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2.がん研究助成金
事務事業名 がん研究助成金
担当部局・課主管課 健康局国立病院部医療指導課
関係課 大臣官房厚生科学課
健康局総務課生活習慣病対策室
老人保健福祉局老人保健課

(1)関連する政策体系の施策目標
基本目標 がん政策医療の推進
施策目標 ・がんに関する高度専門的医療、新たな社会的ニーズに対応するモデル的医療の実施。
・国立病院・療養所の政策医療ネットワークを活かし多施設共同による新しい診断・治療法の開発普及、医薬品の臨床試験など臨床に直結した研究の実施。
・医療内容の高度化・多様化に対応した臨床研修の向上、医療専門職の養成。
・研究成果や最新の医療、標準的医療等に関する情報発信。

(2)事務事業の概要
事業内容(既存)
 がん研究助成金は、昭和38年に創設され「がん対策の企画および行政を推進し、並びにがん医療の向上を図る」ことを目的として必要な研究に対し交付されている。
 当該助成金は、がん政策医療ネットワークを構成する全国の国立病院・療養所、がん専門医療施設等の多施設共同による、がんの新しい予防、診断・治療法の開発普及、医薬品の臨床試験など臨床に直結した研究を主体としている。がん研究助成金においては、とくにがん政策医療の推進やがん医療の全国的な均てん化を推進していく上での基盤づくりのための研究、がんの臨床や研究において将来性の期待される萌芽的な研究に重点を置いており、がん医療・研究の先端を切り開くことを主眼とする厚生労働科学研究費補助金「がん克服戦略研究事業」とは研究の目的及び内容を異にしている。
 また研究を効果的に推進するため、関連学会や社会的要請に基づき計画的かつ集中的に実施する研究を「指定研究」、がんの診断・治療・予防法を確立するための臨床研究及びそれに関連する基礎研究並びに行政的研究を含めて総合的に実施するものを「総合研究」、関連学会等で重要性が認識されている研究を「計画研究」として位置づけている。
 当該助成金に係る事務は国立がんセンター総長に委任されており、研究課題及び研究者の選定、研究費の配分、研究成果の評価について審議するため行政関係者、学識経験者等25名で構成される運営委員会を設置している。
 平成14年度の研究課題数は96課題(指定課題10、総合研究8、計画研究
75、機械開発研究3)、研究者総数は897名となっている。
 主な研究課題として、(1)各種がんの予防、診断・治療法の開発、(2)がん臨床試験体制の確立、(3)がん情報ネットワークの構築、(4)がん登録による発生頻度及び死亡率の把握等があげられる。

予算額(単位:百万円)
H12 H13 H14 H15 H16要求
1,850 1,850 1,850 1,850 1,850

(3)問題分析
 昭和56年以来、がんは日本人の死因の第一位を占めており、国民の約3人に1人はがんで亡くなっている。とくに40歳代、50歳代ではがんが死因の約半数を占めており、働き盛りの世代の疾患としても重要である。そのため、がんの医療・研究についてはがん対策における主要な柱として推進されており、わが国のがん医療・研究のレベルは大きく向上している。
 がん研究助成金は、昭和38年に創設されて以来、国立がんセンターを中心に全国の国立病院・療養所、がん専門病院等の多施設共同研究により、がんの診断・治療法の開発及び全国的な普及に貢献してきた。
 欧米においてもわが国と疾病構造は多少異なるが、がん対策は保健政策上重要な位置を占めており、がん研究に対して大規模な国家予算が投じられている。
 これまでの医療・研究の成果により今やがんの約半分が治癒可能になったが、がんの本態は十分解明されておらず、未だに治癒が望めない難治がんや進行がん、予防法や診断・治療法が確立されていないがんも数多くあるため、さらなる研究が待たれている。また、わが国のがん医療においては、その標準化や均てん化(がん医療が全国どこにいても受けられること)が求められている。さらに、わが国ではがんの正確な罹患状況が把握されていないため、がん登録体制の整備も喫緊の課題となっている。
 こうした背景を踏まえて、がんに関する豊富な症例と経験を有する全国の国立病院・療養所、がん専門医療施設等が多施設共同により、がんの予防、診断・治療法の開発をはじめ、その基盤となる医療・研究に取り組むことが一層重要となっている。
 なお、がん研究助成金は国のがん対策の柱である「がん克服新10か年戦略」の一翼を担っており、来年度からスタートする次期対がん戦略においても、引き続き重要な役割を果たすことが期待されている。

