戻る

3.「こころのバリアフリー宣言」の趣旨の普及方法

(1)基本的な方針

(1)普及の対象者層に応じた情報発信
 普及・啓発にあたっては、当事者とのふれあいの機会を持つなどの地域単位の活動と、マスメディア等の様々なメディアを媒体とした活動のそれぞれの特性を活かした活動を対象者に応じて進めていくことが重要である。普及を行う実施主体すなわち情報の発信者ごとに、その受け手である対象者が異なっている(例:実施主体が保健医療福祉関係者であれば対象者は周辺住民である)ことから、普及の効果を最大限期待するためには、その対象者の特性に応じた情報を発信するように留意する必要がある。
 精神疾患や精神障害者に対して強い偏見・差別を持っている人がいることは事実であるが、大多数の人はいわば白紙の状態である。そのような人たちへの適切な普及・啓発により、理解者・支援者になってもらえるという認識が重要である。一方、関心が低い人や理解しようとしない人、精神疾患に対して拒否的な感じを持っている人には、実際に良い体験を積み重ねることで理解しようとする変化が起きることから、このような人々に対してもあきらめずに普及を続けることが重要である。
 現在、精神疾患の中でうつ病については、誰もがなりうる病気であるということが社会的に認知されつつある。このような関心の高まりを契機に統合失調症をはじめ精神疾患に関する国民の意識変化を強く期待したい。

普及・啓発の進め方
(第4回検討会佐藤構成員資料)



(2)住民に接する機会の多い者や当事者の役割の重視
 地域の中で理解を深めていくときに、住民と第一線で接する保健医療福祉関係者、地域活動関係者、雇用や教育の関係者、行政職員、メディア関係者等の役割は大きい。これらの者は、それぞれがまず理解を深めたいと考える対象者を念頭において、対象者に応じた適切な情報を発信することが重要である。それらを通じて、さらに対象者から情報発信の広がりを期待できる。
 マスメディアは圧倒的不特定多数へ同時的に到達できることから、住民に接する機会が多い媒体として、普及・啓発における重要な役割を果たすものであり、メディア関係者の積極的な取組を特に望みたい。メディア活動には大きく分けて2つあり、マスコミ関係者の理解や共感を醸成させることにより啓発効果をねらったパブリックリレーションズ(PR)と、より戦略的な活動展開をめざした広告活動があるが、それぞれの狙いや効果等を考慮した活用が重要である。


メディア(媒体)活動)

対象者にメッセージを伝えるメディア(媒体)活動には、大きく分けて2つある。

PR(パブリック・リレーションズ)と広告の違い

  PR 広告
主体 マスコミ
(新聞社・テレビ局・出版社・ラジオ局)
メッセージの発信者
狙い マスコミの「誤解」、生活者の「混乱や不安」「風評」「流言蜚語」を払拭し、スムーズな制度導入を目指す 対象者の価値観やニーズを把握し、意識・態度変容を想定して戦略的な展開を目指す
効果 情報の量と質を高め、好意的な世論形成や口コミによる波及効果を図る 伝達すべき情報の提供機会を確実に確保する
  *メディア(媒体)リレーションズ
マスコミ関係者の理解や共感を醸成・広報活動効果を高めることを目的とし、一過性のキャンペーンではなく、マスコミ関係者内でのシンパづくり活動を継続的に展開していくものである。
*メディアミックス
対象者に高い認知を得るため、新聞・テレビ・雑誌・ラジオの媒体を効果的に組み合わせて活用すること。
(第4回検討会佐藤構成員資料)

 また、当事者・当事者家族も精神疾患について実体験に根ざした、わかりやすい情報を提供できることから、普及・啓発活動において重要な役割を果たす。例えば、当事者は、病気の苦しみやつらさを持ちつつ人として自然に生きていきたいという願いを、日常的なふれあいを通じて、周囲の人に発信し、「本人たちも頑張っているね」、「支える人たちも一生懸命やっているな」という形で共感を得ていくことが重要である。そのためには、まず当事者・当事者家族が精神疾患について正しく理解し、適切に対応することが必要である。




(3)普及・啓発のプロセス
 普及・啓発を行うに当たっては「どうすれば人の心が動くのか?」「人の心をどのように動かせばよいのか?」を念頭に置くことが必要である。その際、重要なことは、普及・啓発に当たる人自身が精神疾患や精神障害者を正しく理解して取り組むことである。以下に、考慮すべき4つの重要事項を挙げた。対象者の年齢、性別、職業、生活環境等の特性に応じ、より良い普及・啓発の方策を計画、実行していくことが重要である。

 1)普及・啓発を実施する相手は誰か?(対象者)
 2)対象者の現在の認識内容は何か?(現在の主観的認知)
 3)メッセージは何か?何を伝えるべきか?(内容)
 4)どのように伝えたらよいか?(手段)

普及・啓発のプロセス
(第4回検討会佐藤構成員資料)




(2)主体別の取組

 精神疾患や精神障害者に対する正しい理解を普及・啓発するためには、国民に向けた指針の趣旨に沿って、社会の多様な主体があらゆる場面を活用して情報発信を行ったり、具体的に行動することが必要である。
 ここでは、前ページの「普及・啓発のプロセス」を踏まえ、普及・啓発の実施主体ごとに取組の方向性(対象者、訴えのポイント)及び普及・啓発手段の事例、アイデア等を紹介する。

