戻る

第4章 効果的な現任教育の方法について

1 現任教育方法の現状

 地域保健従事者の人材育成の目標は、第5章に記述するように、専門的な能力と行政的な能力を兼ね備えた者を育成していくことである。そのための手段としては、職場外研修(Off-JT)、職場内研修(OJT)、ジョブローテーション、自己啓発の4つがあり、ジョブローテーションや自己啓発が有用な現任教育であることは、これまでにも再三触れてきたところであるが、本章では、職場外研修と職場内研修の教育方法に絞って、その現状と新たな教育方法について述べる。

(1)職場外研修(Off-JT)の教育方法

 地域保健従事者の職場外研修は、専門研修、行政研修のいずれにおいても、講義を聴いて学習する、いわゆる座学を中心とした集合型研修が行われてきた。
 このような受け身の集合型研修は実務に活用されにくいことから、参加型研修として、講義に加えグループワークを組み合わせた研修が増加してきている。しかし、グループワークといっても適切な方法に拠らなければ単に受講者の情報交換の場に留まり、グループダイナミックスを活用した効果的な研修となっていないのではないかという指摘もあり、グループワークを組み合わせた集合型研修においても、効果的な教育方法を開発し導入する必要性が高まってきている。
 また、これまでは、座学が中心であったことから、専門的研修においても知識の習得を主体とした研修が行われるに留まり、技能を修得するための研修が行われてこなかったきらいがある。大学等の教育機関においては、専門的な技能や応用力を身につける教育方法として、ワークショップ形式の授業やロールプレイ、シミュレーションを用いた授業が行われ、効果をあげており、また、ディベートやケースメソッドを用いた教育方法の導入が必要と言われている。しかし、このような教育方法が、現任教育においてあまり取り入れられてこなかったことが、問題点として指摘されている。

(2)職場内研修(OJT)の教育方法

 公務員の研修は、職場外研修が中心であったことから、多くの自治体で行われているOJTは、先輩や上司等の指導者の仕事ぶりを見て学ばせるといった方法で、指導者が共通した指導方針をもって行っているものは少なく、効果的な人材育成につながっていないのではないかといった問題点が指摘されている。
 地域保健従事者の能力開発のうち、初任期の基本的な研修や、行政実務、政策形成等に関する行政研修は、職場外研修では十分な成果が得られにくいことから、職務を通したプロジェクト方式や、指導者の下に行われるOJTが効果的であるといわれている。また、上司や先輩からの指導を受け止める立場にある若手職員の職務を習得する姿勢が変化してきていること等からも、適切な方法でOJTを行うことが必要となってきている。
 このように、OJTを効果的に行うためには、その指導を行う者がOJTの指導方法を身につけるための研修を受講させることが必要である。

表4 教育方法
教育方法 解説 活用・効果 適用
ワークショップ マニュアルの作成や業務方法の検討等、テーマを決めて一定期間、担当者や専門家を交えた共通化のプロセスによる課題解決の方法 理論と実践を結びつける手段主体的な課題解決新任期の能動的な仲間づくり 専門研修
Off-JT
ケースメソッド インストラクターの的確な導きのもとで、ケースの主たる論点を考え、分析し、自分の議論を構築した上で、集団の討議に参加し多様な対応策を考え出す、課題解決能力養成のための実践的学問教育 多様な事象への速やかな対応能力、意思決定能力の養成仮説やモデルを検証する手段 専門研修
Off-JT
シミュレーション 最終結果が、説明可能で明快な決定を下すための模擬的訓練 実際の事例や危機的な状況に対面した時の戸惑いを軽減 専門研修
行政研修
Off-JT
ロールプレイ 即興形式で、与えられた状況の中で役割を演じることで、相手に共感することを体験として学び、またその状況下でどのように行動したらいいか検討する方法 共感的な事例の理解から相手の立場にたった支援の方法を考えることが可能な技術の習得 専門研修
Off-JT
ディベート ある一つの論題に対して肯定側と否定側の2チームにランダムに分かれ、ルールに基づいて議論を行い、審判により判定が下される議論・弁論術 論理的思考力、傾聴する力、情報収集と分析力、意思伝達や説明の能力向上 専門研修
行政研修
Off-JT
プロジェクト方式 特定の課題に対し、組織を越えた職員が協働で課題解決にあたる業務遂行方法 多職種による協働作業で課題解決にあたることが可能 行政研修
OJT
プリセプターシップ 初任者にとって、身近な先輩が指導者として、初任者とペアを組み、一定期間内に指導目標が達成できるよう段階的育成計画を作成し、日常業務を通したマンツーマン指導の方式 初任者教育 専門研修
行政研修
OJT
スーパーバイザー方式 部署をまたがって、特定の研修を修了したものが、特定の職員の指導を行うシステム 少人数配置の専門職に対する部署を越えた指導体制を可能とする 行政研修
専門研修
OJT

