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別添1
神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準

第1  神経系統の機能又は精神の障害と障害等級
 神経系統の機能又は精神の障害については、障害等級表上、次のごとく神経系統の機能又は精神の障害並びに局部の神経系統の障害について等級を定めている。
(1)  神経系統又は精神の障害
  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの  第1級の3
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの  第2級の2の2
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの  第3級の3
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの  第5級の1の2
神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの  第7級の3
神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの  第9級の7の2
(2)  局部の神経系統の障害
  局部にがん固な神経症状を残すもの  第12級の12
局部に神経症状を残すもの  第14級の9
 中枢神経系に分類される脳又はせき髄の損傷による障害は、複雑な症状を呈するとともに身体各部にも様々な障害を残すことが多いことから、中枢神経系の損傷による障害が複数認められる場合には、末梢神経による障害も含めて総合的に評価し、その認定に当たっては神経系統の機能又は精神の障害の障害等級によること。
 ただし、脳又はせき髄の損傷により生じた障害が単一であって、かつ、当該障害について障害等級表上該当する等級がある場合(準用等級を含む。)には、神経系統の機能又は精神の障害の障害等級によることなく、その等級により認定すること(後記第3参照)。

第2  障害等級認定の基準
 神経系統の機能又は精神の障害については、その障害により、第1級は「生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの」、第2級は「生命維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」、第3級は「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができないもの」、第5級は「極めて軽易な労務にしか服することができないもの」、第7級は「軽易な労務にしか服することができないもの」、第9級は「通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるもの」、第12級は「通常の労務に服することはでき、職種制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの」及び第14級は第12級よりも軽度のものが該当するものであること。
 脳の障害
(1)  器質性の障害
 脳の器質性障害については、「高次脳機能障害」(器質性精神障害)と「身体性機能障害」(神経系統の障害)に区分した上で、「高次脳機能障害」の程度、「身体性機能障害」の程度及び介護の要否・程度を踏まえて総合的に判断すること。たとえば高次脳機能障害が第5級に相当し、軽度の片麻痺が第7級に相当するから、併合の方法を用いて準用等級第3級と定めるのではなく、その場合の全体病像として、第1級の3、第2級の2の2又は第3級の3のいずれかに認定すること。
 高次脳機能障害
 高次脳機能障害については、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力及び社会行動能力の4つの能力(以下「4能力」という。)の各々の喪失の程度に着目し、評価を行うこと。その際、複数の障害が認められるときには、原則として障害の程度の最も重篤なものに着目して評価を行うこと。たとえば、意思疎通能力について第5級相当の障害、問題解決能力について第7級相当の障害、社会行動能力について第9級相当の障害が認められる場合には、最も重篤な意思疎通能力の障害に着目し、第5級の1の2として認定すること。
 ただし、高次脳機能障害による障害が第3級以上に該当する場合には、介護の要否及び程度を踏まえて認定すること。
 また、以下に掲げた高次脳機能障害に関する障害の程度別の例は例示の一部であり、認定基準に示されたもの以外の4能力の喪失の程度別の例については、別添2「神経系統の機能又は精神の障害に関する医学的事項等」(以下「別添2」という。)の別紙「高次脳機能障害整理表」を参考にすること。
 なお、高次脳機能障害は、脳の器質的病変に基づくものであることから、MRI、CT等によりその存在が認められることが必要であること。
 また、神経心理学的な各種テストの結果のみをもって高次脳機能障害が認められないと判断することなく、4能力の障害の程度により障害等級を認定すること。














注1  高次脳機能障害とは認知、行為(の計画と正しい手順での遂行)、記憶、思考、判断、言語、注意の持続などが障害された状態であるとされており、全般的な障害として意識障害や痴ほうも含むとされている。
 4能力を評価する際の要点については、別添2の第1の1を参照のこと。
 認定基準に定める4能力の喪失の程度と「高次脳機能障害整理表」に定める4能力の喪失の程度との関係については、別添2の第1の2を参照のこと
 神経心理学的な各種テスト等の検査結果は臨床判定の際の有効な手段であるが、知能指数が高いにもかかわらず高次脳機能障害のために生活困難度が高い例がある。














(ア) 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3とする。
 以下のa又はbが該当する。
a  重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
b  高次脳機能障害による高度の痴ほうや情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
(イ) 「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」は、第2級の2の2とする。
 以下のa、b又はcが該当する。
a  重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
b  高次脳機能障害による痴ほう、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
c  重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
(ウ) 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」は、第3級の3とする。
 以下のa又はbが該当する。
a  4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの














