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実質賃金上昇率及び実質金利の見通しについて


1 過去実績の動向

(1) 実質賃金上昇率の動向

 過去25年間の実績をみると、一人当たり実質賃金上昇率は低下傾向にあり、特に現金給与総額及び賃金・俸給の低下が著しい。

表1 一人当たり実質賃金上昇率
  平均標準
報酬月額
上昇率
毎月
きまって
支給する給与
現金
給与
総額
賃金

俸給
過去25年平均
(1977-2001)
1.2% 1.0% 0.8% 0.8%
過去20年平均
(1982-2001)
1.3% 1.0% 0.8% 0.8%
過去15年平均
(1987-2001)
1.1% 0.8% 0.6% 0.7%
過去10年平均
(1992-2001)
0.7% 0.6% 0.0% 0.0%

(注1) 平均標準報酬月額は年末(12月)の対前年同月比の伸び率、毎月きまって支給する給与、現金給与総額、賃金・俸給及び実質の上昇率を計算する基となる消費者物価指数は年平均の伸び率である。
(注2) 毎月きまって支給する給与の上昇率及び現金給与総額の上昇率は、1990年以前は事業所規模30人以上、1991年以降は事業所規模5人以上である。
(注3) 賃金・俸給は国民経済計算における「賃金・俸給」(雇用者報酬(所得)から雇主の社会負担等を控除したもの)を雇用者数で除して計算。1990年以降は平成15年国民経済計算年報、それ以前は長期遡及主要系列国民経済計算報告(平成2年基準 昭和30年〜平成10年)を使用。
(注4) 各一人当たり実質賃金上昇率は、名目−消費者物価上昇率により算出し、性・年齢構成の変化による影響を除去していない。
 標準報酬月額は、5,6,7月の給与の平均により10月から定時改定する仕組みとなっており、給与上昇の反映が遅れることとなるため、年平均の上昇率でなく、12月の前年同月に対する給与の上昇率を使用した。

(2) 実質金利の動向

 金利自由化後の過去24年間の実績をみると、実質金利(名目−消費者物価上昇率。短期金利はコール有担保翌日、長期金利は10年国債応募者利回り)は低下傾向にあり、特に短期金利の低下が著しい。

表2 実質長短金利(名目−消費者物価上昇率)
  実質短期金利
(コール有担保翌日)
実質長期金利
(10年国債応募者利回り)
過去24年度平均
(1978〜2001)
2.26% 3.27%
過去20年度平均
(1982〜2001)
2.27% 3.40%
過去15年度平均
(1987〜2001)
1.60% 2.80%
過去10年度平均
(1992〜2001)
0.72% 2.43%

(3) 利潤率の動向

 実質金利の動向は、長期的には経済全体の利潤率を反映するものと考えられるが、国民経済計算に基づいて算出した日本経済全体の利潤率について過去24年間の実績をみると、実質長期金利とほぼ同様の緩やかな低下傾向を示している。

表3 利潤率
過去24年度平均
(1978〜2001)
11.2%
過去20年度平均
(1982〜2001)
10.6%
過去15年度平均
(1987〜2001)
9.9%
過去10年度平均
(1992〜2001)
8.5%

(注) コブ・ダグラス型生産関数より求まる減価償却後の利潤率の式、「利潤率=資本分配率×GDP÷資本ストック−資本減耗率」を用い、資本分配率は「1−雇用者報酬(所得)/(固定資本減耗+営業余剰+雇用者報酬(所得))」、資本ストックは「有形固定資産」、資本減耗率は「固定資本減耗/有形固定資産(暦年)」とし、国民経済計算の数値により計算。


2.将来推計の考え方

 ○  実質賃金上昇率(名目−消費者物価上昇率)及び実質金利(名目−消費者物価上昇率)について整合性をもった推計を行うために、マクロ経済に関する基本的な関係式により、将来のTFP上昇率について幅をもった仮定をおいた上で、将来の実質賃金上昇率及び利潤率の推計を行った。

 ○  実質金利(名目−消費者物価上昇率)については、過去実績を基礎としつつ、マクロ経済に関する基本的な関係式により得られた利潤率の動向を踏まえて推計を行った。

 ○   なお、マクロ経済に関する基本的な関係式を用いた推計において、資本分配率及び資本減耗率は直近10年間の平均値で将来も一定とし、将来の総投資率(対GDP)は、最近の総投資率(対GDP)の減少傾向を踏まえ、対数正規曲線の外挿により推計した値(図参照)を用いて計算している。また、労働力人口は、将来推計人口(平成14年1月)及び労働力率の見通し(平成14年7月)のとおりに推移するものとした。

グラフ


3.設定

 (1) 足下(2007年度まで)の設定

 TFP上昇率は内閣府の「改革と展望−2002年度改定 参考資料」における2003〜2007年度平均の実質経済成長率の見通しと整合性のある数値として0.2%を用いる。