2 現任教育の新たな方法とその活用

 職場外研修及び職場内研修において導入することが望まれる新たな研修方法としては、ワークショップ、ケースメソッド、シミュレーション、ロールプレイ、ディベート、プロジェクト方式、プリセプターシップ、スーパーバイザー方式等がある。こうした方法の解説、活用方法とその効果及び適用が勧められる研修について整理した概要を表4に示す。
 また、地方自治体や研修機関において、このような教育方法を導入するために必要と考えられるそれぞれの教育方法についての詳細な解説を加える。なお、教育方法に関する参考文献は、47ページに掲載している。

(1)職場外研修(Off-JT)

1)ワークショップ
 ワークショップとは、講義とグループワークを組み合わせて、参加者に共通する一定の課題の解決に向けて、一連の作業を行う中で学習することを意味しており、ワークショップを行う場合、受け身型の講義の時間をできるだけ少なくする工夫が求められる。
 ワークショップの形式は、複数の保健所の感染症やエイズ等の業務に従事する担当職員を対象として、学習の援助者に医師や外部の専門家を加えて、マニュアルの作成や業務方法の検討等を内容とし、業務の一定の共通化に関する検討と成果物の共通理解を得ることを目的として研修が実施されている例がある。
 また、保健所管内の専門職が集まる研究会等において、テーマを決めて、一定期間、課題解決に取り組むといったワークショップも効果的である。このようなワークショップの実践により、地域保健従事者がワークショップの手法を身につけることができ、住民の健康学習会に応用する等により住民の主体的な健康づくりにつなげることも可能である。
 現場では、住民ニーズ、行政ニーズに合わせた事業を展開する必要があるため、理論だけでは十分でないことから、理論と実践を結びつける上で、ワークショップ形式の研修方法は効果的である。また、地域診断の方法、評価の手法を学ぶには、得られた知識を直ちに活用させる演習機会があり、その場で方法論を身につけることが可能なワークショップ形式の研修が極めて有効である。
 新任期の職員の仲間づくりを主とした研修においても、ワークショップ形式が適当であり、能動的な学びの場につながる。

