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健康食品に係る制度のあり方に関する検討会ヒアリング申請書

団体の名称:日本栄養・食糧学会
代表者:野口忠
団体の概要:
(目的)
 栄養科学並びに食糧科学に関する学理および応用の研究についての発表、知識の交換、情報の提供を行うことにより、栄養科学、食糧科学の進歩普及を図り、もってわが国における学術の発展と国民の健康増進に寄与することを目的とする。

(組織構成)
 正会員(3789名)、学生会員(791名)、名誉会員(22名)、終身会員(121名)、団体会員(238件)、賛助会員(69件)

(会員数は平成15年3月31日現在)

(事業又は活動の内容)

  • 学術集会等の開催
  • 機関誌、資料等の刊行
  • 研究の奨励および研究業績の表彰
  • 栄養・食糧科学に関する研究および調査
  • 国内外の関係学術団体との連絡および提携
  • その他この法人の目的を達成するために必要な事業

健康食品のあり方に関する意見内容

(1) 現在、国民の健康維持増進を標榜する食品には、現行制度に基づく保健機能食品として個別に許可を受けた特定保健用食品と規格基準型の栄養機能食品がある。その他にいわゆる健康食品があり、これは一般食品に含まれ何ら特別の認可を受けていないものである。
 これらの健康に関わる食品は、認可・非認可を問わず、いずれも、健康人を対象にして、生活習慣病などの疾病のリスクの軽減や生活の質を高めることを目指すものであり、疾病の治療のために用いられる医薬品とは本質的に異なるものである。特定保健用食品、栄養機能食品や健康食品が疾病を治療するものではないことをまず明確にしておく必要がある。
 いわゆる病人ではない健康人に対して健康を維持増進する目的の食品は、その有用性の厳密な検定が困難であることは否めない。疾病には患者が存在しその治癒効果を検定することは可能である。しかし、健康人の疾病リスクの軽減やより質の高い生活を実現する目的に対する実効性を確実に実証することは極めて困難であり、そのような現実的な方法は存在しないと言える。
 しかしながら、健康の維持や質の高い生活の実現に対する国民の願いは切実であり、健康に資することをイメージさせる多数の食品群に対する国民の期待は極めて高いのが現実である。病気になる前に自ら努力したいという意志の現れとして無視はできない。例えばマスメディアには、連日様々な食品の紹介がなされ、しかも非常な興味を持って受け止められている。
 特定保健用食品、栄養機能食品は、そのような国民の要望に応えるべく、ある程度の基準でいわゆる予防的効果が明らかになったことを認定されたものである。厳密な実証が困難な問題ではあるが、現実的に可能な程度の学術的根拠と安全性の検討結果を有するものとして一定の意義を有するものといえる。
 一方、いわゆる健康食品の中には、特定保健用食品ほどの大がかりな検討、例えば健康なボランティアーを用いた有効性の検討などはなされてはいないものの、一応の安全性試験と細胞や実験動物などを用いた有効性に関わる学術的検討が行われてお り、しかも長年の食経験を有する食品がある。一方で何ら安全性や学術的なレベルで有効性の検討が行われていないもの、ならびに製造者がその意志すらないものなども現実に存在する。今日の、健康食品に関する信頼性に関わる多くの問題は、この区分があまりにも多様なレベルの食品を含んでいることに起因していると考えざるを得ない。
 さらに、近年問題となった、輸入健康食品に医薬品が混入していた事件に関しては、食品の信頼性を著しく損なう結果となったが、医薬品を混入させるという健康食品の本質とはかけ離れた問題であり、これを健康食品の信頼性に結びつけて考えることは適当ではないと思われる。
 これらの現状を整理すると、特定保健用食品は信頼に足るものとして意義を有し、さらに、学術的情報や食経験と一応の定められた安全性試験をパスしたいわゆる健康食品については、それ以外のものと峻別するためにも新たな区分の食品として特定保健用食品に準ずる区分をもうけるべきと考える。それ以外の、何ら誠実な学術的検討や安全性の検討を行わないものは、健康に資する意義を有さないものとして対処すべきと考える。栄養機能食品については見直しの必要性があるが、この点については後述する。
(2) 先に述べたとおり、健康に関わる上記の食品においては、健康人の疾病リスクの軽減やより質の高い生活を実現する目的に対する実効性を確実に実証することは極めて困難であり、そのような現実的な方法は存在しない。しかしながら、食体験を有することである程度の安全性は担保されている場合が多い。従って速やかで確実な有用性を確保すべき医薬品とは全く異なるとらえ方をすべきである。この点は欧米の食の動向と比較しても矛盾する考え方ではない。
