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I.秩序ある受け入れに向け共通する重要課題の整理

1.国における整合性ある施策の推進
 周知のとおり、日本では出入国管理及び難民認定法(以下、入管法という)によって、外国人の在留資格を審査した上で、入国及び就労・就学を認めている。日本に入国し在留する外国人が係る問題は、関係する省庁や地方自治体が一体となって対応すべきところであるが、関係省庁や地方自治体が日常、情報を共有し連携をとりあい、共同して問題解決を図るような体制にはなっていないのが実態である。
 1990年の入管法改正以降、外国人の入国・在留は大幅に拡大したが、それに対応して国が総合的な施策を推進したとは必ずしもいえず、外国人が実際に居住し就労する土地の地方自治体が対処療法的に問題解決をあたらざるを得ない状況にある。外国人に対する社会保険の不備、居住環境の悪さなど日本側の問題に加え、在留資格外での就労、子女教育や日本語習得への努力不足、地域コミュニティとの摩擦など、外国人側に起因する問題も含め、その対応は地方自治体に委ねられているのである。
 そうした実態を踏まえ、国には、積極的に外国人受け入れに係る政策の舵取りを行なうことを求めたい。具体的には、内閣に「外国人受け入れ問題本部」(仮称)を設け、同本部が外国人受け入れに係る基本的な方針を企画・立案するとともに、入国審査・管理を行なう法務省、査証発給を行なう外務省、日本語習得、子女教育に係わる文部科学省、医療保険、年金、さらには外国人の雇用管理などを担当する厚生労働省、地方自治体への支援を行なう総務省などの具体的な施策の総合調整を行なうことが望まれる。また将来的には、各省庁の所管する外国人受け入れ関連の施策を一元化するために、「外国人庁」あるいは「多文化共生庁」(仮称)といった省庁の設立を検討してはどうか。

2.就労管理における国と企業の役割
 入管法に基づき入国が許可された外国人については、その在留資格に基づき日本国内で就労・就学することが可能となる。そして、企業などにおいて就労した者については、職業安定法施行規則に基づき、国は外国人を雇い入れている企業から雇用状況の報告を受けることとなっている。しかしこの報告は外国人個々の情報を報告するのではなく、企業が雇い入れている外国人をいわば概数的に報告するものである。そのため現行制度では、国として外国人の就労実態を把握できる体制にはなっておらず、これが不法在留の問題を惹起させている一因とも考えられている。
 そこで、秩序ある受け入れを実現する観点から、企業が外国人を雇用する際に在留資格の確認を行なうとともに、雇用後も個々の外国人の雇用情報を国に提供するため、これまでの「外国人雇用状況報告」を拡充するなどの制度改革を行なってはどうか。これは、これまで入国管理の枠組みのなかでのみ行なわれていた外国人個々の状況把握を労働政策面からもあわせて行なうという点において、政策の大きな転換となるものである。企業が提供した個人情報は、国においてデータベース化し、情報管理を徹底することを前提に、地方自治体、社会保険庁などの公的機関が活用できるようにし、外国人の就労・生活環境の改善に役立てる。企業が提供する個人情報の内容や雇われる外国人の責務、さらにはその根拠となる法制度のあり方などについては、さらに検討を深めた上で結論を得たい。
 また企業が外国人を雇い入れる場合に、日本人とは異なるダブル・スタンダードを設け、日本人より低い労働条件で雇い入れたり、外国人だけを合理的な理由もなく解雇したりすることがあってはならない。労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法などの労働法制について、日本人の雇用の場合と同様に遵守することは企業として当然の責務である。
 なお、外国人を雇い入れる企業に対し、外国人雇用税を課すべきであるとの意見もあるが、税制における「公平の原則」に反することから、その導入は慎重に考える必要がある。しかし、外国人の受け入れに伴う社会的コストは一義的にその受益者が負担すべきものであるという意見も強い。その具体的な方法については、最終報告で結論を得ることにしたい。

3.日本企業における雇用契約、人事制度の改革
 専門的・技術的分野の外国人の受け入れについては、国が第9次雇用対策基本計画(1999年)や第2次出入国管理基本計画(2000年)などを通じて、積極的に推進する方針を打ち出している。それら外国人の一層の活用を考える際には、入管制度の改善のみならず、企業の側において雇用管理、人事諸制度などのシステムを改革することが必要となってくる。日本企業において外国人を働きにくくしている阻害要因を取り除くことは、日本人にとっても必要なことである。