(1)当事者・当事者家族

取組の方向性
実施主体 対象者 ポイント
当事者・当事者家族 当事者・当事者家族
精神疾患等について正しい情報を入手し、理解を深めた上で、自ら精神疾患に対して適切に対応できるようにすること
地域住民
当事者等が主体となって、様々な地域活動と連携し、障害別を超えた情報発信の中心となる取組を推進すること

普及・啓発手段の事例、アイデア等

<当事者・当事者家族〜講演会、学習会等>
1)当事者・当事者家族自身が、サポートし合いながら精神疾患に対する無理解、誤解を改め、精神疾患に気づき、適切に対応することで普及・啓発全体がより効果的に進む。
2)当事者・当事者家族が、以下のようなことを行っている。
地域住民に対して、わかりやすいメッセージを盛り込んだパンフレットの配布、シンポジウム・講演会・学習会の開催
ボランティア団体で、ホームヘルパーの養成講座で、精神保健福祉士養成施設等で、それぞれに望むこと、民生委員の集まりで地域社会に望むこと、自治体で行政に対する要望などを講演
学校に対して、当事者・当事者家族が作成した資料などを活用し、当事者・当事者家族による「心の健康教育」等の授業の実施
欧米においては、当事者が主体となって、精神疾患や精神障害者の正しい理解のための普及・啓発を行うことを目的としたグループ(スピーカーズ・ビューロー)を組織し、地域住民や関係機関等への積極的な働きかけを実施

<当事者・当事者家族〜地域参加・交流>
1)精神障害者が、ヘルパーとして他障害者や老人等に対する生活支援を行っている。積極的な地域参加・貢献により普及・啓発が具体的に進んでいる。
2)クラブハウスやボランティア団体の活動として当事者が中心となって、ニュースレターの発行、不定期のコンサート、マスコミ活動、書籍販売、シルバーリボン・キャンペーン(精神障害者や知的障害者など脳に障害がある人への偏見を払拭するためのキャンペーン)、無料パンフレット配布、バザーなどを実施し、また、日ごろからの地域交流を進めている。
 また、作業所や小規模授産施設でのレストランや喫茶店、お弁当屋、リサイクルショップなども、結果的に非常に大きな普及・啓発効果がある。

<障害種別を越えた取組>
1)知的・身体・精神障害の団体が共同して設立したNPO法人において、空き施設を活用した地域交流サロンという形で地域住民を対象に障害者の店を運営し、第3次産業の分野で売り上げを確保している。地域交流サロンにおける住民と障害者とのふれあいが普及・啓発に効果を発揮している。

コラム:当事者自身がインフォームド・コンセントにより精神疾患を正しく理解することで、当事者自身の誤解・無理解が解消し、安心して暮らせるようになった事例

 A君は10年前、高校生の時にがんばりすぎて疲れ果てたのを機に家にひきこもり、部屋でCDに合わせて大声で歌を歌っていた。困り果てた家族が保健所に相談に行ったところ、保健所はA君を精神病院へ連れて行くよう家族にアドバイスした。
 当初は父親とドライブに行くという約束だったようで、A君は父親に誘われたのがうれしくて車に乗ったが、中にはやさしそうな中年男性が乗っており、行った先は県内のB精神病院であった。A君は親にまともではないと思われていることがショックで泣きたかったが、涙を見せるのがいやで、また、怒ることも周囲から見れば興奮と見られるため、いやだった。
 医師に「入院が必要です。」と言われて絶望的な気持ちになって、わけもわからずサインしてしまったら、いきなり何の説明もなく注射を打たれ、気がついたらA君は保護室の中だった。「精神科医が診ても僕はまともじゃないのか。」と思うと絶望感は増し、また、病院の環境は汚く不快で死にたくなった。
 保護室を出てから早く退院したいので真面目にやっていたが、何でこうなったのかと思うと毎晩涙が出てきた。精神病院の保護室に入院したことや薬を飲んでいることが、退院後に近隣の人たちに知れたら社会で通用しないと思っていた。退院後、副作用でよだれが流れて、近所の人から“こわい人”と思われていた。
 それがいやでひきこもり、大声を出していた。近隣から大声を出して“おかしい人”と思われることは分かっていたが、絶望感からのストレスでやめられなかった。「薬を飲みたくない。」と親に言ったら、「クリニックだったら薬を飲む?」と言われて行ってみると、良い先生だったが、薬の話となった時に「どうして飲むのですか?」と聞いたら、医師の返事はなく通院をやめた。
 そして、時間がたって親を含めた大人に力づくでC精神病院に入院させられたので、神奈川県人権センターに「Aですが、C病院に入院させられ薬を飲まされて困っています」という電話を入れたら、「こちらから主治医にお話しましょうか?」と聞かれ、センターの人を信頼していたのでお願いした。
 やがて主治医より時間をかけてA君に病気と薬に対する説明があり、3ヵ月で退院したが、家の近くのクリニックに戻らず、人権センターの人のアドバイスもありA君はC病院へ通院している。今、A君は自分の病気を受け入れ、きちんと服薬しすこやかな生活を送っている。B病院でのつらい経験もいやすことができた。
 本人に対するきちんとしたインフォームド・コンセントにより、本人と家族の関係はよくなり本人自身の内なる偏見や近隣の人たちの偏見がなくなった。

コラム:当事者・当事者家族の関わりを通じて住民における施設コンフリクトが解決した事例

 地域住民と話し合いを続ける中で、行政主体で始まった施設建設計画が、しだいに利用者の立場に立った内容になっていった「ふれあいの里」からの報告(抜粋要約)。(全家連発行「Review」No.40,2002より)