例1   意思疎通能力が全部失われた例
 「職場で他の人と意思疎通を図ることができない」場合
問題解決能力が全部失われた例
 「課題を与えられても手順とおりに仕事を全く進めることができず、働くことができない」場合
作業負荷に対する持続力・持久力が全部失われた例
 「作業に取り組んでもその作業への集中を持続することができず、すぐにその作業を投げ出してしまい、働くことができない」場合
社会行動能力が全部失われた例
 「大した理由もなく突然感情を爆発させ、職場で働くことができない」場合














b  4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの

(エ) 「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」は、第5級の1の2とする。
 以下のa又はbが該当する。
a  4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているもの




問題解決能力の大部分が失われている例
「1人で手順とおりに作業を行うことは著しく困難であり、ひんぱんな指示がなければ対処できない」場合




b  4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの

(オ) 「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」は、第7級の3とする。
 以下のa又はbが該当する。
a  4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの




問題解決能力の半分程度が失われているものの例
「1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、時々助言を必要とする」場合




b  4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの

(カ) 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2とする。
 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているものが該当する。




問題解決能力の相当程度が失われているものの例
「1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまには助言を必要とする」場合




(キ) 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の12とする。
 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているものが該当する。

(ク) 「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの」は、第14級の9とする。
  MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるものが該当する。

 身体性機能障害
(ア) 脳の損傷による身体性機能障害については、麻痺の範囲(四肢麻痺、片麻痺及び単麻痺)及びその程度(高度、中等度及び軽度)並びに介護の有無及び程度により障害等級を認定すること。
 麻痺の程度については、運動障害の程度をもって判断すること。
 ただし、麻痺のある四肢の運動障害(運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障)がほとんど認められない程度の麻痺については、軽度の麻痺に含めず、第12級の12として認定すること。
 なお、麻痺の範囲及びその程度については、身体的所見及びMRI、CT等によって裏付けることのできることを要するものである。










注1  四肢麻痺とは両側の四肢の麻痺、片麻痺とは一側上下肢の麻痺、対麻痺とは両下肢又は両上肢の麻痺、単麻痺とは上肢又は下肢の一肢のみの麻痺をいう。
 脳の損傷による麻痺については、四肢麻痺、片麻痺又は単麻痺が生じ、通常対麻痺が生じることはない。
 麻痺には運動障害及び感覚障害があるが、脳損傷により運動障害が生じた場合には通常運動障害の範囲に一致した感覚障害(感覚脱失又は感覚鈍麻等)が随伴する。










(イ) 麻痺の程度については以下のとおりである。
a  麻痺が高度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性がほとんど失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作(下肢においては歩行や立位、上肢においては物を持ち上げて移動させること)ができないものをいう。 具体的には、以下のものをいう。)
(a)  完全強直又はこれに近い状態にあるもの
(b)  上肢においては、三大関節及び5つの手指のいずれの関節も自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
(c)  下肢においては、三大関節のいずれも自動運動によっては可動させることができないもの又はこれに近い状態にあるもの
(d)  上肢においては、随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
(e)  下肢においては、随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性及び随意的な運動性をほとんど失ったもの
b  麻痺が中等度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ、障害のある上肢又は下肢の基本動作にかなりの制限があるものをいう。
 たとえば、次のようなものがある。
(a)  上肢においては、障害を残した一上肢では仕事に必要な軽量の物(概ね500g)を持ち上げることができないもの又は障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
(b)  下肢においては、障害を残した一下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには歩行が困難であるもの
c  麻痺が軽度とは、障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており、障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているものをいう。
 たとえば、次のようなものがある。
(a)  上肢においては、障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
(b)  下肢においては、日常生活は概ね独歩であるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく、速度も遅いもの又は障害を残した両下肢を有するため杖若しくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの

(ウ) 身体性機能障害については、以下の基準により第1級〜第12級の7段階で認定すること。
a  「身体性機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3とする。
 以下のものが該当する。
(a)  高度の四肢麻痺が認められるもの
(b)  中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
(c)  高度の片麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
b  「身体性機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」は、第2級の2の2とする。
 以下のものが該当する。
(a)  高度の片麻痺が認められるもの
(b)  中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
c  「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、身体性機能障害のため、労務に服することができないもの」は、第3級の3とする。
 中等度の四肢麻痺(上記の(ウ)のa又はbに該当するものを除く。)が認められるものが該当する。
d  「身体性機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」は、第5級の1の2とする。
 以下のものが該当する。
(a)  軽度の四肢麻痺が認められるもの
(b)  中等度の片麻痺が認められるもの
(c)  高度の単麻痺が認められるもの
e  「身体性機能障害のため、軽易な労務以外には服することができないもの」は、第7級の3とする。
 以下のものが該当する。
(a)  軽度の片麻痺が認められるもの
(b)  中等度の単麻痺が認められるもの
f  「通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2とする。
 軽度の単麻痺が認められるものが該当する。
g  「通常の労務に服することはできるが、身体性機能障害のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の12とする。
 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すものが該当する。
 また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当する。





