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I はじめに

 我が国の歯科医師臨床研修については,平成8年6月に歯科医師法の一部を改正する法律が公布され,歯科医師法の中に歯科医師免許取得後に1年以上の臨床研修を行うことが努力義務として設けられ,現在に至っている。
 一方,近年の歯科医学の進歩や医薬品・歯科材料等の革新等に伴って,歯科医療技術はますます高度化・専門化が進んでいる上に,高齢化に伴う疾病構造の変化や国民のニーズの多様化,患者の権利意識の向上に伴う患者と歯科医師とのコミュニケーションの在り方の変化などが進み,歯科医療を取り巻く環境は大きな変貌を遂げている。これからの歯科医療は,患者に必要な情報を十分提供し,患者が納得して医療を受けられるよう十分なコミュニケーションを図り,予後を踏まえた診療計画を立てることが望まれる。更に,口腔の疾病治癒・機能回復のみを目指すのではなく,口腔に関係した全身管理を含めた健康回復・増進を図るという総合性が要求される。
 こうした状況を踏まえ,歯科医師の資質の更なる向上を図るため,平成12年には,平成18年4月から歯科医師臨床研修を必修化することを含む歯科医師法等の改正が行われた。この改正は,歯科医師としての基盤形成の時期に,研修歯科医が臨床研修に専念できる環境を整備すること,研修歯科医が臨床歯科医師として患者中心の全人的医療を理解した上で,歯科医師としての人格をかん養し,総合的な歯科診療能力を身につけ,臨床研修を生涯研修の第一歩とすることを目的としており,今後の我が国の歯科医療に大きな影響を与えるものである。
 本検討会は,平成18年4月の改正法施行に向けて,新たな歯科医師臨床研修制度の体制整備を行うため,平成13年9月に設置された。これまで,14回にわたり,現行の歯科医師臨床研修制度の問題点を踏まえ,歯科医師臨床研修制度の再構築を目指して,様々な立場,観点からの意見を聴取し,検討を行ってきたところである。
 平成18年4月から新たな歯科医師臨床研修を開始するため,厚生労働省は,研修プログラムや研修歯科医の処遇及び研修施設の基準を含む関係法令等を整備する必要があるとともに,臨床研修施設においても今後具体的な準備を進める必要があることから,これまでの聴取した意見や本検討会で出された意見を取りまとめ,ここに公表する。


II 歯科医師臨床研修施設の指定基準等について

1)臨床研修施設の概要

 1 臨床研修を行う施設は,単独型臨床研修施設と複合型臨床研修施設群(臨床研修施設数≧2)とする。

 2 単独型臨床研修施設は,臨床研修施設の基準を当該施設単独で,又は研修協力施設と合わせて満たす病院若しくは診療所とする。

 3 複合型臨床研修施設群は,1か所の管理型臨床研修施設と,1か所以上の協力型臨床研修施設から構成される。

 4 協力型臨床研修施設は,管理型臨床研修施設の機能を補う施設とする。

 5 臨床研修施設は,それぞれ他の種類の臨床研修施設となることができる。

 6 研修協力施設は,病院,診療所,保健所,社会福祉施設,介護老人保健施設,へき地・離島診療所等とする。

 7 研修協力施設は,単独型臨床研修施設及び複合型臨床研修施設群の研修プログラムの一部分を担うことができる。

 8 臨床研修施設基準については,通年満たしていなければならない。

 9 研修プログラムに関する基準については,すべての臨床研修施設及び研修協力施設においてこれを遵守し,臨床研修を行わなければならない。


2)単独型臨床研修施設の基準

 1 研修プログラムに関する基準

(1)臨床研修の到達目標が実現できる研修プログラムを有すること。

(2)研修プログラムは,研修目標,研修計画,指導体制その他必要な事項が定められており,公表されていること。


  施設,人員等に関する基準

(1)常に勤務する歯科医師が3人以上であり,指導歯科医を常勤で置くこと。なお,「常に勤務する歯科医師」とは,非常勤歯科医師も含め当該施設で定めた歯科医師の勤務時間のすべてを勤務する歯科医師をいう。