<行政主体のスタートから利用者中心に>
 「ふれあいの里」は大阪市西成区にある精神障害者の授産施設・援護寮・地域生活支援センターからなる、大阪市初の総合的社会復帰施設である。平成6年にこの建設計画が市から公表されると、地元(約6,000世帯)では、即座に反対署名5,170人分、建設反対ビラの電柱300本にも及ぶ激しい反対運動が起こった。反対の趣旨は「地域住民に重大な影響を与えること必至」というもの。その後2年間にわたり行政による度々の説明会開催、精神保健相談員や作業所職員、家族の方々による訪問説明も試みたが、効果がなく、建設着工延期、計画の事実上の中断に至った。しかし、その一方で、作業所や家族等の参加により、行政主体で始まった計画が、少しずつ利用者の立場に立ったものへと変化し、後の開設への足がかりとなったのである。

<施設としてのあり方を探る>
 反対運動の背景には精神障害者に対する偏見があることは勿論だが、計画から公表まで行政任せにし、「ふれあいの里」の運営母体(財・精神障害者社会復帰促進協会)が主体となって行うべき地元への明確な対応が遅れたことも大きな要因ではないかと思った。
 その後は小手先の手法でなく、行政や当事者団体と「求められる施設としてのあり方」を中心に検討を重ねていった。2年後、改めて地元に対し建設計画を打ち出したが、前回と異なる点は、運営母体が確固たる信念と運営方針を持って行政とともに臨んだこと。また、行政からは建設と並行して地域環境整備計画を打ち出したことであった。依然、住民からは「地域の福祉と住民の安全をどう考えているのか」という意見が続出したが、それらにきちんと答える努力を重ねた結果、「絶対反対」から「条件提示」へと変化が見え始めた。

<地域連絡協議会の設置による変化>
 それから暫くして、地元への説明会形式を変えて地域代表者との話し合いの場を設ける提案をした。その結果設けられたのが「ふれあいの里地域連絡協議会」で、地域代表者側と行政・運営母体関係者側からの十数名の構成である。この連絡会が開催されるようになって、地元の意見が「開設反対」から「開設の条件提示」へ、そして「要望」へと変わっていった。住民側からは、条件として当初、フェンスの設置、通所者の車による送迎の徹底、外出時の職員の同伴等々、運営開始に向け絶対条件が提示された。このような具体的提示は逆に、誤解偏見解消の手がかりであり、ひとつひとつ丁寧に対応、解決していった。

<地域とともに>
 連絡協議会発足の1年後ようやく建設が始まり、平成13年2月フェンスではなく陽光あふれる公園に囲まれた「ふれあいの里」が完成した。さらに約半年後の10月、多くの関係施設と行政が一体となった実行委員会により「ふれあいの里」を拠点とした「みんな集まれ!あったかハートフェスティバル」が開催された。すべての障害の方たちが集う一大イベントで数百人が参加、そんな中で何より嬉しかったのは、地域のみなさんが訪れ、これからの施設と地域との交流について話し合えたことであった。今後も焦らず充分時間をかけて地域とともに歩んでいきたいと思っている。(ふれあいの里 館長 水本誠一)




(2)保健医療福祉関係者、地域活動関係者

取組の方向性
実施主体 対象者 ポイント
保健医療福祉関係者 保健医療福祉関係者
精神障害者に関わる専門職の再教育や、専門職どうしが自らの資質を高め合い、連携しあうこと
地域住民
特に、精神障害者に関わる施設や事業者が周辺住民に対して積極的に情報発信を進めること
地域活動関係者(民生委員、ボランティア等) 地域住民
住民の身近な相談相手として、地域社会の先導役となる地域活動関係者自身が、当事者とのふれあい等を通じて精神疾患等について正しく理解し、それを地域住民に広げていくこと。

普及・啓発手段の事例、アイデア等

<保健医療福祉関係者〜再教育・情報交換>
1)社会福祉協議会では、関係者に正しい認識を持ってもらうことを目的に、職員、住民を対象に精神保健に関する基礎研修を、地域生活を支援する職員を対象に実務研修を実施している。精神保健福祉センター、家族会の方々と共同で研修を企画することで普及・啓発効果がある。
2)相談や援助にあたる関係者自身が燃え尽きないように、相談・援助技術の向上を図るため、地域の関係者が集まり、定期的に講義やグループワークを実施している。

<保健医療福祉関係者〜周辺住民への普及・啓発>
1)精神科病院の入院患者とふれあうことで精神疾患の理解を普及できると考え、痴呆の治療病棟、療養病棟に、慰問ではなく授業の一環として、地域の保育園、幼稚園から定期的な訪問を積極的に受け入れている。
 また、地域での開かれた精神科病院を目指して、以下のように周辺住民との交流の輪を広げている。
近隣小学校の父兄グループが、病院のクリスマス会に合わせて、院内に喫茶店を出し、ボランティアで患者へのお茶出しサービスを実施
病院の周辺に住む児童が、年間に数回程度病院を訪問し、入院患者と竹細工や芋掘り、人形作り、ソフトボールの練習試合等を実施
2)近所から十分な理解を得ている福祉作業所では、「地域で一緒に暮らせてありがとう」という気持ちを近所に対して常に持ち、近所に工房を開放して、誰にでも姿を見てもらえるようにし、隣近所の道路掃除を行うといった取組を進めている。また、問題が起きると、すぐに問題が起きた理由を説明し謝りに行っている。これらが、近隣住民に受け入れられ、結果的に普及・啓発となっている。
3)精神障害者社会復帰施設が、精神障害者が住みよい地域づくりや精神障害者への理解を深めることを目的に、セミナー、奉仕活動、障害者による店舗経営、精神障害者社会復帰施設への市民ボランティアの導入等により、住民と精神障害者との複数の交流の場を提供している。
4)保健関係者が身近で気軽に健康相談ができ幅広い機能を持つ「まちの保健室」を地域に設置し、看護職が中心となってこころと体の健康づくりや精神障害者が安心して暮らせる地域づくりなどをテーマに、相談や交流活動をすることにより、住民の精神疾患に関する正しい理解につなげていくきっかけを作っている。

