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1.厚生労働科学研究費補助金

[I.行政政策研究分野]

(1)行政政策推進研究経費(仮称)
事務事業名 行政政策推進研究経費(仮称)
担当部局・課主管課 【(1)政策科学推進研究】
 政策統括官付政策評価官室
【(2)統計情報高度利用総合研究】
 大臣官房統計情報部人口動態・保健統計課保健統計室
【(3)社会保障国際協力推進研究】
 大臣官房国際課
【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 大臣官房国際課
関係課 【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 大臣官房厚生科学課
 健康局結核感染症課
 医薬食品局食品安全部企画情報課検疫所業務管理室

(1)関連する政策体系の施策目標(共通)
基本目標11 国民生活の向上に関わる科学技術の振興を図ること
施策目標 2 研究を支援する体制を整備すること
I 厚生労働科学研究費補助金の適正かつ効果的な配分を確保すること

(2)事務事業の概要
事業内容(新規・
一部新規
 各研究事業においては、行政上必要な研究について公募を行い、専門家、行政官による評価により採択された研究課題について補助金を交付する。また、得られた研究の成果は適切に行政施策に反映される。
【(1)政策科学推進研究】
 少子高齢化や経済情勢の変化などに対応し、社会保障制度の改革を進めるため、
 (1)改革の背景にある国民生活の変化の要因、(2)社会保障制度が制度上、運用上有する様々な問題点、(3)改革のもたらす影響、(4)改革の効果の分析や評価等を人文・社会科学系を中心に様々な観点から研究を行い、厚生労働行政施策の企画立案及び効率的な推進に資することを目的としている。
 研究の枠組み
 (1) 社会保障制度に影響を与える社会経済の変化(少子化、セーフティーネット等)の動向及びこれらに対する政策的対応に関する調査研究
 (2) 社会保障の共通事項(政策評価、負担と給付等)に関する調査研究
 (3) 社会保障と関連する施策との連携(地域施策、情報施策等)に関する調査研究
 (4) 社会保障の個別分野(医療、福祉、年金等)に関する調査研究

【(2)統計情報高度利用研究】
 (1) 厚生労働統計の高度分析指標の開発に関して
 地域の健康度、保健医療、福祉等に関する各種指標について、その適応可能性について検討すると共に、保健医療、福祉等施策の企画立案を支援するための新たな地域指標の開発等の検討を実施。
 (2) 厚生労働統計情報の高度処理システムの開発に関して
 統計情報の高度分析システムについて研究を実施し、疾患の発生分布の解析手法等について検討を行うとともに、統計情報の高度処理の基盤技術開発に関する研究を実施。
 (3) 厚生労働統計情報の国際的情報発信の基盤確立に関して
 我が国における国際保健情報の収集及び発信に関する研究を行うとともに、国際比較可能性などに関する技術の開発に関する研究を実施。

【(3)社会保障国際協力研究】
 感染症、栄養、災害等の古典的な問題に加え、近年は人口の急速な高齢化、都市部への人口集中、疾病構造の変化など途上国における状況が急激に変化している。このため、医療保険・年金、公衆衛生等を含めた広義の社会安全保障分野全体を視野においた国際協力の重要性が増しており、また国際協力の効果的、戦略的実施の必要性も高まっている。
 このため、当該研究事業は、このような状況の変化に対応するための、社会安全保障に係る国際協力の効果的実施に資する研究を行っている。
 (研究課題例)
(1)  戦後の我が国における保健衛生指標の急速な改善の経験を途上国保健医療システム強化支援に活用するための方策に関する研究
(2)  WHO保健システム評価手法の妥当性及びその活用に関する研究
(3)  途上国の保健システム評価手法を応用した途上国保健医療システム強化支援のあり方に関する研究
(4)  今後の社会保障分野における、わが国の国際協力を担う国内の人材育成及び供給を強化するための具体的方策に関する研究
(5)  わが国が今後、社会保障分野に係る国際協力において重視すべき分野及び地域の設定に関する研究

