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社会保障審議会介護保険部会(第10回)提出資料



介護保険部会委員 秦 洋一



「地域かかりつけ医」の明確な位置づけを

 審査判定において、いまだに不十分な主治医意見書がたくさんあると言われている。なぜ、不十分な主治医意見書がたくさんあるのか。
 その原因の一つは訪問診察をしないで、主治医意見書が書かれているからであり、また、利用者にとってのかかりつけ医が曖昧であるからである。今日に至っても急性期加算等病院の勤務医が、主治医意見書を書いているからと言われている。
 審査判定のための合議体の委員の数は、この4月から少なくなると言われているが、この間の不十分な意見書をそのまま放置して、より良い審査判定ができるとは思えない。
 この現状を打破するには、利用者の身近に存在し、定期的な訪問診察を継続的に行う「地域かかりつけ医」を明確に位置づけることが必要ではないのか。



次の群馬県高崎市の医師の提言をお読みいただきたい。
秦 洋一


主治医意見書をより良く書くために
−地域ケアを支えるかかりつけ医の立場から−
 介護保険制度がスタ−トして4年が経った。この間、地域医療から地域ケアへとウィングを広げ、地域ケアを支えるかかりつけ医(地域かかりつけ医)が育ち増え、地域で頑張っている。そして、これから益々地域ケアにとって、地域かかりつけ医は重要な役割を果すであろうし、果さなければならない。
 現在、介護保険制度の見直しが行われている。そこで、1999年以来審査判定に合議体の長として関わってきた地域かかりつけ医の立場から、介護保険における主治医意見書をより良く書くために以下の項目について述べ、制度の見直しに向けて提言したい。

I .地域かかりつけ医の訪問診察が、この間、十分に増えてきただろうか。

 定期の訪問診察が、居宅サ−ビスの利用と比例して、この4年間伸びているとは思えない。それは、この間の居宅管理指導料の伸びを見れば明らかである。(介護保険部会資料)
 ではなぜ、定期の訪問診察は伸びないのだろうか。
 その1つ目の原因として、本人及び家族、そしてケアマネジャ−が、在宅サ−ビスとしての訪問介護、訪問看護、通所介護、通所リハ、短期入所等のサ−ビスを利用していれば、そして生命に問題を感じなければ、特に医師の訪問診察を必要として認めないからであろう。
 その2つ目の原因として、地域かかりつけ医が積極的に訪問診察の必要性を本人及び家族、そしてケアマネジャ−に訴えないからであろう。また、ケアカンファランスに参加することが大事だが、そのケアカンファランスに出席することが今でも少ない。
 私は現在、訪問診察を延べ件数として100〜80回/1ヶ月行っている。ケアカンファランスも10回前後/1ヶ月出席している。診察室だけでは理解できなかったその人が、訪問診察やケアカンファランスを通して、家でどのような生活をしているのかがよく分かる。だから、こちらからケアマネジャ−や家族そして本人にお願いをして、訪問診察をさせていただいている。状態が軽く安定している方には、1年に1回ぐらい訪問診察で良いと思っている。ともかく、私が主治医意見書を書くにあたっては、最低一度は訪問診察をさせていただいている。この訪問診察を通して、主治医意見書は書けるものだと思っている。
 また施設から在宅に向けて介護サ−ビスの重点を移すには、この訪問診察は是非、必要である。訪問診察しなければ、主治医意見書は書けないように法的にも対応すべきだと思う。

II .主治医意見書の目的に2つあった。審査会のためのものと、ケアマネジャ−がケアプランを作成するためのものであったが、今後もこの方式でいくのか。

 私は、主治医意見書は審査会のためのものだけで良いと、介護保険がスタ−トした時から訴えてきた。相手がはっきりしないケアマネジャ−に、主治医意見書をどうぞ参考にしてくださいということは、利用者が同意していても本人のプライバシ−を守ることが大事であると思ったからである。また、ケアマネジャ−がかかりつけ医と連絡もとらずに、ケアプランを作成することに反対であったからである。当時としては、なんとしても介護保険制度をスタ−トさせるためにやむをえない措置かなと思ったが、今度の制度の見直しでは、主治医意見書は審査会のためにのみにすることが大切だと思う。そして、もっと具体的に分かり易く地域かかりつけ医が書けるように抜本的に改善すべきである。

