識を踏まえ、在宅就業の環境づくりの方策を検討するに当たり、雇用されずに請負により在宅就業を営む場合についての実態を把握するためのアンケート調査を実施した。
 アンケート調査は、まず、在宅就業を営む障害者と発注元企業の間に立つ支援団体をネット上でキーワード検索(障害者*在宅就労*SOHO*パソコン)し、そこから絞られた64の支援団体に対して調査を実施、さらに回答のあった支援団体に協力をお願いし、支援団体を通じて、当該支援団体を利用している在宅就業障害者及び発注元企業に対して調査を実施した。
(i) 在宅就業支援団体に対する調査(調査I)
 回答のあった支援団体(33団体)はその8割以上が設立後5年未満であり、法人格の有無、種類やスタッフの状況などをみても、こうした支援団体設立の動きは比較的最近のことであり、取り組みとしても発展途上にある様子が伺えた。
 支援団体の事業としては、主として仕事の仲介、技能講習・訓練、パソコン等のトラブル解決の3つを掲げるところが多く、就職支援(仕事の探し方等に関する相談助言)や同じ境遇にある障害者どうしの情報交換、交流の機会の提供といった障害者の在宅就業支援団体に特徴的な事業も見受けられた。支援団体に登録している障害者は、肢体不自由が約半分、ついで視覚障害、内部障害となっており、身体障害者が4分の3を占めていた。
 また、仕事の分配に当たっての問題点として、受注量の確保の困難さをあげる支援団体が最も多い点は在宅就業の全般の傾向と共通している。一方、受注する仕事と障害者の技術水準が合わないことや、受注量を増やすために必要な事項として障害者自身の能力の向上をあげる支援団体が多いこと等は、障害者の在宅就業支援の性格の一端を表しているのではないかと思われる。
(ii) 在宅就業障害者本人に対する調査(調査II)
 回答者(80人)は身体障害が9割以上で、そのうち重度(1級及び2級)の者が8割以上を占めていた。
 現在の主たる就業場所としては自宅と回答した者が6割近くで、授産施設、作業所等の通所施設、サテライトオフィスがそれに次いでおり、希望する就業場所としても自宅と回答した者が最も多かった。
 また、雇用されたいか、請負の仕事をするのが良いかという質問に対しては、回答者の雇用経験の有無にかかわらず請負の仕事をするのが良いと答えた者の方が多く、その主な理由は通勤等の身体的負担が少ないことや 仕事のペースを自分で調節できるから、といったことであった。
 仕事の内容としては、データ入力、文書入力、ホームページ作成などをあげる者が多かったが、仕事の収入は年間50万円未満の者が最も多く、150万円を超える者は1割強であり(障害年金受給者が65%)、在宅就業全般の傾向と同様、仕事が少ない、仕事の単価が低いといったことを問題点としてあげる者が多かった。
 移動の制約や健康上の理由による就労時間等の制約等から在宅就業を希望する者が多いことは、障害者の働き方の一形態として在宅就業の持つ意義の大きさをうかがわせる。その一方で、収入は低く、仕事の確保に問題を抱えているという在宅就業全般にみられるのと同様の傾向が認められた。
 なお、在宅就業障害者の場合、こうした仕事の確保の問題をはじめ、パソコン等のトラブル解決、技能習得などの面で支援団体に依存するところが大きいことが支援団体から受けたサービスの評価等からよみとれた。
(iii) 発注事業主等に対する調査(調査III)
 回答事業主等の数が16と限られた数(うち地方公共団体が5団体)であったが、障害者が仕事をする機会の増加に寄与することを発注の動機とし、今後とも発注を増やす見込みのところが多かったのが特徴であった。
 また、品質や納期、価格に対する評価はいずれも満足していると回答したところが太宗を占めており、仕事の質を維持、確保できれば、事業主側において、障害者に対する就業機会の提供という観点から意識的に仕事を発注してもらえる可能性が少なくないことをうかがわせた。