【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 BSE、エボラ出血熱及び最近のSARS(重症急性呼吸器症候群)、更にバイオテロの勃発などに対して、国民の健康被害を最小限にするためには、国外からの情報等に基づく健康危機管理体制の強化が重要な課題である。このような観点から、次のようなネットワーク強化事業研究及び健康危機管理の人材養成研究に、早急に取り組む必要があると思われる。
(1)ネットワーク強化事業研究
 ・  バイオテロ及び感染症等の発生動向の監視評価
 ・  バイオテロに対するワクチン備蓄や治療協力体制等のネットワーク整備
 ・  病原体や感染症に関する情報収集と解明のためのネットワーク整備
(2)健康危機管理の人材養成研究
 ・ バイオテロ及び感染症等に対する治療に関する知見や体制の共有
 研究の成果を、情報基盤整備及び健康危機管理人材養成に活用することにより、我が国の保健医療システムが強化され、国民の健康に対する不安が除去され、安心・安全な社会の確保を目指す。(別添参照

予算額(単位:百万円、(1)政策科学、(2)統計情報、(3)国際協力)
H12 H13 H14 H15 H16要求
(1) 195
(2) 30
(3) 56
(1) 888
(2) 40
(3) 57
(1) 919
(2) 40
(3) 57
(1) 809
(2) 35
(3) 49
(1) 849
(2) 34
(3) 51
(4) 72

(3)問題分析
【(1)政策科学推進研究】
 少子高齢化が進む中、社会保障制度は次のような課題を有している。
 (1)  制度の持続可能性(給付と負担のバランス、経済活動に及ぼす影響)
 (2)  公平性の確保(就業形態間、世代間、アクセスビリティー)
 (3)  効率性の確保(規制の緩和、競争の導入、サービスの規格や指標づくり、効果の測定)
 さらには、改革の基本的な理念や目指すべき社会の方向(アメリカ型か欧州型か、公私の役割分担、政府の規模等)についても、広く国民的な合意形成のための議論を深めることが重要になっている。
 上記のような問題は、社会、経済全般にわたる幅広い内容を含んでいることから、広く専門家から公募を行うことにより、競争的な環境の中で質の高い成果を得ることが必要となっている。

【(2)統計情報高度利用研究】
 電子政府・電子自治体の推進、地方分権の進展など新たな行政制度・施策が展開されていく中で、統計行政についても、少子高齢化・国際化などの社会経済情勢の変化に対応した統計の整備、統計データの提供の充実等を一層推進していくことが求められている。

 統計の整備、統計データの総合的利用の推進のためには、統計調査の効率的・円滑な実施、調査結果の利用の拡大が必要である。一方、近年社会経済環境が変化している中、統計の整備において、国民の価値観の多様化、プライバシー意識の高まり及び報告者の負担軽減への対応、情報通信技術の活用等が求められており、統計調査の実施が困難となってきている。そのような中統計の整備をさらに図るためには、統計情報の利用の高度化、提供の高度化、統計データの利用促進のための基盤整備等が必要であり、また、少子高齢化、国際化、政策評価の高まり等に対応した統計情報の在り方の検討も必要である。

【(3)社会保障国際協力研究】
 平成8年のリヨンサミットにおいて、公衆衛生、医療保険・年金等を含めた広義の社会安全保障の問題について、先進国のみならず開発途上国も含め、お互いの経験・知識を共有することを目的とする「世界福祉構想」が橋本総理(当時)から提唱され、同構想を踏まえ、感染症等の問題について先進国を含む地球規模に立った国際的な取り組みの必要性が強調された。

 社会安全保障分野の国際協力のニーズの高まり
重点的・戦略的援助体系の研究が求められている

 支援事業のモニタリング・評価
今後のわが国における支援事業のモニタリングや事業評価に関する政策的枠組みの在り方の検討に資するような研究が求められている

 国内施策へのメリットや整合性を踏まえた社会安全保障分野に関する国際協力の在り方
効率的効果的なODAの見直しの中では、国内施策へのメリットや整合性が重視される方向にあり、社会安全保障分野においてもこのような観点からどのような国際協力がなされるべきか、検討が急がれている。