 食品では、医薬品のようにすべての人間に有意かつすみやかで顕著な効果を示すことはあり得ない。むしろ、そのような鋭い効果があれば、当然副作用の有無、適正な投与量の厳密な検討が必須となる。しかし、健康を維持するための食品では、目的の性質上、速やかで顕著な効果は通常望むべくもない代わりに、長年の食経験から厳密な投与量の設定や有効成分含量の厳密な表示などはいずれも必ずしも緊急かつ必須の問題ではない場合が多いことが明らかである。
 ただし、万一、当該食品の摂取において不測の事故が発生した場合は、速やかに適正な処置がなされるべきことは言うまでもない。
 なお、「医薬部外品」の中には、その成分内容、期待される機能などから見て、食品(保健機能食品あるいは栄養機能食品を含む)に相当するものがあって混乱が見られる。これらの医薬部外品は見直して、食品に関わる区分へ移行させるべきである。現行の栄養機能食品も食品として一元化する方が妥当であり同様の見直しが望まれ る。現行の栄養機能食品は規格基準型であるため、規格に該当する栄養素の中に規格とは無関係の物質を添加し、あたかもその添加物が栄養機能食品の認可を受けたように宣伝するものも見られる。医薬部外品とともに一元化された食品区分への移行によってそのような混乱が排除されると思われる。
 消費者への適正な情報提供は、この問題の最も重要な点である。すでに述べたように、国民の多くは、健康に資する可能性のある食品の摂取を切望している。特定保健用食品や上記の(1)の最後で提案した「特定保健用食品に準ずる学術的根拠のある新しい食品区分」については、例えば健常人ボランティアーを用いた試験を省略するなどの、特定保健用食品に比較して緩やかで簡素化された個別審査が妥当と考える。名称としては、例えば、国民に浸透しかつ意味が理解しやすい「機能性食品」などの呼称が許されていいものと思われる。表示にあたっては、科学的根拠に基づいた、特定保健用食品に近い内容の表現が許されるべきであり、その範囲で詳細かつ誠実に期待される有効性を呈示すべきものと考える。しかし、何ら、学術的根拠のない、認可されていない食品については、これまでよりも厳しく対応すべきであると考える。また、「機能性食品」として提案した基準については、消費者の理解を深めるために、認可の基準や医薬品との違いなどについて積極的に啓蒙すべきと考える。健康に不安を抱える消費者の要求に答え、無用な混乱を避けるためには、このような区分けと情報提供が最も現実的であると思われる。
 有用性の追跡調査などについては厳密な検定が容易ではないことは繰り返し述べたが、認可されている栄養機能食品、保健機能食品については、国民の健康状況の変化、学術の進歩による新事実の発見、当該食品の利用実績(販売実績)の推移などを考慮して、その表示内容を定期的に見直すよう法整備を行うべきである。また、許可品目、許可された表示内容、国民の健康保持・増進に及ぼした効果などについて、第3者機関などに評価を求める必要性が必要である。
 健康は、食品のみで達成される問題ではない。適度の運動や休息も明確に区別できない形で関与する。健康食品の摂取が健康への唯一の手段であるとも考えられない。したがって、行政の側に望まれるのは、健康に関わる食品の問題については、当該食品の有用性の可能性や表示の妥当性を保証するにとどめ、食経験の長いものについては、認可後は、消費者の選択、良識に任せることが現実的な対応である。一方で、消費者が合理的な選択を行うために、消費者に対して健康的な生活全般を含めた啓蒙に努めることは重要であろう。
(3) 行政、関係業界、消費者の果たすべき役割はすでに上記の項目に含まれているが、最も重要なことは、消費者が医薬品とは異なる次元で生活の質を高め健康を維持増進させることを切望しているという事実を行政が受け止め、関係業界は、誠実に食品の学術的根拠の強化と消費者が求める透明性のある情報の公開に努め、消費者においては正しい判断を行うための積極的な努力を行うことであろうと考える。この目的のために、特定保健用食品は現行制度として特に問題ではなく、審査基準も特段変更される必要性を認めない。新たに「機能性食品」のジャンルが追加されたとしても、特定保健用食品は最も厳しい審査をパスしたものとして、生産者が消費者に訴えられるメリットは維持されよう。消費者も、より機能性の保証が高いものとして選択の助けになると思われる。重要なのは、最も混乱の著しいいわゆる雑多な健康食品の分野を学術的根拠の有無を基準に明確に区分することであることを重ねて訴えたい。この趣旨を生かすためには関連の学会等においても、消費者の健康維持に対する科学的な啓蒙の活動が重要であり、生産・販売者側の養成するスタッフとは独立した、消費者側に立った第三者的としての判断のできる広範な知識を有するアドバーザリースタッフの養成・認定が必要となろう。
 このような方向によって、現状の健康食品に関する混乱の是正と消費者の信頼性回復によって、健全な健康食品が育成されることを切望する。


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