(2)医療法施行令(昭和23年政令第326号)第5条の11第1項第2号に掲げる歯科又は歯科口腔外科を標榜していること。

(3)当該医療機関の開設歴が3年以上であること。

(4)研修管理委員会を設置し,研修プログラム及び研修歯科医の管理,評価等を行っていること。

(5)研修プログラム責任者を置いていること。

(6)歯科診療補助に従事する歯科衛生士又は看護師(准看護師を含む。以下「歯科衛生士等」という。)が適当数(おおむね常に勤務する歯科医師と同数)確保されていること。なお,歯科衛生士等の数の算定に当たっては,非常勤の者は,当該施設の定めた歯科衛生士等の勤務時間により常勤換算し,算入することとする。

(7)歯科保健指導・予防処置を行う歯科衛生士が適当数確保されていること。

(8)入院症例の研修が実施できること。病床を有さない診療所においては,入院症例の研修体制が確保されていること。

(9)医療安全のための体制が整備されていること。

(10)歯科主要設備を保有し,研修歯科医の診療台が確保されていること。

(11)臨床研修に必要な図書及び雑誌の整備,病歴管理等が十分に行われていること。

(12)病床を有さない診療所においては,複合型臨床研修施設群の協力型臨床研修施設(又は複合研修方式の従たる施設)として指定を受けており,原則として2年以上連続して臨床研修の実績があること。


  受け入れる研修歯科医の数に関する基準

(1)受け入れる研修歯科医の数は,基本的な診療能力を習得するのに必要な症例を十分確保できる適当な人数であること。

(2)受入れ研修歯科医数が,指導歯科医数の2倍を超えないこと。

(3)原則として,すべての研修プログラムに研修歯科医を毎年継続して受け入れることができる体制であること。


  研修歯科医の処遇,採用等に関する基準

(1)勤務形態,研修手当等研修歯科医の処遇は,研修歯科医が研修に専念できる内容であり,その内容が公表されていること。

(2)公表された内容のとおり研修歯科医が処遇されていること。

(3)研修歯科医の採用方法は,原則として,公募によるものであること。

(4)臨床研修の中断及び再開を行う場合には,適切に行うこと。


3)複合型臨床研修施設群の管理型臨床研修施設の基準

 1 研修プログラムに関する基準

 研修プログラムについては,協力型臨床研修施設又は研修協力施設における研修を合わせることにより,単独型臨床研修施設の研修プログラムに関する基準を満たすこと。


 2 施設,人員等に関する基準

(1)常に勤務する歯科医師が2人以上であり,指導歯科医を常勤で置くこと。なお,「常に勤務する歯科医師」とは,非常勤歯科医師も含め当該施設で定めた歯科医師の勤務時間のすべてを勤務する歯科医師をいう。

(2)医療法施行令第5条の11第1項第2号に掲げる歯科又は歯科口腔外科を標榜していること。

(3)当該医療機関の開設歴が3年以上であること。

(4)研修管理委員会を設置し,研修プログラム及び研修歯科医の管理,評価等を行っていること。

(5)研修プログラム責任者を置いていること。

(6)歯科診療補助に従事する歯科衛生士等が適当数(おおむね常に勤務する歯科医師と同数)確保されていること。なお,歯科衛生士等の数の算定に当たっては,非常勤の者は,当該施設の定めた歯科衛生士等の勤務時間により常勤換算し,算入することとする。

(7)歯科保健指導・予防処置を行う歯科衛生士が適当数確保されていること。

(8)入院症例の研修が実施できること。病床を有さない診療所においては,入院症例の研修体制が確保されていること。

(9)医療安全のための体制が整備されていること。

(10)歯科主要設備を保有し,研修歯科医の診療台が確保されていること。

(11)臨床研修に必要な図書及び雑誌の整備,病歴管理等が十分に行われていること。

(12)病床を有さない診療所においては,複合型臨床研修施設群の協力型臨床研修施設(又は複合研修方式の従たる施設)として指定を受けており,原則として2年以上連続して臨床研修の実績があること。


  受け入れる研修歯科医の数に関する基準

(1)受け入れる研修歯科医の数は,基本的な診療能力を習得するのに必要な症例を十分確保できる適当な人数であること。

(2)受入れ研修歯科医数が,指導歯科医数の2倍を超えないこと。

(3)原則として,すべての研修プログラムに研修歯科医を毎年継続して受け入れることができる体制であること。


  研修歯科医の処遇,採用等に関する基準

(1)勤務形態,研修手当等研修歯科医の処遇は,研修歯科医が研修に専念できる内容であり,その内容が公表されていること。

(2)公表された内容のとおり研修歯科医が処遇されていること。

(3)研修歯科医の採用方法は,原則として,公募によるものであること。

(4)臨床研修の中断及び再開を行う場合には,適切に行うこと。


4)複合型臨床研修施設群の協力型臨床研修施設の基準

  研修プログラムに関する基準

 研修プログラムについては,協力して研修を行う管理型臨床研修施設,協力型臨床研修施設又は研修協力施設と合わせることにより,単独型臨床研修施設の研修プログラムに関する基準を満たすこと。