【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 バイオテロ
 発生動向の監視評価の確立が求められている。
 ワクチン備蓄や治療協力体制等のネットワーク整備が急がれている。
 治療に関する知見や体制の共有が求められている。
 SARS(重症急性呼吸器症候群)、インフルエンザ、エボラ出血熱、西ナイル病など
 発生動向の監視評価の確立が求められている。
 病原体や感染性に関する情報収集と解明のためのネットワーク整備が急がれている。
 治療に関する知見や体制の共有が求められている。
 BSE
 発生動向の監視評価が確立が求められている。
 治療に関する知見や体制の共有が求められている。

(4)事務事業の目標
【(1)政策科学推進研究】
 上記の問題分析に照らし、ガイドラインの策定等の実際の施策に研究成果が活用されることや社会保障制度改革に必要な基礎資料(審議会等の議論や制度の企画立案に実際に使用される資料等)を得ること。

【(2)統計情報高度利用研究】
 保健医療、福祉等に関する各種指標及び少子高齢化等の社会経済環境、行政制度・施策の新たな展開、調査環境の変化等に対応した新たな分析手法の開発
 多角的総合的情報処理による高度処理システムの確立
 国際的統計情報の総合的処理体制の強化

【(3)社会保障国際協力研究】
 効果的な国際協力推進システムの構築

【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 国際健康危機管理の情報・通信のシステムを民間と連携して構築
 国際健康危機管理の人材養成マニュアルの作成

2.評価結果
(1)必要性(行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等)
【(1)政策科学推進研究】
 少子高齢化や経済情勢の変化により、ますます高まっている社会保障制度の見直しの必要性や、これにあわせて高まりを見せている国民の関心を踏まえ、施策の企画立案及び効率的な推進に資するため、人文・社会科学系を中心とした社会保障及び人口問題に関する政策や保健・医療・福祉の経済的分析等の研究を幅広い視点から実施していくことは、審議会や国会審議等の国民各層からの意見を踏まえて、施策のアカウンタビリティを高めるために重要である。行政機関における施策の立案、実施、評価を効率的かつ効果的に行うにあたり、こうした研究の活用は大変有用である。

【(2)統計情報高度利用研究】
 電子政府・電子自治体の推進、地方分権の進展など新たな行政制度・施策が展開されている中で、統計行政についても、社会経済情勢の変化に対応した統計の整備、報告者負担の軽減、統計データの提供の充実等を一層推進していくことが求められているところであり、「統計行政の新たな展開方向」(平成15年6月27日付各府省統計主管部局長会議申し合わせ)においても、社会・経済の変化に対応した統計の整備、統計調査の効率的・円滑な実施、調査結果の利用の拡大、国際協力の推進について、今後推進するとされているところ。

【(3)社会保障国際協力研究】
 「世界福祉構想」を踏まえ、感染症等の問題について先進国威を含む地球規模に立った国際的な取り組みが必要であり、重点的・戦略的援助体系の研究を社会安全保障分野を所管している厚生労働省が実施していかなければならないと考える。
 二国間協力・多国間協力の両面において、より効率的・効果的なODA事業推進が行政施策として求められており、このような観点から、社会安全保障分野に関するODA対象分野の重点化方策、二国間協力と多国間協力の組み合わせによる効率化方策、効率的・効果的な支援事業を選別するための事業評価手法、近年、国際保健関係分野で台頭しつつある新しい官民協力体制(世界エイズ結核マラリア対策基金など)におけるより効果的な対応方策、などの検討も必要となっている。
 上記から、当該事業による、効率的・効果的な社会安全保障分野に関する国際協力を実施していくための方策の研究は、目的として妥当性があると考える。

