1 | はじめに |
児童虐待への対応については、「児童虐待の防止等に関する法律」(施行:平成12年11月20日。以下「児童虐待防止法」という。)の施行以来、様々な取り組みが進められてきた。しかし、全国の児童相談所に寄せられる虐待の相談処理件数は、ここ数年の間に急増し続け、その増加傾向に一定の落ち着きの兆しは見られるものの、平成14年度においては、児童虐待防止法が施行される直前の平成11年度の約2倍となる約2万4千件となっており、質的にも困難な事例が増加してきている。
また、児童養護施設に入所する子どももここ数年急増し、都市部を中心に極めて高い入所率となっており、虐待を受けた子どもの入所も増加している。虐待を受けた子どもの多くは、心身に傷を負い、情緒面・行動面の問題を抱え、きめ細かなケアや治療を必要としている。
当児童部会においては、こうした状況を踏まえ、児童虐待問題が依然として深刻な早急に取り組むべき社会全体の課題であるとの認識の下、児童虐待防止法が法律の附則において「法律の施行後3年を目途とした見直しの検討」を求めていることをひとつの契機として、同法の施行状況等を勘案しながら、今後の「児童虐待防止」に向けた対応のあり方を検討するため、昨年12月に当部会の下に「児童虐待の防止等に関する専門委員会」(以下「虐待防止委員会」という。)を設置し、本年6月18日に報告書を取りまとめた。
虐待防止委員会における議論においては、「児童相談所のあり方や市町村の役割」、「児童福祉施設の体系や里親のあり方」などについて、児童虐待への対応という観点のみならず、広く要保護児童および要支援家庭に対する支援も含めた観点から、さらに検討を深めることが必要であるとの結論に至った。
そのため、「児童相談所のあり方や市町村の役割」については当部会において、「児童福祉施設の体系や里親のあり方」については、当部会の下に「社会的養護のあり方に関する専門委員会」(以下「社会的養護委員会」という。)を設置し、それぞれ議論を深め、社会的養護委員会については、本年10月27日に報告書を取りまとめた。
これら2つの委員会報告書および当部会における議論を踏まえ、「児童虐待への対応など要保護児童および要支援家庭に対する支援のあり方に関する当面の見直しの方向性」の全体像について、部会として以下のように取りまとめた。
2 | 今後の児童虐待防止対策のあり方について |
(1) | 基本的考え方 虐待は子どもに対する重大な権利侵害であり、その防止に向けては社会全体で取り組むべき課題である、との認識に立つ必要がある。そして、その取り組みを推進するに当たっては、常に「子どもの最善の利益」への配慮を基本理念とし、以下の視点を基本に据えて施策を展開することが必要である。
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(2) | 発生予防から虐待を受けた子どもの自立に至る具体的な取り組みの方向性
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3 | 今後の要保護児童および要支援家庭に対する「都道府県・市町村の 役割、児童相談所のあり方」等について |
(1) | 基本的考え方 これまでの児童福祉の取り組みは、大別すれば、児童相談所や児童養護施設などを中心に取り組まれてきた養育困難家庭や虐待を受けた子どもの保護・自立支援などのいわゆる「要保護児童対策」、市町村を実施主体として取り組まれてきた仕事と子育ての両立を支援する「保育対策」を中心に取り組まれてきた。 しかし、近年、核家族化や地域近隣関係の希薄化などを背景に、家庭における親の育児負担感や育児不安の増大などが生じており、次世代育成支援という観点から、すべての子育て家庭を対象とした子育て支援の取り組みが求められるようになってきている。 こうした状況を踏まえ、本年7月に成立した「児童福祉法の一部を改正する法律」においては、すべての子育て家庭における子どもの養育を支援するため、市町村における子育て支援事業の実施などが位置付けられたところである。 他方、「要保護児童対策」の中核を担ってきた児童相談所においては、養護相談、保健相談、障害相談、非行相談、育成相談など子どもと家庭に関するあらゆる相談に応じるとともに、必要に応じ、判定に基づく専門指導、措置、一時保護などを行ってきたが、近年、児童虐待相談件数や緊急事例の急増等、質的にも量的にも極めて厳しい状況に置かれ、十分な対応が困難となっている。