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平成15年度第3回血液事業部会運営委員会

血液製剤に関する遡及調査ガイドライン策定の必要について

平成15年10月1日

薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会
委員長 清水 勝 様

薬事・食品衛生審議会血液事業部会運営委員会
委員 大平勝美
委員 花井十伍

 本年6月12日付け血液対策課長通知以降の一連の情報により、現在、患者、医療者における不安及び供給システムにおける混乱が高まっています。早急に国として,血液製剤に関する遡及調査ガイドラインを明確に示すべきであり、そのため、ガイドライン決定期限を定め、タスクフォースを設けて策定にあたることを提案します。

1. 輸血用血液製剤の遡及調査ガイドラインについて
 米国FDAはじめ、各国の規制当局は、既に輸血用血液製剤の遡及調査ガイドライン等を規定し、事業者に対して遵守を求めています。わが国においては、未だ、国としての遡及調査ガイドラインが定められておらず1、輸血用血液製剤製造事業者である日本赤十字社の自主ルールによる運用に委ねられてきました。
 安全技術調査会における直近の事務局素案は平成12年8月までの状況を前提とするものであって、その後、現在までに新たに判明した知見及び情報並びに製造工程を踏まえたガイドラインの策定が必要です。2 よって、国としては、日本赤十字社の協力を求めつつ、血液製剤に関する遡及調査ガイドラインを早急に策定すべきと考えます。

2.分画製剤についてー個別NAT陽性が判明した血液が混入した原料血漿の取り扱いガイドラインについて
(1)分画製剤の原料血漿についても、米国FDAはじめ、各国の規制当局は安全基準を規定し、事業者に対して遵守を求めています。わが国においても、平成12年12月28日付け「生物学的製剤基準」改訂により、国としての安全基準は示されております3
(2)他方、国内献血由来の血漿分画製剤製造事業者に対する行政指導としては、平成12年の生物学的製剤基準改訂の前に発せられた平成10年11月2日付け3課事務連絡の解釈を根拠とする自主回収措置が、その都度、講じられ、現在に至っています。

 平成10年11月2日付け厚生省医薬局安全対策課・監視指導課・血液対策課事務連絡「血液製剤の当面のウイルス安全対策について」
 「当面の対応」として以下の4点を(社)血液製剤協会宛に指導した。
1.血漿分画製剤の製造前に核酸増幅検査陽性が判明した原料血漿(個別の原料血漿も含む)は使用しない。
2.感染症報告等からの遡及調査で、製剤(ロット)と感染症との因果関係が明らかになった場合については、当該製剤は回収させる。
3.2以外の場合であって、感染症報告等からの遡及調査が行われたケースで、原料血漿プールで核酸増幅検査陰性が明らかでない製剤(ロット)については、自主回収するよう勧奨する。
4.対象とするウイルスは、HBV,HCV及びHIVの3種とする。

 特に、現在問題となっている事後的に個別NAT陽性が判明した血液が混入した原料血漿の取り扱いについては、同事務連絡では、文面上は「血漿分画製剤の製造前に核酸増幅検査陽性が判明した原料血漿(個別の原料血漿も含む)は使用しない。」と規定されていますが、行政指導では、製造工程に入った原料血漿の使用中止も求めており、また、文面上は「2以外の場合であって、感染症報告等からの遡及調査が行われたケースで、原料血漿プールで核酸増幅検査陰性が明らかでない製剤(ロット)については、自主回収するよう勧奨する。」と規定されていますが、行政指導では、血漿プールでNAT陰性が明らかな製剤(ロット)についても、個別NAT陽性血が混入している場合には自主回収を求めています(以下、「本件行政指導」という)。

 同事務連絡自体は、(1)核酸増幅検査の導入、(2)ウイルスの不活化・除去技術及び製剤の安全性の評価、(3)核酸増幅検査の感度及び検査対象の原料血漿の量の条件設定、(4)以上を踏まえた生物学的製剤基準の改定に関する検討結果を見るまでの「当面の対応である」と記載されている。しかしながら,平成12年生物学的製剤基準の改訂以後も本件行政指導(同事務連絡の解釈に基づく行政指導)ベースの運用が継続されているものです。

(3)本件行政指導の科学的根拠については、平成15年9月17日開催の血液事業部会安全技術調査会は「対象製剤を回収する科学的かつ積極的理由はない」との結論に達しています。
 また、政策的にも、本件行政指導は輸入分画製剤には適用されておらず、また、輸出国規制当局において同様の方針を採用する国はないため、平成10年11月以降現在まで、(献血由来)国内製剤と(売血由来)輸入製剤における安全上の二重基準状態が継続しています。かかる二重基準状態に合理性がないことは明らかであり、国としては、本件行政指導に関する国としての方針とその根拠を明確に説明し、安全規制における輸入製剤との二重基準状態を解消することも必要となっています。

 従って,「当面の取り扱い」として本件行政指導を個別事案ごとに対処するのではなく、平成10年11月2日付け事務連絡ないし本件行政指導の変更について、国としての明確な方針決定をするべきと考えます。

以上


1 安全技術調査会(平成10年4月〜12年8月「血液製剤の遡及調査に関するガイドライン事務局素案)による検討は中断している。
2 平成10年当時は個別NAT陰性であれば感染可能性は低いと考えられていたがその後、平成13年3月以降のHBV個別NATすりぬけ供血による輸血感染例や、チンパンジーによるHCV感染実験により個別NATすり抜けウイルス量による感染成立が判明している。
3 経過:(1)平成11年8月30日付け医薬発第1047号厚生省医薬局安全局長通知)「血漿分画製剤のウイルスに対する安全性確保に関するガイドライン」が決定され、血漿分画製剤の不活化処理に関する技術的基準が示された(同ガイドライン第4項においてウイルス・プロセスバリデーションが定められ、同6項において、ウイルス・プロセスバリデーションに係わる測定法の標準化が定められた)。(2)平成12年2月から,全献血者血液のHBV,HCV,HIV核酸増幅検査(NAT)を、従来の500本から50本プールで実施するようになった。(3)以上を踏まえて、平成12年12月28日付けで「生物学的製剤基準」が改定され、原料血漿についてのHBV,HCV,HIVについてのNAT義務化及び陽性は使用不可が定められた。


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