 (3)ヒアリング 
 本研究会では、障害者の在宅就業の関係各当事者および行政、すなわち企業、支援団体、在宅就業障害者本人、地方公共団体(県)のヒアリングを行った。
(i) 企業
 企業ヒアリングは、障害のある在宅就業者に対して仕事を発注する発注元としての立場から話を聞く、障害者を雇用し在宅勤務を行っている立場からの話を聞く、という大別して二つの観点から行った。
ア.仕事を発注する立場から
 ヒアリングでは、仕事を発注する側の意識としては、発注先が障害者であるかどうかという点が問題なのではなく、納品された結果が満足いくものであることが重要であること、特に仕事の経験が無く事業主の信頼を得る機会が少ない障害者の場合、仕事を得るためには実績、信頼のある第三者を介する必要性が感じられた。
 ヒアリングの具体的な内容は以下のとおりである。
 当社が以前外部に発注して作成したホームページが、動きが遅くて実用的でなかったため、発注先業者を変えたところ、そこはたまたま障害者の団体であった。結果として、できあがったものが満足のいくものであったので、今後も発注したいと思っている。
 ただし、仮に障害者が直接営業にきたとしても、仕事を発注するかどうかはわからない。
 発注元にとってみれば、発注した仕事を行う者の雇用管理を行うわけではないので、障害の有無、程度などは大きな問題ではない。成果物が満足のいく時期に、満足のいく状態で納品されることが重要であり、そうした仕事ぶりを積み重ねて得た信頼が継続的な受注業務につながる。
 企業として、在宅就業を営む障害者(あるいはその支援団体)に発注したくても、実績、信頼度の面でどこに発注していいかわからない、発注先としての妥当性につき、社内で説明がしづらい。

イ.在宅勤務を採用している立場から・・・障害者以外の者も含めた一般的な在宅勤務を採用している企業
 ヒアリング対象となった企業では、在宅勤務の制度は育児と仕事の両立を目的として始まり、モバイルオフィス制度は営業職などの事業場外で勤務することの多い者の効率性という視点で始まったものであるとのことであり、働き方の多様化が示唆された。
 ヒアリングの具体的な内容は以下のとおりである。
 在宅勤務は、障害者のためということではなく、より自立的な業務遂行を可能にし、仕事と生活の両立を可能にすること、勤務の形態に柔軟性を持たせることによって、業務の効率化と優秀な人材の維持活用を図ることを目的として、ほとんどの従業員に適用可能としている。
 怪我等による突発的な在宅勤務や時間単位での在宅勤務なども可能としている。
 400名程度が在宅勤務の制度を活用しているが、現時点では週に1日から2、3日というのが大半。週5日在宅で勤務するという者は極めて少数であるが、この中に障害のある者も含まれている。
 在宅勤務(e−ワーク)のほか、モバイルオフィス制度(営業職、システムエンジニアなどがクライアント先で仕事をするもの)を整備している。
 研修、会議なども遠隔で可能なように、e−ラーニングシステムにビデオ機能を付加したウェブキャストや、会議システムなどを活用している。
 採用時に行う集合研修にあたってITを活用することができれば、採用当初から在宅勤務とすることも可能である。
 なお、在宅勤務に関わらず、障害者雇用一般について以下のような話も聞かれた。
 障害者の採用については、専門的な職業能力というよりも一般常識や仕事への意欲などを重要視している。
 社会経験をはじめ、全般的に経験が偏っている障害者が多く、自信、積極性の欠如などが多くみられることから、採用後の指導法、研修のあり方、キャリア形成などに配慮した取り組みをしている。
 応募してくる障害者の多くの方がこれまでに仕事の経験がない者が多く、選考については、ヒューマンスキル、チャレンジ精神、会社の変化への対応、働く意欲、常識のある者を選ぶようにしている。
 障害者用のパソコン関連機器、ソフトは比較的トラブルが多く、ソフトの相性の問題が発生することも多いので、メーカー、ユーザーが情報交換しあえる場があれば良い。