  施設,人員等に関する基準

(1)常に勤務する歯科医師が2人以上であり,指導歯科医を常勤で置くこと。なお,「常に勤務する歯科医師」とは,非常勤歯科医師も含め当該施設で定めた歯科医師の勤務時間のすべてを勤務する歯科医師をいう。

(2)医療法施行令第5条の11第1項第2号に掲げる歯科又は歯科口腔外科を標榜していること。

(3)当該医療機関の開設歴が3年以上であること。

(4)歯科診療補助に従事する歯科衛生士等が適当数(おおむね常に勤務する歯科医師と同数)確保されていること。なお,歯科衛生士等の数の算定に当たっては,非常勤の者は,当該施設の定めた歯科衛生士等の勤務時間により常勤換算し,算入することとする。

(5)歯科保健指導・予防処置を行う歯科衛生士が適当数確保されていること。

(6)医療安全のための体制が整備されていること。

(7)歯科主要設備を保有し,研修歯科医の診療台が確保されていること。

(8)臨床研修に必要な施設,図書,雑誌の整備及び病歴管理等が十分に行われていること。


  受け入れる研修歯科医の数に関する基準

(1)受け入れる研修歯科医の数は,基本的な診療能力を習得するのに必要な症例を十分確保できる適当な人数であること。

(2)受入れ研修歯科医数が,指導歯科医数の2倍を超えないこと。


  研修歯科医の処遇,採用等に関する基準

(1)勤務形態,研修手当等研修歯科医の処遇は,研修歯科医が研修に専念できる内容であり,その内容が公表されていること。

(2)公表された内容のとおり研修歯科医が処遇されていること。


5)臨床研修施設の指定の取消し

 以下の各号のいずれかに該当する場合には,臨床研修施設の指定を取り消すものとする。

 (1)臨床研修施設の指定基準に適合しなくなったとき。

 (2)開設者又は管理者に医事に関する犯罪又は不正の行為があり,臨床研修を行うことが適当でないと認められるとき。

 (3)厚生労働大臣が,研修プログラム,指導体制,施設,設備,研修歯科医の処遇その他の臨床研修の実施に関する事項について適当でないと認め,臨床研修施設の開設者又は管理者に対して必要な指示を行ったにもかかわらず,開設者又は管理者が従わないとき。


6)その他

 この基準については,施行後5年以内にその施行状況等を踏まえ検討し,必要な措置を講ずる。



III 歯科医師臨床研修施設の指定基準の運用について

1)研修プログラムに関する基準の運用について

  研修目標

(1)研修目標は,「IV 歯科医師臨床研修の到達目標について」に定める臨床研修の到達目標を参考にして各施設が定め,「基本習熟コース」については,研修歯科医自らが確実に実践でき,「基本習得コース」については,頻度高く臨床において経験できる内容であること。

(2)研修プログラムには,当該プログラムにおいて研修歯科医が到達するべき研修目標が定められているとともに,研修プログラムの特色について明記されていること。


  研修計画

(1)研修期間は,1年以上とすること。

(2)複合型臨床研修施設群で臨床研修を行う場合には,以下の条件を満たすこと。

(1) 原則として,連続した3か月以上の研修を管理型臨床研修施設で行うこと。ただし,3か月を超える期間については,1か月を単位として,連続しなくてもよいこと。

(2) 協力型臨床研修施設は1施設につき,連続した3か月以上の研修を行うこと。

(3) 複合型臨床研修施設群においては,研修施設ごとに研修期間,指導歯科医等について明示されていること。

(3)研修協力施設がある場合には,以下の条件を満たすこと。

(1) 原則として,研修協力施設での研修期間は,すべての研修期間を通じて合計1か月以内とすること。

(2) 研修協力施設の種別,研修協力施設が行う研修内容,研修期間,研修実施責任者等が,研修プログラムに明示されていること。


2)施設,人員等に関する基準の運用について

  指導歯科医

 一般歯科診療について的確に指導し,適正に評価を行うことができ,以下のいずれかの条件に該当すること。指導歯科医は,臨床研修指導のための研鑽を続けなければならないこと。なお,臨床経験年数には,臨床研修期間を含むこと。

