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痴呆性高齢者の特徴に応じた望ましいサービスのあり方

 高齢者のそれまでの生活や個性を尊重しながら、生活そのものをケアとして組み立てていくグループホーム的ケアのアプローチ(住み慣れた地域、なじみの人間関係、小規模な居住空間、家庭的なしつらえ・暮らし方、それらの環境条件を活かした個別ケア)は、痴呆性高齢者はもとより、これからの高齢者の地域ケア全般に通じるものとして、発展させていくことが必要である。



痴呆性高齢者ケアの基本=「尊厳の保持」
  痴呆性高齢者の特性
 ○ 記憶障害の進行と感情等の残存
 ○ 不安、焦燥感等→徘徊等行動障害
 ○ 環境変化への適応困難
  生活そのものをケアとして組み立てる
 ○ 環境の変化を避け、生活の継続性を尊重
 ○ 高齢者のペースでゆったりと安心して
 ○ 心身の力を最大限に発揮した充実した暮らし

生活そのものをケアとして組み立てるためには、
日常の生活圏ユニットケアの普及域を基本としたサービス体系の構築が必要
 ○ 小規模な居住空間
 ○ 家庭的な雰囲気
 ○ なじみの人間関係
 ○ 住み慣れた地域での生活の継続
グループホーム
小規模・多機能サービス拠点
施設機能の地域展開
ユニットケアの普及

こうした痴呆性高齢者に対応するサービスを提供するためには
痴呆性高齢者と家族を支える地域の仕組みが必要
 ○ 家族や地域住民に対する痴呆についての正しい知識と理解の啓発
 ○ 住民による主体的な健康づくりと痴呆介護予防活動
 ○ 早期発見、相談機能の強化、専門的人材の育成
 ○ 地域の関係者のネットワークによる支援

高齢者介護研究会報告書を基に作成



(参考)

痴呆の中核症状と周辺症状 〜増悪をまねく多様な要因の関与〜

痴呆の中核症状と周辺症状 〜増悪をまねく多様な要因の関与〜の図
「痴呆バリア・フリー百科」より一部改編


痴呆の人の状態の移ろいやすさ

痴呆の人の状態の移ろいやすさの図
「高齢者の尊厳を支える介護」より一部改編



アルツハイマー病の段階別にみた痴呆の特徴と痴呆の人自身が語る説明


 下表は、正常な人の視点から記述された段階別アルツハイマー病の特徴と、それらの特徴について、アルツハイマー病患者自らの視点からみると、実際どのように感じているのかを説明した記述の要約である。
 <第一段階−軽度>
正常な人の視点からみた
アルツハイマー病者の特徴
(豪ニューサウスウェールズ州アルツハイマー病協会の『手引き』より)
痴呆の人自身の視点からみた説明
(クリスティーン・ボーデンさん他)
 無関心、生気がなくなる
 これは、私たちがまわりのすべてのことについて行けなくなるからで、何が起こっているのかを理解できず、何かばかなことを言ったり、したりするのではないかと心配しているためなのだ。
 趣味や活動に興味がなくなる
 これは、すぐに疲れてしまうようになるからで、今までなら簡単にやっていたことをするのにも、これまでより一所懸命に脳を働かさねばならなくなるからだ。
 新しいことをしたがらない
 何か新しいことを学ぶのはとても難しく、やり方を教えてくれる人に何回も繰り返してもらわなければならないので、その人を煩わせてしまうだろうと思うからだ。
 変化についていけない
 物事の古いやり方は、残存する脳の中で記憶にしっかり定着しているのに、新しく学んだものは次々と忘れられてしまうために、とても混乱しやすくなっている。
 決断したり、計画することができなくなる
 一つの決断をするためには、心の中にたくさんの考えを同時に保ち、それらを検索し、決定するということがなされねばならない。ところが、私たちには考えを記憶しておく場所が少なくなっているので、これが簡単にはできないのだ。
 複雑な考えを理解するには時間がかかる
 決断する時と同じように、私たちは記憶する能力がなくなってしまっているので、複雑な考えを取り入れ、正しく理解することができない。
 よく知っているものを求め、見知らぬものを避ける
 新しい仕事はどんなものであれ多くの努力を要するので、精神的にすぐに疲れてしまう。そして何か新しいことを試みるように頼まれると、わからなくなったり、失敗するのではないかと心配する。

 <第二段階−中度>
正常な人の視点からみた
アルツハイマー病者の特徴
(豪ニューサウスウェールズ州アルツハイマー病協会の『手引き』より)
痴呆の人自身の視点からみた説明
(クリスティーン・ボーデンさん他)
 仕事には援助と監督が必要
 私たちはすぐに混乱してしまい、今までよく知っていたものでも、思い出せないことがしばしばある。
 最近の出来事をとても忘れやすい・・・・・遠い過去の記憶は概してよいが、細かい点は忘れられたり、混乱したりするかもしれない
 新しい記憶を覚えておくことは難しいが、古い記憶はまだかなり残っており、自分のまわりのさまざまなことをきっかけにして、過去の記憶を生活に呼び起こすことができる。こういう過去のことを話す方が、現在のことを話すよりずっと楽で、現在、起こっていることを理解するのはとても難しい。
 時と場所、一日のうちの時間について混乱する・・・・夜に買い物に出かけるかもしれない
 私は、今日が何年、何月、何曜日かを思い出すために、一日に何回も日記を見る。以前は、自分の考えの背景となっているようなことはすぐに理解できたものだった。しかも、すべて自動的にわかっていたことだった。今では、日常の記憶を保っておく場所がなくなっていて、これらを心に留めておくにはとても努力がいる。
 よく知らない環境では、すぐに途方にくれてしまう
 よく知らない場所では私はうろたえてしまって、うまく対処できない。自分がどの道から来たのかというような、自分のいる場所についての見当識をもつためには、一連の出来事を覚えていなければならないからだ。それに、どうしたものか前に進んでいる時と、振り返って見る時とでは、すべてがひどく違って見える。
クリスティーン・ボーデン著
「私は誰になっていくの?−アルツハイマー病者からみた世界−」より引用

 ※ クリスティーン・ボーデン(クリスティーン・ブライデン)氏
 1995年に46歳でアルツハイマー病の診断を受け、翌年、首相・内閣府第一次官補を最後にオーストラリア政府を退職。診断前後の自らの経験をまとめて、1998年に「WhowillbewhenIdie?(私は誰になっていくの?)」を出版する。1998年に再婚、クリスティーン・ブライデンとなる。
 現在、国際痴呆症支援ネットワーク、オーストラリアアルツハイマー病国家プログラム運営委員会のメンバーとして活躍。


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