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今後の社会保障改革の方向性に関する意見

― 21世紀型の社会保障の実現に向けて ―


平成15年6月

社会保障審議会


今後の社会保障改革の方向性に関する意見
−21世紀型の社会保障の実現に向けて−

平成15年6月16日
社会保障審議会


はじめに

 急速な少子高齢化の進行、経済の低迷と厳しい財政状況、雇用環境の変化や国民のニーズの多様化など、社会保障を取り巻く環境が大きく変化する中で、これまで、社会保障改革の方向性については様々な提言が行われてきた。

 平成12年10月には内閣総理大臣の下に設置された「社会保障構造の在り方について考える有識者会議」から「21世紀に向けての社会保障」に関する提言が行われ、平成13年3月には政府・与党社会保障改革協議会が「社会保障改革大綱」を策定した。

 これらの提言に沿って、平成14年に健康保険法の改正等が行われてきたが、なお不十分な面もある。現在、平成16年に改革が予定されている年金をはじめ、各分野での制度改革が進行中であり、今後、さらに改革を加速していくことが求められている。

 しかしながら、社会保障により給付を受け、そのための負担を行う国民の立場に立てば、生涯を通じた社会保障の全体像とその給付と負担の姿がどのようになるかということに強い関心が集まっている。

 今後、少子化が進む中で、団塊の世代が高齢期を迎え、もう一段の高齢化が進むことが見込まれるが、本審議会としては、高齢化がひとつのピークを迎える2025年頃を具体的に視野に置きながら、現在の子どもたちが高齢者となる21世紀半ばにおいて社会保障制度の持続可能性が確保されるよう、社会保障全体の給付と負担の在り方を中心に、昨年12月以来、6回にわたり、制度横断的な観点から議論を行ってきた。

 本報告は、これまでの議論を踏まえ、今後の社会保障改革の方向性について本審議会の考え方をとりまとめたものである。


基本認識

 ライフスタイルの多様化、経済環境の変容など、20世紀の社会保障制度が前提としてきた諸条件は大きく変わりつつある。こうした環境の変化に対応し、少子高齢化という人口変動の中で、社会保障制度を将来にわたり持続可能なものとしていくためには、
  (1) 年金、医療、介護等の諸制度の改革について、次世代育成支援や多様な働き方への対応を視野に入れながら、他の関連施策との連携を図りつつ、生涯を通じた生活保障の在り方の改革(生活保障改革)ともいうべき観点から進めていく
(2) 給付と負担について、自助・共助・公助の適切な組み合わせを図りつつ、国民経済や財政とバランスのとれたものとなるよう見直しを行う
ことが必要である。

 社会保障における負担は、セーフティネット(安全網)としての給付を実現するためのものであり、給付と負担のバランスをどのように図るのかが重要となる。このため、給付の見直しと効率化を図るとともに、社会保障が、現在のみならず、次世代の国民の生活をも支える基盤であることへの認識を踏まえた対応が不可欠である。したがって、改革に当たっては、単に給付を削減して負担を抑制するという施策のみならず、社会連帯の視点に立ち、負担の裾野を広げるための施策についても、積極的に取り組むことにより、長期的にみた制度の持続可能性をより一層高める必要がある。

 このような発想に立った改革を進めていくことにより、今後の社会経済の構造的な変化の中にあっても、21世紀半ばにおいて社会保障制度を効率的で持続可能なものとするとともに、多様化する国民の生活を支えるセーフティネットとしての新しい社会保障、いわば「21世紀型の社会保障」が実現できると考える。


I 社会保障の機能・役割

(1)セーフティネットとしての社会保障

 人は、日々の生活の中で、また、生涯の各段階において、出産・子育て、障害、疾病、失業、老齢など様々な支援を必要とする場面に遭遇する。社会保障は、このような個人による自助努力のみでは対応できない場合に人々の生活を社会全体で支えるセーフティネットとしての機能を果たしており、リスク分散、所得の再分配などを通じて、国民の安心と生活の安定に欠かせないものとなっている。