III .主治医意見書は、審査会においてより信頼のおけるものになっただろうか。

 なぜ主治医意見書を書くのかと言えば、一次判定に対して調査員の特記事項と主治医意見書を見て、一次判定が妥当かどうかをチェックすることである。特に主治医意見書は、短期間で調査員が調査した内容が妥当であるかどうか、最終的に判断しなければならないものであるはずだが、現状では調査員の調査内容の方がその人の状態をより正確に把握していることの方が多い。これでは何のための主治医意見書なのか分からない。以前から見ればだいぶ改善されてきているが、まだ最終的判断として主治医意見書を採用するには正直言って問題がある。
 特に書く上で解決しておかなければならない問題点は以下の通りである。

(1) 今までのリハビリの視点ではなく、2002年のICF(国際機能分類)のリハビリの視点で、利用者の評価をすることがまだ全く不十分である。

(2) 痴呆、特にアルツハイマ−型の痴呆についての理解が不十分であること。うつ病、せん妄等の痴呆以外の精神障害についての理解も不十分であること。

(3) 利用者が住んでいる地域の状況を十分理解していないこと。また利用者の家の状況について、どこにトイレがあり、どこに風呂場があって、利用者がどのように利用しているのか、利用するにあたっての問題点は何かについて十分チェックされていないこと。また家族の状況についても理解が不十分であること。

(4) 高齢者介護の理念である「自立支援」の視点からケアマネジメントを反省してみると、現状ではセルフケア能力を伸ばす視点ではなく、補填または対症療法的なケアマネジメントに留まっているのではないか。
自己実現、社会参加、社会貢献等に向けての視点からのケアマネジメントが不十分である。

以上の(1)〜(4)を中心にして、研修会及び実習を通して主治医意見書の書き方を継続的に向上させて行く必要があるだろう。そして、研修会への参加も義務づける必要があるだろう。

IV .急性期加算等の病院の専門医がまだ主治医意見書たくさん書いているが今後も認めていくべきなのだろうか。

 この間、急性期の公的病院の院長さん数名とお話をさせていただいた。これらの病院の患者さんの中には、地域かかりつけ医を持っていない患者さんがたくさんおり、患者さんから頼まれるので病院の専門医が書かざるを得ず、専門医にとっても非常に困っているとのことであった。特に今年の4月から臨床研修制度が始まるので、その方で忙しくなり主治医意見書を書くことが更に大変になるだろうとのことだった。
 話を伺って、地域かかりつけ医と急性期加算等の病院との地域連携がまだ十分できていないことに問題があると思う。
 急性期加算等の病院の専門医は、主治医意見書を例外的に新規申請のための主治医意見書を書かざるを得ないこともあろうが、継続して主治医意見書を書くのではなく、外来及び退院時等に地域かかりつけ医に紹介すべきである。患者さんで地域かかりつけ医を持っていない場合は、地区の医師会が受け皿となって、主治医意見書を書ける地域かかりつけ医を登録しておくことが大事である。特に審査会委員をやっていただいた地域かかりつけ医を中心として登録すべきである。そして医師会を通して、急性期加算等の病院へ地域かかりつけ医の名簿を提供し、患者が選べるようにすべきである。

2004年2月16日
上大類病院
矢島 祥吉



「第三者評価」は市民参画で
 グループホームは、すざましい勢いで増えており、2004年度に3200件という当初の目標をはるかに上回り、すでに4500件にもなっています。
 サービスが多くなるのは歓迎すべきですが、個室には鍵がなくホーム自体には鍵をかけるなど、グループホームとは到底いえないものが多いことは現場を見れば明らかです。
 また月々の自己負担が15万円に近く、高齢者の多くが入居できない現状です。これはグループホームに空きが多い原因になっています。
 介護保険では、サービスに「第三者評価」システムを導入することになっていますが、計画段階から市民が参加し、市民が使いやすい評価結果の公表を望む意見が強く出されています。