<地域活動関係者〜体験の機会を作る>
1)地域社会の先導役として共生社会の地域づくりに貢献でき、精神障害者との関わりの機会を多く持ち、地域住民の身近な相談相手となっている民生委員の役割を重視し、民生委員に対して当事者との良好なふれあい体験の機会をもってもらい、その後の地域活動に役立ててもらうことを目的に、保健医療福祉関係者が中心となって、統合失調症に対する偏見を解消するための普及・啓発事業を行っている。
2)社会福祉協議会が実施した精神保健福祉ボランティア講座を受講した有志(当事者も含む)がボランティア団体を組織し、地域住民に対して、精神疾患に関する講座の企画、病院や作業所等の施設を訪問し障害者と交流する企画、ホームページの開設やニュースの発行などを通じて、積極的に情報提供を行っている。

コラム:無理解、誤解のあった地域活動者が理解者となることで、施設コンフリクトが解決した事例

 平成12年北海道苫小牧市の新興住宅街の中心部に精神障害者のための援護寮「遊友荘」がオープンした。市街地にこのような施設が設けられるのは北海道では初めて。この建設の話は建設主の病院から町内会の役員会にまず打診があった。町内会長は、「これはたいへんな問題、諾否の判断は住民の意見を聞いてから」ということになった。以下はそのとき結成された「建設に反対する会」の事務局長であり、現在は「遊友荘」の運営委員である泉 清一氏の取材記事の抜粋要約である。(全家連発行「Review」No.40,2002より)

<住民への説明会では>
 主に年配者からの反対意見が強くそれまで苫小牧で起きた精神障害者がからんでいると思われる事件の例を挙げ、「市街地に施設をもってくるとはとんでもない!まして公園のそばだなんて何を考えているんだ!」という意見がポンポン出たんですね。説明会には反対意見の人ばっかり集まるんですよ。関心が無いとか、どっちでもいいという人は出てこない。また、精神病を患ったという人と今までほとんど接触が無かったので、マスコミの事件報道や映画などから、やはり、かなり暴力的で何をするかわからない人達なのだろうと思っていた人がほとんどでしたね。僕もどうしたものかと迷いがあったのですが、何回か説明会に出て圧倒的な反対意見に次第にまきこまれていったわけです。

<本当のところを見なくちゃ>
 でも反対するにしても、本当のところを見なくちゃ、という意見もあったんですよ。病院や保健所が、「千葉県に同じような施設があるので、ぜひ見に行っていただきたい」というので、会長が町内会の代表として、僕は建設反対の会の代表として行って来ました。そこの施設には7,8人居たようで、部屋も全部見せてもらい、みんなと話もできました。自分が思っていたような人は一人もいなかったですね。実際に会って触れ合ってみるというのは、ほんとうに大事だと思いますよね。

<施設を受け入れないのは町内会の恥という声も>
 見学から帰って、反対の会(住民説明会)を召集し報告をしました。報告会には、それまでの3倍くらいの住民が集まったんですよ。実際会ってみてどうだったんだ、ということでやっぱり、みんな関心をもっていたんだね。その報告をしたら、雰囲気ががらりと変わりましたよね。「これからは障害者を郊外に追いやるのではなく、地元で一緒に生活するのが本当ではないのか」と。「それを受け入れられないのは町内の恥だ」という意見も出て大きく変わりましたよね。結局そこに落ち着くまで1年ぐらいかかりましたけど、こういう問題は地域の中でじっくりと時間をかけて考えていかなければならない問題だと思いますね。病院や保健所、行政からの呼びかけに、すぐに良い反応ができるわけはないんですよ。保健所の十分な説明も必要だということで、保健所も立ち上がりましたもんね。

<すっかり地域に溶け込んで>
 開所から2年が経ち、遊友荘はすっかり地域に溶け込んでいますね。かつて反対の会の代表であった僕も遊友荘の運営委員の一人です。町内会には遊友荘をしっかもり立てていこうという雰囲気があるんですね。私たちにも受け入れた責任というのがあるじゃないですか。社会復帰のときには僕の店(弁当屋経営)でどうやったら何人かでも受け入れられるのか、ちょっと真剣に考えているところなんです。

コラム:村の保健師を中心とした取組が5年ほどの期間で住民を巻き込んだ活動になった事例〜住民活動グループ「わのわ会」誕生まで(高知県高岡郡日高村)

 当事者からの積極的なメッセージを発信したこと、精神疾患を当たり前の問題としたこと、住民活動を活用したこと、有効な方法で精神障害者が「がんばっている」ことを住民に知らせたこと、担当者を支えながら継続した活動を行ったことが主な要因となって、はじめは保健師を中心とした小さな活動が5年で住民全体の精神疾患への理解、行動の変化につながっていった。

 平成10年度、知的・身体・精神障害者のデイケア「ヤングハートフルもへい茂平」(以下、茂平)を始める。当初の通所者は8名(知的2名・身体1名・精神6名)。絵画・レザークラフト・バスレク等の活動をする一方、定期的に集まる中でメンバーが中心となって「自分がしたいこと」を見つけるための話し合いを続けていった。