ウ.障害者の在宅勤務を採用している立場から
 今回のヒアリング対象となった企業では、当初は業務量や納期が一定でないために安定した業務遂行が危ぶまれたが、グループ内企業で雇っている在宅勤務の障害者を一元管理し、グループ内に発生する類似の業務を一括管理、配分することで、在宅勤務の障害者の業務を平準化することに成功していた。なお、今のところ、例えば独立なども含めた在宅勤務者障害者の将来のキャリア形成の方向性については具体的には考えていないとのことであった。
 ヒアリングの具体的な内容は以下のとおりである。
 当社では、企業の社会的責任という発想から、障害者の在宅勤務を進めることとなった。1998年から始めて6年目であるが、これまでのところ非常に順調である。
 現在は6ヶ月の有期雇用を更新する形をとっている。
 企業内の各セクションに仕事はあったが、業務量が一定ではなく、急な発注・納品などを求めるものが多くて、諦めかけたが、複数の障害者を雇い入れることで、業務量の平準化を図った。この場合、仕事を発注するセクションと障害者の間で仕事のやりくり、配分をするコーディネーターの存在が不可欠。
 4月には現在のシステムを、特例子会社という形に変え、ユニバーサルデザインの相談を障害者が中心となって行ったり、グループ外の仕事を受けるなど、様々な取組を行いたい。
 特例子会社では、社内で中途で視覚障害者となった方や脳血管障害で休職している方、さらには介護休職や育児休職中の方などが働くためのツールとしても追求していきたい。
 知的障害者の雇用にも取り組み、在宅勤務者との共同作業なども進めていきたい。

(ii) 当事者
 今回のヒアリングでは、2名の障害者から話を聞いたが、2名とも雇用経験がある者であった。そのうち、1名は退社後、単独で仕事を請け負っていたが障害状況の変化とともに支援団体を利用するようになった者、もう1名は退社後、支援団体で能力開発を行い、その後支援団体から仕事を提供されるようになり、徐々に職域を広げてきた者であった。
 ヒアリングでは、雇用された経験の無い障害者が在宅就業を営む際に直面する課題についての話も同僚としての立場から聞くことができ、実際に事業主を訪問するような営業活動は困難である、具体的な営業活動などの経験がなく対応がわからない、などといった話が聞かれた。雇用経験のある者は、それまで働いていた事業主から、自らの知識技能を含めたキャリアを認めてもらって仕事を請け負うことも考えられ得るが、雇用経験のない者は知識技能を身につけたとしても、実践の経験に乏しく、事業主からの信頼もない状態であるため、仕事を請け負うためには雇用経験のある者以上に支援団体を介して仕事を得ることが必要になってくるということがうかがわれた。
 ヒアリングを通じて、障害者が単独で在宅就業を行うのではなく、支援団体を活用することで、さらに可能性が広がることについて具体的な話が聞かれた。
 なお、(i)のウの企業と併せて、在宅勤務を行う当事者からのヒアリングも行った。そこでは、「通勤」が仕事をする壁であること、求人誌などに在宅勤務等の情報が少ないこと、職業能力開発施設への通所が困難であることなど、実際の職業生活、あるいはそこに至るまでの過程において、在宅の就労についての情報や支援がまだまだ少ないという話が聞かれた。また、一般的に在宅での就労に対して暗いイメージが持たれているようであり、在宅での就労を広げていくためには、そうしたものを払拭する必要があるとの話があった。

(iii) 支援団体
 一般の在宅就業の仲介団体がかなりの勢いで増え、業として仕事の受注、分配を行っているが、障害者に仕事を分配する支援団体は、単に仕事を分配するのみならず、企業からの受注に対する責任を負うとともに、日常生活、ビジネスマナー、機器や補助具の選定、技能向上、トラブル対応など広範に渡って支援を求められることがヒアリングを通じて明らかになった。
 ヒアリングの具体的な内容は以下のとおりである。
 生活相談やごく基本的な機器情報の提供などについての対応に時間をとられることが多く、他の社会資源との役割分担などが不可欠。
 支援団体の活動を支える財政的基盤としては、例えば国や自治体からの教育訓練等の委託などに頼る部分が多く、在宅の重度障害者に対する支援については営利によることはなじまないので、公的な助成が必要である。あわせて授産施設や福祉工場など、既存の安定した基盤を活用するといった視点も必要ではないか。
 安定した支援活動を行うためにも障害者の在宅就業に対する発注について、障害者雇用促進法上、雇用率や納付金上のインセンティブを設けることにより、制度的な環境を整える必要がある。
 支援団体には、企業からの受注に責任を負える体制が必要。
 企業とのパートナーシップによる支援、すなわち仕事の受発注のみならず、機材利用や教育等の面での継続的な支援が不可欠。