秦 洋一

市民評価団体、市民調査実施団体からの
介護保険サービスの「第三者評価」システム導入についての意見

2004年3月9日
特定非営利活動法人福祉を拓く会GOWA
特定非営利活動法人特養ホームを良くする市民の会
市民福祉情報オフィス・ハスカップ


 私たちは、福祉サービスの市民評価、市民調査を先行的に実施し、あるいは自治体の「第三者評価」事業に参画してきた市民活動団体として、これまで厚生労働省や都府県で試行、実施されてきた「第三者評価」事業のあり方に危惧を抱いています。

 福祉サービスの「第三者評価」は、すでに厚生労働省社会・援護局から全国社会福祉協議会に委託しているモデル事業、東京都をはじめとする自治体のモデル実施、本格実施がはじまっています。また、グループホームの外部評価が義務づけられ、経過措置をとりつつ評価事業が開始されています。
 そして、これまでに取り組まれてきた自治体による「第三者評価」事業とは別に現在、厚生労働省の老人保健健康等増進事業として、2005年度にむけて介護保険サービスの「第三者評価」義務づけの検討が行なわれ、2004年度にはモデル事業が予定されています。

 私たちは、利用者および市民に広く理解され、サービスを選ぶ道具として有効な情報が提供され、さらに事業者がサービスの質の向上をめざして積極的な動機づけができる福祉サービスの「第三者評価」システムを求めています。また、そのために市民活動団体にどのような参画が可能なのか、検討と模索を続けています。

 今回、介護保険サービスの「第三者評価」事業について、私たちの独自の市民評価、市民調査の活動、そして、先行する介護保険サービス、福祉サービスの「第三者評価」事業に参画してきた経験を踏まえて、次のように問題点の指摘と改善のための意見をまとめました。
 介護保険部会のまとめの作業にあたり、ぜひ、委員のみなさんに介護保険サービスの「第三者評価」について議論していただき、「第三者評価」のあり方について提言していただきたいと思います。

 1.  評価基準、評価手法の検討段階からの市民参画を

 2.  行政は指導監査の責任を果たし、市民が利用しやすい監査結果の情報公開を

 3.  市民が活用できる評価結果の公表方法を

 4.  評価費用については慎重な検討を



1.評価基準、評価手法の検討段階からの市民参画を

 介護保険サービス、福祉サービスにおいて「第三者評価」は新しく導入されるシステムであり、(1)利用者の選択に役立つ情報提供、(2)サービス提供事業者の質の向上、というふたつの重要な目的が掲げられています。
 しかし、「第三者」による評価といいながら、これまでの介護保険サービス、福祉サービスの「第三者評価」事業は行政が主導してきました。行政の外郭団体や自治体が設置した学識経験者や福祉施設関係者を中心とする検討組織により、評価基準、評価手法、評価結果の公開方法が決定され、試行あるいは実施が行なわれています。

 これまで設置されてきた検討組織では、福祉サービスの「自己選択」を迫られ、最終的に「自己責任」を問われる利用者、市民への参画の呼びかけはほとんど行なわれていません。
 また、利用者および市民が求める情報はなにか、情報提供のあり方はどのようにしたらいいのか、根拠となる調査データがないまま検討が行なわれ、モデル事業や本格実施の結果についても利用者、評価機関、サービス提供事業者などから広く意見を集めるなどの検証作業も行なわれていません。

 私たちは介護保険サービスの「第三者評価」基準や評価手法の設計、モデル事業など事前検討過程の公開と市民参画を求めます。また、モデル事業や本格実施以降もたゆまぬ検証と改善のために市民参画できる検討の場をつくること、そして、それらの過程の情報公開を求めます。