 平成11年度、「村民のための心の健康講座」を企画。3カ年計画で、ほとんど精神疾患に関する知識を持たない村民に対して理解を深めることと、職員が専門性を習得することを目的とした。1年目は精神科医と看護師による講演会「心の健康講座」、2年目は精神科医による「心の相談日」、3年目は精神科医と看護師によるケースカンファレンスを企画実施した。心の健康講座には予想以上の参加者が集まり、関心の高さがうかがえた。精神疾患は誰でもかかりうることが、受講者に理解された。また、普段の生活ではほとんど会うことのない精神科医や精神科看護師の「わかりやすい話」を聞くという経験も、村民にとっては精神疾患を身近なものにした。

 平成12年度、精神疾患や薬についての学習会を企画。前年度の心の健康講座を受講した当事者が「自分の病気のことを知りたい」と企画されたものであった。服薬学習会「薬(やく)にたつ会」の講師を地元調剤薬局の薬剤師に依頼することで、薬剤師が精神疾患への理解を深めることができたと同時に、当事者と薬剤師との交流が深まり、薬局で当事者と薬剤師が普段から気軽に会話を交わすようになった。「薬(やく)にたつ会」で学んだ知識を村民に発表したいというメンバーの強い希望で「第1回茂平ピック」を開催した。そこで、社会復帰施設職員等医療福祉関係者、心の健康講座の受講者、地元新聞記者等に対して、メンバーは病気のことやこれまでの体験を発表した。「茂平ピック」の状況が地元新聞に掲載され、住民の関心が高まった。

 平成13年度、新聞記事の影響か、担当者とメンバーがヘルパー養成講座や近隣の村で講演を行う機会が増えていった。また、茂平の活動で保健センターの調理室を使用する際に「精神病の人がいるのだから、包丁の数は必ず確認するように」と言っていた村民が、障害者スポーツ大会で遠征するメンバーの寄付を募ってくれたり、精神障害者に十分な理解がなかった担当課長が「精神障害が理由で働く場がないことは理不尽だ」として小規模作業所の開設を提案したりと当事者周囲の変化が見られるようになった。これらの人たちが態度を変えた理由は、「障害者のがんばっている姿を見て、応援したくなった」ということであった。住民の間でも、心の健康講座のチラシや茂平ピックの新聞記事を見て、精神疾患や精神障害者に対する「特別な意識」は徐々に薄れていった。「第2回茂平ピック」では、住民活動のリーダー的な村民が司会を務め、後にその者は職親としてメンバーを雇用し、就労支援を行っている。彼は「自分の村にこんな人たち(精神障害者)がいることを知らなかった。知っていたら、もっと前にできることがあったかもしれない。」と言っている。

 平成14年度、同じ保健センターで活動していた老人と母親のグループと茂平が合流。母親グループとは、ペアを組んでテニスの試合に出るほどに交流が深まった。その頃、心の相談日で保健センターと連携をとるようになった地元小学校教員の要請で、総合学習で「精神障害者の理解」をテーマとした授業と生徒のデイケア見学の企画に協力した。「第3回茂平ピック」では、前年度司会を務めた村民がメンバーをモデルに演劇を作成し上演した。また、同時に行われた100人シンポジウムでも就労をテーマに、多くの村民が活発な意見を出し合った。地元新聞に毎年「茂平ピック」についての記事が掲載されていることもあり、村民の参加も年々増えている。

 平成15年度、小規模作業所「ライフファクトリー茂平」が開所した。それを支える住民グループとして「わのわ会」が発足し、経費削減のため村民が備品を持ち寄り、作れるものは手作りした。作業所に小学生が遊びに行ったり、小学校に招かれ保健センターの担当者とメンバーが授業参観に行ったりするなど、地元小学校と茂平との交流は深まっている。このように、当事者や担当者以外のある村民が精神疾患に関心をもち精神障害者への理解を深めると、その人が別の村民に影響を及ぼし、理解者が徐々に増えるというよい連鎖が起こってきている。平成16年度の「第4回茂平ピック」ではそのことを村民に発信するため、活動の「キーマン」に登場してもらう企画を立てている。




(3)雇用や教育の関係者

取組の方向性
実施主体 対象者 ポイント
雇用の関係者 管理監督者
管理監督者自身が精神疾患等を正しく理解し、雇用者の心の健康の変化に早期に気づき、適切に対応できること
精神障害者が雇用され、働く意欲が高まるような環境づくりを行うこと
雇用者
精神疾患等について自らの問題として正しく理解し、ストレスコントロールを行うなど、適切に対応すること
教育の関係者 教職員
教職員自身が精神疾患等を正しく理解し、児童・生徒の心の健康の変化に早期に気づき、適切に対応すること
児童・生徒
心の健康に関する適切な情報提供の際には児童・生徒の発達段階を考慮すること

普及・啓発手段の事例、アイデア等

<雇用の関係者〜メンタルヘルス体制の確立>
1)管理監督者を始め、新入社員、中堅社員、転勤者、海外派遣者、中高年社員等の各階層の社員を対象としてメンタルヘルス教育を系統的・計画的に実施することで、心の健康問題に対する理解が高まっている。
2)早期発見、早期対応のためには、病気を抱えた時に、昇進や処遇等に不安を持たずにだれもが相談できるような体制や、職場のストレスを家族を含め、周囲が気づき、対応することも考慮に入れた体制の確立が効果的である。

