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第1章 救命治療、法的脳死判定等の状況の検証結果

1.初期診断・治療に関する評価

(1)脳神経系の管理
(1)経過
 平成13年1月4日11:55頃、歩道で倒れ両上肢、顔面に痙攣が生じているところを発見され、救急車が要請された。救急隊が現場に到着(12:02)したときは、意識レベルJCS300であったが、自発呼吸はあり、瞳孔散大はなかった。その後、救急車内で下顎呼吸となり、救急外来到着時(12:18)、呼吸は不規則で、意識レベルはJCS300、縮瞳(左右:2 mm)、対光反射消失が認められた。直ちに気管内挿管、静脈路確保等の救急処置を行った。
 発症後約48分に行ったCTの所見は、び慢性の著明なくも膜下出血に脳室内出血を伴い(Fisher分類のgradeIV)、急性水頭症も認められた。深昏睡、対光反射消失が持続し、呼吸は不規則で、来院時192/140 mmHgであった血圧も、CT施行後100mmHg以下となるなど、バイタルサインが不安定であった。発症3時間に水頭症の治療と脳圧コントロールを目的として脳室ドレナージを行い、頭蓋内圧測定用センサーを設置している。4日13:40、3次元CT脳血管撮影を行い、右椎骨動脈解離性動脈瘤を疑わせる所見が得られている。
 5日(5:00)に再出血を生じ、瞳孔が散大して、21:00からは自発呼吸も消失した。1月7日14:30に行ったCT検査では、くも膜下出血、脳室内出血及び著明な脳腫脹が認められ、皮髄境界が不明瞭となっていた。7日14:30に行った脳血管撮影では、頭蓋内血管の造影は認められなかった(non filling)。

(2)診断の妥当性
 本症例に於いて、来院早期にCT検査を行ったこと、及びCTによりくも膜下出血と診断し、患者の状態を考慮して、3次元CT脳血管撮影を施行して破裂脳動脈瘤の部位の推定を行ったことは妥当である。

(3)保存的治療を行ったことの評価
 来院時呼吸、血圧等のバイタルサインが不安定で、意識レベルはJCS300、対光反射は消失している状態であったため、直達手術は行わず、脳圧コントロールのため脳室ドレナージ術を施行し、頭蓋内圧測定用センサーを設置して、保存的療法を行い、状態が改善すれば直達手術を行う方針を立てている。保存療法としては、脳圧下降剤(マンニトール)、抗痙攣剤(フェニトイン)、血圧下降剤(ニカルジピン)の投与と人工呼吸管理が行われた。以上の判断、処置は妥当である。
 また、脳室ドレナージを行い、脳圧下降剤、抗痙攣剤、血圧下降剤を投与して、再出血の防止及び脳圧コントロールを行うとした保存的治療も適切に行われている。

(2)呼吸器系の管理
 救急車搬送中より下顎呼吸となり、車内にて気道確保・酸素投与が行われた。来院時血液ガス所見は、PaO2:493mmHg、PaCO2:49mmHg、pH:7.29で、直ちに気管内挿管が行われ、鎮静薬(ミダダゾラム、プロポフォール)使用下に人工呼吸器(FiO2:1.0)による調節呼吸が開始された。その後、PaCO2は29~49mmHg、PaO2は100mmHg 以上と適正に保たれていた。また、肺炎等の呼吸器感染症予防のため、CEZ(セファゾリン)も行われており、呼吸器系の管理は妥当である。

(3)循環器系の管理
 来院時血圧192/140mmHgと高血圧状態であり、これに対しペルジピン持続静注がなされた。集中治療室入室後も循環動態が不安定で、血圧低下に対しドパミンなどのカテコラミンが投与された。しかし、1月5日より中枢性尿崩症と考えられる尿量増加による脱水、血圧低下が著明となったため、脳圧下降剤(マンニトール)を中止し、循環血液量の補正、抗利尿ホルモン(ピトレッシン)投与、及びカテコラミンの増量がはかられ、循環動態は安定した。これらの対応はいずれも妥当と考えらる。

(4)水電解質の管理
 来院時、低K血症2.7mEq/lが認められたが、K補充により血清K値は適正に維持されている。来院時の血清K値の低下は、重症救急患者にみられる特有なものと推測される。
 1月5日頃から重症脳障害に合併する中枢性尿崩症と思われる尿量増加(>300ml/h)を認めた。それに伴い、中心静脈圧は低値(0mmHg)を示し、血圧低下、脱水に伴う高Na血症(血清Na値:164 mEq/l)を認めた。それに対しては、抗利尿ホルモン(ピトレッシン0.2~0.5 IU)の投与、輸液量増量、カテコラミン投与が行われ、血圧低下、脱水状態が改善されている。これらは極めて妥当な治療と思われる。


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