(1)7年以上の臨床経験を有する者であって,指導歯科医講習会(財団法人歯科医療研修振興財団主催)等の指導歯科医のための講習会を受講していること。なお,都道府県歯科医師会会長の推薦があることが望ましいこと。

(2)5年以上の臨床経験を有する者であって,日本歯科医学会分科会の認定医・専門医の資格を有し,指導歯科医講習会(財団法人歯科医療研修振興財団主催)等の指導歯科医のための講習会を受講していること。

(3)大学又は大学の歯学部若しくは医学部の附属施設である病院においては,5年以上の臨床経験を有する者であって,大学又は大学の歯学部若しくは医学部の附属施設である病院に所属し,当該病院長が発行した臨床指導経歴を示す教育評価及び業績証明書を有すること。なお,臨床指導経歴には卒前臨床実習指導を含むこと。


  研修管理委員会

(1)研修管理委員会を単独型臨床研修施設又は管理型臨床研修施設に置くこと。

(2)研修管理委員会の構成員には,次の者を含むこと。

(1) 委員長(当該臨床研修施設の長)

(2) 研修管理委員会が管理するすべての研修プログラムの研修プログラム責任者(複合型臨床研修施設群の場合には,研修プログラム責任者については管理型臨床研修施設に置くこと。)

(3) 複合型臨床研修施設群の場合には,協力型臨床研修施設の指導責任者(当該協力型臨床研修施設の長)

(4) 研修協力施設がある場合には,研修協力施設の研修実施責任者

(5) すべての参加施設の事務部門の責任者

(3)研修管理委員会は,次に掲げる事項を行うこと。

(1) 研修プログラムの全体的な管理(研修プログラム作成方針の決定,各研修プログラム間の相互調整など)

(2) 研修歯科医の全体的な管理(研修歯科医の募集,他施設への出向,研修歯科医の処遇,研修歯科医の健康管理など)

(3) 研修歯科医の研修状況の評価(研修目標の達成状況の評価,臨床研修修了の評価など)

(4) 採用時における研修希望者の評価

(5) 研修後の進路についての,相談等の支援


  研修の記録及び評価

(1)研修歯科医手帳を作成し,研修歯科医に研修内容を記入させること。研修歯科医手帳には,病歴や治療の要約を作成させるよう指導することが望ましいこと。

(2)指導歯科医は,研修歯科医の目標到達状況を適宜把握すること。

(3)研修プログラム責任者は,研修歯科医の目標到達状況を適宜把握し,研修歯科医が研修終了時までに到達目標を達成できるよう調整を行うとともに,研修管理委員会に目標の達成状況を報告する。

(4)臨床研修施設の長は,研修管理委員会が行う研修歯科医の評価の結果を受けて,研修修了証を交付する。(複合型臨床研修施設群においては,管理型臨床研修施設の長が交付する。)


  研修プログラム責任者

(1)研修プログラム責任者は,指導歯科医の要件を満たす者であること。

(2)複合型臨床研修施設群においては,管理型臨床研修施設に研修プログラム責任者を置くこと。

(3)研修プログラム責任者は,複数の研修プログラムを管理しても良いこと。ただし,20人以上の研修歯科医を管理する場合は,原則として副研修プログラム責任者を設置し,受け持つ研修歯科医の数は一人当たりが20人を超えないこと。

(4)研修プログラム責任者は,次の事項を行うこと。

(1) 研修プログラムの管理

(2) 全研修期間を通じて,個々の研修歯科医の管理


  入院症例

 適切な指導体制の下に入院症例の研修が可能であり,十分な症例数が確保できること。


  医療安全のための体制

 特定機能病院及び医師臨床研修病院以外の歯科医師臨床研修施設については,次に掲げる事項を満たすこと。

(1)単独型臨床研修施設及び管理型臨床研修施設においては,以下の安全管理のための体制を確保しなければならないこと。

(1) 医療に係る安全管理のための指針を整備すること。
 医療に係る安全管理のための指針とは,次に掲げる事項を文書化したものであり,また,医療に係る安全管理のための委員会において策定及び変更するものであること。
 医療機関における安全管理に関する基本的考え方
 医療に係る安全管理のための委員会その他医療機関内の組織に関する基本的事項
 医療に係る安全管理のための職員研修に関する基本方針
 医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策に関する基本方針
 医療事故等発生時の対応に関する基本方針
 患者等に対する当該指針の閲覧に関する基本方針
 その他医療安全の推進のために必要な基本方針