<雇用の関係者〜わかりやすい情報発信>
1)ゲーム形式で精神疾患への対応方法を考えてもらう教材を開発・活用したり、社内報、健康保険組合機関誌、イントラネット等を通じて、年数回から10数回程度、メンタルヘルスに関する情報やストレスチェックの機会を社員に提供するなど、普及・啓発方法を工夫することで、メンタルヘルスによりいっそう関心を持ってもらうことが可能となっている。
2)精神疾患は誰もがかかりうる病気であり、軽症であっても気軽に専門的治療を受けるべきであることを理解してもらうため、より身近な言葉として「精神障害」を「精神健康不調」としている。
3)ある事業場では、クラブハウス(精神障害者の仲間どうしが助け合いながら自立するための場)のスタッフやメンバーの協力のもと、一般雇用への前段階として、精神障害者の働く意志・意欲を尊重した過渡的な雇用を行った結果、従業員の精神障害者に対する理解が深まっている。

<教育の関係者〜研修会の活用>
1)既存の各種研修会で教職員に対して、効果的な実践事例を紹介し普及するなどにより、学校における健康教育の充実を図ることが有効ではないか。例えば、ある教育委員会では、教職員が精神障害や精神疾患を正しく理解し、精神障害者への理解を深めるとともに偏見を克服することを目的として教職員に対する教育を行っている。

<教育の関係者〜現場での効果的な取組>
1)体育(小学校)、保健体育(中学校・高校)における「心の健康」に関する指導等を充実させることが効果的である。さらに、精神疾患は思春期に発病することが多いため、中学・高校で心の健康に関する正しい知識を教えることで、発病した場合にもいたずらに不安になったり、いじめられたりということを防止できるのではないか。
2)児童・生徒や教師が障害者と交流することで精神疾患や精神障害者に対する理解が広がるのではないか。すでに、障害者が小学校に出かけて「総合的な学習の時間」に児童や教師とゲームや話し合いをしたり、児童、生徒や教師が精神障害者社会復帰施設に出かけて児童の趣味や特技を披露したり、福祉ボランティア体験をしたりするなどの実践例がある。

コラム:学校と地域が連携を図りながら、自分自身をじっくりと振り返る機会や人間同士のかかわりという観点で「心の健康教育」を推進した事例

 現在学校教育では、精神疾患及び精神障害者に対する正しい理解の普及・啓発に関する課題について、人間として生きる上で「身体の健康」や「心の健康」を保持することの大切さや、「豊かな心をもつことの大切さ」など人間関係をどのように築いていったらよいかなど、「心の健康教育」の内容を基本として取り組んでいる。平成13年度から「健康教育総合推進モデル事業」の指定を受け、「心の健康教育」を推進した実践を紹介する。

 1.実践校 京都府船井郡八木町立八木中学校(生徒数251人、10学級、職員数24人)

 2.研究主題 「健康で心豊かな生徒の育成」
  〜自分らしさを発見し、豊かな仲間づくりをめざす〜

 3.研究課題設定の理由
 共感しあえる人間関係を築き、それを基盤として、精神的自立の準備をはじめる思春期は、健全な社会生活を送るための基本的な生活習慣や善悪の判断力、豊かな人間関係を育み社会的自我を育成する重要な時期である。
 大半の生徒は日常的には円滑に人間関係を保っているが、自己中心的になったり自分をうまく表現できない生徒もいる。
 そこで生徒一人ひとりが自分らしさを発見し、自分を大切にするのと同様に相手を大切にし、豊かな仲間づくりをめざせるような集団をつくることで、集団のなかで互いに気づかなかった「他者」と「自分」を発見し、互いに認め合うことにより、生きる意欲を高揚させることが健康で心豊かな人間形成につながると考え課題を設定した。

 4.研究仮説
 子ども達だけでなく、保護者・教職員の健康意識を高揚させ、地域保健担当者をはじめ地域との連携を図り、心の健康教育を推進していけば、子ども達一人ひとりが健康で心豊かに日常生活が送れるようになるであろう。

 5.研究実践計画
  学校
一年次
八木町健康教育総合推進協議会設置
「心の健康」に関するアンケート
教職員研修
町教委及び幼・小の連携
先進校視察
  1年 2年 3年
二年次
6月 朝読書
7月 エンカウンター
9月 学校
11月
(1)看護師による講演
(2)講演を受けて
6月 職場見学
10月 社会人講話
 町内事業所調査
 職場体験学習
11月 学校茶道体験
10月 福祉学習
 高齢者福祉
 障害者福祉
 幼児福祉
11月 自分の生活を振り返る
(ストレスについて)

 6.研究実践結果
(1)一学年の取組
エンカウンター(グループで参加者どうしが意見交換・交流すること)を実践するなかで、一人で考えるよりも他人の意見も取り入れる方が良い方法が得られるという感想が得られた。
学校祭で「昔のお金」「昔のお菓子」等のテーマで展示に取り組み、家庭や地域の協力を得る中で、身近な人や自分の生い立ち、またそれにまつわるエピソードなどを聞き、自分を育ててくれた人の思いを感じ、自己肯定感を高めることができた。
「小さな我慢」のテーマで看護学院副学院長の講演を聞くなかで、うっぷんを晴らすことと同時に我慢することも、人間の成長上大切であることを学んだ。
(2)二学年の取組
茶道の取組で、日本の伝統文化を体験し、作法や礼儀を学ぶだけでなく、視野や見聞を広めることができた。
地域の職場体験実習を通じて、豊かな自己実現や自己肯定感を育てることができた。
(3)三学年の取組
「総合的な学習の時間」で、地域の高齢者福祉、障害者福祉、幼児福祉を体験し学ぶ中で相手の状況や立場を考え、円滑な人間関係をつくっていくことの大切さを学んだ。
受験期を迎える生徒のストレスに対して、ストレスの解消の方法を学習し、実習した。