2.行政は指導監査の責任を果たし、市民が利用しやすい監査結果の情報公開を

 先行する「第三者評価」事業の評価項目では、経営評価、防災設備などの基本的安全面などの点検などが大きな比重を占めています。指導監査行政、保健・衛生行政、消防行政などが責任を持って検査、監査を遂行しているはずの項目が「第三者評価」項目と重複するのは、大きな財政的損失であり、評価機関の調査者や評価者、そしてサービス提供事業者にも物心両面で負担を強いるものです。

 先行事業のなかには民間評価機関の参加もみられますが、権限のない民間評価機関に指導監査の代替機能を果たすことは不可能ですし、安心して利用できる介護サービスを求める市民が「第三者評価」事業に対して誤った期待を抱くことになります。
 指導監査をはじめとする行政調査結果がきちんと情報公開されていれば、「第三者評価」事業で重複する項目を二重に検証する必要はありません。
 事業者に対する一層の情報公開の義務づけなど、民間評価機関を含めて市民社会からの多様な評価が可能になるような条件整備をするべきです。

 私たちは行政責任で点検している項目は、「第三者評価」の守備範囲ではないと考えます。
 介護保険サービスの「第三者評価」事業について、行政の責任を「第三者評価」に転嫁しないシステムを検討していただくことを求めます。

3.市民が活用できる評価結果の公表方法を

 これまでの介護保険サービスおよび福祉サービスの「第三者評価」事業は、評価基準や手法の決定、調査・評価の実施過程、そして評価結果がわかりやすく情報提供されているとはいえない現状です。しかし、マスコミなどの報道により、利用者、介護家族、市民は選ぶための情報提供、利用するサービスの改善のための「第三者評価」事業に期待感を持ちつつあります。

 ところが、現在、先行実施されている自治体、あるいはグループホームの評価結果の公開はホームページ上で行なわれています。利用者、介護家族をはじめとする市民にパソコンを所有していなければ、情報は届きません。また、文書による評価結果の公開内容は市民にはわかりずらく、またランクづけの基準もあいまいなため、利用者がサービスを選ぶために活用するにはほど遠い状況にあります。

 評価結果の公表に関して、行政の責任をどこまで求めるかについては、私たち市民活動団体サイドにもさまざまな考え方があります。
 「行政やその外郭団体が作成した基準にもとづき、複数の評価機関が評価作業を行い、比較可能な統一的水準で評価結果を出すことは不可能なので、評価結果については、一元的な評価結果の公開手法ではなく、多元的評価基準や評価機関の公開を支援していく方法が望ましい」と考える団体があり、一方では「ランクづけも含めて信頼性の高い指標をつくるための慎重な姿勢と、利用者および市民にわかりやすく、誤解のない評点、評価結果の公開方法の検討」を行政に求める団体もあります。

 私たちは介護保険サービスの「第三者評価」事業が検討段階にある今、このような課題の指摘や複数の意見を充分に考慮し、「第三者評価」の情報公開方法について、さらに踏み込んで検討することを求めます。

4.評価費用については慎重な検討を

 介護保険サービスおよび福祉サービスの「第三者評価」事業を先行実施する自治体からは、合理的な算定とは思われない評価費用の標準価格が公開されています。また、評価機関に競争原理を導入し、評価費用のダンピングを競わせていると思われる一部自治体もあります。

 利用者および市民、サービス提供事業者に納得され、歓迎される介護保険サービスの「第三者評価」事業の実施のためには、正当な評価費用が評価機関に保障される必要があります。

 私たちは、「第三者評価」事業の費用面での公費負担、事業者負担、そして評価機関および利用者の負担関係について、慎重な検討と徹底した情報公開を求めます。


 以上、私たちは介護保険部会のまとめにあたり、利用者および市民が介護保険サービスを有効に選択するために、そして、安心して高齢期を生きることができるサービスの質を確保するために、効果的な介護保険サービスの「第三者評価」事業のあり方について提言を盛り込んでいただくことを期待いたします。


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