【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 感染症等流入による国民の健康被害の危機は、行政の保健医療分野を担当している厚生労働省が国民の健康被害を最小限にするため、早急に取り組まなければならない。
 バイオテロの危険性に加え、BSE、エボラ出血熱、及び最近のSARS(重症急性呼吸器症候群)などの国外からの感染症等流入の危険性は、航空機での人の移動が迅速で広範囲で多国間に渡っている現在、国民の健康被害に直接関わる危険であり、国際健康危機管理ネットワークの強化及び国際健康危機管理の人材養成により、感染の拡大を防ぐ措置が必要であるため、科学的、経済的、社会的ニーズは非常に高く、かつ緊急性を要している。
 最近のSARSの例からわかるように、国際的視点からも感染症拡大の防止のため、我が国の国際健康危機管理ネットワーク構築及び国際健康危機管理の人材養成マニュアルの作成の必要があると思われる。
 当該事業を実施することにより、国民の健康に対する不安を除去し、安心・安全な社会の確保をすることとなり、平成16年度の科学技術分野の「少子高齢化等の諸課題に対応する安心・安全で快適な社会の構築」に資する重点分野の研究事業となる、目的として妥当性を有する事業であると思われる。

(2)有効性(計画・実施体制の妥当性等の観点)
【(1)政策科学推進研究】
 本研究事業は、省内各部局に照会を行った上で、社会保障施策関連各種施策における問題を公募課題として設定しているほか、厚生労働科学研究費補助金取扱細則に示された指定研究を実施している。新規課題の採択及び交付金額の決定については事前評価委員会による評価を実施し、継続予定課題の継続の可否及び交付金額の決定、終了課題の最終的な評価については、中間・事後評価委員会による評価を行っている。
 事前評価委員会及び中間・事後評価委員会は、専門的・学術的観点から評価を行う専門委員と行政委員からなり、評価は研究計画書、報告書等の書面審査により行わるほか、必要に応じ研究者からのヒアリングを実施できることとしている。
 平成15年度に実施されている研究は、公募課題75課題(1.2〜35百万円、平均6百万円)、指定課題1課題(240百万円)であり、優先度・重要度の高い研究が適正な規模、期間で実施されていると考えられる。

【(2)統計情報高度利用研究】
 本研究事業は、統計情報の高度利用の総合的推進という観点から、新規課題については毎年公募課題を設定し、事前評価委員会により評価を行っている。また、継続・終了課題については、中間・事後評価委員会により評価を行っている。
 評価は書面により行われ、事前及び中間・事後評価委員会は、専門委員及び行政委員からなり、それぞれ「専門的・学術的観点」及び「行政的観点」から評価を行っていることから、必要性・緊急性の高い研究課題が採択されると考えている。
 研究費についても、評価委員会での議論に基づいてその配分額が決定されるため、効率的かつ妥当な配分であると考えられ、限られた予算の中での有効性は高いと考えられる。
 なお、本研究の平成15年度における1研究課題あたりの金額は3,951千円であり、他の研究事業に比べて金額的に多いものではないが、公募により幅広く課題を募り、学問的にも高度な分析や、行政課題にも添った研究が行われており、適正な規模の研究が効率的に実施されている。研究期間は原則として最長2カ年であり、研究課題の見通しに反映されるため、効率性が高いと考えられる。