2)ケースメソッド
 地域保健従事者は、日々変化する社会の中で暮らす人々や、その集合としての地域集団を対象に各種の業務を実施している。そのため、一般論としての方法論やスキルをそのまま適用できる状況は少なく、むしろ個々の状況に応じて一般論を修正し活用して、課題解決を図る能力が求められる。特に少人数配置職員等においては、一人一人の地域保健従事者が、置かれた状況下で必要な情報を収集し、その情報から課題を見極め、その解決策を判断し、実施していくような、意志決定能力と実践力が求められる。こうした多様な事象への対応能力、意志決定能力を養成するには、「ケースメソッド」を用いた学習が効果的と考えられる。ケースメソッドとは、20世紀初頭から米国のハーバード・ビジネス・スクール、ハーバード・ケネディ・スクール等で開発された実践的学問教育の主要な教授法の1つであり、参加者に特定の条件下における意思決定について、擬似的な体験をさせることで、課題解決のための状況分析や意志決定能力を鍛えることを目的としている。そのため、個別的なケースにおいて、直截に結論を示唆する訳ではない。ケースメソッドを行う場合、実際のケースにおける主たる意志決定者が意志決定に際して得ていたものと同じ情報を、研修の参加者に伝える必要があり、新聞記事、物語、報告書等を適切に提示することが求められる。
 ケースメソッドの利点は、一般的には、限られた情報下で、(1)多様な対応策を考え出すこと、(2)限られた時間中にディスカッションから得られた情報を元に、新たな対応策と意思決定を行うこと、(3)より適切な意思決定にはさらにどのような情報が必要なのかを判断すること、つまり、"速やかに行う能力"が鍛えられる点にあるとされる。さらに、こうしたケースを多数模擬経験することにより、参加者の頭の中に様々な条件下での対応オプションが蓄積され、実務において、似た条件下に置かれた時に、適切かつ速やかな判断を呼び起こすことができるとされる。
 ケースメソッドの進め方であるが、参加者は、事前に提供されたケースを熟読吟味し、ケースの主たる論点を考え、論点に沿ってケースの情報を分析し、問題解決の方策を自分なりに考えてくることが求められる。その上で、参加者は集団での討議に主体的に加わることが必要である。
 ケースはあくまでも参加者の分析力を高めるためのきっかけを与えるに過ぎない。参加者はケースから得られる、限られた情報を分析し、自身の議論を構築するものである。それに対して講師や他の参加者が質問や反論を加え、その反論に対して自身の論の優位性を提示すべく議論が繰り返される。この繰り返しによって、参加者は問題解決力が研ぎ澄まされると同時に、常に考え、理由付けをしようとする能力が高められるとされる。
 その意味で、講師の役割は、参加者の意見を引き出し、論点を整理し、多様な解決策を促すことにあり、1つの結論に導くことを要請されていない。

3)シミュレーション、ロールプレイの技法
 地域保健活動における実践的な問題解決能力を習得させる研修等、専門性の高い領域で、特に技能の習得を目的とした研修においては、シミュレーションやロールプレイ等の技法を導入することが効果的である。
 シミュレーションとは、地域保健活動における様々な事例や状況を提示して、その解決のために参加者が示す方法によってもたらされると考えられる新たな状況を講師が次なる課題として与えていくことを繰り返す、実務的な模擬訓練の方法である。このような模擬訓練を行うことで、実際の事例や危機的な状況に対面した時に戸惑いを少なくさせることが可能である。シミュレーションでは参加者が明快な決定を下す必要があること、最終結果の説明が論理的に可能であることが特徴である。
 シミュレーションには、ペーパーシミュレーションや模擬事例等の方法があり、今後はコンピュータシミュレーションの更なる開発が期待される。
 ロールプレイとは、集団心理療法の一つであるサイコドラマの一技法が独立して使われたものである。即興形式で、与えられた状況の中で、ある役割を演じるものである。この方法により、相手の立場に立って、相手の気持ちを理解し、相手に共感することを体験とすることで、ある状況下でどのように行動したら良いのかを検討することを目的としている。
 地域保健活動において、支援を受ける者の役割・立場を演じ、その立場に立って考えることにより、共感的に事例を理解することができるようになり、支援の方法の糸口を幅広く見出すことが可能となる。また、チームで援助をしているときに、ロールプレイを活用することで、事例の状況を支援チームのスタッフが共有することも可能である。
 さらに保健指導やカウンセリングの技術を習得するためにもロールプレイは用いることができる。
 教育や訓練としてロールプレイを実施するにあたって、支援者(ファシリテーター)は参加者が役にのめり込んで過剰な自己開示を起こさないように見守ること、ロールプレイ終了後に役から開放することが特に重要である。ロールプレイ後の討論では、支援者は参加者とそのロールプレイを観察していた観察者の意見を引き出す役割を持つ。
 具体的には、健康危機管理研修において、図上演習が取り入れられており、また、個別健康教育の保健指導技術に関する研修や、児童虐待等の複雑な問題を持つケースへの支援技術に関する研修において、ロールプレイが取り入れられており、効果を挙げている。