 また、社会保障は、個々の国民が心身ともに健康で働くことを通じ、活力ある社会経済システムづくりに貢献するとともに、年金給付等により消費を下支えし、社会の安定を支える基盤ともなっており、人々の生涯の各段階を支えるための仕組みである「社会的共通資本」とも言える。

 社会保障の持つセーフティネット機能の一つとして、国民の所得を再分配する機能がある。近年、市場を通じた経済活動による所得の格差は増大する傾向にある中で、年金の成熟化等により社会保障による再分配効果は上昇しており、再分配後の格差は主要先進国の中で中程度の水準にとどまっている。

 社会保障のセーフティネット機能については、社会経済環境や国民の意識の変化によりその範囲・水準が様々に変わりうる。今日のように厳しい経済情勢が続き、少子高齢化の進行など社会構造が大きく変化する中では、社会保障制度の持続可能性について懸念が示されており、こうしたセーフティネット機能について、給付と負担の在り方を抜本的に見直すことを通じて、より限定的なものとすべきであるとの意見がある。

 一方、長引く構造不況の下で、国民の将来に対する不安が増幅している今こそ、社会保障に関する国の責任と役割について明確化しつつ、より高いレベルで社会保障の充実を図っていくべきとの意見もある。

 今日の我が国の社会保障は、国民皆年金、皆保険により全ての国民を対象とした普遍的な制度となっている。制度改革を進めるに当たっては、こうした点を踏まえつつ、単に所得再分配効果のみならず社会保障が本来果たすべき、生涯を通じて生活保障を行っていく「セーフティネット機能」を維持できるようにしていくことを基本に考えていく必要がある。

(2)社会経済との関係

 社会保障と経済との関係については、社会保障部門の生産波及効果はサービス業の中では比較的高く、また、社会保障分野の就業者数の伸びは全産業平均の伸びを大きく上回っている。今後の我が国の経済を考えると、医療、福祉等は成長産業として大きな雇用創出が期待でき、かつ、内需拡大に資する分野である。

 経済活力の維持を図る観点からは、社会保障制度が、就業や雇用を抑制することになったり、公的部門の拡大により民間部門を圧迫するといった事態が生じることがないよう制度運営を図ることが必要である。なお、給付の削減や度重なる制度の見直しなどは、社会保障制度に対する不信と将来の不安を招き、経済活力を損なうおそれがあるとの意見があった。

 また、公的な社会保障に、民間活力をどのように組み合わせていくのかという点も、経済の活力を維持するために重要な視点である。

 社会保障改革の実施に当たっては、以上のような点を踏まえつつ、社会保障が、生産や雇用の面で成長産業として経済の活性化に貢献し、経済環境が悪化した場合にあっても、社会の安定、有効需要の創出、労働力の再生産など継続的な企業活動を支える面があることに留意しつつ進めることが必要である。

 なお、所得の再分配としての機能を持つ社会保障が十分にその役割を果たしていくためには、生産性の高い経済が不可欠であり、こうした経済を実現していくための改革を進めていくことが必要との意見があった。


II 社会保障の給付と負担

(1)マクロベースで見た給付と負担

 我が国の社会保障給付を全体としてみた場合、国民皆保険、皆年金という形で全ての国民を対象に、欧米諸国と比較しても遜色ない水準を実現している。

 その構成をみると、概ね、年金が5割、医療が3割、福祉その他(介護を含む)が2割となっている。

 一方、厳密な比較は難しい面があるが、現在の我が国の社会保障給付費は、年金の成熟化などが既に進行した欧州諸国と比較して「高齢」関係給付の比重が高い。一方、「児童・家族」関係給付の割合は欧州諸国と比較して低い。

 次に、給付を支える社会保障の国民負担をみた場合、我が国の社会保障の国民負担の水準は、2002年度現在、82兆円、対国民所得比で221/2%となっている。また、社会保障以外の支出に係る税負担も含めた国民負担率(国民所得に対する租税及び保険料負担の割合)でみると約37%となっている。これらのマクロの負担水準は、欧州諸国と比較すると相対的に低くアメリカより高い。