また一方においては、育児不安等を背景に、身近な子育て相談ニ−ズも増大してきており、現行制度上、児童相談所が担うこととされている幅広い相談業務のすべてに対応しきれない状況となっている。 これからの「要保護児童および要支援家庭に対する都道府県・市町村の役割、児童相談所のあり方等」の見直しに当たっては、関係機関のこうした現状を踏まえつつ、利用者(住民)の視点に立って、検討することが必要である。 利用者の視点に立った場合、「地域住民に対する保健及び福祉のサ−ビスについては、身近な市町村においてできる限り提供されることが望ましい」との基本的な考え方の下、平成2年の福祉8法改正、平成6年の地域保健法の制定、平成12年の社会福祉基礎構造改革と、これまでも保健福祉サ−ビスの提供について、都道府県から市町村への権限の移譲、市町村の役割強化が行われてきたが、児童福祉の分野については、これまで保育所行政などの一部の分野を除き、児童相談所を設置する都道府県が主たる担い手となってきた。 しかしながら、こうした保健福祉行政の一連の流れの中で、児童福祉の分野についても、児童虐待への対応に係る行政権限の発動等の役割など一定の特殊性はあるものの、基本的には「できる限り身近な市町村におけるサ−ビス提供が望ましい」ことについては例外ではない。先にも述べたように、今般成立した「児童福祉法の一部を改正する法律」においても、市町村が保育サ−ビスのみならず、広く子育て支援サ−ビスの提供主体として位置付けられたところである。 その一方で、児童相談の内容が質・量ともに大きく変化し、身近な子育て相談から深刻な虐待相談などに至るまで相当幅が広くなってきている中で、すべての児童相談を児童相談所のみが受け止めることは必ずしも効率的ではなく、市町村をはじめ多様な機関によるきめ細やかな対応が求められるようになってきている。 こうしたことを踏まえれば、今後の児童相談のあり方としては、できる限り身近な市町村を主体としつつ、行政権限の発動等の役割や専門性を踏まえた都道府県(児童相談所、保健所等)との適切な役割分担を考えることが必要である。 なお、その際には、市町村と都道府県とのより一層の連携の強化、都道府県、とりわけ児童相談所の専門性の確保・向上等その機能を強化し、市町村の取り組みを支援する体制の強化を図ることが必要である。 |
(2) | 今後の児童相談所、市町村が果たすべき役割、あり方 上記3(1)の基本的考え方で指摘したとおり、子どもと家庭に関する相談については、基本的にできる限り身近な市町村を主体としつつ、都道府県(児童相談所、保健所等)との適切な役割分担を図ることが必要である。 具体的には、養護相談(虐待相談含む)や障害相談を含め、子どもと家庭に関する各種の相談全般を一義的に市町村において受け止め、対応可能なものについては必要な助言・指導を行い、更なる専門的な指導や判定、一時保護や施設入所措置等の権限の発動を要するような要保護性の高い事例など当該市町村における対応が困難であると思われるケ−スについては、児童相談所に速やかに連絡し、児童相談所中心の対応とするなどの役割分担を行い、児童相談所の役割を重点化していくことが必要である。 このように、市町村において一定の役割を担っていくに当たっては、市町村(市町村保健センタ−含む)における取り組みについて、市町村が主体となって取り扱う個別ケ−スの見立てや進行管理を含め、児童相談所や保健所による市町村に対する専門技術的な支援その他の適切な支援が求められる。こうした都道府県による専門的な支援等を通じ、市町村においては専門性を高めていくことが必要である。 また、特に、市町村において、虐待の発生予防・早期発見からその後の見守りやケアに至る取り組みを進めるに当たっては、上記2(1)でも指摘しているように、関係機関からなる虐待防止ネットワ−クによる取り組みが有効であることから、引き続き、その設置を促進することも必要である。その際、ネットワ−クが実質的に機能するためには、その運営の中核となって、関係機関相互の連携や役割分担の調整を行う機関を明確にするなどして責任体制の明確化を図ることが重要である。また、ネットワ−クにおける情報の共有化が円滑に行えるよう、個人情報の取り扱いに関するル−ルの明確化なども検討すべき課題である。 さらに、相談援助活動を進めていくに当たっては、市町村で実施している母子保健の取り組みとの有機的連携や、ひとり親家庭に対する支援をはじめ様々な子育て支援サ−ビスの活用など、総合的な支援の実施を念頭に置くことが極めて重要である。 こうした役割分担の下、児童相談所においては、介入機能を強化することが必要である。