(iv) 地方公共団体
 障害者に限らずITの技能向上のための講習会やITを活用したSOHO支援、あるいは障害者の就業機会拡大を目的とした在宅就業支援の取り組みなど、地方公共団体が様々な取り組みを行っている。
 本研究会では、支援団体を県主導で立ち上げ、障害者に対し仕事上のサポートをしながら、いずれは当該支援団体の法人化を目指す取り組みを行う県に対して、ヒアリングを行った。
 ヒアリングの具体的な内容は以下のとおりである。
 支援団体が受注代行を行い、県や企業から仕事を受け、品質管理、進捗管理の上、責任を持って納品するシステムを、企業会員や個人、NPO、行政など100人前後の会員からの会費収入、仕事を受けて得る収入で動かしている。
 3年間のプロジェクトであり、プロジェクト終了後に自立した活動を行う予定。
 特に県からの事業受託については、現在は期間を区切って優先的に発注してもらっているが、県の内部では公平性の原則から一部で批判もある。
 地域の事業主や個人などが積極的に参加して支え合うシステムという発想は斬新であるが、一方で一般の競争市場に入ったときに維持できるかという点が課題となっている。
 今後は単なるデータベースやホームページの作成ができるというのではなく、新しいアイデアなど創造的なものを提供できるようになることが必要であると考えている。
 今後の見通しとして、県からこうした支援団体に永続的に仕事を流し続けることは難しく、最終的には支援団体自らの力で仕事を確保することが求められている。このため、支援団体の活動を継続的に支援する仕組みづくりや支援団体自体が企画力を養うことなどが課題となっている。


 障害者の在宅就業の課題
 障害者の在宅就業も健常者のそれと同様の課題を抱えていることが2の調査結果やヒアリング等から明らかになったが、障害者の場合その困難の程度が著しい場合がある。また、在宅就業全般に通ずる課題ではないが、障害者の在宅就業には当てはまる課題、障害者の在宅就業に特徴的な課題もある。さらに発注元や支援団体の目からみて指摘される課題もある。

 (1)在宅就業全般に共通の課題
(i) 仕事の確保
 仕事の確保や単価の問題は、在宅就業を営む者全般が多く直面する課題である。 仕事の確保の問題については、特に障害者の場合、移動の制約等から営業活動に制約があるとともに、発注元から健康上の問題等に起因する納期、品質についての不安を抱かれやすく、受注を受けにくいことが考えられる。
(ii) 知識技能の習得 
 仕事に求められる能力、知識が不足していたり、技能習得が必要といったことも在宅就業を営む者全般に共通する課題であるが、障害者については、集合研修への参加が容易ではない場合があるため、研修機会が制約されるといった事情がある。
 また、学校教育段階において身につけるべき基礎的な学力が不足していることによる技能習得上の支障も考えられる。
(iii) 機器、ソフト関係
 在宅就業全般にパソコンの機能向上やソフトの更新、関連器材に要する費用が大きいといった声が聞かれるが、障害者用の機器・ソフトは、一般の機器・ソフトに比べ技術的なトラブルが発生することが多く、サポート体制も一般のものに比べて整備されていない(i)ことが多い。もともと市場性が限られているため、一般のソフトがヴァージョンアップした場合に、それに対応して障害者用のソフトがヴァージョンアップするのにも時間がかかる場合がある。

 (2)障害者に特徴的な課題
(i) 労働習慣の体得、トラブルへの対応
 在宅就業においても人間関係や自己管理、ビジネス上の常識、習慣を身につけていることが必要であるが、障害者の場合、障害の重さに比例して社会経験が広がりにくい面がみられ、おのずと労働習慣が身につく機会にも制約が存する。
 さらに、契約上のトラブルや機器等の技術面でのトラブルに対する対応といった場面においても、社会経験の有無が大きな影響を及ぼすことが考えられる。
(ii) 障害程度に応じた健康管理、仕事の介助
 障害者の場合、体力的に長時間の作業が困難な者もおり、障害に起因する健康上の問題を抱える場合がある。また、身体状況に不適合な車椅子に長時間座って作業を行うことにより、じょく創が生じるといったような作業環境上の問題も考えられる。
 また、日常的な生活面での介助以外に在宅就業に当たって業務遂行面での介助を必要とすることがある。
 2(2)のアンケート調査によると、回答者の4割弱が、プリンターへの用紙のセットや仕事をする場所への移動、打ち合わせ場所までの外出、資料について何らかの介助が必要であると回答している。

