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1.はじめに

 児童虐待への対応については、「児童虐待の防止等に関する法律」(施行:平成12年11月20日。以下「児童虐待防止法」という。)の施行以来、広く国民一般の理解の向上や関係者の意識の高まりが見られ、また、この間、様々な施策の推進が図られている。
 しかし、全国の児童相談所に寄せられる虐待の相談処理件数も、ここ数年の間に急増し、平成13年度においては、児童虐待防止法が施行される直前の平成11年度の約2倍となる約2万3千件にも上っている。
 また、児童相談所の職権による一時保護や、保護者の意に反する児童福祉施設への入所措置を家庭裁判所に申し立てる件数の増加など質的にも困難なケ−スが増加している。児童養護施設に入所する子どももここ数年増加し、虐待を受けた子どもの入所も増加している。
 このような状況にあって、児童虐待対応の中核機関である児童相談所や虐待を受けた子どもを受け入れている児童福祉施設をはじめとする関係機関においては、様々な取り組みを行っているものの、十分には対応し切れていないなど、大変厳しい現状におかれており、児童虐待への対応は、早急に取り組むべき社会全体の課題である。
 また、「児童虐待防止法」の附則においては、「児童虐待の防止等のための制度については、この法律の施行後3年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする」と規定されている。
 こうしたことから、本専門委員会においては、下記「2.児童虐待防止制度見直しの基本的な視点」の考え方に立ち、児童虐待に関する現行制度の実施状況等を踏まえた制度全般にわたる検討を加えた。
 具体的な検討を進めるに当たっては、児童虐待への対応は、一般的には、(1)発生予防(2)早期発見・早期対応(3)保護・支援の3段階に整理されることから、各段階ごとに3つの検討チ−ムに分かれての集中的な議論を進め、これらの検討チ−ムにおける9回の会合を含め、14回にわたる検討を重ね、今般、当面早急に取り組むべき課題を中心に、その取り組みの具体的な方向性について取りまとめたものである。

2.児童虐待防止制度見直しの基本的な視点

 虐待は子どもに対する重大な権利侵害であり、その防止に向けては社会全体で取り組むべき課題である、との認識に立つ必要がある。そして、その取り組みを推進するに当たっては、常に「子どもの最善の利益」への配慮を基本理念として、児童虐待を予防し、発見から再発防止、さらには社会的自立に至るまでの総合的な支援の手を親子に対して用意することが必要である。
 それは、虐待を受けた子どもの保護や支援の充実に加え、保護者に対する支援を通じ、家族の再統合や家族の養育機能の再生・強化を視野に入れたものである必要がある。そして、そのことは、専門機関・施設のみならず、地域の幅広い支援ネットワ−クによって初めて実現するのである。
 児童虐待という親子間の最も深刻な事象に対応できる社会を創りあげていくことが、すべての子どもと子育てにやさしい社会づくりにつながるとの視点を持つことが必要である。

3.具体的な取り組みの方向性

 本専門委員会における児童虐待防止制度の見直しの検討に当たっては、別添に示したような幅広い論点事項について、議論、検討を重ね、以下のように整理した。
 なお、以下の整理においては、取り組みの各項目ごとの基本的な考え方となるべき「取り組みの方向性」を示すとともに、「取り組みの方向性」に沿った取り組みを具体的に進めるに当たっての参考となる主な意見について、本専門委員会全体としては、必ずしも意見の一致を見ていない意見も含め、「具体的な取り組みに関する意見・提案」として整理した。また、今後、中長期的な対応も視野に、さらに時間をかけて検討すべきと考えられる課題については「今後の課題」として整理した。
 さらに、本委員会で出された様々な意見については、別添「児童虐待防止対策における論点事項に係る意見及び具体的施策等について」において、できる限り、網羅的に整理した。

 
I.発生予防における取り組み

 虐待は、その後の子どもの発育障害や発達遅滞、情緒面や行動面の問題、さらには虐待の世代間連鎖などを引き起こすこともあると言われており、子どもの一生涯、さらには世代を超えて大きな影を落とすものである。
 また、いったん特段に援助が必要な状態にまで至ってしまうと、その改善は容易ではなく、相当手厚い支援を必要とすることになる。
 こうしたことを考えれば、保健事業の充実や子育て支援対策の充実など保健や医療、福祉等の連携による取り組み、さらにはNPO等民間団体等との協力を通じて、できる限り、虐待の発生を未然に予防することが極めて重要である。
 このため、一般的な子育て支援の充実により、幅広く支援を望む人に対応していくとともに、保健師等による専門的な支援については、より効果的に虐待を未然に防止していく観点から、これまでの「支援を望む人に幅広く」から「支援を必要とする人によりきめ細かく」という考え方に転換し、支援の重点化を図っていくことが必要である。

  (1)一般の子育て支援の充実

【取り組みの方向性】
 日常的な育児相談や診療、学校教育、家庭等の様々な場面において、子育て支援の取り組みを充実することにより、育児負担の軽減を図り、養育者の孤立化を防ぐことが虐待を未然に防止していく下支えとなる取り組みとして重要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
子育て支援サ−ビスに関する情報の周知や育児支援機関の連携の強化により、産後間もない時期から地域全体で支えていく一般子育て支援の充実が重要である。
産後のマタニティ−ブル−ズ等のうつ状態への対処法などについて、母子健康手帳交付時や母親学級、プレネイタルビジット(出産前小児保健指導)等の機会を利用し、適切な情報を提供していくことが必要である。
子育てOB(経験者)などのボランティアによる育児支援とそうした支援活動を専門的にバックアップするため、保育所や児童養護施設の機能を活用することを検討することが必要である。/TD>