【(3)社会保障国際協力研究】
 当該事業は、効果的な国際協力の実施のために、効果的な国際協力推進システムの構築を事務事業の目的にしている。
 その達成のため、平成11年度から平成13年度の3年間の研究により、(1)社会保障に係る国際協力の状況分析に関する研究、(2)社会保障に係る国際協力の方法論に関する研究、(3)社会保障に係る国際協力の在り方に関する研究、についての研究が実施され、社会保障協力に関する基本的な考え方に関する知見の集積が一定程度達成されたと考える。
 今後は、これまでの成果を踏まえ、更に国際協力を推進するための具体的な方策等の研究を進めていくため、より具体的な課題設定に基づく研究を実施する計画である。
 平成11年度から平成13年度の3年間の研究により次の研究成果の活用がされている。
 「医薬品援助マニュアル」の医薬品分野における国際協力での活用。
 収集・分析した資料のアジアの途上国への技術協力や援助の基礎資料としての活用。
 国立保健医療科学院での国際コースの講義等での海外へ派遣する専門家の教育における活用。
 カンボジア保健省において国家保健医療総合計画策定手法のマニュアルとテンプレートを活用したプランが承認された。
 今後当該事業を引き続き継続することにより、事業の成果として得られることにより「効果的な国際協力システムの構築」がなされ、効果的な国際協力の実施に役立つであろうと考えられることから、妥当な目標であると考えられる。
 当該事業経費(案)は、研究事業として、49百万円(平成15年度予算33百万円+2新規課題×@8百万円)と、推進事業16百万円(外国への日本人研究者派遣事業経費(米国の国際機関等に1名6ヵ月派遣)と研究成果等普及啓発事業経費及び研究支援事業経費)の合計65百万円であり、厳しい財政状況の中で妥当な金額ではないかと思われる。

【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 本研究事業は、情報基盤整備、国際的な健康危機管理対応人材の養成という、ネットワークの構築又は強化のために実施すべき2つの政策課題を主眼においている。
その達成のため、事業計画では、情報基盤整備、国際的な健康危機管理対応人材の養成の2分野に分けて効率的に研究を進め、3年を目処に、国際健康危機管理ネットワークに関する基本的な知見を集積すると同時に、国際健康危機管理の情報・通信のシステム、国際健康危機管理の人材養成マニュアルという、具体的な2つの成果物を入手することを目標においていることから、本計画は、無理のない、実現可能性の高いものである。
 また産学官の連携をとるために、特に民間やNGOなど非政府機関の研究協力を、研究事業に取り入れる必要があると思われる。
 当該研究事業は、3年を目途に国際健康危機管理ネットワークに関する基本的な知見の集積がなされるよう期待している。 
 事業の成果として得られる「国際健康危機管理の情報・通信のシステム」及び「国際健康危機管理の人材養成マニュアル」を活用することにより、国民の健康に対する不安の除去に役立つであろうと考えられることから、妥当な目標であると考えられる。
 当該事業経費(案)は、研究事業として、48百万円(6課題×@8百万円)と、推進事業24百万円(外国への日本人研究者派遣事業経費(米国の国際機関等に2名6ヵ月派遣)と研究成果等普及啓発事業経費及び研究支援事業経費)の合計72百万円であり、厳しい財政状況の中で妥当な金額ではないかと思われる。

(3)効率性(目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から)
【(1)政策科学推進研究】
 公募課題は、そもそも社会保障施策関連各種施策における問題から取り上げていることから、行政的関連性が強く、その研究成果についても早急に施策の決定に反映されるなど、多くの実績を上げている。
(例)
 ○ 「少子化に関する家族・労働政策の影響と少子化の見通しに関する研究」(主任研究者 国立社会保障・人口問題研究所 高橋重郷部長)(社会保障担当参事官室と連携)
 ・ 社会保障審議会人口部会に本研究成果を用いた資料が提出されるなど、平成14年1月人口推計の基礎資料の一つとして用いられた。
 ○ 「急性期入院医療試行診断群分類を活用した調査研究」(主任研究者 産業医科大学松田晋哉教授)(保険局医療課と連携)
 ・ 医療制度改革の柱の一つとして、DPCが導入された。
 ○ 「保健事業における個人情報の保護及び利活用に関する研究」(主任研究者 聖マリアンナ医科大学予防医学教室 吉田勝美教授)(健康局総務課地域保健室と連携)
 ・ 個人情報保護法の成立を見据え、保健事業で扱われる多量の個人情報の取扱に関するガイドラインづくりのための素案を検討中。
 ○ 「実質社会保障支出に関する研究−国際比較の視点から−」(主任研究者 慶應義塾大学 清家篤 教授 )(政策統括官室付社会保障担当参事官室と連携)
 ・ 社会保障施策の検討の際の基礎資料として必要な社会保障支出の国際間比較の資料を作成した。