(1) 異文化シナジーを生み出す経営のあり方
 現在、企業経営においてダイバーシティ・マネジメントが必須のものになりつつある。ダイバーシティ・マネジメントとは「多様な人材を活かす戦略」であり、従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想を取り入れることで、経営環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と従業員の自己実現につなげようとするものである。これは、文化的な多様性を活かす経営という意味で「異文化経営」と呼ばれている。
 もちろん多様性は、組織の効率的な運営に様々な影響を及ぼす。多様性によって組織の一体感が欠如し、意思決定に要する労力と時間が増大することも考えられる。その一方で、多様性は「異文化シナジー」というべきプラスの効果を組織にもたらす。異文化シナジーを持つ組織では、構成員が互いの違いを認識しつつ、その違いに優劣をつけることをしない。すなわち、異なった方法が創造的に結合されることによって、組織の運営や仕事の進め方において最善の方法が生み出されるのである。
 従来の「異文化経営論」では、国ごとの文化の差に焦点をあて、その理解を深めて多様性に対応することによって企業経営を円滑にしていくことに主眼が置かれてきた。しかしグローバル化がさらに進展し、世界規模で迅速な市場ニーズへの対応を求められている今日においては、ことさらに差異を強調するのではなく、ビジネスの共通の価値観を基本として相違点を融合させる、つまり文化を超える経営が必要になる。その意味で「異文化経営」は、新たな次元に入っており、企業はそのなかで外国人の活用も位置づけていくことが求められる。

(2) 外国人を受け入れ、活用するにあたって留意すべき点
 日本経団連が今般実施した「外国人受け入れ問題に関するアンケート調査」によれば、外国人を活用している企業は、社内システム上の問題点として「文化・習慣の違い」(42.1%)、「職場内での意思疎通」(41.5%)をあげている(図表1)。また、外国人を活用しない理由としては、そもそも「外国人雇用のニーズがない」か「接客業が中心となるため、言葉や文化の違いがネックになると考える」など、採用後の諸々のトラブルを心配する声も聞かれる。また、外国人受け入れにあたっての日本企業の課題を聞いたところ、「会社・従業員の意識改革」(44.9%)が最も多く(図表2)、その具体的な意見として、「社内のシステムだけでなく、従業員の意識に問題がある。グローバル時代にそぐわない排他的な意識が問題となる」といった声も聞かれた。日本企業が外国人を活用するにあたり課題となるのは、文化、語学、意識といったものであることが窺われる。

図表1−外国人を雇用・活用するにあたっての社内システム上の問題点

図表1−外国人を雇用・活用するにあたっての社内システム上の問題点

出典:日本経団連「外国人受け入れ問題に関するアンケート調査」(2003年10月)


図表2−外国人受け入れにあたっての日本企業の課題

図表2−外国人受け入れにあたっての日本企業の課題

出典:日本経団連「外国人受け入れ問題に関するアンケート調査」(2003年10月)

  そうした文化、意識の改革と並んで、日本企業が外国人を活用するために必要なことは、外国人を適正な報酬で有効かつ適切に活用し得る仕組みづくりである。外国人が働きがいを感じ得る仕事と処遇を提供することが不可欠であろう。
 近年、日本企業では年功制が見直され、成果主義人事が導入され始めている。雇用形態の多様化も今後さらに進むことになろう。一方、外国人は、多様な雇用形態のなかから自ら適したものを選び、そのなかで自己のキャリア・パスを描きたいと考えている。日本での滞在が短期であっても、その期間で自分に何ができるか、その次のステップとして何をするかを強く意識している。そのような姿勢で仕事に取り組む外国人の眼からすると、日本企業のキャリア・パスは極めて不透明なものに映る。
 契約ベースの高度人材の場合、日本企業は国際的な労働市場賃金で外国人を処遇している場合が多い。しかし日本企業の賃金構造は、管理・専門職と生産要員の格差、職務グレード間格差が小さく、ある程度の期間、日本人と同じ処遇を前提にして外国人を研究職として活用しようとする場合、日本企業の報酬水準で海外から優秀な人材を集められるかは疑問である。世界的な人材獲得競争はますます激しくなっており、東アジアの国々の企業でも能力のある人材には高い報酬を与えている。日本企業も、外国人の活用を容易にするよう多様な対応をとることが求められる。
 加えて、外国人社員に対する日常生活を含めたケアも必要である。外国人を積極的に活用している企業は、平日の夜などに日本語教育を行なうほかにも、日本に長く住んでいる外国人社員を先輩役として相談員の形で配置する、それぞれの職場でしっかりと面倒を見る庶務係をつける、できる限り海外赴任の経験がある上司をつける、などの工夫をこらしている。
 また、外国人を活用するにあたり、コンプライアンス遵守・機密確保のための仕組みづくりも重要な課題となろう。日本経団連のアンケートでも、「固有技術の海外流出」「機密の漏洩」などの不安があげられている。企業は、細かな事項でも契約書に記載することを心がけなければならない。
 以上指摘した点は、日本企業の置かれた経営環境のなかにあっては、グローバルな共通の価値観(World Values)と呼ぶことができよう。こうした価値観をベースとして、企業独自の文化と融合させ、異文化シナジーを発揮させていくため、社内の意識を変え、同時にシステム・制度を整えていくことが必要である。