(4)行政、メディア関係者

 取組の方向性
実施主体 対象者 ポイント
行政 行政職員
一般職員及び専門職員ともに精神疾患等について正しく理解し、その知識・技術を日常業務で積極的に活用すること
地域住民
当事者とのふれあい等を通じて、精神疾患等について理解を深める機会を積極的に増やすこと
メディア メディア
マスコミ関係者の理解や共感を醸成することにより、普及活動効果を高めること
国民
メディア自体が主体的に普及啓発をすること(様々な実施主体が行うメディアを介した普及啓発も重要)

普及・啓発手段の事例、アイデア等

<行政〜知識の向上・人材育成>
1)保健師は、日頃から研修等を通して精神保健福祉に関する知識・技術の習得に努めるなどして資質の向上を図っており、それらの知識・技術が保健師活動にも役に立つとともに、住民に対する啓発活動につながっているという結果が出ている。
2)住民のモデルとなって地域活動を行う精神保健福祉ボランティアを養成し、その中から特に熱意のある人に精神障害者地域生活アドバイザーとして委嘱し、啓発活動の一翼を担ってもらっている。

<行政〜当事者の社会参加の促進>
1)当事者、住民参加型の地域活動を長期的・計画的に自治体が支援することで心の問題が住民の中で当たり前のこととなっている。
2)地域住民を対象とし、地域住民の身近な場所である公民館でその地域に住む当事者、当事者家族等を講師とした学習会を実施している。
3)地域住民を対象とし、商店街の空き店舗を活用した地域交流サロンを開設し、閉鎖的な障害者の居場所ではなく、地域の人々が集い交流できる場として提供している。

<行政〜対象者層を考慮した活動>
1)民生委員が地域において精神障害に関する普及・啓発活動を行うことができるよう、民生委員を対象に精神保健福祉ボランティア講座を開催している。
2)児童生徒・保護者等を対象とし、小学校、中学校の場を活用した当事者、当事者家族、精神保健福祉士等による普及・啓発事業(学習会、講演会、その他地域の実情に応じた事業)を実施している。
3)PTAを対象とし、普及・啓発講座を実施。講座計画の段階からPTA役員を入れることにより普及対象者のニーズに応じた講座が実現している。
4)一般住民を対象として、精神保健福祉業務に携わっている関係者や当事者の体験談等を主軸とした講演会・シンポジウム・てい談等を開催し、精神疾患・精神障害者への理解を深めている。

コラム:行政職員に対する教育が地域活動のさらなる強化につながっている事例

 千葉県流山市では、県から精神保健福祉行政の事務の一部が移管されることに合わせて、平成14年に5人、平成15年に4人の保健師を連続して研修に参加させ試験を受けさせ「精神保健福祉士」の資格を取得させている。また、専門医師による「心の健康相談」を毎月1〜2回実施することにより、相談窓口が身近になり、地域医療機関との連携がとりやすく、精神障害者ホームヘルプサービスの導入も拡大する等、大きな評価を得ている。
 心の健康相談のうち、専門医によるものだけでも平成14年度24人、平成15年度35人(3月末見込み)となっている。
 県から精神保健福祉行政の事務が一部移管されたことによって、主治医、ケースワーカーや保健所、福祉作業所、グループホームの担当者との連携が図られ、訪問活動等による対応が早くなったと住民からも喜ばれ、徐々にではあるけれども心の健康づくりに対する住民の理解も深まっている。
 さらに、保健師9人に対し、計画的に精神保健福祉士の養成研修を受けさせ、精神保健福祉士の試験を受験してもらったことに対して、はじめのうちは様々な意見もあったが、実務に当たっている保健師からは「精神保健福祉士の資格を持つことによって、心の健康づくり、予防事業に対して専門医と協力して本気で取組ができるようになった。」と語られている。
 結果的には、市町村保健師のひとりでも多くの者が精神保健福祉士の資格を持つことが、心の健康づくりについて広く住民に理解を深める近道のひとつであると考えられた。


<メディア関係者〜主体的な普及・啓発への取組>
1)国民に対して精神障害者への偏見と差別をなくしていくような取組を、メディアが率先して行うよう働きかけていくことが重要である。例えば、当事者や当事者家族の協力のもと、当事者の生活や思いなどをメディアを通じて正確に伝えることが普及・啓発にとって重要である。
2)メディア自身も過去の報道で、精神障害者への偏見を助長してきたという経験を自覚し、この経験を繰り返さないよう、日常の報道活動に当たる必要がある。
3)メディアが当事者・当事者家族、関係者、専門医らと、意見交換や議論を十分に行い、正確な知識を伝えることなどにより、国民が持っている精神障害者に対する「恐れ」「偏見」「誤解」を解いていく必要がある。例えば、当事者・当事者家族、関係者などとマスコミ各社との間で、事件報道に関する病歴記載等を含め、メディアを通じた普及・啓発の積極的なあり方についてシンポジウムを開催し、意見交換することにより、双方の理解を深めることができる。
4)痴呆や他障害者のドラマやドキュメンタリーにより、それらの病気や障害者の理解度・認知度が向上したことから、精神障害者のドラマやドキュメンタリーが作成された場合も同様な効果が予想できる。その際、人間性や生き方をアピールするなど、視聴者の共感を得られるようにすることが重要である。