4)ディベート
 ディベートは、紀元前約350年、古代ギリシャに端を発する議論および弁論術で、欧米では15、16世紀から教育プログラムに採り入れられてきた。日本では、近年、変化の激しい社会において企業の人材育成に有効なプログラムとして注目を集めている。
 人材育成として、ディベートを通して、論理的思考、情報収集・分析、議論構築、プレゼンテーション力、傾聴能力などの能力の向上と習得が期待できる。ディベートは次の順序で行われる。ある一つの課題に対して、肯定側と否定側にランダムに2つのチームに分かれ、ルールに基づいて議論を行う。各チームは、収集した資料・データ・文献・情報を総動員して、主張の正当性の論理を構築して明快に立証する。相手側の主張を良く聞き、データや資料に問題点がないかどうかを検証した上で、弱点や問題点を発見して、その論証の不十分性(立証の弱点)を追及し、反対尋問を行う。反対尋問に対して明確な回答をもって第二回目の主張の論理を組み立て、攻守を変えて反対尋問を行う。作戦タイムをとり、反対尋問で明確になった相手側の問題点を整理した上で、自分達の主張を再確認するとともに、劣勢の場合は、次の第二回目の主張の論理の組み立てや尋問に対しての反論で挽回を図るための戦術を練る。最終弁論である第二回目の反論を行う。論理的に根拠を明らかにして勝敗の判定を審判団が行う。判定を含めて敗因・勝因について全員で講評を行う。
 ディベートを行うことにより、地域保健従事者としては、専門的な判断能力や説明能力の向上が期待でき、また、一つの政策について様々な角度から検証したり、本質的な議論をすることで、論理的思考と議論技術を鍛えることができる。

(2)職場内研修(OJT)

 OJTとは、日常業務を遂行していく過程で、指導者が対象職員に対して、計画的、意識的にアドバイスをしたり、支援したり、誉めたりすることを通して、職員の人材育成を図ることである。人材育成計画に立脚し、具体的な到達目標を念頭に置きながら指導をしていくことが望ましい。
 具体的には、対象職員の業務遂行状況に応じて、指導者が自ら実践して見せ、議論し、報告、連絡、相談を受け、業務遂行の順調度を観察し、順調でないときはその原因追及、修正や支援をする等、仕事を進める上でのコミュニケーションを通して職務遂行能力を高めていくものである。
 OJTでは、指導者が対象職員に対して効果的な指導、助言、評価を行うことが非常に重要であることから、指導者の育成が必須となっている。 このような日常業務の遂行の中で行われるOJT以外に、組織的にOJTを行う方法がいくつかある。

1)プロジェクト方式
 保健事業は事務職も含めた多職種で立ち上げることが通例であるので、多職種が一緒に研修を受講したり、討議をする機会は重要であり、特定の課題に対して組織を越えた職員が協働で課題解決にあたるプロジェクトへの参加は多面的な能力・態度を育成する上で貴重な経験となる。例えば、複数の保健所の職員、衛生研究所の職員が参加し、大学と共同で研究プロジェクトを立ち上げることや、所内の多職種が参加するプロジェクトを立ち上げ、地域の健康上の課題を研究的に検討し解決の方法を模索する等のプロジェクト方式による業務は、行政研修としても重要な意味がある。また、保健所管内の保健師が集まって行っている事例検討会もプロジェクト方式のOJT研修の一つであると考えられる。
 こうしたプロジェクト方式のリーダーシップをとらせる人材としては、実際にいくつかのユニークなプロジェクト立ち上げに参加した経験者を職場の中から探して登用することが望ましい。