 今後、急速な少子高齢化の進展に伴い、2025年度には、社会保障の国民負担の水準は、対国民所得比で321/2%となると見込まれるが、これは、現在のイギリス、アメリカよりは高く、その他の欧州諸国の水準よりは低い。

(2)ライフコース・家計から見た給付と負担

 これまで、社会保障に係る給付と負担の議論は、マクロベースでの議論が中心であった。しかしながら、給付と負担を議論する際には、国民にとってわかりやすく、生活実感の伴う「ライフコース」や「家計」の視点に立って考えてみることも必要である。

 生涯にわたる人生の選択であるライフコースという視点からみると、給付については、年金等の現金給付が大半を占める高齢期に手厚く、負担については、所得の増大に伴い社会保険料や税が増大するため、子育てや教育に費用がかかる現役期に重くなっている。

 また、被用者の社会保険料水準をみると、現在は、本人負担分と事業主負担分がそれぞれ約12%、合計して約23%、現行制度のまま推移するとした場合、2025年には、本人負担分と事業主負担分がそれぞれ約18%、合計して約36%程度に上昇すると見込まれ、保険料率を見る限り、現在の欧州諸国並の水準である。なお、このように保険料率を比較することについて、各国における賃金水準の相違があることから、保険料率の高低のみでもって比較するのは適切でないとの強い意見があった。

 家計に占める社会保険料・税の負担は、平均的な勤労者世帯でみれば、現在2割弱となっている。今後、高齢化の進展等に伴い、社会保険料や税などの公的負担は増大するが、大胆な仮定の下に推計すると、2025年時点においても社会保険料や税という公的負担は3割弱と約1.5倍になる。

 この場合、家計の状況は、例えば、教育費の負担は40〜50歳台で大きく、住宅費の負担は30歳台で大きいなど世帯主の年齢によっても異なり、また、世帯における働き手の数によっても、その厳しさに差異が生じることに留意する必要がある。ちなみに、欧州諸国の場合には、30歳台の女性の労働力率は日本が約60%であるのに対し、いずれも80%に近い水準になっている。

 なお、家計の負担を考える際には、社会保障サービスに係る利用者負担(自己負担)の水準についても配慮することが必要であるとの意見があった。

 今後、女性の労働力率の上昇、雇用形態の変化等、家計を取り巻く環境が大きく変化することが見込まれる中で、ライフコースや家計という視点から給付と負担の在り方を議論する場合には、生涯の特定の時期に過重な負担とならないように、また、家計の消費・貯蓄行動を展望しつつ、働き方の見直しや教育・住宅施策との相互連関も踏まえながら考える必要がある。


III 社会保障改革の基本的視点

 社会保障改革を進めるに当たっては、今後、少子高齢化が進んでいく中にあって、「国民生活の安定」などに社会保障が果たすべき機能を維持していくことが基本である。この場合、今日の社会保障は、国民皆保険、皆年金といった制度により、特定の者に限らず、全ての国民を対象とする普遍的な施策として国民の安心感を支えていることに留意する必要がある。

 社会保障が果たすべき機能を維持するためには、何よりも社会保障制度自体について将来にわたる持続可能性を確保する必要がある。個別の制度改革もこうした持続可能性の確保を大きな目標として進められているが、制度横断的な改革の視点として、(1)社会経済との調和、(2)公平性の確保、(3)施策・制度の総合化が重要である。

 まず、「社会経済との調和」については、経済構造の変化や国際競争の激化等経済や雇用環境の変化、急激な少子高齢化、ライフスタイルの変容など、様々な社会経済の変化の中で、社会保障制度をこれらに適合したものとしていく必要がある。その際、社会保障が本来果たすべきセーフティネットとしての機能が損なわれることのないよう留意しつつ、給付と負担の両面から、経済・財政とのバランスが図られるよう、不断の見直しを進めていくことが求められる。