4.日系人の入国、就労に伴う課題の解決
 日系人は、現行の入管制度上、その身分や地位に着目した在留資格である「日本人の配偶者等」(主に二世)、「定住者」(主に三世)の資格により在留しており、一般の外国人の資格のように企業等との雇用契約を前提としていない。一般の外国人であれば、雇用契約が成立し在留資格を得た後、離職し無職のまま在留したり、入国時に許可された資格以外の職に就くことは許されないが、日系人はその身分や地位において、厳密な意味で外国人とは扱われず、一般の外国人と比べかなり自由に入国、在留ができるため、かえって将来の生活の見通しや十分な準備が整わないまま日本に入国するケースが少なくない。その結果、入国後、厳しい生活・就労環境に置かれることも多い。
 いうまでもなく日系人は、既に日本経済を支える重要な役割を果たしているが、日本経済の長期低迷によって、その生活基盤は揺らいでいる。そうした状況のなかで、安易な入国、在留は本人やその家族にとっても好ましいこととはいえない。生活基盤は、職業とそれによって得られる所得によって確かなものとなる。その前提に立てば、今後入国を希望する日系人については、企業等との雇用契約が整い、日本で安定的な所得を得られる者に対して在留資格を与えることを原則とするなど、現行の在留資格制度を見直すことを検討してはどうか。また、既に入国し生活をしている日系人については、日本語能力検定試験の合格、社会保険への加入、子女教育の努力などを在留資格更新時に確認する制度を設ける方向で検討してはどうか。
 なお、「2.就労管理の企業と国の役割」において提案した新しい仕組みは、日系人にも適用する必要があろう。

5.外国人の生活環境の整備
 外国人に日本の社会とそれを支えるシステム・制度を理解し適応してもらうとともに、国、地方をあげて受け入れを前提とした体制を整備する必要がある。

(1) 子女教育の充実
 日本に入国し在留資格を得て就労する外国人のなかには、子女を連れて生活する者も少なくない。その子女に対する教育については、インターナショナルスクールや外国人学校の場合、母国語による教育が可能であるが、無認可学校か認可されていても補助金が極めて限定的にしか支給されない各種学校となっているため、授業料が相対的に高く、また数も少ないという問題がある。一方、公立学校の場合、当然のことながら日本語による教育のため、子供達に日本語習得へのプレッシャーがかかり、学力低下や不登校に陥るケースもある。こうした事態を回避するため、外国人が集住する地方自治体のなかには、いわゆるプレスクールと呼ばれる教室を小学校内に設け、日本語教育や生活・習慣の指導を行なうとともに、巡回型の日本語指導員やカウンセラー、通訳を配置するなどの取り組みも見られる。また保護者を対象とした学校制度に関する理解を促すための説明会・交流会などを実施している地方自治体もある。
 こうした地方自治体の取り組みに伴う経費は、地方自治体が自主的に捻出せざるを得ない。特に教員や通訳、カウンセラーなどの追加的配置の経費に対する国による助成は少ないことから、外国人が集住する地方自治体、先進的な取り組みを行なっている地方自治体を中心に、国による助成の拡大を図ってはどうか。
 そもそも日本の義務教育は外国人保護者には適用されていない。そのため、特に日系人の子女の就学率の低さが問題となっている。不就学の状況は、中学、高校に進学するに従い高くなり、非行の温床ともなる。地方自治体や公立学校だけではなく、外国人学校、地域のNPO・NGOなどが協力して、保護者の子女教育に関する理解を深めることが、子女にとっても地域にとっても必要なことであろう。小学生、中学生にあたる学齢の子女の教育を外国人の保護者に義務化することについてはなお検討が必要であるが、入管法上の在留資格付与の要件として子女の教育機関の特定を組み入れることや在留資格更新時において子女の就学状況を確認することなどを組み込むよう検討してはどうか。