−病歴報道等に対する様々な意見−
 ・事件が起きた直後の国民の関心が一番高いときに、事件と精神障害との関係が不明な段階で病歴等の報道がなされることが、精神障害者に対する恐怖心につながる恐れがあるのではないか。
 ・犯罪報道をはじめ社会の情勢を的確に知らせるというのがメディアの持つ役割でもあり、精神障害に起因するという理由のみで、犯罪報道を全くなくしてしまうということには問題があるのではないか。
 ・病歴報道等について検討する際、正確な情報を伝えるというのが報道機関の本来の役割と考えるが、その情報を受け取る側は立場によっても、百人百様であることを認識するべきではないか。
 ・犯罪が精神障害に起因することが明らかになった時点で、メディアが精神障害に起因する犯罪と報道することが原則であるべきで、それ以前に病歴や精神科病院通院歴等の報道を行うことは偏見を生む恐れも大きく、慎重に報道することが望まれている。
 ・犯罪が精神障害に起因することが明らかになった場合、国民が漠然とした不安を抱いたり、誤って理解したりすることを防ぐため、必要に応じて病気と事件との関連について正確に説明することが必要だ。その際、メディアが医師への取材をどう行うか、医師側は取材にどう対応するかについても、幅広く論議が必要になってくるのではないか。

コラム:広告キャンペーンが社会支援の価値感を形成していった事例

 社会的コミュニケーション機能として広告キャンペーンが果たしている役割は非常に大きい。近時、公共広告が社会に向けてメッセージを発し新たな社会価値を創造してきている。コミュニケーション技法の先駆たる米国ではW.ヤングが「広告は、人間によって発明された最も近代的な速攻力ある伝達と説得のための手段である。それは現状よりはるかに大きな可能性を有している。その意味するところは、行政機関や政党、労働組合、農業団体、経営者団体、慈善団体、教会、大学などに、その専門技術とチャンネルが広範囲に利用されるべきだということである。それは国際間の理解を深め、摩擦を防ぐためのオープンなプロパガンダにも、無知が原因である病気の根絶にも、国家が必要としている有益な仕事のためにも使われるべきである。」と述べている。テレビ黎明期の1941年のことである。この提言はIT革命、地上デジタル波、ブロードバンド社会というメディア環境の変化の中でも未だに輝きを失ってはいない。
 社団法人公共広告機構は、人間尊重の精神から具体的で身近な問題を取り上げ、誰にでも分かりやすく表現し解決への指針を示すことを目的としてテーマ設定し社会的価値の創造に取り組んでいる。1971年に設立されて以来、環境保護啓発、エネルギー問題、水・食料問題、骨髄バンク登録啓発等の医療問題、を社会性に立脚した公共広告として展開してきている(別表)。
 公共広告の典型例としては、社会支援キャンペーンがある。いくつかは大きな成果を収め人々の心に確とした社会支援の価値感を形成している。(財)骨髄移植推進財団との「ドナー登録」キャンペ−ン、「世界の子どもにワクチンを日本委員会」との「世界の子どもにワクチンを」キャンペーン、(社)日本臓器移植ネットワークとの「いのちのリレー臓器移植」キャンペーン、アイバンクとの「アイバンクに登録を」キャンペーン等、多くの事例がある。
 こうしたコミュニケーション活動が社会を変える大きな原動力になることは、社会経験則的にも明らかであり、今後もその力は大きくなっていくように思える。的確なテーマ設定、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌等との連携、全国的組織との連携、地域活動との一体化があるコミュニケーション活動に大きな期待を寄せたい。

別表:公共広告の年度別テーマ(1991年〜2004年度)
  テーマ
1991年 自然保護、資源問題、公共マナー、交通問題、ボランティア
1992年 自然保護、公共マナー、国際理解、環境問題、麻薬
1993年 環境保護、自然問題、公共マナー、ゴミ問題、福祉、国際交流、ボランティア、麻薬汚染撲滅、エイズ、水質保全(日米共同キャンペーン)、骨髄バンク
1994年 自然保護、公共マナー、福祉、ボランティア、骨髄バンク、世界の子供にワクチンを、水質保全
1995年 阪神大震災被災者激励、いじめ解消、公共マナー、自然保護、ボランティア、点字メニュー、水質保全、アイバンク、骨髄バンク、ワクチン
1996年 自然保護、いじめ解消、公共心、ボランティア、水質保全、骨髄バンク、ワクチン
1997年 自然保護、福祉、親子問題、公共マナー、麻薬汚染撲滅、いじめ解消、水質保全、骨髄バンク、ワクチン
1998年 地球環境、思いやり、公共マナー、いじめ解消、麻薬・覚せい剤汚染撲滅、家庭環境、水質保全、骨髄バンク、ワクチン
1999年 環境・自然保護、公共マナー、麻薬・覚せい剤汚染撲滅、いじめ解消、水質保全、臓器移植、ワクチン、骨髄バンク
2000年 ボランティア、環境・自然保護、覚せい剤汚染撲滅、公共マナー、親子問題、水質保全、臓器移植、ワクチン、骨髄バンク、子ども読書年
2001年 環境問題、公共マナー、親子・教育、ボランティア、育児放棄、骨髄バンク、子どもワクチン、臓器移植、読書推進、教育
2002年 環境問題、国際化、骨髄バンク、子どもワクチン、読書推進、教育、親子・教育
2003年 子どもワクチン、骨髄バンク、親子、読書推進、環境問題、日本・日本人
2004年 コミュニケーション、環境問題、公共マナー、親子


トップへ
戻る