 内閣府の改革と展望も2007年度までの推計であることから、足下の期間については2007年度までとする。

 実質長期金利は内閣府の「改革と展望−2002年度改定 参考資料」における2003〜2007年度の長期金利の見通しの平均である1.6%を用いる。

 (2) 長期(2008年度以降)の設定

 長期的なTFP上昇率は、平成13年度年次経済財政報告における中長期的な潜在成長率の推計では、0.5〜1%程度とされていること、また、平成14年度年次経済財政報告においてもこの数値を引用しているところから、ケース1(1.0%)、ケース2(0.7%)及びケース3(0.4%)の3つのケース(0.3%間隔)を設定することとする。

 実質金利の推計の基礎となる過去実績は15年度平均(1987〜2001)をとる場合、20年度平均(1982〜2001)をとる場合、24年度平均(1978〜2001)をとる場合の3つのケースについて試算を行う。


4.結果

○ 足下(2003〜2007年度平均)

 一人当たり実質賃金上昇率
 (名目−消費者物価上昇率)
:0.9〜1.0%程度

 実質GDP成長率

:1.1〜1.2%程度




(参考) 改革と展望−2002年度改定 参考資料
(平成15年1月20日経済財政諮問会議)

 実質成長率           :1.1〜1.2%程度





 実質長期金利
 (名目−消費者物価上昇率)

:1.6%程度

 長期(2008〜2032年度平均)

(1)  ケース1(長期的TFP上昇率=1.0%)
一人当たり実質賃金上昇率:1.5〜1.6%程度
(名目−消費者物価上昇率)
  過去15年度平均
(1987〜2001)
の実績より推計
過去20年度平均
(1982〜2001)
の実績より推計
過去24年度平均
(1978〜2001)
の実績より推計
実質短期金利
(名目−物価上昇率)
1.1%程度 1.5%程度 1.4%程度
実質長期金利
(名目−物価上昇率)
1.9〜2.0%程度 2.2%程度 2.0%程度

表4 実質長短金利
  実質利回り
過去実績
(A)
将来利潤率
倍率
(B)
実質利回り
推計値
(A)×(B)
過去15年度平均(1987〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
1.60%
2.80%
0.700 1.12%
1.96%
過去20年度平均(1982〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
2.27%
3.40%
0.649 1.47%
2.21%
過去24年度平均(1978〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
2.26%
3.27%
0.615 1.39%
2.01%

(注)  将来利潤率倍率は、過去利潤率(過去15年度平均(1987〜2001)9.9%、過去20年度平均(1982〜2001)10.6%、過去24年度平均(1978〜2001)11.2%)で、将来利潤率(マクロ経済に関する基本的な関係式により得られた2008〜2032年度平均値)6.9%を除した値。

(2)  ケース2(長期的TFP上昇率=0.7%)
一人当たり実質賃金上昇率:1.1〜1.2%程度
(名目−消費者物価上昇率)
  過去15年度平均
(1987〜2001)
の実績より推計
過去20年度平均
(1982〜2001)
の実績より推計
過去24年度平均
(1978〜2001)
の実績より推計
実質短期金利
(名目−物価上昇率)
:1.0〜1.1%程度 1.4%程度 1.3%程度
実質長期金利
(名目−物価上昇率)
:1.8〜1.9%程度 2.1%程度 1.9%程度

表5 実質長短金利
  実質利回り
過去実績
(A)
将来利潤率
倍率
(B)
実質利回り
推計値
(A)×(B)
過去15年度平均(1987〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
1.60%
2.80%
0.661 1.06%
1.85%
過去20年度平均(1982〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
2.27%
3.40%
0.613 1.39%
2.08%
過去24年度平均(1978〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
2.26%
3.27%
0.581 1.31%
1.90%

(注)  将来利潤率倍率は、過去利潤率(過去15年度平均(1987〜2001)9.9%、過去20年度平均(1982〜2001)10.6%、過去24年度平均(1978〜2001)11.2%)で、将来利潤率(マクロ経済に関する基本的な関係式により得られた2008〜2032年度平均値)6.5%を除した値。

(3)  ケース3(長期的TFP上昇率=0.4%)
一人当たり実質賃金上昇率:0.8%程度
(名目−消費者物価上昇率)
  過去15年度平均
(1987〜2001)
の実績より推計
過去20年度平均
(1982〜2001)
の実績より推計
過去24年度平均
(1978〜2001)
の実績より推計
実質短期金利
(名目−物価上昇率)
:1.0%程度 1.3%程度 1.2〜1.3%程度
実質長期金利
(名目−物価上昇率)
:1.7〜1.8%程度 2.0%程度 1.8%程度

表6 実質長短金利
  実質利回り
過去実績
(A)
将来利潤率
倍率
(B)
実質利回り
推計値
(A)×(B)
過去15年度平均(1987〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
1.60%
2.80%
0.623 1.00%
1.74%
過去20年度平均(1982〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
2.27%
3.40%
0.578 1.31%
1.97%
過去24年度平均(1978〜2001)
実質短期金利
実質長期金利
2.26%
3.27%
0.548 1.24%
1.79%

(注)  将来利潤率倍率は、過去利潤率(過去15年度平均(1987〜2001)9.9%、過去20年度平均(1982〜2001)10.6%、過去24年度平均(1978〜2001)11.2%)で、将来利潤率(マクロ経済に関する基本的な関係式により得られた2008〜2032年度平均値)6.2%を除した値。


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