【(2)統計情報高度利用研究】
 いずれの研究課題においても、研究課題の目標の達成度は高く、行政部局との連携のもとに、施策の推進の観点からも有効性の高い研究が実施されている。
 これまでの研究課題においては、まず、地域の健康状態の評価等に関する指標等について、各種指標の比較考察と利活用における課題等が提示され、分析処理のための基盤整備が行われた。次に、統計情報の高度処理に関しては、厚生統計におけるレコード・リンケージの可能性が検討され、個票レベルにおけるリンケージを用いた研究が進みつつあると共に、データウエアハウスによる分析など、高度な統計処理のための知見が、蓄積されつつある。また、国際化への対応として、医療費に関して、OECDが定める国際比較のための推計値(SHA)と我が国の国民医療費との相違点を明確にし、国際比較のための留意点を示した。さらに、指標値のガイドラインであるOECD health data 2002における問題点をOECD本部に報告し国際的にも貢献した。
 また、推進事業においては、研究事業の成果を一般に公開すると共に、その内容を取りまとめたCD−ROMを作成し、関係機関及び一般希望者に配布し、官庁統計に対する関心の啓発に寄与した。

【(3)社会保障国際協力研究】
 平成11年度から平成13年度の3年間の研究により、(1)社会保障に係る国際協力の状況分析に関する研究、(2)社会保障に係る国際協力の方法論に関する研究、(3)社会保障に係る国際協力の在り方に関する研究、についての研究が実施され、社会保障国際協力に関する基本的な考え方に関する知見の集積が一定程度達成されたと考える。
 今後は、これまでの成果を踏まえ、更に国際協力を推進するための具体的な方策等の研究を進めていくため、より具体的な課題設定に基づく研究を実施することとしている。
 当該事業の実施により期待される成果は、効果的な国際協力の実施である。厚生労働科学研究費補助金の全体額41,687百万円(平成15年度予算額)の約0.15%の65百万円の予算により、社会安全保障分野の国際協力のニーズに応え、「世界福祉構想」に貢献できるとすれば、費用対効果があるのではないかと思われる。
 期待される科学的影響は、効果的な国際協力推進システムの構築の過程で、「医薬品援助マニュアル」等が作成されたことにより、医薬品援助に関する専門家等の人材の養成に役立てられ、同専門家等の能力が向上することが考えられる。
 経済的影響については、開発途上国に効果的な国際協力を行うことにより、開発途上国の社会保障基盤が整備されることにより、我が国と国際協力による友好関係が築かれることから、我が国と開発途上国とのビジネス、貿易、観光などの経済活動が促進につながると考えられる。
 社会的影響については、効果的な国際協力の実施により、開発途上国との友好関係の構築や国際協力による国際機関との信頼関係の樹立に役立つと考えられる。

【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 当該事業の実施により期待される成果は、国民の健康に対する不安の除去、安心・安全な社会の確保である。厚生労働科学研究費補助金の全体額41,687百万円(平成15年度予算額)の約0.2%の72百万円の予算により、国民の健康に対する不安の除去、安心・安全な社会の確保という成果を得られるとすれば、予算額に見合う充分な効果があるのではないかと思われる。
 当該事業の研究成果により、感染症等流入による国民の健康被害の危機の国外情報の効果的かつ迅速な入手、活用が強化され、その結果国民全体に活用されるため、費用対効果は非常に高いものになると思われる。
 期待される科学的影響は、国際健康危機管理の人材養成マニュアルが作成されることにより、国際健康危機管理の専門家が養成され、また同専門家の技能が向上することが考えられる。
 経済的影響については、保健医療システムが強化され、安心・安全な社会が確保されれば、ビジネス、貿易、観光などの経済活動の促進がなされると考えられ、更に重要なことは、万一感染症等流入による国民の健康被害の危機が発生した場合には、国際健康危機管理ネットワーク及び国際健康危機管理の人材養成マニュアルにより養成された専門家の対処により、経済へのマイナス効果を最小限にくい止めることができると考えられる。
 社会的影響については、国民の健康に対する不安の除去がなされることにより、安心・安全で快適な社会の構築に貢献できると考えられる。

