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「健康食品に係る制度のあり方に関する検討会ヒアリング申請書」

団体の名称日本生薬学会
代表者の氏名会長 吉田隆志 出席者 吉川雅之、二階堂 保
団体の概要(目的、組織構成、事業又は活動の内容)
(目的) 生薬学に関する学術の進歩及び普及をはかることを目的とする。(昭和22年発足)
(組織構成)
会員構成:正会員(個人、団体、学生)、賛助会員、名誉会員、永年会員から構成。
役員構成:会長、副会長、総務幹事、庶務幹事、財務幹事、北海道支部長、関東支部長、関西支部長、地区幹事(北海道、東北、関東、東海、近畿、中国四国、九州)、学会誌編集委員長、漢方薬・生薬研修委員会委員長、国際対応委員会委員長、データーベース委員会委員長。評議員(国公私立薬系大学から各1名および役員推薦評議員数名)
(主な事業)
 (1)学会誌「Natural Medicines」(年4回)発行
 (2)学術大会 年1回開催
 (3)役員会、評議員会、総会開催
 (4)論文賞、学術奨励賞、功労賞表彰
 (5)日韓中合同シンポジウム開催(2年に1回)
 (6)漢方薬・生薬認定薬剤師研修事業(薬剤師研修センターとの共催)
 (7)各支部主催の講演会、薬草見学会
 (8)その他、関連事業との共催、協賛

○ 健康食品に係わる制度のあり方に関する意見

(1) 国民の健康づくりにおける「健康食品」の役割をどう位置付けるか.「医薬品-現行制度に基づく保健機能食品-いわゆる健康食品-一般食品」の体系のあり方

 人類が薬を発見した経緯として,食物の中から効力のあるものが選び出されたと言われている.中国伝統医学などの東洋医学においては,未病治療すなわち病気予防を最高の医療と考えており,安全で長期連用に耐える食品的要素の強い生薬を最も重要な薬として上薬(上品)に分類している.食品的な生薬による健康維持(食養)や病気治療の促進(食療)が推奨されるなど,薬食同源(医食同源)の考え方は,東洋医学の根幹を成している.実際,第十四改正日本薬局方に収載されている重要生薬の中には食用にされるものも数多く認められ,漢方処方薬や生薬製剤などに医薬品として配剤されるとともに,現状の食薬区分では「健康食品」の原料としても広く利用されている.
 東洋医学的な考え方からは,「健康食品」による健康維持や病気予防は無理なく受け入れられることや,一般国民にとっては生薬と食品の区別が不明瞭なこともあって,「健康食品」が発展する基盤となっている.
 一方,漢方処方薬や日本民間薬,生薬製剤などの一般用医薬品と医薬部外品は,薬事法にのっとり製造,管理,販売されており,軽度な疾患や生活習慣病,アレルギー等の予防,治療をはじめ,健康維持や増進に繁用されてきた.一般用医薬品や医薬部外品が機能を十分に発揮している限りにおいては,「健康食品」の存在理由は無いように思われる.しかしながら,医薬品の副作用や医療ミス等が喧伝された結果,図らずも医薬品や医療システムに対する不信感が一部国民に生じたことは否めない.また,一般用医薬品や医薬部外品が国民の健康への意識やニーズに対して,薬事法の制約から十分な対応ができなかったこともあって,「健康食品」が広く認知されるようになったと思われる.
 今日では,国民の約40%が「健康食品」を利用したことがあり,その市場は1兆円に達すると言われている.国民が健康維持や病気予防に対する医薬品が不十分と感じ,セルフメディケーションの選択肢の一つとして「健康食品」を選ぶ限りにおいて,その存在を認めざるを得ない.
 現行の「保健機能食品」の制度は,審査が厳しく医薬品に準ずる要求があると聞くが,厳しい審査は当然のことと理解できる.しかし,健康食品関連の企業には,ベンチャーをはじめ中小企業が多くあり,高額な研究費が必要な要求に対する対応が困難と考えられる.一方,「健康食品」は一般食品に分類されているため,安全性や品質管理,有用性についての規制が不十分になっている.このままでは,真面目に取り組む企業の芽を潰して,「健康食品」をすべていい加減なものにする恐れがあると思われる.  「健康食品」を保健機能食品(特に特定保健用食品)と一般食品の中間的な位置付けをして,安全性,品質,服食基準,有用性の表現について,相応した規制を加えることが必要と判断される.「健康食品」としての枠組みを設け,薬剤師など実際にこれを取り扱う者に充分な情報を伝え,責任をもって消費者に説明,販売できる体制を構築されることを希望する.
(2) 健康食品の利用・製造・流通の実態は国民の健康づくりに有効に機能しているか.「健康食品」の安全性・有用性の確保,消費者に対する適切な情報提供,利用者の期待に応える「健康食品」はどうあるべきか.