(4)事務事業の目標
 がん研究助成金は、がん対策の企画および行政を推進するとともに、がん医療の向上を図ることを目的としている。この目的を達成するために、具体的に以下の研究を実施する:
 (1) 疾病の病像や原因解明に資する疫学的研究
 (2) がんの新しい予防、診断、治療法の開発及び普及
 (3) がんの標準的医療を確立するための医療技術評価研究
 (4) 既存の予防、診断、治療法に関する医療経済学的研究
 (5) 医薬品及び医療機器開発、臨床試験のための標準的プロトコールの開発、並びに臨床試験の実施
 (6) がん化の仕組みの解明、発がん物質の同定・評価および予防への応用

2.評価結果
(1)必要性(行政的意義(厚生労働省として実施する意義、緊急性等)、専門的・学術的意義(重要性、発展性等)、目的の妥当性等)
 がんは昭和56年以来わが国の死因の第一位を占めており、がん対策は厚生労働省における最も重要な施策の一つとして位置づけられている。がん研究助成金による研究は厚生労働省国立病院部のがん政策医療推進の一環として行われているものであり、厚生労働省として実施する行政的意義は非常に大きい。とくにがん研究助成金は「がん対策に関する企画および行政を推進し、並びにがん医療の向上を図る」ことを目的として、国立がんセンターを中心とする多施設共同により、わが国のがん対策を推進していく上での基盤づくりのための研究、がんの予防、診断・治療に係る臨床研究や疫学研究、萌芽的な研究などに重点を置いており、がん政策医療の目的に沿って実施されていることから、行政施策との関連性は非常に強い。
 またがん研究助成金においては、がん政策医療ネットワークを構成する全国の国立病院・療養所をはじめ、がん専門医療施設、大学等の積極的な参加のもとに多施設共同による研究が実施されており、参加施設のレベルアップを図るとともに厚生労働省のがん政策医療やがん医療の均てん化を全国的に推進する上でも重要な役割を果たしている。
 当該助成金の特筆すべき成果の一つとして、世界的に通用する質の高い臨床試験体制の確立があげられる。これにより全国のがん専門医療施設約190か所の多施設共同によるがん臨床試験の実施体制(JCOG)が構築されるとともに、がん臨床試験の品質管理及び品質保証(データマネジメント)の方法論が確立され、その第一歩として肺がんに対する化学療法と放射線療法の同時併用による標準的治療法が確立された。また1990年からは14万人規模の大規模コホート研究が開始され、がん死亡の危険度を定量的に評価することが可能となった。この他、頭頚部がんに対する陽子線治療、固形がんに対する同種細胞免疫療法、ITナイフの開発、機能温存手術の開発普及、発がん要因の探索などがんの診断・治療および予防に関して、国際的にも注目される成果を上げている。

(2)有効性(計画・実施体制の妥当性等の観点)
 がん研究助成金による研究はがん政策医療の推進の観点から、がん対策の企画やがん医療・研究の推進に役立つ実践的な課題を対象としており、研究課題の設定の段階から国立病院部や生活習慣病対策室等の関連部局との緊密な連携のもとに実施されている。また研究の目的・内容により「指定研究」「総合研究」「計画研究」及び「機器開発研究」に分類し、これに応じた研究班の構成や研究費の配分を行うなど研究の効果的な推進が図られている。
 (1) 指定研究:関連学会や社会的要請に基づき計画的かつ集中的に実施する研究
 (2) 総合研究:がんの診断・治療・予防法を確立するための臨床研究、及びそれに関連する基礎研究並びに行政的研究を含めた総合的研究
 (3) 計画研究:関連学会等で重要性が認識されている研究について、焦点を絞り効果的に推進するための共同研究
 (4) 機器開発研究:がんの診断・治療に必要な機械器具の開発を行うための研究
 また研究課題及び研究者の選定、研究費の配分並びに研究課題の評価にあたっては、行政関係者及び有識者で構成する運営委員会において、社会の要請や最新の知見に照らして審議決定されており、適正な運用が図られている。
 研究の実施体制についても、研究班は全国の国立病院・療養所をはじめ、がん専門医療施設、大学など広く第一線の機関で構成しており、医療現場の実情を踏まえた実践的な研究が行えるよう配慮されている。
 以上のように、がん研究助成金は、研究課題の目標達成度は全般的に高く、行政的にも有用性の高い研究が数多く実施されている。