例1  軽微な随意運動の障害又は軽微な筋緊張の亢進が認められるもの
 運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一上肢又は一下肢の全域にわたって認められるもの





(2)  非器質性の障害
 脳の器質的損傷を伴わない精神障害(以下「非器質性精神障害」という。)については、以下の基準によること。
 非器質性精神障害の後遺障害
 非器質性精神障害の後遺障害が存しているというためには、以下の(ア)の精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、(イ)の能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることを要すること。
(ア) 精神症状
 (1)  抑うつ状態
 (2)  不安の状態
 (3)  意欲低下の状態
 (4)  慢性化した幻覚・妄想性の状態
 (5)  記憶又は知的能力の障害
 (6)  その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)

注 各精神症状の内容については、別添2の第2の1を参照のこと。
(イ) 能力に関する判断項目
 (1)  身辺日常生活
 (2)  仕事・生活に積極性・関心を持つこと
 (3)  通勤・勤務時間の遵守
 (4)  普通に作業を持続すること
 (5)  他人との意思伝達
 (6)  対人関係・協調性
 (7)  身辺の安全保持、危機の回避
 (8)  困難・失敗への対応
 就労意欲の低下等による区分
(ア)  就労している者又は就労の意欲のある者
 現に就労している者又は就労の意欲はあるものの就労はしていない者については、アの(ア)の精神症状のいずれか1つ以上が認められる場合に、アの(イ)の能力に関する8つの判断項目(以下「判断項目」という。)の各々について、その有無及び助言・援助の程度(「時に」又は「しばしば」必要)により障害等級を認定すること。
(イ)  就労意欲の低下又は欠落により就労していない者
 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者については、身辺日常生活が可能である場合に、アの(イ)の(1)の身辺日常生活の支障の程度により認定すること。
 なお、就労意欲の低下又は欠落により就労していない者とは、職種に関係なく就労意欲の低下又は欠落が認められる者をいい、特定の職種について就労の意欲のある者については上記イの(ア)に該当するものであること。



 各能力の低下を判断する際の要点については、別添2の第2の2を参照のこと



 障害の程度に応じた認定
 非器質性精神障害は、次の3段階に区分して認定すること。
(ア) 「通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2とする。
 以下のa又はbが該当する。
a  イの(ア)に該当する場合には、判断項目のうち(2)〜(8)のいずれか1つの能力が失われているもの又は判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの



 非器質性精神障害のため、「対人業務につけない」ことによる職種制限が認められる場合



b  イの(イ)に該当する場合には、身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの

(イ) 「通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の12とする。
 以下のa又はbが該当する。
a  イの(ア)に該当する場合には、判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの



 非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労に当たりかなりの配慮が必要である」場合



b  イの(イ)に該当する場合には、身辺日常生活を適切又は概ねできるもの

(ウ) 「通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの」は、第14級の9とする。
 判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているものが該当する。



 非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労に当たり多少の配慮が必要である」場合



 重い症状を残している者の治ゆの判断等
 重い症状を有している者(判断項目のうち(1)の能力が失われている者又は判断項目のうち(2)〜(8)のいずれか2つ以上の能力が失われている者)については、非器質性精神障害の特質上症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合であっても、原則として療養を継続すること。
 ただし、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、治ゆの状態にあるものとし、障害等級を認定すること。
 なお、その場合の障害等級の認定は本認定基準によらずに、本省に協議の上認定すること。












注1  非器質性精神障害については、症状が重篤であっても将来において大幅に症状の改善する可能性が十分にあるという特質がある。
 業務による心理的負荷を原因とする非器質性精神障害は、業務による心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば、多くの場合概ね半年〜1年、長くても2〜3年の治療により完治するのが一般的であって、業務に支障の出るような後遺症状を残すケースは少なく、障害を残した場合においても各種の日常生活動作がかなりの程度でき、一定の就労が可能となる程度以上に症状がよくなるのが通常である。