【今後の課題】
男性の働き方の見直しや子育ては楽しいと思える希望を持てる教育の充実など、社会全体で子育てを応援していくという意識・文化を醸成していくことが必要である。

(2)虐待リスクのある家庭の把握

【取り組みの方向性】
 養育者が精神的にも肉体的にも最も支援を必要とする出産後間もない時期を中心に、母子保健事業や日常診療等の強化を図り、自ら訴え出ないが、実際には過重な育児負担のある養育者が確実に支援と出会えるように積極的なアプロ−チを図ることが必要である。
 また、限られた社会資源の中で様々な要因をもつ虐待リスクのある家庭(育児困難家庭)が効果的な支援に出会うためには、虐待リスクのある家庭を的確に把握していくことが重要であり、そのため、リスク要因が明確に把握できるアセスメント(評価・判断)指標の開発が重要である。
 なお、虐待リスクのある家庭を把握していくにあたっては、育児困難家庭が必ずしも虐待につながるわけではない、という当然のことを十分に認識した上で取り組みを行っていくような配慮が必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
乳幼児健診等の従来の母子保健事業の中で虐待発生予防の視点を強化し、必要な支援が必要な時に提供できるような体制整備が必要である。
育児困難度が高いと考えられる家庭は、そうでない家庭に比して相対的に虐待のリスクを抱えているという考え方があることを踏まえ、限られた資源の中で効率的な発生予防の活動を行っていくには、アセスメント指標等を用いて、ある程度リスク因子を明確にしていくことが必要である。
養育者が精神的にも肉体的にも最も支援を必要とする出産後間もない時期を中心に、家庭訪問等の積極的なアプロ−チを図るとともに、乳幼児健診未受診者等、自ら訴え出ない様々な背景要因をもつ養育者に対してもアプロ−チしていくことにより、虐待リスクを早期に把握し、必要な支援につなげていくことが必要である。
また、保健師等がそうした支援活動を行いやすいよう、その根拠を明確にすることも必要である。
小児科等において、母子健康手帳を活用した育児に関する悩み相談を行うなど、虐待予防を念頭においたさらなる取り組みが重要である。

(3)虐待リスクのある家庭のリスク低減

【取り組みの方向性】
 虐待のリスクを低減していくためには、リスクの内容や程度を適切にアセスメント(評価・判断)する指標を確立し、支援の方向性を的確に判断することが必要である。
 また、保健師などの虐待発生予防に係る専門職種の資質の向上を図るとともに、市町村の相談機能の強化、虐待予防に資する子育て支援サ−ビスメニュ−の充実によるリスクの低減、グル−プワ−ク等による養育者の孤立を防ぐための専門的な支援等が重要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
市町村における子育てや虐待に関する相談機能の強化が必要である。
保健所は、市町村の対応事例で処遇困難な者やネットワ−ク会議におけるコ−ディネ−ト機能などにおいて市町村を積極的に支援する体制をとるとともに、未熟児・精神保健相談等ですでに関わっている虐待リスクのある家庭に対しては、関係機関の協力のもとに主体的に関与することが必要である。
地域子育て支援センタ−や子育てのOB、産褥ヘルパ−、ショ−トステイ、グル−プワ−クの活用など虐待リスクのある家庭を支えるサ−ビス等(補償因子)を強化することが必要である。
虐待リスクのある家庭の様々な背景や程度をアセスメント指標等を用いて専門的に判断し、リスク低減へ向けて濃厚な家庭訪問を行う等有効なサ−ビスを確実に提供することが必要である。
保健師、助産師、看護師、保育士等の虐待の発生予防に関わる専門職の研修による資質の向上が必要である。
自ら訴え出ないが、子どもにとって問題があり、支援が必要である家庭に対する支援の充実が必要である。

【今後の課題】
精神医療の取り組みにおいて、子どもと養育者とをともにみていくなど家族全体に関わるという視点を持つとともに、必要に応じ、保健や福祉の関係機関につなげていくなどの予防的アプロ−チの充実を図ることが重要である。

(4)連携による支援体制の確保

【取り組みの方向性】
 地域の実情に応じた支援体制の強化をはかるためには、関係機関それぞれの役割を明確化し、さらなる取り組みを促すとともに、民間の相談機関も含めた機動力のある連携体制を組むことが必要である。
 その際、特に住民に最も身近な市町村においては、子どもに関する一義的な相談に積極的に関わるなど、虐待の予防についての役割を強化することが必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
住民に最も身近な市町村において、子どもに関する相談を積極的に実施することが必要である。
市町村における虐待防止ネットワ−ク体制をさらに充実し、発生予防の機能を強化するとともに、柔軟で機動力のある地域ネットワ−クとの連携を推進することが必要である。
NPOなどの民間機関等との連携の強化を図り、ネットワ−ク間での情報の共有化をスム−ズに行うことができる体制を整備することにより、虐待への対応力を強化するとともに、ケ−ス対応の進行管理等を行う支援体制の強化も必要である。
NPOなどの民間機関等の取り組みに対する専門家によるバックアップ体制の構築などの支援、連携を強化することが必要である。
ファミリ−サポ−トセンタ−、地域子育て支援センタ−、児童家庭支援センタ−、保育所、男女共同参画センタ−等、既存の子育て相談機関等との情報の共有化等、地域における支援体制の構築を図ることが必要である。

