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今後の社会保障改革の方向性に関する意見(概要)
−21世紀型の社会保障の実現に向けて−

※この概要は、意見書を基に事務局(社会保障担当参事官室)で作成


はじめに

 社会保障を取り巻く環境が大きく変化する中で、生涯を通じた社会保障の全体像とその際の給付と負担の姿がどのようになるかに強い関心が集まっている。

 高齢化がひとつのピークを迎える2025年頃を具体的に視野に置きながら、現在の子どもたちが高齢者となる21世紀半ばにおいて社会保障制度の持続可能性が確保されるよう、社会保障の給付と負担の在り方を中心に、制度横断的な観点から議論を行い、今後の社会保障改革の方向性について考え方をとりまとめた。


基本認識

 ライフスタイルの多様化、経済環境の変容など、20世紀の社会保障制度が前提としてきた諸条件は大きく変わりつつある。制度を将来にわたり持続可能なものとしていくためには、
(1) 年金、医療、介護等の制度改革について、「次世代育成支援」や「多様な働き方への対応」を視野に入れながら、他の関連施策と連携を図りつつ、生涯を通じた生活保障の在り方の改革(生活保障改革)ともいうべき観点から進めていく
(2) 給付と負担について、自助・共助・公助の適切な組み合わせを図りつつ、国民経済や財政とのバランスの観点から見直しを行う、
ことが必要。

 社会保障改革に当たっては、負担の抑制という施策のみならず、社会連帯の視点に立ち、負担の裾野を広げるための施策にも積極的に取り組むことにより、長期的にみた制度の持続可能性をより一層高めることが必要。

 このような改革を進めることにより、21世紀半ばにおいて社会保障制度を効率的で持続可能なものとするとともに、多様化する国民生活を支える新しい社会保障(「21世紀型の社会保障」)が実現できる。


社会保障の機能・役割

 社会保障は、個人による自助努力のみでは対応できない場合に人々の生活を社会全体で支えるセーフティネット機能を果たすことにより、国民の安心と生活の安定に不可欠なものとなっている。

 所得再分配の観点からみると、我が国の再分配後の格差は主要先進国の中で中程度の水準。

 セーフティネット機能の水準・範囲については様々な意見があるが、今後の社会保障改革は、皆保険・皆年金により国民全てを対象とする普遍的制度となっている点を踏まえ、生涯を通じた生活保障を行うというセーフティネット機能を維持できるようにしていくことを基本に考えていくべき。

 その際、社会経済との関係においては、経済の活力の視点を踏まえつつ、社会保障が経済の活性化に貢献し、社会の安定・有効需要の創出・労働力の再生産など企業活動を支える面があることに留意が必要。


社会保障の給付と負担

マクロベースで見た給付と負担

 我が国の社会保障は、全体として、欧米諸国と比較しても遜色ない水準を実現。

 一方、欧州諸国と比較して「高齢」関係給付の比重が高く、「児童・家族」関係給付の割合が低い。

 社会保障負担をマクロベースでみると、現在の水準は、欧州諸国と比較して相対的に低く、将来においても、イギリス、アメリカよりは高く、その他の欧州諸国の水準よりは低い。

ライフコース・家計から見た給付と負担

 ライフコースでみると、給付面では高齢期に手厚く、負担面では公的負担に加え、子育てや教育に費用がかかる現役期に重い。

 家計(勤労者世帯)に占める社会保険料・税の負担は現在2割弱。今後、高齢化の進展等に伴い増大し、3割弱となる。

 この場合、家計の状況は、世帯主の年齢や働き手の数などにより、その厳しさに差異が生じる。

 今後の家計を取り巻く環境の変化を踏まえ、生涯の特定の時期に過重な負担とならないよう、働き方の見直しや教育・住宅施策との相互連関を踏まえた対応が必要。


社会保障改革の基本的視点

 社会保障制度全体の将来にわたる持続可能性を確保するため、制度横断的な改革の視点として、(1)社会経済との調和、(2)公平性の確保、(3)施策・制度の総合化が重要。

社会経済との調和
 様々な社会経済の変化への対応を図るとともに、給付と負担の両面から、経済・財政とのバランスを図っていくことが必要。

公平性の確保
 急激な人口変動の中で、特定の世代に過重な負担とならないように、また、ライフコースを通じて個人の選択に中立的であるとともに、特定の時期に給付や負担が偏らないようにしていくことが重要。