 2  せき髄の障害
(1)  せき髄の損傷(第2腰椎以下のせき柱内の馬尾神経が損傷された場合も含む。以下同じ。)による障害については、以下によること。
 外傷などによりせき髄が損傷され、対麻痺や四肢麻痺が生じた場合には、広範囲にわたる感覚障害や尿路障害(神経因性膀胱障害)などの腹部臓器の障害が通常認められる。さらには、せき柱の変形や運動障害(以下「せき柱の変形等」という。)が認められることも多い。このようにせき髄が損傷された場合には複雑な諸症状を呈する場合が多いが、せき髄損傷が生じた場合の障害等級の認定は、原則として、脳の身体性機能障害と同様に身体的所見及びMRI、CT等によって裏付けることのできる麻痺の範囲と程度により障害等級を認定すること。
 ただし、せき髄損傷に伴う胸腹部臓器の障害やせき柱の障害による障害の等級が麻痺により判断される障害の等級よりも重い場合には、それらの障害の総合評価により等級を認定すること。
 なお、せき髄損傷による障害が第3級以上に該当する場合には、介護の要否及び程度を踏まえて認定すること。















注1  せき柱に外力が加わることにより、せき柱の変形等が生じることがあるとともに、せき髄の損傷が生じた場合には、麻痺や感覚障害、神経因性膀胱障害等の障害が生じる。
 このため、せき髄の損傷による障害に関する認定基準は麻痺の範囲と程度に着目して等級を認定するものとなっているが、各等級は通常伴うそれらの障害も含めて格付したものである。
 2  せき髄は、解剖学的には第1腰椎より高位に存在し、第2腰椎以下には存在しないが、第2腰椎以下のせき柱内の馬尾神経が損傷された場合においても、せき髄の損傷による障害である下肢の運動麻痺(運動障害)、感覚麻痺(感覚障害)、尿路機能障害又は腸管機能障害(神経因性膀胱障害又は神経因性直腸障害)等が生じることから、せき髄損傷に含めて運用する。また、広義のせき髄損傷には馬尾神経損傷が含まれる。















(2)  せき髄の損傷による障害は、次の7段階に区分して等級を認定すること。
 「せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」は、第1級の3とする。
 以下のものが該当する。
(ア) 高度の四肢麻痺が認められるもの
(イ) 高度の対麻痺が認められるもの
(ウ) 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
(エ) 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの






 第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の高度の対麻痺、神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部位以下の感覚障害が生じたほか、せき柱の変形等が認められるもの






 「せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」は、第2級の2の2とする。
 以下のものが該当する。
(ア) 中等度の四肢麻痺が認められるもの
(イ) 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
(ウ) 中等度の対麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの






 第2腰髄以上で損傷を受けたことにより両下肢の中等度の対麻痺が生じたために、立位の保持に杖又は硬性装具を要するとともに、軽度の神経因性膀胱障害及び脊髄の損傷部位以下の感覚障害が生じたほか、せき柱の変形が認められるもの






 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために労務に服することができないもの」は、第3級の3とする。
 以下のものが該当する。
(ア)  軽度の四肢麻痺が認められるもの(上記イの(イ)に該当するものを除く。)
(イ)  中等度の対麻痺が認められるもの(上記アの(エ)又はイの(ウ)に該当するものを除く。)

 「せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」は、第5級の1の2とする。
 以下のものが該当する。
(ア)  軽度の対麻痺が認められるもの
(イ)  一下肢の高度の単麻痺が認められるもの

 「せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの」は、第7級の3とする。
 一下肢の中等度の単麻痺が認められるものが該当する。





 第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の中等度の単麻痺が生じたために、杖又は硬性装具なしには階段をのぼることができないととともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの





 「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2とする。
 一下肢の軽度の単麻痺が認められるものが該当する。





 第2腰髄以上で脊髄の半側のみ損傷を受けたことにより一下肢の軽度の単麻痺が生じたために日常生活は独歩であるが、不安定で転倒しやすく、速度も遅いとともに、脊髄の損傷部位以下の感覚障害が認められるもの





 「通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの」は、第12級の12とする。
 運動性、支持性、巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すものが該当する。
 また、運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当する。




例1  軽微な筋緊張の亢進が認められるもの
2  運動障害を伴わないものの、感覚障害が概ね一下肢にわたって認められるもの



 3  末梢神経障害
 末梢神経麻痺に係る等級の認定は、原則として、損傷を受けた神経の支配する身体各部の器官における機能障害に係る等級により認定すること。

 4  その他特徴的障害
(1) 外傷性てんかん
 外傷性てんかんに係る等級の認定は発作の型、発作回数等に着目し、以下の基準によること。
 なお、1ヵ月に2回以上の発作がある場合には、通常高度の高次脳機能障害を伴っているので、脳の高次脳機能障害に係る第3級以上の認定基準により障害等級を認定すること。







 上記4の(1)のアのなお書きの趣旨は、第5級を超える頻度、すなわち、「1ヵ月に2回以上の発作がある場合」には、医学経験則上そのような症状で「てんかん」発作のみが単独で残存することは想定しがたく、通常は脳挫傷があり、高度な高次脳機能障害を残す状態でてんかん発作を伴っているケースが考えられることによる。