【今後の課題】
地域の小児科医等における虐待予防の視点をさらに普及していくため、情報デ−タバンクの構築やス−パ−バイザ−の育成等地域に拠点を設けてバックアップ体制を強化することが必要である。

(5)虐待を認めない社会づくり

【取り組みの方向性】
 虐待を認めない社会づくりの基本として、子どもの人権尊重に対する理念の明確化や虐待を予防するための取り組みの必要性について、広く国民に周知することが必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
子どもの人権擁護の理念など子どもの人権尊重に対する理念の明確化が必要である。
教育の場における虐待防止に向けた積極的な取り組み、例えば、CAPプログラム(子どもへの暴力防止プログラム)などの子ども自身の自己防衛能力や自信を獲得していけるような実践的な教育の推進などが必要である。
ペアレンティング(親業、親になること)に関する体験的な学びの機会を学校教育を中心に積極的に推進することが必要である。

 
II.早期発見・早期対応における取り組み

 虐待の早期発見・早期対応をさらに進めていくためには、その中心的機関で ある児童相談所の現行の体制には限界がある。
 このため、今後、児童相談所の業務の一部を市町村や他の機関に委譲することや、より幅広い専門職種との連携強化、児童相談所の虐待対応に関する対応力の強化を図るため、司法関与の仕組みについても検討するなど、児童相談所全体のあり方を見直すとともに、それに応じた体制の確保を図っていくことが必要である。
 さらに、児童相談所の支援を受けつつ関係機関が一体となって取り組む体制として、市町村の果たすべき役割を明確化するとともに、市町村における虐待防止ネットワ−クの設置の一層の推進を図ることが必要である。

  (1)対応機関の機能、システム

【取り組みの方向性】
 虐待相談件数や緊急事例の急増等により、児童相談所においては、現行制度上、担うこととされている幅広い相談業務の全てに必ずしも対応しきれていない状況にあることを踏まえ、例えば、一部の業務を他の機関に委譲し、児童相談所の業務の重点化を図るなど児童相談所のあり方等について見直しを検討することが必要である。
 また、児童相談所の機能の強化を図るため、必要な職員の確保と専門性の向上、医師、保健師・助産師・看護師や弁護士等の幅広い専門職種との連携強化を図るとともに、一時保護のあり方についても検討することが必要である。
 さらに、早期発見・早期対応における地域の機関、住民の果たす役割は大きいことから、福祉事務所に設置されている家庭児童相談室や児童委員、とりわけ主任児童委員等を地域の福祉の核として、積極的に活用を図ることが必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
虐待対応の緊急性を踏まえ24時間・365日対応が望ましいが、現時点においては地域の実情に応じた体制を整備することが必要である。
一時保護所における混合処遇(被虐待、非行、不登校、障害児など)の改善や治療的関わりの強化、教育の充実が必要である。
児童相談所における相談業務のうち、障害相談、健全育成相談などは市町村や他機関での役割分担が考えうる。
児童の診察、指導、親指導、職員へのス−パ−ビジョン等を強化する観点から、児童相談所における医療機能を充実することが必要である。
児童相談所の相談業務における対応の強化、とりわけ家族再統合や家族の養育機能の再生・強化に向けた保護者支援の取り組みや里親支援の強化などを図るため、ス−パ−バイズ機能の強化や職員の増員が必要である。
従来、障害の判定業務が中心であった心理判定員業務について、虐待等新たなニ−ズに対応した見直しが必要である。
子どもの虹情報研修センタ−等における実践研修の実施、専門相談等の充実やソ−シャルワ−クにおける介入的技法の確立と普及が必要である。
地方分権の観点から指摘されている「児童相談所、児童福祉司の必置規制の撤廃」については、虐待対応等における児童相談所の有する権限発動の役割や職員の質の確保等の観点から、慎重に検討することが必要である。
現在、都道府県および指定都市に設置権限が認められている児童相談所について、中核市においても設置可能とすることについては、数が増え、住民の身近になるというメリットと、職員の専門性の確保が可能か、保護児童の入所措置にかかる広域調整が可能かといった課題も踏まえ、検討することが必要である。
一時保護所以外の多様な保護の場の設置などシェルタ−機能の強化とシェルタ−機関を支援する体制の整備が必要である。
児童相談所職員の専門性の確保のため、地方自治体における福祉専門職の採用や専門職の中途採用、希望任用や人事ロ−テ−ションなど人事管理のあり方の見直しが必要である。
病院、診療所の場において、とりわけ救急センターや夜間の外来は、虐待リスクのある家庭に出会う確率が高いことを踏まえ、救急を含めた小児医療の取り組みの中に虐待防止や早期対応のノウハウを盛り込むなど、児童虐待を念頭においた診療を充実することが必要である。
家庭児童相談室については、今後、地域における相談支援サービスの中核的な役割を担うことが期待される。このため、都道府県設置の郡部福祉事務所に置かれている家庭児童相談室の位置付けを含め、そのあり方について、地域保健等との連携といった観点からも、検討することが必要である。
福祉事務所に設置されている家庭児童相談室の家庭相談員の常勤化を促進することが必要である。
現行制度上、地区担当の児童委員の活動に対する援助や協力、連絡調整を行うこととされている主任児童委員が、児童虐待防止に関する活動を単独で行うことができるようにするなど、主任児童委員を積極的に活用できる仕組みを検討することが必要である。