(2) 医療に係る安全管理のための委員会を開催すること。
 医療に係る安全管理のための委員会(以下「安全管理委員会」という。)とは,医療機関内の安全管理の体制の確保及び推進のために設けるものであり,次に掲げる基準を満たす必要があること。なお,無床診療所においては職員会議をもって委員会としてよいこと。
 安全管理委員会の管理及び運営に関する規程が定められていること。
 重要な検討内容について,患者への対応状況を含め管理者へ報告すること。
 重大な問題が発生した場合は,速やかに発生の原因を分析し,改善策の立案及び実施並びに職員への周知を図ること。
 安全管理委員会で立案された改善策の実施状況を必要に応じて調査し,見直しを行うこと。
 安全管理委員会は月1回程度開催するとともに,重大な問題が発生した場合は適宜開催すること。
 各部門の安全管理のための責任者等で構成されること。

(3) 医療に係る安全管理のための職員研修を実施すること。
 医療に係る安全管理のための職員研修とは,医療に係る安全管理のための基本的考え方及び具体的方策について当該医療機関の職員に周知徹底を行うことで,個々の職員の安全に対する意識,安全に業務を遂行するための技能やチームの一員としての意識の向上等を図るものであること。
 本研修は,医療機関全体に共通する安全管理に関する内容について,定期的に開催するほか,必要に応じて開催すること。また,研修の実施内容について記録すること。

(4) 医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること。
 医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策とは,医療機関内で発生した事故の安全管理委員会への報告等,あらかじめ定められた手順や事例収集の範囲等に関する規程に従い事例を収集,分析することにより医療機関における問題点を把握して,医療機関の組織としての改善策の企画立案やその実施状況を評価するものであること。また,重大な事故の発生時には,速やかに管理者へ報告すること等を含むものであること。なお,事故の場合にあっての報告は診療録や看護記録等に基づき作成すること。

(5) 医療に係る安全管理を行う者を配置すること。
 医療に係る安全管理を行う者(以下「安全管理者」という。)とは,当該施設における医療に係る安全管理を行う部門の業務に関する企画立案及び評価,施設内における医療安全に関する職員の安全管理に関する意識の向上や指導等の業務を行うものであり,次に掲げる基準を満たす必要があること。
 医師,歯科医師,薬剤師,看護師又は歯科衛生士のうちのいずれかの資格を有していること。
 医療安全に関する必要な知識を有していること。
 病院においては,当該施設の医療安全に関する管理を行う部門に所属していること。
 当該施設の医療に係る安全管理のための委員会(以下「安全管理委員会」という。)の構成員に含まれていること。

(6) 病院においては,医療に係る安全管理を行う部門を設置すること。
 医療に係る安全管理を行う部門(以下「安全管理部門」という。)とは,安全管理者及びその他必要な職員で構成され,安全管理委員会で決定された方針に基づき,組織横断的に当該施設内の安全管理を担う部門であって,次に掲げる業務を行うものであること。
 安全管理委員会で用いられる資料及び議事録の作成及び保存,その他安全管理委員会の庶務に関すること。
 事故等に関する診療録や看護記録等への記載が正確かつ十分になされていることの確認を行うとともに,必要な指導を行うこと。
 患者や家族への説明など事故発生時の対応状況について確認を行うとともに,必要な指導を行うこと。
 事故等の原因究明が適切に実施されていることを確認するとともに,必要な指導を行うこと。
 医療安全に係る連絡調整に関すること。
 その他医療安全対策の推進に関すること。

(7) 患者からの相談に適切に応じる体制を確保すること。
 患者からの相談に適切に応じる体制を確保することとは,病院においては,当該施設内に患者相談窓口を常設し,患者等からの苦情,相談に応じられる体制を確保するものであり,次に掲げる基準を満たす必要があること。また,これらの苦情や相談は医療機関の安全対策等の見直しにも活用されるものであること。
 患者相談窓口の活動の趣旨,設置場所,担当者及びその責任者,対応時間等について,患者等に明示されていること。
 患者相談窓口の活動に関し,相談に対応する職員,相談後の取扱,相談情報の秘密保護,管理者への報告等に関する規約が整備されていること。
 相談により,患者や家族等が不利益を受けないよう適切な配慮がなされていること。
 なお,診療所においては,意見箱等の患者からの意見を適切に収集する体制をもって代えてよいこととする。この場合も上記ア〜ウに準ずる体制を確保すること。