 (ア) 「1ヵ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」(以下「転倒する発作等」という。)であるもの」は、第5級の1の2とする。










例1  転倒する発作には、「意識消失が起こり、その後ただちに四肢等が強くつっぱる強直性のけいれんが続き、次第に短時間の収縮と弛緩をくりかえす間代性のけいれんに移行する」強直間代発作や脱力発作のうち「意識は通常あるものの、筋緊張が消失して倒れてしまうもの」が該当する。
2  「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作」には、意識混濁を呈するとともにうろうろ歩き回るなど目的性を欠く行動が自動的に出現し、発作中は周囲の状況に正しく反応できないものが該当する。










 (イ) 「転倒する発作等が数ヶ月に1回以上あるもの又は転倒する発作等以外の発作が1ヵ月に1回以上あるもの」は、第7級の3とする。
 (ウ) 「数ヵ月に1回以上の発作が転倒する発作等以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの」は、第9級の7の2とする。
 (エ) 「発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの」は、第12級の12とする。

(2)  頭痛 頭痛については、頭痛の型の如何にかかわらず、疼痛による労働又は日常生活上の支障の程度を疼痛の部位、性状、強度、頻度、持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる他覚的所見により把握し、障害等級を認定すること。
 「通常の労務に服することはできるが激しい頭痛により、時には労働に従事することができなくなる場合があるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2に該当する。
 「通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の強い頭痛がおこるもの」は、第12級の12に該当する。
 「通常の労務に服することはできるが、頭痛が頻回に発現しやすくなったもの」は、第14級の9に該当する。
(3)  失調、めまい及び平衡機能障害
 失調、めまい及び平衡機能障害については、その原因となる障害部位によって分けることが困難であるので、総合的に認定基準に従って障害等級を認定すること。
 「生命の維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高度の失調又は平衡機能障害のために労務に服することができないもの」は第3級の3に該当する。
 「著しい失調又は平衡機能障害のために、労働能力がきわめて低下し一般平均人の1/4程度しか残されていないもの」は、第5級の1の2に該当する。
 「中等度の失調又は平衡機能障害のために、労働能力が一般平均人の1/2以下程度に明らかに低下しているもの」は第7級の3に該当する。
 「通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状が強く、かつ、眼振その他平衡機能検査に明らかな異常所見が認められ、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2に該当する。
 「通常の労務に服することはできるが、めまいの自覚症状があり、かつ、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められるもの」は、第12級の12に該当する。
 「めまいの自覚症状はあるが、眼振その他平衡機能検査の結果に異常所見が認められないものの、めまいのあることが医学的にみて合理的に推測できるもの」は、第14級の9に該当する。
(4)  疼痛等感覚障害
 受傷部位の疼痛及び疼痛以外の感覚障害については、次により認定すること。
(ア)  疼痛
a  「通常の労務に服することはできるが、時には強度の疼痛のため、ある程度差し支えがあるもの」は、第12級の12とする。
b  「通常の労務に服することはできるが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すもの」は、第14級の9とする。
(イ) 疼痛以外の感覚障害 疼痛以外の異常感覚(蟻走感、感覚脱失等)が発現した場合は、その範囲が広いものに限り、第14級の9に認定すること。
 特殊な性状の疼痛
(ア)  カウザルギーについては、疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる他覚的所見などにより、疼痛の労働能力に及ぼす影響を判断して次のごとく等級の認定を行うこと。
a  「軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの」は、第7級の3とする。
b  「通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」は、第9級の7の2とする。
c  「通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの」は、第12級の12とする。
(イ)  反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)については、(1)関節拘縮、(2)骨の萎縮、(3)皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という慢性期の主要な3つのいずれの症状も健側と比較して明らかに認められる場合に限り、カウザルギーと同様の基準により、それぞれ第7級の3、第9級の7の2、第12級の12に認定すること。















 外傷後疼痛が治ゆ後も消退せず、疼痛の性質、強さなどについて病的な状態を呈することがある。この外傷後疼痛のうち特殊な型としては、末梢神経の不完全損傷によって生ずる灼熱痛(カウザルギー)があり、これは、血管運動性症状、発汗の異常、軟部組織の栄養状態の異常、骨の変化(ズデック萎縮)などを伴う強度の疼痛である。
 また、これに類似して、例えば尺骨神経等の主要な末梢神経の損傷がなくても、微細な末梢神経の損傷が生じ、外傷部位に、同様の疼痛がおこることがある(反射性交換神経性ジストロフィー(RSD)という。)が、その場合、エックス線写真等の資料により、上記の要件を確認することができる。
 なお、障害等級認定時において、外傷後生じた疼痛が自然的経過によって消退すると認められるものは、障害補償の対象とはならない。