(2) 居住環境の改善
 日本に入国し職業を確保し、在留資格を得た後に外国人が最初に直面する問題は住居の確保である。企業が社宅を提供したり、民間住宅を斡旋、保証する場合にはそれほど苦労はないが、外国人が自ら住居の確保を行なおうとすると必ず壁にぶつかる。
 公的住宅においては、1992年に旧建設省が永住外国人・外国人登録を行なっている者について日本人と同様に扱う旨の通達を都道府県に行なった。その結果、90年代後半から外国人の公営住宅入居者数が増加した。しかし、民間の賃貸住宅では、依然として外国人の入居を拒否するケースが多く、外国人にとって住居確保は、苦労を要するものとなっている。また、外国人が集住する都市では、公営住宅への入居が中心となるが、なかには居住者の20〜40%を外国人が占めている団地もあり、地域のコミュニティとの間でトラブルとなっているケースも少なくない。
 これら問題の解決には、地方自治体の取り組みが求められ、実際に対策が講じられているところもある。特に民間住宅における外国人に対する差別的な取り扱いをなくす観点から注目されるのは、川崎市などで行なわれている「外国人居住支援システム」である。民間の賃貸住宅の場合は、外国人の入居に日本人の保証人を求めるケースが多いが、保証人が見つからない場合、地方自治体が設けた「保証システム」を通じて、万が一の場合の損失保証を行なうというものである。まだこのシステムの有用性が理解されていないため利用者が少なく、そもそもこうしたシステムを持たない地方自治体も多いなど課題はあるが、まずはこれを全国的に普及させる取り組みを行なってはどうか。

(3) 社会保障制度の改善、充実
 日本で就労する外国人は、医療など社会保障に対し大きな不満をもっている。日本は、1982年に「難民の地位に関する国際条約」を批准し、これに伴う国内法の改正で、国民年金、児童手当、児童扶養手当を外国人にも開放した。また国民健康保険も、1986年にはすべての外国人に加入が認められている。しかし外国人に対する年金、健康保険制度は、必ずしも有効に機能していない。実際、外国人集住都市である豊田市での外国人の健康保険加入率(2000年12月末)は、「健康保険」(8.0%)、「国民健康保険」(46.9%)、「未加入」(45.1%)であり(健保、未加入は推計値)、半数弱が無保険となっている(なかには民間保険に加入している場合もある)。このように社会保障の分野では、医療保険の未加入者の増加とそれに伴う外国人市民の健康問題、医療現場における高額医療費の未払いや医療通訳の問題、国民健康保険制度運営における自治体間の格差や保険料の滞納など、きわめて多様な問題が発生している。
 これは、日本の制度が長期雇用労働者を前提にしているため、定住を前提としない外国人の実情に合っておらず、さらに短期雇用を繰り返す外国人も多いため、社会保険への加入が進んでいないということが背景にある。また年金制度についていえば、保険料を6カ月以上納めた外国人が日本に住まなくなった場合、2年以内に請求すれば脱退一時金が支給されるという制度が導入されているが、図表3の通り、被保険者期間が36カ月以上の場合では、支給額は変わらず、保険料を支払うだけ損という状況が生じている。掛け捨てに近い状態になる年金制度への加入を嫌い、これとセットになっている健康保険にも加入しないのである。
 国民健康保険では、在留期間が1年以上の滞在または、在留期間が1年未満であっても入国目的、生活実態からみて1年以上日本に滞在すると保険者が認めた者という外国人だけの加入付帯条件がある。緊急医療については、現行の行旅病人及行旅死亡人取扱法では適用範囲が狭く、地方自治体のなかには1993年の群馬県を皮切りに、外国人の未払い医療費を一部補填しているところもある。国の制度としては、1996年度に外国人の未払い緊急医療費への補填制度がつくられたが、その指定を受けている病院(救命救急センター)は限られている。
 現在、年金制度、医療制度ともに制度改革が俎上に乗せられているが、いずれも外国人の受け入れという視点を持って検討がなされているわけではない。健保・厚生年金同時加入原則の見直し、外国人就労者で健保除外である者の国保加入の許可、緊急医療費の公的扶助制度の整備、脱退一時金制度の見直しなどが具体的に考えられるが、これらについては最終報告で結論を得ることにしたい。