(2)協力型臨床研修施設においては,上記の(1)から(5)までの体制を確保し,(6)及び(7)の体制整備に努めること。なお,当該施設内に患者からの相談に適切に応じる体制が確保されない場合にあっては,管理型臨床研修施設等に患者相談窓口を確保し,その活動の趣旨,設置場所,担当者及びその責任者,対応時間等について,患者等に明示すること。


  歯科主要設備等

 歯科主要設備とは,到達目標の一般目標と行動目標に掲げる研修内容の習得に必要な設備をいうこと(例:歯科診療台,歯科用エックス線装置,パノラマエックス線装置,オートクレーブ,超音波歯石除去器,生体モニター,口腔内画像処理システム,吸入鎮静装置等)。


  臨床研修に必要な設備等

(1)当該施設で行う臨床研修に必要な図書及び雑誌が整備されていること。
 臨床研修に必要な図書及び雑誌の整備とは,内外の専門図書及び雑誌を有し,かつ,年間において相当数の図書及び雑誌の購入を行うものであること。

(2)病歴管理者を明確にし,組織的な病歴管理が行われていること。

(3)原則として,インターネット環境が整備されていて,Medline等の文献データベース検索や教育用コンテンツの利用環境等が整備されていること。

(4)研修歯科医のための宿舎が確保されていることが望ましいこと。


3)研修歯科医の処遇,採用等に関する基準の運用について

  研修歯科医の処遇について

(1)研修歯科医の処遇とは,以下のものをいうこと。

(1) 常勤又は非常勤の別

(2) 研修手当,勤務時間及び休暇に関する事項

(3) 時間外勤務及び当直に関する事項

(4) 宿舎の有無

(5) 社会保険・労働保険(公的医療保険,公的年金保険,労災保険,雇用保険)の適用の有無

(6) 健康管理

(7) 歯科医師賠償責任保険の適用の有無

(8) 自主的な研修活動に関する事項(研究会への参加の可否及び費用負担の有無)

(2)研修歯科医がアルバイトをせずに研修に専念できるよう,研修歯科医の処遇の内容を定めること。

(3)医師臨床研修医の処遇にかんがみ,相当の処遇が確保されることが望ましいこと。研修歯科医については,一般的には,労働者性が認められると考えられることから,労働基準法等労働関係法令に規定される労働条件に相当する処遇が確保されることが必要であること。


  処遇内容の公表

 研修歯科医を募集する際に,研修歯科医の処遇の内容が公表されていること。


  処遇の実施

 公表された処遇の内容のとおりに研修歯科医の処遇が実施されていること。


  研修歯科医の採用方法

 研修歯科医の新規の募集及び採用は,原則として,公募によるものであること。


  臨床研修の中断及び再開について

(1)研修管理委員会は,研修歯科医が臨床研修を継続することが困難であると認める場合には,当該研修歯科医がそれまでに受けた臨床研修に係る当該研修歯科医の評価を行い,単独型臨床研修施設又は管理型臨床研修施設の管理者に対し,当該研修歯科医の臨床研修を中断することを勧告することができること。

(2)単独型臨床研修施設又は管理型臨床研修施設の管理者は,研修管理委員会の勧告又は研修歯科医の申出を受けて,当該研修歯科医の臨床研修を中断することができること。

(3)単独型臨床研修施設又は管理型臨床研修施設の管理者は,研修歯科医の臨床研修を中断した場合には,当該研修歯科医の求めに応じて,速やかに臨床研修中断証を公布しなければならないこと。

(4)臨床研修を中断した者は,臨床研修施設に,臨床研修中断証を添えて,臨床研修の再開を申し込むことができること。この場合において,臨床研修中断証の提出を受けた臨床研修施設が臨床研修を行うときは,当該臨床研修中断証の内容を考慮した臨床研修を行わなければならないこと。