第3  その他
 脳損傷により障害を生じた場合であって、当該障害について、障害等級表上、該当する等級(準用等級を含む。)があり、かつ、生じた障害が単一であるときは、その等級により認定すること。




 1側の後頭葉視覚中枢の損傷によって、両眼の反対側の視野欠損を生ずるが、この場合は、視野障害の等級として定められている第9級の3により認定する。




 せき髄損傷により障害を生じた場合であって、当該障害について、障害等級表上、該当する等級(準用等級を含む。)があり、かつ、生じた障害が単一であるときは、その等級により認定すること。




 第4仙髄の損傷のため軽度の尿路障害(第11級の9)が生じた場合は、胸腹部臓器の障害として定められている第11級の9により認定する。






別添2
神経系統の機能又は精神の障害に関する医学的事項等


第1 高次脳機能障害
 評価の着眼点
 高次脳機能障害は、4能力に係る喪失の程度により評価を行う。評価を行う際の要点は以下のとおりである。
(1) 意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
 職場において他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定する。主に記銘・記憶力、認知力又は言語力の側面から判断を行う。
(2) 問題解決能力(理解力、判断力等)
 作業課題に対する指示や要求水準を正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるどうかについて判定する。主に理解力、判断力又は集中力(注意の選択等)について判断を行う。
(3) 作業負荷に対する持続力・持久力
 一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定する。精神面における意欲、気分又は注意の集中の持続力・持久力について判断を行う。その際、意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感を含めて判断する。
(4) 社会行動能力(協調性等)
 職場において他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定する。主に協調性の有無や不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロールの低下による場違いな行動等)の頻度についての判断を行う。

 高次脳機能障害整理表
 高次脳機能障害の障害認定は、上記の4能力に係る喪失の程度に応じた認定基準に従って行うものであるが、別紙の高次脳機能障害整理表は、障害の程度別に能力喪失の例を参考として示したものである。
 なお、別紙の高次脳機能障害整理表の「喪失の程度」の欄と認定基準における労働能力の喪失の程度の関係は、以下のとおりである。
 「A: 多少の困難はあるが概ね自力でできる」は、能力を「わずかに」喪失(第14級の認定基準参照)
 「B: 困難はあるが概ね自力でできる」は、能力を「多少」喪失(第12級の認定基準参照)
 「C: 困難はあるが多少の援助があればできる」は、能力の「相当程度」を喪失(第9級の認定基準を参照)
 「D: 困難はあるがかなりの援助があればできる」は、能力の「半分程度」を喪失(第7級の認定基準を参照)
 「E: 困難が著しく大きい」は、能力の「大部分」を喪失(第5級の認定基準を参照)
 「F: できない」は、能力の「全部」を喪失(第3級の認定基準を参照)

第2 非器質性精神障害
 精神症状
 精神症状については、抑うつ状態、不安の状態、意欲低下の状態、慢性化した幻覚・妄想性の状態、記憶又は知的能力の障害及びその他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)の6つの症状の有無等に着目することとしているが、その内容は以下のとおりである。
(1) 抑うつ状態
 持続するうつ気分(悲しい、寂しい、憂うつである、希望がない、絶望的である等)、何をするのもおっくうになる(おっくう感)、それまで楽しかったことに対して楽しいという感情がなくなる、気が進まないなどの状態である。
(2) 不安の状態
 全般的不安や恐怖、心気症、強迫など強い不安が続き、強い苦悩を示す状態である。
(3) 意欲低下の状態
 すべてのことに対して関心が湧かず、自発性が乏しくなる、自ら積極的に行動せず、行動を起こしても長続きしない。口数も少なくなり、日常生活上の身の回りのことにも無精となる状態である。
(4) 慢性化した幻覚・妄想性の状態
 自分に対する噂や悪口あるいは命令が聞こえる等実際には存在しないものを知覚体験すること(幻覚)、自分が他者から害を加えられている、食べ物や薬に毒が入っている、自分は特別な能力を持っている等内容が間違っており、確信が異常に強く、訂正不可能でありその人個人だけ限定された意味付け(妄想)などの幻覚、妄想を持続的に示す状態である。
(5) 記憶又は知的能力の障害
 非器質性の記憶障害としては、解離性(心因性)健忘がある。自分が誰であり、どんな生活史を持っているかをすっかり忘れてしまう全生活史健忘や生活史の中の一定の時期や出来事のことを思い出せない状態である。
 非器質性の知的能力の障害としては、解離性(心因性)障害の場合がある。日常身辺生活は普通にしているのに改めて質問すると、自分の名前を答えられない、年齢は3つ、1+1は3のように的外れの回答をするような状態(ガンザー症候群、仮性痴呆)である。
(6) その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
 その他の障害には、上記(1)から(5)に分類できない症状、多動(落ち着きの無さ)、衝動行動、徘徊、身体的な自覚症状や不定愁訴などがある。