(4)その他
【(1)政策科学推進研究】
 本研究事業のような広く社会保障一般を対象とする人文・社会学的研究は、厚生労働科学研究の中でもユニークなものであり、成果物として、少子化の要因分析等の社会保障の制度横断的な基礎的分析など、社会保障関連施策を制度間の連携を深めつつ推進していく上で、他の研究事業にはない貴重な資料を提供している。

【(3)社会保障国際協力研究】
 社会安全保障分野の開発途上国や国際機関に係る国際協力を所管する国際課が、より体系的、戦略的な国際協力を推進して行くために、当該事業の主管課であることは妥当であると考える。また、当該事業の研究を行ってきた大学や研究所等との協力により、今後適切な産学官の事業を推進する体制につなげることを期待している。

【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 WHO等の国際機関に係る事項などを所管する厚生労働省大臣官房国際課が、当該事業の主管課となることは、国際課が保健医療分野について、横断的に国際情報を一元管理できるからであると思われる。また、国際課は、従来の社会保障国際協力推進研究事業で研究を行ってきた大学や研究所等との協力により、今後適切な産学官の事業を推進する体制につなげることができると期待できる。
 関係する省庁については、厚生労働省大臣官房国際課と外務省国際社会協力部専門機関行政室は、WHO等の国際機関に係る業務で連携があり、外務省からは主にWHO等に関わる在外公館等からの情報が厚生労働省に提供され、厚生労働省からは保健医療分野におけるWHOをはじめとした国際機関への意見等を外務省に提供している。厚生労働省大臣官房国際課は保健医療分野において、WHO等の国際機関に関する政策・戦略、作業計画、予算事業の対処方針(案)作成等を担当しており、外務省国際社会協力部専門機関行政室は国連のWHOをはじめとした専門機関などに関する外交政策を担当している。
 厚生労働省内においては、大臣官房厚生科学課、健康局結核感染症課、医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室が関係課であり、国際課がWHOなどから得た海外の感染症発生等の情報を関係課に提供し、省内関係課と連携をとっている。
 なお、省内関係課の分担は次のとおりである。
 大臣官房厚生科学課は国内の健康危機管理への対処を担当。
 健康局結核感染症課は国内の結核その他の感染症(エイズを除く)の発生及び蔓延防止や港及び飛行場における検疫に関することを担当。
 医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室は船舶又は航空機等の衛生検査、検疫所に関することを担当。
別添参照

(5) 特記事項
【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
(1)学識経験を有する者の知見の活用に関する事項
 学識経験を有する者の知見の活用が可能。
(2)各種政府決定との関係及び遵守状況
 平成16年度の科学技術分野の「少子高齢化等の諸課題に対応する安心・安全で快適な社会の構築」に資する重点分野。
(3)総務省による行政評価・監視等の状況
 新規事業のため無。
(4)国会による決議等の状況(警告決議、付帯決議等)
 新規事業のため無。
(5)会計検査院による指摘
 新規事業のため無。

3.総合評価
【(1)政策科学推進研究】
 少子高齢化を迎えた社会の中で、年金、生活保護、医療保険、介護保険等社会保障関連施策は、安心して暮らせる社会の拠り所となっている。当研究事業は、関係部局に対して研究推進への積極的関与を求め、行政課題に直結した研究を推進するものであり、厚生労働科学研究の中でもより施策との関連が大きい。
 いうまでもなく、社会を取り巻く状況は常に変動しており、行政施策も制度横断的なグランドデザインの見直しを視野に入れた企画、実施、評価が必要であるが、行政調査とは別に実施されるこうした公募による幅広い視点での研究は、施策に直接反映することが可能であるほかにも国民の広範な意見を踏まえ制度横断的に政策形成を行うために大変貴重であり、そのために効率的に成果物を得ていると言える。今後の社会や国民の意識の変化に対応していくためにも、本研究を恒常的に実施していくことが重要であると思われる。