(2) 虐待の早期発見・通告・早期対応のシステム(自治体とNPO、民間団体との連携等)

【取り組みの方向性】
 児童相談所のあり方と併せ、市町村の役割を検討することが必要である。その際、市町村が子育て支援に果たす役割、市町村保健センタ−等における保健事業の実績等も考えあわせ、より積極的に役割を強化する方向で検討することが必要である。併せて、保健所と市町村保健センタ−等における役割分担についても検討することが必要である。
 とりわけ市町村におけるネットワ−クは、児童虐待の発生予防から自立に至るまで大きな役割を果たしうることから、引き続きその設置を促進することが必要である。
 さらに、民間団体との連携強化を図ることも必要であるが、連携を進めるに当たっては、守秘義務の扱いについて留意しつつ、民間団体の機能を過度に制約することのないよう、公的機関とは異なる配慮が必要である。

 なお、児童相談所のあり方や市町村の役割などについては、「児童部会」本体において児童相談所全体のあり方を見直す中で、当専門委員会が指摘した諸点を十分に踏まえ、さらに検討を深めることが必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
市町村ネットワ−クの設置促進が重要である。なお、民間団体も含めた幅広い関係機関の連携を強化するに当たっては、その関係者が基本的認識を一つにした上で組織的に対応できるよう市町村におけるコ−ディネ−ト機能を明確化することが重要である。
児童家庭支援センタ−など地域支援の拠点を拡充することが必要である。
在宅指導における学校との連携体制を構築することが必要である。
例えば、相談への動機がある場合は市町村で、問題意識がなく、強権的な介入が必要な場合は児童相談所が担うなどといった、児童相談所と市町村との役割分担の整理を検討することが必要である。
児童相談所における児童虐待対応業務のIT化のモデル実施状況を踏まえ、さらなる活用策を検討することが必要である。
子ども、親、家族への効果的な支援プランを作成し、実施するために必要な心理的、社会的アセスメント手法の確立に向けた研究及び実践を推進することが必要である。
民間団体の果たす役割や自治体との連携、民間団体の育成や支援のあり方について検討することが必要である。
通告義務の対象である「児童虐待を受けた児童」については、「児童虐待を受けているおそれのある児童」を含めて対応することが適当であり、その旨の明確化を検討することも視野に入れつつ、広く柔軟に解釈して運用することが適当である。
虐待の通告に関する免責及び罰則規定の整備の必要性や是非について、検討することが必要である。
虐待の通告のネックになっている原因等を明らかにし、通告が促進されるような環境を整備していくことも必要である。
複数の機関による継続的な家族支援を行うことになることから、援助に関する規定の整備に当たっては、虐待防止の観点のみならず、守秘義務、個人情報の保護との関係などにも留意しながら検討することが必要である。

(3)児童相談所の行政権限、裁判所の関与

【取り組みの方向性】
○立入調査
 立入調査については、立入を拒否された場合の打開策がないという課題認識を前提としつつ、要件を設定しうるのか、誰が執行するのか、現実的に対処できるかといった問題点等を踏まえ、有効な手だてについて、引き続き、検討が必要である。

○一時保護
 一時保護制度が緊急性がある場合に発動する行政権限であることを踏まえ、人権に十分配慮して、現行制度の運用を図ることとし、制度運営に対する司法関与については、引き続き、検討が必要である。

○保護者の意に反する施設入所等の措置(児童福祉法第28条措置)
 現行制度上、無期限措置となっている家庭裁判所の承認に基づく保護者の意に反する施設入所等の措置については、人権保障の観点からの手続きの適正化という観点や、保護者が将来の見通しを持てることで家庭復帰に向けた指導を効果的に行い易いという観点から、家庭裁判所の承認に基づく施設入所等の措置は期限付きのもの(期限付きの承認)とし、必要に応じ、再審査をするなどの仕組みの導入に向け、内容や要件などを検討することが必要である。
 また、子どもの安全・安定等を確保する観点から、児童福祉法第28条措置にかかる審判前の保全処分ができるような仕組みの導入に向け、保全処分の内容や要件などを検討することが必要である。

○保護者への指導
 保護者に対する指導のあり方については、親子がともに生活していくことを目指す以上、現行制度の効果的な活用はもとより、司法が関与することによって、保護者指導の動機付けや実効性を高めるための仕組みの導入は、重要な課題。
 このため、司法の枠組みに適するように制度を設計することを前提に、制度導入を検討することが必要である。