 「公平性」については、世代間、世代内に限らず、男女間、職業間、制度間など様々な側面でその確保が求められる。こうした観点からは、急激な人口変動の中で、特定の世代に過重な負担とならないように、また、ライフコースを通じて社会保障制度が個人の選択に中立的であるとともに、特定の時期に給付や負担が偏らないようにしていくことが重要である。さらに、国民皆保険・皆年金体制を堅持していくためにも、国民年金等の未納・未加入の解消等制度に対する信頼を確保していくための徴収強化の取組が必要である。

 「施策・制度の総合化」については、年金、医療、介護といった各制度間の給付や負担の整合性や、給付と負担が全体としてどの程度になるのかという問題、負担を支える若い世代を念頭に置いた「多様な働き方への対応」や「次世代育成支援」との相互連関を踏まえながら対応していく必要がある。

 「高齢社会への対応」、「多様な働き方への対応」、「次世代育成支援」は、それぞれ固有の政策目的を持つものではあるが、相互に支え合う関係にある。例えば、高齢者、女性、障害者等の就労促進、若年者雇用の安定確保、さらに、次世代育成支援に取り組むことは、中長期的にみれば社会保障制度の基盤の安定化にもつながる。また、年金等の制度改革の中で就労形態の多様化への対応や育児期間への配慮等を行うことは、多様な働き方や生涯現役社会の実現、次世代育成支援に資することにもなる。

 こうした相互関係を念頭に置きつつ、社会保障とともに国民生活に密接な関わりのある住宅施策や教育施策との連携も視野に入れ、それぞれの政策を進めていくことにより、全ての世代にとって、より豊かな生活、多様なライフコースの選択が可能な社会の実現に資することが可能となる。こうした「生活保障改革」ともいうべき視点も踏まえ社会保障改革を実現していくことを考えるべきである。

 このような改革を進めることにより、社会経済の構造的変化に対しても持続可能であり、多様化する国民の生活を支えるセーフティネット機能が維持できる21世紀型の社会保障の実現を図っていくことができる。

 なお、改革の実現、さらに制度運営に当たっては、広く国民の意見を求めるなど参画の機会を設けることにより、国民の理解と納得の下で合意が得られるよう十分に配慮する必要がある。また、その際、社会保障に関する国の責任と役割について、改めて明確にすべきとの意見があった。

 さらに、今後の人口減少社会を念頭に置けば、外国人労働者の受け入れと、社会保障制度における位置づけについて検討することが必要であるとの意見があった。


IV 社会保障改革の方向性

(1)給付の在り方

 社会保障の給付水準は、これを支える負担との相互連関の中で考えていく必要があり、その意味で、特に、今日のような急速な少子高齢化や経済基調の変化等の中にあっては負担の維持可能性や公平性という観点から、その在り方を考えていかなければならない。その際、システム全体の効率化を図るとともに社会保障の給付の範囲を見直すことを通じて、経済とのバランスを図りつつ、給付を負担可能な水準としていくことが重要である。

 他方、社会保障の給付は、現在のみならず将来の国民の生活に直接関わってくるものであり、負担の観点からその削減のみを論じることは、かえって国民の安心と生活の安定を損なうことにつながりかねない。

 給付の在り方を考えるに当たっては、すでにIで述べたような社会保障が本来果たすべきセーフティネットとしての機能を維持していくということを基本としつつ、負担の維持可能性等をあわせ考え、給付全体の見直しと効率化を図っていくことが必要である。なお、その際、我が国の歳出構造を見直すことにより、給付の充実を図るべきとの意見があった。

 こうした検討に当たっては、次のようなことにも留意しなければならない。

 まず、世代間、あるいはライフコースからみた給付構造の在り方である。すでにIIの(1)でも述べたように、我が国の社会保障の給付構造をマクロベースでみると、年金の成熟化などが既に進行した欧州諸国と比べて「高齢」関係の給付の割合が高く、「児童・家族」関係給付の割合については欧州諸国より低い。また、ライフコースの視点からみても高齢期に給付が手厚い。