 情報化時代の今日,食品と健康に関する多種多様な情報がマスメディアを通して世間に氾濫している.しかし,これらの情報は玉石混淆とも言え,不正確で有害とも言える意図的な虚報も多く認められる.これまで医師や薬剤師などの医療関係者の多くは,「健康食品」は科学的根拠に欠ける怪しげなものというイメージがあって,積極的な関わりを避けており,消費者への正確な情報の提供者になっていなかった.極一部ではあるが,薬局経営の面から倫理観に欠けた物販が行われていた場合や,データ的裏付けを持たず,思い込みの中で販売している場合もあると聞いている.しかし,薬局や薬店で販売される「健康食品」の割合は少なく,その多くは通信販売や訪問販売,個人輸入といったルートで流通しており,ネズミ講的なものまで存在する.これらのルートでは,情報提供をはじめ,健康食品の品質や安全性については,非常に多くの問題を含んでおり,トラブルも数多く発生していると聞いている.現状では,消費者は個人的な使用経験に基づいて「健康食品」を選択せざるを得ない状態になっている.特に外国からの健康食品の成分,効能のチェック機構,情報公開の方法の整備が急務であり,消費者に対する適切な情報提供は,販売個所を特定する(薬剤師等が関与する体制の整備)ことにより改善されると思われる.
 「健康食品」の製造については,製薬大企業や生薬を取り扱う企業は,自社の医薬品イメージへの悪影響を恐れて,関与を手控えているように思われる.健康食品を取り扱う企業の多くに,生薬の知識や取り扱い,製造管理が十分でない場合も認められ,劣悪な商品による売り逃げやサギ紛いのものや,バイブル商法などもあると聞いている.意味は違うが,「悪貨は良貨を駆逐する」というように,安全性や品質のきちんとした良い「健康食品」は,いい加減なものに駆逐されている場合が多いように思われる.
 「健康食品」の利用・製造・流通の現状は,国民の健康づくりに有効に機能しているとは思えず,消費者が使用した費用にあう成果は得られていないように思われる.
 健康食品の製造・販売には,倫理観と生薬学などの薬学をはじめ,医学,食品学および栄養学などについて正確な知識が必要であることから,国家試験等によって資格を与えられた者に限定すべきと思われる.(1)で述べたように,「健康食品」を一般食品から独立させ,安全性や品質,有用性について規定するとともに,資格ある者によって製造,流通,販売されることが肝要と思われる.国民の健康に関する限り,規制緩和はあり得ないように思われる.
(3) (1)および(2)を踏まえ,行政,関係業界,消費者の果たすべき役割:制度はどうあるべきか.

 行政は速やかに特定保健用食品と一般食品との中間的な位置に「健康食品」について新しい基準を設けるとともに,薬剤師などの有資格のみに健康食品の製造や販売を許可すべきと思われる.新しく資格を取得する希望者のために,大学や学会の協力のもとに教育システムを構築する必要がある.生薬学会としては,これまでに,あるいはこれから構築しつつある生薬・健康食品に関する科学的蓄積を社会に貢献できるかたちで生かしていきたいと考えている.
 一方,一般用医薬品や医薬部外品について,国民のニーズに近づける必要がある.現在の医薬品行政の中では,生薬抽出エキスなどの混合物が新たな医薬品として審査を通ることは現実問題として不可能と言える.ヨーロッパで医薬品として利用され,食経験も無い西洋ハーブが,日本では健康食品として販売されている.これは企業の努力不足もさりながら,この種のエキス剤の医薬品としての開発の途が,法的(医薬品の単品主義)に閉ざされているなど行政側にも問題があると言わざるを得ない.かつて,漢方処方薬が医薬品として認可されたように,柔軟な対応が期待される.しかし,個人輸入による商品販売(口コミ,マルチ商法等)に対しては厳しい行政指導が必要と思われる.例えば,中国における健康食品(中成薬)の許可は,日本と比べて厳密性に欠けると言われており、これらによる問題への対応が中国の行政機関で充分なされているとは言えない.中国製の健康食品が問題を起こすと,中国からの薬品=漢方薬といった誤ったイメージが一般に広まり,本来の漢方医学,漢方薬のイメージダウンにつながることが危惧される.消費者への啓蒙,販売者,方法の指導,規制(何らかの形で薬剤師の関与があるべき),違反者に対する罰則の周知徹底が必要と判断する.
 また,「健康食品」の安全性や有用性に関して、産官学の協力のもとに大規模研究を推進させ,得られた知見を消費者に提供すべきである.消費者は「健康食品」によるトラブルが発生した場合,速やかに医療機関,保健所や消費者センターに報告する必要がある.薬局や病院などの医療機関が中心となって,正しい情報を消費者に提供できるシステムの構築が必要と思われる.


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