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1.うつ対策における保健医療従事者の役割

1)なぜ地域保健でうつ対策に取り組む必要があるのでしょうか
1つめの理由は・・・見過ごすことができない重要な病気だから
 地域の住民を調査すると、それまでにうつ病にかかったことがある人が15〜30人に1人であることが厚生労働省研究班の調査からわかっています。うつ病はそれだけ多くの方がかかる病気ですし、うつ病にかかると本人の精神的苦痛が非常に強く、仕事や日常の生活に大きな支障が出てきます。また、年間で3万人を超える自殺死亡者の9割以上が何らかの精神疾患にかかっていると推定され、とくに中高年の自殺ではうつ病が背景に存在していることが多いといわれています。こうしたことから世界保健機関(WHO)は、これからの数十年間では、うつ病が社会にとって最も大きな疾病負担になると指摘しています。
 ですから、うつ病を予防し、早期発見・早期治療を可能にし、そしてうつ病にかかっている人を長く支えることができる地域の環境をつくることは、住民の心の健康の向上のためにきわめて重要になります。
2つめの理由は・・・個人だけでなく地域ぐるみの取り組みが必要だから
 うつ病に苦しんでいる人が治療や地域の支援を受けられるようにするためには、個人対応だけでなく、そのための保健医療対策のネットワークなどの仕組みを地域に作っていくことが必要です。また、うつ病にかかっている人がこのような仕組みを抵抗なく利用し、受診や治療ができるようにするためには、住民全体のストレスやうつ病に対する正しい知識の普及が必要であり、またそのような個人の行動を支援する地域社会という環境づくりも必要です。うつ対策には、このような地域ぐるみの取り組みが不可欠で、それ自体が地域保健活動そのものです。
3つめの理由は・・・すでに各地でうつ対策の実績があるから
 すでにいくつかの自治体において、うつのスクリーニング、ハイリスクの人々に対する個別ケアとうつ病の人に対する個別的集団的支援活動が実施され、その成果が報告されています。つまり、うつ対策を実施することは意義があることだとわかっており、うつ対策を実施しようという意志があれば実施できるだけのノウハウがすでに存在しています。
(自殺予防活動の成果に関しては、資料8:我が国における1985年以降5年間以上継続された高齢者自殺予防活動の実績を参照してください。)

2)地域の実態を知ろう
 うつ対策に取り組むためには、担当する地域の実態を知ることがまず大切です。
 対策の第一歩として、地域の専門医療機関や心の健康に関連した組織や団体及びグループ、保健所及び当該市町村で行っている心の健康に関する保健事業、地域住民の精神疾患に対する意識などを把握することが大切です。必要に応じて、地域住民の心の健康状態、ストレスの状態、抑うつ状態、自殺やうつ病に対する意識などについて実態調査を実施してみるといいでしょう。これにより、地域の中で援助する必要のある集団を把握できるようになります。うつ対策に自殺予防対策を組み込む場合には、自殺死亡者数や死亡率、死因、精神疾患の罹患状況等を把握することも役に立ちます。


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