【(2)統計情報高度利用研究】
 統計は、行政政策の企画・立案・評価のための基礎資料を提供するものであるが、近年の社会環境の変化、行政施策を取り巻く状況の変化により、今後ますますその重要性が増していくと考えられる。
 これまでの研究により、評価手法や学問的にも高度な分析に関する総合的情報処理体制の基盤的技術が得られる一方、医療費に関し国際比較可能な具体的な数値の推計や問題点の指摘など、具体的な成果も上がっており、今後これらの成果を踏まえ、少子高齢化の進行、急速な情報化、地方分権の進展、政策評価の重視、国際化の進展など、統計を取り巻く環境の変化に対応し、「統計行政の新たな展開方向」にも添った事業を実施していくことが求められる。
 また、厚生労働統計は国民の保健、福祉、医療等に広く関係するものであることから、研究結果は、推進事業を通じて普及啓発を行うと共に、行政施策に着実に反映させていくことが重要と思われる。

【(3)社会保障国際協力研究】
 感染症、栄養、災害等に加え、近年の人口の急速な高齢化、都市部への人口集中、疾病構造の変化などに伴い、医療保険年金、公衆衛生等を含めた広義の社会安全保障分野全体を視野におく国際協力は、「世界福祉構想」を提唱した我が国の厚生労働省が、今後も積極的に取り組み、推進していかなければならない事業であると考える。
 当該事業は、平成11年度から平成13年度の間に、社会保障国際協力に関する基本的な考え方に関する知見の集積ができたことは評価に値すると考えられ、今後もこれまでの成果を踏まえ、更に国際協力を推進するための具体的な方策等の研究を進めていく必要があると考える。
 当該事業を継続するに当たり、研究課題の新陳代謝を図り、また、その時々の政策課題に適時適切に対応するため、毎年、一定の新規課題が選択採択されるよう各研究課題の周期を調整していくことに留意する必要があると思われる。

【(4)国際健康危機管理ネットワーク強化研究】
 BSE、エボラ出血熱及び最近のSARS(重症急性呼吸器症候群)や、バイオテロの勃発などに対して、国民の健康被害を最小限にすることは、厚生労働省が早急に取り組み、推進していかなければならない事業であると思われる。
 当該事業は、情報基盤整備と健康危機管理人材養成を2つを柱にし、目標に到達するために厳しい予算状況の中で効果的・効率的に成果が得られるよう工夫していることは、評価できる。
 なお、厚生労働省内の大臣官房厚生科学課及び健康局結核感染症課並びに医薬局食品保健部企画課検疫所業務管理室と関連する事業であるため、省内での連携が重要であると考える。
 また、国民の健康に直接関わる緊急性を要する分野であることから、研究成果をいかに迅速に厚生労働省の施策へ反映させ、実行していくかが重要であると思われる。



国際健康危機管理ネットワーク強化研究
(背景)
 BSE、エボラ出血熱及び最近のSARS(重症急性呼吸器症候群)、更にバイオテロの勃発などに対して、国外からの情報等に基づく健康危機管理体制の強化が国民の健康被害を最小限にするためには必須な状況となってきている。
 これらの国外情報の効率的かつ迅速な入手・活用を強化するため、国際健康危機管理ネットワーク強化について、今後特に重点的に取り組むことが急務。
(このプロジェクトのポイント)
 ネットワークの構築又は強化のために実施すべき政策課題の解明を主眼に研究を推進。
 このためのネットワーク構築の具体的な柱として、(1)情報基盤整備、(2)国際的な健康危機管理対応人材の養成、の2つに着目して分析する。
国際健康危機管理ネットワーク強化研究の図


図


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