 (3)発注元や支援団体からみた課題
 発注元や支援団体側からも(2)(i)と同様の視点から、パソコン等の技術以前に、就業に対する基本的な姿勢やビジネスマナーといったものを身につける必要性が指摘されている。2(2)のアンケート調査をみても、支援団体が仕事を障害者に分配する際に重視している事項として、第一に責任感、信頼性をあげる機関が多く、ついで仕事への意欲、積極性、自己管理能力といったものが多い。
 また、事業主が在宅就業障害者(あるいはその支援団体)に発注する意図があっても、実績、信頼度など、発注先としての妥当性について参考になる情報がないため、どこに発注していいかわからないといった問題も指摘された。

 (4)在宅勤務の課題
 在宅勤務に関しても、在宅就業と同様、(1)の(ii)、(iii)や(2)のような課題があてはまる。在宅勤務の場合は、就労場所や労働時間について労働者に裁量の余地がある分、労働者自身の自己管理、自己責任が求められ、事業所勤務よりは事業主の関与も緩やかであるが、障害者が遠隔の勤務地(在宅)にいることによる雇用管理の負担は避けられない。
 即ち、障害者の在宅勤務制度を採用する場合には、その人数の如何にかかわらず在宅勤務を行う障害者に対する研修機会の付与や障害特性、健康面に配慮した仕事の進行状況の管理、労働時間の管理などといった負担が事業主に発生するものと考えられる。


 障害者の在宅就業支援の基本的考え方
 (1)障害者にとっての在宅就業の意義
 近年、労働市場の構造変化が進む中で、中長期的に雇用・就業形態の多様化が進展している。このように働き方が多様化する中で、労働者がその意欲と能力に応じ、ライフスタイルに合わせて多様な働き方を選択でき、自己の能力を十分発揮できるような就業環境の整備が求められている。
 障害者が在宅就業を選択する理由としては、パソコンを使った仕事をしたかった、自分にあった時間帯を選べるといったものもあるが、その一方で、就職が難しいので、通勤など身体的な負担の軽減のためといった制約要因を理由にする者も目立つ。通勤等移動に制約を抱え、あるいは健康上の理由等から企業での勤務に耐えられない障害者にとって、多様な働き方の選択肢が準備されることは、仕事を通じての自己実現、職業的な自立を図る上で大きな意義を持つ。さらには、生活施設において支援を受けながら働きたいと希望する障害者の働き方の可能性を広げることも期待される。
 障害者に限らず在宅就業全般についてみたとき、育児、介護等、家事と仕事の両立のために在宅就業を選択することが多いということを考え合わせると、在宅就業は何らかの事情により事業所でのフルタイム労働を選ぶことが難しい場合(人)の働き方、社会参加の方法としての一面を有していると考えられる。
 このように働き方の多様化が障害者の職業生活にもたらす意義を踏まえると、通勤等移動に制約を抱え、あるいは健康上の理由等から企業での勤務に耐えられない障害者の在宅就業について、就業機会の増大や、キャリア形成、能力開発機会の提供のための支援策を講じることは極めて重要であると考えられる。