 能力に関する判断項目
 非器質性精神障害については、8つの能力について、能力の有無及び必要となる助言・援助の程度に着目し、評価を行う。評価を行う際の要点は以下のとおりである。
(1) 身辺日常生活
 入浴をすることや更衣をすることなど清潔保持を適切にすることができるか、規則的に十分な食事をすることができるかについて判定するものである。
 なお、食事・入浴・更衣以外の動作については、特筆すべき事項がある場合には加味して判定を行う。
(2) 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
 仕事の内容、職場での生活や働くことそのもの、世の中の出来事、テレビ、娯楽等の日常生活等に対する意欲や関心があるか否かについて判定するものである。
(3) 通勤・勤務時間の遵守
 規則的な通勤や出勤時間等約束時間の遵守が可能かどうかについて判定するものである。
(4) 普通に作業を持続すること
 就業規則に則った就労が可能かどうか、普通の集中力・持続力をもって業務を遂行できるかどうかについて判定するものである。
(5) 他人との意思伝達
 職場において上司・同僚等に対して発言を自主的にできるか等他人とのコミュニケーションが適切にできるかを判定するものである。
(6) 対人関係・協調性
 職場において上司・同僚と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定するものである。
(7) 身辺の安全保持、危機の回避
 職場における危険等から適切に身を守れるかどうかを判定するものである。
(8) 困難・失敗への対応
 職場において新たな業務上のストレスを受けたとき、ひどく緊張したり、混乱することなく対処できるか等どの程度適切に対応できるかということを判断するものである。

 重い障害を残している者の例
 業務による心理的負荷を原因とする非器質性精神障害は、業務による心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば、多くの場合概ね半年〜1年、長くても2〜3年の治療により完治するのが一般的であるが、非常にまれに「持続的な人格変化」を認めるという重篤な症状が残存することがあり、その場合には本省にりん伺の上、障害等級を認定する必要がある。
 「人格変化」を認める場合とは、
(1) 著しく調和を欠く態度と行動
(2) 異常行動は持続的かつ長期間にわたって認められ、エピソード的ではない
(3) 異常行動は広範にわたり、広い範囲の個人的社会的状況に対して非適応的である
(4) 通常、職業、社会生活の遂行上重大な障害を伴う
 という要件を満たすことが必要とされており、こうした状態はほとんど永続的に継続するものと考えられている。

 障害の程度の判断
 非器質性精神障害の後遺障害の場合、症状が固定する時期にあっても、症状や能力低下に変動がみられることがあるが、その場合には良好な場合のみ、あるいは悪化した場合のみをとらえて判断することなく、療養中の状態から判断して障害の幅を踏まえて判断するのが適当である。

第3 せき髄損傷
 麻痺の分類
 せき髄が損傷された場合には、四肢麻痺あるいは対麻痺(下半身麻痺)となることが多い。その場合には上肢又は下肢が完全強直または完全に弛緩することがあり、その状態を完全麻痺という。また、上肢又は下肢を運動させることができても可動範囲等に問題があることがあり、その状態を不完全麻痺という。

 高位診断
 せき髄損傷の場合、麻痺の範囲は、せき髄損傷の生じた高位(部位)によって異なる。たとえば、けい髄が損傷されると四肢麻痺が生じ、第2腰髄から上が損傷されると下肢全体が完全に麻痺したり、不完全麻痺になる。また、せき髄の最下部(第3仙髄以下)が損傷した場合には下肢の麻痺は生じないものの、肛門周囲の感覚障害や尿路障害が生じる。
 このようにせき髄は、どの高さの部分で損傷を受けたかによって、発現する運動、感覚障害の範囲が定まるので、MRI、CT等による画像診断及び臨床所見によって損傷の高位を診断することができる。

 横断位診断
 せき髄損傷は、せき髄の全断面にわたって生じた場合と、いずれか半側又は一部に生じた場合とによって、その症状が異なるので、この点における診断(横断位診断)も重要である。前者の場合は、障害部位から下方の感覚脱失又は感覚鈍麻が、運動麻痺とほぼ同じ範囲に生ずる。後者のうち、せき髄のいずれか半側を損傷した場合には、半側の下肢の運動障害及び感覚障害のほか、他の側の感覚障害が生じる。また、後者のうち、けい髄を中心性に損傷した場合には、下肢よりも上肢に重い麻痺が生じる。

