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第3章 少人数配置の現状と現任教育の課題

1 少人数配置の現状

 地域保健従事者の都道府県保健所及び市町村の配置状況を、平成12年度地域保健・老人保健事業報告からみると、表1、表2のように、保健師以外の職種は1人又は2人配置の少人数配置となっている。また市町村保健師について市町村の人口規模別に配置状況をみると、表3のように人口規模の小さい町村において、1人又は2人配置となっている。本章では、このような1人又は2人配置が大部分となっている職種、及び1人又は2人配置の市町村保健師の現任教育について、現状と問題点、課題を検討した。
 なお、政令市・特別区については保健所単位の配置状況は当該事業報告では把握できないが、都道府県保健所とほぼ同様の状況であると推察される。

表1 都道府県保健所別配置の状況
(保健所数)
  0人 1人 2人 3人以上
医師 10 300 108 42
歯科医師 416 41 1 2
管理栄養士・栄養士 18 215 138 89
保健師 0 1 0 459
助産師 446 12 1 1
看護師 445 14 0 1
歯科衛生士 339 107 13 1
理学療法士 442 15 3 0
作業療法士 438 19 3 0
精神保健福祉士 321 59 34 46
注)1:地域保健・老人保健事業報告による。
2:平成12年度末現在。
3:保健所総数 460

表2 市町村別配置の状況
(市町村数)
  0人 1人 2人 3人以上
医師 2,991 144 29 13
歯科医師 3,128 46 1 2
管理栄養士・栄養士 1,567 1,421 152 37
保健師 4 135 669 2,369
助産師 3,145 27 4 1
看護師 2,578 408 106 85
歯科衛生士 2,936 183 31 27
理学療法士 3,014 134 20 9
作業療法士 3,097 68 8 4
精神保健福祉士 3,147 18 8 4
注)1:地域保健・老人保健事業報告による。
2:平成12年度末現在。
3:市町村総数 3,177

表3 人口規模別、市町村保健師配置数別、市町村数(政令市・特別区を除く)

市町村
人口規模
市町村
総数
市町村保健師配置数
未設置 1人 5〜
8〜
13
14〜
26
27〜
39
40人
以上
2千人未満 169 2 73 85 9            
2千〜5千 530 1 36 314 137 35 7        
5千〜1万 844 1 20 216 353 177 75 2      
1万〜2万 703   6 51 218 202 214 12      
2万〜3万 265     3 26 52 158 26      
3万〜5万 262       5 15 138 103 1    
5万〜10万 228         4 59 137 28    
10万〜20万 120         1 5 41 71 2  
20万〜30万 35             5 23 5 2
30万〜40万 12               11   1
40万〜50万 7               1 4 2
50万以上 2               1   1
総数 3,177 4 135 669 748 486 656 326 136 11 6
注)1:地域保健・老人保健事業報告による。
2:平成12年度末現在。

 このように、地域保健従事者は、保健所保健師及び3人以上配置されている市町村保健師を除いて少人数配置となっており、そのため、地域保健従事者の資質の向上を図る方策については、職種ごとに、各職種の少人数配置の現状を踏まえ、検討を行う必要がある。
 また、少人数配置の中でも、保健師、管理栄養士等のように都道府県単位でみると人数の多い職種もあるが、歯科医師、理学療法士等のように都道府県単位でみても、少人数配置の職種がおり、これらを区別して検討する必要があり、特に、都道府県単位でみて、少人数配置の職種については、都道府県で研修体制を組むことは困難と考えられる。
 少人数配置の職種は、その職種が配属されていない行政機関においては、非常勤職員や保健師等の他の職種によってその業務が遂行されている。このため、資質の向上を検討する場合には、その職種だけについての研修体制を検討するだけではなく、その業務に従事している職員を対象とした研修体制を検討する必要がある。

2 少人数配置職員の現任教育の課題

(1) 全国レベルの研修の体系化

 少人数配置となっている職種の専門研修は、都道府県で実施しているものもあるが、多くは全国レベルの研修機関への派遣により行われている。現在、全国レベルで行われている研修は、国立保健医療科学院、国立精神保健研究所等の国の機関や結核予防会結核研究所等が主体となって実施しているものと、関係団体や各職能団体、大学等の教育機関が実施しているものがある。これらの機関はそれぞれの目的に沿って研修を企画・実施しており、連携がとられていないことから、地域保健従事者が専門能力を積み上げていくことが困難な状況になっている。
 このため、全国レベルで研修を実施している機関が相互に連携を図り、系統的な現任教育体制の検討を行うことが望まれる。