 (2)今後の在宅就業支援のあり方
 (1)の視点を踏まえ、何らかの事情により社会参加に制約のある層も含めて、労働者が意欲と能力に応じて、自律的に働き、主体的に働き方を選択することを可能とするためには、就業率を高めるという政策目標に立って、雇用のみにとらわれることなく就業機会の増大を図っていく必要があり、障害者の職業的自立のための支援策も障害者の多様な働き方の選択肢を準備し、就業機会の増大を図るという観点から、制度的な見直しを含め、これを充実していくことが重要である。
 このような考え方のもと、多様な働き方全般についての就業環境、あるいは働き方に中立的な社会制度が未だ整備の途上にある現段階における障害者の職業的自立のための支援策は、雇用支援策を基本とし、これに事業所での勤務に制約を抱える障害者の多様な働き方に対するニーズに対応するための支援策を組み合わせることによってさらなる就業機会拡大を図る形をとることが適当であり、在宅就業の支援策も雇用支援策との関係に留意しながら推進することが適当であると考える。
 また、在宅就業の支援とあわせて、通勤等移動に制約を抱えながらも雇用されて働くことを目指す障害者については、その希望が実現するよう在宅勤務の推進を図る必要があることはいうまでもない。
 なお、障害者それぞれの事情にあわせた働き方やキャリア形成といった視点に立って、在宅就業と雇用との間を行き来できるような環境づくりも必要である。即ち、支援団体を通じて在宅就業の経験を積む中で、徐々に技能を身につけ、自信や自己管理能力を培うとともに発注元からの信頼を得ることにより、就職する道を切り開いていけるような支援、障害の程度の変化や加齢等に応じて雇用から在宅就業に移行することも可能となるような支援、あるいは企業で雇用されて在宅勤務によりキャリアを積み、将来的に独立して在宅就業を営む道が開けるような支援が必要である。

 (3)セーフティネットの必要性
 3において述べた通り、在宅就業の場合、仕事の確保や単価の安さの問題をはじめ、自らの努力で日進月歩する技術に対応し、仕事に必要な知識技能を習得することの難しさといった課題に直面している者が多く、実際の収入も低い者が多い。加えて障害者の場合は労働習慣が身に付く機会にも制約があり、仕事に当たって健康上の配慮が必要な場合もある。
 自らの営業活動に制約があり、また集合研修への参加も容易ではない障害者にとって、本人に代わって仕事の確保を図ったり、仕事に必要な知識技能の習得機会を保障する機能、あるいは、トラブル対応などの場面において社会経験の不足を補い、健康面に留意した仕事の進行管理を担う機能が存在することが、安定した就労の鍵となる。
 一方、発注元の事業主が納期、品質について不安を抱くことなく発注できるようにするためには、障害者に代わってこれらについての責任を負う者の存在が必要である。
 従って、障害者の在宅就業の労働条件や就労環境を向上させていくためには、こうした在宅就業障害者、発注元事業主の双方にとってのセーフティネットとなりうる機能を充実させていくことが必要である。


 障害者の在宅就業支援策の方向性
 (1)障害者の在宅就業への発注に対する奨励
 仕事の安定的な確保は、在宅就業を営む障害者が抱えている最も大きな問題であり、仕事を発注する側に障害者の在宅就業への発注の動機付けを与えることが必要である。
 障害者の雇用の促進等に関する法律は、障害者が職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じることを目的としており、同法において、障害者の在宅就業に対して事業主が仕事を発注することを奨励するような仕組みを設けることが考えられる。
 即ち、同法の目的に鑑みると、例えば、障害者雇用に伴う経済的負担の調整のために事業主から徴収した納付金を、4(2)のような考え方の下、雇用との関係に留意しつつ、雇用以外の方途をもってする障害者の職業的自立の道の開拓に貢献する事業主にも還元するような用い方について検討する必要がある。
 その具体的な方法としては概ね以下のような選択肢が考えられる。
(i) 当該事業主の雇用率の算定に当たり、一定額(例えば、障害者一人分の稼得を生み出すに足るという考え方に基づき設定された金額)以上の外注を一人分の雇用とみなして評価する方法
(ii) 雇用率未達成企業が支払うべき納付金を減額したり、雇用率達成企業等が受け取る調整金、報奨金に加算を行う方法
(iii) 雇用率算定、納付金減額等とは別に同法上何らかの経済的な奨励措置を講じる方法
 どのような方法が適当であるかは、奨励措置の対象となる事業主の範囲や実効性、適用に当たっての企業、実施機関双方の実務負担等も踏まえて今後検討される必要があるが、4(2)において述べた通り、障害者の在宅就業への発注奨励策は、雇用支援策との関係に留意しながら推進することが適当であり、雇用への道が狭まることなく、真に働き方の選択肢が増える方向で講じるべきであり、今後は、この点も念頭におきつつ同法の体系全体における位置づけのあり方も踏まえた検討をする必要がある。