第4 その他の特徴的な障害
 てんかん及びてんかん発作等
 てんかんは、反復するてんかん発作を主症状とする慢性の脳障害であり、そのてんかん発作とは、大脳のある部分の神経細胞が発作性に異常に過剰な活動を起こし、これがある程度広範な領域の神経細胞をまきこんで、一斉に興奮状態に入った場合に生ずる運動感覚、自律神経系又は精神などの機能の一過性の異常状態のことである。
 なお、てんかんの診断については、発作の型の特定や脳波検査が重要であり、MRI、CT等の画像診断は、発作の原因等を判断するのに有用である。

 頭痛の型
 頭痛の型としては、次のようなものがある。
(1) 機能性頭痛
(1) 片頭痛
(2) 緊張型頭痛
(3) 群発頭痛および慢性発作性片頭痛
(4) その他の非器質性頭痛
(2) 症候性頭痛
(1) 頭部外傷による頭痛
(2) 血管障害に伴う頭痛
(3) 非血管性頭蓋内疾患に伴う頭痛
(4) 薬物あるいは離脱に伴う頭痛
(5) 頭部以外の感染症による頭痛
(6) 代謝性疾患に伴う頭痛
(7) 頭蓋骨、頸、眼、鼻、副鼻腔、歯、口あるいは他の頭部・頭蓋組織に起因する頭痛または顔面痛
(8) 頭部神経痛、神経幹痛、除神経後痛
(3) その他
 分類不能な頭痛

 失調、めまい及び平衡機能障害の原因
 頭部外傷後又は中枢神経系(脳及びせき髄)の疾病に起因する失調、めまい及び平衡機能障害は、内耳機能によるのみならず、小脳、脳幹部、前頭葉又はせき髄など中枢神経系の障害によって発現する場合が多いものである。また、けい部自律神経障害によるめまいも少なくない。



別紙
高次脳機能障害整理表 
障害の区分

そう失の程度
高次脳機能障害
意思疎通能力
(記銘・記憶力、
認知力、言語力等)
問題解決能力
(理解力、判断力等)
作業負荷に対する
持続力・持久力
社会行動能力
(協調性等)
A

多少の困難はあるが概ね自力でできる
(1)  特に配慮してもらわなくても、職場で他の人と意思疎通をほぼ図ることができる。
(2)  必要に応じ、こちらから電話をかけることができ、かかってきた電話の内容をほぼ正確に伝えることができる。
(1)  複雑でない手順であれば、理解して実行できる。
(2)  抽象的でない作業であれば、1人で判断することができ、実行できる。
 概ね8時間支障なく働ける。  障害に起因する不適切な行動はほとんど認められない。
B

困難はあるが
概ね自力でできる
(1)  職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、ゆっくり話してもらう必要が時々ある。
(2)  普段の会話はできるが、文法的な間違いをしたり、適切な言葉を使えないことがある。
AとCの中間 AとCの中間 AとCの中間
C

困難はあるが
多少の援助があればできる
(1)  職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するためにはたまには繰り返してもらう必要がある。
(2)  かかってきた電話の内容を伝えることはできるが、時々困難を生じる。
(1)  手順を理解することに困難を生じることがあり、たまには助言を要する。
(2)  1人で判断することに困難を生じることがあり、たまには助言を必要とする。
 障害のために予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督がたまには必要であり、それなしには概ね8時間働けない。  障害に起因する不適切な行動がたまには認められる。
D

困難はあるがかなりの援助があればできる
(1)  職場で他の人と意思疎通を図ることに困難を生じることがあり、意味を理解するためには時々繰り返してもらう必要がある。
(2)  かかってきた電話の内容を伝えることに困難を生じることが多い。
(3)  単語を羅列することによって、自分のえ方を伝えることができる。
CとEの中間 CとEの中間 CとEの中間
E

困難が著しく大きい
(1)  実物を見せる、やってみせる、ジェスチャーで示す、などのいろいろな手段と共に話しかければ、短い文や単語くらいは理解できる。
(2)  ごく限られた単語を使ったり、誤りの多い話し方をしながらも、何とか自分の欲求や望みだけは伝えられるが、聞き手が繰り返して尋ねたり、いろいろと推測する必要がある。
(1)  手順を理解することは著しく困難であり、頻繁な助言がなければ対処できない。
(2)  1人で判断することは著しく困難であり、頻繁な指示がなければ対処できない。
 障害により予定外の休憩あるいは注意を喚起するための監督を頻繁に行っても半日程度しか働けない。  障害に起因する非常に不適切な行動が頻繁に認められる。
F

できない
 職場で他の人と意思疎通を図ることができない。  課題を与えられてもできない。  持続力に欠け働くことができない。  社会性に欠け働くことができない。


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