施策・制度の総合化
 年金、医療、介護といった各制度間の給付や負担の整合化を図るとともに、「年金、医療、介護制度改革(高齢社会への対応)」とあわせて、「多様な働き方への対応」や「次世代育成支援」との相互連関を踏まえた総合的な対応が必要。

 その際、住宅施策や教育施策との連携も視野に入れつつ、全ての世代にとって、より豊かな生活、多様なライフコースの選択を可能にする「生活保障改革」の視点も踏まえて、改革の実現を図るべき。


社会保障改革の方向性

給付の在り方

 給付の在り方を考えるに当たっては、社会保障が本来果たすべきセーフティネットとしての機能を維持していくことを基本としつつ、負担の維持可能性等をあわせ考え、給付全体の見直しと効率化を図っていくことが必要。

 少子化への対応という観点からも、今後、「高齢」関係給付の伸びをある程度抑制し、若い世代の負担の急増を抑えるとともに、次世代育成支援の推進を図っていくことが必要。こうした給付の見直しは、世代間の公平の確保のみならず、若い世代の理解を得ることにつながる。

 社会保障の総合化という観点から、年金を受給しながら長期に入所している者の居住費用の問題など、制度間の給付の重複について調整していくことが必要。

 疾病や失業等の若年世帯の生活リスクについて、年金、医療、介護等の制度と生活保護、手当、雇用施策、住宅施策等を組み合わせ総合的に対応していくことも重要な課題。なお、生活保護については、今後、その在り方についてより専門的に検討していくことが必要。

負担の在り方

 我が国の2025年時点の社会保障負担の水準は、マクロの国際比較でも家計においても、必ずしも負担不可能な水準というわけではないが、今後の負担水準は、給付の在り方とともに、経済・財政とのバランス、世代間・世代内の公平性の確保等の観点もあわせ考え、国民に選択を求めていくことが必要。

 その際、今後の高齢化等により急速な負担増が避けられない中で、不断に給付の見直しと効率化を進め負担増の抑制を図りながら、将来の負担水準に関する見通しと道筋を示し、国民に負担増に関する理解と納得を得ていくことが必要。

 社会保障制度は、社会保険方式を主体とし、財源については、保険料、公費負担、利用者負担の適切な組合せにより、確実かつ安定的なものとすることが必要であり、厚生年金等の保険料引上げの凍結措置は早期に解除することが必要。

 急激な人口変動に伴う負担増は、幅広い世代により支え合い、生涯を通じた負担の平準化を図るという観点から、保険料や税は、高齢者世代を含めた全世代が能力に応じて広く公平に負担を分かち合う方向で努力することが必要。基礎年金の国庫負担割合の引上げについても、こうした観点を踏まえて検討し、その道筋をつけるべき。

 国民一人一人の所得や資産には格差があり、こうした格差を踏まえたきめ細かな対応が必要。高齢者であっても所得や資産を有する者については応分の負担を求めていくべきであり、こうした観点から公的年金に対する課税の在り方について見直しが必要。

 低所得者対策については、これまで、各制度が必ずしも整合性のとれたものとなっておらず、今後、制度横断的な姿を示していくことが必要。

国民負担率をめぐる議論

 社会保障に関わる負担はこれと表裏一体の関係にある給付の在り方と併せて論ずべき。負担水準のみに着目するのではなく、社会保障給付の具体的役割やその持続可能性についても国民的な議論を行うことが必要であり、財政規律の考え方である「潜在的国民負担率」を社会保障のみと過度に関連づけて論じることは適当でない。

国と地方をめぐる議論

 社会保障施策のうち、住民の暮らしに密接に関連するサービス等については、地方分権の視点に立って見直しを進めることが必要。

 見直しに当たっては、今後、合併の進展等を踏まえて対応する必要があり、国と地方公共団体の機能を明確にしつつ、これらが重層的に連携するという観点から、国と地方の役割分担を整理することが適当。

 国と地方の負担の在り方については、サービスや給付内容に応じて適切に整理することが必要であり、高齢者介護分野のように事業の実施については地方の自主性を尊重しつつも、財源については、国と地方が持ち合うという整理も一つの考え方。


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