  臨床研修の修了について

(1)研修管理委員会は,研修歯科医の研修期間の終了に際し,臨床研修に関する当該研修歯科医の評価を行い,単独型臨床研修施設又は管理型臨床研修施設の管理者に対し,当該研修歯科医の評価を報告しなければならないこと。この場合において,研修管理委員会は,臨床研修中断証を提出し臨床研修を再開した研修歯科医については,当該臨床研修中断証に記載された当該研修歯科医の評価を考慮するものとすること。

(2)単独型臨床研修施設又は管理型臨床研修施設の管理者は,前項の評価に基づき,研修歯科医が臨床研修を修了したと認めるときは,速やかに,当該研修歯科医に対して,臨床研修修了証を交付しなければならないこと。

(3)単独型臨床研修施設又は管理型臨床研修施設の管理者は,第一項の評価に基づき,研修歯科医が臨床研修を修了していないと認めるときは,速やかに,当該研修歯科医に対して,理由を付して,その旨を文書で通知しなければならない。


IV 歯科医師臨床研修の到達目標について

1)歯科医師臨床研修の概要

 歯科医師臨床研修の目標は,患者中心の全人的医療を理解し,すべての歯科医師に求められる基本的な診療能力(態度,技能及び知識)を身に付け,生涯研修の第一歩とすることである。なお,この目標については,施行後5年以内にその施行状況等を踏まえ検討し,見直しを図る。


2)歯科医師臨床研修のねらい

 1 歯科医師として好ましい態度・習慣を身に付け,患者及び家族とのよりよい人間関係を確立する。

 2 全人的な視点から得られた医療情報を理解し,それに基づいた総合治療計画を立案する。

 3 歯科疾患と障害の予防及び治療における基本的技能を身に付ける。

 4 一般的によく遭遇する応急処置と,頻度の高い歯科治療処置を確実に実施する。

 5 歯科診療時の全身的偶発事故に適切に対応する。

 6 自ら行った処置の経過を観察,評価し,診断と治療に常にフィードバックする態度・習慣を身に付ける。

 7 専門的知識や高度先進的歯科医療に目を向け,生涯研修の意欲への動機付けをする。

 8 歯科医師の社会的役割を認識し,実践する。


3)到達目標

 「基本習熟コース」については,研修歯科医自らが確実に実践できることが基本であり,臨床研修修了後に習熟すべき「基本習得コース」については,頻度高く臨床において経験することが望ましいものである。

  歯科医師臨床研修 「基本習熟コース」

【一般目標】

 個々の歯科医師が患者の立場に立った歯科医療を実践できるようになるために,基本的な歯科診療に必要な臨床能力を身に付ける。

(1)医療面接

【一般目標】

 患者中心の歯科診療を実施するために,医療面接についての知識,態度及び技能を身に付け,実践する。

【行動目標】

 (1) コミュニケーションスキルを実践する。

 (2) 病歴(主訴,現病歴,既往歴及び家族歴)聴取を的確に行う。

 (3) 病歴を正確に記録する。

 (4) 患者の心理・社会的背景に配慮する。

 (5) 患者・家族に必要な情報を十分に提供する。

 (6) 患者の自己決定を尊重する。(インフォームドコンセントの構築)