 今後、我が国の少子化はさらに進み、2006年に人口のピークを迎えた後、急激な人口減少社会に移行するが、これは社会保障の維持可能性の根幹に関わる問題であり、こうした点からみると、今後、高齢者世代の理解を得ながら、「高齢」関係給付の伸びをある程度抑制し、これを支える若い世代の負担の急増を抑えるとともに、社会保障の枠にとらわれることなく次世代育成支援の推進を図っていくことが必要である。

 このような給付の在り方の見直しは、世代間の公平の確保につながるほか、年金制度を始めとする世代間扶養を基本とする制度についての若い世代の理解を得ることにつながる。

 こうした見直しと併せて、社会保障の総合化という観点に立って給付の効率化を図っていくことも重要である。例えば、年金制度では、住居も含め生活に要するコストを保障している一方、長期に入所している者のいわゆる居住費用は、介護保険においても賄われている。このように制度間で給付の重複があるものについてはこれを調整していく必要がある。なお、こうした調整を行う場合、高齢者世帯においては、公的年金を主な収入源として生計を立てていることが多いことから、公的年金の給付水準に配慮しつつ対応する必要がある。

 また、年金、医療、介護等は、主として高齢者世帯に係る生活リスクに対するものであるが、若年世帯にも疾病や失業等の生活リスクがある。こうした生活リスクに対し、有効な対応を総合的に図る観点から、年金、医療、介護等の社会保険のほか、生活保護、手当、雇用施策、住宅施策等をどのように組み合わせて対応していくかということも重要な視点である。この場合、例えば高齢者介護に関し、すべての高齢者を介護保険の被保険者としつつ、保険料負担や利用者負担が困難な生活保護受給者については、生活保護制度で対応しているように、異なった制度を相互補完的に組み合わせて設計することが望ましいとの意見があった。また、保険方式の下で、サービスの保障という性格を持つ医療や介護と年金との間では、公的関与の必要性の度合いに違いがあるのではないかとの意見もあった。

 なお、生活保護については、他の社会保障制度との関係や雇用施策との連携などにも留意しつつ、今後、その在り方についてより専門的に検討していく必要がある。

(2)負担の在り方

 IIでみたように、我が国の現在及び2025年時点での社会保障負担の水準は、マクロの国際比較でみても、家計においても、必ずしも負担不可能な水準というわけではないが、今後の社会保障の負担水準については、給付の在り方とともに、経済・財政とのバランス、世代間・世代内等の公平性の確保などの観点もあわせ考え、国民に選択を求めていく必要がある。

 我が国の場合、今後、団塊の世代の高齢化等により急速な負担増は避けられない。このため、社会保障改革を進めるに当たっては、不断に給付の見直しと効率化を進め負担増の抑制を図りながら、将来の負担水準に関する見通しとそこに至る具体的な道筋を示し、広く国民的議論を展開し、国民に負担増に関する理解と納得を得ていくことが必要である。

 また、各種の勧告等で確認されてきたように、社会保障制度を運営する方法は、社会保険方式を主体とし、財源については、保険料、公費負担、利用者負担の適切な組み合わせにより、確実かつ安定的なものとする必要がある。

 このような観点からみた場合、厚生年金、国民年金は、現在、その保険料引上げが凍結されているが、将来に必要となる給付を賄うため、基礎年金の国庫負担割合の引上げを図るとともに先送りすることなく保険料を引き上げていく必要があり、この凍結措置を早期に解除する必要がある。なお、この際、給付の抑制等の制度の抜本的改革を行うことが不可欠であるとの意見があった。

 今後、急激な人口変動に伴う負担の急激な上昇をできるだけ幅広い世代により支え合うとともに、生涯を通じた負担の平準化を図るという観点から、保険料や税について、高齢者世代も含めたあらゆる世代が能力に応じて広く公平に負担を分かち合う方向で努力する必要がある。

 なお、保険料負担については、以下のような意見があった。
  (1) 保険料増加による労働コストの上昇が雇用抑制や国際競争力低下を招きかねないため、現役世代や企業の過重な負担は極力抑制すべき。
(2) 事業主負担は、労働力再生産のための雇用における「社会的必要コスト」であり、少なくとも現行負担水準は維持すべき。