 (2)官公需における配慮
 障害者の多様な働き方の選択肢を準備し、就業機会の拡大を図るためには、官公需の果たす役割も大きい。実際に、障害者の在宅就業においては、企業からだけでなく、国、地方公共団体等からも仕事を受けている場合が多く、仕事を安定的に確保し、職業的自立を図っていく上で官公需に配慮することは有効な手段の一つである。
 既にいくつかの地方公共団体においては、障害者を多数雇用する企業、授産施設等に対し、入札参加資格における優遇措置、随意契約における優先的な業者選定等、発注の配慮を行っているが、こうした取り組みを在宅就業についても普及していく必要がある。
 また、国も、障害者の雇用、就業を率先して進めていく立場から、障害者基本計画を踏まえ、障害者の在宅就業への発注に際しての競争による契約や随意契約における配慮について十分な検討を行っていく必要がある。

 (3)セーフティネットとしての支援団体の整備
 障害者に限らず在宅就業全般において、在宅就業者と発注元の事業主との間に立つ支援団体は在宅就業の市場において有効な機能を果たしているといわれている。特に障害者の在宅就業の場合、移動に制約のある障害者に代わる仕事の受注、技術の進展、在宅就業の業務内容の変化に応じた最新の知識技能の習得機会の提供、基本的な労働習慣の付与や技術上のトラブルへの相談支援、さらには健康面での相談支援などの面で支援団体の存在意義は極めて大きく、障害者の働く意欲に応え、就労環境の向上に寄与しているといえる。
 また、近年、若年層について一般的な基礎的学力が低下し、仕事に必要な技術と能力のギャップが目立っているという指摘もなされておりこの点を解消するために支援団体が果たす役割も無視できない。
 一方、事業主にとってみれば、納期、品質に対する保証を支援団体が担うことにより、発注先が障害者であることによる健康上の問題等に起因する納期、品質についての不安に応える効果があるものと考えられる。このように支援団体は、障害者の就労支援という目的に沿って効果的に機能すれば、在宅就業を営む障害者、発注元事業主の双方にとってのセーフティネットとして欠くことのできない存在となり得る。
 現在、厚生労働省は独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構を通じて、全国9か所の支援団体に委託して、在宅就業を営む障害者の技術の習得方法や仕事を確保する方法等についての相談、支援を実施しているが、他にも全国各地に徐々にこのような支援団体が生まれてきている。障害者の在宅就業の場合、訪問による助言指導や集合研修の便宜等を考えると、このような支援団体が今後もさらに設立され、それぞれの地域においてセーフティネットとしての機能を構築していくことが求められているところであり、今後とも在宅就業にノウハウを有する支援団体を育成していく必要がある。また、これまで各地域において障害者の就労、生活支援を行ってきている既存の団体が、在宅就業障害者の支援を行うことも当然考えられるところであり、このような形も含めて、視覚障害、知的障害、精神障害等といった障害種別、特性も踏まえたきめ細かな支援を行いつつ、在宅就業から雇用に進んでいくための支援を地域に根ざして効果的に行っていくことが望まれる。
 また、事業主向けにこうした障害者の在宅就業にノウハウを有する支援団体の存在を周知することにより、発注の際の参考にしてもらうような工夫も必要である。具体的には、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構の在宅就労ホームページや在宅就業ポータルサイト「SOHO-PORTAL.ORG」の活用が考えられる。このようなホームページにおいて、支援団体情報のほか障害者向けパソコンソフトの製品情報や相性などの情報交換の場が設けられれば、より利便性が増すものと考えられる。さらに、支援団体と関係機関、在宅勤務の雇用管理に当たる側と関係機関との連携も重要であり、IT機器のトラブルはITに関する利用相談・情報提供等を行う障害者ITサポートセンターと、長時間同じ姿勢をとることにより生じる問題はリハビリ実施機関等と効果的に連携、役割分担しながら支援を行うことが適当である。

 (4)在宅勤務の環境整備
 4(2)において述べたとおり、通勤等移動に制約がある障害者であっても、事業主に雇用される可能性を広げる方向で支援を行うことが望ましく、そのような障害者の就労の特性も念頭に置きつつ在宅勤務の普及を後押ししていく必要がある。
 障害者の在宅勤務は、事業主にとっては一般の事業所勤務以上に雇用管理負担が大きいことから、障害者の在宅勤務の雇用管理に当たる者を配置するに当たっての助成措置を手厚いものとしていくことが考えられる。
 また、在宅勤務に関しては、在宅勤務が適切に導入及び実施されるための労務管理のあり方を明確にした「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平成16年3月)を策定し周知を図っているところであり、事業主に対して今後さらにその周知を図っていく必要がある。