 (7) 患者のプライバシーを守る。

 (8) 患者の心身におけるQOL(Quality Of Life)に配慮する。

 (9) 患者教育と治療への動機付けを行う。

(2)総合診療計画

【一般目標】

 効果的で効率の良い歯科診療を行うために,総合治療計画の立案に必要な能力を身に付ける。

【行動目標】

 (1) 適切で十分な医療情報を収集する。

 (2) 基本的な診察・検査を実践する。

 (3) 基本的な診察・検査の所見を判断する。

 (4) 得られた情報から診断する。

 (5) 適切と思われる治療法及び別の選択肢を提示する。

 (6) 十分な説明による患者の自己決定を確認する。

 (7) 一口腔単位の治療計画を作成する。

(3)予防・治療基本技術

【一般目標】

 歯科疾患と機能障害を予防・治療・管理するために,必要な基本的技術を身に付ける。

【行動目標】

 (1) 基本的な予防法の手技を実施する。

 (2) 基本的な治療法の手技を実施する。

 (3) 医療記録を適切に作成する。

 (4) 医療記録を適切に管理する。

(4)応急処置

【一般目標】

 一般的な歯科疾患に対処するために,応急処置を要する症例に対して,必要な臨床能力を身に付ける。

【行動目標】

 (1) 疼痛に対する基本的な治療を実践する。

 (2) 歯,口腔及び顎顔面の外傷に対する基本的な治療を実践する。

 (3) 修復物,補綴装置等の脱離と破損及び不適合に対する適切な処置を実践する。

(5)高頻度治療

【一般目標】

 一般的な歯科疾患に対処するために,高頻度に遭遇する症例に対して,必要な臨床能力を身に付ける。

【行動目標】

 (1) 齲蝕の基本的な治療を実践する。

 (2) 歯髄疾患の基本的な治療を実践する。

 (3) 歯周疾患の基本的な治療を実践する。

 (4) 抜歯の基本的な処置を実践する。

 (5) 咬合・咀嚼障害の基本的な治療を実践する。

(6)医療管理・地域医

【一般目標】

 歯科医師の社会的役割を果たすため,必要となる医療管理・地域医療に関する能力を身に付ける。

【行動目標】

 (1) 保険診療を実践する。

 (2) チーム医療を実践する。

 (3) 地域医療に参画する。


  歯科医師臨床研修 「基本習得コース」

【一般目標】

 生涯にわたる研修を行うために,より広範囲の歯科医療について知識,態度及び技能を習得する態度を養う。

(1)救急処置

【一般目標】

 歯科診療を安全に行うために,必要な救急処置に関する知識,態度及び技能を習得する。

【行動目標】

 (1) バイタルサインを観察し,異常を評価する。

 (2) 服用薬剤の歯科診療に関連する副作用を説明する。

 (3) 全身疾患の歯科診療上のリスクを説明する。

 (4) 歯科診療時の全身的合併症への対処法を説明する。

 (5) 一次救命処置を実践する。

 (6) 二次救命処置の対処法を説明する。

(2)医療安全・感染予防

【一般目標】

 円滑な歯科診療を実施するために,必要な医療安全・感染予防に関する知識,態度及び技能を習得する。

【行動目標】

 (1) 医療安全対策を説明する。

 (2) アクシデント及びインシデントを説明する。

 (3) 医療過誤について説明する。

 (4) 院内感染対策(Standard Precautionsを含む。)を説明する。

 (5) 院内感染対策を実践する。

(3)経過評価管理

【一般目標】

 自ら行った治療の経過を観察評価するために,診断及び治療に対するフィードバックに必要な知識,態度及び技能を習得する。

【行動目標】

 (1) リコールシステムの重要性を説明する。

 (2) 治療の結果を評価する。

 (3) 予後を推測する。

(4)予防・治療技術

【一般目標】

 生涯研修のために必要な専門的知識や高度先進的技術を理解する。

【行動目標】

 (1) 専門的な分野の情報を収集する。

 (2) 専門的な分野を体験する。

 (3) POS(Problem Oriented System)に基づいた医療を説明する。

 (4) EBM(Evidence Based Medicine)に基づいた医療を説明する。

(5)医療管理

【一般目標】

 適切な歯科診療を行うために,必要となるより広範囲な歯科医師の社会的役割を理解する。

【行動目標】

 (1) 歯科医療機関の経営管理を説明する。

 (2) 常に,必要に応じた医療情報の収集を行う。

 (3) 適切な放射線管理を実践する。

 (4) 医療廃棄物を適切に処理する。

(6)地域医療

【一般目標】

 歯科診療を適切に行うために,地域医療についての知識,態度及び技能を習得する。

【行動目標】

 (1) 地域歯科保健活動を説明する。

 (2) 歯科訪問診療を説明する。

 (3) 歯科訪問診療を体験する。

 (4) 医療連携を説明する。


V 指導歯科医講習会について

 指導歯科医の資格要件として,「III 2)1 指導歯科医」に定める(1)及び(2)において,指導歯科医講習会(財団法人歯科医療研修振興財団主催)等の指導歯科医のための講習会の受講が必須となる。
 これらの講習会等において,指導歯科医がカリキュラム・プランニングの技法を身に付けることは,歯科医師臨床研修の質の向上,ひいては研修歯科医の資質の向上につながるものである。
 これらを踏まえ,指導歯科医の増員を図るため,大学等において協力型臨床研修施設の指導歯科医となる者を対象に含め,厚生労働省後援の修了証が発行される指導歯科医講習会が開催されることが望まれる。


VI 研修歯科医の募集・組合せ決定システム(マッチング)について

 臨床研修施設が研修歯科医を全国的に公募し,臨床研修を希望する者が研修プログラムを主体的に選択することが可能なシステムを創設することが必要である。


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