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はじめに

 急激な高齢化や少子化の進展、生活習慣病の増加等により、地域保健分野における疾病予防及び介護予防に関する保健活動の重要性が増してきている。また、国民の健康意識が高まる中で、生活の質の向上を含む健康に関する国民のニーズは複雑化、多様化してきている。
 このような中で、平成14年に健康増進法が成立し、国民の主体的な健康づくりを支援するための地域保健活動の強化が関係者等から期待されている。また、地域では住民の生活形態や社会情勢の変化に伴い家族機能の低下がみられ、児童虐待やひきこもり等の従来はあまり見られなかった心の健康問題が社会問題化しており、こうした新たな健康課題への対応が求められている。
 一方、医師及び歯科医師については臨床研修の必修化、保健師についてはその養成課程に係る養成所から大学教育への移行、管理栄養士については業務の明確化に伴うカリキュラムの改正等が行われる等、地域保健従事者の学校教育課程は順次強化されてきたところである。しかし、地域保健の現場では、新卒者の実践能力の低下や公衆衛生の視点の希薄化等の問題点が指摘されてきており、初任期に地域保健従事者としての基本的な姿勢を身につけるための現任教育が一層重要になってきている。
 また、地方自治体において、行財政改革や地方分権が推進される中で、住民ニーズに基づく、かつ地域特性を活かした効果的・効率的な健康政策の推進が求められている。さらに、保健・福祉の総合的な行政サービスの推進等、効率的な行政運営が求められており、地域保健従事者についても専門能力に加え行政能力を備えた人材育成が重要となってきている。
 地域保健従事者の資質の向上に関しては、国、都道府県、市町村、関係団体等において現在でもある程度行われてきており一定の成果が得られているが、新たな健康課題に対応するための専門的な実践能力や、地方分権時代にふさわしい幅広い行政能力を有した人材の育成が喫緊の課題となっており、このためには地域保健従事者一人一人の個別の人材育成計画を立て、系統立てた総合的な現任教育体制を構築することが必要となっている。
 人材育成の手段としての現任教育には、職場外研修、職場内研修、ジョブローテーション及び自己啓発が挙げられるが、資格を有する地域保健従事者にとって自己啓発に努めることは当然のことであることを前提とした上で、地方自治体において実施されている研修等の資質向上対策について実態調査を行い、これを踏まえ、特に初任者の現任教育を主軸として、研修体制、研修方法等のあり方を検討してきたものである。
 本検討会の主な検討課題は、以下のとおりである。
(1)地方自治体の地域保健従事者に必要な能力
(2)初任期の研修体制の課題
(3)少人数配置の地域保健従事者に対する現任教育体制
(4)効果的・効率的な人材育成を行うための現任教育体制及び研修方法
 本報告書は、各地方自治体において、地域保健従事者の資質向上の取組を推進する際に活用されることを期待して作成したものである。

 注: 本報告書における地域保健従事者とは、都道府県及び市町村の行政機関において地域保健・福祉部門に所属している医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、准看護師、管理栄養士、栄養士、歯科衛生士、理学療法士、作業療法士、精神保健福祉士等の対人保健サービスに従事する者を念頭に置いている。
 また、現任教育とは、養成機関、大学等で行われる基礎教育ではなく、地域保健業務に従事している者が業務を遂行するために必要な能力を開発するための教育を指している。


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