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おわりに

 地域保健活動は、感染症対策から始まり、母子保健対策、精神保健対策、そして老人保健対策へと、その時代の社会的要請に応じてその時々の健康課題に対応した活動が行われてきた。地域保健従事者は、このような活動の最前線に従事する専門職員として配置され、地方自治体の保健行政を担ってきており、このような地域保健活動は、わが国の平均寿命、健康寿命の延伸に寄与してきたと言われている。
 今後、少子・高齢化社会を活力ある社会としていくためには、ヘルスプロモーションの理念に基づいた幅広い国民の健康づくり運動が展開され、健康増進が推進されることが必要とされており、地方自治体の健康政策に携わる地域保健従事者の資質の向上を図ることは、このような健康づくり運動を推進する上で重要な行政課題となっている。特に職業人としての基礎をつくる初任期における現任教育の充実を図ることは喫緊の課題となっており、このような課題に対応するためには、地域保健従事者の資質の向上施策を主体として担っている地方自治体の現任教育を改善することが最も重要である。
 このような認識の下に、本検討会は平成14年9月以降、7回にわたって現任教育のあり方、初任期及び少人数配置職員の現任教育、教育方法、教育体制を充実させるための方策について検討を行ってきた。本報告書は、地方自治体において人材育成の責任者である首長及び施策を担当する人事担当部門、並びに現任教育の企画・実施部門が、地域保健従事者の現任教育の体制整備を図っていく上で参考となるよう、今後の取組の方向性を提言した。特に、人材育成指針に基づいて地域保健従事者に求められる能力を明確化し、経験年数に応じた能力の到達目標を例示したマトリックス表を作成して、計画的な人材育成を行うこと、また、職場外研修(Off-JT)のみでなく、OJT、ジョブローテーション、自己啓発を取り入れた現任教育体系を構築すること、そして効果的な教育方法の導入を提言している。
 一方、国における取組としては、全国的に連携や協力が必要な場合の調整を行うこと、国立試験研究機関の研修機能の充実、特に国立保健医療科学院が新たな健康政策に対応できるための指導者育成や、教育方法の開発・普及、IT研修の開発等の機能強化を図り、都道府県等の研修実施機関を支援していく役割を担うことを提言している。
 しかし、地方自治体及び国においてこのような資質向上に関する施策の充実が図られても、地域保健従事者自身が、自己の能力を高めていく努力、すなわち自己啓発意欲がなければ資質の向上にはつながっていかない。特に初任期において、このような自己啓発意欲をもって仕事に取り組む姿勢を身につけることは最も重要である。また、このような意欲を持ち続けるためには、職場全体が自己啓発意欲を持って積極的に業務に取り組む環境が必要で、このような自己啓発を促進する環境を整備する重要性をあえて強調しておきたい。
 国民の健康に関するサービスに直接携わる地域保健従事者の資質の向上を図ることは、国民の健康増進に寄与し、健やかで活力ある社会づくりに貢献するものであるので、今後、関係者の努力に期待するものである。


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