(2)都道府県単位の研修の体系化

 市町村単位では少人数配置ではあるが、都道府県単位では配置人数の多い保健師や管理栄養士等については、都道府県単位の研修を充実させる必要がある。特に専門研修については、市町村にとって身近な機関である保健所を研修実施機関として位置づけて体系化を図っていく必要がある。
 少人数配置の市町村に対する都道府県の支援策の例としては、特定町村人材確保対策事業費を活用し、市町村からの申し出に基づき、都道府県が人材確保支援計画を策定し、保健所保健師が市町村へ出向き保健事業の実施や多問題家族への訪問指導や事例検討を一緒に行う等の現任訓練や、保健事業の評価、市町村保健計画策定への支援等が挙げられる。個々の保健師の専門技術到達目標を立て、それに沿った指導及び評価を1年間通して行う等の支援を行っている都道府県もある。
 また、少人数配置の市町村を管内に有する保健所においては、研修担当保健師を指名して、市町村保健師に対する研修支援を行うことも考えられる。
 地域保健従事者が1人又は2人のような少人数配置となっている市町村においては、単一の市町村で研修体制を作ることは困難であり、また、市町村内のジョブローテーションが困難な場合においては、複数の市町村を単位とした広域で人事交流も含めた研修体制を構築していくことも、今後の検討課題といえる。

(3)研修対象の拡大

 少人数配置となっている歯科衛生士、理学療法士、作業療法士等の職種が研修を受講する機会は、保健師と比較するとかなり少ないという実態にあることから、これらの職種の研修受講の機会を確保する必要がある。
 理学療法士や作業療法士の現任教育として必要と考えられる研修内容は、「保健政策」「地域診断」「疫学」「科学的根拠に基づく施策能力」「事業計画の立案」「住民の声を施策化すること」であるが、これらは他の地域保健従事者と同様の研修であるので、既存の研修の対象者として、理学療法士、作業療法士が参加できるように対象職種を明らかにしておく等の配慮が必要である。
 また、歯科衛生士の配置は少ないが、歯科保健業務の重要性に鑑み、医師や保健師の研修において歯科保健の研修内容を組み込む、あるいは、保健師向け等の研修としているものであっても、その対象者に、歯科衛生士を明示することにより、研修の参加をしやすくする等の配慮が必要である。
 また、歯科医師は地域保健において、医師と同様の役割を担うことが望まれることから、医師を対象とする同様の研修を受講させることで、その資質の向上を図っていく必要がある。
 このように、地域保健従事者に共通する能力開発については、研修の受講の内容や対象者の範囲を広げることによって、少人数配置となっている職員の資質の向上の機会の確保が期待できることから、可能な範囲で、既存の研修の対象拡大等を図っていく必要がある。

(4)行政研修の必要性

 地域保健従事者は、その専門性に基づく業務の優先が通常求められること、また、少人数配置となっている職種は人事異動が一般的に困難であることから、行政的な能力を高める研修の受講やOJTとしてのジョブローテーションが行いにくい状況にある。
 医師、歯科医師は地域保健分野でリーダーシップを発揮することが求められていることから、特に行政運営に関する研修は必要である。また、1人配置となることが多い管理栄養士等の職種には、業務の範囲が幅広く、初任期から、予算執行事務、補助金申請事務等の行政職員として業務に従事することが求められることから、行政施策の立案手法や地方自治体の行財政の仕組み等に関する研修が必要である。
 少人数配置となっている職員については、中堅期以降に必要な事業評価や施策立案等の行政研修やプロジェクトチームへの参加、さらにはジョブローテーションも考慮に入れた行政能力を高める仕組みが必要である。

(5)ITを活用した研修開発

 少人数配置の職員は、職場を離れづらい状況にあることから、インターネットを利用した研修が実施されることが必要である。また、専門的知識の習得については、国レベル(ナショナルセンター)の研修機関や職能団体、大学等においてITを活用した研修が実施されることが望まれる。

(6)大学、研究機関との人事交流

 少人数配置となっている職員の専門性をより高めていくためには、大学等の教育機関や研究機関との双方向の人事交流による現任教育が効果的であることから、このような人事交流が可能となる仕組みを整備することが望まれる。


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