(3)効率性(目標の達成度、新しい知の創出への貢献、社会・経済への貢献、人材の養成等の観点から)
 がん研究助成金による研究については、指定研究、総合研究、計画研究等の分類に沿って、研究課題ごとの目的や内容に応じた研究班の規模及び研究費の配分が運営委員会で決定されている。1課題当たりの平均配分額は指定研究については約6000万円(研究者25名)、総合研究については約2300万円(研究者12名)、計画研究については約1200万円(研究者6名)となっており、適正な規模で効率的に研究が実施されるよう配慮されている。
 研究課題の評価については、学術的観点及び行政的観点から評価基準が定められており、これに基づき運営委員会による評価を毎年行うとともに、その評価結果は課題の採択のみならず、研究費の配分にも反映させており、効率性、妥当性が高いと判断される。また研究期間についても、原則2年間ないし3年間を単位としており、研究の成果及び評価結果に応じて、研究課題の見直しや継続の可否に反映できるよう効率性が確保されている。
 また、当該助成金による研究成果は「厚生労働省がん研究助成金報告集」として刊行し広く関係機関に配布しているほか、年1回の発表会及びシンポジウム等において発表するなど、研究成果の普及・公表にも努めている。
 当該助成金によるこれまでの研究より、わが国で初めて国際的に認められたがん臨床試験体制が確立されたのをはじめ、ITナイフの開発のように既に実用化され体への侵襲が少なくかつ安全性の高い内視鏡手術を可能としたもの、固形がんに対する同種細胞免疫療法のように副作用が少なく有効な治療法の開発に結びついたものなど、即臨床や研究に役立つ成果が多数出ており、当該研究費の目標達成度や有効性は高い。
 さらに、がん研究助成金による研究班は、大学・研究機関の研究者に偏らず、がん医療を担う全国の国立病院・療養所、がん専門医療施設等の研究者、医療従事者を中心に構成しているほか、班友制度を設け、研究意欲のある国立病院・療養所の職員に研究へ参加する機会を提供しており、研究者の養成、資質向上にも貢献している。

(4)その他
1)研究の透明性の確保
 がん研究助成金については運営委員会による研究課題及び研究者の選定、研究課題の評価等が行われている他、官報及びインターネットによる公募課題の告示、中間・事後発表会およびシンポジウムの開催、国立がんセンターホームページにおける研究成果の公表、運営委員名簿の公開等を通じて、公正で透明性の高いシステムの構築が図られている。さらに今年度からは全ての研究課題について運営委員会における評価結果(評定及びコメント)を主任研究者に通知するなど、一層有効かつ透明性の高い評価システムの構築を目指している。

2)研究の倫理性の確保
 がん研究助成金においては、がんの臨床研究や疫学研究など直接人間を対象とした研究が多く実施されていることから、運営委員会における研究課題の採択の決定及び評価にあたっては、「ヘルシンキ宣言」をはじめとする各種倫理規範や「疫学研究における倫理指針」(文部科学省、厚生労働省)「遺伝子解析研究に関する倫理指針」(経済産業省、文部科学省、厚生労働省)等の遵守についても厳正な審査を行うことにより、研究の倫理性の確保が図られている。

(5)特記事項
 特になし

3.総合評価
 がん対策はわが国の健康対策において依然として重要な位置を占めており、がん研究はその重要な柱の一つとなっている。とくにがん研究助成金については、国立がんセンターを中心として国立病院・療養所におけるがん政策医療や がん対策を推進するための、基盤づくりあるいは牽引的な役割を果たしてきた。
 がん研究助成金の運営にあたっては運営委員会が設置されており、研究課題および研究者の選定、研究費の配分、研究成果の評価等について、運営委員会における審議のもとに適正な運用が図られている。また、関連学会や社会的要請に基づき計画的かつ集中的に実施する必要のある研究は指定研究として位置づけて実施しているのをはじめ、評価基準を定めて研究課題を評価し、その結果を課題の選定及び研究費の配分に反映させているほか、研究期間を原則2年間ないし3年間を単位とし、研究の成果及び評価結果に応じて研究課題の見直しや継続の可否を判断するなど、有効性と効率性を十分配慮した、適正な運用が図られている。
 また研究成果は発表会やシンポジウムのほか、「厚生労働省がん研究助成金報告集」やインターネットで公表するなど、成果の普及と研究の透明性確保にも努めている。
 さらに、がん研究助成金については、国立がんセンターを中心として、がん政策医療ネットワークを構成する全国の国立病院・療養所、がん専門医療施設及び大学等の参加のもとに多施設共同による研究が行われており、参加施設のレベルアップとがん医療の均てん化、並びに厚生労働省のがん政策医療を推進する上でも重要な役割を果たしている。
 今後のがん対策を推進する上でがん研究はこれまでの成果を集約しつつ、一層重要性が高まることが予想される。とくにがん研究助成金は、がん対策を企画・推進していく上で有用な研究やがんの予防法、診断・治療法の開発普及に結びつく臨床研究を主体としており、こうした研究費の性格から、がん研究助成金の社会的必要性や行政的意義は大きく、さらなる研究の進展が期待される。


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