○親権喪失
 18歳以上の未成年者の親の親権喪失について、児童相談所長による申立を認めることが適当である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
立入調査に関し、鍵を壊してでも確認する緊急性が認められる場合は、警察官職務執行法で対応が可能な場合がある。同法による対応が想定されない場合に、果たして裁判所が命令を出せるかについてはプライバシ−保護との関係で疑問もあることから、慎重な検討が必要である。
親子が一緒に住める権利を奪うこととなる一時保護処分を、行政機関の判断のみで行うことは、「子どもの権利条約」に反し、人権の観点から、不当に長い間分離している場合は、親の意見が反映される仕組みが必要である。
一時保護処分について、司法が事前に審査することになれば、一時保護の緊急性が損なわれる可能性がある。
施設入所等の措置解除(退所、家庭復帰)に関して、一定のシステムをつくることは、保護者に対するケア、子どもに対するケアの充実につながる。
児童福祉法第28条の家庭裁判所の承認に基づく施設入所等の措置(以下、28条措置という。)については、入所段階で親権と子どもの福祉を比較考量して承認している以上、一定期間後に再度、親子分離の必要性を判断することが必要である。また、再度審査があることが、保護者の改善への動機付けとなり得る。
28条措置については、期限付きのものとするとともに、保護者の努力目標が示されることが効果的である。
28条措置の期限をどの程度とするか、再審査の要件をどのようにするかについては、実例の分析等を踏まえて検討する必要がある。
28条措置の期限については、一律ではなく、ケ−スごとに家庭裁判所が判断することが望ましい。
28条措置の期限については、ある程度の年限で、一律としないと裁判所の承認にかかる要件の設定が困難である。
一時保護を行っているケ−スにおいても、親による強制引き取りなどの行動によって、保護の安定性が確保できない実態がある。
28条措置にかかる審判前の保全処分については、28条措置の状態を仮に承認するような内容とするのか、多様な内容とするのか、慎重な検討が必要である。
児童相談所としては再審査時や審判前の保全処分に関する資料を裁判所に速やかに提出する必要があるとともに、保護者に対するプログラムを充実させる必要がある。
保護者指導については、児童相談所において、知事勧告という現行制度を視野に入れた運用がなされているか、現行制度を十分使い切っているかどうかなど効果を見極めることが必要である。
裁判所が審判の理由中で親に対してカウンセリングの受講を求めることで、改善につながることが多いという実例もある。また、28条措置の承認を認めた場合、保護者の態度は消極的ではあっても、同意するようになるといった調査もある。このように、保護者指導にかかる司法的関与は有効である。しかしながら、全ての困難ケ−スに28条措置を適用することは不可能である。
保護者指導にかかる司法的関与を検討するに当たっては、行政の勧告権限に対して司法が関与する類似の立法例が見あたらないことから、司法審査にふさわしい枠組みはどのようなものがあり得るのかを検討する必要がある。
28条措置の承認前の保全処分や期限付き承認を行うことで、実質的には、親権の一部一時停止につながる。
児童相談所長による親権喪失の申立は18歳未満の児童の親についてしか認められていない。また、18歳以上の未成年者の親の親権喪失について、親族からの申立は可能であるが、親族が拒否する場合も多い。したがって、本人の申立権や児童相談所長による申立権を認めることが必要である。
児童相談所長による申立を認める場合には、子ども本人の意思が尊重、配慮される仕組みとすることが必要である。
施設入所中の児童の監護、教育、懲戒について、施設長がとる措置の範囲が不明確である。28条措置の場合、面会、通信の制限は規定されたが、それ以外、特に、医療行為については不明確である。

【今後の課題】
長期にわたって子どもと外部との接触が断たれている時など安全確認の必要性は高いが、緊急性が明らかでない場合などに、令状を発布してまで立ち入るということについては、どの程度の必要性があるか、介入すべき要件、介入するための人権保障(適正手続き)など、十分な吟味が必要である。
一時保護処分や28条措置に対し、行政不服審査に加え、運営適正化委員会や地方児童福祉審議会など既存制度の活用を含め、親が申立を行い、意見が反映されるような仕組みの整備について検討が必要である。
一時保護制度に対する司法関与の是非については、その要件や有効性などの問題点を含め、引き続き検討が必要である。
親権や面会、通信の制限のあり方については、親権の範囲や一時停止と制限の差異などに関する解釈が未整理であることなどから、条件の厳密化と併せての整理が必要であり、現行制度の中での工夫、親権規定の見直しを含め、さらに検討が必要である。
子どもの医療ネグレクトへの対応については、医療拒否の実態把握とともに、現行制度の運用などについてさらに検討することが必要である。
性的虐待を受けた子どもについては、審判プロセスが子どもに与える影響が大きいため、司法手続上の慎重な配慮について運用上の工夫が必要である。
児童相談所と保護者の間のトラブル、混乱を緩和し、話し合いができる仕組みとして、緩衝的機能と支援機能を発揮できるような保護者に対する代理人制度の構築を検討することが必要である。
未成年後見人について、個人後見だけではなく、公的な機関や法人による後見も認められるような制度の検討も必要である。


 
III.保護・支援等における取り組み

 児童虐待防止対策の目標は、虐待を受けた子どもが安全で安心できる生活を保障するにとどまらず、適切なケアや治療を提供することによって、子どもの心身の健全な発達と自立を促し、さらには親への適切な指導・支援を通じた家族再統合や家族の養育機能の再生・強化にある。
 そのためには、分離保護の場合も在宅支援の場合も可能な限り、家族の再統合や家族の養育機能の再生・強化が望ましいとの基本的な考えの下、虐待を受けた子どものみならず、虐待を行った親に対する治療や指導の充実など「家族」への支援という視点に立ち、十分なアセスメントと家族再統合や家族の養育機能の再生・強化に向けた精度の高いプログラムの開発が必要である。
 また、親子の分離(保護)を行った場合であっても、可能な限り家庭的な生活環境を保障するとともに、必要に応じ、適切な治療や、自立を促していくための支援を充実していくことが必要である。
 なお、子どもの自立や家族再統合・家族の養育機能の再生・強化に向けた取り組みは、幅広い関係機関の連携による長期にわたる支援が必要であり、関係職員の資質の向上やネットワ−クの強化が必要である。