 (5)能力開発機会の提供 
 在宅就業を営むに当たっては、日々進展していく技術等の動向に合わせ、自ら仕事に必要な知識、技能を習得していく必要があるが、障害者については集合研修への参加が容易ではない場合があるとともに、各人の技能レベルも様々な状況にある。 このような研修機会の制約を補い、各人のレベルや健康状態等に合わせたきめ細かな知識、技能の習得の機会を提供するため、ITを活用した在宅での技能習得を実施していく必要がある。
 また、支援団体による各人の技能レベル等に応じたきめ細かな対応により、在宅就業で働いていても企業に雇用されて働く場合と変わらないように、常に新しい技術を身に付けることができるような能力開発の機会を提供していくことが重要である。

 (6)在宅就労コーディネーターの育成
 請負による在宅就業であれ企業に雇用される在宅勤務であれ、個々の障害者の障害特性や能力、就労環境等を把握し、技術水準や作業量、ペース配分などを勘案しながら仕事を分配し、工程管理等を行う役割を担う人材が不可欠であり、このような、いわばコーディネーター役無くしては在宅による安定的な就労は成り立たない。
 在宅での就労の可能性を広げ、雇用と在宅就業との間の行き来を柔軟にするといった視点も踏まえると、将来的には、事業主が自ら雇用する在宅勤務障害者だけでなく他社の在宅勤務障害者や請負で仕事をする在宅就業障害者の仕事をコーディネートしたり、支援団体が、在宅勤務障害者を雇用する事業主から託されて仕事のコーディネートを行う、さらには障害者以外の在宅就業者も参画するといったことが事業性をもって成り立つことが期待される。また、仕事の確保のためには、単に事業主等からの発注を待ってこれを獲得する、仕事の仲介をするだけではなく、在宅就業支援や地域における障害者の支援等を通じて培ったノウハウを活かして、企業や自治体等に対し、課題を見出して企画を提示し、新たな仕事を開発するような職務開発・提案型の営業活動を行っていくことも求められよう。
 このような障害者の在宅就業を巡るビジネスモデルを現実のものとし、障害者の在宅就業の労働条件をはじめとする就労環境を向上させていくためには、請負、雇用といった就労形態にかかわらず、これまで以上に障害者の在宅での仕事のコーディネートを行う人材を育成し、その配置を支援していくことが必要である。


 おわりに
 今後、施設から地域生活への移行がさらに進むことが見込まれる中で、障害者の職業的自立の姿の一つとして、あるいは就職して本格的に事業所に通勤するまでの一過程として、ITを活用した在宅就業の持つ意義はさらに高まることが予想される。
 一方、労働市場の構造変化が進む中で働き方が多様化しており、労働者がその意欲と能力に応じて多様な働き方を選択することができるような就業環境、あるいは働き方に中立的な社会制度の整備が求められている。在宅就業は、労働者自ら就業場所や労働時間、仕事のペースを選び、仕事と生活のバランスを自律的に決定できる特長を有しており、多様な働き方の一選択肢として大きな可能性を内包している。社会参加、参画に制約のある層にとっての働き方の一つの選択肢として、在宅就業が真に有効な位置を占めるには、障害者のみならず労働政策全般について、労働力の有効活用、労働者が各自の能力を十分に発揮し、ライフスタイルに応じて働けるような就業環境の確立等といった観点から、人口に占める就業者の割合を高めるという政策目標に立ち、正規雇用以外の領域に対する取り組みを進めることにより、自営等の就労形態も含めた全体的な就業機会の拡大が図られる必要がある。
 在宅就業をめぐる環境はいわば過渡期にあるといえるが、そうした中で、本研究会は、あえて障害者について在宅就業の支援策を積極的に講じる必要があるとの結論に達した。
 障害者の社会参加、参画の流れは必然であるとともにその動きは急であり、時代の趨勢を見据えつつ、今後、検討をさらに深め、制度改正を含めでき得る限りの支援策が講じられることを期待したい。


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