図表3−年金脱退一時金制度の概要
年金脱退一時金制度
保険料納付
期間
厚生年金(率) 国民年金(額)
6〜12ヵ月 0.4 39,900円
12〜18ヵ月 0.8 79,800円
18〜24ヵ月 1.2 119,700円
24〜30ヵ月 1.6 159,600円
30〜36ヵ月 2.0 199,500円
36ヵ月以上 2.4 239,400円
*厚生年金の受給額は平均標準報酬月額×率。国民年金は第1号被保険者の納付期間

(4) 公共サービスの提供、地方自治への参加
 行政が外国人に対して公共サービスを提供する際、直面するのが言葉の壁である。外国人が集住する都市では、外国人対応の職員の配置や行政パンフレットの翻訳などを行なっているほか、日本語を話せない日系人定住者などに対して日本語教育の機会を充実させてきている。国は、こうした地方自治体の経費に対する助成を充実してはどうか。
 加えて、外国人の地方自治への参加も重要な課題である。国会には、永住外国人地方参政権法案(公明、民主、保守提出)が2000年から提出されているが、継続審議となっている。地方自治体では、1990年代に入り外国人による有識者会議を発足させている。なかでも川崎市の「外国人市民代表者会議」(96年12月設置)は、条例で設置が定められた唯一の例であるが、事実上の市政調査権も有し、代表者会議の提言が市政、条例制定に活かされている(外国人高齢者福祉手当の増額、公立学校への多文化教育講師の派遣など)。各地の地方自治体は、こうした先進事例を参考として、外国人の声を地方行政に反映するよう取り組む必要がある。

6.不法滞在者・治安対策の強化
 2003年1月1日現在における不法残留者の数は22万人余りで、前回調査時(2002年1月1日現在)に比べ4千人弱減少した。また過去最も多かった1993年5月1日現在に比べ約7万8千人の減少となっている。しかし、70数万人といわれる就労目的外国人のなかで、22万人もの外国人が不法残留となっているという事実は重い。
 一方、2002年度中の来日外国人の総検挙人員1万6千人余りのなかで、不法滞在者は8千4百人余りと50%以上を占めている。
 また近年日本では、増加する殺人などの重要犯罪の検挙率が大きく落ちてきているが、この背景には、増えつづける犯罪に対して十分な警察官が確保されていないこと、またその裏返しとして警察官の平均年齢が上昇していること(全国41.9歳、東京都42.1歳)などがあると考えられる。
 こうした状況を踏まえると、治安対策の強化は緊急を要する課題であり、日本国民はもとより、日本で働き生活する外国人にとっても望まれるものである。まじめに就労・就学する外国人が日本人から白眼視され、また日本人との間で相互に疑心暗鬼が深まるような状況のもとでは、「多様性のダイナミズム」も「共感と信頼」も実現し得ない。国、地方自治体は最優先の課題として取り組む必要がある。
 そうしたなか、自由民主党では本年7月、「5年で治安の危機的現状を脱する」ことを目標に「緊急提言」をとりまとめた。警察官、入国管理局、海上保安庁、刑務所など職員の増員、留置場、刑務所、入管施設の整備など治安関係施設の収容能力を改善することをめざし、あわせて「不法滞在者を今後5年で半減させる」との数値目標を掲げている。また民主党も今後4年間で地方警察官を3万人以上増員し、落ち込んでいる検挙率を回復させるとしている。
 私たちは、これらの基本的な方向を支持するが、日頃から関係省庁や地方自治体間で外国人の受け入れに関する情報の共有や施策の連携がなされていないと、外国人の就労・生活環境が悪化し、彼らが犯罪に手を染めてしまうような状況に追い込まれることになる。国、地方自治体一体となって整合性ある外国人受け入れ施策を推進しつつ、あわせて警察官の増員や入管施設の整備、入管職員の増員などを通じて治安対策の強化と不法入国の阻止を図るよう望みたい。


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