 平成12年年金改正法附則で規定されている基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引上げの問題についても、こうした世代間の公平や生涯を通じた平準化の観点を踏まえつつ、給付水準等についての幅広い検討とあわせて、安定した財源(平成16年度2.7兆円(平成11年度価格))の確保策と一体で検討し、その道筋をつけるべきである。その際、徹底した歳出改革を行うことを前提に高齢者を含め広く公正に負担する消費税を活用すべきとの意見があった。
 また、中期的には、税と保険料の組み合わせを含め年金の制度設計の在り方について国民的議論をしていくことが必要であるという意見があった。

 なお、諸外国では、ドイツやフランスにおいては、社会保険制度に対する税財源の補完的な投入が図られているが、既に社会保険料水準を我が国よりも相当程度高いもの(40%超)に引き上げた上でさらなる保険料の急激な上昇を抑制する等の観点から行ったものである。

 社会保険における税財源の投入については、例えば、拠出の困難な者に重点的に投入する、各制度の特性を踏まえ、その財政的安定を図る観点から投入するなど、その在り方を考えていくべきとの意見とともに、基礎年金・高齢者医療・介護の各制度の費用に充当するための税源として消費税を活用すべきとの意見があった。

 国民の生活が多様であるように、国民一人一人の所得や資産には格差がある。とりわけ大企業労働者と中小企業労働者、また、現役時代の長年の蓄積が反映される高齢者等の場合、その経済状況は各人で大きく異なっている。社会保障改革を考える上では、こうした格差を踏まえたきめ細かな対応が必要である。

 高齢者であっても所得や資産を有する者については応分の負担を求めていくことが必要であり、これは若い世代の理解を得るとともに、負担の裾野を広げることにもつながる。このような観点から、社会保障における給付と負担や、公的年金に対する課税の在り方については見直す必要がある。なお、公的年金課税の見直しにより生じた税収は、基礎年金の財源に充当すべきとの意見があった。

 一方、低所得者対策については、これまで、医療や介護といった各制度がそれぞれの基準で対応してきたため、必ずしも整合性のとれたものとはなっていない面がある。また、低所得者であるかどうかの基準として住民税の所得基準などを援用しているため、公的年金等控除など税制上の控除の在り方が低所得者の範囲に影響を与えるという面もある。このような点をも踏まえつつ、社会保障制度として、低所得者対策についての制度横断的な姿を示していく必要がある。

 なお、負担能力に応じた適切な負担を求めることにより、社会保障制度に対する信頼を高めるためにも、的確な所得捕捉を確保するための措置を講じることが必要との意見があった。

(3)国民負担率をめぐる議論

 公的な負担の水準をマクロベースで示す指標として、従来からいわゆる「国民負担率」が用いられてきた。この国民負担率については、経済成長との関係など種々議論はあるものの、昭和57年の臨時行政調査会の答申等において、当時の欧州諸国の水準を参考に財政規律の一つの考え方として「高齢化のピーク時においても50%以下」とすることが目標とされてきた。これまでの社会保障改革においても、結果的には概ねこの目標は達成されている。

 また、財政規律の指標としては、国民負担率の他に、これに財政赤字を加えた「潜在的国民負担率」が用いられてきた。潜在的国民負担率は、2002年度現在で約47%となっており、今後、現行制度を前提とすると、2025年度段階では60%の水準となるとの試算もある。これは、現在のドイツ、イギリス、アメリカより高く、フランス、スウェーデンより低い。

 潜在的国民負担率については、経済社会の活力を維持・増強するために、その将来の水準を50%程度とすべきとの意見があった一方、50%という議論は今日の欧州諸国の例をみても説得力のあるものとは言えず、負担を抑制することで結果的に給付を抑制するのでは国民の安心感を損なうとの意見があった。