  (1)児童福祉施設、里親等の機能、システム

【取り組みの方向性】
 子どもの社会的自立に向け、安全で安心した生活環境を保障するとともに、個々の状況に応じてきめ細やかなケアと治療を可能とする規模の小さな施設や里親制度の充実、自立援助ホ−ムの充実等について検討していくことが必要である。併せて、それらに対応した支援体制の確保を図っていくことも必要である。
 親子分離や家族再統合などを進める場合に、親と子が置かれている状況を客観的に判断するアセスメント(評価・判断)指標の開発や、アセスメント指標に基づく的確な支援の仕組みの整備、養育サ−ビスの質を維持するための客観的評価を確立し、親子を適切に支援していくことが必要である。

 なお、児童福祉施設の体系や里親のあり方などについては、児童部会に新たに設置された「社会的養護のあり方に関する専門委員会」において、当専門委員会が指摘した諸点を十分に踏まえ、さらに検討を深めることが必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
できる限り、個々の状況に応じた支援を行っていくため、施設の小規模化や里親制度の充実を基本にしながら、そのあり方を考えていくことが必要である。
小規模施設の整備に当たっては、施設を小規模化する誘導策や里親型の小規模施設の運営の促進など多様な手法を検討することが必要である。
虐待を受けた子どもの多くは、安全な「生活」はもとより、精神面における治療的な支援が必要であり、生活と治療の両側面の充実が必要である。
子どもに最適の社会的養護を提供するために、子どものニ−ズを測る的確なアセスメントが必要である。
児童家庭支援センタ−を核にした児童福祉施設による地域支援のあり方などについて検討が必要である。
ケアの連続性の観点などから、乳児院と児童養護施設の関係についての検討が必要である。
施設の満杯状態への早急な対応が必要である。なお、施設のあり方を考えるに当たっては、虐待を受けた子どもの入所や通所が少なからず存在している障害児施設における対応についても念頭に置く必要がある。
家庭復帰できない18、19歳の子どもが自立していくためのプログラム及びその支援体制については、自立援助ホ−ムの整備・充実や年齢延長といった生活拠点の確保や就労支援なども視野に入れ、検討していくことが必要である。
子どもの自立年齢は上昇していることを踏まえ、社会生活の中で個別に対応する仕組みを、NPOなどの活用も視野に入れた検討が必要である。
里親が普及しない根本的な原因を究明し、その対策を講ずることが必要である。
レスパイト・ケア(里親の一時的な休息のための援助)やケアワーク(養育支援)を含め、施設が里親を支援するなど里親に対する抜本的なバックアップ体制の強化が必要である。
里親・施設・児童相談所が一体となった柔軟な取り組みが必要である。
施設内での職員や他の子どもからの虐待や暴力が発生した場合に的確に対応できる体制や、これらの発生を防止する体制づくりが必要である。
施設で暮らす子どもの権利を擁護する仕組みをより実効性のあるものとすることが必要である。
施設への第三者評価(外部評価)を促進するため、施設等の客観的な評価を進める評価者の養成が必要である。また、情報公開も進めていくことが必要である。
28条措置にあっては、その期間を定めることも有用であると考えられる。

【今後の課題】
子どものケア内容に応じた措置費体系の見直しや児童福祉施設最低基準の改善について検討が必要である。
虐待を受けた子どもへのケアと治療を目的とした施設として、地域の施設の中核となる拠点を定め、そこを中心として地域全体の関係機関が連携して虐待を受けた子どもを支えていくということをモデル的に検討することが必要である。

(2) 児童福祉施設職員、里親等の資質向上、資格要件、人材確保、メンタルヘルス

【取り組みの方向性】
 虐待を受けた子どもやその保護者をケアしていくには、専門的なトレ−ニングを受けた職員が必要となる。
 そのため、実習を充実させた研修などによって、施設で子どもの生活・治療にかかわる職員の養成、資質と専門性の確保とともに、関係機関施設職員の意識などの向上を図ることが必要である。
 また、資質・専門性の確保に加えて、担当職員数の一層の拡充についても、「社会的養護のあり方に関する専門委員会」での議論を踏まえて検討することが必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
児童福祉施設にケア担当職員の増員が必要である。
虐待を受けた子どもの養育や援助に意欲や関心のある里親をトレ−ニングするとともに、里親がいつでも相談に行ける体制が必要である。
子どものケアに関わる研修プログラムを開発して、ケアワ−カ−を養成することが必要である。
ス−パ−バイザ−の養成、配置とともに、職員等のメンタルヘルスのための相談体制の確保が必要である。