もとより、一時保護や施設入所措置などの行政権限の発動を伴うようなケ−スにおいても、児童相談所における対応の基本はあくまで「相談」を入り口とする援助活動にあり、児童相談所が援助を基本とした機関としての性格を維持することについては変わるものではない。 こうした基本的性格を前提としつつ、児童相談所における介入機能を強化するに当たっては、援助を行うためのソ−シャルワ−クの技法について、従来の受容的な関わりを基本としたソ−シャルワ−クのみならず、介入的アプロ−チから出発した中から一定の人間関係を形成し、その後の効果的な援助に結びつけられるような介入的ソ−シャルワ−クの技法を開発、確立していくことが必要である。 また、困難ケ−スに対応した児童相談所の機能強化を図るため、児童相談所の体制強化はもとより、医療、保健、法律その他の幅広い専門機関や職種との連携強化により、児童相談所を支援する体制の強化を図ることが必要である。 さらに、介入後の効果的な援助を行うため、上記2(2)(2)で指摘したような一定の司法関与の仕組みの導入を検討することが必要である。 |
(3) | 児童相談所および関係機関に関する個別の論点についての方向性
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4 | 今後の要保護児童および要支援家庭に対する社会的養護のあり方について |
(1) | 基本的考え方 社会的養護については、子どもの権利擁護を基本とし、今後とも国、地方公共団体、保護者、関係団体などの関係する主体が、それぞれの責任を適切に果たしていくことが必要である。 今日の社会的養護の役割は、子どもの健やかな成長・発達を目指し、子どもの安全・安心な生活を確保するにとどまらず、里親への委託や施設への入所などを通じて、心の傷を抱えた子どもなどに必要な心身のケアや治療を行い、その子どもの社会的自立までを支援することにある。 もとより子どもの健全育成、自立を促していくためには、里親や施設のみならず家族や地域の果たす役割も重要である。家族や地域が有していた養育力が低下している現状にあっては、家族の再統合や家族や地域の養育機能の再生・強化といった親も含めた家族や地域に対する支援も、社会的養護本来の役割として取り組むことが必要である。 こうした認識の下、社会的養護については、現在の仕組みの下で何ができるかということではなく、制度や意識を転換し、ケア形態の小規模化、親や年長児童に対する支援、更にはケアに関する児童福祉施設の創意工夫を促す仕組みの導入など、子どもの視点に立って、子どもや家族の多様な要請に応えていくことが必要である。 なお、そのためには、家庭的養護と施設養護の協働や、一人ひとりの子どもの状況に応じた最適な支援を行うための子どもや家族の十分な実態把握・評価(アセスメント)を実施できるよう、児童相談所、福祉事務所などの地域の関係機関や児童福祉施設の体制の強化を図っていくことも必要である。 同時に、これまでの社会的養護は、保護を要する児童を対象とするものとして、いわゆる子育て支援とは別個のものとして進められてきたが、今後は、両者を連続的なものとして捉え、一体的な施策の推進を図ることにより、より効果的な子どもの健全育成や児童虐待の防止等につなげていくことが必要である。 |
(2) | 家庭的養護、施設養護、年長の子どもや青年に対する自立支援などのあり方についての方向性
これからの目指すべき社会的養護の仕組みの姿としては、以上に整理した方向性を重ね合わせれば、おおむね別添案のような見取り図が考えられる。 |
5 | 今後に向けて |
以上、これまで、主として「児童虐待への対応など要保護児童および要支援家庭に対する支援のあり方」について、当面早急に対応すべき課題を中心にその方向性を提言した。
これらの提言の実現に向け、「虐待防止委員会」および「社会的養護委員会」報告書に盛り込んだ「具体的な取り組みに関する意見・提案」「当面の具体的な取り組みに関する委員会としての意見」なども十分に踏まえ、児童福祉法などの関連する法律の改正を含め、まずは、これらの課題に着実に取り組まれることを期待する。
また、こうした取り組みを第一歩として、その実施の状況も踏まえつつ、適時適切な制度のあり方の検討が継続的に行われ、必要な措置が講じられていくことが求められる。
そしてさらに、今後、地域の子育て支援サ−ビス、保育サ−ビスと社会的養護システムを含めた子どもと家庭に関するサ−ビス全体を通したサ−ビス提供主体のあり方や措置制度のあり方など幅広い観点からの議論が行われることを期待する。