 そもそも、社会保障に関わる負担はこれと表裏一体の関係にある給付の在り方と併せて論ずべきであり、負担の水準のみに着目するのではなく、セーフティネットとしての社会保障給付の具体的役割やその持続可能性についても国民的な議論を行う必要がある。以上のような観点から、財政規律の考え方である「潜在的国民負担率」を社会保障のみと過度に関連づけて論じることは適当でない。

(4)国と地方をめぐる議論

 社会保障施策のうち、住民の暮らしに密接に関連するサービス等については、原則として、より身近な行政主体である地方公共団体において提供するという観点から、今後とも、地方分権の視点に立って見直しを進めることが必要である。なお、その際、国の役割と責任が明確化されるべきとの意見があった。

 こうした見直しに当たっては、市町村合併の進展など、今後、市町村及び都道府県の在り方が大きく変化することを踏まえつつ、対応することが必要である。 例えば、スウェーデンにおいては、基礎的自治体の規模を拡大した上で、「年金」は国、「医療」は県(ランスティング)、「福祉」は市町村(コミューン)のように機能分化が明確に行われている。我が国においても国と地方公共団体の機能を明確にしつつ、これらが重層的に連携するという観点から、国と地方の役割分担を整理することが適当である。

 国と地方の負担の在り方については、サービスや給付の内容に応じて適切に整理することが適当である。その場合、例えば、高齢者介護などの各種地域福祉サービスのように事業の実施については地方の自主性を尊重しつつも、財源については、国と地方が役割に応じて持ち合うといった整理も一つの考え方である。


個別制度に関して指摘のあった事項

社会保障審議会の報告のとりまとめに際し、個別制度に関し、以下の指摘があった。
これについては、今後、各専門部会における議論の参考に供することとする。

 子ども数に応じた年金額の加算など、年金制度の中に次世代育成支援のしくみを設けるべき。

 次世代育成支援は国全体として取り組むべきであり、年金財政の持続可能性が懸念されているなかでは、年金財源は老後の所得保障に集中すべき。

 未納・未加入問題を是正するため、コンビニなどで簡単に納付できる仕組みや徴収強化できる仕組みを工夫すべき。あわせて、税・保険料の一体徴収の検討を行うべき。

 世代間の不公平を是正するためにも、既裁定者を含めた給付水準を抑制し、公的年金等控除については、原則として廃止すべき。

 公的年金の一元化の実現を検討すべき。

 転職が一般的になっていることを踏まえ、年金をポータブルなものにすべき。

 年金制度においては、私的年金の活用など自助努力を促す視点が必要。

 年金支給開始年齢と定年制や再雇用との関係について考え方を整理すべき。

 国会議員、議員秘書の年金など、税金が高い割合で投入されているものについても、公平性確保の方向で検討が必要。

 雇用の多様化により短時間労働者など社会保険が適用されない雇用労働者が増えているが、どのような雇用形態であっても社会保険が完全適用されるようにすべき。その際、実行段階では現実的な対応が必要である。

 安易に支え手を増やすことにより、財源のつじつまを合わせるようなことは賛成できない。

 今後も急増する高齢者医療や介護の公的給付については、その伸びを抑えるための具体策を実行しつつ、現役世代との公平感を維持するため、高齢者にも適切な負担を求めるべき。

 政府管掌健康保険の運営の在り方を見直し、保険料を支払う労使が参画する場を設置すべき。

 公的医療保険の守備範囲を見直すとともに、保険診療と保険外診療の併用ができるようにすべき。

 医学、医療の急速、かつ、長足の進歩に対応できるよう、保険総額枠内での配分の在り方を見直すべき。

 医療・福祉サービスについては、医療法人、社会福祉法人、NPO等の公益法人や民間企業によって提供されているが、給付の在り方を見直す際には、あわせて、こうした供給主体により柔軟なサービス提供を可能とするよう一層の規制緩和が求められる。

 生活保護受給者の場合、居住費の負担が求められる個室・ユニット型の指定介護老人福祉施設の利用が制限される場合があるが、そのような取扱いは改めるべき。

以上



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