(3)在宅支援の強化

【取り組みの方向性】
 虐待の進行防止、家庭復帰後の支援のために民間も含めて市町村の在宅支援機能を充実するとともに、市町村レベルでの子育て支援のさらなる充実・展開が必要である。
 また、地域で虐待を受けた子ども(及び保護者)の自立に向けた長期的な支援を行うという観点からは、見守り役としての市町村の役割は重要となる。
 ただし、市町村の取り組みに当たっては、児童相談所の支援・協力は不可欠であり、重篤なケ−ス等については、児童相談所が、支援の過程を管理することを含めて関わりが必要である。

 なお、その際は、家族再統合や家族の養育機能の再生・強化を目指した支援を行う観点から、虐待を受けた子どものみならず、親を含めた「家族」への支援のあり方を援助方針のなかに含み込むことが必要である。
 また、児童虐待防止対策においては、福祉、医療、保健はもとより警察、教育、司法、さらにはNPO等民間団体や地域住民等の広範な関係者が基本的認識をひとつにした上で、組織的に対応していくことが必要である。
 その一つの手法として多くの関係機関からなる市町村ネットワ−クの整備が重要であるが、ネットワ−クが有効に機能し、虐待を受けた子どもが自立に至るまで、継続的に関わり、その時々に適宜適切な支援が行えるためには、その運営の中核となる、市町村の果たすべき役割を明確にするとともに強化することが必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
通所型の支援では限界があり、支援意欲をもった専門家による継続的な訪問型の支援が重要である。
NPOが親グル−プ活動などに対して市町村と連携して運営して効果を挙げている例もあり、積極的な連携を図ることが必要である。
市町村などと連携し、施設のノウハウを活用した在宅支援を行うため、児童家庭支援センタ−の整備促進やファミリ−ソ−シャルワ−カ−の配置などの体制整備が必要である。
学校の教員を対象にした研修の充実にあっては、子どもの指導にかかわるプログラム作成も必要である。
市町村の役割強化とそのための人材養成、研修システムが必要である。
地域での見守り体制は、多様な機関による連続性が求められることから、これらを的確にコ−ディネ−トする者(機関)を育てることが必要である。

【今後の課題】
虐待の予防に向けては、関係機関・施設のみならず、地域社会がこうした問題を理解し、支えることも必要である。例えば、子育て中の親を孤立化させない、虐待を受けて施設に入所している子どもを学校等で他の保護者や子どもが正しい知識と理解を持って受け入れるなどが求められる。こうした地域社会を形成するためのプログラムの検討と実施が必要である。

(4) 子どもに対する治療・援助法の確立(福祉・医療・保健機関等)

【取り組みの方向性】
 虐待を受けた子どものケアや、治療に関する知識や技術の一層の開発・普及、また、そのあり方を明らかにするアセスメント方法の一層の研究、開発・普及が必要である。特に、性的虐待を受けた子どもに関する治療やケアは特別な注意が必要である。
 また、子どもの養育に関する情報の共有化や、専門性の維持のために必要な情報を適宜活用できる仕組みを整備することが必要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
今までの研究をベ−スにして、治療やケアに結びつくアセスメントのガイドラインをつくっていくべきである。なお、アセスメントは、子ども、家族、地域資源など、多角的・重層的に行われることが重要であり、それに基づき、総合的な支援計画を立て、一定期間後に見直すことが必要である。
情報を集積した情報センタ−(子どもの虹情報研修センタ−)を活用することも有用である。
施設内での記録を画一化するなどの手法により、セキュリティに十分な配慮をしつつ、情報を共有化することが必要である。

【今後の課題】
虐待を受けた子どもの処遇やその後のケアに関するアセスメントについては、その方法・技術の開発・普及だけではなく、望ましいアセスメント実施のための体制の確立に向けた検討が必要である。この検討の中では、児童相談所の一時保護所と児童福祉施設のアセスメントに係る役割分担も検討されるべきである。
子ども・親への適切な支援を始め、ケア評価をするためのアセスメントの研究、開発及びアセスメント機関の機能的整備、アセスメントセンタ−の創設を検討することが必要である。
性的虐待を受けた子どもへは、他の虐待とは異なるケアが要求される。保護した直後の関わり方から重要であり、よりきめ細やかな対応を確立していくことが必要であり、新たな施設体系を検討する際に考慮すべき課題の一つである。

(5) 保護者に対する治療・指導法の確立(福祉・医療・保健機関等)

【取り組みの方向性】
 家族再統合や家族の養育機能の再生・強化を目指した支援を行う観点から、虐待を受けた子どものみならず、親も含めた「家族」に対する支援という考え方が重要である。
 すでにいくつかの関係機関によって実施されている保護者に対する治療・指導プログラムを充実、発展させ、普及を進めるとともに、家族再統合に向けたプログラム開発についても研究を進めることが必要である。

 なお、保護者に対する指導のあり方については、II(3)「児童相談所の行政権限、裁判所の関与」の欄を参照。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
虐待を行った保護者で、治療意欲が乏しく、対人関係が取りにくい者も少なからずいることから、そうした者に対する支援の在り方も検討することが必要である。この場合、専門家による継続的なねばり強い支援をしなければ対応は困難であり、効果は期待できない。そのため、関係機関職員に対する養成・研修の拡充と併せて、訪問型在宅支援の強化が必要である。

【今後の課題】
家族再統合に向けたケアワ−ク(養育支援)、治療、ソ−シャルワ−ク機能をもった治療システムの確立が必要である。
家族再統合プログラムの開発・研究が必要である。
子どもと親のライフサイクルに応じた治療・生活モデルの構築が必要である。
ソ−シャルワ−ク、心理、医療などを結合させ、単一ではない支援のメニュ−が必要である。