2)プリセプターシップ
 プリセプターシップとは、指導者が初任者とペアを組み、一定の期間内に指導目標が達成できるように段階的な育成計画を作成し、日常業務を通じてマンツーマン指導を行うことである。OJTにおけるプリセプターシップの特徴は、上司が直接指導にあたるのではなく、初任者にとって身近な先輩が初任者教育を行う点にある。
 プリセプターシップを実施するためには、組織内でプリセプター(指導の役割を果たす者)の位置づけを明確にし、チームの協力を得ながら初任者指導がし易い体制を作ることが基本となる。そのために組織の管理者は、初任者指導についての考えを明示し、プリセプターの教育をするとともに、組織全体の調整を行うことが求められる。また、プリセプターは初任者教育を進めるに当たり、(1)上司の代行としての指導役割を持ち、自己の組織の方針や業務を把握し、上司の指導を受けながら初任者に教育をする、(2)職場のメンバーに初任者教育の協力依頼を行う、(3)初任者に指導者としての役割を持ち、指導計画を立て、指導の実際を行い、結果を評価し、次の課題への動機づけを行う。プリセプターシップの運営は、初任者の教育計画を初任者とプリセプターが協働で作成し、実施、評価するものである。
 プリセプターにふさわしい人材として、日常業務遂行能力があること、初任者とのコミュニケーションギャップが少ないこと、学生指導等指導者としての役割に対する姿勢が前向きなこと、上司と意思の共有ができ補佐役が務められること、健全な組織人意識が育っていることが要件としてあげられる。

3)スーパーバイザー方式
 少人数職種等複数配置となっていない職種のOJTにおいては、部署をまたがって特定の職員の指導を行うスーパーバイザー方式を導入することが必要である。
 また、複数配置の保健師であっても、その配置が分散され、OJTがあいまいになってきていることから、部署を越えて指導ができるOJT推進員のようなスーパーバイザー方式を制度として位置づけることが望ましい。そして、保健所におけるスーパーバイザーは少人数配置の市町村保健師や管理栄養士等のOJTを併せて担うことが望ましい。
 なお、スーパーバイザーには、特定の研修を修了した者をもって充て、スーパーバイザーとなった者に対しては、例えば昇進時の評価や報償等を検討する必要がある。

(3)ITの活用

 「e-Japan構想」が打ち出され、ITの技術及びその普及が急速に進んできていることから、地域保健従事者の現任教育においてもITを活用した多様な教育方法を開発する必要がある。
 しかし、保健所や保健センターによっては、インターネットに接続できるコンピューターの設置台数が少ないことから、日常的な活用に至っていないところもある。

1)IT研修コースの開設
 ITを活用した研修等は、米国、オーストラリア、韓国等が進んでいるが、わが国においても、職員の資質向上を図る上で、今後、様々な活用方策が検討されることが必要である。現在、ITを活用した研修は、国立保健医療科学院が、平成14年度から遠隔教育として7つの研修コースを設け、研修生の募集を始めたところであるが、今後は初任者や中堅者を対象としたプログラムの開発も行うこととしている。
 また、米国のピッツバーグ大学公衆衛生大学院が開発し、32カ国で使われている疫学のスーパーコースがある。わが国でも北海道大学のスーパーコース・ジャパン研究会が、日本語訳を作り、その運営に当たっている。
 ITを活用した研修プログラムは、教材の提供を行い、学習成果を確認するために試験やレポートの提出を求める等、評価を行いつつ学習を進めていくことができる。
 インターネットでは、動画を入れたり、途中で質問に答えないと先に進めないようにセットすることもできるので、知識の習得であれば、座学よりもインターネットの方が効果的な場合もある。

2)メール相談、遠隔コンサルテーション
 遠隔地に勤務する専門職員を対象とした研修として、テレビ会議システムの活用による遠隔研修会や、遠隔コンサルテーション体制の整備により、研修会への参加が困難な地域においても、資質の向上が可能になっている。
 具体的には札幌医科大学が、テレビ会議システムを活用して、大学と500km離れた町の保健センター職員に対して活動計画書の活用や事業評価の考え方について研修を実施している。
 また、保健活動で困ったことや悩んだことを相談できるメール相談機能を、研修専門機関や教育機関あるいは職能団体に開設することが期待されており、国立保健医療科学院では、ITによる遠隔教育の一貫として遠隔コンサルテーション室の開設も検討されている。

3)データーベースの構築
 国立感染症研究所、エイズ予防情報ネット、難病情報センター等が開設するホームページは、専門領域の知識に関するデーターベースとして、地域保健従事者に活用されている。
 また、健康づくりや、地域づくり等の実践活動の事例をデーターベース化することにより、各地方自治体が事業を企画するときや、活動方法を改善するときに活用できることから、国立保健医療科学院等でこうした機能を担うことが望まれる。

4)電子図書館
 国立保健医療科学院において電子図書館が開設されており、厚生労働科学研究成果のデーターベースや雑誌「公衆衛生研究」「保健医療科学」が掲載されている。今後はキーワードで文献検索ができるシステム等の充実が期待される。

3 効果的な現任教育方法導入の課題

(1)効果的な教育方法の開発、導入

 職場外研修において、知識の習得及びその応用を学ぶ場合に、最も導入が容易と考えられる方法はワークショップである。既に多くの自治体で行われている事例検討会や業務検討会がこれに該当すると思われるが、このような検討会を人材育成の目的をもたせて運営するためには、外部の指導者を招聘して、又は内部の職員を指導者と決め、教育的配慮の下に実施することが効果的である。
 また、保健指導の方法や、個別の対象者に対する支援方法を学ぶような技能の習得するための研修には、ロールプレイやシミュレーションを取り入れることが効果的であるが、この場合、適切なモデルを選択する必要があり、研修の効果を評価することを通して適切なモデルを開発する必要がある。また、このような方法の教育においては、グループワークが基本になるが、グループのファシリテーターとなる者の教育も必要である。
 また、ケースメソッドを用いた研修の実施には、次の課題がある。
 1)ケースメソッドは"速やかに"という点が重要なため、その運営に際しては柔軟な思考を有し、かつケースで扱われる事項に関しては参加者を凌駕する知見を持ち、参加者の意見を適切に導き出すコーチ能力を持つ優秀な講師(インストラクター)が必須であること。
 2)日本の、あるいは日本語の地域保健領域のケース教材が、現段階では十分に蓄積されていないこと。
以上の課題を解決するには、既にケースメソッドについて実績のある国立保健医療科学院、あるいは関連領域の大学院等が拠点となって、ケース教材を作成し、講師を育成し、地域保健領域のケースメソッドを確立していく必要がある。
 現任教育の方法は、その獲得すべき能力により、適切な教育方法を選択する必要があり、国立保健医療科学院等の研究、研修を専門としている機関が効果的な教育方法の開発を行い、その方法論を地域保健従事者の資質の向上を担当している機関に提供していく必要がある。

(2)IT活用の基盤整備

 ITを活用した研修プログラムを開発することは重要な課題であるが、その前提の問題として、わが国は通信速度が遅いという実情にあり、早急に受信環境を整備することが必要である。
 また、地域保健従事者の職場において、インターネットが使用できるコンピューターの台数は少ない状況であるが、今後、その整備を図り、職務時間中にITを活用して情報収集等ができる雰囲気や環境づくりが必要である。
 このような整備が進むことで、都道府県や保健所が国立保健医療科学院の支援を受けて遠隔教育や健康情報の発信基地となること、また、市町村との双方向の情報交換が可能になることで、最近の情報に基づいた保健活動が展開されることになる。


トップへ
戻る