(6)医療機関の機能、システム

【取り組みの方向性】
 虐待を受けた子どもは複雑なトラウマを抱えており、精神医学的な介入が必要な子どもが多い。このため、こうした子どもに的確に対応できる医療環境の整備が必要である。
 虐待を受けた経験のある、あるいは精神疾患を抱えている保護者に対しては、地域の医療機関による一層の専門的な支援が必要である。
 また、その他の医療関係者に対する教育・研修の充実を図るとともに、小児科医と精神科医の連携強化を図ることが重要である。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
虐待を受けた子どもの入院加療中の人権を保障していくためには、教育の保障や保育士によるケアなど生活を保障する福祉と治療する医療・看護と合体するシステムを整備することが必要である。
小児科医と精神科医との連携強化を図ることが必要である。
地域に児童精神科の専門医が少ない現状および低年齢児への対応の必要性を踏まえ、小児科医の研修等が必要である。
治療のための医療関係者の人材養成及び医療対応システムの開発が必要である。
虐待をしてしまう保護者の心の問題は、これまで一般の精神科医が十分には対応してこなかった問題である。さらなる知見の集積と治療技術の向上のための研究とそれに基づいた卒後研修が必要である。
虐待のケ−スへの係わりは、非常に多くの時間を費やさなければならず、この点を考慮にいれ、医療機関の対応を促す対策が必要である。

【今後の課題】
医療対応システムに関する研究に取り組むことが必要である。
都道府県レベルでの拠点医療機関の設置を検討することが必要である。
児童(小児)精神科医の充実を図ることが必要である。

 
IV.その他(全体を通じた指摘事項等)

  【取り組みの方向性】
 発生予防、早期発見・早期対応から保護・支援に至る各段階において、市町村の役割強化、民間機関も含めた関係機関の連携によるきめ細かな取り組みが重要である。
 また、児童虐待防止対策に関する継続的な検討の場の確保や制度の運用状況を踏まえた法律の定期的な見直しが求められる。

【具体的な取り組みに関する意見・提案】
児童虐待防止法に子どもの人権尊重の理念を盛り込むことが必要である。
児童虐待の定義(範囲)について、きょうだいなど保護者以外からの性的虐待を加えることや、目の前で親が暴力(DV)を受けている姿を見せられることも加えることを検討することが必要である。
児童虐待防止法に、予防や援助、ケアについても規定すべきである。
関係機関を幅広く法律上に明記することが必要である。
制度の検討に当たっては、国による家庭への過剰な介入への配慮が必要である。
児童虐待への対応を向上させるためには、児童虐待に関する総合的デ−タベ−スづくりを行い、それを基に的確な分析を行って、科学的根拠に基づいた対策をとることが必要である。さらに、デ−タだけではなく、総合的・統合的に検討して、継続的にプランニングする機関も必要である。
国において援助、ケアについても骨格や指針を示すべきである。
虐待の予防と対応について、全体的なシステムのあり方の検討を継続的に実施していくことが必要である。

【今後の課題】
「虐待」という用語については、その言葉の印象が重すぎることから、「虐待」という言葉を用いることの適否や定義のあり方についても議論することが必要である。

4.さいごに

 以上、児童虐待防止制度の見直しについての取り組みの方向性を整理してきたが、取り組み全体を貫く考え方を集約すれば、おおむね以下の4点にまとめられるものと考える。

 
I. 発生予防から虐待を受けた子どもの自立に至るまでの切れ目ない支援
 児童虐待防止対策の目標は、虐待という重大な権利侵害から子どもを守り、子どもが心身ともに健全に成長し、ひいては社会的自立に至るまでを支援することにある。
 早期発見・対応のみならず、発生予防から虐待を受けた子どもの自立に至るまでの各段階において、こうした「子どもの権利擁護」という理念に立脚した多様な関係機関による切れ目のない支援体制が必要である。

II. 「待ちの支援」から要支援家庭への「積極的なアプロ−チによる支援」
 児童虐待の特性(家庭(地域)内で発生、虐待と認めない親が多いなど)にかんがみ、その解決に向け、親の権利や個人のプライバシ−には最大限配慮しつつも、幅広い関係機関が、積極的に親・子にアプロ−チする形での新たな支援のあり方が必要である。

III. 家族再統合や家族の養育機能の再生・強化を目指した子どものみならず親を含めた家庭への支援
 家庭的な暖かい養育環境での生活が子どもの健全育成には望ましいとの基本認識のもと、家族再統合や家族の養育機能の再生・強化を目指す方向で、子どもに対する支援はもとより親(含む里親)も含めた家族への支援という視点が必要である。
 また、それが困難な場合であっても、できる限りそれに準じた生活環境を確保することが必要である。

IV. 虐待防止ネットワ−クの形成など市町村における取り組みの強化
 児童虐待問題の解決に当たっては、地域、特に市町村における取り組みを強化することが必要である。なお、その際には、都道府県(児童相談所、保健所等)との協力関係の確保に特段の配慮が必要である。


 児童虐待防止制度の見直しについては、本報告書において指摘した点を踏まえつつ、さらに議論を深めるとともに、その実現に向けた早急な取り組みを期待する。


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